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7章 家族みんなで冒険譚2 聖域に潜む危機
520 悪意の女王⑤ 除染 (改)
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「嘘だろおい!?」
恐らく指揮官だと思われるクラゲ型の新しい個体を両断した瞬間、周囲を埋め尽くすほどのヴェノムデバイスが一斉に破裂する。
そしてすぐさま俺の毒見スキルが、空間に放出される夥しい毒素を警告してくる。
隙間が無いほどに毒で埋め尽くされた空間。
そしてその毒が破裂の衝撃によって広がり、空間全てを満たしていく。
最早どうやっても、毒を回避することも食い止めることも出来なさそうだ。
仕方なく無詠唱でアナザーポータルを発動し、ティムルたちの元へと転移した。
「あっ、ダン! 大丈夫だった!? 何があったの!?」
俺に気付いて直ぐに声をかけてくれるティムル。
だけどグランドドラゴンアクスを構えている為、駆け寄っては来てくれなかった。ちょっぴり残念。
「大丈夫。心配かけてごめ……」
「な、なに今のーっ!? ダン、貴方なにしたのーっ!?」
「あ、危なかったぁ……! た、助かったよダンさん~……」
ティムルに返事しようとした俺を遮って、ニーナ組とターニア組も転移してくる。
ニーナたちはしきりに驚いているといった様子で、ターニアとエマは冷や汗をかきながら震える自分を抱きしめているようだ。
ターニアとエマにいったい何があったんだ?
「全員戻ってきたことだし、一旦仕切りなおしだね。何度目の仕切りなおしか分からないけどさ」
「……そうじゃなぁ。近くの生体反応は全て吹き飛んだようじゃし、竜鱗甲光の外側は完全に毒で埋まってしまったのじゃ。とても直ぐには動けぬな」
ウンザリしながらティムルの張る魔法障壁の外側を見るフラッタ。
かなり上の方で戦っていたはずなんだけど、周囲全てに毒判定が出ているようだ。いったいどれだけのヴェノムデバイスが破裂したんだか。
「う~ん……。この状況はあまり良くないね……。ヴェノムデバイスを駆除しきったのならまだしも、恐らくまだ終わってないんだよね?」
「終わっていないでしょうね。先ほどの破裂は自爆行為でしたから。自爆で全滅はしてくれないでしょう」
リーチェの慎重な問いかけに、はっきりと答えを返すヴァルゴ。
新手のキモクラゲがヴェノムデバイスの親玉だったら話は早いんだけどね……。
あのキモクラゲは俺のところだけじゃなくニーナのところにも現れていた、つまり複数いたから望み薄だ。
「……不味いね。ぼく達は毒のせいで外に出られない。だけど外では毒のせいで多くの木々が急速に壊死しているみたいだ。もう少ししたら何本も倒れてくるかもしれない」
「毒の処理が出来ればいいんだけど……。それが出来ない以上、倒木が起きたらアナザーポータルで撤退するしかないかしらぁ」
リーチェとティムルが、俺が悪化させてしまった状況に懸念を抱いている。
う~ん。倒木を回避しようにも、周囲は全て毒が蔓延してるみたいだからな。
この毒を何とか出来ない限り、ティムルが言うように撤退するしかないかもしれない。
「撤退の話よりも、まずはダンの話を聞かせてくれる?」
結論が出ない撤退論を押し退けて、ニーナが俺に詰め寄ってくる。
その表情は真剣で、残念ながらエロ目的で近づいてきてくれたわけではないようだ。
「ダンは今なにをしたの? なんでヴェノムデバイスが一斉に破裂したの? あの気持ち悪いでっかいのが関係あるの?」
「ああそうだね。まずは情報共有をしておこうか」
毒の解析をしていた究明の道標の3人にも作業を中断してもらって、今起こったヴェノムデバイス大量破裂事件の情報を共有していく。
