異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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 未知の野生動物の襲撃をなんとか未然に防いだ俺達は、萎縮したまま身動きの取れない狒々型の野生動物を残らず殺して死体を捨てる。


 本当であれば彼らの縄張りに勝手に踏み入れているこちらが悪いだろうけど、この狒々たちは脅威度が高すぎて生かしておくのは危険すぎる。

 攻撃魔法や職業スキルに留まらず、エルフ族の種族特性である精霊魔法まで使いこなす以上、いつか移動魔法を駆使して人里を襲わないとも限らないからな……。


「大体片付いたかな? パパのスキルで新たに萎縮する個体も居ないみたいだし」


 トドメを刺した狒々を軽々と谷底に投げ捨てているアウラが、周囲を見回しながら確認してくる。

 全員で一気に片付けたから総数は分からないけど、多分3000体近く殺してしまったんじゃないだろうか。


「察知スキルに反応は無いし、熱視でも見ることが出来ないから安全かどうか分からないの。片付け中にもちょっかい出だされなかったから、恐らくは安全なんだと思うけど……」

「ダンよ。対処できるならさっさとするのじゃ。安全が確保できぬ状態ではオチオチ会話も楽しめぬのじゃ」


 油断無く周囲を警戒しながらも、自分の警戒心を信用しきれず不安げなニーナとフラッタ。

 悪戯にストレスを長引かせても仕方ないな。さっさと対処しよう。


「リーチェ。アウラ。俺の想定している方法って2人に負担をかける事になるんだけど構わないかな?」

「ぼくたちに……ってことは精霊魔法を使うってこと? でも精霊魔法で周囲を知覚したりは出来ないよ?」


 俺の言葉を先読みしたリーチェが、精霊魔法では狒々の索敵は難しいと難色を示してくる。

 精霊魔法に感知能力が備わっていたら楽だったんだけど、流石にそれじゃ強すぎるから仕方ない。


 だけど以前リーチェが言っていたのだ。エルフ族の協力者によって、シルヴァの捜索を妨害されている可能性があると。

 結局この時の想定はお互い外してしまったのだけど、あの時のリーチェの言葉を信じるのなら、精霊魔法には感知能力は備わっていないけれど、相手の精霊魔法に干渉、妨害する能力はあるんじゃないかと思うのだ。


「アイツらの厄介なところは、気配遮断と精霊魔法を同時に操ることで、姿と音と匂いを完全に消し去っていることだよね? だけど今の俺達なら、そのどちらかでも無力化出来れば絶対に気付けるはずだ」

「どちらか……精霊魔法の無力化……!? 確かにそれなら……いや、そんなこと本当に出来るの……?」

「精霊魔法の性能に関して、改めて確認させてくれ。それ次第で精霊魔法の使い方を変えてもらう必要があるから」

「う、うん……。え~っとね……」


 精霊魔法を破る為には、精霊魔法の特性をより深く理解する必要がある。

 どうにせよリーチェとアウラの精霊魔法に頼る事になると思うけど、精霊魔法同士が干渉し合う時の仕様を改めて解説してもらう。


 まず、精霊魔法には感知能力が無いので、近くで精霊魔法を使われていても感知することは出来ない。

 更には相手が制御中の精霊魔法に干渉することも出来ないので、リーチェに狒々たちの精霊魔法を無力化してもらうことは出来ないようだ。


 エルフの協力者によってシルヴァの捜索が妨害されているという言葉の意味は、精霊魔法を熟知した相手が、精霊魔法で集められる証拠を先んじて処分してしまったのではないか、という意味だったようだ。


「精霊魔法が使えないと想像しにくいと思うけど、植物から得られる情報は結構多いんだよ。彼らは言語を介さない分、情報を映像でやり取りしたり出来るからさ。竜人族の美男子なんて目立つ人物、草木は簡単には忘れないものなんだ」

「あの時は結局、マグエルにもネプトゥコにもシルヴァは現れてなかったんだよな。だから植物からシルヴァの情報が得られなかったんだけど」

「そんなことを知らないぼくは、他のエルフが先んじてシルヴァの事を覚えている植物を処分したんじゃないかなって思ったわけさ」

「ん~。でもそれって植物の感情を感知しているんじゃないの? ダンみたいに発想を転換すれば、精霊魔法でも察知スキルみたいなことが出来るんじゃー?」

「無理だと思うよニーナ。植物の声を聞くのは、みんなの会話を繋げているのと同じ感覚だからね。繋がっていないものを拾うことは出来ないんだ」

「みっ、みなさーんっ! 脱線! 脱線してますってばーっ!」


 精霊魔法談義に花が咲きかけたところで、慌てたラトリアが乱入してくる。

 ラトリアは狒々の隠密能力に人一倍慄いていたからな。一刻も早く対処法が知りたいのだろう。


 ラトリアをぎゅーっとしながらごめんごめんと謝って、ラトリアを抱き締めたままリーチェに確認する。


「相手の精霊魔法に干渉して、その制御を妨害できれば手っ取り早かったんだけど……。それは出来ないってことでいいのかな?」

「出来ない……ね。精霊魔法は支配したり掌握したりする能力じゃなく、あくまで風にお願いして言う事を聞いてもらっているだけだから」

「ならここでいつもの発想の転換だ。リーチェになるべく広範囲に精霊魔法を展開してもらえばいいんじゃないかな? そうすればリーチェの精霊魔法の制御を奪うことは出来ないのだから……」

