異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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656 ※閑話 狭窄

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「え? エルフ族も総出で、ニーナさんの手伝いをして欲しい?」


 突然のぼくのお願いに、ライオネルさんが困惑した様子で首を傾げている。いきなりでごめんなさいっ。

 だけどエルフ族に協力してもらうためには、まずライオネルさんを説得しなきゃいけないからさー。




 ガルシアさんとマギーの即位を祝う催しの為、ぼくとシャロで王国中を回って各地の領主に協力をお願いしに行ったんだけれど、領主たちは皆二つ返事で協力を申し出てくれた。

 ぼくとシャロに変な色目を使ってくる者も居なくて、むしろ積極的に協力したがる始末だった。


 王国貴族らしくない領主たちの態度にシャロと2人で首を傾げていると、ヴィアバタの領主さんがその理由を教えてくれた。


「あ~。みんな先日連れ去られた時、貴方達との格の違いを嫌というほど思い知らされましたから……」


 要するに、強い相手に媚びているって事?

 理由を聞いてみれば、なんとも王国貴族らしい話だったんだねぇ……。


「あの場に居た全員が、指1本触れることなく制圧されましたからね。少なくとも今の領主達が代替わりするまでは、皆さんに取り入ろうと必死になると思いますよ」

「ふむ。ご主人様には悪いですが、好都合なので利用してしまいましょう。貴方達の頑張り次第では、ご主人様の覚えが良くなる……、とでも流布するとしましょうか」


 本人には内緒で、ダンをダシに使うシャロ。

 その結果、保身に長けた各地の領主たちは、仕合わせの暴君に取り入る為に一層奮起して新王の即位を盛り上げてくれたんだ。


 だけどごめんね? 皆さんの頑張り、ダンは知ってさえいないんだ。

 でもダンは頑張っている人が好きだから、皆さんのやってることもきっと評価してくれると思うよー。


「ふふふ……! 各地への協力要請、思ったよりも早く片付いてくれて助かりましたぁ……!」


 分かりやすくやる気を漲らせたシャロは、領主たちへの協力要請が終わると直ぐにマグエルの服屋さんに向かったみたいだ。


 シャロはこの機会に、スレッドドレッドの良さを王国中に広げたいと思ってるみたいだね。

 1度手に取ってもらえればその違いに驚くと思うんだけど……。やっぱりきっかけが必要だよねぇ。


 シャロを見送り1人になったぼくは、少し手持ち無沙汰を感じてしまう。


「エルフとの連絡役を任されてるけど……。みんなが自主的に動いている中で、エルフ族だけ受け身のままでいいのかな……?」


 シャロだけじゃない。家族みんなが王国を幸せにしようと走り回っているのに。

 仮にも建国の英雄と呼ばれるぼくが、マギーの即位を祝うために何もしなくていいのだろうか……?


 人数も少なくて、中継都市の建設や世界樹の森の再建を目指して頑張っているエルフ族は無理しなくていいからね、とダンに言われているけど……。

 人数が少ないからこそ、王国と積極的に関わるべきじゃないかなっ……!


「……そうだっ! エルフェリアや中継都市で植樹を試しているエルフ族なら、ニーナのお手伝いに最高なんじゃないかな……!?」


 思い立ったら即行動! が我が家のルールだもんねーっ。

 こうしてぼくは、居ても立ってもいられなくなり、1人でライオネルさんに会いに来たのだった。





「今回のお花の世話は、ライオネルさんたちがやってる植樹作業に通ずるものもあると思うんだ。決して無駄な経験にはならないはずだよ……!」


 困惑した様子のライオネルさんに。必死になって協力を訴える。

 だけど必死なぼくを見たライオネルさんは、そうじゃないんだと苦笑して見せた。


「ニーナさんのお手伝いをすることに抵抗があるわけじゃないんだ。ただ、ちょっと昔を思い出してしまっただけさ」

「昔? それってアルフェッカがあった頃のこと?」

「そうそう。あの頃は君のお姉さんに随分振り回されてねぇ。なんだか懐かしくなってしまったのさ」

「ライオネルさん、姉さんと知り合いだったんだ?」


 アルフェッカ1の美人って評判の姉さんだったから、姉さんの事を一方的に知っている人は少なくないと思う。

 けど今のライオネルさんの話だと、姉さんと直接会っていて、そして迷惑をかけられたみたいに聞こえるね?


「君のお姉さんと私は比較的年が近くてね。幼馴染のような関係だったんだよ」

「え~!? なにそれ、初耳なんだけどっ!?」

「まぁ、近いと言っても100歳は離れていたけど……。ちょうど、君とお姉さんと同じくらいの年の差だったかもしれないなぁ……」


 懐かしそうに目を細めるライオネルさん。

 姉さんがもし生きていたら、今はちょうど600歳を越えたくらいだと思うから、ライオネルさんは800歳前後って感じかな?


