異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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685 和解

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 以前から予定されていた、イントルーダー体験会。

 その為に始まりの黒の入り口である始黒門に到着した俺達を待っていたのは、スペルディア王族の面々と、ニヤつく馬鹿殿下バルバロイと、カレン陛下の護衛を外されたカルナスという剣士だった。


「どうして貴様がここに居るんだと聞いている。答えよカルナス……!!」


 意外に思うだけの俺とは違って、明確な怒りを見せているカレン陛下。


 以前このカルナスという男は、カレン陛下の意思を無視して俺に攻撃を加えて事があり、その処分として陛下の護衛を外されているのだ。

 その男が自分の知らないところで勝手に行動した挙句、また俺の前に姿を現したんだから、カレン陛下が憤るのも無理はない。


「お久しぶり……というほど時間が経ったわけでもありませんが、またお会いできて光栄です陛下」

「誰が挨拶をしろと言った? 私はお前がここに居る理由を問うているのだ。さっさと答えぬかっ!!」

「おぅおぅ怖いねぇ? 折角の美人が台無しですよ? カレン陛下」


 緊迫感の漂うカルナスとカレン陛下の間に、ヘラヘラとニヤつきながら割って入る馬鹿殿下。

 しかしカレン陛下は馬鹿殿下を一瞥だけして、カルナスのほうに視線を戻した。部外者は黙ってろってことか。


「カルナスよ。謹慎を申し出たのは貴様だったはずだが? 腕を磨きなおしたいとアウターに篭りたいと直談判して来たのは全て虚言だったのか?」

「全て私の本心です。そして恥を忍んでこの場に居るのも、我が剣を高める為に必要なことだと思ったからです」

「必要であるならなぜ私に報告しない? こうして私もこの場に同席しているのだ。貴様が必要だと判断したなら私に要望するのが筋では無いのか?」


 カルナスの答えに満足出来ない様子のカレン陛下は、彼への詰問を強めていく。

 先ほどのような怒気を孕んだ態度ではなく、冷静に問いかけているよう見える。


「それを私にも黙ってスペルディア家の人間と一緒に居るなど、帝国から離反したと見られてもおかしくないぞ?」

「……っ。そ、それは違っ……!」

「横から失礼するよカレン陛下」


 陛下の言葉を焦って焦って否定しようとするカルナス。

 しかしそんな彼の言葉を遮ったのは、先ほどから蚊帳の外に置かれているバルバロイ殿下だった。


「自分に要望を出せって言ってるけどさぁ。本当にカレン陛下はカルナスにこの場への同席を許したかな?」

「……部外者が口を挟むな。これはヴェルモート帝国の……」

「彼を連れて来たのは俺だから、残念だけど俺は当事者なんだよねぇ。仕合わせの暴君に切りかかった処分として護衛を外した彼を、仕合わせの暴君が居るこの場に同席させたのかって聞いてんだよ、カレン・ラインフェルド皇帝陛下?」

