異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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686 生き様

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「す、すっげぇ……! ここって本来は王族に許可された限られた人間しか入れない場所なんだよなっ……!?」


 始まりの黒に足を踏み入れた途端に、興奮した様子で、だけど周りに配慮した小さい声でシーズが叫ぶ。

 興奮してるんだから素直に叫べばいいのに、シーズらしいなぁ。


「そうだよー。俺達もまだ2回目だし、入り口以降がどうなってるのかワクワクしてるよ。『闇に浸りて魔を滲み、昏きを照らして霞を晴らせ。トーチ』。『異界の領域。歪みの隧道。怪奇の楼閣。透き見て手繰りて知悉せよ。サーチ』。『不意の凶刃。不覚の死槍。弑逆阻みし神来の警鐘。冷厳なる終焉の刃を逸らして逃せ。スキャン』」


 同時詠唱スキルはまだ知られていないはずなので、ちょっと面倒だけど1つ1つ丁寧に詠唱して探索魔法を配る。

 ちなみにカレン陛下とゴブトゴさんは一時的に双竜の顎に参加してもらっているので、両者にも探索魔法が及んだはずだ。


「ほぉ~! 本当にクリアグラスは必要なさそうだなっ。準備が無駄になって少々微妙な気分だが、こちらの方が快適なのだから問題ないっ」


 どうやらカレン陛下は探索魔法士に会ったことがなかったようだ。


 スペルド王国ですら各種魔法士は稀少だったからなぁ。王国よりも更に転職魔法陣の少ない帝国では探索魔法士は育たないか。

 そう言えばマインドディプリートの数も不足してたんだっけ。帝国では支配者層すら魔法使いにもなれなかったんだろうか?


「では早速出発してくれるか。私もそうなのだが、参加者には非戦闘員の方もおられるからな。あまり高速で移動することもできん」

「ん。了解」


 ゴブトゴさんはやっぱり戦えないらしい。

 戦えない人がいる中、走って移動するのも難しい。かと言って後からアナザーポータルで迎えに行くのは嫌だって断られてるからな。ゆっくり行くかぁ。


「それじゃラトリア。リーチェ。ヴァルゴ。露払い宜しくねー」

「お任せくださいっ。私1人で全て蹴散らすつもりで参りますよーっ」

「双剣使いのラトリアが先頭で、その後ろに槍使いヴァルゴ、最後尾にリーチェがついてね。後方の事は気にしなくていいから、3人は前方を最大限警戒して欲しい」


 正直張り切り気味のラトリア1人で踏破できるとは思うけど、ここもまた変わった成り立ちのアウターみたいだからな。警戒しないと。

 と言ってもノーリッテが最深部まで行ってる時点で、あんまり心配は無いのかもしれないけど。


 石造りの神殿のような構造をしている始まりの黒を攻略する為、ラトリアを先頭に歩き出した。


「なんと美しい……。あれが噂に名高い双竜姫の剣舞か……!」


 先頭をいくラトリアの剣を見て、カルナスが感嘆したように呟きを漏らす。


 下手したら1人で踏破出来てしまいそうなラトリアにとって、アウター入り口付近にはなんの危険も無い、言ってしまえば退屈なエリアだ。

 なのでラトリアはあえて集中力を研ぎ澄ませることで、戦闘の経験ではなく剣の修練を重ねる為に魔物を切り裂くことにしたようだ。


 流石に今ではフラッタに追い抜かれてしまった印象だけれど、守人たちが唯一認める王国の剣士としての技術はやはり洗練されきっていて、ラトリア本人の美貌と相まって見る者を虜にしてしまう。

 それはヴェルモート帝国皇帝のカレン陛下でも例外ではないようだ。


「……美しいな。私も剣を扱うのだが、彼女の剣の美しさは恐ろしく感じるほどだ……」

「俺とフラッタの剣の師匠ですからね。王国最強の竜爵家の名は伊達じゃないですよ。未だに腕を磨き続けてますし、その力を求め続ける姿勢こそが彼女の剣の美しさの本質なんだと思いますよ」