 鑑定を使えばいいんだろうけど、知人の情報を勝手に盗み見るのは少し抵抗があるし……。

 ニーナはよく躊躇わずに鑑定を使用できるよねー……。


「エルフェリアとスペルドが建国される前、私は族長の補佐をしていてね。王族として、族長と共にエルフ族をまとめていた彼女とも、一緒に色んな仕事をしたものさ」

「へぇ~。例えば例えばっ?」

「世界樹の世話をしたり、パーティを組んで宿り木の根に潜ったりもしたよ。あ、後はこんなのがあってね……」


 あんなことがあったよ。こんなこともあったよと、ライオネルさんのトークが止まらない。

 脱線しているのは分かってるけど、思いがけず姉さんの話が聞けたので、出来ればもう少しもう少しとライオネルさんの話に耳を傾けてしまうよぉ……!


「お姉さんは目上の者には完璧な姿を見せるんだけどね……。対等だった私には、よくだらしない姿も見せる事があったんだ」

「ああ、それすっごく姉さんらしいかも……。あの姉さんがそんな姿を見せてたってことは、ライオネルさんとは本当に親しかったんだねーっ?」

「族長とその側近は年長のエルフで埋まっていたからね。300歳以下の者なんて、私と彼女くらいしか居なかったんだ。だからお互い気安かったのかもしれない」

「あ~っ。アウラも連れて来れば良かったなぁ~っ。きっとアウラも姉さんの話を聞きたがったのにぃ~っ」


 姉さんの話なんて、もうアウラとしか出来ないと思っていたのに。

 まさかぼくが知らない姉さんの話を、こんな形で聞くことが出来るなんてねっ。


 流石にライオネルさんは、アルフェッカに内緒で保護したアウラのことまでは聞いていなかったみたいだけど。


「……ああそうだ。そう言えば彼女もお花が好きだったはずだ」

「え? それもぼくは知らないなぁ。ほんと?」

「君の前では見せていなかったという事は、単に仕事の合間の息抜きだったのかもしれないね。ただ彼女は仕事の合間に、良く植物たちの声を聞いていたんだよ」


 姉さんは忙しい仕事の合間を縫って、1人で過ごす事があったみたいだ。

 精霊魔法で植物たちと心を繋げることで、仕事で疲れた心を癒していたのかもしれない。


 ぼくがそれを知らないのは、家では気を張る必要が無かったからなのかなぁ?


「ふむ。お姉さんの事を思い出したら、ニーナさんの手伝いにもやり甲斐が出てきてしまったよ。王国中を花でいっぱいにすれば、きっと彼女も喜んでくれるだろう」

「……うんっ! 宜しくねライオネルさん! ニーナとの連絡役は任せてよっ!」


 ニーナのお手伝いの話が、姉さんを喜ばせる事に繋がるなんて素敵過ぎるよっ!

 よぉしっ! ぼくも張り切ってお手伝いしなきゃっ!





「ありがとリーチェ! まだまだ人手が足りなかったから、エルフのみなさんが手伝ってくれるのはとっても助かっちゃうのーっ」


 エルフたちの手伝いの申し出を、ニーナは快く受け入れてくれた。

 各地の教会関係者と斡旋所からの紹介だけでは、王国中を花でいっぱいにするにはまだ足りなかったみたいだね。


「教会関係者はともかく、斡旋所から紹介されてきた人は職業の浸透が進んでないの。だから重量軽減スキルどころか、持久力補正も持ってない人ばっかりなの~……」

「あ~、そっかぁ……。斡旋所から来る人たちは職業浸透なんて進んでるわけなかったね……」

「それでも手伝ってもらえることはいっぱいあるんだけど、どうしても効率は落ちちゃうの~……。だから職業浸透数が多めのエルフの人たちは、すっごく頼りになるんだよーっ?」


 ……ふふ。なんだろうなぁ。ニーナにエルフの事を良く言われると、その度にあったかい気持ちになっちゃうよ。

 偽りの英雄譚を背負わされ、孤独な旅を強いられて、ぼくはエルフのことなんか嫌いになったと思っていたのにさ……。





「難しい作業は殆ど無いの。ただアウターから持ってきた土に種を蒔けばいいだけなんだよーっ?」

「え、ええ……? か、簡単すぎて植樹の参考にならないんですけどぉ……」


 あはは。ニーナの説明に、手伝いに来たエルフ達が困惑しちゃってる。

 将来的には細かい雑草を取ったり水やりをしたりはしなきゃいけないけど、種蒔きの時点で気をつけることは特に無いもんねー。


 魔力の豊富なアウターの土を用いれば、小さなお花くらいなら放っておいても育つんだ。

 エルフ達が目指してるような森の木を育てる為には、植物の声を聞いてお世話してあげなきゃダメなんだけどさ。


「あ、そう言えばダンも言ってたの。植物って話しかけたりしてあげると良く育つんだって!」

「え、ダンが? ダンの元居たところって、魔法もエルフも居なかったんじゃなかったっけ?」

「魔法が無い代わりに、色々な事を長い時間をかけて沢山の人が頑張って調べたんだって。だからリーチェみたいに植物の声は聞けないけど、話しかけてあげたお花が綺麗に育つ事は分かったんだって言ってたのー」


 魔法が無い世界で、精霊魔法を使わないと分からない事を調べ上げる為には、いったいどれ程の人はどれ程の研究を重ねる必要があるんだろう。

 そんな世界で育ってきたから、ダンはなんでもかんでも理論立てて考えてしまうのかな?


