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7章 家族みんなで冒険譚3 エルフェリアで過ごす夜
538 エルフ族の価値 (改)
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「……………………は?」
エルフェリアに新たなアウターを生み出してみないか?
そう問いかけられたライオネルさんは、言葉の意味が理解できずに完全にフリーズしてしまっている。
でもリュートが世界樹の護りを完成させるまではまだ時間がかかりそうだし、じっくりたっぷりお話しする時間はあるんだよ?
「おーいライオネルさーん。固まってないでそろそろ帰ってきてくれるー? わりと真面目な話なんだよねー」
パンパンと手を叩きながらライオネルさんに呼びかける。
拍手に反応して俺の方に視線は動かしてくれたけど、思考力のほうはまだ固まったままっぽいなぁ。
「せっかくエルフに新しい命が宿って、エルフ族の滅亡が回避されそうなところまで来てるのに、このままじゃエルフ族はお先真っ暗なままなんだよー? だからさっさと立ち直ってってばー」
「え……えぇ……? エルフ族の不妊も解消され始めているのに、お先真っ暗って……。な、なぜ……?」
流石はエルフ族の長を務めているだけあって、エルフ族の将来について言及すると反応を返してくれるライオネルさん。
無事に話の続きが出来そうでひと安心だ。
いくら時間があるとは言え、ずっと固まったままでいられたらどうしようかと思ったよ。
「そりゃ当然、エルフェリアにアウターが存在していないからだよ。宿り木の根を吹っ飛ばした俺が言っちゃいけないとは思うけどね」
「アウターから得られる恵みが無くなった。だから生活がままならなくなるという意味かい? 言わんとしている事は分かるけれど、エルフェリアの外に出られるようになった以上、気にすることではないんじゃないかな?」
「エルフ族の存続って意味なら問題無いと思う。だけどエルフェリア精霊国の立場って意味でなら、アウターが失われた今のエルフェリア精霊国はかなり危険な状態だと思ってるんだ」
スペルド王国で暮らす6つの種族。
その内獣人族と竜人族は、王家である人間族と共にスペルド王国を運営している。
残るエルフ族とドワーフ族、そして魔人族の3種族は、スペルド王国とは別に自分たちの種族の拠点を持って、スペルド王国と付き合っているという関係性だ。
ヴァルハールも竜人族たちの拠点と言えるけれど、一応あそこもスペルド王国内だし、王都スペルディアとも近いからね。
竜人族が独立しているような印象は薄い。
スペルド王国に属している人間族、獣人族、竜人族は、何の問題も無く複数のアウターを利用することが出来る。
暴王のゆりかごの正常化が期待されるドワーフ族も、聖域の樹海で暮らす魔人族たちもアウターを保有していることになる。
そんな中、エルフ族だけが自国にアウターを保有していないのだ。
これはちょっと放置出来ないくらいに由々しき事態だと思う。
「各種族の人口が少ないうちは国としての境界線なんて無きに等しいかもしれない。でも今後は各種族の人口が一気に伸びていくと予想されるから、国同士、種族同士の交流や対立も明確化していくと思うんだ」
「……国同士の交流は分かるとして、対立ってなんだい? 偽りの英雄譚も暴かれ、組織レガリアも壊滅したんだろう? なら種族間で対立する理由なんて……」
「甘いねぇライオネルさん。人間なんて自分とは違う誰かが居れば、それだけで対立する理由には充分なんだよ?」
立場が対立したとしても、必ずしもぶつかり合って傷つけ合うかは分からない。
けれどお互いの意見が食い違い、互いの要望がぶつかり合う事態は必ず起きるんだよ。
ましてや、身体能力も寿命も違う6つの種族が同じ世界で暮らすんだ。
衝突まではいかなかったとしても、お互いの関係性に摩擦が生じるのはどうやっても避けられないだろう。
「種族間で対立する理由が無い? それをエルフのライオネルさんが言っちゃうの? 同種族同士で数百年に渡って対立し、滅亡の危機に瀕しているエルフ族の長である貴方の口から言っちゃう訳?」
「ぐっ……! そ、それは……」
俺の指摘に、痛いところを突かれたと言わんばかりに言葉を詰まらせるライオネルさん。
でも良く考えると、エルフェリア精霊国にあったアウターを破壊した俺が言及して良い話題でもなかったかもしれない。
