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662 ※閑話 失伝 根源
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「それじゃまずは私の精霊魔法で、私たち4人から詳細なデータを集めるわ」
コルの精霊魔法が体を包み込んでくる。
分析、解析能力に優れたコルの精霊魔法なら、私たち4人の情報からテレス人の組成を正確に導き出してくれるだろう。
テレス人の人工創造計画が始まって、まずはテレス人である私たち4人から基本となるデータを抽出することにした。
越界調査の為に極限まで魔法強化を施された私達の情報を元に、魔法強化されていない状態のテレス人の魔力を把握しなければいけないから。
「身長、体重、スリーサイズまで完璧に把握したわよーっ。ちなみに1番おっぱいが大きいのはメルでーす!」
「こらコルーっ! 個人情報を漏洩するなーっ!」
「1番おっぱいが小さいのは残念ながら私だったけどねーっ! 身長と体重はどっちもミルが1番よ」
「これでも戦闘員として鍛えてあるからね。私よりも体重が重くなったらダイエットが必要だと思って」
私達の個人情報をネタに盛り上がっているように振舞うコル。
だけど私にはコルがなんだが無理してふざけているような気がして、なんだか見ていられない……。
彼女の精霊魔法は表面的な情報に留まらず感情までも読み取っちゃうから、4人分の不安を読み取ってしまって辛いんじゃないかな……。
それでも人の個人情報を勝手に公開したことは許さないけどーっ!
「んっ。恐らくテレス人の構成魔力情報の把握には成功したわ。これで問題無く魔法強化前のテレス人を生み出せるはずよ」
「強化前、なんだよなぁ……。魔物が居る世界なんだから、最初っから魔法強化状態で生み出してやりたいんだけどねー……」
「仕方無いよ。私たちは限界まで魔法強化されているんだから。先天的にこんな魔力を付与してしまっては、恐らくは……」
「魂の輪郭が失われてしまう、だろー? 分かってるって、無茶はしないって約束すっからさー」
カルの言う通り、魔物が居るこの世界だからこそ、テレス人に限らず全ての人に魔法強化が必要なんだけど……。
私だって魔法技師の端くれとして魔法強化技術の一端くらいには触れた事があるけど、私たちに施された軍事レベルの極限魔法強化はトップシークレットだったからなー……。
1歩間違えたら魂が飲み込まれてしまいかねないほどの膨大な魔力を、いったいどうやってなんの反発も無く定着させたんだか……。
「あ、それと全員を解析した結果、1つ面白いことが分かったわ」
「何かな? 明るいニュースだと嬉しいけど」
「私たちが4人で買った、このユグドラシルのブレスレットのことなんだけどねー」
コルが左手を顔の横まで上げて、手首に嵌ったブレスレットを見せ付ける。
なんでこのタイミングでユグドラシルのブレスレットの話になるの?
