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652 ※閑話 失伝 警鐘
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「私は……テレスの民を人工的に生み出してでも、テレスの歴史を紡いでいきたいんだ」
カルから提案された、テレスの人間の人工創造計画。
4人全員の賛同が得られないなら諦めるとカルは言うけど、可能性を示唆されてしまった今、知らなかった以前のようにはもう戻れないよ……!
「……カルの望みは分かったわ。そして4人全員の賛成が得られなければきっぱりと諦めると」
「うん……」
頭がグチャグチャになっている私と違って、やっぱり冷静さを保ったコルが1番に口を開く。
コルの問いかけに神妙に頷いたカルは、力なく笑顔を浮かべながら言葉を続ける。
「流石に事の重大さは理解してるつもりだからさー。1人でも反対なら止めとくよー」
「そう……。じゃあここはリーダーの私から私見を述べさせていただくわね」
リーダーの私から、かぁ。
つまり今から順番に自分の意見を言わなきゃいけないんだ……。
みんなの注目が集まる中、ふぅっと息を吐いてから、意を決したように自分の意見を発するコル。
「……感情的には、私もテレスの血を絶やしたくないわ。だけど越界調査隊のリーダーとしては、生命体創造に何らかの危険性があることも憂慮しなければいけない。なので私は気持ちは賛成、後は実行可能かどうかを詳しく説明してもらった上で、もう1度考えたいと思ってる」
「あっ……」
コルの発言を聞いて、私は目からウロコが落ちたような感覚になった。
そっか。何も今すぐ最終決定を下す必要は無いんだ。4人で話し合った後に意見を変えたっていいんだね。
なら私も自分の気持ちに正直になろう。
私はカルの提案に対して、どんな気持ちを抱いているのかな……。
「どうやらメルはまだ意見が固まっていないようだから、先に私の考えを述べさせて貰うよ」
私が考え込んだのを見て少し笑顔を浮かべたミルが、はっきりとした口調で自分の意見を発表する。
「私は個人的にも、そして戦闘員としての立場的にもカルの提案に賛成だ。出来る出来ないは置いておくにしても、今の人類はまだまだ少なすぎるからね。想定外の事態が起こった瞬間全滅してもおかしくない」
「ちょっとミルー。想定外の事態とか言い出しちゃったらキリが無いでしょー?」
「それは認める。けど人が多ければ、どんな事態が起きても人類が存続できる可能性は上がってくれるはず。そういう意味で人口を増やせるなら増やすべきだと愚考するよ」
何人が犠牲になっても、1人でも生き残る可能性を上げる為に人を増やすべき。ミルはそう言ってるんだね……。
一見冷徹な意見にも感じるけれど、そもそも今の私たちの状況が他の世界の滅亡の上に成り立っているとするなら、ミルの考え方はその延長線上に過ぎないんだ。
私たちはもう、個人単位の倫理観を扱っていい状況では無いのかなぁ……。
コルも賛成、ミルも賛成か。後は私が賛成すれば、テレス人の人工創造計画がスタートする。
けれど私の頭は、未だに結論を見出せずにいる。
「……ねぇカル。私、まだ結論が出せないんだけどさ。1つ聞いていいかな?」
「……なぁに? 何でも聞いてくれていいぜー? スリーサイズから好みのタイプ、性感帯までなんでも答えちゃうよー?」
私の問いかけを弱々しく茶化すカル。
それが震える声で小さく息を飲んだ彼女の、精一杯の虚勢であることが伝わってくる。
「カルさ。この世界の環境作りの時に、環境への影響に凄く配慮してたじゃない? だけど知的生命体……テレス人の創造なんて、周囲への影響は最大クラスだと思うんだ」
「……だろうね。人類のせいでテレスの環境は悪化し、最後は滅亡してしまったわけだし、人類を増やす事が環境に与える影響は計り知れないだろうなー」
「でしょ? そんなことは私よりもずっと分かってるカルが、それでも人類の創造に着手したいって思ったのはなんで? あの時のカルと今のカルだと、言ってる事が違って聞こえて違和感を覚えちゃうんだ」
コルとミルは口を出さずに、私とカルの会話を黙って見守ってくれている。
後は私さえ賛成すれば人工生命体の創造に着手できるのに、誰1人無理強いしようとしてこないこのメンバーが大好きだから……。
賛成するにしても反対するにしても、みんなの考え、ちゃんと知っておきたいんだ……!
