異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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「世界樹が……! エルフたちの信仰の象徴が人の手で作られたマジックアイテムだって言うの!?」


 リーチェが悲痛さすら感じる叫び声をあげる。

 自分が信じてきた神様が実は人の手によって作られたものだと聞かされたのだから、取り乱すのも無理は無い。


 無理はないけど、この世界の真実を追う度に、あらゆる事象の殆どが人の手で行なわれている事を考えると、申し訳ないけど俺には否定する根拠が見つけられないんだよ。


「整合の魔器は余剰分の魔力を木々に変換するレリックアイテムだったでしょ? それを考えると、宿り木の根から流れ込む余剰魔力を受け止めて、世界樹自身の成育と迷いの森の拡張に回していたんじゃないかなっと思うんだ」

「くっ……! 確かにそれはそうだけど……でもっ……!」


 恐らくリーチェ自身も、俺の説に説得力を感じてしまっているのだろう。

 けれど471年間信じてきた信仰心が、リーチェの理解を妨げている。飲み込むにはもう少し時間が必要かな。


 しかしこうして考えると、エルフってなんなんだ?

 職業の祝福を齎したトライラム様だけでも特別感があるのに、魔力枯渇を起こさずに魔法使いになれるアドバンテージ、レリックアイテムだと思われる世界樹を敬う信仰。


 人類の歴史なんかじゃなく、もっと深い部分……。いわゆるこの世界の根幹って奴に近すぎないか?


 そう言えばかつてのエルフ族は、自分たちのことを『神に選ばれた種族』だと認識し、他種族を明確に見下していたと聞いている。

 神に選ばれた? エルフの言う神ってなんだ? 選ばれたってなにを指しているんだ?


 以前から何度も思っていたことだけど、強力な種族特性の中でもエルフの精霊魔法は特に強力過ぎる気はしていた。

 他の種族は自身の体に魔力を作用させて身体能力を強化したり、特殊な能力を得たりしているのに、精霊魔法は大気中の魔力に直接作用する能力なんだよな。

 これだけ明らかに毛色が違いすぎるだろう。


 しかも肉体強化が出来ないかと言えばそんなことはなく、巫術士になって精霊憑依を習得すれば、オーラやダークブリンガーに近い身体強化を得られるわけだ。いくらなんでも強すぎる。


「……落ち着いてリーチェ。まずは落ち着いて、そしてこっちにおいで」

「えっ……?」


 混乱しきった様子のリーチェに優しく呼びかけると、子供が親に縋るような不安げな表情で俺を見詰めるリーチェ。


 エルフがどうとか、世界樹がどうとか今はどうでもいい。

 今大切なのは、俺の大切な奥さんの心が不安でいっぱいになっているってことだけだ!


 俺にしがみ付いたままのシーズを抱っこしてリーチェに歩み寄り、シーズを抱っこしたままでリーチェを抱き締める。

 ちょっとシュールな絵面になっちゃうけど、シーズを振り払うわけにもいかないから仕方ない。


「落ち着いてリーチェ。今まで信じてきたことやエルフの教えを否定する必要は無いよ。まずは落ち着いて冷静になろう?」

「お、落ち着けって言われてもぉ……。今までずーっと常識だと思っていたことが実は違っていたなんて、そんな可能性を示されちゃったら落ち着いてられないよぉ……」

「まだ俺の言っている事が正しいと決まったわけじゃないよ? それに仮に正しくったって、リーチェが常識だと思って生きてきたことを否定する必要なんて何処にも無いからね」


 抱きしめてあげたリーチェは、泣いたり取り乱したりはしていないものの、未だ戸惑った様子で俺にしがみ付いてくる。

 そんなリーチェの頭とシーズのお尻をよしよしなでなでしながら、リーチェが落ち着くのをゆっくりと待つ事にする。


 しかし興奮していたのはリーチェだけではなかったようだ。

 リーチェが多少落ち着いたのを見て、興奮気味に話しかけてきたのはキュールだった。


「た、正しいと決まったわけじゃないって……。だけど考えれば考えるほど辻褄が合うじゃないか……! 人工アウターを維持する為に魔力干渉を防ぐ植物の壁なんて突拍子もない話のはずなのに、整合の魔器を知っていれば全てが繋がってくるじゃないかぁ……!」