「覚えてる? これってめっちゃくちゃ高かっただけあってさ、元々魔力を通しやすいって触れ込みだったでしょ?」
「覚えてるよー。これのおかげでこの世界でもみんなと合流できたんだもんっ」
「買った時はあまりの値段に数ヶ月くらい後悔しちゃったけど……。ここに来て値段以上の効果を発揮してくれたね」
「うんうん。そんな大活躍のユグドラシル君だったけど、なんとまだ終わりじゃなかったみたいなのよっ」
興奮気味に精霊魔法を使って、空中に情報を映し出してくるコル。
そして映し出された情報の一画を指差しながら説明を始めた。
「どうやらユグドラちゃん、創世の際に変質しちゃったっぽくてねー? テレスの魔力以上にこの世界の魔力に馴染んじゃったみたいなのよ」
「ユグドラちゃんってなんだよー……? ユグドラシル君はどこ行ったのさ? ったく興奮してるのは分かったから、結論を述べてよ、結論をさー」
「相変わらずカルったらせっかちなんだからぁ。まぁいいわ。早い話がこのブレスレット、超効率の魔力変換器になってしまったみたいなのよ」
「魔力の変換器って?」
「扱える魔力はこの世界のものに限られるんだけど、少ない魔力でより強力なエネルギーを生み出せるってことね。簡易版のデウス・エクス・マキナ、というのは流石に語弊があるかしら?」
コルによると、元々の魔力伝導率の高い素材で出来ているこのブレスレットは、創世の為に4人で精霊魔法を同時発動した際に、テレスの魔力をこの世界に馴染んだ魔力に変換するカルのイメージの影響を強く受けてしまったらしいのだ。
その結果、何か大出力のマジックアイテムの作成に使えそうな素材に変化してしまったようだ。
「生涯の友情を誓ったこのブレスレットを素材にするのは抵抗があるかもしれないけど、もうこのブレスレットが無くても私たちは離れられようがないからね。ならいっそ、この世界の為に使ってしまってもいいんじゃないかしら?」
「データを見る限り、私の技術が足りない部分をごり押ししてくれる出力がありそうだね。下手すると越界の大転移魔法陣すら再現できる……?」
「メルー。それは再現できても許可出来ないわよー? コラプサーの居るテレスと繋がっている以上、越界の大転移を行うのは自殺行為に等しいから」
「わ、分かってるよーっ。可能性の話だってばぁ」
「この世界の後には逃げ場は無いってことだね。ならやはり私たちは、奴に対抗する手段を見つけなきゃいけない……!」
「……ミ、ミル?」
強い怒りの篭ったミルの言葉に、思わず萎縮してしまう。
突然の強い感情に戸惑い彼女に視線を向けた私たちに、ミルは静かに頭を下げた。
「……我が侭を言わせてもらうよリーダー。生涯の友情を誓って買ったこのブレスレット、どうかコラプサーを撃退する為に使わせてくれないかな……!?」
「いいわよ?」
「君が反対するのも理解できるよ。でもこれがあれば……って、え……?」
「いいって言ってるのよ。ちょうど1人1つずつ持ってるわけだし?」
「ちょーっ!? 軽いっ! 軽すぎるよコルーっ!? 私今、凄い覚悟を持って話したつもりなんだけどーっ!?」
先ほど感じた戦慄するほどの怒りを、全力のツッコミで霧散させてしまったミル。
おかげで雰囲気は少し弛緩したけど、緊張感も無くなっちゃったかも?
「貴女の覚悟を疑ってるわけじゃないわ。ただ元々、それぞれが自由に使うべきだと思ってたのよ」
「私の勇み足だったってことかいっ!? 数秒前の私を殴りたくて仕方ないよっ!!」
「消費する事に思い詰めてしまうほど、カルがこの腕輪を大切に思ってくれているのは分かるんだけどね。コラプサーへの対抗手段に使いたいと言われたら、リーダーとしても反対出来ないわよ」
軽く肩を竦めながら、私たちを精霊魔法で包み込むコル。
コルの魔力、落ち着くなぁ……。
「この通り、この世界の中なら私たちは何処に居ても精霊魔法で直接繋がれるわ。ユグドラちゃんが無くったって離れ離れになる心配は無いわ」
「た、確かにそれはそうだけど……。本当に、いいの……?」
「むしろこんなうってつけの素材、使わない手は無いでしょ? それに私たちはもう、私たち4人だけのことを考えるわけにはいかないと思うんだよね」
コルは精霊魔法で、ガイアの人、エデンの人、クランの人、パンゲニアの人、そして私たちから取ったテレス人の構成データを表示する。
「4人だった私たちは、いつしかこんなに沢山の人の命と未来を守る立場になっちゃったのよ。だからこの腕輪も私たち4人だけで持て余すんじゃなくってさ、この世界の人たち皆に役立てるべきだと思うんだ」
