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673 友人
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「……どうして貴女がここに居るんですかねぇ?」
間もなく新王の即位式が差し迫った頃、察知スキルで来客の気配を感じ取った俺は、尋ねて来た相手を目にしてゲンナリとした気分にさせられてしまう。
アンタ、こんな気軽に訪ねてきて良い人じゃないでしょ……。
「ウンザリした顔をしているがな? 貴様が送りつけてきたサークルストラクチャーのせいで、帝国の上層部が貴様と私の交友のメリットを認めだしたのだ。言わば自業自得だな?」
「俺は貴女の注文に応えただけなんですけど? カレン陛下ぁ……」
我が家の玄関先でしてやったりと笑う、ヴェルモート帝国のカレン・ラインフェルド皇帝陛下。
この来客は予想外過ぎて、流石に思考が追いつかないよ……。
だって察知スキルには1つしか反応が無いんだよ? まさか隣国の皇帝がたった1人で訪ねてくるとは思わないじゃん…?
「確かにサークルストラクチャーを1000個欲しいと言ったのは私だがな。即日1000個送りつけてくる奴があるか馬鹿者め。管理や配分で逆に困ったからな?」
「注文通りに納品したのにキレないでもらえますぅ? 陛下がこっちの生産能力を見縊ってたのが悪いんでしょー」
「その通りだ。だから貴様らの異常な生産能力が帝国上層部に注目されて、こうして私自ら親交を深めに来たんじゃないか」
「くっ……! マジで自業自得か……!」
サークルストラクチャーの不足は帝国民の生活に直結すると思って、一国も早く不足を解消しようとしたのが仇となったようだ。
ここで適当にカレン陛下を論破しても、帝国上層部に注目されてしまった以上は、追い返しても普通に訪ねてきそうだな……。
「それで? まさか俺に愚痴を言う為だけに来たわけじゃないですよね。ご用件は?」
「愚痴を言う為ではないが、普通に貴様と親交を深めに来たのだよ。なにせ前王シモンが2億リーフで売りつけてきた物を、貴様は1つ135万リーフで売りつけてきたからな」
「いや、俺の方が適正価格ですって。1つ2億リーフとか頭沸いてるんじゃないですか?」
「前王シモンがイカれていたことは間違いないが、帝国上層部は貴様と友好関係を築く事を最優先する方針でな。何故か皇帝である私が貴様のご機嫌取りの使いっ走りにさせられる始末だ」
呆れたように肩を竦める陛下だけど、怒っているようには見えないな?
むしろ使いっ走りにさせられている自分の扱いを面白がっているように感じられる。
しかし、国家権力とはあまりお近づきにはなりたくないんだよなぁ。
国家権力と言うか、国家元首とお近付きになっている時点でどうしようも無いんだけどさ。
「我が帝国の政治体制は以前も話したと思うが、帝国に不足していた転職魔法陣を一気に齎したことで私の支持はうなぎ登りでな。以前は一時的にでも帝都を離れるのは難しかったが、今はその程度では揺るがぬ支持を得られている。なので今のうちに、貴様ともっと友好的な関係を築くべきだというのが帝国の方針だ」
「プライベートなのか仕事なのか分かりませんね? というかいくら友好関係を築きたいと言っても、隣国の皇帝陛下が単身個人宅に訪問してくるのはやめてくださいよ」
「そうは言ってもな。帝国最強の男があっさりあしらわれてしまった以上、敵対関係になった時点で助かる道はないだろう? ならいっそ単身で乗り込んだ方が身軽というものだ」
あ~……。閃刃とかいう技の使い手の男を撃退しちゃったことで、ある種の諦めみたいなモードに入っちゃったわけか。
確かに閃刃を使われたら、普通の魔物狩りなら種族関係なく太刀打ち出来ないだろうしな。
そんな相手を軽くあしらってしまったことで、逆に開き直られてしまったのかも。
「それに一応公務の予定もあるのだ。流石に貴様に会うためだけに王国にきたわけではないぞ」
「あ、そうなんです?」
「帝国の長として、新たな王の即位の場に立ち合わせてもらう予定だ。これを機に我が国と王国、手を取り合っていけたらと思っている」
お、カレン陛下も新王の即位式に出席するのか。
前王の色ボケシモン陛下とか良い関係を築けていなかったっぽいから、飄々と見えて内心結構燃えてるのかもしれないな。
「いいですね。国同士で対立する必要なんか何処にも無いでしょうし」
「それと、貴様が主催するイントルーダー体験ツアーとやらも楽しみにしているぞ。私はアウターエフェクトの討伐経験までならあるが、イントルーダーの情報は知識としてしか知らんからな」
「え? 即位式はまだしも、イントルーダー体験会にも出席されるんですか? スペルディア王家が管理してる始まりの黒の最深部に行くことになるんですけど、良く許可されましたね?」
始界の王笏と呼び水の鏡を見せる為に一瞬だけ足を踏み入れるのさえ大変だったと思うのに、隣国のトップを招き入れて良いものなんだろうか?