「もう確かめる術もないけどね? ご覧の通り世界樹も宿り木の根も消滅した後だし」

「……くっ! それは惜しいけど仕方ないねぇ……。世界樹が健在であるということはダンさん達の敗北を意味するのだから」


 やれやれと少しだけ残念そうに首を振るキュール。

 興奮はしていても、ノーリッテに負けておいて欲しかったー、なんて言い出したりはしないか。


「魔力で成長する植物の祭壇か。実に合理的だよ。異界からの魔力流入のおかげで魔力は尽きることが無いし、魔力で成長する木々が枯れる心配も無いからね。聖域の樹海のように、魔力を吸えば吸うほど巨大な森になったことだろうし」

「今にして思えばって話だけど、世界樹ってデカすぎたんだよな。聖域の樹海の木々もでかかった。ステイルークの南西の森は普通の森だったってのにさぁ」


 いくら根っこから魔力を吸うにしても、地面に根ざした普通の木は常識的なサイズをしていたように思う。

 けれど整合の魔器で生み出された聖域の樹海や、恐らく世界樹に流れ込んだ魔力から作られた世界樹なんかはスケールが違いすぎる。まるで山みたいだからな。


 印象を根拠にするのは危険かもしれないけれど、世界樹や聖域の樹海の木々は物理法則を超えた巨大さだったと言ってもいい気がするんだよ。


「エルフ族の信仰を否定する気は無いけど、等価の天秤で植物の成長を促進させれば、この世界の魔力干渉から異界の扉を保護することは出来るんじゃないかな?」

「むしろエルフ族はもっと誇っていいんじゃないかなぁっ!? 自分たちが信仰を寄せていた存在が、異界とこの世界を繋ぐ架け橋のような役割をしていたのだからっ!」

「信仰ってそんな単純なものじゃないでしょ。自分が信じてきたものが信じてきた内容と違っていたとなれば、それが良かろうが悪かろうが混乱しちゃうのも無理ないでしょ」


 トライラム教会だって、トライラム様エルフ説を受け入れるのは大変だったんだからねー?

 信仰って自分の最も大切な部分であるとも言えるからさ。そこが間違っていたとなると、自分自身を否定されたような気分になっちゃってもおかしくないんだよ?


「なんにしても、これでエルフェリアにアウターを生み出す目処は立ったんじゃないかな?」


 リーチェとシーズのお尻を手の平を大きく使ってゆっくり撫で回しながら、実験結果と検証した情報をまとめる。


「異界の扉を開くまではさっきの要領で、異界から流れ込む魔力を等価の天秤で植物に変換して異界の扉を保護、そしてそのまま招きの窓と等価の天秤を木に取り込んでしまえば完成だと思う。反対意見が無いなら今日中にアウターを発生させようと思ってるけど、異論はあるかな?」

「う~ん……私としては一刻も早くアウターが生まれる瞬間をこの眼で見たいんだけど、興奮しすぎて自分が冷静だって自信が持てないな……。他のみんなはどう思ってるのかな?」


 一刻も早く実験を再開したいと顔に書いてあるキュールだけど、必死に自制して冷静な判断を心がけているようだ。

 キュールに問いかけられたみんなも、う~んと首を捻りながらも全体的に肯定的な雰囲気かな?


「私はキュールほど興奮してないつもりだけど、特に問題があるとは感じていないわねぇ。アウターの定着に成功すればエルフェリア精霊国も安泰だろうし、個人的には早く試すべきだと思うわねぇ」

「妾もティムルと同感なのじゃ。仮に異界の扉からイントルーダーが現れても蹴散らす自信があるからの。ここは踏み込んで良いと思うのじゃ」

「先ほど旦那様が扉を開いたときにもあまり危機感を感じませんでしたからね。恐らく私たちなら不測の事態にも対応できるはずです。であるなら実験と検証を進めるべきですよ」


 ティムル、フラッタ、ヴァルゴの前向きな言葉に、みんなうんうんと納得してくれているようだ。

 リーチェとシーズも俺にお尻を撫で回されながらも力強く頷いてくれたので、ここは実験を進めるべき場面だろう。


「反対意見もなさそうだし、リーチェとシーズのおかげで魔力も回復できたし、アウターの発生実験を再開しようか」

「了解なのっ。ティムルは熱視でダンと異界の扉を監視、キュールは全体の指揮を執ってねー。アウラとリーチェは精霊魔法を担当するんだから、フラッタとヴァルゴは最大級の警戒をお願いなの」

「うむっ。任せるが良いのじゃ!」

「不測の事態が起こる気配はしませんけどね? 何が起きても対応してみせると約束しましょう」


 ドラゴンイーターと災厄のデーモンスピアを取り出して、不敵に嗤うフラッタとヴァルゴ。

 まったく、なんて可愛いゲートキーパーさんたちなんだ。これから開くのは天国への扉か何かですかね?