「コルの言ってる事は分かっけどさー。コイツは代替品の無い貴重な素材だぜー? コラプサーの対抗手段に用いるのは構わないけど、使い道はもっと吟味すべきじゃねーのー?」
「別にいいんじゃない? 世界のためでもなんでも、自分の好きなように使えばさ。元々はこの世界に無かった物なんだもの。私達の自由に使えばいいじゃないっ」
にひひっと気安い笑顔を浮かべているコル。
この世界に無い貴重な素材なのだから、本来ならカルの指摘通り使い道は慎重に決めるべきだ。
けどコルは私たちの友情の証を、テレスから持ち込めた唯一の思い出の品を、越界調査隊の活動に使用したくないんだろうな……。
「それにさー。貴女達のことなんだもの。カルに限らず、どうせみんなもこの世界の人たちの為に役立てる為に使っちゃうんでしょー? なら私は越界調査隊のリーダーコルモマエサとしてじゃなく、皆の友人のコルとして、みんながユグドラちゃんを何に使うか楽しみにしておこうかなーって」
「……そっか。ならコルに喜んでもらえるような使い方を考えなきゃいけないね?」
「ふっふーん。楽しみにしてるわよー? ちなみに私は、皆の使い道を見てから考える事にするからねー?」
「なんだそりゃーっ? 自由に使えって言ったくせに、自分の分は保険に確保しておこうっての? そりゃ無いぜリーダー」
「各分野の専門家の貴女達と違って、私にはまだこれといったビジョンが無いのよねー」
いやいや。私だってまだ何に使うか全然イメージ固まってないからね?
でも、そうだなぁ……。ミルがコラプサーへの対抗策の為に使うなら、私はやっぱり種族差を無くす為のシステムに運用すべきかも?
「と、ともかくありがとうコル! 君の信頼と期待には絶対に応えて見せるから……!」
「ふふ。頑張ってねミル。それじゃ用事がある時は連絡するとして、当分は自由に過ごしましょ。私たちのことは精霊魔法が繋いでるから、どんなに離れてたって独りじゃないからね……」
「え、コル……?」
「リーダーコルモマエサの名に於いて、越界調査隊J-0385のメンバーに無期限の休暇を言い渡します」
コルは越界調査隊のリーダーとして正式に、私たちに無期限の休暇を言い渡してくる。
無期限の休暇って……。それって実質解散ってことじゃ……!?
「今後もそれぞれの研究を怠らず、けれどお互い楽しく自由に過ごしましょう。みんなのおかげで私達の越界調査は成功を迎えられたと思っています。みんな長い間、本当にありがとう!」
安定したこの世界に、もう私たちが積極的に関わる必要性は無くなった。
だからこの日を最後にこの世界に生きる人たちのお世話をするのは自重して、これからは自分たちの為に時間を使って欲しいと、リーダーのコルモマエサから言い渡されてしまった。
なんて、この時はすごく寂しい想いをさせられたんだけど……。
他の人のお世話をするのを控えただけで、結局このあとも4人一緒に暮らすことになったんだけどね?
「う~ん……。メルが作ってくれたマジックアイテムじゃ、テレス人の創造に時間が掛かりすぎるね。知的生命体を作り出すってのはこんなにも魔力を食うもんなのかー」
テレス人の人工創造計画に着手しているカルが、もどかしそうな様子でガリガリと頭を掻いている。
カルに頼まれてテレスからの魔力を生命体に返還するマジックアイテムを用意したはいいけれど、人を作るには膨大な魔力と時間が必要みたいなんだよね……。
だからカルはその時間を短縮する為の一助として、この世界の均衡を保ちつつも好きなだけ異界の門を開くことが出来るマジックアイテムの開発に、あのブレスレットを使う事に決めたようだった。
ミルは当然コラプサー対策に、移動魔法を無理やり攻撃魔法に転用する研究にブレスレットを使用した。
そして私は……。
「この世界に生きる全ての人々に、薄く平等に魔法強化を施す、ですって?」
「うん。正確には魔法強化システムの応用で、この世界の住人全てが恩恵を受けられる魔法効果を生み出すつもりなんだ」
「……い、いくらこのブレスレットでも、そんなこと出来るわけ?」
「出来ると思うし、やらなきゃいけないと思うんだ。これ以上人口が増えたら翻訳用のマジックアイテムの数も不足しちゃうし、人口増加のボトルネックになりかねないんだもん」
この世界に生きる人たちをこの世界の魔力で覆い、共通の魔法則を適用させる。
厳密に言えば魔法強化じゃなくって、魔法強化を行う前の下準備のようなものかな?
