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690 逸脱
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イントルーダー戦のハードルの高さを思い知って、頭を抱えるマーガレット女王陛下とカレン皇帝陛下。
現状のこの世界ではその前提条件をクリアするのはかなり難しいからね。両陛下が頭を抱えるのも無理はないっちゃないんだけど……。
「俺達が各地のイントルーダーを殺して回ってるのも悪いんでしょうけど……。イントルーダーって、本来は討伐を想定された存在じゃないと思うんですよ」
「なに?」「え?」「はぁっ!?」
目の前の両陛下の声に続いて、離れた場所で俺の話が終わるのを待っているはずのキュールの驚いた声が聞こえる。
リーチェが声を拾って共有してるんだろうけど、普通に会話に参加すればいいのにな?
「俺達は成り行き上イントルーダーを殺して回りましたけど、本来イントルーダーって脅威じゃなくて教訓として語られる存在だと思うんです。イントルーダーを倒す為に頑張ろうじゃなくて、イントルーダーが出ないように気をつけようって扱う存在だと思うんですよねー」
せっかくなのでこの機会に、両国のトップと家族のみんなに俺の考えを話しておくことにする。
イントルーダーはボスキャラじゃなくて、バランサーとかストッパーとかキーパーとか、早い話がこの世界を保つための要素の1つだと思ってるわけだ。
この世界では異界から流入する魔力で生活の糧を得ているわけせいか、世界中の色々な場所で魔力バランスを保つ措置が取られている。
つまり世界に漂う魔力の量は多すぎても少なすぎても駄目なのだ。
魔物を狩りすぎると現れる、魔物狩りへの最終防衛システムイントルーダー。
殺しまくってる俺達が言うのもなんだけど、この世界の常識を超越した存在であり、隔絶した能力を持つ神の如き存在だ。
イントルーダーを滅ぼすとアウターで魔物に襲われなくなり、そのアウターでの活動を実質禁じられてしまう。
つまりイントルーダーを倒した先には何もなくて、イントルーダーは越えるべき壁ではなくて行き着いた先の行き止まり、この世界の到達点の1つなのだ。
「俺達は家族を愛することが最優先で魔物狩りにはあまり興味ないんですけど、俺達と同じ能力を持った魔物狩りが際限無く魔物を狩り続けた場合、この世界の魔力バランスが狂ってしまうと思うんですよ」
だから力をつけすぎた魔物狩りを排除する為に常軌を逸した魔物が召喚されて、それすら倒す魔物狩りには魔物狩りそのものを禁じてしまう。
そうすることによって魔力バランスが崩壊する事を防いでいるのではないかと思うんだよねー。
「イントルーダーはこの世界の枠組みそのものです。イントルーダーを滅ぼす力を求めるということは、この世界を生み出した変世の3女神の加護を捨てる覚悟が必要だと思います」
「世界を逸脱する行為……ということですか……」
「誰もがイントルーダーを滅ぼせるほどの力を求めた先には、人同士の争いが待っていると俺は思ってるんですよ。イントルーダーという脅威、イントルーダーという教訓が人同士の争いを抑制している部分もあるのかなって」
「……いや、全然抑制出来てなくない?」
イントルーダーという人類共通の脅威が、戦争の抑止力に繋がっている。
そう語った俺の言葉を真っ向から否定したのは、建国の英雄譚で各種族の悪意に翻弄されたリーチェだった。
「アルフェッカは崩壊しちゃったし、組織レガリアは暗躍してたし、ドワーフもエルフも魔人族も竜人族も、それぞれバラバラに暮らしてたじゃないか。これじゃ人同士の争い、全然抑制出来てないでしょ」
「逆に考えてみてよリーチェ。魔物がいてもそのくらいの争いが起こったんだって。だけどもしも魔物からドロップアイテムが得られなかったら……。そう考えたら恐ろしくならない?」
「ドロップアイテムが得られなかったら、か……。そんなこと考えたことも無いな……。本当に変な事を考える奴だな、貴様は?」
リーチェではなくカレン陛下が俺の言葉にいち早く反応し、仕方ない奴だとばかりに小さく首を振って見せた。
家族しか居ない場所でなら紛争の絶えなかった地球の話も出来るんだけど、両陛下の前で地球の話をするわけにはいかないだろう。
ここは適当に誤魔化しておこう。
「イントルーダーを滅ぼすと魔物に襲われなくなりますからね。いやでも考えちゃいましたよ、魔物からのドロップアイテムが得られない世界って奴を」
「……なるほど。確かにそれは女神の祝福から逸脱した世界と言えるのかもしれんな」
「イントルーダーを滅ぼしまくってる俺達が言っても説得力が感じられないかもしれませんが……。イントルーダーの討伐は安易に目指しちゃいけない領域なのだとお考えください」
「そこは頂点ではなく行き止まり、ですか……。考えさせられますね……」
さっ、そろそろ話は終わりでいいですかね?
