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7章 家族みんなで冒険譚3 エルフェリアで過ごす夜
537 専用装備 (改)
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ムーリからの返済も終わって、アウラの髪の毛も手に入れた。
きっとリュートも待っているだろうし、そろそろエルフェリアに戻らないとな。
そんなことを考えながら、既にお腹いっぱいになっているアウラの中を何度も往復する。
「パ、パパぁ……。も、もう戻るって言ってたじゃないぃ……」
「だってアウラはこれから奈落を探索するんだよ? 可愛い娘が魔力枯渇を起こさないように、パパがしっかり魔力を補充してあげないとねー」
「もうっ、入らないって、ばぁっ……! 溢れてるぅ、溢れてるからぁっ……!」
ニーナよりも成熟した肉体を持つ10歳の愛娘のおっぱいをちゅぱちゅぱとしゃぶり、可愛く美しい嬌声をスパイスにアウラの最奥に注ぎ込み続ける。
ごめんねアウラ。パパは心配性なんだよ。
アウラの中を俺の魔力で過剰に満たしておかないと、心配で心配で仕方ないんだ。
ああ、溢れた分を注ぎ込まないと。ああ、零れた分を流し込まないと。
リュート、もう少しだけ待っててね。俺達の愛娘に万が一があっちゃいけないからさっ。
その後お尻の穴に侵入してきたムーリの舌にアシストされて、ラトリアの母乳をしゃぶりながらアウラの中にひたすら注ぎこみ続けたのだった。
最後にエマにお掃除してもらって満足感いっぱいでエルフェリアに戻ると、残念ながらリュートは出迎えてくれなかった。
代わりに出迎えてくれたのはライオネルさんと、他にもう1人初対面の女性エルフが待っていた。
「待ってたよダンさん。調達してきた素材は彼女に渡してもらえるかな?」
「それは構わないけどリュ……リーチェは? あとこの人はどなた?」
「私はただの案内人ですよ。リーチェは産声の間で既に待機しております」
「産声の間?」
さっきから聞き返してばっかりだな俺。
でも初めて聞く単語をそんな常識みたいに言われても困るんだよ?
この女性がアウラの髪の毛をリュートのところに届けてくれるっぽいのは分かったけどさぁ。
「産声の間とは、母親となったエルフが世界樹の護りの製法を知り、そして製作するための場所です。そこは男子禁制とされておりまして、ダン様でも長ライオネルでもお通しするわけにはいきません」
「という具合に私にも立ち入りが許可されていない場所でね。素材は彼女に運んでもらうのさ」
「ふ~ん? まぁいいけどね。お願いします」
アウラの髪を包んだ布を渡すと、女性は中身をちらりと確認した後、ひと言断って下がっていった。
……取り違えとか起きないだろうな? 流石にそれは心配しすぎか。
「ライオネルさんすら入れてもらえないとは随分厳重だね。世界樹の護りがエルフにとって大切な物なのは理解してるつもりだけど、それでもここまでする必要あるの?」
「ははっ。必要性で言ったら必要無いよ。産声の間で世界樹の護りを製作するのは一種の儀式みたいなものかな」
「儀式?」
「エルフにとって、出産というのは本当に神聖なものなんだ。だから1年ほどお腹を痛めて産んだ我が子に母親が贈る物は、これ以上ないほどに大切に扱われるのさ」
なんでも本来であれば産声の間にて赤子の名前を決めて、世界樹の護りと一緒に我が子に名前を贈るのが通例だったそうだ。
しかし世界樹の中にあった本来の産声の間は世界呪と共に消失してしまい、現在の産声の間はエルフェリアに用意した即席の物らしい。
即席でもなんでもいいからと、身篭ったエルフ達が発覚した時点で大急ぎで用意されたようだ。
エルフにとって新しい命の誕生とは、それほどまでに優先される事柄ということなのだ。
「通常であれば、産声の間を出てくるまでに数時間と言ったところかな?」
「およ? 結構かかるんだね」
世界樹の護りはアクセサリーだし、スキルを使ってハイ終わりって感じかと思ってたんだけど、いったい何にそんなに時間がかかるんだろう?