「…………正直、何を聞かれるんだろうなーってビクビクしたけど……。そんなことかよメル~」
「へ……?」
拍子抜けしたとばかりに息を吐いたミルは、面倒臭そうに頭を掻きながら肩を竦めて私に言った。
「メルー。ちょっと考えれば分かることだぜー? 簡単に言えば、今と以前じゃ状況が変わったってことだけどさー」
「……ごめんカル。具体的に言ってくれない? 良く分からないわ」
「あのさぁメル。現在この世界にはガイアの民を皮切りに、既に4つの世界から人類が転移してきてるんだぜー? 彼らを受け入れることと人工生命体を作り出すこと。環境へのリスクは大差無いと思わねー?」
「…………あっ」
知的生命体の創造による環境への悪影響とかを懸念しつつも、私たちは既に他の世界から転移して来た人たちを保護していたんだ……。
自然繁殖する人工生命体以上に、成人でかつ集団で転移してくる避難民の方が遥かに環境への影響は大きいよね……。
「メルの言い分は分かるよ。確かに私は人類どころか、動植物の創造にすら慎重だったからなー。でもさぁ。今後も更に異世界から人類が転移してくるかもしれねーのに、人工生命体のリスクもなにも無くねー? って話なんよー」
「あ……。パンゲニアの人たちで終わりとも限らないんだ、ね……」
そうだ。カルが生命体の創造に慎重になっていたのは、まだ微生物すらいない段階だったっけ……。
けれど今は、私たちの意思に関係なく異世界から人類の集団が転移してくる可能性が常にある状態だ。
こうなっては、倫理観を理由に反対するならともかく、環境、社会性への影響を理由に人類創造を語っても意味が無い段階にきているのかぁ……。
「……ごめん。状況が違うって、指摘されるまで気付かなかったよ」
「多分気付いてないのメルだけだぜー? だからコルもミルも迷わず賛成の意を示してくれたんだと思うなー?」
カルの言葉に2人の顔を見ると、コルはニヤニヤしながら、ミルは申し訳無さそうに頷いてくれた。
あー、ごめんミル。貴女は何も悪く無いからそんな顔しないでいいからね……?
隣りのコルは、あとで絶対にとっちめてやるけどーっ!
「状況の違いは理解できたよ。じゃあ次に聞きたいのは具体的な創造方法だね。カルは私が協力すればテレス人を作り出せると言ったけど、私にはそんなこと出来ないよ? あれってどういう意味だったの?」
「勿論天才魔法技師メルトレスティの腕を見込んでの発言だよー? せっかくだからコルとミルも聞いておくれー」
「言われなくても聞くに決まってるでしょ。さっさと説明なさいっ」
少しだけ雰囲気が和らぐ中、カルによるテレス人の人工創造計画の具体的な方法が説明される。
「私がこのテレス人の創造の可能性に気付いたのは、世界樹を植樹した時だったんだよねー」
元々カルは、精霊魔法によって生命体を生み出すこと自体は出来ていた。
けれどカルのイメージを元に生み出される生命体はあまり複雑な機能を備えることが出来ず、単純な木を生み出すことは出来ても、世界樹のような特殊な機能を付与する為には魔法技師である私の協力が不可欠だった。
けれど、そこでミルは気付いたのだ。
ミルの精霊魔法を私が調整することで、人類のような複雑怪奇な生命体を生み出せる可能性に。
「いやいや!? さっ、流石に私だって人間の緻密なデータなんて持ってないよ!? そんな膨大な情報をどうやって集めて精霊魔法に込めるのよ!?」
「そこはコルの出番なんだよねー。コルは精霊魔法でガイアの人たちとかの組成すら調べてたでしょ? だからコルが抽出した私たちテレス人のデータを、メルの技術によって私の精霊魔法に込められれば……」
「理論上は可能ってわけね……。なるほど、思ったよりも考える価値がありそうだわ」
カルの説明を聞いて、コルが計画に実現性を見出したようだ。
確かに解析、分析能力に優れているコルの精霊魔法で私たちを解析すれば、テレス人の魔力を再現することは可能かもしれない。
けど、魔法強化技術は私でも再現出来ないし、魔法強化された私たちを元にテレス人を復元するのはリスクがありそうな……。
「ん~。とりあえず1度試してみるのがいいんじゃないかな」
誰もが黙り込んで考え込む中、軽い感じでミルが提案してくる。
そ、そんな気軽に試していいことじゃないと思うんだけどぉ……?