早くみんなの行き止まりの到達点までしつこく往復しなきゃいけないんで?
「まとめますね。イントルーダーの撃破には重銀以上の武器が必須で、魔導師、修道士、司祭はメンバー全員に浸透していないといけません。全状態異常耐性大効果スキルの付与された装備品も全員に必要です。メンバー1人1人が最低でも30以上の職業を浸透させていて、パーティ全体で180~200職くらいの浸透が終わっていて初めて挑戦権が得られます」
「……気が遠くなりますね」
「その水準の魔物を1撃で滅ぼした仕合わせの暴君メンバーは狂っているな……?」
「イントルーダーを討伐した先に得られるものはあまり無くて、討伐に成功した者はこの世の理から逸脱してしまいます。イントルーダーとは討伐を目指すものでなく、遭遇を回避する事を想定した存在であると俺は考えています。以上です」
俺の意見を聞いた両陛下は、俺の考えを否定こそしなかったものの、簡単には受け入れられないとでもいうかのように悩んでいる様子だ。
実際に目の前にイントルーダーを討伐したパーティが居るわけだしな。そのパーティはもう国家という枠組みでは縛れないと言われて、簡単に飲み込むわけにもいかないんだろう。
「……今はこれ以上考えても仕方無いか」
「そう、ですね……。今はイントルーダーの存在を認識できただけでも良しとしましょう」
しかし、さすがは実力で国のトップまで上り詰めた両陛下だけあって、思考の切り替えは見事だった。
今は答えが出せない案件だと判断したらしく、思考と検証を一旦棚上げしたようだ。
真剣な表情の後ろで、これでようやくバカンスの開始だぁい! と浮かれ気味の俺に、カレン陛下が溜め息交じりで問いかけてくる。
「……最後に1つ聞かせてくれ。貴様らが初めてイントルーダーを討伐した時、イントルーダーという存在を知った上で打倒に挑んだのか?」
「いいえ。俺達が初めてイントルーダーに遭遇したのは竜王のカタコンベででしたが、その時の遭遇は突発的で想定外のものでしたよ」
「……であるなら! どうやってこんな存在を打倒したというのだっ!?」
思わずといった様子で怒声を上げるカレン陛下。
おいお陛下。これじゃ質問が2つになってますよ?
本当に聞きたかったのはこっちで、最初の質問は確認ってことなのか?
「アウターエフェクトが最強の魔物とされていたこの世界で、アウターエフェクトを歯牙にもかけないこんな存在を滅するだけの力を貴様はどうやって手に入れ……いや! どうやってそんな力を目指そうと思ったのだ!?」
「簡単なことです。愛する家族の幸せを願うなら、まだ見ぬイントルーダーくらい蹴散らせなきゃいけなかっただけですよ」
誰もが諦めていたニーナの呪いを解く為に。
職業補正の恩恵があまり得られない対人戦で、当時世界最強の剣士だったラトリアを止める為に。
建国の英雄譚に縛られ、かつて邪神に囚われていたリーチェとリュートを解放してやる為に。
この世界の常識に囚われている余裕はなかったんですよ、俺にはね?