新たに現れたキモクラゲがヴェノムデバイスを指揮する能力を有している事。
そしてそのキモクラゲを両断した瞬間、周囲全てのヴェノムデバイスが破裂した事を説明した。
「クラゲって言っても通じないのか。じゃあ新手の野生動物は便宜上、ヴェノムコマンダーとでも名付けようかな」
この世界では海の存在が一般的ではないので、クラゲと言っても誰にも理解してもらえなかった。
でも詳しい外見の話をするのはみんなに嫌がられてしまったので、キモクラゲさん改めヴェノムコマンダーに改名させていただいた。
「ヴェノムデバイスを操る能力。そして自身が死ぬとヴェノムデバイスを一斉に自爆させてくるのですね。道理で……」
「ほんと間一髪だったよー。ダンさんがヴェノムコマンダーを真っ先に殺してくれて助かったの」
ありがとーっと言いながら俺に抱き付いてくるエマとターニア。
そんな2人をよしよしなでなでしながら、2人に起こったことを聞く。
「私たちのところにヴェノムコマンダーは現れなかったんですけど、ヴェノムデバイスの動きが変わったので警戒してたんです」
「そしたらいきなり全部のヴェノムデバイスが破裂し始めたでしょ? 警戒してたおかげで何とかアナザーポータルの詠唱が間に合ったんだよー」
2人のところにはヴェノムコマンダーが現れなかったのか。
そう言えばキモいキモいと叫ぶニーナの叫び声は聞こえてたけど、ターニアたちの声は聞こえてなかったかもしれない。
「妾たちのところには現れおったがの。妾たちが何をするまでも無く、勝手に破裂してしまったのじゃ」
「あれってどういうことだったんだろ? タイミング的にはダンがヴェノムコマンダーを両断したことがきっかけだと思うけど、なんで私たちの前に現れた奴まで自爆しちゃったのかな?」
「……言われてみれば不思議ですね。ヴェノムデバイスが全て破裂して毒で満たされていましたから、上位存在のようなヴェノムコマンダーまで自爆する必要は無かったような……」
ニーナ組がヴェノムコマンダーの行動に首を傾げている。
毒を撒き散らすだけならヴェノムデバイスだけで充分だったはず。
なのに俺が攻撃した個体に合わせて、攻撃を受けていなかったヴェノムコマンダーも一緒に自爆した理由か。
「それは恐らく……。新たに現れたヴェノムコマンダーも使い捨ての兵隊だから、じゃないかな」
腕を組んで考え込みながら、ヴェノムコマンダーさえも使い捨てであると口にするキュールさん。
彼女の言葉に、溶けた大木の中にびっしりと産みつけられた夥しい数の卵を思い出す。
あれが聖域中にありふれた光景なのだとしたら、敵の総数は100万でも1000万でもおかしくない。
指揮個体であるヴェノムコマンダーでさえも、それなりの数がいるのかもしれないな……。
「確かにこれで事態が終息したとは考え難いです。敵はまだまだ尽きないと思ったほうがいいでしょうね」
「……でもラトリアさん。敵がまだ残っているとなると、今こうして敵が襲ってこない理由はなんなんでしょう?」
「え?」
まだ戦闘は終わっていないというラトリアに、今敵が襲ってこない理由を問うムーリ。
かつてガリアの言いなりになるだけだった弱者の姿はもう無く、現在起こっている状況全てを疑ってかかる強者の雰囲気を纏い始めているな。
「戦闘というのは全力で相手を叩き潰すのが最善手であると学びました。であるならヴェノムデバイスも、その圧倒的な物量で私たちを圧殺しにこないとおかしくないですか?」
「んー……。それほどの知性が無いのでは、というのはあまりにも楽観的過ぎますね。奴らの狡猾さは既に何度も経験していますし……」
むむむっと腕を組んで悩むラトリア。その隣りでやっぱり首を傾げるムーリ。
