異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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7章 家族みんなで冒険譚2 聖域に潜む危機

518 悪意の女王③ 姉妹 (改)

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「1体殺したくらいじゃ反応無しと。じゃあ今度は片っ端から殲滅してみようか」


 全員不快害虫と対峙する覚悟が決まったようなので、ここからは総力戦だ。


 聖域の樹海に蔓延る不快害虫ヴェノムデバイス。

 もしかしたらただ聖域の森に生息しているだけの野生動物の可能性も微粒子レベルで存在してはいるけれど、植物内に魔法的に干渉できている時点で聖域の異変と無関係だとも思えない。

 調査の意味合いも込めて、きっちりその生体を暴いておかなきゃいけないだろう。

 
「究明の道標とムーリとアウラはこの場で待機。ムーリとアウラはいざって時に3人の護衛を担当するつもりでいてくれ」

「了解ですっ!」

「いざって時があるとは思えないけどねーっ!」


 素直に返事するムーリと、ちょっとひねくれた返事をするアウラ。

 ま、いざって時を起こさないのは俺の仕事だからな。ツッコミは後回しだ。


「ティムルとリーチェもここで待機ね。ティムルは熱視で状況を把握しながら、魔法障壁でみんなを護衛して欲しい」

「了解よ。今回は非戦闘員も居るし、お姉さんは護衛に徹するわね」

「リーチェは魔法障壁を傷つけないように弓で援護してもいいよ。でもお前の精霊魔法は毒に対する最後の砦だから、いつでも発動できるつもりでいて欲しい」

「ふふ、任せてよっ。森の中で弓と精霊魔法を駆使して戦うなんて、エルフの血が騒いじゃうシチュエーションだからねっ。頼りにして欲しいなっ」


 声を弾ませたリーチェが不敵な笑みを浮かべながら世界樹の星弓を手にしている。

 残念ながらおっぱいは弾ませてくれなかったけど、その分殺る気満々だな? 頼もしいね。


「ニーナ、フラッタ、ヴァルゴは遊撃ね。俺達でヴェノムデバイスを殺しまくって、とりあえず情報を集めよう」

「りょーかーいっ!」


 さっきまでキモいキモいとドン引きするだけだったニーナが、やる気満々でダガーを掲げている。

 殺して良しとなると、気持ち悪さも吹っ切れてしまうものなんだろうか? むしろ気持ち悪いから殺意増し増しだったり?


「あいつらって全身が毒の塊だから、常に毒見スキルで警戒しててね? もしも毒を受けたら直ぐにティムルのところに戻って、ピュリフィケーションを受けてくること」

「アナザーポータルを使えば一瞬で合流可能じゃしな。ダンは全体浄化魔法ピュリフィケーションプラスも使えるし、毒に怯える心配が無いのはありがたいのじゃ」

「まずは情報収集から、ですか。まるでイントルーダー戦のようですねぇ」


 各々別のことを口走りながら、武器を構えて目の前の大木を仰ぎ見るフラッタとヴァルゴ。

 巨大なドラゴンイーターと長柄のデーモンスピアはヴェノムデバイスとは相性がいいはずだ。頼りにさせてくれよ2人ともっ。


「で、エマとラトリアにも遊撃をお願いしたいところだけど……」


 双竜の顎の2人に視線を移す。

 2人とも油断なく剣を構えて上を仰ぎ見ているのは良いんだけど、ラトリアが鳥肌を立てて震えているのが気になりすぎるんだよ?