子供の名前を決めたりするのに女性陣で相談し合うとか? でも今回はアウラ用の世界樹の護りだしなぁ。
「私も詳細は知らないけれどね。世界樹の護りを専用装備化するために必要な手順があるそうなんだ」
「専用装備化に必要な手順かぁ……ってそうだ、専用装備と言えば聞きたい事があったんだ!」
世界樹の護りは個人専用装備。
それは行く先々で聞いてきたことだし、俺もそれ自体を疑ったことはなかった。
けれどまだ俺達の家族が俺とニーナしか居なかった頃、ティムルをうちに迎えるために、ネフネリさんから世界樹の護りを奪還しなきゃいけなくなった。
あの時ネフネリさん宅に押し入り強盗をして、有酸素運動に勤しむネフネリさんを鑑定した時、確かに世界樹の護りが装備品として適応されていたはずだ。
個人の専用装備のはずの世界樹の護りをあっさり装備していたネフネリさん。あれってどういうことだったのかな?
完成までは数時間待たなきゃいけないみたいだし、この際ライオネルさんに聞いてみよう。
「ねぇライオネルさん。以前世界樹の護りを装備している獣人族の女性を見たことがあるんだけど、あれってどういうことだったのかな? 獣人族に世界樹の護りが贈られたとは思えないんだけど」
「……ふぅむ? 里の外に出て行ったエルフも居ないではないが、世界樹の護りをエルフェリアの外で製作できたとは考えにくい。いや、今回ダンさんが素材を用意してくれたし、エルフェリアの外でも素材は揃うのかい?」
「いや、俺が素材を用意したのは全く別のルートだよ。恐らくエルフェリアの外で世界樹の葉と宿り木の枝は流通していないはずだ」
「……それをどうやって用意したのかは気になるけれど、今は置いておこう。獣人族の女性が世界樹の護りを身につけていたという話だったね」
……しまったな。言い方を間違えてしまった気がする。
普通に、個人専用装備を他の人が装備したらどうなるの? って聞くべきだった。
エルフの秘宝である世界樹の護りがエルフェリアの外に流出しているんじゃ? みたいな感じで大事になってしまったような気がして仕方ないんだけど……。
「普通に考えれば、その女性が持っていた世界樹の護りは過去に亡くなったエルフの物だろうね。アウターにでも飲み込まれない限り、装備品である世界樹の護りは残り続けるし」
「あれ? そうなんだ? 個人専用装備なんて言うから、てっきり他人には装備できないものかと思ってたよ」
「そういう技術も魔法の研究が進めばあるいは生まれてくるかもしれないけれど、今のエルフ族にはそんな技術はないよ」
研究次第では生まれる可能性のある技術なのか。
つまり現在の世界樹の護りの個人登録技術も、魔法の研究によって齎された技術ってことになるのかな。
我が家の住人登録用のマジックアイテムみたいなものか?
「じゃあ個人登録、専用装備化ってなんのことなの? 他人が普通に装備できるなら専用でもなんでもなくない?」
「……まぁダンさんになら教えてもいいか。世界樹の護りは精霊魔法に対応していてね。所有者の精霊魔法に反応して淡い翠の光を放つんだ」
「精霊魔法に反応……? それって他の人の精霊魔法じゃ反応しないんだ?」
「そう。始めに登録した者にしか反応しないはず……なんだがね。だがリーチェの世界樹の護りはあの子を主として認めたようだから、あの子の精霊魔法にも反応するんじゃないかな」
「あっ……そう言えば」
世界樹の護りをネフネリさんから奪還する際、リーチェは世界樹の護りを識別することが可能だと言っていた気がする。
あれって精霊魔法で識別が可能って意味だったのか。
「ええっと、つまり世界樹の護りを他の人間が装備すること自体は可能なんだ? 精霊魔法に反応するかしないかってだけで、装備する分には何も問題ないってことで合ってる?」
「ああ。装備自体は出来るはずだ。だがエルフに伝わる古い言い伝えによると、赤の他人が装備しても世界樹の護りは応えないと言われているんだ」
「応えない? ってどういうこと?」
「んー、私にも確証があるわけじゃないんだけど、どうやら世界樹の護りに付与されているスキルが効果を発揮しない、という意味らしい」
「はぁっ!?」
装備は出来るけど、付与されているスキルの効果が発揮されない? そんなことありえるのか?