ここは素直に謝罪しておこう。
「ごめん、流石に今のは言いすぎた。過ぎた事を蒸し返す気は無いよ」
直ぐに頭を下げて、謝罪の言葉と共に前言を撤回する。
ライオネルさんを責めたり傷つける意味は無い。
この人は心からエルフ族の事を憂いている、エルフ族の味方で間違いないのだから。
「俺が言いたかったのは、人が生きていく上で、考え方の違いや能力の差異によって、どうやっても対立は生じるって事なんだ」
「あ、ああ……。確かにエルフ族だけ寿命が違ったりするからね。種族差によって考え方が変わり、そしてぶつかり合うかもしれないというのは分かるよ」
「うん。そういった種族間での意見が対立した時、後ろ盾となってくれるのが国という繋がりだと思うんだよ。エルフェリア精霊国がスペルド王国に対して対等な関係でいられないと、エルフが食い物にされてしまうと思うんだ」
勿論これはエルフに限った話ではなく、魔人族もドワーフ族も同じなんだけどね。
けれど一応は同じスペルド王国に所属しているクラメトーラと、逆にスペルド王国との交流を一切しなくても生きていける守人たちと一緒には語れないだろう。
スペルド王国とは完全に別国扱いのエルフェリア精霊国では事情が異なってくる。
スペルド王国に依存しなければ生きていけないエルフェリア精霊国の立場は、既にとても危うい状態に陥っていると言えるだろう。
「エルフが食い物にされる? ダンさんの言っている意味がよく分からないな」
危機感を募らせる俺に対して、ライオネルさんはいまいちピンと来ていないような様子だ。
500年近く鎖国状態だったわけだし、エルフ族の価値について疎いのも仕方ないか。
「確かにエルフ族は数を減らしてはいる。けれどほぼ全てのエルフ族が500年を超える年月、歳を重ねているんだよ? たとえ意見が対立しようと、他の種族に簡単に良い様にはされないさ」
「個人単位なら賛成したいところなんだけどねぇ。国同士、種族同士で考えたら、その考えは甘すぎるんだって……」
「個人ではなく、国同士?」
「現在存命中のエルフ族って、300人にも満たないんでしょ? 本来最も稀少とされる竜人族の100分の1も居ないんだよ? 仮に10000人の竜人族がエルフェリアに攻め込んできたらどうするのさ?」
「……っ」
エルフェリア精霊国が滅亡する想像でもしたのか、ライオネルさんが息を呑む。
この様子だと、人口の激減したエルフェリア精霊国が大多数の人間に攻め込まれるという発想はライオネルさんには無かったようだ。
この世界って人口が少ないのと魔物が跋扈しているおかげで、人間同士の大規模戦闘という発想が無いんだよね。
殺し合いをしていたはずのエルフ族ですら、戦争っていう概念に疎すぎる。
「国家間のパワーバランスを維持するためには、軍事力って絶対に必要なんだよライオネルさん」
「軍事力……。軍隊、か……」
渇いた声で俺のセリフを復唱するライオネルさん。
この世界には憲法9条なんて存在しないんだよ?
仮に存在してても、憲法だけじゃ国は護れないんだけどさ。
「それにねライオネルさん。俺が甘いって言ってるのは、争いが起きた時に抗えるかどうかって話じゃなくて、エルフという種族の価値に対する認識についても言っているんだ」
「……ん、済まない。それもよく分からないかな……。エルフ族の種族としての価値?」
「分かりやすく言うと、他種族から見たエルフ族って、ほんっとうに魅力的な種族だってこと。力ずくで屈服、服従させる価値があるんだよ、エルフ族にはね」
未だピンと来ていないライオネルさんに、他の種族から見たエルフ族の価値を1つ1つ説明していく。
基本的に美男美女ばかりの外見的な水準の高さ。
そのうえ長命なので数百年経っても若々しく、他の種族が生涯を終える間はほぼ容姿が劣化しない。
エロい事に積極的な上、他の種族とエロい事をしやすいような身体的性質。
体液が甘かったり、他の種族とはどれだけ肌を重ねても絶対に妊娠しないなどの特性も兼ね備えている。
戦闘面で見ても産まれた時から魔法使いになる資格を得ていて、魔物狩りとしても有用だ。
精霊魔法まで視野に入れれば、対人戦では最強クラスの戦力にもなりうる可能性を秘めている。
更にはマジックアイテムの開発も得意で、現在でもスペルド王国のマジックアイテム開発に多数のエルフが参加しているし、世界樹の護りの専用装備化なんて技術も抱えていたりする。
我が家のエロス大明神リュートを例に挙げるまでも無く、エルフ族ってあらゆる面で有用すぎるんだよ?