と言っても、アウターなんて見せたって別になにも困る要素は無いのかな?
「新たに即位されたガルシア王とマーガレット女王もまた、この機会に帝国と交流を深めたいと言っているようでな。お2人の後押しもあって許可が下りたそうだ」
「へぇ。両陛下が自ら後押しされたんですか。考えてみれば新王陛下とカレン陛下は歳も近そうですし、個人間でも友人関係を結べるかもしれませんね」
「そうなるように期待しているよ。しかしダンよ。やはり今回も家には入れてくれんのか? 流石に立ち話は嫌になって来たんだが?」
おっと、これだけ普通に接している相手を家に入れないってのもおかしいか。
皇帝陛下を自宅の玄関先で立ち話させるって、俺とんでもないことしてるな?
……でもさぁ。微妙に嫌な予感はするんだよ。
孤児のみんなを抜かせば、我が家に招いた女性って全員俺と婚姻を結んじゃってるからさぁ……。
「……まぁいいでしょう」
断る口実を、小さな溜め息と共に吐き捨てる。
家に招き入れた女性を全員嫁に迎えている。
だからカレン陛下を家に上げるのは怖いって?
いやいや。仮に陛下が俺に迫ってきても、俺が受け入れなければ済む話なわけだよ。
家の中には家族のみんなも居るし、陛下の友人のキュールだって居るんだ。
ここで2人で話し続けるよりは、むしろ家の中の家族が居る空間で話をした方が健全な気がしてきたぞ?
「前回もご迷惑をおかけしましたし、それに免じてご招待しましょう」
「おっ、いいのかっ!? 言ってみるものだなっ」
「どうぞ我が家へ。歓迎しますよカレン陛下」
玄関のドアを開いて、陛下を中に案内する。
恐らく俺と陛下の会話をリーチェの精霊魔法で拾っていたのか、家族のみんなも身支度を整えるように寝室でバタバタと動き回っている。
そんな中でも身支度の早かったエマとティムルが、食堂で手早くお茶の準備を済ませてくれた。
お茶を飲みながら適当に雑談していると、1人、また1人と食堂に顔を出す俺の愛しい家族たち。
先着ボーナスということでティムルとエマを侍らせて全員が揃うのを待っていると、最後に顔を出したのは意外にもキュールだった。
「おはようございます陛下。まさか陛下に寝起きの顔を見られる日が来るとは思ってませんでしたよ」
「おはようキュール。その様子だと昨夜も大変だったようだな?」
「毎日毎日、朝も夜も無く大変ですよ……。夫は異種族の私のことも本気で孕ませようとしてますからぁ……」
「はいはいキュール。我が家の夫婦生活を帝国の国家元首に漏洩するのはそこまでにしてね?」
おはようの挨拶から流れるようにシモの話に移行しないで欲しいんだよ? しかも陛下の方から振るなっての。
官能小説仕合わせの暴君シリーズを流通させておいて今更過ぎるけど、気まずいものは気まずいんだってば。
しかしちょっと疲れ始めた俺と違って、陛下はすこぶるご機嫌の様子だ。
「済まんなダンよ。我ながら少々浮かれているようだ。なにせ友人宅を訪問するなど初めての体験だからなっ」
「そうなんですか? 皇帝に即位する前にも無かったんです?」
「無かったなぁ。先帝の孫娘として一部の隙も見せぬよう、交友関係も全て先帝の監視下に置かれていたからな」
あ、カレン陛下って先帝の血縁者なんだ?