自爆することも厭わないヴェノムデバイス達が、身動きの取れない俺達に押し寄せてこない理由かぁ。
魔法障壁の外側の毒に満ちた空間を眺めながら、その理由を考える。
「……多分だけど。聖域に毒が満ちたことで、俺達のことを認識できなくなってるんじゃないかな?」
「自分達が撒いた毒のせいで私たちを見失ってるの? どういうこと?」
「あいつらって沢山眼がついてるけど、基本的に樹木の中を移動するから俺達の存在を視覚で見て認識してるわけじゃないと思うんだよな……」
頭にはてなを浮かべているチャールに、俺の考えを説明していく。
ヴェノムデバイスもコマンダーも、蜘蛛型の胴体には複眼がびっちりとついていた。
だけどあいつらって、見た目も生態も相手に嫌悪感を与えることが優先されてるっぽいから、あの複眼も装飾みたいな意味合いの方が強い気がするんだよね。
「あいつらってさ、木の中からでもかなり距離の離れた俺達と一定距離を保ってたでしょ? 多分視力以外の感覚で俺達を補足してたんだと思うんだよ」
物理法則に従って考えると、木の中から外の様子を窺う方法なんて聴覚くらいしか思いつかない。
けれどここは異世界で、奇跡も魔法もある世界なのだ。
恐らくあいつらは、俺達も使っている察知スキルに近い能力で生体反応か魔力を感知しているものと推測される。
あいつらが魔力を操れるのは証明済みだしね。
「……でもよダン。ダンたちの察知スキルはこの毒の中でも機能してるんだよな? ならなんであの虫どもの察知能力は機能しないんだ?」
「推論に推論を重ねる事になっちゃうけどさ。あいつらが感知してるのって魔力反応だと思うんだよ」
「魔力反応?」
質問に答えたのに、その答えで更に首を捻ってしまうシーズ。
周囲からベキベキと素敵な音が響き始めているのを感じながら、シーズの疑問を解消していく。
「俺達の察知スキルは魔物と動物の違いが分かるからね。魔力だけを感知してるスキルじゃないんだ。それに対してヴェノムデバイスの能力は、魔力のみを感知しているものと考えられる」
「根拠は?」
「今周囲に充満している毒。これってあいつらが魔力によって生み出してるものっぽいんだよね」
蜘蛛型の胴体から際限無く毒糸を吐き出してきたとき、体内の容量を超えて毒糸を吐き出してきてるようにしか思えなかったんだよね。
多分あいつらって体内で毒性物質を生成しているんじゃなく、魔力に毒性を持たせて体に纏ってるんだよ。だから全身から毒判定が出てるんだと思う。
「ヴェノムデバイスの生み出す毒が全て魔力によって生み出されているものだと仮定する。すると魔力で出来た毒に満ちた現在の状況は、あいつらの魔力感知能力を阻害しているのではないかと思ったんだ」
「う、う~ん……。論理の飛躍を感じるくらいに結論が強引な気がするけど……。状況説明としては結構説得力あるな……」
論理の飛躍って言われると苦しいんだけどなぁ。
でも俺の想定って毎回適当で強引なんだよ? 外れてても仕方ないし、責任も取れないんだわ。
俺の言葉を疑うシーズとは打って変わって、完全に鵜呑みにした様子のティムルとニーナが話し合っている。
「となると、この毒がある限りは戦闘は起こらないってことかしらぁ?」
「戦闘は起こらなくても、私たちもなにも出来ないよね。結局はこの毒を除去しなきゃ始まらないの。その方法まで考えてる?」
「一応いくつかは考えてるよー」
1つは今まで通り、リーチェに風で吹き飛ばしてもらう方法。
しかし言った瞬間両手でバツ印を作ったリーチェが、慌てて首を振ってみせる。
あ、流石にこの量は無理っすかリーチェさん? 了解でーす。