「…………」


 馬鹿殿下の問い掛けには答えず、ただただ不愉快そうに顔を顰めるカレン陛下。

 1国の皇帝相手に、1王子風情が取っていい態度を超えているもんな。失礼ってレベルじゃない。


「……もう1度だけ問おうカルナス。私に何か言う事は無いか?」

「…………っ」

「……そうか。なら好きにするがいい」


 苦悶の表情を浮かべながらも黙秘を貫くカルナスに、興味を無くしたように背を向けるカレン陛下。

 そのままなんの表情も浮かべずに俺の隣りに戻ってきた。


「おーっとぉ? カレン陛下も篭絡済みかいっ!? 相変わらず手が早いねぇ!?」

「カレン陛下に袖にされたからって妬まないでくださいよ。モテない男の嫉妬は見苦しいですよ?」

「……はぁ!?」


 以前と比べて随分とチンピラ感が増したなこの人。

 まぁでもアンタのコンプレックスは分かってるからね。絡んでくるなら遠慮なく突かせて貰うよ。


 男として劣っていると言われた馬鹿殿下は、案の定表情を歪ませ、その顔にはっきりと怒りを浮かび上がらせる。


「……ちょっと腕が立つだけの魔物狩り風情が、随分と調子に乗っちゃったみたいだねぇ?」

「魔物狩り風情に歯が立たなくて、王族なのに下手に出なきゃいけなくて大変ですね。でもガキじゃないんだから八つ当たりは止めてもらっていいです?」

「あぁっ!? 下手に出てりゃあ調子に乗ってんじゃねぇぞテメェ!?」

「自分から絡んできたくせに喚き散らすの止めてくれません? 周り見てみてくださいよ。今のアンタ、周りにドン引きされてますよ?」

「……っ!? ちぃっ!」


 今にも飛び掛ってきそうだったロイ殿下は、周囲の人間の視線に気付いていそいそと引き下がっていく。

 この人って手段を選ばないくせに無駄にプライドが高いから、周囲の目があるところではいい子ちゃんでいようとするところがあるんだよな。


「積もる話も済んだようですな。これ以上は全ての予定を消化してからプライベートで続けていただきたい」


 カレン陛下から俺に突っかかってくるまでのロイ殿下を華麗に無視したゴブトゴさんが、ロイ殿下が引っ込んだタイミングで進行の音頭を取り始める。

 以前だったら率先して止めに来てたと思うんだけど、いつの間にやら勝手にしろっていうスタンスに切り換えたっぽいね。


「それではこれより、仕合わせの暴君のご厚意により、始まりの黒に出現するというイントルーダー、アポリトボルボロスを見に行く事になります」


 イントルーダー体験会とか言っちゃったけど、ゴブトゴさんの口調が完全にツアーガイドで笑うな。

 参加者は王族とその護衛で、最終的に50人弱くらいになったようだ。ゴブトゴさんには護衛が付いていない模様。


「道中の魔物は全て仕合わせの暴君が排除してくれることになっておりますが、勝手な行動を取った者の安全は保証しなくていいと告げてあります。命が惜しければ努々勝手な行動を取らないように注意していただきたい」

「……っ」


 参加予定者の何人かが息を飲んだのが聞こえてくる。


 ゴブトゴさんが今言ったようなことを告げられた記憶はないけど、きっと俺が忘れているだけで告げられたに違いない。

 だから否定するのは止めておこう、うん。


「最深部の位置は分かっておりませんが、一応本日から5日間の行程を予定しております。私は執務もありますので毎日アナザーポータルで送ってもらう予定ですが、同じような対応を望む者はご自身で交渉願います」


 どうやら足を止めて休憩する時間を決めてあるらしく、その間にゴブトゴさんは城に戻ってきて執務を行なう予定らしい。

 ブラック労働過ぎるよゴブトゴさん……。せめて探索中は寝れるように工夫するとしよう。


 全ての説明を終えたゴブトゴさんは、そういうことだから宜しく頼むのひと言で俺に送迎を了承させてしまった。

 このくらいの気安さの方がありがたいっちゃありがたいけど、ゴブトゴさんも随分印象が変わったよなぁ。


「カレン陛下。先ほどは愚兄が大変失礼いたしました。兄に代わりましてお詫び申し上げます」

「気にしないでくれマーガレット王よ。個人との体験を家全体、国全体に拡大して考えるつもりは無いさ」


 出発前にマーガレット陛下がカレン陛下に謝罪に来たけど、カレン陛下も気にするなと水に流してくれたようだ。

 まぁロイ殿下本人に対しての感情まで水に流した感じではないけど。


「それじゃ基本的に、武人として名が知れ渡っているラトリアと、俺の護衛であるヴァルゴ、そして建国の英雄リーチェの3人で攻略を進めていこうか。キュールとチャールとシーズ、それにムーリは俺の傍を離れないこと。カレン陛下も離れないでください」

「済まんな。面倒をかけるが宜しく頼む。貴様らの近くにいれば虫除けにもなろう」


 辟易した様子で吐き捨てるカレン陛下。

 多分ゴブトゴさんも近くに居ると思うから、虫除け効果はバッチリだと思うよ。


「最深部に到達したら全員でイントルーダーが出現するまで魔物狩りね。で、アポリトボルボロスが出たら少しの間ティムルが竜鱗甲光で攻撃を防いで欲しいんだ。一応体験会って体だからさ」

「竜鱗甲光で全体攻撃魔法を全部防ぎきれるかしらぁ……? ま、全力は尽くすけどねぇ」

「熱視と合わせれば防ぎきれると思うけど、万が一の場合は断空で応戦するよ。犠牲者を出すわけにはいかないから」


 上級攻撃魔法が魔法障壁で防げるのは竜王戦で確認済みだからな。

 恐らく範囲攻撃も魔法障壁で無力化できるはずなんだよ。試してみる機会が無かったけど。


「アポリトボルボロスの見学が終わったら、トドメはフラッタにお願いするよ」

「む? 別に構わぬが妾が1人で屠るのか?」

「うん。新たな竜王の初陣に、イントルーダーを単独撃破してもらおうと思ってね。出来るかな、グラン・フラッタ?」

「そういうことなら任せるが良いのじゃ! アポリトボルボロスなんぞ、いっそ1撃で葬ってくれるのじゃーっ!」


 いやいや、そこまでしろとは言ってないからね?

 物理耐性持ちで流動体のアポリトボルボロスを1撃で仕留めるとか、竜王の初陣としてこの上ないほどの逸話になりそうではあるけど。


「出発前にちょっといいかしら?」

「へ?」


 ウキウキフラッタの姿に和んでいると、後ろから遠慮がちに声をかけられた。

 誰かと思って振り向くと、そこにはマーガレット新王陛下が少し気まずそうな表情をして立っていた。


「何かご用でしょうか、マーガレット陛下」

「……この度はこのような会を企画してもらって感謝しているわ。今回の探索が済めば、この世界に潜む脅威の基準が根底から覆されることでしょう」

「そうですね。王国に少しでも貢献できたのなら良かったです」

「……あ、と。そうじゃなくて……。こんなことを言いにきたわけじゃ……」


 あれ? なんか間違えたか?