仮にスキルだけが効果を発揮しないとしても、それをどうやって知ることが出来るんだ?
鑑定で見抜けるのは装備が適用されるまでで、スキルが適用されているかどうかなんて鑑定ですら分からない。
仮にトライラム様がエルフだったとしても、鑑定じゃ分からない情報なんだよ。
しかし……もしもその話が本当だったとしたら、かなり凶悪なペナルティなんじゃないのか?
この世界のアクセサリーって、アクセサリー自体にはほぼ防御効果を期待できないものばかりだ。
アクセサリーを装備する意味は、付与されているスキル効果に期待するから、だよな?
俺とニーナとティムルがアクセサリーを初めて用意した時も、スキルで選んで用意したはずだ。
アクセサリーに付与されたスキルが効果を発揮しないという事は、そのまんまアクセサリー枠を無駄にするという事に他ならない。
貴重な装備枠を1つ丸々失う事になり、しかもそれを装備している本人は気付けないのだ。
ライオネルさんの話が本当だとするなら、かなり重いペナルティだと言わざるを得ないな……。
「ちなみに確証が無いって話だったけど、ライオネルさん自身は本当だと思う? 世界樹の護りが応えないって話」
「はは。エルフの私にとっては常識みたいなものだからね。疑うという発想自体が無いかな? でもその先入観無しでも、私は本当のことだと確信してるよ」
「理由を聞いていい?」
「検証されているからさ。リーチェに聞いているかもしれないけれど、世界樹の護りには耐性スキルが付与されているからね。その効果を検証した記録が残っているのさ」
全状態異常耐性大効果かっ……!
世界樹の護りには確実に大効果耐性が付与されるとするなら、検証を行なうことも不可能じゃないと……!
検証と言うなら、スポットの最深部でテラーデーモンの咆哮を食らった時に、リーチェは恐慌状態に陥ってはいなかったはず。
つまりあの時は間違いなく耐性スキルが適用されてたはずだ。
詐称契約によって世界樹の護りが応えてくれなくなった、みたいな事態は起こらなかったようだ。良かった良かった。
「……ちなみに、今の本人以外には応えないって話、リーチェは知ってるのかな?」
「ん~、どうだろう? 知っていても知らなくても不思議ではないかな? 普通のエルフ族は世界樹の護りを手放すことなんて考えたことも無いはずだからね」
「そっか。ありがとねライオネルさん。去年からの疑問が解けたよ」
「はは。この程度ならなんという事はないよ。私も話していて楽しかったしね」
思いがけず面白い話を聞かせてもらえたなぁ。
スキル適用の個人認証なんて、知らなきゃ絶対に気付けないよ。
面白い話を聞かせてくれたお礼に、ライオネルさんにもなにかしてあげたいところだけど……。
「リーチェの方はもう少しかかりそうなのかな? ライオネルさんはこのまま俺の話に付き合っててくれて大丈夫なの?」
「はははっ! 私が長を任されてから初めての新生の儀なんだよ? 今回は出産を伴わないにしても、これより優先すべきことなんてないさっ」
新生の儀か。新しいエルフの誕生から世界樹の護りを贈るまでの一連の流れを、全てまとめて1つの儀式みたいに捉えているんだなぁ。
ま、つまりライオネルさんと話をする時間は充分にあるってことだ。なら問題ない。
「ねぇライオネルさん。聖域の樹海って知ってる?」
「ああ。この世界の魔力を調節していると言われるアウターのことだね。確か今は侵食の森と言われていて、新しいアルフェッカの近くにあるんだったかな?」
「流石リーチェが最年少の種族。500年前のことも当然知ってるんだねぇ」
聖域の樹海の説明をしなくていいのは助かるな。
それじゃどんどん踏み込んで行きましょうかねーっ。
「ライオネルさん。整合の魔器って知ってる?」
「ん~……? いや、聞いたことがないね」
「じゃあ正位置の魔鍵、逆位置の魔錠、均衡の祭壇については?」
「……それらも聞き覚えが無いねぇ。いったい何の話なのかな?」
首を傾げて聞き返してくるライオネルさんに嘘を吐いている様子は見受けられない。本当に知らないんだろう。