「2つ目の案は特定の物質の除去が出来るマジックアイテム、リムーバーさんを使って除染を試みるって方法なんだけど」
「あーっ! リムーバーは普段から毒の除去に用いられてるんだもんねっ! 試す価値あるかもっ……!?」
「リムーバーは対象の物体から毒を取り除くマジックアイテムだから、空間を対象に出来るかどうかは微妙だけどね。仮に除去出来たとしても、どれだけ手間がかかるか分からないし」
賛成してくれたリーチェには申し訳ないけど、俺自身はちょっと現実的な方法だとは思っていない。
聖域の樹海から毒素を排除する、なんて効果を指定できれば最高だけど、効果範囲が広すぎて現実的じゃないんだよなぁ。
そもそも、空気中の毒素とかまで除去できるか怪しいし、一応保険的なアイディアとして提案しただけだ。
「3つ目は1度撤退して、除染が進むまで時間を置くって感じだね。これは最終手段だけど確実な方法でもあると思う」
「その場合の懸念は、排除したヴェノムデバイスに再繁殖の時間を与えてしまうことだね。出来れば避けるべきだろう」
うお、その発想は無かったな。
でもキュールさんの言う通り、時間を空けたら状況が悪化する可能性もあるのか。迂闊だったわ……。
「なら4つ目に賭けるしかないかな。これで除去できなければちょっと方法が思いつかないよ」
「勿体ぶるでないっ。さっさと言うのじゃっ」
食い入るように俺に詰め寄ってくるフラッタをよしよしなでなで。
なす術が無い状況に苛立っているみたいだけど、このアイディアはお気に召してくれるかな?
「周囲に充満している毒が魔力で構成されているものだとするならば、俺達ならぶった切れると思うんだ。回復魔法さえ断ち切ってしまうウェポンスキルでね」
「――――断空かっ! 確かに魔力そのものを断ち切る断空ならあるいはっ……!?」
魔法関係に強いリーチェが可能性を感じてくれているのは心強いな。
そしてリーチェを眺めていたら、もう1つの方法にも思い至った。
「もしかしたら、支援魔法のサンクチュアリでも毒を払うことが出来るかもしれないね。物凄く時間はかかるかもしれないけど」
「あっ、ありえそう……! 周囲の毒が魔力で出来ているものならば、サンクチュアリで普通に防げそうだね……!」
「あはーっ。周囲の毒には確かに魔力反応が見られるわねーっ。ウェポンスキルでいけるんじゃないかしらぁ?」
碧眼になったティムルが、周囲を見渡して報告してくれる。
どうやら周囲の毒から魔力の流れを見て取ってくれたらしい。
魔力視が可能なお姉さんが太鼓判を押してくれるなら間違いなさそうだね。いけそうだ。
「それじゃ俺とフラッタ、リーチェの3人で断空をぶっぱなそっか。他のメンバーは断空で間に合わなかった時にサンクチュアリの展開をお願い」
「了解なのっ! みんなも魔力枯渇には気をつけてねっ」
「ダンとの共同作業なのじゃっ! 腕が鳴るのじゃーっ!」
「ふふ。足を引っ張らないようにがんばるよっ。宜しくねダン! フラッタ!」
俺の言葉に元気に返事をしてくれるニーナと、フレイムドラゴンブレードを掲げるフラッタ。
そして世界樹の星弓の代わりに翠緑のエストックを取り出すリーチェ。
ニーナがサポートしてくれて、フラッタ師匠とラスボスリーチェとの共同作業なら、もう成功は約束されたも同然だぜっ。
「それじゃ3人に合わせて竜鱗甲光を解除するわねー。いつでもオッケーよっ」
「断空後の露払いはお任せください。何が起きても私の槍で対処してみせますからっ」
ティムルもヴァルゴも気合充分だね。それじゃヴェノムデバイス戦を再開しようか。
ティムルたちに背を向けて、それぞれ別の方向を向いて剣を構える俺とフラッタとリーチェ。準備万端だ。
……これでもしも断空で毒を切り裂けなかったら、俺って愛想尽かされちゃうのでは?