「本人の生き様が剣に宿るということか……。考えさせられる話だ。だが貴様が彼女を語るとノロケにしか聞こえんな?」

「流石に皇帝陛下にノロケ話をするほど図太くないつもりですけど、あんな魅力的な妻が居たら自慢したくなっても仕方ないと思いません?」

「くくっ。確かに私でも自慢しそうだ。というか師事したいくらいだよ」


 元々世界最強の剣士だったラトリアが職業浸透も進めた結果、1日中最高のパフォーマンスを発揮し続けても息1つ乱さない無双剣士が誕生してしまった模様。

 大方の予想通りラトリア1人で全ての魔物を斬り殺し、本日の野営地となる広い通路に到着した。


 小部屋のような場所の方が野営場所には向いていると思うんだけど、そういう場所は退路が無いとも言える訳で、俺達を信用していない皆様からノーを突きつけられたのだった。

 まぁサンクチュアリを撒けば小部屋でも通路でも一緒だけどねーっと。


 サンクチュアリを撒き終わると、エマがゴブトゴさんの送迎をしてくれる。

 ちなみに送迎を希望しているっぽい人はチラホラ居るけど、実際に俺達に接触してきた人は1人も居なかった。


「それでは行って参ります。すぐ戻りますね」

「お手数をかけるが宜しく頼むエマ殿。迎えは日の出の時間にお願いしたい」

「ゴブトゴさんっていつ寝るつもりなのよ? 無理しすぎないようにね? あとエマ。帰って来る時にちょっとおつかいを頼みたいんだけど……」


 ゴブトゴさんの勤務体制ってブラックってレベルじゃない気がするんだけど、自主的にやっている事だけに下手に口を出すのもなぁ。

 って、ゴブトゴさんよりもこの人の方が問題なんだよ。


「カレン陛下は帰らなくていいんです? 皇帝陛下が何日も国を空けて大丈夫なんですか?」

「今回の件は初めから数日掛かる見込みだったからな。それを見越して予定を組んでいるに決まっているだろう。というかアナザーポータルでの送迎など想定していなかったのだ。知っていたら頼んでいたぞ?」

「俺達も今日初めて知りましたからね。そんなジトーッと睨まれても知りませんってば」


 別に今からでも帰ればいいのに、あまり外出、外泊を許されない立場の為に、許されるなら帰りたくないらしい。

 じゃあ送迎を事前に知ってても絶対頼まなかったでしょこの人……。


「ラトリアとヴァルゴ、リーチェは休んでてね。他のメンバーを半分にして見張りに立とう。チャールとシーズ、そしてアウラとフラッタは見張りに立たなくていいよ。本来なら見張りなんて要らないんだから」


 魔物が忌避するサンクチュアリも張ってあるし、察知スキルがある俺達には夜襲を受ける心配も無い。

 だけど同行している皆さんが安心できないと言うことで、通路の両端に意味も無い見張りを2人ずつ立てる事にしたのだ。


 持久力補正のおかげで睡眠時間が短くても負担はないけど、俺達の家族だけちょっと負担が大きめだとは感じるね。

 なのでせめて15歳未満のメンバーだけはゆっくり眠ってもらうことにする。


「私も見張りを免除だと!? 侮るなっ! 見張りくらいこなしてみせるわっ!」

「見張りを免除されて怒らないでくださいよ! 隣国の皇帝陛下に見張りなんてさせられる訳ないでしょ!」


 しかし思った以上に面倒臭いカレン陛下が、自分も見張りに立たせろとごねてきた。

 ただでさえ我が家の見張り免除組が申し訳無さそうにしてるのに、これ以上話を厄介にするんじゃありませんっ!


 最終的に面倒臭くなったので、本人が希望するならとキュールと同じ組に配属してやった。


「う~ん……。寝不足よりも、欲求不満の方が深刻かな……?」

「そうですねー。ご主人様に触れてもらえなくて、シャロも寂しいですぅ……」


 非戦闘員のシャロとキュールは基本的に俺と一緒だ。

 なので結局カレン陛下も俺と同じ組になるので、キュールに押し付けた意味はあまり無かった。


「でも、これはこれで懐かしい感じなんだよね。まだ我が家に俺とニーナ、そしてティムルくらいしか居なかった頃は、アウターの遠征に行くと半月くらいはえっちできなかったからさ」

「……暇さえあれば私たちを可愛がってくださるご主人様にも、そんな時期があったのですね?」

「俺が底無しなのは職業補正のおかげだって言ってるでしょ。まぁそういうわけでさ。初心を思い出すってわけじゃないけど、貴重な時間を過ごしているって気はするんだ」


 魅力的過ぎる奥さんたちを前にするとすぐに押し倒して繋がりたくなってしまうけど、こうして穏やかに同じ時間を過ごすのも凄く大切なことだと思う。


 どうせ始まりの黒を出たら帝国でバカンスの予定で、そこで溜めに溜めた分を一気に発散すればいいだけだ。

 今はある意味チャージ期間と言うことで、えっちな気持ちを高めながらエロいことをせずに過ごしたい。


「それって結局、えっちな事の為にえっちを我慢しているだけでは?」

「そうかもしれないね。けどもう俺って、自分の意思でみんなを我慢するのは無理だと思うからさ……」

「あは。私たちもみんな、我慢出来ないくらいにご主人様の事が大好きですよーっ」


 寄り添うシャロと手を繋ぎ、交替までの短い時間に静かで穏やかな時間を楽しんだ。




「……ダン殿の行動が予測出来ないのは知っていたが、いったいなんなのだそれは?」


 翌朝エマが連れて来たゴブトゴさんが、俺の姿を見るなり頭を抱えてしまった。

 まったく、寝る間も惜しんで仕事なんかしてるから頭を抱えちゃったりするんだよ?