「あいつらが精霊魔法を操る余地が無くなるってことね!? 動作音や呼吸音さえ聞こえれば……!」

「……いや。ごめん、それは難しいかもしれない……」


 これで解決とばかりにはしゃぐティムルに向かって、申し訳無さそうに謝るリーチェ。

 予め広範囲の空間を掌握しておけば狒々たちが制御する分が失われると思ったんだけど、どうやら難しいらしい。


「精霊魔法は範囲が広がれば広がるほど制御力が失われていくんだ。広範囲に精霊魔法を展開することは可能でも、そこまで薄く伸ばした精霊魔法じゃ野生動物の精霊魔法の方が優先される可能性が高いよ……」

「精霊魔法は支配するような能力じゃない、かぁ……。今まで滅茶苦茶万能な能力だと思っていたけど、流石に完全無欠の能力ってわけにはいかないんだねぇ」

「いやいや旦那様、感心してる場合じゃないですってば。結局あの野生動物の潜伏を見破る方法が無いということになるじゃないですか」


 非戦闘員を常に槍の範囲に収めながら、ふーやれやれと呆れるヴァルゴ。

 微妙にヴァルゴがリラックスしているように見えるのは、究極的にはオーバーウェルミング連発でゴリ押しが可能だということを分かっているからなのだろう。


 だけど毎回最大範囲のオーバーウェルミングなんて放ってられませんってば。屋内に入っちゃうと減衰だってするだろうし。


「リーチェ。精霊魔法には感知能力は無いんだよね? ならリーチェが精霊魔法を展開していても気付かれないし、どんな制御をしているかも悟られないと思っていい?」

「えっと、精霊魔法だけならその通りだと思う。だけど熱視で見られたらバレバレじゃないかな」

「あ~……。あいつらが熱視を使えないと決まったわけじゃないのかぁ……」


 可能性を考え出したらキリが無いけど、最悪の想定はしておくべきだな。

 あいつらは全ての魔法、全ての職業スキル、そして全ての種族特性を扱えるのだと。


 ……なんだかアウラを連想させるな? 本当に自然発生した生物なのか?


「……いや、それでも問題ないはずだ。リーチェには少し大変な思いをさせるかもしれないけど」

「遠慮しないで聞かせてくれる? 精霊魔法の破り方なんて、今回の事が無くても知っておきたいから」

「破り方なんて大層なものじゃなくて、これもまた逆転の発想ってだけなんだけどね。単純な話、リーチェには本来ありえない魔力の流れを適当に作り出して広域に展開して欲しいんだよ」


 本来なら気配遮断を見破れるはずの熱視を欺けたのは、コイツらが気配遮断スキルの魔力を誤魔化すように魔力の流れを作り出していたかららしい。

 ならば逆に異常な魔力の流れを作り出してしまえば、自然な魔力の流れがかえって不自然に浮き上がるはずだ。


「熱視で魔力操作を読まれてしまう可能性はあるけど、いくらなんでもリーチェの精霊魔法の動きに瞬時に合わせるのは無理でしょ? だからリーチェは短い間隔で不規則な魔力操作を繰り返してくれる?」

「それを私が熱視で確認すればいいのね? でもダン、お姉さんの目視だけじゃ万全とは言えないんじゃなぁい?」

「お姉さんの熱視だけで万全だと思うけど、グチャグチャな魔力操作をすれば動作音を消しきれなくなるとも思うんだ。動作音さえすれば今の俺達なら絶対に聞き逃さないはずだ。問題はリーチェの魔力だけど……」

「ぼくなら大丈夫っ。ダンとティムルのおかげで、魔力が枯渇する心配なんて全然ないからねっ。最大範囲の魔力を適当に掻き回すだけならずっと続けられるはずだよっ」


 声とおっぱいをぽよんぽよんと弾ませたリーチェが、ぼくに任せてと胸を張る。

 その光景には思わず目を見張るものがあるけど、この様子ならリーチェには自信があるようだ。


「不規則な魔力操作をするなら、ぼくの魔力操作をアウラが引っ掻き回せば完璧じゃないかなっ。アウラの訓練にもなるし一石二鳥だよーっ」

「え~……? リュー……じゃなかった。リーチェママの訓練は疑ってないけど、これから敵が居る可能性が高い場所に突入するのに、常に精霊魔法を展開するのは不安だよ? 私の魔力、もつかなぁ……」