えぇいっ、余計な事を考えるんじゃないっ。今はやるべき事に集中だっ。
でもこの不安な気持ちも全部込めて、八つ当たりという名の会心の一撃をお見舞いしてやるーっ、
恐らく指揮官だと思われるクラゲ型の新しい個体を両断した瞬間、周囲を埋め尽くすほどのヴェノムデバイスが一斉に破裂する。
そしてすぐさま俺の毒見スキルが、空間に放出される夥しい毒素を警告してくる。
隙間が無いほどに毒で埋め尽くされた空間。
そしてその毒が破裂の衝撃によって広がり、空間全てを満たしていく。
最早どうやっても、毒を回避することも食い止めることも出来なさそうだ。
仕方なく無詠唱でアナザーポータルを発動し、ティムルたちの元へと転移した。
「あっ、ダン! 大丈夫だった!? 何があったの!?」
俺に気付いて直ぐに声をかけてくれるティムル。
だけどグランドドラゴンアクスを構えている為、駆け寄っては来てくれなかった。ちょっぴり残念。
「大丈夫。心配かけてごめ……」
「な、なに今のーっ!? ダン、貴方なにしたのーっ!?」
「あ、危なかったぁ……! た、助かったよダンさん~……」
ティムルに返事しようとした俺を遮って、ニーナ組とターニア組も転移してくる。
ニーナたちはしきりに驚いているといった様子で、ターニアとエマは冷や汗をかきながら震える自分を抱きしめているようだ。
ターニアとエマにいったい何があったんだ?
「全員戻ってきたことだし、一旦仕切りなおしだね。何度目の仕切りなおしか分からないけどさ」
「……そうじゃなぁ。近くの生体反応は全て吹き飛んだようじゃし、竜鱗甲光の外側は完全に毒で埋まってしまったのじゃ。とても直ぐには動けぬな」
ウンザリしながらティムルの張る魔法障壁の外側を見るフラッタ。
かなり上の方で戦っていたはずなんだけど、周囲全てに毒判定が出ているようだ。いったいどれだけのヴェノムデバイスが破裂したんだか。
「う~ん……。この状況はあまり良くないね……。ヴェノムデバイスを駆除しきったのならまだしも、恐らくまだ終わってないんだよね?」
「終わっていないでしょうね。先ほどの破裂は自爆行為でしたから。自爆で全滅はしてくれないでしょう」
リーチェの慎重な問いかけに、はっきりと答えを返すヴァルゴ。
新手のキモクラゲがヴェノムデバイスの親玉だったら話は早いんだけどね……。
あのキモクラゲは俺のところだけじゃなくニーナのところにも現れていた、つまり複数いたから望み薄だ。
「……不味いね。ぼく達は毒のせいで外に出られない。だけど外では毒のせいで多くの木々が急速に壊死しているみたいだ。もう少ししたら何本も倒れてくるかもしれない」
「毒の処理が出来ればいいんだけど……。それが出来ない以上、倒木が起きたらアナザーポータルで撤退するしかないかしらぁ」
リーチェとティムルが、俺が悪化させてしまった状況に懸念を抱いている。
う~ん。倒木を回避しようにも、周囲は全て毒が蔓延してるみたいだからな。
この毒を何とか出来ない限り、ティムルが言うように撤退するしかないかもしれない。
「撤退の話よりも、まずはダンの話を聞かせてくれる?」
結論が出ない撤退論を押し退けて、ニーナが俺に詰め寄ってくる。
その表情は真剣で、残念ながらエロ目的で近づいてきてくれたわけではないようだ。
「ダンは今なにをしたの? なんでヴェノムデバイスが一斉に破裂したの? あの気持ち悪いでっかいのが関係あるの?」
「ああそうだね。まずは情報共有をしておこうか」
毒の解析をしていた究明の道標の3人にも作業を中断してもらって、今起こったヴェノムデバイス大量破裂事件の情報を共有していく。
新たに現れたキモクラゲがヴェノムデバイスを指揮する能力を有している事。
そしてそのキモクラゲを両断した瞬間、周囲全てのヴェノムデバイスが破裂した事を説明した。