話を終えた俺達はマーガレット陛下に別れを告げ、カレン陛下と共に城の出口を目指して歩いている。
カレン陛下は冒険者を浸透させているそうなので、このまま双竜の顎に参加したまま俺達をヴェルモート帝国の首都である帝都フラグニークまで送ってくれる事になった。
その陛下はキュールと共にイントルーダーの話で盛り上がっており、フラッタはラトリアとエマがベッタリなので一緒に歩けない。
なのでニーナとリーチェの2人と手を繋いで、日が落ちて人気の感じられなくなった城内を進む。
「私の呪いを解く為に、この世界から逸脱させちゃってごめんなのっ。だからダンのことは、私が責任を持って捕まえていてあげるからねっ」
「ぼくを偽りの英雄譚から解放する為に、君がどれほどの想いで力を求めたのかずっと見ていたよ。そのおかげで孤独から解放されたぼくが、君の事を絶対に孤独になんてさせないんだからねっ」
両手から伝わる2人の熱と、両側から向けられる2人の笑顔。
これが世界から失われるところだったなんて、今思ってもゾッとするよ。
「こうやって2人と一緒に過ごせているだけで全てが報われてるよ。責任も負い目も感じなくていいから、2人ともずっと俺の傍に居て欲しいな」
「あったりまえなのっ。ぜーったいに逃がさないんだからねっ」
「ダンこそ責任も負い目も感じていいから、ぼく達の傍から居なくなっちゃダメなんだよっ?」
返事の代わりに2人と軽く唇を重ねて、俺は2人と生涯共に過ごすことを改めて誓ったのだった。
「これより私自ら諸君を帝都に招待しよう。『虚ろな経路。点と線。見えざる流れ。空と実。求めし彼方へ繋いで到れ。ポータル』」
城の外に出ると、直ぐにカレン陛下がポータルを発動してくれる。
ここで迷っても仕方が無いし、なにより色々我慢の限界だったので、みんな我先にとポータルに飛び込んだ。
転移先にはスペルディア王城よりもふたまわりくらい小さな城が聳え立っていた。
これがカレン陛下の居城ってことか。
「ようこそヴェルモート帝国へ! ようこそ帝都フラグニークへ! ヴェルモート帝国皇帝カレン・ラインフェルドが、貴様らの帝国来訪を心から歓迎するぞっ!」
「皇帝陛下自らの案内と歓迎、誠に痛み入りますよ。しかしせっかくの帝都の景観もこの時間帯では楽しめませんね?」
まだ就寝には早いだろうけれど、既に日が落ちてから大分時間が経っている。
電気による照明などないこの世界では、月明かりに薄く浮かび上がる建物のシルエットくらいしか楽しむ事ができそうにない。
帝都の景色を楽しめなくて少し残念に思っていると、城の方から大勢の人がこちらに駆け寄ってきているのが分かった。
陛下の帰還に気付いた迎えの人たちだろう。
「貴様らに疲弊した様子はないが、部屋を用意させるからまずはゆっくり休んでくれ。人払いもしておくから、気兼ねなく騒いでもらって構わない」
「……お気遣い感謝致しますけど、正面からそういう事を言われると気まずいんですよ?」
「明日の朝、軽く帝都を見て回った後に湾岸都市タイダリスに案内しよう。タイダリスから見る海の広さは圧巻だぞ。期待しているがいい」
俺の抗議を真っ向から無視したカレン陛下は、この場に駆けつけた兵士さんたちにひと言ふた言指示を出した後、振り返らずに城に戻っていった。
置き去りにされた俺達は、案内の兵士さんに連れられて陛下が消えた方向とは別の方向に向かって案内される。
