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798 宣戦
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「やぁやぁ! 来ると思ってたよ2人とも! ゴブトゴも待っているから早く行こうかっ!」
「……なんでアンタが俺達を出迎えるんだ?」
笑顔で俺の登城を歓迎する意外な人物の姿に、同行したシャロと一緒に不快な気分にさせられる。
こそこそ逃げ回るものとばかり思ってたから、まさかこのタイミングで姿を現すとは想定してなかったよ馬鹿殿下め。
ユニのところで日課のコミュニケーションを済ませた俺は、種族代表会議が帝国で開催されるという情報を確かめにシャロと共にスペルディア王城に足を運ぶ事にした。
しかし転移先には満面の笑顔のバルバロイが立っていて、早くも今日登城したことを後悔させられる。
「なんでもなにも、種族代表会議の開催場所が帝国になった理由を確かめに来たんだろ? それを見越してゴブドゴを待機させておいただけだけど?」
「それはアンタが俺達を出迎える理由じゃないだろ。わざわざアンタ本人がこの場に出向いた理由ってなんだ?」
「おいおいおいっ! ラズの本性を俺に説いた男の言葉とは思えないねぇ!? あの時のように自信満々に俺の心を読み取って見たらどうだい!? ま、男の心情なんて理解したくないってなら同感だけどなっ」
何処までも上機嫌に笑うバルバロイの姿に、俺もシャロも警戒心を1段階引き上げる。
察知スキルには反応も無いし、目利きで見ても俺達に敵意を抱いているわけじゃなさそうだけど、コイツのこの余裕はいったいなんなんだ?
「俺が出迎えたのがそんなに不思議? 妹夫婦の顔を見たかったからでいいじゃない。相変わらずつまらない事を気にする男だねぇ?」
「呆れるなら帰ってくれない? アンタの案内なんて無くてもゴブトゴさんに会いに行くくらいは出来るから」
「あはははっ! ゴブトゴに聞くまでも無く答えてあげようか。スクリームヴァレーを推薦したのはお察しの通り俺だってね!」
「それが本当だとしても、俺はアンタの言葉に耳を傾けるつもりはないんだよ。さっさと回れ右して俺の前から消えてくれない?」
「くくく……随分余裕は無いねぇ? 嫌いな相手の前でも好意的に振舞うくらいの演技力は身につけたほうがいいよ?」
不快な笑いを浮かべながらも、俺達に道を譲るように横に移動するバルバロイ。
案内するような事を言っていたわりに、本当にゴブトゴさんのところまで案内する気は無かったようだ。
何しに顔を見せたのかは知らないけど、道を譲ってくれるならこんな奴に構う必要は無い。
シャロの腰を抱き寄せながら、バルバロイを無視して進む事にする。
「精々今のうちに沢山ラズを抱いておけよ? その方がお前が死んだあとに楽しめそうだからね」
しかし擦れ違う瞬間に、楽しげに呪詛を放つバルバロイ。
その最低な言葉に気分を害されはするけど、反応せずに通り過ぎる。
そんな俺に対して得意げに捲し立ててくるクズ野郎。
「言い返しても来ないとは飛んだ腑抜けだねぇ!? 俺をこの場で殺しておかなくていいのかい!? じゃないとお前が死んで絶望しきったラズを、今度こそ壊れるまで可愛がってあげちゃうかもしれないぜぇっ!?」
「まるで新しい玩具を買ってもらった子供みたいだね。そんなに識の水晶を手中に収めたのが嬉しいんだ?」
「はっはっは! 始めからそうやって腹を割ってくれよなぁ! じゃないと逆に話しかけ辛いったらありゃしないよ!」
ゴブトゴさんの待っているに向かう俺とシャロの後ろに一定間隔でついてきながら、識の水晶の強奪への関与をあっさり認めるバルバロイ。
シャロは不快げに表情を曇らせながらも、今までと様子が違うこの男の真意を探ろうとしているようだ。
ただコイツの場合、本当にただの嫌がらせの為に顔を出した可能性も普通にありそうだからなぁ。
「腹を割ってって言うなら聞こうか。俺的にはアンタの次の発言次第で殺してやってもいいんだけど、俺に殺される心配もなくノコノコ出て来れた理由はなぁに?」
「ご、ご主人様っ……?」
俺の問いかけに 隣りのシャロがギョっとした反応を見せる。
シャロ、俺は分からない事があったら直接聞く派なんだ。
ましてや敵対してる上に何1つ好感を持つ要素が無い相手になんて、遣う気は無いんだよ?