「後のメンバーはティムルの背後に集まって欲しいのーっ。何が起こってもティムルがいれば守ってくれるはずだからねーっ」

「竜鱗甲光でみんなを守れって話ね? 了解よニーナちゃんっ」


 ニーナの要請に応えて、喜々とした様子でグランドドラゴンアクスを構えるティムル。

 頼れるお姉さんはみんなに頼られまくって大変だな。本人も嬉しそうにしてるけどさ。


「……ダン。お尻を離してくれる? ぼくにもぼくにしか出来ない役割があるから」


 そんなやる気満々のティムルの姿に、リーチェも触発されてくれたようだ。

 先ほどまでの同様は欠片も残っておらず、強い決意をその翠の瞳に宿している。


 からと言って、解放してあげるとは限らないけどねーさわさわなでなで。


「どうしても離さなきゃダメかなー? リーチェのお尻もシーズのお尻も手放したくないんだけど」

「ごめんねダン。今回はアウラを導かなきゃいけないから、えっちな気分で精霊魔法を使うわけにはいかないんだ。その代わり実験が終わったらお尻と言わずに体中をダンの好きにしていいからさ」

「りょ-かい。えっちなリーチェがえっちよりもアウラのことを優先したいって言うなら協力するよ。勿論終わった後は好きにさせてもらうけどね?」


 1度強く口を吸い合ってから、ゆっくりと体を離す俺とリーチェ。

 リーチェはそのままアウラの隣りに寄り添い、リーチェのお尻を撫でていた手はシーズのお尻で合流して、両手で激しくシーズのお尻を弄っている模様。


「ダンー。準備が良ければ早く始めてくれるー? ダンに好きにして欲しいのはリーチェだけじゃないんだからねーっ?」

「ひと言で俺を悩殺するのは止めてよニーナ。でも、うん。おかげでやる気漲ってきたかなっ」


 ニーナのひと声でやる気が漲った俺は、はやる気持ちをシーズを抱き締めることで紛らわす。

 シーズにも早くキス以上のことをしてあげないといけないから、さっさと終わらせちゃうよーっ。


「発生したアウターの観察もせねばならぬから……。妾たちダンのお嫁さんが交代で監視するとしようかの?」

「何も起きないとは思いますが万全を期してですね。では仕合わせの暴君メンバー1名と他1人の2名ひと組でローテーションを組みましょうか」

「始まりの黒や旧本部施設の調査に行っている間だけはライオネルさんに協力をお願いしよっか。早期に安定してくれれば監視の必要もなくなるかもだけどね」


 フラッタ、ヴァルゴ、リーチェがアウター発生後の話を相談しているけれど、ティムルが気にせずやっちゃってと片目を閉じて合図してくれる。可愛い。

 お姉さんからもニーナからもゴーサインがもらえたし、キュールにいたっては餌を前にした犬みたいな興奮状態だし、さっさと実験を再開しましょうかね。


「シーズ。今回は等価の天秤も使うから、俺の両手が塞がっちゃうんだ。だからシーズの方から思い切り抱き付いてくれると嬉しいな?」

「おうっ、任せとけっ! たとえ死んでも絶対離れねーからなっ!」

「死なれちゃ困るけど、シーズの気持ちはありがたく受け取っておくよ」


 宣言通り、両手両足を使って全力でしがみ付いてくるシーズ。

 そこでようやくシーズのお尻から手を離し、石の台座の上に招きの窓と等価の天秤を並べて手を翳す。


「リーチェ。アウラ。俺の準備は万端だ。後は2人の精霊魔法に合わせるよ。いつでもどうぞ」

「了解。じゃあ早速始めるねっ。アウラもさっきの要領で大丈夫だから、落ち着いてついてきて」

「うん、大丈夫。リーチェママに合わせるよ……」


 アウラとリーチェが集中力を深めると、すぐに俺の周囲の魔力が回転を始める。

 先ほどのように、遠心力を持って台座の周りの魔力を引き離す作戦のようだ。


 五感を研ぎ澄まして、自分の周りの魔力が希薄になったことを感じ取ったら、まずは招きの窓に魔力を通して異界の扉をこじ開ける。