何処に案内されるのか微妙に不安なんだけど、キュールがなにも言わないので問題無いのだろう。
数分歩いた後に、城の敷地内にありながらも建物的には繋がっていない、所謂離れのような場所に案内された。
「こちらがゲストハウスとなります。明日の朝までこちらでお休みください」
案内されたゲストハウスは、マグエルの自宅の別荘よりもひと回り大きい印象だ。
石造りの頑丈そうな見た目をしていて、装飾よりも実用性を重視して作られている印象だな。
「入り口は2重になっておりまして、内側の扉にお客様のステータスプレートを登録することで我々も無断で入室できなくなります。安全性は向上しますが我々も近づけなくなりますので、御用の際にはご不便をおかけすることをご理解ください」
「へ~。お客様用のステータスプレート認証が用意されているんですねっ?」
「お客様の応対をする為に城の者を常駐させるのですが、お客様のステータスプレートを登録する場合はその者たちも撤収させます。お客様への応対に支障が出る代わりに、プライベート性が向上するということですね」
「なるほど。お客様の都合でサービスを選べるわけですかぁ~」
脳筋貴族令嬢のラトリアが、ゲストハウスのシステムに興味を引かれたようだ。
シルヴァを救出した際に竜爵家邸で竜人族を受け入れてたからな。お客さん用の離れが欲しいのかもしれない。
「今回は人払いを命じられておりますので、どちらにしても皆様の応対は出来かねます。なのでなるべくステータスプレートの登録を行なって、家族だけの空間をお楽しみいただく方が宜しいかと思いますよ。それでは失礼致します」
最低限の説明を済ませた案内の人は、足早に城に戻っていった。
早速チャールとシーズのステータスプレートを登録して、ゲストハウス内を夫婦水入らずのプライベート空間に仕立て上げる。
内装の確認をしながら全力で察知スキルを展開し、中に誰も潜んでいないかを入念にチェックしてからみんなをベッドに引きずり込む。
さぁて。カレン陛下にも気を使っちゃってもらったことだし、4日ぶりに思いっきり楽しもうねーっ!
現状のこの世界ではその前提条件をクリアするのはかなり難しいからね。両陛下が頭を抱えるのも無理はないっちゃないんだけど……。
「俺達が各地のイントルーダーを殺して回ってるのも悪いんでしょうけど……。イントルーダーって、本来は討伐を想定された存在じゃないと思うんですよ」
「なに?」「え?」「はぁっ!?」
目の前の両陛下の声に続いて、離れた場所で俺の話が終わるのを待っているはずのキュールの驚いた声が聞こえる。
リーチェが声を拾って共有してるんだろうけど、普通に会話に参加すればいいのにな?
「俺達は成り行き上イントルーダーを殺して回りましたけど、本来イントルーダーって脅威じゃなくて教訓として語られる存在だと思うんです。イントルーダーを倒す為に頑張ろうじゃなくて、イントルーダーが出ないように気をつけようって扱う存在だと思うんですよねー」
せっかくなのでこの機会に、両国のトップと家族のみんなに俺の考えを話しておくことにする。
イントルーダーはボスキャラじゃなくて、バランサーとかストッパーとかキーパーとか、早い話がこの世界を保つための要素の1つだと思ってるわけだ。
この世界では異界から流入する魔力で生活の糧を得ているわけせいか、世界中の色々な場所で魔力バランスを保つ措置が取られている。