「まずは1人テレス人を生み出すべきだと思うんだ。その上で問題が起こりえるならそれ以上の創造を止めればいいだけだよ。1人じゃ自然繁殖できないんだから」
「確かにミルの言う事も一理あるけど……。例えば作り出したのが男性の場合、私たちの誰かと子供を作っちゃう可能性もあるんじゃないの~?」
「可能性とか言い出しちゃったらキリが無いんじゃなかったっけ? まぁいいけど」
からかうような口調の中に真剣みを織り交ぜてきたコルの問いかけに、ミルは肩を竦めながら先ほどコルに言われたセリフで応戦する。
「で、それはそれで構わないと私は思ってるんだ。双方の合意の上での繁殖行為なら、私は自然繁殖だと思うからね」
「あ~……。なんか4人とも孕まされる未来が見えるわ~……」
「変な未来を想像しないでよーっ! そんな心配するくらいなら女性で試せばいいだけでしょーっ」
って、私自身も完全に賛成の立場で話しちゃってる……?
危機的な状況も、環境に配慮しても仕方ない段階も、テレスの血を絶やしたくない心情も、そして実現できそうな事情も理解できるんだけど……。
なんだか嫌な予感が止まらない。
何か致命的な間違いを犯しそうになっているのに、私自身がそこに向かって一直線に進んでいるような、漠然とした不安が止まらない……。
「ともかく、私もミルも賛成の意を示したわ。カルの説明を聞いて、意外と現実的な計画であることも分かった。だからメル。そろそろ貴方の意見を聞かせて?」
「……ん。そう、だね」
「もしも貴女が反対しても誰も咎めないわ。そもそもが絶滅まっしぐらの状況なんですもの。だから私たちに気を遣わずに、貴方の本音を聞かせてくれる? 魔法技師メルトレスティ」
考えが纏まらない。不安が治まらない。けれどもう時間が無い。
私の魂が全力で警鐘を鳴らしているけれど、その原因が分からない。
私の知識と経験、それと心情的には3人に賛成したいのに、もっと深い部分の何かが私にずっと警告しているように思えた。
「……多分、これは賛成しても反対しても、どちらを選んでも後悔する選択だと思う」
「……かもね。でも人生なんてそんなものよ?」
うん。分かってる。分かってるよコル。
どちらにしても後悔するなら、私が選ぶべき道は、私が選びたい道はこっちだ……!
「私も賛成、だよ。私もテレスの血を絶やしたくない。だからみんなと協力して、テレスの人を生み出したいと思ってる。でも……」
「ん、なぁにメル? 気にしないで言っちゃいなさい」
「……でも、さっきから不安が止まらないんだ。魔法技師としての知識と経験が計画の実現性を保証してくれてるし、私の心はみんなと同じようにテレスの血を絶やしたくないって思ってる。けど、もっと深い部分から、どうしようもない不安が滲み出てきて止まらないの……!」
みんなと同じ方向を向いて、みんなと協力したい。
だけど自分の魂が、さっきからずっと警鐘を鳴らしてる。
それを曝け出すことで、自分じゃ漠然として分からない不安をみんなに聞いてもらうことで、私の不安の正体を知りたい……!