聖域の樹海の役割は知っていても、その中核を成すレリックアイテムのことまでは知らないか。
「聖域の樹海を調査して見つけたレリックアイテムの話なんだ。長命なエルフなら何か知ってるんじゃないかなって思ってさ」
「ほぉ! レリックアイテムかいっ? それはとても興味深い話だねぇ。だけど流石に神が作りたもうたレリックアイテムのことなんて、エルフにだって何も分かりはしないさ」
ふ~む。祝福の神トライラム様がエルフだったとするなら、レリックアイテムを作り出した存在も人間の可能性も出てくると思うんだけど、エルフ族の長であるライオネルさんも神から貰ったものって認識なのか。
神器と他のレリックアイテムを明確に分けている意味、どこかにありそうなんだけどなぁ。
まぁ今はいいか。
ライオネルさんに均衡の魔器の話を振ったのは情報収集のタメじゃないんだから。
「整合の魔器ってレリックアイテムが聖域の樹海の中心にあってね? そのレリックアイテムが魔力を調節し、聖域の樹海を形作っていたみたいなんだよ」
「へ~……! それは興味深い話だよっ。まさかレリックアイテムで聖域が成立していたなんて……!」
好奇心に目を輝かせるライオネルさん。
エルフってマジックアイテムの開発も得意で、魔法にも強い種族みたいだからな。レリックアイテムにも興味があるのかもしれない。
……なら、この話にも興味を持ってくれるかな?
「ねぇライオネルさん。整合の魔器を研究して、エルフェリアに新たなアウターを作ってみない?」
「……………………は?」
俺の提案が飲み込めずに、ライオネルさんは笑顔のままで完全にフリーズしてしまった。
だけど固まってる場合じゃないんだよライオネルさん。
エルフの人口が増えてスペルド王国との交流が盛んになる前に、エルフェリアに新しいアウターを用意しないといけないんだから。
神が作ったというレリックアイテムを人の手で再現しようなんて、もしかしたら神をも恐れぬ行為ってやつなのかもしれない。
でも俺はニーナを愛すると決めたとき、運命にだって神様にだって立ち向かうと決めたんだよね。
愛するリュートとリーチェの幸せの為に……。
挑ませて貰うよ、レリックアイテム製作!
きっとリュートも待っているだろうし、そろそろエルフェリアに戻らないとな。
そんなことを考えながら、既にお腹いっぱいになっているアウラの中を何度も往復する。
「パ、パパぁ……。も、もう戻るって言ってたじゃないぃ……」
「だってアウラはこれから奈落を探索するんだよ? 可愛い娘が魔力枯渇を起こさないように、パパがしっかり魔力を補充してあげないとねー」
「もうっ、入らないって、ばぁっ……! 溢れてるぅ、溢れてるからぁっ……!」
ニーナよりも成熟した肉体を持つ10歳の愛娘のおっぱいをちゅぱちゅぱとしゃぶり、可愛く美しい嬌声をスパイスにアウラの最奥に注ぎ込み続ける。
ごめんねアウラ。パパは心配性なんだよ。
アウラの中を俺の魔力で過剰に満たしておかないと、心配で心配で仕方ないんだ。
ああ、溢れた分を注ぎ込まないと。ああ、零れた分を流し込まないと。
リュート、もう少しだけ待っててね。俺達の愛娘に万が一があっちゃいけないからさっ。
その後お尻の穴に侵入してきたムーリの舌にアシストされて、ラトリアの母乳をしゃぶりながらアウラの中にひたすら注ぎこみ続けたのだった。
最後にエマにお掃除してもらって満足感いっぱいでエルフェリアに戻ると、残念ながらリュートは出迎えてくれなかった。
代わりに出迎えてくれたのはライオネルさんと、他にもう1人初対面の女性エルフが待っていた。
「待ってたよダンさん。調達してきた素材は彼女に渡してもらえるかな?」
「それは構わないけどリュ……リーチェは? あとこの人はどなた?」
「私はただの案内人ですよ。リーチェは産声の間で既に待機しております」
「産声の間?」
さっきから聞き返してばっかりだな俺。
でも初めて聞く単語をそんな常識みたいに言われても困るんだよ?