つまり世界に漂う魔力の量は多すぎても少なすぎても駄目なのだ。
魔物を狩りすぎると現れる、魔物狩りへの最終防衛システムイントルーダー。
殺しまくってる俺達が言うのもなんだけど、この世界の常識を超越した存在であり、隔絶した能力を持つ神の如き存在だ。
イントルーダーを滅ぼすとアウターで魔物に襲われなくなり、そのアウターでの活動を実質禁じられてしまう。
つまりイントルーダーを倒した先には何もなくて、イントルーダーは越えるべき壁ではなくて行き着いた先の行き止まり、この世界の到達点の1つなのだ。
「俺達は家族を愛することが最優先で魔物狩りにはあまり興味ないんですけど、俺達と同じ能力を持った魔物狩りが際限無く魔物を狩り続けた場合、この世界の魔力バランスが狂ってしまうと思うんですよ」
だから力をつけすぎた魔物狩りを排除する為に常軌を逸した魔物が召喚されて、それすら倒す魔物狩りには魔物狩りそのものを禁じてしまう。
そうすることによって魔力バランスが崩壊する事を防いでいるのではないかと思うんだよねー。
「イントルーダーはこの世界の枠組みそのものです。イントルーダーを滅ぼす力を求めるということは、この世界を生み出した変世の3女神の加護を捨てる覚悟が必要だと思います」
「世界を逸脱する行為……ということですか……」
「誰もがイントルーダーを滅ぼせるほどの力を求めた先には、人同士の争いが待っていると俺は思ってるんですよ。イントルーダーという脅威、イントルーダーという教訓が人同士の争いを抑制している部分もあるのかなって」
「……いや、全然抑制出来てなくない?」
イントルーダーという人類共通の脅威が、戦争の抑止力に繋がっている。
そう語った俺の言葉を真っ向から否定したのは、建国の英雄譚で各種族の悪意に翻弄されたリーチェだった。
「アルフェッカは崩壊しちゃったし、組織レガリアは暗躍してたし、ドワーフもエルフも魔人族も竜人族も、それぞれバラバラに暮らしてたじゃないか。これじゃ人同士の争い、全然抑制出来てないでしょ」
「逆に考えてみてよリーチェ。魔物がいてもそのくらいの争いが起こったんだって。だけどもしも魔物からドロップアイテムが得られなかったら……。そう考えたら恐ろしくならない?」
「ドロップアイテムが得られなかったら、か……。そんなこと考えたことも無いな……。本当に変な事を考える奴だな、貴様は?」
リーチェではなくカレン陛下が俺の言葉にいち早く反応し、仕方ない奴だとばかりに小さく首を振って見せた。
家族しか居ない場所でなら紛争の絶えなかった地球の話も出来るんだけど、両陛下の前で地球の話をするわけにはいかないだろう。
ここは適当に誤魔化しておこう。
「イントルーダーを滅ぼすと魔物に襲われなくなりますからね。いやでも考えちゃいましたよ、魔物からのドロップアイテムが得られない世界って奴を」
「……なるほど。確かにそれは女神の祝福から逸脱した世界と言えるのかもしれんな」
「イントルーダーを滅ぼしまくってる俺達が言っても説得力が感じられないかもしれませんが……。イントルーダーの討伐は安易に目指しちゃいけない領域なのだとお考えください」
「そこは頂点ではなく行き止まり、ですか……。考えさせられますね……」
さっ、そろそろ話は終わりでいいですかね?
早くみんなの行き止まりの到達点までしつこく往復しなきゃいけないんで?