「ならアウラと私のパーティを交換するのっ。ダンとティムルと同じパーティにいれば、アウラの魔力も相当持続してくれると思うんだっ」


 魔力枯渇を不安視するアウラに、ニーナがパーティの入れ替えを提案してくれる。

 ……お互い目の届く距離にいるし、婚姻もアライアンスも繋がっているとは言え、ニーナが自分から仕合わせの暴君からを脱退するなんてびっくりだよ。


 だけど俺とティムルには全体自動魔力回復スキルが浸透しているから、ニーナの提案はまさにベストな選択と言えるだろう。


「母さんっ! ムーリっ! よろしくなのーっ! 獣人族3人で仲良くしようねーっ?」

「あはははっ! 傾国の姫君に私のお姫様がやってきたのーっ! 戦力的にも心強いよ。宜しくねニーナっ」

「ニーナさんと同じパーティになるのは久しぶりですねっ。折角ですし、今夜はベッドの上までパーティを組んだままでいましょうかっ」


 ニーナが脱退したのは残念だけど、ニーナと傾国の姫君2人がキャッキャしているのは普通に微笑ましい。

 ムーリが素敵過ぎる提案をしてくれたし、今夜はこの3人を一緒にいただく事にしようかな?


 って、そう言えば今夜は竜人族の3人も一緒にいただきますする予定だったぞ? 今夜は種族縛りで楽しむ日か? 楽しみすぎるんですけどっ。


「ニーナママには申し訳無いけど、パパとパーティを組めるのは嬉しいなっ。私だけ婚姻を結べてないからさーっ」

「開口一番で殺し文句を放つのはやめようね? それじゃアウラはリーチェのサポートってことで宜しく。ティムルとリーチェの言うことを良く聞くんだよー」


 ほっぺにちゅっとキスをして、リーチェとティムルにアウラを引き渡す。

 精霊魔法の指導役のリーチェと、熱視でアウラの魔力枯渇に気付けるティムルに任せておけば心配ないだろう。


 先ほどから1分単位で放っていたオーバーウェルミングを停止して、ここからの索敵は3人に丸投げしてしまう。

 これはアウラの訓練の為なので、決してサボっているわけではないのです。


「出来るって確信しているリーチェの判断を疑うわけじゃないけど、始めは俺達の周囲を囲むくらいの範囲にオーバーウェルミングを放ち続ける事にするよ。リーチェたちのほうで索敵が可能だって実証できたらやめるから、その時は声をかけてね」

「ダンは相変わらず病的なほどに用心深いが、それなら安全安心なのじゃー。妾は今回索敵には役に立たないので、キュールたちの護衛に専念させてもらうのじゃ」

「フラッタに同じです。家族はフラッタが守ってくれるようですので、私はガブリエッタさんとルーロさんを護衛させていただきますね」

「あれ? ヴァルゴも護衛に専念するの? じゃあ今回前衛は俺1人になっちゃうんだけど……」


 俺と一緒に前衛を務める予定だったヴァルゴまで護衛に専念するとか、割と珍しいパターンの気がするな?

 恐らくヴァルゴもフラッタもリーチェたちの索敵を疑ってなくて、姿さえ捕捉できれば俺達が警戒するほどの相手ではないと判断したんだろうけど。


「ふふっ。お忘れですかダンさんっ」

「エマ? お忘れって、何を?」


 1人で前衛をこなす機会ってあまりなかったので、微妙に面倒臭く感じていると、そんな俺を見透かしたようにエマが笑いかけてくる。

 エマはなんだかご機嫌な様子なので、何か危険な要素を失念しているってわけじゃなさそうだけど、なにを忘れているんだっけ?


 首を傾げる俺に、エマは弾ける様な笑顔になって教えてくれた。


「ダンさん1人で全てを蹴散らして、私たちにかっこいい姿を見せてくださるって言ったじゃないですかっ」

「……あ~、言ったねぇ」

「ここに巣食う野生動物は予想以上に危険な相手でしたけれど、だからこそダンさんのかっこいい姿を見せていただきたいですねっ。かっこいい夫の姿、期待させてもらっても?」


 くすくすと笑いながら、からかうように問いかけてくるエマ。

 そんな彼女を抱きしめて、唇を重ねることで返答する。


「こんなに魅力的過ぎる姿を妻に見せられたら、夫としちゃあ頑張らないわけにはいかないよ。エマが見てるだけで俺の子供を孕むんじゃないかってくらいにかっこいい姿を見せてあげるよ」

「それは楽しみですけど、見るだけで孕まされるのは残念ですね? 愛する夫の子供は、夫に直接種付けしてもらいたいんですけどっ」


 卑猥すぎるおねだりをしたエマは、触れるだけのキスをしてニコニコと俺から離れていく。

 続きは全部終わってからってぇ? まっかせとけーっ!!


 索敵はリーチェたちに任せる気でいたけど、そんなんじゃエマたちを満足させてやることは出来ないかもしれない。

 今夜最高の時間を過ごす為に、俺の手で確実に根絶やしにしてやるぜーっ!
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