この女性がアウラの髪の毛をリュートのところに届けてくれるっぽいのは分かったけどさぁ。
「産声の間とは、母親となったエルフが世界樹の護りの製法を知り、そして製作するための場所です。そこは男子禁制とされておりまして、ダン様でも長ライオネルでもお通しするわけにはいきません」
「という具合に私にも立ち入りが許可されていない場所でね。素材は彼女に運んでもらうのさ」
「ふ~ん? まぁいいけどね。お願いします」
アウラの髪を包んだ布を渡すと、女性は中身をちらりと確認した後、ひと言断って下がっていった。
……取り違えとか起きないだろうな? 流石にそれは心配しすぎか。
「ライオネルさんすら入れてもらえないとは随分厳重だね。世界樹の護りがエルフにとって大切な物なのは理解してるつもりだけど、それでもここまでする必要あるの?」
「ははっ。必要性で言ったら必要無いよ。産声の間で世界樹の護りを製作するのは一種の儀式みたいなものかな」
「儀式?」
「エルフにとって、出産というのは本当に神聖なものなんだ。だから1年ほどお腹を痛めて産んだ我が子に母親が贈る物は、これ以上ないほどに大切に扱われるのさ」
なんでも本来であれば産声の間にて赤子の名前を決めて、世界樹の護りと一緒に我が子に名前を贈るのが通例だったそうだ。
しかし世界樹の中にあった本来の産声の間は世界呪と共に消失してしまい、現在の産声の間はエルフェリアに用意した即席の物らしい。
即席でもなんでもいいからと、身篭ったエルフ達が発覚した時点で大急ぎで用意されたようだ。
エルフにとって新しい命の誕生とは、それほどまでに優先される事柄ということなのだ。
「通常であれば、産声の間を出てくるまでに数時間と言ったところかな?」
「およ? 結構かかるんだね」
世界樹の護りはアクセサリーだし、スキルを使ってハイ終わりって感じかと思ってたんだけど、いったい何にそんなに時間がかかるんだろう?
子供の名前を決めたりするのに女性陣で相談し合うとか? でも今回はアウラ用の世界樹の護りだしなぁ。
「私も詳細は知らないけれどね。世界樹の護りを専用装備化するために必要な手順があるそうなんだ」
「専用装備化に必要な手順かぁ……ってそうだ、専用装備と言えば聞きたい事があったんだ!」
世界樹の護りは個人専用装備。
それは行く先々で聞いてきたことだし、俺もそれ自体を疑ったことはなかった。
けれどまだ俺達の家族が俺とニーナしか居なかった頃、ティムルをうちに迎えるために、ネフネリさんから世界樹の護りを奪還しなきゃいけなくなった。
あの時ネフネリさん宅に押し入り強盗をして、有酸素運動に勤しむネフネリさんを鑑定した時、確かに世界樹の護りが装備品として適応されていたはずだ。
個人の専用装備のはずの世界樹の護りをあっさり装備していたネフネリさん。あれってどういうことだったのかな?
完成までは数時間待たなきゃいけないみたいだし、この際ライオネルさんに聞いてみよう。
「ねぇライオネルさん。以前世界樹の護りを装備している獣人族の女性を見たことがあるんだけど、あれってどういうことだったのかな? 獣人族に世界樹の護りが贈られたとは思えないんだけど」
「……ふぅむ? 里の外に出て行ったエルフも居ないではないが、世界樹の護りをエルフェリアの外で製作できたとは考えにくい。いや、今回ダンさんが素材を用意してくれたし、エルフェリアの外でも素材は揃うのかい?」
「いや、俺が素材を用意したのは全く別のルートだよ。恐らくエルフェリアの外で世界樹の葉と宿り木の枝は流通していないはずだ」
「……それをどうやって用意したのかは気になるけれど、今は置いておこう。獣人族の女性が世界樹の護りを身につけていたという話だったね」
……しまったな。言い方を間違えてしまった気がする。
普通に、個人専用装備を他の人が装備したらどうなるの? って聞くべきだった。
エルフの秘宝である世界樹の護りがエルフェリアの外に流出しているんじゃ? みたいな感じで大事になってしまったような気がして仕方ないんだけど……。
「普通に考えれば、その女性が持っていた世界樹の護りは過去に亡くなったエルフの物だろうね。アウターにでも飲み込まれない限り、装備品である世界樹の護りは残り続けるし」
「あれ? そうなんだ? 個人専用装備なんて言うから、てっきり他人には装備できないものかと思ってたよ」
「そういう技術も魔法の研究が進めばあるいは生まれてくるかもしれないけれど、今のエルフ族にはそんな技術はないよ」
研究次第では生まれる可能性のある技術なのか。
つまり現在の世界樹の護りの個人登録技術も、魔法の研究によって齎された技術ってことになるのかな。
我が家の住人登録用のマジックアイテムみたいなものか?