「クラゲって言っても通じないのか。じゃあ新手の野生動物は便宜上、ヴェノムコマンダーとでも名付けようかな」
この世界では海の存在が一般的ではないので、クラゲと言っても誰にも理解してもらえなかった。
でも詳しい外見の話をするのはみんなに嫌がられてしまったので、キモクラゲさん改めヴェノムコマンダーに改名させていただいた。
「ヴェノムデバイスを操る能力。そして自身が死ぬとヴェノムデバイスを一斉に自爆させてくるのですね。道理で……」
「ほんと間一髪だったよー。ダンさんがヴェノムコマンダーを真っ先に殺してくれて助かったの」
ありがとーっと言いながら俺に抱き付いてくるエマとターニア。
そんな2人をよしよしなでなでしながら、2人に起こったことを聞く。
「私たちのところにヴェノムコマンダーは現れなかったんですけど、ヴェノムデバイスの動きが変わったので警戒してたんです」
「そしたらいきなり全部のヴェノムデバイスが破裂し始めたでしょ? 警戒してたおかげで何とかアナザーポータルの詠唱が間に合ったんだよー」
2人のところにはヴェノムコマンダーが現れなかったのか。
そう言えばキモいキモいと叫ぶニーナの叫び声は聞こえてたけど、ターニアたちの声は聞こえてなかったかもしれない。
「妾たちのところには現れおったがの。妾たちが何をするまでも無く、勝手に破裂してしまったのじゃ」
「あれってどういうことだったんだろ? タイミング的にはダンがヴェノムコマンダーを両断したことがきっかけだと思うけど、なんで私たちの前に現れた奴まで自爆しちゃったのかな?」
「……言われてみれば不思議ですね。ヴェノムデバイスが全て破裂して毒で満たされていましたから、上位存在のようなヴェノムコマンダーまで自爆する必要は無かったような……」
ニーナ組がヴェノムコマンダーの行動に首を傾げている。
毒を撒き散らすだけならヴェノムデバイスだけで充分だったはず。
なのに俺が攻撃した個体に合わせて、攻撃を受けていなかったヴェノムコマンダーも一緒に自爆した理由か。
「それは恐らく……。新たに現れたヴェノムコマンダーも使い捨ての兵隊だから、じゃないかな」
腕を組んで考え込みながら、ヴェノムコマンダーさえも使い捨てであると口にするキュールさん。
彼女の言葉に、溶けた大木の中にびっしりと産みつけられた夥しい数の卵を思い出す。
あれが聖域中にありふれた光景なのだとしたら、敵の総数は100万でも1000万でもおかしくない。
指揮個体であるヴェノムコマンダーでさえも、それなりの数がいるのかもしれないな……。
「確かにこれで事態が終息したとは考え難いです。敵はまだまだ尽きないと思ったほうがいいでしょうね」
「……でもラトリアさん。敵がまだ残っているとなると、今こうして敵が襲ってこない理由はなんなんでしょう?」
「え?」
まだ戦闘は終わっていないというラトリアに、今敵が襲ってこない理由を問うムーリ。
かつてガリアの言いなりになるだけだった弱者の姿はもう無く、現在起こっている状況全てを疑ってかかる強者の雰囲気を纏い始めているな。
「戦闘というのは全力で相手を叩き潰すのが最善手であると学びました。であるならヴェノムデバイスも、その圧倒的な物量で私たちを圧殺しにこないとおかしくないですか?」
「んー……。それほどの知性が無いのでは、というのはあまりにも楽観的過ぎますね。奴らの狡猾さは既に何度も経験していますし……」
むむむっと腕を組んで悩むラトリア。その隣りでやっぱり首を傾げるムーリ。
自爆することも厭わないヴェノムデバイス達が、身動きの取れない俺達に押し寄せてこない理由かぁ。
魔法障壁の外側の毒に満ちた空間を眺めながら、その理由を考える。
「……多分だけど。聖域に毒が満ちたことで、俺達のことを認識できなくなってるんじゃないかな?」