なんとなく、世襲制ではないヴェルモート帝国で血縁者が皇帝になるのは、無関係の人が皇帝を目指すよりよほど難しそうな気がするけど。
「友人宅を訪問するどころか、友人と呼べるような人間もキュールくらいしか居ないな。キュールは先帝が崩御してから知り合えたおかげで監視にされず付き合えたのだ」
「いやいや陛下。私の方は四六時中監視されてましたけど? 陛下本人とは気安く接させて貰えていたのは否定しませんが」
「貴様は最奥の間に来ることを許された身なのだ。相応の監視は当たり前だろう? むしろ最奥の間に出入りしながら帝国を後に出来たことを感謝して欲しいくらいだぞ?」
「う……。そ、それについては勿論感謝してますよ……?」
楽しげに会話するカレン陛下とキュールを見た感じ、2人はプライベートな友人関係に近い付き合い方をしていたのかもしれない。
皇帝陛下の唯一の友人が国を出るとなったら、そりゃあ普通大事になるよなぁ。
「ねぇねぇキュール。最奥の間って?」
「えっと……答えて良いんですかね陛下?」
「構わんよ。というか私が答えよう。帝都フラグニークにある我が居城には、ごくごく限られた者しか立ち入りを許されていない最高機密エリアがあるのだ」
「なるほど。神器、識の水晶を知っている者しか足を踏み入れられない的な?」
「ま、平たく言えばその通りだな」
おっと。カマをかけたつもりだったけど、思いのほかあっさり認めてきたな。
俺に識の水晶を奪われる心配とかして無いんだろうか?
……無いかもしれないな。陛下の目の前で2つの神器を投げ捨てちゃったわけだし?
「無論、国政に関する話し合いなどもされたりするがな。それゆえに最奥の間は存在自体が機密の塊だ。そこに出入りしていたキュールが王国に嫁ぐなど、本来なら到底許されることではなかったのだぞ?」
「ええ。感謝してますよ本当に。見返りに情報の提供を求められましたけどね?」
「はっ! 今にして思えば馬鹿馬鹿しい要求だったな? ダンはむしろ積極的に様々な情報を公開してくれているのだから」
「確かに色々な情報を公開してはいますけど、公開していない情報も少なくないですよ? キュールの定期報告は続けさせた方がいいんじゃないです?」
「いや、我々が望むのは貴様との友好関係だ。それに帝国の意向を抜きにしても、私は貴様を友人の様に思い始めているからな。友人の私生活を暴くようなことは控えるさ」
「はぁ。俺なんかを友人だと思ってくれるのは光栄なんですけど……」
カレン陛下も結構強引なところがあるからなー。
あんまり仲良くすると、あっさりと無理難題を押し付けられたりしそうな気がして怖いんだよ?
「カレン陛下はダンのことを友人だと思ってるみたいだけど……。多分そのうち家族に迎える事になると思うのっ」
「……そうね。始めは友人って体でダンとニーナちゃんに付き纏ってた私もそう思うわ」
「初対面でおっぱいを触られた妾も同感なのじゃ。ダンのことを好ましく思ってしまったら、きっと女はもう逃げられないのじゃ~……」
「えっちなことをしてくる前段階がかっこよすぎるんだよね、ダンって。世界樹の護りを見つけてくれた時だってさ。出会ったばっかりだったっていうのに、誰にも見つけられなかった世界樹の護りをあっさり見つけてきてくれて……」
「旦那様に好意を抱き始めたタイミングでえっちなことをしてくるから、どうしようもなく篭絡されちゃうんですよねぇ……」
「えっちが大好きなくせに、意外と身持ちが固いところもポイントですよねっ。おっぱいが大好きなのに、私のおっぱいが揺れるたびに必死に目を逸らしてましたもんっ」
「ムーリちゃんのおっぱいから目を逸らせるのは凄いのー。槍の訓練をしている時なんか、同性の私ですら気になっちゃうくらいぶるんぶるんなのにー」
仕合わせの暴君に傾国の姫君を加えたメンバーが好き勝手言ってくれてるなぁ?