「じゃあ個人登録、専用装備化ってなんのことなの? 他人が普通に装備できるなら専用でもなんでもなくない?」
「……まぁダンさんになら教えてもいいか。世界樹の護りは精霊魔法に対応していてね。所有者の精霊魔法に反応して淡い翠の光を放つんだ」
「精霊魔法に反応……? それって他の人の精霊魔法じゃ反応しないんだ?」
「そう。始めに登録した者にしか反応しないはず……なんだがね。だがリーチェの世界樹の護りはあの子を主として認めたようだから、あの子の精霊魔法にも反応するんじゃないかな」
「あっ……そう言えば」
世界樹の護りをネフネリさんから奪還する際、リーチェは世界樹の護りを識別することが可能だと言っていた気がする。
あれって精霊魔法で識別が可能って意味だったのか。
「ええっと、つまり世界樹の護りを他の人間が装備すること自体は可能なんだ? 精霊魔法に反応するかしないかってだけで、装備する分には何も問題ないってことで合ってる?」
「ああ。装備自体は出来るはずだ。だがエルフに伝わる古い言い伝えによると、赤の他人が装備しても世界樹の護りは応えないと言われているんだ」
「応えない? ってどういうこと?」
「んー、私にも確証があるわけじゃないんだけど、どうやら世界樹の護りに付与されているスキルが効果を発揮しない、という意味らしい」
「はぁっ!?」
装備は出来るけど、付与されているスキルの効果が発揮されない? そんなことありえるのか?
仮にスキルだけが効果を発揮しないとしても、それをどうやって知ることが出来るんだ?
鑑定で見抜けるのは装備が適用されるまでで、スキルが適用されているかどうかなんて鑑定ですら分からない。
仮にトライラム様がエルフだったとしても、鑑定じゃ分からない情報なんだよ。
しかし……もしもその話が本当だったとしたら、かなり凶悪なペナルティなんじゃないのか?
この世界のアクセサリーって、アクセサリー自体にはほぼ防御効果を期待できないものばかりだ。
アクセサリーを装備する意味は、付与されているスキル効果に期待するから、だよな?
俺とニーナとティムルがアクセサリーを初めて用意した時も、スキルで選んで用意したはずだ。
アクセサリーに付与されたスキルが効果を発揮しないという事は、そのまんまアクセサリー枠を無駄にするという事に他ならない。
貴重な装備枠を1つ丸々失う事になり、しかもそれを装備している本人は気付けないのだ。
ライオネルさんの話が本当だとするなら、かなり重いペナルティだと言わざるを得ないな……。
「ちなみに確証が無いって話だったけど、ライオネルさん自身は本当だと思う? 世界樹の護りが応えないって話」
「はは。エルフの私にとっては常識みたいなものだからね。疑うという発想自体が無いかな? でもその先入観無しでも、私は本当のことだと確信してるよ」
「理由を聞いていい?」
「検証されているからさ。リーチェに聞いているかもしれないけれど、世界樹の護りには耐性スキルが付与されているからね。その効果を検証した記録が残っているのさ」
全状態異常耐性大効果かっ……!
世界樹の護りには確実に大効果耐性が付与されるとするなら、検証を行なうことも不可能じゃないと……!