「まさか識の水晶をインベントリに入れてるから、なんてつまらない答えじゃない事を期待してるよ」
「……っ。相変わらず簡単に王族を害そうとするねぇ……?」
「それが遺言でいいの? 稀代の色狂いにしちゃあつまらない遺言だったね」
「い、今俺を殺せば、俺と奴隷契約を結んでいる200人近い女が一斉に死ぬぜぇ?」
……人質ね。やっぱりこの男はこうでなくっちゃな。
顔も人柄も良く、頭脳明晰で戦闘力も抜群。だけどその人間性だけがゴミクズと言うバルバロイ・フォート・スペルディアに相応しい回答だ。
「お前とは無関係で何の関わりも無い女たちが、この世界のどこかでお前の全く与り知らない所で次々に死んでいくんだ……! 自分とは無関係な女たちなんて知ったこっちゃないってんなら、今すぐ俺の事を叩き切ってみろよぉっ!?」
「その回答だと死なない程度に拷問することくらいは出来そうだけど? アンタならその対策まで考えてるんじゃないの?」
「はっ……! お、俺と一定時間連絡が取れなくなった場合、無差別に女を殺せと命じてある……! ひひっ、い、いったい何分で女たちが死に始めるか試してみるかぁっ!?」
「清々しいまでもクズだね。さすが12歳の妹の相手さえ正面から出来なかった男だ。実に他力本願でアンタらしいよ」
歩く足は止めず後ろも向かずに、背を向けたままで馬鹿の最低っぷりに拍手する。
形振り構わず俺対策をしたことが功を奏したようで、確かにこの場でこの男を殺すのは少し抵抗を感じるね。
「うん。じゃあ見逃してあげるからさっさと帰りなよ」
「……あ?」
「別に何の用事も無く、ただこうやって俺達を煽りたいだけで顔を出したんでしょ? 暇で下種なアンタらしいよ。でも俺もシャロもアンタほど暇じゃないんだ。だからとっととお帰りください?」
「……はっ! 言われなくても帰ってやるさ。だが用件はあるんだよ。1つだけ言わせてもらわなきゃ困るんだ。『不可視の箱。不可侵の聖域。魔で繋がりて乖離せよ。インベントリ』」
「……へぇ?」
シャロを腰に抱いたまま、背後でインベントリを詠唱したバルバロイに振り返る。
すると柄にもなく聖銀製のロングソードを俺に突きつけたバルバロイが、俺への敵意と憎悪に染まった瞳で俺を真っ直ぐ睨んでいた。
「宣戦布告だ。仕合わせの暴君ダン。お前を正式に俺の敵として認めるよ」
「とっくに敵対しておきながら今更過ぎる発言だねぇ」
「ちっ! 男の宣誓くらい黙って聞けねぇのか? 種族代表会議の当日、8月の15日がお前の命日だぁ……。世界中からお前との関わりを持つ者が集まる中で死んでもらうぜ? 必ずなぁ……!?」
「剣を突きつけてるのはパフォーマンスなの? かっこ悪いなぁ」
「ははっ。そういう下らない態度も、もう直ぐ見れなくなると思うと寂しくなるねぇ?」
いつものチャラけた調子に戻ったバルバロイは、肩を竦めながら剣を仕舞い、そしてあっさりと俺に背を向ける。
本当にこの宣言の為だけに顔を出したって言うなら、凄い自信だけど凄い暇人だな?