「まとめますね。イントルーダーの撃破には重銀以上の武器が必須で、魔導師、修道士、司祭はメンバー全員に浸透していないといけません。全状態異常耐性大効果スキルの付与された装備品も全員に必要です。メンバー1人1人が最低でも30以上の職業を浸透させていて、パーティ全体で180~200職くらいの浸透が終わっていて初めて挑戦権が得られます」
「……気が遠くなりますね」
「その水準の魔物を1撃で滅ぼした仕合わせの暴君メンバーは狂っているな……?」
「イントルーダーを討伐した先に得られるものはあまり無くて、討伐に成功した者はこの世の理から逸脱してしまいます。イントルーダーとは討伐を目指すものでなく、遭遇を回避する事を想定した存在であると俺は考えています。以上です」
俺の意見を聞いた両陛下は、俺の考えを否定こそしなかったものの、簡単には受け入れられないとでもいうかのように悩んでいる様子だ。
実際に目の前にイントルーダーを討伐したパーティが居るわけだしな。そのパーティはもう国家という枠組みでは縛れないと言われて、簡単に飲み込むわけにもいかないんだろう。
「……今はこれ以上考えても仕方無いか」
「そう、ですね……。今はイントルーダーの存在を認識できただけでも良しとしましょう」
しかし、さすがは実力で国のトップまで上り詰めた両陛下だけあって、思考の切り替えは見事だった。
今は答えが出せない案件だと判断したらしく、思考と検証を一旦棚上げしたようだ。
真剣な表情の後ろで、これでようやくバカンスの開始だぁい! と浮かれ気味の俺に、カレン陛下が溜め息交じりで問いかけてくる。
「……最後に1つ聞かせてくれ。貴様らが初めてイントルーダーを討伐した時、イントルーダーという存在を知った上で打倒に挑んだのか?」
「いいえ。俺達が初めてイントルーダーに遭遇したのは竜王のカタコンベででしたが、その時の遭遇は突発的で想定外のものでしたよ」
「……であるなら! どうやってこんな存在を打倒したというのだっ!?」
思わずといった様子で怒声を上げるカレン陛下。
おいお陛下。これじゃ質問が2つになってますよ?
本当に聞きたかったのはこっちで、最初の質問は確認ってことなのか?
「アウターエフェクトが最強の魔物とされていたこの世界で、アウターエフェクトを歯牙にもかけないこんな存在を滅するだけの力を貴様はどうやって手に入れ……いや! どうやってそんな力を目指そうと思ったのだ!?」
「簡単なことです。愛する家族の幸せを願うなら、まだ見ぬイントルーダーくらい蹴散らせなきゃいけなかっただけですよ」
誰もが諦めていたニーナの呪いを解く為に。
職業補正の恩恵があまり得られない対人戦で、当時世界最強の剣士だったラトリアを止める為に。
建国の英雄譚に縛られ、かつて邪神に囚われていたリーチェとリュートを解放してやる為に。
この世界の常識に囚われている余裕はなかったんですよ、俺にはね?
話を終えた俺達はマーガレット陛下に別れを告げ、カレン陛下と共に城の出口を目指して歩いている。
カレン陛下は冒険者を浸透させているそうなので、このまま双竜の顎に参加したまま俺達をヴェルモート帝国の首都である帝都フラグニークまで送ってくれる事になった。
その陛下はキュールと共にイントルーダーの話で盛り上がっており、フラッタはラトリアとエマがベッタリなので一緒に歩けない。
なのでニーナとリーチェの2人と手を繋いで、日が落ちて人気の感じられなくなった城内を進む。
「私の呪いを解く為に、この世界から逸脱させちゃってごめんなのっ。だからダンのことは、私が責任を持って捕まえていてあげるからねっ」
「ぼくを偽りの英雄譚から解放する為に、君がどれほどの想いで力を求めたのかずっと見ていたよ。そのおかげで孤独から解放されたぼくが、君の事を絶対に孤独になんてさせないんだからねっ」
両手から伝わる2人の熱と、両側から向けられる2人の笑顔。
これが世界から失われるところだったなんて、今思ってもゾッとするよ。
「こうやって2人と一緒に過ごせているだけで全てが報われてるよ。責任も負い目も感じなくていいから、2人ともずっと俺の傍に居て欲しいな」
「あったりまえなのっ。ぜーったいに逃がさないんだからねっ」
