異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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8章 新たな王と新たな時代2 亡霊と王

597 好事家の認識

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「つ、つまりぃ……。人間族は種族的に脆弱な分、職業面で優遇されてるってこと、ですかぁ……?」


 キスですっかり出来上がってしまったシャロが、ティムルとキス中の俺に甘えた声で聞いてくる。

 そんなシャロの首筋に舌を這わせ、彼女の白い首に沢山のキスマークをつけて遊ばせてもらう。

 
「職業の浸透も早くて、複数の職業の浸透を同時に進めることが出来るなんて……。人間族への認識が変わりそうです……」

「あはーっ。私達の場合は、人間族って言うよりもダンの能力って認識だからねー。他の人間族への見方はあんまり変わらなかったかしらぁ?」

「追加職業は鑑定と職業設定が無いと真価を発揮出来ないからね。分析官すら珍しいこの世界で好事家が知られていなかったのは仕方ないことだと思うよ」


 リーチェが会ったという分析官も、数世代前に1回会ったきりだって言ってたしな。

 その人がエルフであったなら法王になってる可能性もあったんだけど、確かリーチェは人間って言ってた気がする。ならもう鬼籍に入られているだろう。


「ですがご主人様。種族専用職業の存在を知っている者たちなら、人間族の専用職業を探した事は過去に何度もあったと思うのですけど……」

「うんうん。それは間違いなくあっただろうね」

「……僭主スペルディア家に伝わっていないのは仕方ないにしても、組織レガリアの首魁ですら好事家を浸透させていなかったのですよね? どうして歴史の真実を知るレガリアですら好事家には辿り着けなかったのでしょうか?」


 ナチュラルにスペルディア家を貶めながら、俺にはむはむされている首を傾げるシャロ。


 いやいや、組織レガリアって好事家も好色家も知らないからね? 意外と知らない事が多いんだよ?

 それに、仮にフォアーク神殿で好事家になれたとしても、鑑定と職業設定が無いと職業追加スキルに気づくことは出来ないんじゃ、変な職業に転職しちゃったなぁくらいで話が終わっちゃってたんじゃないかな?


「そもそも好事家の転職条件が厳しいからね。王国最強を謳われていた出会った時のラトリアだって、確か当時は5~7つくらいしか職業浸透が済んでいなかったけど、好事家の条件は職業浸透数10個到達だから」

「は? ならなんで私が好事家に……って! ご主人様! 私とキュールさんにいったいなにしたんですかーーっ!?」


 小声で叫ぶなんてシャロは器用だなぁ。

 でも周囲に気を使って叫び声を我慢したのは偉いよ。ご褒美にほっぺにちゅー。シャロ大好きぃ。


「奈落の最深部はアウターエフェクトが群れで襲ってくる場所だからね。浸透効率が尋常じゃないんだ。あの日だけでキュールもシャロも、10職以上浸透したんじゃなかったっけ」

「事も無げにとんでもないこと言わないでくださいよぉ……。普通は年単位で考えるものなんですよ? 職業浸透って……」

「らしいね。でも今は魔玉による判断基準が出来たから、普通の魔物狩りも一気に浸透を進めてるはずだよー」


 魔玉発光促進が知れ渡ったら基準も変わってくるかもしれないけれど、現時点では魔玉発光1つにつき10レベルくらい上昇していると思えばまず間違いないだろう。

 パーティ構成なんかでも浸透速度が変わってくる為、人間族さんによる浸透ボーナスについては広めない方が無難な気もする。


「……待ってください。仕合わせの暴君の突出した職業浸透数は、奈落という最高の狩場で得られたものであるのですよね?」

「だよー。アウター最深部は何処も効率がいいけど、奈落と終焉の箱庭が今のところ最高効率だったかな?」

「……軽く考えすぎじゃないですかご主人様? それって他の魔物狩りも同じ場所で狩りが出来れば、皆さんの職業浸透数に一気に迫れるってことでしょう……!?」


 俺たち以外の魔物狩りも、ここに来ることさえ出来れば一気に職業浸透が進むのではないか。

 その可能性に到ったシャロは、一気に力をつけてしまった魔物狩りが暴走する事を危惧して慄いているようだ。


 そんなシャロに、見るだけで安心できるような笑顔を浮かべたティムルが答える。


「あはーっ。その心配は無いと思うわよー? 鑑定と職業設定が無ければねー」

「……あ~。結局そこに戻ってくる話なんですねぇ。なるほど……」


 ティムルの回答に一瞬逡巡したシャロだったけど、直ぐに思考を巡らせて納得してしまった。

 戦闘経験は殆ど無い筈なのに、よく一瞬で理解できるなぁ。


 恐らくシャロは、鑑定で浸透具合が分からないにしても職業浸透速度が跳ね上がったら結局危険なんじゃないかと思ったんじゃないだろうか。

 けれどそこで、鑑定だけでは職業情報を見ることが出来ないという事を思い出したのだろう。


 自分が今なんの職業を得ているのか、この先の職業に進む為にはどうすればいいのかなど、鑑定だけでは分からない情報は少なくない。

 だというのに、その前段階である鑑定にすら簡単には辿り着けないんだもんなぁ。


「それにね? 仮に職業浸透数で追いつかれたとしても、ラトリアさんやヴァルゴ、フラッタちゃんの戦闘技術って世界最高水準なのよ。この世に悪が栄える為には、もう職業浸透数だけじゃ足りないのよねー」