そのためにはこの世界全体に半永久的に、且つ自動で影響を及ぼせるマジックアイテムを開発しなきゃいけないんだけど……。
このブレスレットを使えば、そんなマジックアイテムの作成も可能なはずなんだっ。
「この世界の人々に共通のルールを追加するマジックアイテムかぁ……。『ルーラーズコア』とでも名付けようかな?」
「名付けようかな? じゃないわよっ。なにとんでもないアイテムをサラッと生み出そうとしてるわけっ!?」
「個人の意思に干渉できるようには絶対にしないよ。とりあえず始めは使用言語の統一化を図ろうと思うんだ。ルールはあとから追加できるようにすればいいだけだしね」
まずは言語の壁を取っ払ってしまわないと、小人数なのに諍いが起きかねない。
戦争や争いはいつだって相手への不理解、無配慮から起こることだと思うから、それを防ぐ為には共通言語による相互理解が必要不可欠よねっ。
「……こ、この子怖いわぁ。自分の天才性を全く自覚してないんだもの……」
「簡単にルールを追加されたら、私たちの死後に悪用されちゃう可能性もあるから……。その辺は良く考慮しないといけないね。ルール作りは手伝ってよコルー?」
ルールの追加には慎重にならざるを得ないけど、既にイメージが出来ていたルーラーズコアそのものは割とあっさり完成させることが出来た。
ルーラーズコアの魔力が適用された人間は、このマジックアイテムの影響下にあるという証明のように、自身の体からカード型のマジックアイテムを取り出せるようになるみたい。
私たちはこのカード型のマジックアイテムを、『ステータスプレート』と名付ける事にしたのだった。
コルの精霊魔法が体を包み込んでくる。
分析、解析能力に優れたコルの精霊魔法なら、私たち4人の情報からテレス人の組成を正確に導き出してくれるだろう。
テレス人の人工創造計画が始まって、まずはテレス人である私たち4人から基本となるデータを抽出することにした。
越界調査の為に極限まで魔法強化を施された私達の情報を元に、魔法強化されていない状態のテレス人の魔力を把握しなければいけないから。
「身長、体重、スリーサイズまで完璧に把握したわよーっ。ちなみに1番おっぱいが大きいのはメルでーす!」
「こらコルーっ! 個人情報を漏洩するなーっ!」
「1番おっぱいが小さいのは残念ながら私だったけどねーっ! 身長と体重はどっちもミルが1番よ」
「これでも戦闘員として鍛えてあるからね。私よりも体重が重くなったらダイエットが必要だと思って」
私達の個人情報をネタに盛り上がっているように振舞うコル。
だけど私にはコルがなんだが無理してふざけているような気がして、なんだか見ていられない……。
彼女の精霊魔法は表面的な情報に留まらず感情までも読み取っちゃうから、4人分の不安を読み取ってしまって辛いんじゃないかな……。
それでも人の個人情報を勝手に公開したことは許さないけどーっ!