検証と言うなら、スポットの最深部でテラーデーモンの咆哮を食らった時に、リーチェは恐慌状態に陥ってはいなかったはず。
つまりあの時は間違いなく耐性スキルが適用されてたはずだ。
詐称契約によって世界樹の護りが応えてくれなくなった、みたいな事態は起こらなかったようだ。良かった良かった。
「……ちなみに、今の本人以外には応えないって話、リーチェは知ってるのかな?」
「ん~、どうだろう? 知っていても知らなくても不思議ではないかな? 普通のエルフ族は世界樹の護りを手放すことなんて考えたことも無いはずだからね」
「そっか。ありがとねライオネルさん。去年からの疑問が解けたよ」
「はは。この程度ならなんという事はないよ。私も話していて楽しかったしね」
思いがけず面白い話を聞かせてもらえたなぁ。
スキル適用の個人認証なんて、知らなきゃ絶対に気付けないよ。
面白い話を聞かせてくれたお礼に、ライオネルさんにもなにかしてあげたいところだけど……。
「リーチェの方はもう少しかかりそうなのかな? ライオネルさんはこのまま俺の話に付き合っててくれて大丈夫なの?」
「はははっ! 私が長を任されてから初めての新生の儀なんだよ? 今回は出産を伴わないにしても、これより優先すべきことなんてないさっ」
新生の儀か。新しいエルフの誕生から世界樹の護りを贈るまでの一連の流れを、全てまとめて1つの儀式みたいに捉えているんだなぁ。
ま、つまりライオネルさんと話をする時間は充分にあるってことだ。なら問題ない。
「ねぇライオネルさん。聖域の樹海って知ってる?」
「ああ。この世界の魔力を調節していると言われるアウターのことだね。確か今は侵食の森と言われていて、新しいアルフェッカの近くにあるんだったかな?」
「流石リーチェが最年少の種族。500年前のことも当然知ってるんだねぇ」
聖域の樹海の説明をしなくていいのは助かるな。
それじゃどんどん踏み込んで行きましょうかねーっ。
「ライオネルさん。整合の魔器って知ってる?」
「ん~……? いや、聞いたことがないね」
「じゃあ正位置の魔鍵、逆位置の魔錠、均衡の祭壇については?」
「……それらも聞き覚えが無いねぇ。いったい何の話なのかな?」
首を傾げて聞き返してくるライオネルさんに嘘を吐いている様子は見受けられない。本当に知らないんだろう。
聖域の樹海の役割は知っていても、その中核を成すレリックアイテムのことまでは知らないか。
「聖域の樹海を調査して見つけたレリックアイテムの話なんだ。長命なエルフなら何か知ってるんじゃないかなって思ってさ」
「ほぉ! レリックアイテムかいっ? それはとても興味深い話だねぇ。だけど流石に神が作りたもうたレリックアイテムのことなんて、エルフにだって何も分かりはしないさ」
ふ~む。祝福の神トライラム様がエルフだったとするなら、レリックアイテムを作り出した存在も人間の可能性も出てくると思うんだけど、エルフ族の長であるライオネルさんも神から貰ったものって認識なのか。
神器と他のレリックアイテムを明確に分けている意味、どこかにありそうなんだけどなぁ。
まぁ今はいいか。
ライオネルさんに均衡の魔器の話を振ったのは情報収集のタメじゃないんだから。
「整合の魔器ってレリックアイテムが聖域の樹海の中心にあってね? そのレリックアイテムが魔力を調節し、聖域の樹海を形作っていたみたいなんだよ」
「へ~……! それは興味深い話だよっ。まさかレリックアイテムで聖域が成立していたなんて……!」
好奇心に目を輝かせるライオネルさん。
エルフってマジックアイテムの開発も得意で、魔法にも強い種族みたいだからな。レリックアイテムにも興味があるのかもしれない。
……なら、この話にも興味を持ってくれるかな?
「ねぇライオネルさん。整合の魔器を研究して、エルフェリアに新たなアウターを作ってみない?」
「……………………は?」
俺の提案が飲み込めずに、ライオネルさんは笑顔のままで完全にフリーズしてしまった。
だけど固まってる場合じゃないんだよライオネルさん。
エルフの人口が増えてスペルド王国との交流が盛んになる前に、エルフェリアに新しいアウターを用意しないといけないんだから。
神が作ったというレリックアイテムを人の手で再現しようなんて、もしかしたら神をも恐れぬ行為ってやつなのかもしれない。
でも俺はニーナを愛すると決めたとき、運命にだって神様にだって立ち向かうと決めたんだよね。
愛するリュートとリーチェの幸せの為に……。
挑ませて貰うよ、レリックアイテム製作!
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