「自分達が撒いた毒のせいで私たちを見失ってるの? どういうこと?」
「あいつらって沢山眼がついてるけど、基本的に樹木の中を移動するから俺達の存在を視覚で見て認識してるわけじゃないと思うんだよな……」
頭にはてなを浮かべているチャールに、俺の考えを説明していく。
ヴェノムデバイスもコマンダーも、蜘蛛型の胴体には複眼がびっちりとついていた。
だけどあいつらって、見た目も生態も相手に嫌悪感を与えることが優先されてるっぽいから、あの複眼も装飾みたいな意味合いの方が強い気がするんだよね。
「あいつらってさ、木の中からでもかなり距離の離れた俺達と一定距離を保ってたでしょ? 多分視力以外の感覚で俺達を補足してたんだと思うんだよ」
物理法則に従って考えると、木の中から外の様子を窺う方法なんて聴覚くらいしか思いつかない。
けれどここは異世界で、奇跡も魔法もある世界なのだ。
恐らくあいつらは、俺達も使っている察知スキルに近い能力で生体反応か魔力を感知しているものと推測される。
あいつらが魔力を操れるのは証明済みだしね。
「……でもよダン。ダンたちの察知スキルはこの毒の中でも機能してるんだよな? ならなんであの虫どもの察知能力は機能しないんだ?」
「推論に推論を重ねる事になっちゃうけどさ。あいつらが感知してるのって魔力反応だと思うんだよ」
「魔力反応?」
質問に答えたのに、その答えで更に首を捻ってしまうシーズ。
周囲からベキベキと素敵な音が響き始めているのを感じながら、シーズの疑問を解消していく。
「俺達の察知スキルは魔物と動物の違いが分かるからね。魔力だけを感知してるスキルじゃないんだ。それに対してヴェノムデバイスの能力は、魔力のみを感知しているものと考えられる」
「根拠は?」
「今周囲に充満している毒。これってあいつらが魔力によって生み出してるものっぽいんだよね」
蜘蛛型の胴体から際限無く毒糸を吐き出してきたとき、体内の容量を超えて毒糸を吐き出してきてるようにしか思えなかったんだよね。
多分あいつらって体内で毒性物質を生成しているんじゃなく、魔力に毒性を持たせて体に纏ってるんだよ。だから全身から毒判定が出てるんだと思う。
「ヴェノムデバイスの生み出す毒が全て魔力によって生み出されているものだと仮定する。すると魔力で出来た毒に満ちた現在の状況は、あいつらの魔力感知能力を阻害しているのではないかと思ったんだ」
「う、う~ん……。論理の飛躍を感じるくらいに結論が強引な気がするけど……。状況説明としては結構説得力あるな……」
論理の飛躍って言われると苦しいんだけどなぁ。
でも俺の想定って毎回適当で強引なんだよ? 外れてても仕方ないし、責任も取れないんだわ。
俺の言葉を疑うシーズとは打って変わって、完全に鵜呑みにした様子のティムルとニーナが話し合っている。
「となると、この毒がある限りは戦闘は起こらないってことかしらぁ?」
「戦闘は起こらなくても、私たちもなにも出来ないよね。結局はこの毒を除去しなきゃ始まらないの。その方法まで考えてる?」
「一応いくつかは考えてるよー」
1つは今まで通り、リーチェに風で吹き飛ばしてもらう方法。
しかし言った瞬間両手でバツ印を作ったリーチェが、慌てて首を振ってみせる。
あ、流石にこの量は無理っすかリーチェさん? 了解でーす。
「2つ目の案は特定の物質の除去が出来るマジックアイテム、リムーバーさんを使って除染を試みるって方法なんだけど」
「あーっ! リムーバーは普段から毒の除去に用いられてるんだもんねっ! 試す価値あるかもっ……!?」
「リムーバーは対象の物体から毒を取り除くマジックアイテムだから、空間を対象に出来るかどうかは微妙だけどね。仮に除去出来たとしても、どれだけ手間がかかるか分からないし」
賛成してくれたリーチェには申し訳ないけど、俺自身はちょっと現実的な方法だとは思っていない。