「んっ。恐らくテレス人の構成魔力情報の把握には成功したわ。これで問題無く魔法強化前のテレス人を生み出せるはずよ」
「強化前、なんだよなぁ……。魔物が居る世界なんだから、最初っから魔法強化状態で生み出してやりたいんだけどねー……」
「仕方無いよ。私たちは限界まで魔法強化されているんだから。先天的にこんな魔力を付与してしまっては、恐らくは……」
「魂の輪郭が失われてしまう、だろー? 分かってるって、無茶はしないって約束すっからさー」
カルの言う通り、魔物が居るこの世界だからこそ、テレス人に限らず全ての人に魔法強化が必要なんだけど……。
私だって魔法技師の端くれとして魔法強化技術の一端くらいには触れた事があるけど、私たちに施された軍事レベルの極限魔法強化はトップシークレットだったからなー……。
1歩間違えたら魂が飲み込まれてしまいかねないほどの膨大な魔力を、いったいどうやってなんの反発も無く定着させたんだか……。
「あ、それと全員を解析した結果、1つ面白いことが分かったわ」
「何かな? 明るいニュースだと嬉しいけど」
「私たちが4人で買った、このユグドラシルのブレスレットのことなんだけどねー」
コルが左手を顔の横まで上げて、手首に嵌ったブレスレットを見せ付ける。
なんでこのタイミングでユグドラシルのブレスレットの話になるの?
「覚えてる? これってめっちゃくちゃ高かっただけあってさ、元々魔力を通しやすいって触れ込みだったでしょ?」
「覚えてるよー。これのおかげでこの世界でもみんなと合流できたんだもんっ」
「買った時はあまりの値段に数ヶ月くらい後悔しちゃったけど……。ここに来て値段以上の効果を発揮してくれたね」
「うんうん。そんな大活躍のユグドラシル君だったけど、なんとまだ終わりじゃなかったみたいなのよっ」
興奮気味に精霊魔法を使って、空中に情報を映し出してくるコル。
そして映し出された情報の一画を指差しながら説明を始めた。
「どうやらユグドラちゃん、創世の際に変質しちゃったっぽくてねー? テレスの魔力以上にこの世界の魔力に馴染んじゃったみたいなのよ」
「ユグドラちゃんってなんだよー……? ユグドラシル君はどこ行ったのさ? ったく興奮してるのは分かったから、結論を述べてよ、結論をさー」
「相変わらずカルったらせっかちなんだからぁ。まぁいいわ。早い話がこのブレスレット、超効率の魔力変換器になってしまったみたいなのよ」
「魔力の変換器って?」
「扱える魔力はこの世界のものに限られるんだけど、少ない魔力でより強力なエネルギーを生み出せるってことね。簡易版のデウス・エクス・マキナ、というのは流石に語弊があるかしら?」
コルによると、元々の魔力伝導率の高い素材で出来ているこのブレスレットは、創世の為に4人で精霊魔法を同時発動した際に、テレスの魔力をこの世界に馴染んだ魔力に変換するカルのイメージの影響を強く受けてしまったらしいのだ。
その結果、何か大出力のマジックアイテムの作成に使えそうな素材に変化してしまったようだ。
「生涯の友情を誓ったこのブレスレットを素材にするのは抵抗があるかもしれないけど、もうこのブレスレットが無くても私たちは離れられようがないからね。ならいっそ、この世界の為に使ってしまってもいいんじゃないかしら?」
「データを見る限り、私の技術が足りない部分をごり押ししてくれる出力がありそうだね。下手すると越界の大転移魔法陣すら再現できる……?」
「メルー。それは再現できても許可出来ないわよー? コラプサーの居るテレスと繋がっている以上、越界の大転移を行うのは自殺行為に等しいから」
「わ、分かってるよーっ。可能性の話だってばぁ」
「この世界の後には逃げ場は無いってことだね。ならやはり私たちは、奴に対抗する手段を見つけなきゃいけない……!」
「……ミ、ミル?」
強い怒りの篭ったミルの言葉に、思わず萎縮してしまう。
突然の強い感情に戸惑い彼女に視線を向けた私たちに、ミルは静かに頭を下げた。
「……我が侭を言わせてもらうよリーダー。生涯の友情を誓って買ったこのブレスレット、どうかコラプサーを撃退する為に使わせてくれないかな……!?」
「いいわよ?」
「君が反対するのも理解できるよ。でもこれがあれば……って、え……?」
「いいって言ってるのよ。ちょうど1人1つずつ持ってるわけだし?」
「ちょーっ!? 軽いっ! 軽すぎるよコルーっ!? 私今、凄い覚悟を持って話したつもりなんだけどーっ!?」
先ほど感じた戦慄するほどの怒りを、全力のツッコミで霧散させてしまったミル。
おかげで雰囲気は少し弛緩したけど、緊張感も無くなっちゃったかも?