バルバロイの言動に感心と呆れを抱いていると、歩き出す前に顔だけ振り返って話しかけてくるバルバロイ。
「当日までは俺も準備で忙しいからね。信じる信じないは勝手にすればいいけど、安心して残された時間を楽しみなよ」
「アンタに関係無く毎日楽しんでるから安心してよ。でもそんな宣言しちゃって、当日前に作戦そのものを潰されたらどうするの?」
「くくっ、出来るものなら好きにすればぁ? 俺自身は当日まで逃げも隠れもせずにゴブトゴと両陛下を支えるつもりだからね。好きなだけ観察して俺の企みを看破してみなよ」
これで用件は済んだとばかりに、右手をひらひらと振りながら去っていくバルバロイ。
城に来た用事が全部終わっちゃったな? これも地味な嫌がらせだとするなら徹底してるねぇ。
「とりあえずゴブトゴさんに会いに行こうか。城に来た用事は済んじゃったけど、ゴブトゴさんを待たせちゃってるみたいだからね」
「……ここであの馬鹿の話をするのは危険、ですか。ですがご主人様なら仮に精霊魔法を使われても気付けるのでは?」
「俺の知らない盗聴用のマジックアイテムとかが無いとは断言出来ないし、家族とも共有したい話題だからね。全員揃ってから改めて話そうよ」
いつも冷静なシャロだけど、長い間自分を弄んできたあの男を前にすると感情の昂りを見せる気がするね。
ま、シャロが抱いているのは憎しみや敵意ではなく、単純に警戒心だけみたいだけど。
シャロを落ち着けるようにちゅっとキスをして、俺達も改めてゴブトゴさんの執務室に足を運んだ。
「あのバルバロイ殿下が正面から宣戦布告だと? 人違いではないのか?」
「ぷっ! あははっ! さ、流石はゴブトゴですっ」
混じり気無しの100パーセント素の反応でバルバロイをディスるゴブトゴさんに、思わずシャロが吹き出してしまった。
バルバロイに対するものとは180度逆の意味で、シャロはゴブトゴさんにも素の感情を見せる気がするなぁ。
ちゃんと執務室で俺達を待っていてくれたゴブトゴさんは、バルバロイの宣戦布告に対して俺達以上に信じられないといった反応を見せた。
おかげでシャロがくすくす笑っちゃって可愛すぎるんだよねー。
バルバロイには決して見せなかった笑顔もゴブトゴさんには惜しげもなく見せる辺り、シャロはゴブトゴさんに深い信頼を寄せている事が良く分かる。
きっとゴブトゴさんはシャロから何も奪わずに、色女の仮面を被ったシャロを叱責してくれていたんだろうな。
「ふぅむ。あのバルバロイ殿下が正面からダン殿に宣戦を布告するなど今でも信じられんが、急に開催地を変更してきた理由が分かったのはありがたい。私も殿下が何を考えているか分からなかったので気になってはいたのだ」
「気になってたなら止めればよかったんじゃないの? ゴブトゴさんの方がロイ殿下より権限は上でしょ?」
「いや、流石に公的には私の方が立場は下だぞ? それに今回の件はガルシア陛下が強く希望されてな。マーガレット陛下も驚きながらも賛同した為、私に拒否権は無かったのだ」
「マギーが驚くほど強く希望したのですか? あのガルシア様が? ということはガルシア様も……」
「ええ。恐らくバルバロイ殿下に唆されているのでしょうなぁ……」
やれやれと肩を竦めるゴブトゴさん。
王国の実権をほぼ完全に掌握しているゴブトゴさんだけど、それは彼が真面目で実直に政務をこなしてきたからだ。
実質的には両陛下よりも我を通す事は可能だとしても、真面目なゴブトゴさんだからこそルールを逸脱することは出来ないかぁ。
「幸いにもマーガレット陛下がバルバロイ殿下に感化された様子はありませんが、ガルシア陛下は少し病的に思えるほど魔物狩りに精を出しておられますよ。あれももしかしたら、ダン殿と事を構えることを想定しているのかもしれません」
「ガルシア様が個人的に腕を磨く事を御止めするわけにはいきませんが、騎士団などに特別な指示が出ていたりは?」