 なんかマーガレット陛下が取り乱して、しどろもどろになっちゃったけど……。


「マギーしっかり! 私がついていますからねっ」

「ここで吐き出しちゃったほうが君も楽になれるよ。頑張ってマギーっ」

「う、うんっ。分かってる……! ありがとう姉様、リーチェ……!」


 しどろもどろになったマーガレット陛下を、シャロとリーチェが激励し、決意を新たに俺の前に立つマーガレット陛下。

 なんだろうこれ。校舎裏での告白シーンじゃないんだからさぁ。なにを言われるのかは予想がつくけど……。


「……ラズ姉様とリーチェに聞きました。即位式を盛り上げてくださったのは貴方なんですってね」

「いや? 盛り上げてくれたのは王国民全てですよ。俺はお祝いを企画したに過ぎません」

「……そうですね。以前から貴方はそう答える人だったのでしょう」

「え? そうもなにも……」

「……ダンさん。以前貴方に働いた無礼、マーガレット個人として心よりお詫び申し上げます。本当に申し訳ありませんでした」


 マーガレット陛下の小さな呟きに答えようとしたけれど、それより早く陛下の方が謝罪の言葉を口にする。

 ですよねー。結婚したばかりのマーガレット陛下から愛の告白をされるわけがない。


「明確な敵意を持って攻撃を受けたダンさんのお怒りはご尤もですが、どうかその怒りは私個人に向けてください……! アレは全て私個人が画策したことで……」

「もう済んだことです。水に流しましょう。幸いな事にお互い無事で済んだんですから」


 マーガレット陛下には少し申し訳ないけど、謝罪の言葉なんか聞いてられないよ。当時もそこまで怒ってたわけじゃないしさ。

 俺の方が一方的に嫌われてたってだけの話なんだから、陛下さえ水に流してくれるならそれで話は終わりなんだよ。


「話は以上ですか? それではそろそろ出発したいんですが」

「えっとあっと……! ラズ姉様とリーチェの事、どうか宜しくお願いします! 私の大切な2人を、どうか誰より幸せにしてあげてください!」


 ……うん。謝罪の言葉なんかより、そっちの方がずっとずっと嬉しいですよマーガレット陛下。

 実の妹と数少ない友人に祝福してもらえないなんて、凄く悲しいことだって思ってたから。


「……ありがとうございますマーガレット陛下。シャーロットともリーチェとも、生涯ずっと幸せに過ごす事をお約束しますよ」

「あ、あとこちらこそありがとうございますっ……! 王国民に即位を祝福してもらえて、私もガルも本当に嬉しかったです!」

「……王国民の祝福を俺に感謝するのは違うと思いますが、今は何も言わずに陛下の感謝を受け取っておきます。マーガレット陛下。俺達も微力ながらお手伝いさせて頂きますので、これからのスペルド王国をどうぞ宜しくお願い申し上げます」


 マーガレット陛下とお互い深く頭を下げ合う。

 彼女とは色々あったけれど、これでようやく本当の意味で和解出来たような気がする。


 元々王国民に慕われていた陛下だ。変な思い込みが無ければ、きっと素晴らしい王様に成長してくださるだろう。


「今後はラズ姉様の夫として、リーチェの夫としてお付き合いしていけたらと思います」

「こちらこそ、妻共々宜しくお願いします」

「尤も、先ほどのロイ兄様の様子を見る限り、城にご招待するのは宜しくなさそうですけど……」

「ですねぇ……。俺達への連絡は、ゴブトゴさんを通してもらえば確実かと」

「素行はともかく、少し前までは頼れる兄だったはずなのですけどね……。ラズ姉様が城を出てから別人のように荒れ果ててしまわれました……。女性への振る舞いを思えば同情の余地もありませんが」


 頼れる兄と言いながらも、コソコソと動き回っているロイ殿下に軽蔑の眼差しを向けるマーガレット陛下。

 お前がシャロを連れていったからだー! とか責められても困るけど、随分とロイ殿下の評価を下方修正したみたいだな?


「ダン殿。そろそろ出発しよう。攻略にも時間が必要なのだから、陛下とのお話は道中ですればよいだろう」

「了解。それでは陛下、失礼します」

「出発前にお時間を取らせました。本日は宜しくお願いします」


 今までの異常なまでの敵意や言動の幼さもすっかりと鳴りを潜め、淑女としての礼節を落ち着きを感じさせる振る舞いのマーガレット陛下。

 マーガレット陛下と和解できたのは良かったんだけど、馬鹿殿下の動きが気になるなぁ。


 しかしこれ以上出発を遅らせても仕方ないので、始まりの黒に足を踏み入れる。

 さぁて。イントルーダー体験ツアーの始まりだ。始まりの黒の最深部は、一体どんな場所なんだろうね?
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