異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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665 ※閑話 世代交代

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「あはっ! ターニア姉さんと、まさかこんな形で一緒に仕事できるなんてーっ」


 私の隣で関係書類に目を通しながら、何処までもご機嫌な様子のラスティ。

 書類に目を通しながらもそんなにニコニコしていられるんて、ラスティったら只者じゃないのっ。


「でも、本当に良かったのお父様? 新王の即位と共に獣爵家当主を退くだなんて……」

「ああ。いいんだよターニア。長男レオデジャーの実力はもう充分だしね。獣爵家の新当主として獣人族を導いてくれることだろう」


 私の問いかけに、コレで肩の荷が下りたよと笑ってみせるお父様。


 獣爵家当主を務めているレオデック・マニュータ・グラフィムは、新王の即位に合わせて当主の座を退くと発表した。

 新たな獣爵家当主は長男のレオデジャー兄様を指名しており、許可が下りれば新王の即位式でグラフィム家の代替わりも終了する予定なんだ。


 だけどニコニコ顔のお父様を見たラスティは、なんだかちょっぴり呆れ顔なの?


「そんなこと言って、父さんったら姉さんとニーナさんと一緒に居たいだけなんですよ? 獣爵家当主が聞いて呆れちゃいますよ、まったく……」

「……悪いんだけど、ラスティにだけは絶対に言われたくないねぇ?」

「あはは。ニーナはニーナで忙しいから連れて来れなくて申し訳なかったの。でも、あの娘がようやく私やダンさんとも離れられるようになったのを邪魔したくないから……ごめんね?」


 牽制し合うお父様とラスティに、ニーナの不在を謝罪する。


 いくらダンさんにお願いされたとは言え、家族が1人も同行せずに王国中を駆け回るだなんて、あの娘も本当に強くなってくれたと思う。

 リーチェさんも手伝いに徹してくれているみたいだし、今回の催しでニーナもひと皮剥けてくれるような気がするなー。


「でもお父様。なんでこのタイミングで当主を退く事にしたの? いくらレオデジャー兄様が頼りになるとは言え、お父様だって体力に不安があったわけじゃないんでしょ?」

「体力に不安は無いかな。ただまぁターニアのことやニーナのこともあったしね。少し疲れてしまったっていうのが本音だよ。それに王国中が新しい時代を目指している時に、獣爵家だけが代替わりしないっていうのも憚られてね」

「ん? 獣爵家だけが代替わりしてない?」

「王様だって変わるし、竜爵家も代替わりしただろう? これで私が当主に居座っていたら、獣人族だけ時代に乗り遅れてしまう気がしてね。レオデジャーに後を任せる事にしたのさ」

「ふ~ん……。お父様も兄様も納得済みならいいけど……」


 ん~……。お父様の言ってること、分かるような分からないような~……。


 周囲が一気に代替わりしたから、その流れに合わせて獣爵家も、という対応は理解できるの。

 だけど周囲が一気に代替わりしたからこそ、1人くらい年長者が残って若輩者を導くというのもありなんじゃないかなぁ?


 ま、お父様の選択に口を挟むのは野暮かもー?


「ラスティ。ステイルークの催しはどんな感じかなー?」

「もっちろん盛り上がってますよーっ。今読み上げますねっ」


 報告書の束をパラパラと捲りながら、ステイルークの状況を報告してくれるラスティ。


 ステイルークではダンさんが行なっている催しの他に、獣爵家主催のイベントがいくつか企画されているの。

 特に好評なのが鉄、鋼鉄武器の購入価格を獣爵家が半額負担するというもので、ダンさんが募集している仕事と合わせれば、今まで武器が買えずに魔物狩りを諦めていた人たちにも武器が買えるようになったの。


 パーティを組めばホワイトラビットくらいなら初心者でも狩れちゃうから、ステイルークでも魔物狩りが急速に増えつつあるんだよねー。

 勿論、マグエルほどの増加速度じゃないんだけど。


「ゴールさんも商館の奴隷に積極的に職業浸透を進めさせているから、この調子なら自分を買い戻せるかもって、凄くやる気に満ち溢れてるみたいだね。近い将来ステイルークから奴隷が居なくなっちゃうかもしれないな?」

「んー。個人的には奴隷が居なくなるのはいいことだと思うだけど……。やっぱり何か弊害が起こったりするのかなー?」

「そうだねぇ。まず当然だけど奴隷商が食っていけなくなる。それと高齢老人の介助奴隷が不足しそうではあるかな? ただこれからの王国民は職業浸透に積極的だから、旅人や行商人を浸透すれば問題ないだろう」


 うんうん。たとえ年を取って肉体が衰えても、その分を職業補正で補えるならなんの問題も無いのーっ。


「ペネトレイターの皆さんによる戦闘指南も非常に好評ですけど、グラフィム家による弓の指導もとっても好評なんですよーっ」

「弓は魔物に近寄る必要が無いのがいいよねぇ……。戦闘経験が無い人でも魔物狩りを始めやすいから」


 離れた場所から安全に魔物を狩れる弓矢だけど、パーティメンバーを巻き込んでしまう恐れがあったりするし、何よりも装備品扱いの矢が高くて、今までは弓に興味を持つ人なんて居なかったの。