エロ目的だけでも全てを投げ打って手に入れる価値があるのに、戦闘でも諜報でも日常生活においても、エルフ族が無価値になる瞬間って全く無いんだ。
「更にこの世界には従属魔法があるでしょ? そしてこれはあまり広めたくない事実なんだけど、従属魔法もスキル融合で強化が可能なんだ」
「な、なんだって……!? 従属魔法が強化される!?」
「詳しくは明かさないけど、強化された従属魔法は本人の意思に反したことも結構やらせることができるし、奴隷商人だけでは契約の破棄も出来ないんだよ」
ん? 説明しながら思い至ったんだけど、召喚士まで浸透していたノーリッテが奴隷にしたシルヴァを解放したとき、俺の従属魔法ってまだ強化されてなかったような……?
だけどカイメンが奴隷契約を破棄出来なかった事を考えると、俺の説明に誤りがあるとは思えない。
ならなんであの時は奴隷契約の破棄に成功したんだろう?
あの時の俺って職業浸透数が50を超えていたような記憶があるし、魔法攻撃力上昇補正で従属魔法の威力も上がっていたのかな?
まぁいいや。今はもう従属魔法は強化済みだし、今更検証する意味は無いだろ。
「もし俺がスペルディア家だったら、強化された従属魔法でエルフを1人残らず奴隷にして、その最高の肉体を好き放題味わいながら繁殖を促していくだろうね。好色家があれば延々と肌を重ねられるし、エロ方面以外でも優秀すぎて何人居ても持て余すことも無いしさ」
エルフ族の全ての女性を好き放題に犯しながら、エルフ族の男性に魔物狩りをさせて生計を立てる。
飽きた女性を男性にあてがい交配させ、産まれたエルフを全て自分の奴隷として隷属化していく。
まさに寝室に篭ったまま女を抱くだけの理想の生活だ。
そして既に今の俺には実現可能な生活でもある。
1000年を生きるというエルフ族にとっては俺の寿命なんて一瞬のことなのかもしれないけれど、奴隷契約を誰かに譲渡されたらなす術が無いだろう。
「そして何より問題なのが、エルフ族自身がエロに積極的過ぎることなんだよ」
「くっ……! ちょっと前までは性に淡白だなんて言われていた筈なのに……!」
「もう既に異種族と交わっているエルフが居るんでしょ? ならエルフのエロ方面での価値を隠蔽するのはもう無理だろうし、隠そうとしてもエルフ自身が拡散していくと思うんだよねー」
「エ、エルフ族に価値があると言われて、ちょっと嬉しく感じてしまう自分が恨めしいよ……! 他種族との性に溺れた生活も悪くはないんじゃないかと思ってしまう自分が恥ずかしい……!」
……うん、それ普通に恥ずかしい奴だね。
なにをそんなに悔しそうに歯軋りしてるんだよ。
奴隷化されてエロエロな日々を送る事を期待するの、やめてもらっていいっすかね?