「ありませんね。あくまで陛下個人の鍛錬の範疇ですので私にも御止めできませんな。マーガレット陛下も少し心配しておられましたが、魔物狩り経験者であるマーガレット陛下は、ダン殿の齎した魔玉基準の職業浸透測定法を知ったガルシア陛下なら無理をしても仕方ないとも思っていらっしゃるようで……」
「……ふぅん。相変わらず人の背中でコソコソ動き回るのが上手い男です。ギリギリ不審に思われないラインを踏み越えませんね」
シャロとゴブトゴさん的にも、ガルシア陛下を取りこんだ時点で権限的にバルバロイを止める手立てを失ってしまったようだ。
まぁあの男が権限なんかで素直に動きを止めるとは思わないけど。
バルバロイが所有するという女奴隷についても聞いてみたところ、王家所有の奴隷以外にも長年に渡って個人的に買い付けを行なっているバルバロイの所有奴隷を把握しているのは本人しかいないと、少し憤りながらも教えてくれた。
「しかし人質か……。そんな手段を取る姑息なあの男の思惑通りに帝国で会議を開催してもいいものか迷うところだな……。流石に帝国には目が届かんし、好き勝手に暗躍されかねん」
「そこは多分心配しなくていいよ。カレンが俺の妻であることはもう伝わっているはずだからね。そのカレンの目に付くようなあからさまな行動は控えると思う」
「……カレン陛下を娶られたのか? となるともう権限的にもダン殿がこの世界の頂点に居るようにしか思えんなぁ?」
「や~め~て~よ~。俺は王国にも帝国にも関わるつもりなんてないってのー」
「くくく……はーっはっは! 関わるつもりがないのは国政の話だろう? 両国の安全と発展にはこれ以上ないほどに関わっているくせにどの口が言っているのだっ」
「あははっ! 流石はゴブトゴですっ。我が家のみんなでもなかなか夫にそこまで言えないですよっ」
俺を挟んで爆笑するゴブトゴさんとシャロの笑顔を見ていると、バルバロイの企みなんてどうでも良くもなるし、絶対にその意志を挫いてやろうって気にもなってくる。
他人の為に身を粉にして尽くしてきたこの2人が屈託なく笑える世界。
ようやく少しずつでも実現できてきた理想の世界を、常に他人を食い物にし続けてきたあの男に壊されるわけにはいかない。
あの下種が何を仕掛けてこようと、真正面から全て叩き潰すのみだ。
……しかし、飄々としていたあの男が見せる、異常なまでの俺への敵対心。
なんとなくだけど、かつてのノーリッテと繋がるものを感じてしまうよ。
これは本気で識の水晶を扱えている可能性も考慮しないといけないかもしれないなぁ。
「……なんでアンタが俺達を出迎えるんだ?」
笑顔で俺の登城を歓迎する意外な人物の姿に、同行したシャロと一緒に不快な気分にさせられる。
こそこそ逃げ回るものとばかり思ってたから、まさかこのタイミングで姿を現すとは想定してなかったよ馬鹿殿下め。
ユニのところで日課のコミュニケーションを済ませた俺は、種族代表会議が帝国で開催されるという情報を確かめにシャロと共にスペルディア王城に足を運ぶ事にした。
しかし転移先には満面の笑顔のバルバロイが立っていて、早くも今日登城したことを後悔させられる。
「なんでもなにも、種族代表会議の開催場所が帝国になった理由を確かめに来たんだろ? それを見越してゴブドゴを待機させておいただけだけど?」
「それはアンタが俺達を出迎える理由じゃないだろ。わざわざアンタ本人がこの場に出向いた理由ってなんだ?」
「おいおいおいっ! ラズの本性を俺に説いた男の言葉とは思えないねぇ!? あの時のように自信満々に俺の心を読み取って見たらどうだい!? ま、男の心情なんて理解したくないってなら同感だけどなっ」
何処までも上機嫌に笑うバルバロイの姿に、俺もシャロも警戒心を1段階引き上げる。
察知スキルには反応も無いし、目利きで見ても俺達に敵意を抱いているわけじゃなさそうだけど、コイツのこの余裕はいったいなんなんだ?