 今回の催しをきっかけに、弓矢を扱う人が増えてくれたら嬉しいなーっ。


「心配ないよターニア。ステイルークはちゃんと盛り上がっているからね」

「んっ。了解なのっ。心配なんてせずに、皆がどんなことをして過ごすのか観察してみる事にするのー」

「ステイルークは心配無いけど、ステイーダやアッチンみたいな小さめの街が少しだけ心配かな? こちらから人手を派遣するしかないかもしれないね」


 飲食店への割引は王国全域に適用されるけれど、護衛依頼やドロップアイテムの買い取り額増額のおかげで、アウターから距離のある街は少し人が減ってしまっているようなの。

 この機会に稼ぎたい人にとっては、魔物が少ない地域に居るメリットは少ないからな~。


「ただまぁ、ダンさんが各都市のポータル移動費用を全部負担してくれていますからね。マグエルやステイルークに仕事に来て、それが終わったら自宅に帰るのも気軽に出来ますよっ。おかげで冒険者ギルドが大忙しなんですけど、こういう忙しさは嫌いじゃないですっ」

「うんうん。ダンさん的には、各都市で行われている催しに気軽に足を運んで欲しいみたいなの。お金稼ぎに興味が無い人でも、おめでたい雰囲気は味わって欲しいんだって」


 ダンさんのイメージしているお祭りとかいうイベントって、誰もが気軽に参加出来るものらしいんだよね。

 家族みんなでふらっと出かけて、美味しいものを食べて色々な催しを見学して、お腹と胸をいっぱいにしてぐっすり眠れるような1日を王国の人たちに届けたいみたいなの。


「各街の警備隊にも追加報酬が出ていて、王国全体の治安の悪化を防いでいるんだ。そして休みの日には積極的に魔物狩りをして職業浸透を進めるから、警備隊の質もどんどん上がってるんだよ」

「そもそも魔人族さんたちの戦闘指南が、半分くらい治安維持を担ってる感じがするのー。あの人たちの槍の技術を見て行動を起こそうとするのは相当なアホなのー」

「あははっ。フロイさんも張り切って槍を教わりに行ってますからねっ。最近は前にも増して頼り甲斐が出てきちゃって~っ」


 両手を頬に当てたラスティが、軽く赤面しながらくねくね踊ってるの。

 いったい何の話をしているのかなーこの子ったら。


 ペネトレイターによる戦闘指南は、本当は駆け出しの魔物狩りを対象にして行なう予定だったの。

 けれど今まで困窮していた駆け出しの魔物狩りたちは、数日の戦闘指南を受けたらナイフを買って、直ぐにアウターに潜り始めてしまうんだよねー。


 ニーナやダンさん、シャロ様のお手伝いで稼いだお金で武器を買えるようになったから、今の内に少しでも稼いでおこうと必死なの。

 長期的に見れば、魔人族さんたちの指導を受け続けた方が稼げる魔物狩りになれるんだけどね~。


 なので、魔人族さんたちの戦闘指南の価値に気付いているベテラン魔物狩りや、各地の警備隊員なんかが挙って指導を受けに来ちゃってるの。

 その結果、お金を得た駆け出しリーパーが羽目を外そうとしても、各街の警備隊員で簡単に押さえ込めるようになってるんだー。


「いやぁ本当に良く考えられているよ。ダンさんの深謀遠慮には本当に驚かされるねぇ」

「いやいやお父様。ダンさんは絶対そこまで考えてないの。そこまで考えていないけれど自分の利益も度外視する人だから、みんなから何かを奪う気も無いんだと思うなー」

「何を支払う必要も無く、ただ与えられた恩恵を享受できる。ダンさんのやってることって、まるで職業の祝福みたいですね、ターニア姉さんっ」

「あっはっは! 実際ダンさんは教会関係者にトライラム様の化身だと思われてるからねーっ。王国の皆に祝福を届けてくれるんじゃないかなっ」


 催しの間に人が減ってしまっている、魔物狩りに向いていない地域には、ニーナが優先的にお花のお世話をしているみたいなの。

 お花って、人が多い場所だと悪意無く踏まれちゃったりするらしいから、王国各地に点在している人が減っている街の存在は、新王の即位を祝うお花を咲かせるのにうってつけの場所なんだって。