ほんっとこの世界のエルフってエロフだわぁ。
創作物でよく見かけたエルフ狩りの話も、この世界のエルフたちなら自分たちから率先して狩られに行きそうだから困るよ。
「エルフ族が他の種族に隷属して、エロエロで爛れた生活を送りたいって言うなら止めないよ? けど今の状態だと、エルフ族の意志を無視してその状態に突入しそうだから心配してるんだよ」
「いやっ! 流石にそんな状況は望んでないよ! というか、1度でもそんな状況になってしまったら、箍が外れて何処までも落ちていってしまいそうだ……!」
「ああ……。エルフって見栄っ張りなだけで、本当はエロエロ大歓迎だもんね……。って、これじゃ堂々巡りだよ、まったく……」
100人規模のエルフ女性に埋もれた性生活に憧れなくもないけれど、いい加減エロスから離れよう。
下手したら喜んで受け入れられそうなので、あまり深く踏み込んではいけない話題だ。
……お互いさっきからエロい事しか会話してないな。この人なんて種族の長なのにさぁ。
「近いうちに種族代表会議が開かれるわけだけど、エルフェリア精霊国とクラメトーラ、そして守人の魔人族たちはスペルド王国には属していないというスタンスで参加することになると思う。実際には王国民だったとしてもね」
エロい妄想を振り切る為に、意識してお堅い話題を振ってみる。
守人たちはスペルド王国に属するかどうかが協議されそうだし、ドワーフはスペルディアにスペルド王国民扱いされてないからなぁ。
エルフェリア精霊国と同様、他国みたいな扱いを受けると思われる。
「会議の時に足元を見られないように、エルフェリア精霊国が保有するアウターを用意しておきたいんだ。特定の種族の立場が弱くなると、それはそれで争いが起こっちゃいそうだからさ」
「……ダ、ダンさんの言っている事は分かったけど、レリックアイテムの研究と複製は無謀すぎないかな……?」
「いや、それは心配してないんだ。前例があるからね」
「へ……? ぜ、前例って?」
流石にライオネルさんには分からないか。
俺だって実際に使用された経験があるからこそこの発想に到れたわけだしな。
ノーリッテが俺達に対して使ってきた数々のマジックアイテム。
あれって絶対呼び水の鏡を研究して開発されたマジックアイテムなんだよ。
それに魔力を吸収するだけなら、既にマインドディプリートというマジックアイテムが存在しているんだ。
マインドディプリートの魔力吸収対象はマジックアイテムに触れた人間だけど、その対象を空気中に漂う魔力に変えることが出来たなら、その時点で正位置の魔鍵と同じ性能のマジックアイテムの完成だ。
今まで経験してきた全ての知識を総動員すれば、簡単じゃないにしても開発自体は出来るはず……!
組織レガリアのマジックアイテムの研究資料とか、どこかに残ってないかなぁ?
壊滅させるにしても、もうちょっと色々搾り取ってやるべきだったよ。くそぅ。
エルフェリアに新たなアウターを生み出してみないか?
そう問いかけられたライオネルさんは、言葉の意味が理解できずに完全にフリーズしてしまっている。
でもリュートが世界樹の護りを完成させるまではまだ時間がかかりそうだし、じっくりたっぷりお話しする時間はあるんだよ?
「おーいライオネルさーん。固まってないでそろそろ帰ってきてくれるー? わりと真面目な話なんだよねー」
パンパンと手を叩きながらライオネルさんに呼びかける。
拍手に反応して俺の方に視線は動かしてくれたけど、思考力のほうはまだ固まったままっぽいなぁ。
「せっかくエルフに新しい命が宿って、エルフ族の滅亡が回避されそうなところまで来てるのに、このままじゃエルフ族はお先真っ暗なままなんだよー? だからさっさと立ち直ってってばー」
「え……えぇ……? エルフ族の不妊も解消され始めているのに、お先真っ暗って……。な、なぜ……?」
流石はエルフ族の長を務めているだけあって、エルフ族の将来について言及すると反応を返してくれるライオネルさん。
無事に話の続きが出来そうでひと安心だ。
いくら時間があるとは言え、ずっと固まったままでいられたらどうしようかと思ったよ。
「そりゃ当然、エルフェリアにアウターが存在していないからだよ。宿り木の根を吹っ飛ばした俺が言っちゃいけないとは思うけどね」
「アウターから得られる恵みが無くなった。だから生活がままならなくなるという意味かい? 言わんとしている事は分かるけれど、エルフェリアの外に出られるようになった以上、気にすることではないんじゃないかな?」
「エルフ族の存続って意味なら問題無いと思う。だけどエルフェリア精霊国の立場って意味でなら、アウターが失われた今のエルフェリア精霊国はかなり危険な状態だと思ってるんだ」
スペルド王国で暮らす6つの種族。
その内獣人族と竜人族は、王家である人間族と共にスペルド王国を運営している。
残るエルフ族とドワーフ族、そして魔人族の3種族は、スペルド王国とは別に自分たちの種族の拠点を持って、スペルド王国と付き合っているという関係性だ。