「これはゴブトゴさん専用の移動用ベッドだよ。移動中に少しでも休んでもらおうと思って、見張りの時間に作ったんだ」


 昨日エマに頼んで材料を揃えてもらい、身張りの時間に適当に完成させたブツを見せる。

 俺が昨晩のうちに作ったのは背中に背負って人を運ぶ、言ってしまえば人用の背負子のようなもので、俺が背負ってゴブトゴさんを運搬する為に用意したのだ。


 日中は探索に参加して、日没後は執務に明け暮れるなんて激務過ぎて頭がおかしくなっちゃうってば。

 せめて攻略中に少しでも休んでもらわないと、ゴブトゴさんがぶっ倒れちゃうっての。


「ついでに為政者の方々に行商人の有用性をきちんと広める意図もある。行商人が浸透している俺は、ゴブトゴさんを運搬しながら移動しても汗1つかくことがないからね。いい宣伝になると思うんだ」

「くっ……! 尤もらしい理由までつけおって……! ダン殿に背負われてアウターを進むなど、こっちの身にもなってくれんか……!」

「働きすぎのゴブトゴさんの身になって考えた結果、用意した道具だっての。これでも人を運ぶのには慣れてるから、四の五の言わずにさっさと乗ってくれる?」


 ごねるゴブトゴさんを背中合わせに背負い、始まりの黒の中を運搬する。

 始めこそ嫌がっていたゴブトゴさんだったけど、俺の背中の快適さに次第に篭絡され始めた。


「背負われているというのに気味が悪いほど揺れんな……? これも何らかのスキルなのか?」

「いや、これはスキル効果じゃなくて俺の技術だよ。我が家では奥さんを抱き上げて移動する機会が多くてね。如何に快適に抱っこするかを追及し続けた結果、揺れを極限まで抑えられるようになったんだ」

「いや、そんなに得意げに語られても反応に困るのだが……」


 そんな感じで困惑していたゴブトゴさんも、全く揺れない俺の背中、スレッドドレッド製で座り心地最高の座席部分、全く魔物に襲われる危険性のない退屈な道中というように様々な要因が重なった結果、最終的には普通に眠ったまま運搬されるようになっていった。

 なんだろう。なんか勝った気分だな?


「ゴブトゴの寝顔なんて初めて見ました……。今にして思えばゴブトゴって、本当にスペルディア家の人間に気を許していなかったのですね……」

「執務中に寝られても困りますけど、これからは寝顔を見せてくれるくらいの信頼関係は築いていきたいですね。ゴブトゴに頼りすぎるのも良くありませんが、彼の王国を思う気持ちは本物だと思いますから」


 シャロとマーガレット陛下が、姉妹並んでゴブトゴさんの寝顔を眺めている。

 ここで思い切り揺らしてゴブトゴさんを起こしたらどんな反応をするだろう? 恨まれそうだからやらないけど。


「はははっ! 見てみろダン! 周囲の王族も何人か貴様の真似をして背負子を用意させたようだが、どいつもこいつも揉めているようだぞっ?」

「そりゃそうですよ。俺は行商人の職業スキルのおかげで全く疲労しませんし、愛する妻たちを抱きかかえて培ってきた運搬技術がありますから。一朝一夕に真似できると思われちゃあ困りますって」

「騙されちゃいけませんよ陛下。夫の技術は一朝一夕どころか、一生かけても身につかないレベルですからね? 夫は自己評価が低すぎて困るんです~……」


 いやいやキュール。流石にそれは言い過ぎだって。

 確かに漫然と過ごしていれば身につかない技術かもしれないけれど、五感補正と身体操作性補正をしっかり累積していけば誰でも身に付けられる技術なんだよ?


 ただ、どちらの補正も戦闘職ではあまり得られない補正なんだよな~。

 五感補正と身体操作性補正を得られる職人系の職業だと、今度は逆に敏捷性補正を得られないので、累積した五感と身体制御を活かせずに過ごす羽目になっちゃうし。


 ……こうして考えると、好事家の重要性ってヤバかったんだな。

 2つの職業を同時に浸透できるからって生産職と戦闘職を並行して浸透させた記憶があるし、もしもどちらかに偏った浸透を進めていれば、俺はヴァルハールでラトリアにあっさり切り捨てられていたことだろう。


「ラトリアの剣と同じですよ。俺のこの運搬技術にも俺の生き様が宿ってるってことです」

「……貴様の生き様を否定する気は無いが、人を背負う技術で生き様を語っていいのか? 後々後悔しないか?」


 後悔なんてする訳ないでしょカレン陛下。さっきも言った通り、俺の運搬技術は愛する家族と共に過ごすことで磨かれたものなんですから。

 誇ることはあっても、この技術を嘆くことなんてあるはずないんだよなぁ。


 そんなこんなで全く危険なことも起こらず、攻略4日目の日没前に、とうとう最深部の入り口である魔力壁に到達できたのだった。
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