「……はっはー。実はねメル。私も同じなんだー」
「……え?」
「このイザラカルタ様ともあろう者が、人類の創造、神の領域に足を踏み入れる事にビビっちまってんのさー……」
肩を竦めながら力なく笑うカル。
いつも自信満々な天才肌のカルでも、私と同じように不安になったりするの……?
「世界樹の植樹までは楽しいだけだった。けど流石に人類の創造は植樹とはわけが違うっつーかねー。ぶっちゃけっと、迷ったから相談したんじゃないのさー。私1人じゃ抱えきれないからみんなに相談したんだわー……」
「はっ! カルとメル、2人の専門家の警鐘ねぇ? 無視するのは結構リスクが大きいと思うけど……」
「なんせ人類の創造だからね……。2人ほどじゃないけど、私も正直ゾクゾクしたものは感じてる。コルもでしょ?」
「……まぁね。一応リーダーとして隠し通すつもりだったんですけどねー?」
私だけじゃなくて、4人全員が言いようのない不安に襲われている。
けれどそれでもテレスの血を絶やさない為には、人工的にテレス人を生み出すしかない事も分かっている。
「メルトレスティ。イザラカルタの2人に問うわ。漠然とした不安を抱えていても、その不安が分からないままでも……。それでも2人は着手したいかしら?」
「「…………うんっ!」」
「……了解よ。これで4人全員の了承を得たと判断。リーダーコルモマエサの名に於いて、テレス人の人工創造計画の開始を宣言します」
最後はまるで自分が責任を取るとでも言うかのように、自分の名前で高らかに計画の開始を宣言するコル。
これでもう後戻りは出来ない。
私たちはこれから、人類をこの手で生み出さなきゃいけないんだ……!
さっきから胸の奥底が軋むくらい不安で仕方が無い。
けれどテレスの血を絶やさない為に、そしてみんな一緒に幸せになるために……。
こんな漠然とした恐怖心に負けずに、絶対にハッピーエンドの大団円を目指してやるんだからっ!
カルから提案された、テレスの人間の人工創造計画。
4人全員の賛同が得られないなら諦めるとカルは言うけど、可能性を示唆されてしまった今、知らなかった以前のようにはもう戻れないよ……!
「……カルの望みは分かったわ。そして4人全員の賛成が得られなければきっぱりと諦めると」
「うん……」
頭がグチャグチャになっている私と違って、やっぱり冷静さを保ったコルが1番に口を開く。
コルの問いかけに神妙に頷いたカルは、力なく笑顔を浮かべながら言葉を続ける。
「流石に事の重大さは理解してるつもりだからさー。1人でも反対なら止めとくよー」
「そう……。じゃあここはリーダーの私から私見を述べさせていただくわね」
リーダーの私から、かぁ。
つまり今から順番に自分の意見を言わなきゃいけないんだ……。
みんなの注目が集まる中、ふぅっと息を吐いてから、意を決したように自分の意見を発するコル。
「……感情的には、私もテレスの血を絶やしたくないわ。だけど越界調査隊のリーダーとしては、生命体創造に何らかの危険性があることも憂慮しなければいけない。なので私は気持ちは賛成、後は実行可能かどうかを詳しく説明してもらった上で、もう1度考えたいと思ってる」
「あっ……」
コルの発言を聞いて、私は目からウロコが落ちたような感覚になった。
そっか。何も今すぐ最終決定を下す必要は無いんだ。4人で話し合った後に意見を変えたっていいんだね。
なら私も自分の気持ちに正直になろう。
私はカルの提案に対して、どんな気持ちを抱いているのかな……。
「どうやらメルはまだ意見が固まっていないようだから、先に私の考えを述べさせて貰うよ」
私が考え込んだのを見て少し笑顔を浮かべたミルが、はっきりとした口調で自分の意見を発表する。
「私は個人的にも、そして戦闘員としての立場的にもカルの提案に賛成だ。出来る出来ないは置いておくにしても、今の人類はまだまだ少なすぎるからね。想定外の事態が起こった瞬間全滅してもおかしくない」
「ちょっとミルー。想定外の事態とか言い出しちゃったらキリが無いでしょー?」