ヴァルハールも竜人族たちの拠点と言えるけれど、一応あそこもスペルド王国内だし、王都スペルディアとも近いからね。
竜人族が独立しているような印象は薄い。
スペルド王国に属している人間族、獣人族、竜人族は、何の問題も無く複数のアウターを利用することが出来る。
暴王のゆりかごの正常化が期待されるドワーフ族も、聖域の樹海で暮らす魔人族たちもアウターを保有していることになる。
そんな中、エルフ族だけが自国にアウターを保有していないのだ。
これはちょっと放置出来ないくらいに由々しき事態だと思う。
「各種族の人口が少ないうちは国としての境界線なんて無きに等しいかもしれない。でも今後は各種族の人口が一気に伸びていくと予想されるから、国同士、種族同士の交流や対立も明確化していくと思うんだ」
「……国同士の交流は分かるとして、対立ってなんだい? 偽りの英雄譚も暴かれ、組織レガリアも壊滅したんだろう? なら種族間で対立する理由なんて……」
「甘いねぇライオネルさん。人間なんて自分とは違う誰かが居れば、それだけで対立する理由には充分なんだよ?」
立場が対立したとしても、必ずしもぶつかり合って傷つけ合うかは分からない。
けれどお互いの意見が食い違い、互いの要望がぶつかり合う事態は必ず起きるんだよ。
ましてや、身体能力も寿命も違う6つの種族が同じ世界で暮らすんだ。
衝突まではいかなかったとしても、お互いの関係性に摩擦が生じるのはどうやっても避けられないだろう。
「種族間で対立する理由が無い? それをエルフのライオネルさんが言っちゃうの? 同種族同士で数百年に渡って対立し、滅亡の危機に瀕しているエルフ族の長である貴方の口から言っちゃう訳?」
「ぐっ……! そ、それは……」
俺の指摘に、痛いところを突かれたと言わんばかりに言葉を詰まらせるライオネルさん。
でも良く考えると、エルフェリア精霊国にあったアウターを破壊した俺が言及して良い話題でもなかったかもしれない。
ここは素直に謝罪しておこう。
「ごめん、流石に今のは言いすぎた。過ぎた事を蒸し返す気は無いよ」
直ぐに頭を下げて、謝罪の言葉と共に前言を撤回する。
ライオネルさんを責めたり傷つける意味は無い。
この人は心からエルフ族の事を憂いている、エルフ族の味方で間違いないのだから。
「俺が言いたかったのは、人が生きていく上で、考え方の違いや能力の差異によって、どうやっても対立は生じるって事なんだ」
「あ、ああ……。確かにエルフ族だけ寿命が違ったりするからね。種族差によって考え方が変わり、そしてぶつかり合うかもしれないというのは分かるよ」
「うん。そういった種族間での意見が対立した時、後ろ盾となってくれるのが国という繋がりだと思うんだよ。エルフェリア精霊国がスペルド王国に対して対等な関係でいられないと、エルフが食い物にされてしまうと思うんだ」
勿論これはエルフに限った話ではなく、魔人族もドワーフ族も同じなんだけどね。
けれど一応は同じスペルド王国に所属しているクラメトーラと、逆にスペルド王国との交流を一切しなくても生きていける守人たちと一緒には語れないだろう。
スペルド王国とは完全に別国扱いのエルフェリア精霊国では事情が異なってくる。
スペルド王国に依存しなければ生きていけないエルフェリア精霊国の立場は、既にとても危うい状態に陥っていると言えるだろう。
「エルフが食い物にされる? ダンさんの言っている意味がよく分からないな」
危機感を募らせる俺に対して、ライオネルさんはいまいちピンと来ていないような様子だ。
500年近く鎖国状態だったわけだし、エルフ族の価値について疎いのも仕方ないか。
「確かにエルフ族は数を減らしてはいる。けれどほぼ全てのエルフ族が500年を超える年月、歳を重ねているんだよ? たとえ意見が対立しようと、他の種族に簡単に良い様にはされないさ」
「個人単位なら賛成したいところなんだけどねぇ。国同士、種族同士で考えたら、その考えは甘すぎるんだって……」
「個人ではなく、国同士?」
「現在存命中のエルフ族って、300人にも満たないんでしょ? 本来最も稀少とされる竜人族の100分の1も居ないんだよ? 仮に10000人の竜人族がエルフェリアに攻め込んできたらどうするのさ?」
「……っ」
エルフェリア精霊国が滅亡する想像でもしたのか、ライオネルさんが息を呑む。
この様子だと、人口の激減したエルフェリア精霊国が大多数の人間に攻め込まれるという発想はライオネルさんには無かったようだ。
この世界って人口が少ないのと魔物が跋扈しているおかげで、人間同士の大規模戦闘という発想が無いんだよね。
殺し合いをしていたはずのエルフ族ですら、戦争っていう概念に疎すぎる。
「国家間のパワーバランスを維持するためには、軍事力って絶対に必要なんだよライオネルさん」
「軍事力……。軍隊、か……」
渇いた声で俺のセリフを復唱するライオネルさん。
この世界には憲法9条なんて存在しないんだよ?