「貴女の覚悟を疑ってるわけじゃないわ。ただ元々、それぞれが自由に使うべきだと思ってたのよ」
「私の勇み足だったってことかいっ!? 数秒前の私を殴りたくて仕方ないよっ!!」
「消費する事に思い詰めてしまうほど、カルがこの腕輪を大切に思ってくれているのは分かるんだけどね。コラプサーへの対抗手段に使いたいと言われたら、リーダーとしても反対出来ないわよ」
軽く肩を竦めながら、私たちを精霊魔法で包み込むコル。
コルの魔力、落ち着くなぁ……。
「この通り、この世界の中なら私たちは何処に居ても精霊魔法で直接繋がれるわ。ユグドラちゃんが無くったって離れ離れになる心配は無いわ」
「た、確かにそれはそうだけど……。本当に、いいの……?」
「むしろこんなうってつけの素材、使わない手は無いでしょ? それに私たちはもう、私たち4人だけのことを考えるわけにはいかないと思うんだよね」
コルは精霊魔法で、ガイアの人、エデンの人、クランの人、パンゲニアの人、そして私たちから取ったテレス人の構成データを表示する。
「4人だった私たちは、いつしかこんなに沢山の人の命と未来を守る立場になっちゃったのよ。だからこの腕輪も私たち4人だけで持て余すんじゃなくってさ、この世界の人たち皆に役立てるべきだと思うんだ」
「コルの言ってる事は分かっけどさー。コイツは代替品の無い貴重な素材だぜー? コラプサーの対抗手段に用いるのは構わないけど、使い道はもっと吟味すべきじゃねーのー?」
「別にいいんじゃない? 世界のためでもなんでも、自分の好きなように使えばさ。元々はこの世界に無かった物なんだもの。私達の自由に使えばいいじゃないっ」
にひひっと気安い笑顔を浮かべているコル。
この世界に無い貴重な素材なのだから、本来ならカルの指摘通り使い道は慎重に決めるべきだ。
けどコルは私たちの友情の証を、テレスから持ち込めた唯一の思い出の品を、越界調査隊の活動に使用したくないんだろうな……。
「それにさー。貴女達のことなんだもの。カルに限らず、どうせみんなもこの世界の人たちの為に役立てる為に使っちゃうんでしょー? なら私は越界調査隊のリーダーコルモマエサとしてじゃなく、皆の友人のコルとして、みんながユグドラちゃんを何に使うか楽しみにしておこうかなーって」
「……そっか。ならコルに喜んでもらえるような使い方を考えなきゃいけないね?」
「ふっふーん。楽しみにしてるわよー? ちなみに私は、皆の使い道を見てから考える事にするからねー?」
「なんだそりゃーっ? 自由に使えって言ったくせに、自分の分は保険に確保しておこうっての? そりゃ無いぜリーダー」
「各分野の専門家の貴女達と違って、私にはまだこれといったビジョンが無いのよねー」
いやいや。私だってまだ何に使うか全然イメージ固まってないからね?
でも、そうだなぁ……。ミルがコラプサーへの対抗策の為に使うなら、私はやっぱり種族差を無くす為のシステムに運用すべきかも?
「と、ともかくありがとうコル! 君の信頼と期待には絶対に応えて見せるから……!」
「ふふ。頑張ってねミル。それじゃ用事がある時は連絡するとして、当分は自由に過ごしましょ。私たちのことは精霊魔法が繋いでるから、どんなに離れてたって独りじゃないからね……」
「え、コル……?」
「リーダーコルモマエサの名に於いて、越界調査隊J-0385のメンバーに無期限の休暇を言い渡します」
コルは越界調査隊のリーダーとして正式に、私たちに無期限の休暇を言い渡してくる。
無期限の休暇って……。それって実質解散ってことじゃ……!?