話題にされているはずのカレン陛下が無反応なのは、精霊魔法で音を制御しているからだろうけれど……。
談笑しているのは丸分かりなのにさっきから陛下が気付かないのは、陛下ご自身が言っていた通り、少し浮かれていて冷静じゃないからなのかもしれないな。
「でもですねぇ……。仮にカレン陛下をお迎えする事になっても、やっぱりなぁとしか思えませんよ?」
「身分差なんて今更ですよね。ラトリア様を筆頭に貴族を何人も受け入れていますし、リーチェさんやシャロ様のように各種族の姫も迎えてますから」
「年齢も種族もバラバラだもんねー? パパったら10歳の私から500歳近いリュートまで、分け隔て無くお腹いっぱいにしてくるから~」
いやいや。我が家の家族に関しては、実年齢と容姿が全然釣り合ってないのが悪いんだよ?
アウラだって10歳には見えないし、老女扱いされるというラトリアやエマだって若々しくて最高に美人だからな。
「王国では世襲制が採用されていますから、私と婚姻を結んだご主人様が王になることは出来ないんですよね。でももしカレン陛下を家族に迎え入れられたなら、ご主人様も隣国の皇帝に即位するのも可能かもしれませんっ」
「王様とか皇帝って、なんか全然ダンに似合ってないよね。暴君って言われるとしっくり来るんだけどっ」
「身分も気にしないもんなぁ。俺とチャールなんて平民どころか孤児だったってのにさぁ」
ワクワクした様子のシャロに、少し呆れ気味に答えるチャールとシーズ。
和やかな雰囲気で、愛する妻たちの談笑の声に包まれる。
けれど話している内容が家族が増える増えないの話なので、なんだか微笑ましく思えないんだよ?
……まぁ、最高に我が家らしい時間の過ごし方と言えるのかもしれないけどさ。
間もなく新王の即位式が差し迫った頃、察知スキルで来客の気配を感じ取った俺は、尋ねて来た相手を目にしてゲンナリとした気分にさせられてしまう。
アンタ、こんな気軽に訪ねてきて良い人じゃないでしょ……。
「ウンザリした顔をしているがな? 貴様が送りつけてきたサークルストラクチャーのせいで、帝国の上層部が貴様と私の交友のメリットを認めだしたのだ。言わば自業自得だな?」
「俺は貴女の注文に応えただけなんですけど? カレン陛下ぁ……」
我が家の玄関先でしてやったりと笑う、ヴェルモート帝国のカレン・ラインフェルド皇帝陛下。
この来客は予想外過ぎて、流石に思考が追いつかないよ……。
だって察知スキルには1つしか反応が無いんだよ? まさか隣国の皇帝がたった1人で訪ねてくるとは思わないじゃん…?
「確かにサークルストラクチャーを1000個欲しいと言ったのは私だがな。即日1000個送りつけてくる奴があるか馬鹿者め。管理や配分で逆に困ったからな?」
「注文通りに納品したのにキレないでもらえますぅ? 陛下がこっちの生産能力を見縊ってたのが悪いんでしょー」
「その通りだ。だから貴様らの異常な生産能力が帝国上層部に注目されて、こうして私自ら親交を深めに来たんじゃないか」
「くっ……! マジで自業自得か……!」
サークルストラクチャーの不足は帝国民の生活に直結すると思って、一国も早く不足を解消しようとしたのが仇となったようだ。
ここで適当にカレン陛下を論破しても、帝国上層部に注目されてしまった以上は、追い返しても普通に訪ねてきそうだな……。
「それで? まさか俺に愚痴を言う為だけに来たわけじゃないですよね。ご用件は?」
「愚痴を言う為ではないが、普通に貴様と親交を深めに来たのだよ。なにせ前王シモンが2億リーフで売りつけてきた物を、貴様は1つ135万リーフで売りつけてきたからな」
「いや、俺の方が適正価格ですって。1つ2億リーフとか頭沸いてるんじゃないですか?」
「前王シモンがイカれていたことは間違いないが、帝国上層部は貴様と友好関係を築く事を最優先する方針でな。何故か皇帝である私が貴様のご機嫌取りの使いっ走りにさせられる始末だ」
呆れたように肩を竦める陛下だけど、怒っているようには見えないな?