仮に存在してても、憲法だけじゃ国は護れないんだけどさ。
「それにねライオネルさん。俺が甘いって言ってるのは、争いが起きた時に抗えるかどうかって話じゃなくて、エルフという種族の価値に対する認識についても言っているんだ」
「……ん、済まない。それもよく分からないかな……。エルフ族の種族としての価値?」
「分かりやすく言うと、他種族から見たエルフ族って、ほんっとうに魅力的な種族だってこと。力ずくで屈服、服従させる価値があるんだよ、エルフ族にはね」
未だピンと来ていないライオネルさんに、他の種族から見たエルフ族の価値を1つ1つ説明していく。
基本的に美男美女ばかりの外見的な水準の高さ。
そのうえ長命なので数百年経っても若々しく、他の種族が生涯を終える間はほぼ容姿が劣化しない。
エロい事に積極的な上、他の種族とエロい事をしやすいような身体的性質。
体液が甘かったり、他の種族とはどれだけ肌を重ねても絶対に妊娠しないなどの特性も兼ね備えている。
戦闘面で見ても産まれた時から魔法使いになる資格を得ていて、魔物狩りとしても有用だ。
精霊魔法まで視野に入れれば、対人戦では最強クラスの戦力にもなりうる可能性を秘めている。
更にはマジックアイテムの開発も得意で、現在でもスペルド王国のマジックアイテム開発に多数のエルフが参加しているし、世界樹の護りの専用装備化なんて技術も抱えていたりする。
我が家のエロス大明神リュートを例に挙げるまでも無く、エルフ族ってあらゆる面で有用すぎるんだよ?
エロ目的だけでも全てを投げ打って手に入れる価値があるのに、戦闘でも諜報でも日常生活においても、エルフ族が無価値になる瞬間って全く無いんだ。
「更にこの世界には従属魔法があるでしょ? そしてこれはあまり広めたくない事実なんだけど、従属魔法もスキル融合で強化が可能なんだ」
「な、なんだって……!? 従属魔法が強化される!?」
「詳しくは明かさないけど、強化された従属魔法は本人の意思に反したことも結構やらせることができるし、奴隷商人だけでは契約の破棄も出来ないんだよ」
ん? 説明しながら思い至ったんだけど、召喚士まで浸透していたノーリッテが奴隷にしたシルヴァを解放したとき、俺の従属魔法ってまだ強化されてなかったような……?
だけどカイメンが奴隷契約を破棄出来なかった事を考えると、俺の説明に誤りがあるとは思えない。
ならなんであの時は奴隷契約の破棄に成功したんだろう?
あの時の俺って職業浸透数が50を超えていたような記憶があるし、魔法攻撃力上昇補正で従属魔法の威力も上がっていたのかな?
まぁいいや。今はもう従属魔法は強化済みだし、今更検証する意味は無いだろ。
「もし俺がスペルディア家だったら、強化された従属魔法でエルフを1人残らず奴隷にして、その最高の肉体を好き放題味わいながら繁殖を促していくだろうね。好色家があれば延々と肌を重ねられるし、エロ方面以外でも優秀すぎて何人居ても持て余すことも無いしさ」
エルフ族の全ての女性を好き放題に犯しながら、エルフ族の男性に魔物狩りをさせて生計を立てる。
飽きた女性を男性にあてがい交配させ、産まれたエルフを全て自分の奴隷として隷属化していく。
まさに寝室に篭ったまま女を抱くだけの理想の生活だ。
そして既に今の俺には実現可能な生活でもある。
1000年を生きるというエルフ族にとっては俺の寿命なんて一瞬のことなのかもしれないけれど、奴隷契約を誰かに譲渡されたらなす術が無いだろう。
「そして何より問題なのが、エルフ族自身がエロに積極的過ぎることなんだよ」
「くっ……! ちょっと前までは性に淡白だなんて言われていた筈なのに……!」
「もう既に異種族と交わっているエルフが居るんでしょ? ならエルフのエロ方面での価値を隠蔽するのはもう無理だろうし、隠そうとしてもエルフ自身が拡散していくと思うんだよねー」
「エ、エルフ族に価値があると言われて、ちょっと嬉しく感じてしまう自分が恨めしいよ……! 他種族との性に溺れた生活も悪くはないんじゃないかと思ってしまう自分が恥ずかしい……!」
……うん、それ普通に恥ずかしい奴だね。
なにをそんなに悔しそうに歯軋りしてるんだよ。
奴隷化されてエロエロな日々を送る事を期待するの、やめてもらっていいっすかね?