「俺が出迎えたのがそんなに不思議? 妹夫婦の顔を見たかったからでいいじゃない。相変わらずつまらない事を気にする男だねぇ?」
「呆れるなら帰ってくれない? アンタの案内なんて無くてもゴブトゴさんに会いに行くくらいは出来るから」
「あはははっ! ゴブトゴに聞くまでも無く答えてあげようか。スクリームヴァレーを推薦したのはお察しの通り俺だってね!」
「それが本当だとしても、俺はアンタの言葉に耳を傾けるつもりはないんだよ。さっさと回れ右して俺の前から消えてくれない?」
「くくく……随分余裕は無いねぇ? 嫌いな相手の前でも好意的に振舞うくらいの演技力は身につけたほうがいいよ?」
不快な笑いを浮かべながらも、俺達に道を譲るように横に移動するバルバロイ。
案内するような事を言っていたわりに、本当にゴブトゴさんのところまで案内する気は無かったようだ。
何しに顔を見せたのかは知らないけど、道を譲ってくれるならこんな奴に構う必要は無い。
シャロの腰を抱き寄せながら、バルバロイを無視して進む事にする。
「精々今のうちに沢山ラズを抱いておけよ? その方がお前が死んだあとに楽しめそうだからね」
しかし擦れ違う瞬間に、楽しげに呪詛を放つバルバロイ。
その最低な言葉に気分を害されはするけど、反応せずに通り過ぎる。
そんな俺に対して得意げに捲し立ててくるクズ野郎。
「言い返しても来ないとは飛んだ腑抜けだねぇ!? 俺をこの場で殺しておかなくていいのかい!? じゃないとお前が死んで絶望しきったラズを、今度こそ壊れるまで可愛がってあげちゃうかもしれないぜぇっ!?」
「まるで新しい玩具を買ってもらった子供みたいだね。そんなに識の水晶を手中に収めたのが嬉しいんだ?」
「はっはっは! 始めからそうやって腹を割ってくれよなぁ! じゃないと逆に話しかけ辛いったらありゃしないよ!」
ゴブトゴさんの待っているに向かう俺とシャロの後ろに一定間隔でついてきながら、識の水晶の強奪への関与をあっさり認めるバルバロイ。
シャロは不快げに表情を曇らせながらも、今までと様子が違うこの男の真意を探ろうとしているようだ。
ただコイツの場合、本当にただの嫌がらせの為に顔を出した可能性も普通にありそうだからなぁ。
「腹を割ってって言うなら聞こうか。俺的にはアンタの次の発言次第で殺してやってもいいんだけど、俺に殺される心配もなくノコノコ出て来れた理由はなぁに?」
「ご、ご主人様っ……?」
俺の問いかけに 隣りのシャロがギョっとした反応を見せる。
シャロ、俺は分からない事があったら直接聞く派なんだ。
ましてや敵対してる上に何1つ好感を持つ要素が無い相手になんて、遣う気は無いんだよ?
「まさか識の水晶をインベントリに入れてるから、なんてつまらない答えじゃない事を期待してるよ」
「……っ。相変わらず簡単に王族を害そうとするねぇ……?」
「それが遺言でいいの? 稀代の色狂いにしちゃあつまらない遺言だったね」
「い、今俺を殺せば、俺と奴隷契約を結んでいる200人近い女が一斉に死ぬぜぇ?」
……人質ね。やっぱりこの男はこうでなくっちゃな。
顔も人柄も良く、頭脳明晰で戦闘力も抜群。だけどその人間性だけがゴミクズと言うバルバロイ・フォート・スペルディアに相応しい回答だ。
「お前とは無関係で何の関わりも無い女たちが、この世界のどこかでお前の全く与り知らない所で次々に死んでいくんだ……! 自分とは無関係な女たちなんて知ったこっちゃないってんなら、今すぐ俺の事を叩き切ってみろよぉっ!?」
「その回答だと死なない程度に拷問することくらいは出来そうだけど? アンタならその対策まで考えてるんじゃないの?」
「はっ……! お、俺と一定時間連絡が取れなくなった場合、無差別に女を殺せと命じてある……! ひひっ、い、いったい何分で女たちが死に始めるか試してみるかぁっ!?」
「清々しいまでもクズだね。さすが12歳の妹の相手さえ正面から出来なかった男だ。実に他力本願でアンタらしいよ」
歩く足は止めず後ろも向かずに、背を向けたままで馬鹿の最低っぷりに拍手する。