「打ち合わせが終わったら皆でニーナの手伝いに行こうか。フロイさんも一緒に連れて行けるかいラスティ?」

「駄目って言われても連れて行きますよっ! フロイさんも、ニーナさんが元気で嬉しいって言ってましたから」

「考えてみればフロイさんには、夫と娘のお世話を焼いてもらったんだよねー。あとで改めてお礼しなきゃいけないの~」

「御礼なんて必要ないですよ姉さんっ。こうして姉さんもニーナさんも元気に過ごしてくれているのが、フロイさんへの1番のお返しだと思ってくださいっ」


 元気で過ごしているのが1番のお礼かぁ。

 ラスティったら、なかなかかっこいいこと言ってくれるじゃないのーっ。


 なんだか早くニーナに会いたくなった私は、同じ気持ちのお父様と共に急いで打ち合わせを済ませて、今日はフォーベアに居るはずのニーナに会いに行くのだった。





「あっ! 母さん、お祖父ちゃん、こっちなのーっ!」


 フォーベアに着くと、ちょうど街の外周付近で作業していたニーナと運よく合流することが出来た。


 お祖父ちゃんと言われたお父様は、それはもうデレッデレになってニーナにブンブンと右手を振っちゃってるのー。

 コレじゃ確かに獣爵家の当主は務まらないかなー?


「ラスティさんとフロイさんも一緒なんだ? 助かるよ。手伝い宜しくねーっ」

「リーチェさん! 貴女もニーナさんのお手伝いをされてたんですねーっ」

「エルフと植物は相性がいいからね。微力ながらお手伝いに馳せ参じたってわけさ」


 お父様がデレデレしながらニーナをよしよしなでなでしている横で、ニーナの手伝いをしていたリーチェさんとラスティ達が挨拶を交わしている。

 そんなラスティに腕を組まれているフロイさんは、なんだか未だに照れが抜けていないみたいなの。


「フロイさんフロイさん。散々ラスティと寝てるくせに、まだ腕を組むだけで恥ずかしがっちゃってるのー?」

「ぶっ!? なななっ、いきなりなに言ってきやがるんだよっ!?」

「その反応もなんだか不思議なのー。フロイさんって私の2つ下じゃなかったっけー? まるで10代みたいな反応じゃない?」


 私と歳が近いフロイさんだけど、私がステイルークに居た当時はあった覚えが無いんだよなー?

 勿論、ステイルーク出身者全員と顔見知りってわけじゃないんだけど。


「ちっ、慣れてないんだよこういうのは……! 女と付き合ったこと自体そんなに無ぇしよぉ……」

「そうなのー? でもラスティにはフロイから声をかけたんじゃなかったっけ?」

「……まぁな。アンタの旦那に影響されたってのもあるけど、まぁ半分は一目惚れみてぇなもんだ」

「私もーっ! 私も大好きですよーフロイさーんっ!」


 照れながらもラスティとの馴れ初めを語るフロイさんに、お構いなしに抱きつくラスティ。

 ニーナも私もダンさんに同じことをしちゃってる気がするし、好きな人に一直線なのはグラフィム家の血筋なのかもしれないの?


「ほらほらフロイさんっ! ラスティさんとイチャイチャするのは後にするのっ!」

「なっ!? ニーナテメーっ、状況分かっててなに言ってやがる!?」

「はいはいっ。フロイさんとラスティさんがラブラブなのは分かったから、早くお手伝いをお願いするのーっ! 終わったら夢の一夜亭に部屋を取ってあげるから、張り切ってお手伝いしてくれなきゃ困るのーっ」

「えっ、えええーーっ!? あの高級宿にっ!?」


 ニーナから提示されたまさかの報酬に、ラスティが飛び上がって驚いている。


 冒険者ギルドに勤めるラスティと、ステイルーク警備隊に勤めるフロイさんは、グラフィム家からの支援に頼らず自分の稼ぎで暮らしているんだろうなぁ。

 1泊に金貨1枚以上取られる夢の一夜亭なんて、利用した事あるわけないの。


「ほらフロイさん! グズグズしないで手伝いましょっ!」

「お前に捕まってるから動けないんだけどなぁっ!? 急かすならせめて腕を離しちゃくれねぇか!?」

「なに言ってるんですかっ! 離す訳ないでしょっ! ぜーったいに離さないんだからーっ!」

「そういう意味じゃねぇよ! 俺こそ絶対に離すわけねぇだろ……って、何言わせてんだコラーーーっ!?」

「んもーっ! フロイさんっ、早く手伝いなさーい! 早く来ないと今のフロイさんの様子を面白おかしくダンに教えちゃうのーっ!」

「どういう脅しだよそれ!? でも絶妙に嫌なのがすげぇなっ!? ってニーナ待て! 俺の状況を見てから怒れよーーっ!」


 終始賑やかな、というよりも騒がしい雰囲気でお花のお世話を手伝っていく。

 お花のお世話なんてしたことがなかったお父様やフロイさんも、ニーナを通して少しだけ園芸に興味を持ってくれたみたいなの。


 しっかしフロイさんとラスティったら騒ぎすぎだよー?

 いくらお花には話しかけた方がいいって言っても、あんまり騒ぎすぎたらお花だって萎んじゃうんだからっ。


 仮にお花が萎んでも、2人の笑顔は満開みたいだけどさーっ。
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