ほんっとこの世界のエルフってエロフだわぁ。
創作物でよく見かけたエルフ狩りの話も、この世界のエルフたちなら自分たちから率先して狩られに行きそうだから困るよ。
「エルフ族が他の種族に隷属して、エロエロで爛れた生活を送りたいって言うなら止めないよ? けど今の状態だと、エルフ族の意志を無視してその状態に突入しそうだから心配してるんだよ」
「いやっ! 流石にそんな状況は望んでないよ! というか、1度でもそんな状況になってしまったら、箍が外れて何処までも落ちていってしまいそうだ……!」
「ああ……。エルフって見栄っ張りなだけで、本当はエロエロ大歓迎だもんね……。って、これじゃ堂々巡りだよ、まったく……」
100人規模のエルフ女性に埋もれた性生活に憧れなくもないけれど、いい加減エロスから離れよう。
下手したら喜んで受け入れられそうなので、あまり深く踏み込んではいけない話題だ。
……お互いさっきからエロい事しか会話してないな。この人なんて種族の長なのにさぁ。
「近いうちに種族代表会議が開かれるわけだけど、エルフェリア精霊国とクラメトーラ、そして守人の魔人族たちはスペルド王国には属していないというスタンスで参加することになると思う。実際には王国民だったとしてもね」
エロい妄想を振り切る為に、意識してお堅い話題を振ってみる。
守人たちはスペルド王国に属するかどうかが協議されそうだし、ドワーフはスペルディアにスペルド王国民扱いされてないからなぁ。
エルフェリア精霊国と同様、他国みたいな扱いを受けると思われる。
「会議の時に足元を見られないように、エルフェリア精霊国が保有するアウターを用意しておきたいんだ。特定の種族の立場が弱くなると、それはそれで争いが起こっちゃいそうだからさ」
「……ダ、ダンさんの言っている事は分かったけど、レリックアイテムの研究と複製は無謀すぎないかな……?」
「いや、それは心配してないんだ。前例があるからね」
「へ……? ぜ、前例って?」
流石にライオネルさんには分からないか。
俺だって実際に使用された経験があるからこそこの発想に到れたわけだしな。
ノーリッテが俺達に対して使ってきた数々のマジックアイテム。
あれって絶対呼び水の鏡を研究して開発されたマジックアイテムなんだよ。
それに魔力を吸収するだけなら、既にマインドディプリートというマジックアイテムが存在しているんだ。
マインドディプリートの魔力吸収対象はマジックアイテムに触れた人間だけど、その対象を空気中に漂う魔力に変えることが出来たなら、その時点で正位置の魔鍵と同じ性能のマジックアイテムの完成だ。
今まで経験してきた全ての知識を総動員すれば、簡単じゃないにしても開発自体は出来るはず……!
組織レガリアのマジックアイテムの研究資料とか、どこかに残ってないかなぁ?
壊滅させるにしても、もうちょっと色々搾り取ってやるべきだったよ。くそぅ。
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ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。
※R18描写あり→*
虎の刻の君
皆中透
BL
薫次(くんじ)は、生まれつき体が弱く、気が強い自分の心と真逆なその体を「イレモノ」と呼んで嫌っていた。
ある早朝、そんなイレモノに嫌気がさして、泥酔したまま飛び降りようとしていたところ、突然現れた美男子に唇を奪われる。
「魂と体のバランスが取れてないって言うなら、新しいのあげよっか?」
そう言い始めたその男は、「ハクト」と名乗った。
新しい体を手に入れて、意気揚々と生活を再開した薫次は、次第にあることに気づき始め……。
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