「それは認める。けど人が多ければ、どんな事態が起きても人類が存続できる可能性は上がってくれるはず。そういう意味で人口を増やせるなら増やすべきだと愚考するよ」
何人が犠牲になっても、1人でも生き残る可能性を上げる為に人を増やすべき。ミルはそう言ってるんだね……。
一見冷徹な意見にも感じるけれど、そもそも今の私たちの状況が他の世界の滅亡の上に成り立っているとするなら、ミルの考え方はその延長線上に過ぎないんだ。
私たちはもう、個人単位の倫理観を扱っていい状況では無いのかなぁ……。
コルも賛成、ミルも賛成か。後は私が賛成すれば、テレス人の人工創造計画がスタートする。
けれど私の頭は、未だに結論を見出せずにいる。
「……ねぇカル。私、まだ結論が出せないんだけどさ。1つ聞いていいかな?」
「……なぁに? 何でも聞いてくれていいぜー? スリーサイズから好みのタイプ、性感帯までなんでも答えちゃうよー?」
私の問いかけを弱々しく茶化すカル。
それが震える声で小さく息を飲んだ彼女の、精一杯の虚勢であることが伝わってくる。
「カルさ。この世界の環境作りの時に、環境への影響に凄く配慮してたじゃない? だけど知的生命体……テレス人の創造なんて、周囲への影響は最大クラスだと思うんだ」
「……だろうね。人類のせいでテレスの環境は悪化し、最後は滅亡してしまったわけだし、人類を増やす事が環境に与える影響は計り知れないだろうなー」
「でしょ? そんなことは私よりもずっと分かってるカルが、それでも人類の創造に着手したいって思ったのはなんで? あの時のカルと今のカルだと、言ってる事が違って聞こえて違和感を覚えちゃうんだ」
コルとミルは口を出さずに、私とカルの会話を黙って見守ってくれている。
後は私さえ賛成すれば人工生命体の創造に着手できるのに、誰1人無理強いしようとしてこないこのメンバーが大好きだから……。
賛成するにしても反対するにしても、みんなの考え、ちゃんと知っておきたいんだ……!
「…………正直、何を聞かれるんだろうなーってビクビクしたけど……。そんなことかよメル~」
「へ……?」
拍子抜けしたとばかりに息を吐いたミルは、面倒臭そうに頭を掻きながら肩を竦めて私に言った。
「メルー。ちょっと考えれば分かることだぜー? 簡単に言えば、今と以前じゃ状況が変わったってことだけどさー」
「……ごめんカル。具体的に言ってくれない? 良く分からないわ」
「あのさぁメル。現在この世界にはガイアの民を皮切りに、既に4つの世界から人類が転移してきてるんだぜー? 彼らを受け入れることと人工生命体を作り出すこと。環境へのリスクは大差無いと思わねー?」
「…………あっ」
知的生命体の創造による環境への悪影響とかを懸念しつつも、私たちは既に他の世界から転移して来た人たちを保護していたんだ……。
自然繁殖する人工生命体以上に、成人でかつ集団で転移してくる避難民の方が遥かに環境への影響は大きいよね……。
「メルの言い分は分かるよ。確かに私は人類どころか、動植物の創造にすら慎重だったからなー。でもさぁ。今後も更に異世界から人類が転移してくるかもしれねーのに、人工生命体のリスクもなにも無くねー? って話なんよー」
「あ……。パンゲニアの人たちで終わりとも限らないんだ、ね……」
そうだ。カルが生命体の創造に慎重になっていたのは、まだ微生物すらいない段階だったっけ……。
けれど今は、私たちの意思に関係なく異世界から人類の集団が転移してくる可能性が常にある状態だ。
こうなっては、倫理観を理由に反対するならともかく、環境、社会性への影響を理由に人類創造を語っても意味が無い段階にきているのかぁ……。
「……ごめん。状況が違うって、指摘されるまで気付かなかったよ」
「多分気付いてないのメルだけだぜー? だからコルもミルも迷わず賛成の意を示してくれたんだと思うなー?」
カルの言葉に2人の顔を見ると、コルはニヤニヤしながら、ミルは申し訳無さそうに頷いてくれた。
あー、ごめんミル。貴女は何も悪く無いからそんな顔しないでいいからね……?