むしろ使いっ走りにさせられている自分の扱いを面白がっているように感じられる。
しかし、国家権力とはあまりお近づきにはなりたくないんだよなぁ。
国家権力と言うか、国家元首とお近付きになっている時点でどうしようも無いんだけどさ。
「我が帝国の政治体制は以前も話したと思うが、帝国に不足していた転職魔法陣を一気に齎したことで私の支持はうなぎ登りでな。以前は一時的にでも帝都を離れるのは難しかったが、今はその程度では揺るがぬ支持を得られている。なので今のうちに、貴様ともっと友好的な関係を築くべきだというのが帝国の方針だ」
「プライベートなのか仕事なのか分かりませんね? というかいくら友好関係を築きたいと言っても、隣国の皇帝陛下が単身個人宅に訪問してくるのはやめてくださいよ」
「そうは言ってもな。帝国最強の男があっさりあしらわれてしまった以上、敵対関係になった時点で助かる道はないだろう? ならいっそ単身で乗り込んだ方が身軽というものだ」
あ~……。閃刃とかいう技の使い手の男を撃退しちゃったことで、ある種の諦めみたいなモードに入っちゃったわけか。
確かに閃刃を使われたら、普通の魔物狩りなら種族関係なく太刀打ち出来ないだろうしな。
そんな相手を軽くあしらってしまったことで、逆に開き直られてしまったのかも。
「それに一応公務の予定もあるのだ。流石に貴様に会うためだけに王国にきたわけではないぞ」
「あ、そうなんです?」
「帝国の長として、新たな王の即位の場に立ち合わせてもらう予定だ。これを機に我が国と王国、手を取り合っていけたらと思っている」
お、カレン陛下も新王の即位式に出席するのか。
前王の色ボケシモン陛下とか良い関係を築けていなかったっぽいから、飄々と見えて内心結構燃えてるのかもしれないな。
「いいですね。国同士で対立する必要なんか何処にも無いでしょうし」
「それと、貴様が主催するイントルーダー体験ツアーとやらも楽しみにしているぞ。私はアウターエフェクトの討伐経験までならあるが、イントルーダーの情報は知識としてしか知らんからな」
「え? 即位式はまだしも、イントルーダー体験会にも出席されるんですか? スペルディア王家が管理してる始まりの黒の最深部に行くことになるんですけど、良く許可されましたね?」
始界の王笏と呼び水の鏡を見せる為に一瞬だけ足を踏み入れるのさえ大変だったと思うのに、隣国のトップを招き入れて良いものなんだろうか?
と言っても、アウターなんて見せたって別になにも困る要素は無いのかな?
「新たに即位されたガルシア王とマーガレット女王もまた、この機会に帝国と交流を深めたいと言っているようでな。お2人の後押しもあって許可が下りたそうだ」
「へぇ。両陛下が自ら後押しされたんですか。考えてみれば新王陛下とカレン陛下は歳も近そうですし、個人間でも友人関係を結べるかもしれませんね」
「そうなるように期待しているよ。しかしダンよ。やはり今回も家には入れてくれんのか? 流石に立ち話は嫌になって来たんだが?」
おっと、これだけ普通に接している相手を家に入れないってのもおかしいか。
皇帝陛下を自宅の玄関先で立ち話させるって、俺とんでもないことしてるな?
……でもさぁ。微妙に嫌な予感はするんだよ。
孤児のみんなを抜かせば、我が家に招いた女性って全員俺と婚姻を結んじゃってるからさぁ……。
「……まぁいいでしょう」
断る口実を、小さな溜め息と共に吐き捨てる。
家に招き入れた女性を全員嫁に迎えている。
だからカレン陛下を家に上げるのは怖いって?