「アクセス……うん。やっぱり2人の協力があればあっさり開いてくれるね」


 先ほどどうやっても開くことが出来なかった異界の扉が、なんの抵抗も無くあっさりと開いてくれる。

 そのまま魔力を制御してゆっくりと異界の扉を広げながら、左手で等価の天秤にも魔力を通す。


 イメージするのは大木……いや、失われた世界樹をイメージすべきだな。

 開かれた異界の門から魔力を吸い上げて成長し、その見返りとして異界の門をこの世界の反発力から守るイメージをしながら等価の天秤に魔力を送る。


 出来れば台座の下から、台座を飲み込むように芽を出して欲しい。

 そうだなぁ……。某天空の城で巨大飛行石を覆っていた植物たちのような……。


 具体的なイメージが組みあがった頃、広がり続ける異界の扉が台座の上の等価の天秤に触れる。


「……いよいよだ! 頼むよダンさん……!」


 祈るようなキュールの言葉が聞こえたと同時に、等価の天秤の秤が大きく傾く。

 どうやら魔力を取り込むのには成功したようだ。あとはイメージ通りに世界樹を生み出せるかどうか……!


「……ダン! 足元! 芽が出てきてるわっ!」


 ティムルの報告に地面を見ると、石の台座の周辺には無数の芽が生えてきていて、ビデオテープを早送りするみたいにニョキニョキウネウネと元気に成長して足に絡み付いてくる。

 ……植物だって分かってるからまだ我慢できるけど、これが動物だったら鳥肌モノだな?


「ダンさん! 離脱して! このままじゃダンさんまで植物に取り込まれちゃうよ!?」

「ダメだ。まだ異界の扉の保護は終わってない。ここで俺が招きの窓を手放したら、異界の扉は閉じてしまうと思う。植物がこの空間を覆うまでは我慢しなきゃダメじゃないかな」


 植物による空間の保護が完成したら、そこから等価の天秤を招きの窓に繋げて、異界から流れ込む魔力を異界の扉を開く為にそのまま転用するようにしないといけない。

 急速に成長する木々に巻きつかれるのは結構不快だけど、シーズが抱き付いてくれてるから不快感よりも快感の方が遥かに大きいねっ。


「怖いかもしれないけど、もうちょっと我慢我慢してねシーズ。ちゃんと2人一緒に無事帰還するって約束するから」

「へっ! 別にこのままダンと一緒に植物に取り込まれたって後悔しねーよ! そうすりゃ永遠にダンを独り占め出来っからな!」

「シーズには悪いけど、俺には他にも沢山の奥さんが居るんだよ。シーズのこともみんなのことも、こんなところで放り出すわけにはいかないさ。フラッタ。ヴァルゴ」

「「承知っ!」」


 名前を呼ばれた2人は、何も言わずに俺に纏わりついた植物を薙ぎ払ってくれる。

 悪いね世界樹さん。君の気持ちには応えられないよ。俺にはこんなに素敵な奥さんが沢山待っているのだから。


 やがてアウラとリーチェの精霊魔法に沿うように、ドーム状の範囲が植物によって覆われていく。

 それはかつての世界樹の洞を、宿り木の根の入り口を髣髴とさせる光景だった。


 周囲が植物で完全に覆われたタイミングで、等価の天秤を招きの窓に干渉させて俺の魔力注入を停止する。


「…………維持できてる、よな?」


 シーズと共に1歩1歩後ずさり、俺が触れていなくても招きの窓が異界の扉を維持している事を確認する。

 どうやら異界の扉を人為的に開き、そして維持する事に成功したようだ。


「……維持できてるみたいだけどさぁ。どうやってここから出るつもりなのー?」

「へ?」


 腰に手を当てて少し呆れ気味のターニア。

 どうやら彼女の言葉通り、俺達は全員植物のドームの内部に閉じ込められてしまったようだ。


 植物だからぶち破るのは簡単そうだけど、そうしたら異界の扉は閉じちゃうの、かな?
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