「今後もそれぞれの研究を怠らず、けれどお互い楽しく自由に過ごしましょう。みんなのおかげで私達の越界調査は成功を迎えられたと思っています。みんな長い間、本当にありがとう!」
安定したこの世界に、もう私たちが積極的に関わる必要性は無くなった。
だからこの日を最後にこの世界に生きる人たちのお世話をするのは自重して、これからは自分たちの為に時間を使って欲しいと、リーダーのコルモマエサから言い渡されてしまった。
なんて、この時はすごく寂しい想いをさせられたんだけど……。
他の人のお世話をするのを控えただけで、結局このあとも4人一緒に暮らすことになったんだけどね?
「う~ん……。メルが作ってくれたマジックアイテムじゃ、テレス人の創造に時間が掛かりすぎるね。知的生命体を作り出すってのはこんなにも魔力を食うもんなのかー」
テレス人の人工創造計画に着手しているカルが、もどかしそうな様子でガリガリと頭を掻いている。
カルに頼まれてテレスからの魔力を生命体に返還するマジックアイテムを用意したはいいけれど、人を作るには膨大な魔力と時間が必要みたいなんだよね……。
だからカルはその時間を短縮する為の一助として、この世界の均衡を保ちつつも好きなだけ異界の門を開くことが出来るマジックアイテムの開発に、あのブレスレットを使う事に決めたようだった。
ミルは当然コラプサー対策に、移動魔法を無理やり攻撃魔法に転用する研究にブレスレットを使用した。
そして私は……。
「この世界に生きる全ての人々に、薄く平等に魔法強化を施す、ですって?」
「うん。正確には魔法強化システムの応用で、この世界の住人全てが恩恵を受けられる魔法効果を生み出すつもりなんだ」
「……い、いくらこのブレスレットでも、そんなこと出来るわけ?」
「出来ると思うし、やらなきゃいけないと思うんだ。これ以上人口が増えたら翻訳用のマジックアイテムの数も不足しちゃうし、人口増加のボトルネックになりかねないんだもん」
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厳密に言えば魔法強化じゃなくって、魔法強化を行う前の下準備のようなものかな?
そのためにはこの世界全体に半永久的に、且つ自動で影響を及ぼせるマジックアイテムを開発しなきゃいけないんだけど……。
このブレスレットを使えば、そんなマジックアイテムの作成も可能なはずなんだっ。
「この世界の人々に共通のルールを追加するマジックアイテムかぁ……。『ルーラーズコア』とでも名付けようかな?」
「名付けようかな? じゃないわよっ。なにとんでもないアイテムをサラッと生み出そうとしてるわけっ!?」
「個人の意思に干渉できるようには絶対にしないよ。とりあえず始めは使用言語の統一化を図ろうと思うんだ。ルールはあとから追加できるようにすればいいだけだしね」
まずは言語の壁を取っ払ってしまわないと、小人数なのに諍いが起きかねない。
戦争や争いはいつだって相手への不理解、無配慮から起こることだと思うから、それを防ぐ為には共通言語による相互理解が必要不可欠よねっ。
「……こ、この子怖いわぁ。自分の天才性を全く自覚してないんだもの……」
「簡単にルールを追加されたら、私たちの死後に悪用されちゃう可能性もあるから……。その辺は良く考慮しないといけないね。ルール作りは手伝ってよコルー?」
ルールの追加には慎重にならざるを得ないけど、既にイメージが出来ていたルーラーズコアそのものは割とあっさり完成させることが出来た。
ルーラーズコアの魔力が適用された人間は、このマジックアイテムの影響下にあるという証明のように、自身の体からカード型のマジックアイテムを取り出せるようになるみたい。
私たちはこのカード型のマジックアイテムを、『ステータスプレート』と名付ける事にしたのだった。
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その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
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