隣りのコルは、あとで絶対にとっちめてやるけどーっ!
「状況の違いは理解できたよ。じゃあ次に聞きたいのは具体的な創造方法だね。カルは私が協力すればテレス人を作り出せると言ったけど、私にはそんなこと出来ないよ? あれってどういう意味だったの?」
「勿論天才魔法技師メルトレスティの腕を見込んでの発言だよー? せっかくだからコルとミルも聞いておくれー」
「言われなくても聞くに決まってるでしょ。さっさと説明なさいっ」
少しだけ雰囲気が和らぐ中、カルによるテレス人の人工創造計画の具体的な方法が説明される。
「私がこのテレス人の創造の可能性に気付いたのは、世界樹を植樹した時だったんだよねー」
元々カルは、精霊魔法によって生命体を生み出すこと自体は出来ていた。
けれどカルのイメージを元に生み出される生命体はあまり複雑な機能を備えることが出来ず、単純な木を生み出すことは出来ても、世界樹のような特殊な機能を付与する為には魔法技師である私の協力が不可欠だった。
けれど、そこでミルは気付いたのだ。
ミルの精霊魔法を私が調整することで、人類のような複雑怪奇な生命体を生み出せる可能性に。
「いやいや!? さっ、流石に私だって人間の緻密なデータなんて持ってないよ!? そんな膨大な情報をどうやって集めて精霊魔法に込めるのよ!?」
「そこはコルの出番なんだよねー。コルは精霊魔法でガイアの人たちとかの組成すら調べてたでしょ? だからコルが抽出した私たちテレス人のデータを、メルの技術によって私の精霊魔法に込められれば……」
「理論上は可能ってわけね……。なるほど、思ったよりも考える価値がありそうだわ」
カルの説明を聞いて、コルが計画に実現性を見出したようだ。
確かに解析、分析能力に優れているコルの精霊魔法で私たちを解析すれば、テレス人の魔力を再現することは可能かもしれない。
けど、魔法強化技術は私でも再現出来ないし、魔法強化された私たちを元にテレス人を復元するのはリスクがありそうな……。
「ん~。とりあえず1度試してみるのがいいんじゃないかな」
誰もが黙り込んで考え込む中、軽い感じでミルが提案してくる。
そ、そんな気軽に試していいことじゃないと思うんだけどぉ……?
「まずは1人テレス人を生み出すべきだと思うんだ。その上で問題が起こりえるならそれ以上の創造を止めればいいだけだよ。1人じゃ自然繁殖できないんだから」
「確かにミルの言う事も一理あるけど……。例えば作り出したのが男性の場合、私たちの誰かと子供を作っちゃう可能性もあるんじゃないの~?」
「可能性とか言い出しちゃったらキリが無いんじゃなかったっけ? まぁいいけど」
からかうような口調の中に真剣みを織り交ぜてきたコルの問いかけに、ミルは肩を竦めながら先ほどコルに言われたセリフで応戦する。
「で、それはそれで構わないと私は思ってるんだ。双方の合意の上での繁殖行為なら、私は自然繁殖だと思うからね」
「あ~……。なんか4人とも孕まされる未来が見えるわ~……」
「変な未来を想像しないでよーっ! そんな心配するくらいなら女性で試せばいいだけでしょーっ」
って、私自身も完全に賛成の立場で話しちゃってる……?