「双竜姫の二つ名を持つラトリア様は分かりますけど、まだ年若いフラッタ様やヴァルゴさんの戦闘技術もそこまで高いのですか……」

「その3人が竜化と魔迅を使用して同時に襲い掛かってもダンには勝てないしねー。上には上が居るものなのよー」

「ご、ご主人様って、それほどの実力をお持ちの方なんですねぇ……」


 はえ~……っと、目をまん丸にして感心したように俺を見詰めるシャロ。

 この人色狂いの王女様だったはずなのに、リアクションが可愛すぎて困るなぁ。


「そう言えばシャロには俺の戦っている姿を見せてなかったんだっけ? 奈落では攻撃魔法をぶっ放してただけだったね」

「ス、スレッドドレッドに襲われた事って、ご主人様の中では戦った認識すら無いんですね……」


 ドン引きした様子のシャロの背中を擦りながら少し考え込む。

 シャロは戦闘技術を磨く気があまり無さそうなんだけど、それでも1度俺達の本気の手合わせを見せてやるべきだろうか?


 シャロの職人職も一気に浸透を進めたので、遠目に見れば俺達の動きが見えるようになってるかもしれないし、かっこいいところを見せた後にシャロが盛り上がってくれる気もしちゃうんだよねっ。


「ま、シャロもゆっくりと俺達のことを知ってくれたら嬉しいよ。今回はここまでにしようね」

「えっ? 今回はここまでっていったいどう……」

「待たせて済まんな。入室させてもらうぞ」


 シャロの疑問の声に被せるように、レイブンさんが入室してくる。


 入室して来たのはどうやらレイブンさん1人のようだな。

 結構待たされた気がするけど、職人連合の人間やカイメンとかは一緒じゃないのか。


「職人連合と連絡が取れたのはいいが、奴等ダンを引き渡せの一点張りでな、どうにも話が進まんのだ」

「引き渡せって……。俺の意志を確認する気は無いのかよぉ……。職人ってそういうものなのかもしれないけどさぁ」


 以前アレほどの醜態を晒したっていうのに、一切下手に出る気が無いんだもんなぁ。

 これはもう偉ぶってるとかそういう次元じゃなくて、そういう人種だと割り切って接するしかないかぁ。


「とりあえず、俺達は今日中に話を決着させるつもりで来てるからね。会いに来いって言うなら会いに行ってやるさ」

「む……。ダンはそれでいいのかもしれぬが……。我らアウター管理局としては、職人連合に軽んじられているようで納得がいかんな……」


 あーもう、無駄にプライドばっか高くてメンドくせぇなドワーフ族はっ!

 自信を持つ事は大事だろうけど、中身の無い虚栄心なんか後生大事に抱えてんじゃないよっ、まったく。


「そんなに納得いかないならさぁ。レイブンさんも同席すればいいじゃない」

「……なに?」

「俺はこれ以上時間を無駄にしたくないから、大人しく職人連合の工房に行くつもりだよ。そこにレイブンさんが同行しても気にしないから、レイブンさんも一緒に来ればいいじゃん」

「む……しかしな。職人でもない俺が、職人たちの工房に許可無く足を踏み入れてもいいものか……」

「だーもうっ! ほんっとめんどくせぇなっ! 職人と対立してるのか崇拝してんだかハッキリしろってのーっ!」


 あまりにも面倒臭いレイブンさんの態度に、さっきは堪えた面倒臭いという言葉がついつい口から零れてしまった。


 職人に軽んじられたくないけど、相手を軽んじることも出来ない。

 ドワーフにとって腕の良い職人って、恐らくアイドルみたいな憧れの存在なんだろうな。


 だけどオッサンの揺れ動く乙女心に付き合う義理なんか欠片も無いんだよ?


「俺は以前職人連合の集会所に呼び出されたから案内は要らない。ついてくるかどうかは勝手にすればいいよ。ということでティムル、シャロ。とっとと行ってこよっか」

「まま、待ってくれ……! 集会所に女性を連れて行くつもりなのかっ!?」

「レイブンさんが敬愛する職人共が会いたがってるのは我が家の女神なんでね。それを知りつつ呼びつけられたんだから文句を言われる筋合いも無いよ?」


 慌てるレイブンさんを放っておいて、ティムルとシャロを抱き寄せ退出する。

 ドワーフ族って単純で面倒臭い種族だよな~……。


「あっ、ダン! こっちだこっち!」

「へ?」


 案内された部屋を出て、アウター管理局の入り口前まで戻って来た俺に誰かが声をかけてくる。

 クラクラットにこんなに親しげに話しかけてくる知り合いなんて居たっけ?