形振り構わず俺対策をしたことが功を奏したようで、確かにこの場でこの男を殺すのは少し抵抗を感じるね。
「うん。じゃあ見逃してあげるからさっさと帰りなよ」
「……あ?」
「別に何の用事も無く、ただこうやって俺達を煽りたいだけで顔を出したんでしょ? 暇で下種なアンタらしいよ。でも俺もシャロもアンタほど暇じゃないんだ。だからとっととお帰りください?」
「……はっ! 言われなくても帰ってやるさ。だが用件はあるんだよ。1つだけ言わせてもらわなきゃ困るんだ。『不可視の箱。不可侵の聖域。魔で繋がりて乖離せよ。インベントリ』」
「……へぇ?」
シャロを腰に抱いたまま、背後でインベントリを詠唱したバルバロイに振り返る。
すると柄にもなく聖銀製のロングソードを俺に突きつけたバルバロイが、俺への敵意と憎悪に染まった瞳で俺を真っ直ぐ睨んでいた。
「宣戦布告だ。仕合わせの暴君ダン。お前を正式に俺の敵として認めるよ」
「とっくに敵対しておきながら今更過ぎる発言だねぇ」
「ちっ! 男の宣誓くらい黙って聞けねぇのか? 種族代表会議の当日、8月の15日がお前の命日だぁ……。世界中からお前との関わりを持つ者が集まる中で死んでもらうぜ? 必ずなぁ……!?」
「剣を突きつけてるのはパフォーマンスなの? かっこ悪いなぁ」
「ははっ。そういう下らない態度も、もう直ぐ見れなくなると思うと寂しくなるねぇ?」
いつものチャラけた調子に戻ったバルバロイは、肩を竦めながら剣を仕舞い、そしてあっさりと俺に背を向ける。
本当にこの宣言の為だけに顔を出したって言うなら、凄い自信だけど凄い暇人だな?
バルバロイの言動に感心と呆れを抱いていると、歩き出す前に顔だけ振り返って話しかけてくるバルバロイ。
「当日までは俺も準備で忙しいからね。信じる信じないは勝手にすればいいけど、安心して残された時間を楽しみなよ」
「アンタに関係無く毎日楽しんでるから安心してよ。でもそんな宣言しちゃって、当日前に作戦そのものを潰されたらどうするの?」
「くくっ、出来るものなら好きにすればぁ? 俺自身は当日まで逃げも隠れもせずにゴブトゴと両陛下を支えるつもりだからね。好きなだけ観察して俺の企みを看破してみなよ」
これで用件は済んだとばかりに、右手をひらひらと振りながら去っていくバルバロイ。
城に来た用事が全部終わっちゃったな? これも地味な嫌がらせだとするなら徹底してるねぇ。
「とりあえずゴブトゴさんに会いに行こうか。城に来た用事は済んじゃったけど、ゴブトゴさんを待たせちゃってるみたいだからね」
「……ここであの馬鹿の話をするのは危険、ですか。ですがご主人様なら仮に精霊魔法を使われても気付けるのでは?」
「俺の知らない盗聴用のマジックアイテムとかが無いとは断言出来ないし、家族とも共有したい話題だからね。全員揃ってから改めて話そうよ」
いつも冷静なシャロだけど、長い間自分を弄んできたあの男を前にすると感情の昂りを見せる気がするね。
ま、シャロが抱いているのは憎しみや敵意ではなく、単純に警戒心だけみたいだけど。
シャロを落ち着けるようにちゅっとキスをして、俺達も改めてゴブトゴさんの執務室に足を運んだ。
「あのバルバロイ殿下が正面から宣戦布告だと? 人違いではないのか?」
「ぷっ! あははっ! さ、流石はゴブトゴですっ」
混じり気無しの100パーセント素の反応でバルバロイをディスるゴブトゴさんに、思わずシャロが吹き出してしまった。
バルバロイに対するものとは180度逆の意味で、シャロはゴブトゴさんにも素の感情を見せる気がするなぁ。
ちゃんと執務室で俺達を待っていてくれたゴブトゴさんは、バルバロイの宣戦布告に対して俺達以上に信じられないといった反応を見せた。
おかげでシャロがくすくす笑っちゃって可愛すぎるんだよねー。
バルバロイには決して見せなかった笑顔もゴブトゴさんには惜しげもなく見せる辺り、シャロはゴブトゴさんに深い信頼を寄せている事が良く分かる。
きっとゴブトゴさんはシャロから何も奪わずに、色女の仮面を被ったシャロを叱責してくれていたんだろうな。