危機的な状況も、環境に配慮しても仕方ない段階も、テレスの血を絶やしたくない心情も、そして実現できそうな事情も理解できるんだけど……。
なんだか嫌な予感が止まらない。
何か致命的な間違いを犯しそうになっているのに、私自身がそこに向かって一直線に進んでいるような、漠然とした不安が止まらない……。
「ともかく、私もミルも賛成の意を示したわ。カルの説明を聞いて、意外と現実的な計画であることも分かった。だからメル。そろそろ貴方の意見を聞かせて?」
「……ん。そう、だね」
「もしも貴女が反対しても誰も咎めないわ。そもそもが絶滅まっしぐらの状況なんですもの。だから私たちに気を遣わずに、貴方の本音を聞かせてくれる? 魔法技師メルトレスティ」
考えが纏まらない。不安が治まらない。けれどもう時間が無い。
私の魂が全力で警鐘を鳴らしているけれど、その原因が分からない。
私の知識と経験、それと心情的には3人に賛成したいのに、もっと深い部分の何かが私にずっと警告しているように思えた。
「……多分、これは賛成しても反対しても、どちらを選んでも後悔する選択だと思う」
「……かもね。でも人生なんてそんなものよ?」
うん。分かってる。分かってるよコル。
どちらにしても後悔するなら、私が選ぶべき道は、私が選びたい道はこっちだ……!
「私も賛成、だよ。私もテレスの血を絶やしたくない。だからみんなと協力して、テレスの人を生み出したいと思ってる。でも……」
「ん、なぁにメル? 気にしないで言っちゃいなさい」
「……でも、さっきから不安が止まらないんだ。魔法技師としての知識と経験が計画の実現性を保証してくれてるし、私の心はみんなと同じようにテレスの血を絶やしたくないって思ってる。けど、もっと深い部分から、どうしようもない不安が滲み出てきて止まらないの……!」
みんなと同じ方向を向いて、みんなと協力したい。
だけど自分の魂が、さっきからずっと警鐘を鳴らしてる。
それを曝け出すことで、自分じゃ漠然として分からない不安をみんなに聞いてもらうことで、私の不安の正体を知りたい……!
「……はっはー。実はねメル。私も同じなんだー」
「……え?」
「このイザラカルタ様ともあろう者が、人類の創造、神の領域に足を踏み入れる事にビビっちまってんのさー……」
肩を竦めながら力なく笑うカル。
いつも自信満々な天才肌のカルでも、私と同じように不安になったりするの……?
「世界樹の植樹までは楽しいだけだった。けど流石に人類の創造は植樹とはわけが違うっつーかねー。ぶっちゃけっと、迷ったから相談したんじゃないのさー。私1人じゃ抱えきれないからみんなに相談したんだわー……」
「はっ! カルとメル、2人の専門家の警鐘ねぇ? 無視するのは結構リスクが大きいと思うけど……」
「なんせ人類の創造だからね……。2人ほどじゃないけど、私も正直ゾクゾクしたものは感じてる。コルもでしょ?」
「……まぁね。一応リーダーとして隠し通すつもりだったんですけどねー?」
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「「…………うんっ!」」
「……了解よ。これで4人全員の了承を得たと判断。リーダーコルモマエサの名に於いて、テレス人の人工創造計画の開始を宣言します」
最後はまるで自分が責任を取るとでも言うかのように、自分の名前で高らかに計画の開始を宣言するコル。
これでもう後戻りは出来ない。
私たちはこれから、人類をこの手で生み出さなきゃいけないんだ……!
さっきから胸の奥底が軋むくらい不安で仕方が無い。
けれどテレスの血を絶やさない為に、そしてみんな一緒に幸せになるために……。
こんな漠然とした恐怖心に負けずに、絶対にハッピーエンドの大団円を目指してやるんだからっ!
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青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
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どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
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