「ん~、私もお花の声を聞いてみたいの~。リーチェ、私にも精霊魔法って使えないかなーっ? リーチェはどうやって精霊魔法を覚えたのー?」

「んー? ぼくは物心ついた時にはもう精霊魔法を使ってたから、どうやって覚えたのかなんて教えられないよー? 生まれつき使えたんじゃないのかなー」

「生まれつきー? ううん、それは無いと思うのー」

「え?」


 種蒔きの合間の雑談のつもりで話していたのに、想定外のニーナの反応に思わず彼女の顔を見る。

 けどニーナはいつもと同じ緊張感を感じさせない表情で、んーっとねーっと軽い感じで説明をしてくれる。


「リーチェの、というかエルフの精霊魔法ってステータスプレートに発現が記載されてる能力なんだよー? 私の獣化もティムルの熱視も、フラッタの竜化もヴァルゴの魔迅も、ぜーんぶ後天的な能力なの。それと同じだと考えるなら、精霊魔法だって後天的に発現する能力だと思うなー?」

「後天的に発現する能力……? 精霊魔法が……?」


 そんな馬鹿なと否定するのは簡単だけれど……ニーナの説明にぼく自身も賛成だ。


 精霊魔法はエルフ族の種族特性。そう考えれば他の種族と同じように、何らかの発現条件が課せられているはず……。

 なん、だけど……。 


「だとしたら、なんでぼくはそれを知らない……? って、そうか。ぼくの後には殆ど子供が生まれてなかったんだったね、エルフ族は……」


 もしかしたらアルフェッカには、精霊魔法が使えないエルフも住んでいたのかもしれない。

 けれどガルクーザの出現はぼくが8歳の時で、それ以降は常に戦場のような雰囲気だったから……。


「んー、でもリーチェはお姫様なんだし、もしかしたら天才だったのかもしれないねっ。生まれつき精霊に愛されたエルフのお姫様だなんて、とーっても素敵なのーっ!」

「よしてよニーナ~……。ぼくが精霊魔法が得意なのは、姉さんが幼いころから訓練してくれたからだってばぁ」


 思い返せば姉さんは幼いぼくと遊びながら、遊びの中に上手に精霊魔法の訓練を織り交ぜていたのかもしれない。

 宝探しやかくれんぼなんて、今思えばどれも精霊魔法の練習に最適な気がするよ。


「お姉さんはどんな訓練をしてきたのー? それをしたら私も精霊魔法が使えないかなーっ」

「あはは。諦めないねー? だけど姉さんの訓練は精霊魔法を使った探し物とか、精霊魔法を使って隠れる方法とか、精霊魔法を使える人がより上手に扱えるようにする為の訓練だったと思うよー?」

「う~、無理なのかなぁ……? ダンがメタドライブを発動した時みたいに、周囲の魔力から情報を得たり出来ればな~っ!」


 残念だけどニーナ。あれはダンが異常すぎるだけだからね?

 しかもあれ、精霊魔法と触心の会わせ技みたいな能力だったから。ぼくにもキュールにも再現出来ない、ダンだけの特殊能力だから。


「まぁまぁニーナ。ダンの故郷の人たちみたいに、魔法が使えなくても植物に心があると突き止めた人だっているんだ。出来ないと諦めるのは早いかもしれないよ?」

「え~? でもその人たちってさぁ。ダンが私たちのことしか考えてないみたいに、ずーっとずーーーーっとお花ことしか考えてない人たちだと思うのっ。そんな人たちと同じことなんて、出来る気がしないの~……」


 それは仕方ないよニーナ。いくら君がお花の事を大好きだからって、もう私たちはダンの事を考えないことなんて出来ないんだからさ。


 だけどダンの世界の人たちといい、それこそダン本人といい、1つのことを突き詰めるっていうのは極限まで視野を狭めるってことなのかもしれない。

 ダンがあれほどまでに職業補正を突き詰めることが出来たのは、彼の興味がぼくたちにしか向いていなかったことも関係がある気がするよ。


「私は始め、ダンの視野の狭さが悲しいって思ったんだけどなー。今はダンの狭い視界がちょっとだけ羨ましくなっちゃうの」

「大切なものだけを見て、余計な事に囚われないんだもんねぇ……。ふふ、正に暴君様って感じだよっ」


 誰よりも視野狭窄のくせして、王国中全ての人を幸せにしちゃうなんて呆れるよ。

 自分の狭い視界の中には一片だって不幸を残しておきたくない理不尽さで、どれ程の人を幸せにしちゃう気なんだろうねっ。


 不幸が大嫌いなダンの傍にいる為に、ぼくたちは常に幸せでいようね、ニーナっ!
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