聖域の樹海から毒素を排除する、なんて効果を指定できれば最高だけど、効果範囲が広すぎて現実的じゃないんだよなぁ。
そもそも、空気中の毒素とかまで除去できるか怪しいし、一応保険的なアイディアとして提案しただけだ。
「3つ目は1度撤退して、除染が進むまで時間を置くって感じだね。これは最終手段だけど確実な方法でもあると思う」
「その場合の懸念は、排除したヴェノムデバイスに再繁殖の時間を与えてしまうことだね。出来れば避けるべきだろう」
うお、その発想は無かったな。
でもキュールさんの言う通り、時間を空けたら状況が悪化する可能性もあるのか。迂闊だったわ……。
「なら4つ目に賭けるしかないかな。これで除去できなければちょっと方法が思いつかないよ」
「勿体ぶるでないっ。さっさと言うのじゃっ」
食い入るように俺に詰め寄ってくるフラッタをよしよしなでなで。
なす術が無い状況に苛立っているみたいだけど、このアイディアはお気に召してくれるかな?
「周囲に充満している毒が魔力で構成されているものだとするならば、俺達ならぶった切れると思うんだ。回復魔法さえ断ち切ってしまうウェポンスキルでね」
「――――断空かっ! 確かに魔力そのものを断ち切る断空ならあるいはっ……!?」
魔法関係に強いリーチェが可能性を感じてくれているのは心強いな。
そしてリーチェを眺めていたら、もう1つの方法にも思い至った。
「もしかしたら、支援魔法のサンクチュアリでも毒を払うことが出来るかもしれないね。物凄く時間はかかるかもしれないけど」
「あっ、ありえそう……! 周囲の毒が魔力で出来ているものならば、サンクチュアリで普通に防げそうだね……!」
「あはーっ。周囲の毒には確かに魔力反応が見られるわねーっ。ウェポンスキルでいけるんじゃないかしらぁ?」
碧眼になったティムルが、周囲を見渡して報告してくれる。
どうやら周囲の毒から魔力の流れを見て取ってくれたらしい。
魔力視が可能なお姉さんが太鼓判を押してくれるなら間違いなさそうだね。いけそうだ。
「それじゃ俺とフラッタ、リーチェの3人で断空をぶっぱなそっか。他のメンバーは断空で間に合わなかった時にサンクチュアリの展開をお願い」
「了解なのっ! みんなも魔力枯渇には気をつけてねっ」
「ダンとの共同作業なのじゃっ! 腕が鳴るのじゃーっ!」
「ふふ。足を引っ張らないようにがんばるよっ。宜しくねダン! フラッタ!」
俺の言葉に元気に返事をしてくれるニーナと、フレイムドラゴンブレードを掲げるフラッタ。
そして世界樹の星弓の代わりに翠緑のエストックを取り出すリーチェ。
ニーナがサポートしてくれて、フラッタ師匠とラスボスリーチェとの共同作業なら、もう成功は約束されたも同然だぜっ。
「それじゃ3人に合わせて竜鱗甲光を解除するわねー。いつでもオッケーよっ」
「断空後の露払いはお任せください。何が起きても私の槍で対処してみせますからっ」
ティムルもヴァルゴも気合充分だね。それじゃヴェノムデバイス戦を再開しようか。
ティムルたちに背を向けて、それぞれ別の方向を向いて剣を構える俺とフラッタとリーチェ。準備万端だ。
……これでもしも断空で毒を切り裂けなかったら、俺って愛想尽かされちゃうのでは?
えぇいっ、余計な事を考えるんじゃないっ。今はやるべき事に集中だっ。
でもこの不安な気持ちも全部込めて、八つ当たりという名の会心の一撃をお見舞いしてやるーっ、
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しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
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