「ダンこそ責任も負い目も感じていいから、ぼく達の傍から居なくなっちゃダメなんだよっ?」
返事の代わりに2人と軽く唇を重ねて、俺は2人と生涯共に過ごすことを改めて誓ったのだった。
「これより私自ら諸君を帝都に招待しよう。『虚ろな経路。点と線。見えざる流れ。空と実。求めし彼方へ繋いで到れ。ポータル』」
城の外に出ると、直ぐにカレン陛下がポータルを発動してくれる。
ここで迷っても仕方が無いし、なにより色々我慢の限界だったので、みんな我先にとポータルに飛び込んだ。
転移先にはスペルディア王城よりもふたまわりくらい小さな城が聳え立っていた。
これがカレン陛下の居城ってことか。
「ようこそヴェルモート帝国へ! ようこそ帝都フラグニークへ! ヴェルモート帝国皇帝カレン・ラインフェルドが、貴様らの帝国来訪を心から歓迎するぞっ!」
「皇帝陛下自らの案内と歓迎、誠に痛み入りますよ。しかしせっかくの帝都の景観もこの時間帯では楽しめませんね?」
まだ就寝には早いだろうけれど、既に日が落ちてから大分時間が経っている。
電気による照明などないこの世界では、月明かりに薄く浮かび上がる建物のシルエットくらいしか楽しむ事ができそうにない。
帝都の景色を楽しめなくて少し残念に思っていると、城の方から大勢の人がこちらに駆け寄ってきているのが分かった。
陛下の帰還に気付いた迎えの人たちだろう。
「貴様らに疲弊した様子はないが、部屋を用意させるからまずはゆっくり休んでくれ。人払いもしておくから、気兼ねなく騒いでもらって構わない」
「……お気遣い感謝致しますけど、正面からそういう事を言われると気まずいんですよ?」
「明日の朝、軽く帝都を見て回った後に湾岸都市タイダリスに案内しよう。タイダリスから見る海の広さは圧巻だぞ。期待しているがいい」
俺の抗議を真っ向から無視したカレン陛下は、この場に駆けつけた兵士さんたちにひと言ふた言指示を出した後、振り返らずに城に戻っていった。
置き去りにされた俺達は、案内の兵士さんに連れられて陛下が消えた方向とは別の方向に向かって案内される。
何処に案内されるのか微妙に不安なんだけど、キュールがなにも言わないので問題無いのだろう。
数分歩いた後に、城の敷地内にありながらも建物的には繋がっていない、所謂離れのような場所に案内された。
「こちらがゲストハウスとなります。明日の朝までこちらでお休みください」
案内されたゲストハウスは、マグエルの自宅の別荘よりもひと回り大きい印象だ。
石造りの頑丈そうな見た目をしていて、装飾よりも実用性を重視して作られている印象だな。
「入り口は2重になっておりまして、内側の扉にお客様のステータスプレートを登録することで我々も無断で入室できなくなります。安全性は向上しますが我々も近づけなくなりますので、御用の際にはご不便をおかけすることをご理解ください」
「へ~。お客様用のステータスプレート認証が用意されているんですねっ?」
「お客様の応対をする為に城の者を常駐させるのですが、お客様のステータスプレートを登録する場合はその者たちも撤収させます。お客様への応対に支障が出る代わりに、プライベート性が向上するということですね」
「なるほど。お客様の都合でサービスを選べるわけですかぁ~」
脳筋貴族令嬢のラトリアが、ゲストハウスのシステムに興味を引かれたようだ。
シルヴァを救出した際に竜爵家邸で竜人族を受け入れてたからな。お客さん用の離れが欲しいのかもしれない。
「今回は人払いを命じられておりますので、どちらにしても皆様の応対は出来かねます。なのでなるべくステータスプレートの登録を行なって、家族だけの空間をお楽しみいただく方が宜しいかと思いますよ。それでは失礼致します」
最低限の説明を済ませた案内の人は、足早に城に戻っていった。
早速チャールとシーズのステータスプレートを登録して、ゲストハウス内を夫婦水入らずのプライベート空間に仕立て上げる。
内装の確認をしながら全力で察知スキルを展開し、中に誰も潜んでいないかを入念にチェックしてからみんなをベッドに引きずり込む。
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