「ふぅむ。あのバルバロイ殿下が正面からダン殿に宣戦を布告するなど今でも信じられんが、急に開催地を変更してきた理由が分かったのはありがたい。私も殿下が何を考えているか分からなかったので気になってはいたのだ」
「気になってたなら止めればよかったんじゃないの? ゴブトゴさんの方がロイ殿下より権限は上でしょ?」
「いや、流石に公的には私の方が立場は下だぞ? それに今回の件はガルシア陛下が強く希望されてな。マーガレット陛下も驚きながらも賛同した為、私に拒否権は無かったのだ」
「マギーが驚くほど強く希望したのですか? あのガルシア様が? ということはガルシア様も……」
「ええ。恐らくバルバロイ殿下に唆されているのでしょうなぁ……」
やれやれと肩を竦めるゴブトゴさん。
王国の実権をほぼ完全に掌握しているゴブトゴさんだけど、それは彼が真面目で実直に政務をこなしてきたからだ。
実質的には両陛下よりも我を通す事は可能だとしても、真面目なゴブトゴさんだからこそルールを逸脱することは出来ないかぁ。
「幸いにもマーガレット陛下がバルバロイ殿下に感化された様子はありませんが、ガルシア陛下は少し病的に思えるほど魔物狩りに精を出しておられますよ。あれももしかしたら、ダン殿と事を構えることを想定しているのかもしれません」
「ガルシア様が個人的に腕を磨く事を御止めするわけにはいきませんが、騎士団などに特別な指示が出ていたりは?」
「ありませんね。あくまで陛下個人の鍛錬の範疇ですので私にも御止めできませんな。マーガレット陛下も少し心配しておられましたが、魔物狩り経験者であるマーガレット陛下は、ダン殿の齎した魔玉基準の職業浸透測定法を知ったガルシア陛下なら無理をしても仕方ないとも思っていらっしゃるようで……」
「……ふぅん。相変わらず人の背中でコソコソ動き回るのが上手い男です。ギリギリ不審に思われないラインを踏み越えませんね」
シャロとゴブトゴさん的にも、ガルシア陛下を取りこんだ時点で権限的にバルバロイを止める手立てを失ってしまったようだ。
まぁあの男が権限なんかで素直に動きを止めるとは思わないけど。
バルバロイが所有するという女奴隷についても聞いてみたところ、王家所有の奴隷以外にも長年に渡って個人的に買い付けを行なっているバルバロイの所有奴隷を把握しているのは本人しかいないと、少し憤りながらも教えてくれた。
「しかし人質か……。そんな手段を取る姑息なあの男の思惑通りに帝国で会議を開催してもいいものか迷うところだな……。流石に帝国には目が届かんし、好き勝手に暗躍されかねん」
「そこは多分心配しなくていいよ。カレンが俺の妻であることはもう伝わっているはずだからね。そのカレンの目に付くようなあからさまな行動は控えると思う」
「……カレン陛下を娶られたのか? となるともう権限的にもダン殿がこの世界の頂点に居るようにしか思えんなぁ?」
「や~め~て~よ~。俺は王国にも帝国にも関わるつもりなんてないってのー」
「くくく……はーっはっは! 関わるつもりがないのは国政の話だろう? 両国の安全と発展にはこれ以上ないほどに関わっているくせにどの口が言っているのだっ」
「あははっ! 流石はゴブトゴですっ。我が家のみんなでもなかなか夫にそこまで言えないですよっ」
俺を挟んで爆笑するゴブトゴさんとシャロの笑顔を見ていると、バルバロイの企みなんてどうでも良くもなるし、絶対にその意志を挫いてやろうって気にもなってくる。
他人の為に身を粉にして尽くしてきたこの2人が屈託なく笑える世界。
ようやく少しずつでも実現できてきた理想の世界を、常に他人を食い物にし続けてきたあの男に壊されるわけにはいかない。
あの下種が何を仕掛けてこようと、真正面から全て叩き潰すのみだ。
……しかし、飄々としていたあの男が見せる、異常なまでの俺への敵対心。
なんとなくだけど、かつてのノーリッテと繋がるものを感じてしまうよ。
これは本気で識の水晶を扱えている可能性も考慮しないといけないかもしれないなぁ。
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