「……って、まーたアンタらなの? 毎回俺の迎えを任されるって、実は小間使いにさせられてない?」

「開口一番酷ぇなっ!? 単純に職人連合の中で俺達が1番の若手だってだけだっ!」


 アウター管理局のロビーで俺を待ちうけていたのは2人のヤンキー。

 山脈の産声って工房に所属しているらしい、若手職人のマイスとタリクだった。


 でもこのシチュエーション、前回と丸被りなんだよ?


「前回結構やんちゃしちゃったと思うけど、よく迎えに来てくれる気になったね? 怖いとか苦手意識とか無いわけ?」

「あー……。ぶっちゃけ前回のことはあんまり記憶に残ってなくてよぉ……。結局親方連中のほうが怖ぇんだわ……」

「むしろあれ以来、威張り腐ってた親方連中が大人しくなってな!? 怖いどころか感謝してるくらいなんだよっ」


 ガラ悪くも人懐っこくニコニコと笑顔を浮かべるチンピラ2人。


 くっ……! コイツらくらい感情のままに生きられたら人生滅茶苦茶楽しそうだ……!

 周囲の人間は凄く迷惑被りそうではあるけどもっ!


「でもさぁ。迎えに来てもらって恐縮だけど、俺ってポータルで一気に集会所に移動するつもりだったんだよ? なのに2人が案内役として同行するなら、俺達も徒歩で移動しなくちゃならないわけぇ?」

「俺達も移動魔法に同行させてくれるって発想はねぇのかよ!? ダンだけ集会所に到着して俺達が不在だったら後が怖いんだから絶対にやるなよっ!? 絶対だからなっ!?」


 ……マイス、お前それ、本当に前振りじゃないんだろうなぁ?

 前回の時も押すなよ押すなよ的なことを言いやがったし、実は日本からの転移者だったりしないのかこいつ?


「それに、ダンがいきなり来るとは思ってなかったらしくてよ。今すぐ集会所に行っても親方連中がまだ揃ってねぇんだよ。徒歩で向かってる間に集合しているはずだから、悪いけど徒歩に付き合ってくれや」

「……お前らってなんでそんなに素直なのにガラだけ悪いの?」


 コイツらって本当に根は気のいい奴なんだろうなぁ。

 それでもガラが悪くなるのは、クラクラットの職人界隈が基本的にガラが悪い人ばかりなのかもしれない。


 ここでマイスの期待通りに2人を置き去りにして集会所に転移しても良いんだけど、タリクが言っている事が本当だったら先行しても結局待たされるだけか。

 だったらこの2人と駄弁りながらダラダラ移動した方がまだマシかな?


「先行してマイスの事を告げ口するのも楽しそうだけど、まだ親方連中が集まってないなら仕方ない。徒歩で行くよ」

「なに恐ろしい事を口走ってんだテメェは!? そんなことをしたら工房の裏に埋められちまうっての!」

「え、マジで? それちょっと面白そう。集会所の裏からマイスが生えてたら和むなぁ」

「和まねぇよ! 猟奇的だよ! ダンが次に来るまでに白骨化してるからなっ!?」

「俺の迎えを任されたと思ったら自分にお迎えが来たって? 頓知が利いてるねっ」

「利かせてねぇよ!? 人の生き死にをそんな雑に扱わないでくれねぇかなぁっ!?」


 やばっ。言えば言うほど反応が返ってきて面白すぎるんだよ?

 1つ1つに態々全力でツッコむあたり、マイスってやっぱ真面目なんだろうな。ガラは悪いけど。


「ダンって弄れる相手を見つけると本当に楽しそうにしてるわよねー。ムーリの事をからかうのも大好きみたいだしぃ」

「私達の体を弄るのが大好きな人ですからね。そういう性癖なのかもしれません」

「シャロー。野郎同士の会話から性癖を読み取ろうとするの、やめてくれるー?」


 ただでさえマイスもタリクもがっしりと筋骨隆々で、真っ黒な肌が黒人のマッチョみたいでそっち界隈に人気ありそうなんだよ?

 屈強な2人を脆弱な人間族の俺が職業補正を活かして屈服させるほうが燃え上がったりするの?


 いやいや、何の話だよっ。


 打てば響く鐘のようなタリクとマイスをおちょくりながら、相変わらず殺風景なクラクラットを徒歩でゆっくりと移動する。

 親方連中もこの2人くらい素直に話を聞いてくれたら楽なんだけどなぁ。
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