いやいや。仮に陛下が俺に迫ってきても、俺が受け入れなければ済む話なわけだよ。
家の中には家族のみんなも居るし、陛下の友人のキュールだって居るんだ。
ここで2人で話し続けるよりは、むしろ家の中の家族が居る空間で話をした方が健全な気がしてきたぞ?
「前回もご迷惑をおかけしましたし、それに免じてご招待しましょう」
「おっ、いいのかっ!? 言ってみるものだなっ」
「どうぞ我が家へ。歓迎しますよカレン陛下」
玄関のドアを開いて、陛下を中に案内する。
恐らく俺と陛下の会話をリーチェの精霊魔法で拾っていたのか、家族のみんなも身支度を整えるように寝室でバタバタと動き回っている。
そんな中でも身支度の早かったエマとティムルが、食堂で手早くお茶の準備を済ませてくれた。
お茶を飲みながら適当に雑談していると、1人、また1人と食堂に顔を出す俺の愛しい家族たち。
先着ボーナスということでティムルとエマを侍らせて全員が揃うのを待っていると、最後に顔を出したのは意外にもキュールだった。
「おはようございます陛下。まさか陛下に寝起きの顔を見られる日が来るとは思ってませんでしたよ」
「おはようキュール。その様子だと昨夜も大変だったようだな?」
「毎日毎日、朝も夜も無く大変ですよ……。夫は異種族の私のことも本気で孕ませようとしてますからぁ……」
「はいはいキュール。我が家の夫婦生活を帝国の国家元首に漏洩するのはそこまでにしてね?」
おはようの挨拶から流れるようにシモの話に移行しないで欲しいんだよ? しかも陛下の方から振るなっての。
官能小説仕合わせの暴君シリーズを流通させておいて今更過ぎるけど、気まずいものは気まずいんだってば。
しかしちょっと疲れ始めた俺と違って、陛下はすこぶるご機嫌の様子だ。
「済まんなダンよ。我ながら少々浮かれているようだ。なにせ友人宅を訪問するなど初めての体験だからなっ」
「そうなんですか? 皇帝に即位する前にも無かったんです?」
「無かったなぁ。先帝の孫娘として一部の隙も見せぬよう、交友関係も全て先帝の監視下に置かれていたからな」
あ、カレン陛下って先帝の血縁者なんだ?
なんとなく、世襲制ではないヴェルモート帝国で血縁者が皇帝になるのは、無関係の人が皇帝を目指すよりよほど難しそうな気がするけど。
「友人宅を訪問するどころか、友人と呼べるような人間もキュールくらいしか居ないな。キュールは先帝が崩御してから知り合えたおかげで監視にされず付き合えたのだ」
「いやいや陛下。私の方は四六時中監視されてましたけど? 陛下本人とは気安く接させて貰えていたのは否定しませんが」
「貴様は最奥の間に来ることを許された身なのだ。相応の監視は当たり前だろう? むしろ最奥の間に出入りしながら帝国を後に出来たことを感謝して欲しいくらいだぞ?」
「う……。そ、それについては勿論感謝してますよ……?」
楽しげに会話するカレン陛下とキュールを見た感じ、2人はプライベートな友人関係に近い付き合い方をしていたのかもしれない。
皇帝陛下の唯一の友人が国を出るとなったら、そりゃあ普通大事になるよなぁ。
「ねぇねぇキュール。最奥の間って?」
「えっと……答えて良いんですかね陛下?」
「構わんよ。というか私が答えよう。帝都フラグニークにある我が居城には、ごくごく限られた者しか立ち入りを許されていない最高機密エリアがあるのだ」
「なるほど。神器、識の水晶を知っている者しか足を踏み入れられない的な?」
「ま、平たく言えばその通りだな」
おっと。カマをかけたつもりだったけど、思いのほかあっさり認めてきたな。
俺に識の水晶を奪われる心配とかして無いんだろうか?
……無いかもしれないな。陛下の目の前で2つの神器を投げ捨てちゃったわけだし?
「無論、国政に関する話し合いなどもされたりするがな。それゆえに最奥の間は存在自体が機密の塊だ。そこに出入りしていたキュールが王国に嫁ぐなど、本来なら到底許されることではなかったのだぞ?」
「ええ。感謝してますよ本当に。見返りに情報の提供を求められましたけどね?」
「はっ! 今にして思えば馬鹿馬鹿しい要求だったな? ダンはむしろ積極的に様々な情報を公開してくれているのだから」
「確かに色々な情報を公開してはいますけど、公開していない情報も少なくないですよ? キュールの定期報告は続けさせた方がいいんじゃないです?」
「いや、我々が望むのは貴様との友好関係だ。それに帝国の意向を抜きにしても、私は貴様を友人の様に思い始めているからな。友人の私生活を暴くようなことは控えるさ」
「はぁ。俺なんかを友人だと思ってくれるのは光栄なんですけど……」
カレン陛下も結構強引なところがあるからなー。
あんまり仲良くすると、あっさりと無理難題を押し付けられたりしそうな気がして怖いんだよ?
「カレン陛下はダンのことを友人だと思ってるみたいだけど……。多分そのうち家族に迎える事になると思うのっ」
「……そうね。始めは友人って体でダンとニーナちゃんに付き纏ってた私もそう思うわ」
「初対面でおっぱいを触られた妾も同感なのじゃ。ダンのことを好ましく思ってしまったら、きっと女はもう逃げられないのじゃ~……」
「えっちなことをしてくる前段階がかっこよすぎるんだよね、ダンって。世界樹の護りを見つけてくれた時だってさ。出会ったばっかりだったっていうのに、誰にも見つけられなかった世界樹の護りをあっさり見つけてきてくれて……」
「旦那様に好意を抱き始めたタイミングでえっちなことをしてくるから、どうしようもなく篭絡されちゃうんですよねぇ……」
「えっちが大好きなくせに、意外と身持ちが固いところもポイントですよねっ。おっぱいが大好きなのに、私のおっぱいが揺れるたびに必死に目を逸らしてましたもんっ」
「ムーリちゃんのおっぱいから目を逸らせるのは凄いのー。槍の訓練をしている時なんか、同性の私ですら気になっちゃうくらいぶるんぶるんなのにー」
仕合わせの暴君に傾国の姫君を加えたメンバーが好き勝手言ってくれてるなぁ?
話題にされているはずのカレン陛下が無反応なのは、精霊魔法で音を制御しているからだろうけれど……。
談笑しているのは丸分かりなのにさっきから陛下が気付かないのは、陛下ご自身が言っていた通り、少し浮かれていて冷静じゃないからなのかもしれないな。
「でもですねぇ……。仮にカレン陛下をお迎えする事になっても、やっぱりなぁとしか思えませんよ?」
「身分差なんて今更ですよね。ラトリア様を筆頭に貴族を何人も受け入れていますし、リーチェさんやシャロ様のように各種族の姫も迎えてますから」
「年齢も種族もバラバラだもんねー? パパったら10歳の私から500歳近いリュートまで、分け隔て無くお腹いっぱいにしてくるから~」
いやいや。我が家の家族に関しては、実年齢と容姿が全然釣り合ってないのが悪いんだよ?
アウラだって10歳には見えないし、老女扱いされるというラトリアやエマだって若々しくて最高に美人だからな。
「王国では世襲制が採用されていますから、私と婚姻を結んだご主人様が王になることは出来ないんですよね。でももしカレン陛下を家族に迎え入れられたなら、ご主人様も隣国の皇帝に即位するのも可能かもしれませんっ」
「王様とか皇帝って、なんか全然ダンに似合ってないよね。暴君って言われるとしっくり来るんだけどっ」
「身分も気にしないもんなぁ。俺とチャールなんて平民どころか孤児だったってのにさぁ」
ワクワクした様子のシャロに、少し呆れ気味に答えるチャールとシーズ。
和やかな雰囲気で、愛する妻たちの談笑の声に包まれる。
けれど話している内容が家族が増える増えないの話なので、なんだか微笑ましく思えないんだよ?
……まぁ、最高に我が家らしい時間の過ごし方と言えるのかもしれないけどさ。
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