「エマはともかく、ラトリアは無理そう? 無理なら無理でも構わないよ?」

「ラトリア様は幼い頃に食事に大きな虫が混入していたことがあって、それ以来虫が苦手なんですよね……」

「うーっ! うーっ! なんでっ! なんで震えが止まらないのぉっ……!」

「はいはいラトリア。無理しなくていいんだよー」


 ボロボロと涙を流しながら、それでも鳥肌を立てて上手く動かない自分の体に憤るラトリア。

 生理的嫌悪感を克服出来ない自分に憤るラトリアの震える体をぎゅっと抱きしめる。


「ラトリア。ここはお前が無理する場面じゃないよ。下がってティムル達を守っててくれる?」

「でもっ! でもぉっ! フラッタもエマも前に出るのに、なんでっ、なんで私の体はぁっ……!」

「そうだよラトリア。フラッタもエマも頼りにしていいんだ。お前の家族はみんな最高に頼りになる人ばかりなんだからね」

「…………え?」


 涙も拭かずに、でも俺の言葉が理解出来ずにキョトンと呆けるラトリア。

 ラトリアは竜爵家当主夫人として、そしてシルヴァとフラッタの母親として気負いすぎてしまう嫌いがあるけど、お前はもっと家族に頼っていいんだって。


「双竜姫と言われたラトリアは、常にみんなの前に立ち続けていたのかもしれないけどさ。今はフラッタだってエマだって、ラトリアを守れるくらいに強くなったんだよ?」

「フラッタもエマも……。私を守れるくらいに……」

「ふははっ! 母上、安心するのじゃ! 虫が苦手なくらいで母上に幻滅したりはせぬからのーっ!」

「ちょーっ!? それって本当に私を慰めてるんです!? 傷口に塩を塗りにきてませんかフラッタ!?」

「ここは私たちに任せてお下がりください。それともラトリア様は、まだ私やフラッタ様を信用してはくださらないのでしょうか?」


 フラッタに食って掛かるラトリアに割り込んで、からかうようにウィンクして見せるエマ。

 その不敵な表情には絶対の自信が漲っているようだ。


「エマもフラッタも信用してますっ! でも私は自分の不甲斐なさが許せなくって……!」

「ラトリア様はちょっと抜けてるくらいがちょうどいいんですよ? 木登りが大好きなくせに虫が苦手とか、そういうところが魅力的なんじゃないですか」

「からかってますっ!? フラッタと一緒になって私をからかってますよね!?」

「あははっ。からかってませんっ! ただ嬉しいだけですよ。大切なラトリア様をこの背に守れることが、ねっ」

「え? エ、エマ……?」


 笑いながらスタスタとラトリアに歩み寄ったエマは、そのまま俺を押し退けてラトリアをぎゅっと抱き締めた。

 エマに抱き締められて困惑するラトリアと、そんなラトリアを見ておかしそうに微笑むエマ。


「……大変恐縮ですがラトリア様。天涯孤独の孤児出身の私は、1つ年下のラトリア様のことをずっと妹のような存在だと思っておりました」

「え、ええ? わ、私もエマのことは家族だと思ってるけど……?」

「大切な妹が命の危険に晒されている時、私は何も出来ませんでした……。大切な妹が沢山のモノを喪った時も、また私は守ってあげることができませんでした……」


 悲しげな笑顔を浮かべたままで、竜爵家を襲った悲劇の時に役立てなかったことを悔いるエマ。

 そんな彼女に、当事者であるラトリアでさえもかける言葉が見つけられない。


「あれ以来悔しくて悔しくて、必死になって強さを求めました。そして今日、ようやく辿り着けたんですよ。ラトリア様をお守りできる戦場にっ!」

「エマ……」

「先陣を切って誰よりも勇猛果敢に戦うラトリア様もとっても素敵です。でもここは私に譲って下がってくれませんか? 私も護りたいんです、大切な貴女を」


 ラトリアを離して距離を空けるエマ。

 その所作が、ここは任せろと雄弁に語っているように感じられる。


「ねぇラトリア様。私たちって竜人族としてはもう高齢者じゃないですか。いつお迎えが来たって不思議じゃないくらいに」

「さ、流石に40前半で亡くなったら早いと思うけど……。高齢には違いないわね?」

「だからラトリア様。そんな高齢の私たちが、今更苦手なんて克服しなくったっていいじゃないですかっ」

「え、えぇ……? そ、そういうものなのかしら……?」

「老い先短い私たちは、もう自分が見たい物だけ見ていましょうよ。愛する娘とか、素敵な旦那様とか、頼りになるお姉さんとか、ね?」


 エマに微笑みかけられたラトリアの震えは止まり、鳥肌は治まっているようだ。

 しかし落ち着いたラトリアは双剣を下げ、力なく笑いながら首を振った。


「……駄目ですねぇ。ダンさんにもフラッタにも怒られたのに。私はいつまで経っても自分が最強のままで居るように思い込んで……」

「ふふ。私にとっては、今でも最強の存在ですけどね? ラトリア様はっ」

「……ありがとうエマ。ここは任せます。不甲斐ない私に代わって、フラッタとダンさんの力になってあげてくださいねっ」


 最後にラトリアの方からエマをぎゅっと抱きしめてから、ラトリアは軽い足取りでティムルたちのほうへ下がっていった。

 その姿を嬉しそうに見送るエマの体をぎゅっと抱き締める。


「ダンさん? どうかしましたか?」

「いや、2人があんまり老い先短いとか言うもんだからさ。ちょっと抱き締めたくなっただけ。気にしないで」

「あはっ。そんな気は無かったのにラッキーですね。好きなだけ抱きしめてくれていいですよっ」


 なんだかエマの雰囲気が柔らかいなぁ。ラトリアに思いの丈をぶつけることが出来て満足してるのかも。

 そんなゆるふわエマを抱き締めたまま、まだ指示を出していなかったターニアに向き直る。


「ターニアは飛行能力を活かして遊撃寄りの伝令ね。戦闘よりも細かい用事をお願いする事になるかも」

「了解なのーっ! 私の存在が忘れられてるんじゃないかと不安になったのーっ!」

「こんな可愛いターニアを忘れる訳ないでしょーっ」


 エマとターニアを一緒に抱きしめてよしよしなでなで。

 この世界って経産婦だろうが高齢だろうが、綺麗だし魅力的だしで最高すぎるんだよーっ。


「エマとターニアだけじゃないけど、仕合わせの暴君メンバー以外は毒見スキルが使えないからね。毒に関しては警戒しすぎるほど警戒して欲しい」

「……了解なの。さっきダンさんが殺したヴェノムデバイスから出たっていう毒も、私の目には見えなかったからね」

「槍使いのターニア様も、長剣使いの私も、ある程度距離は保って戦えるはずです。最大限警戒して戦闘に臨みますね」

「リーチェが会話を繋げてるから、違和感があったら遠慮なく呼んでね? 声が出せるならティムルのところに帰還するのが1番安全だけどさ」


 2人のほっぺにちゅっちゅっとキスをしてから解放する。

 エマもターニアも百戦錬磨だ。可視化できない毒の存在にも警戒を怠る事は無いはず。信じてるからねっ。


「それじゃ始めようか。とりあえず始めは片っ端から殺しちゃっていいからね。ただし毒には注意するように」

「待ちくたびれたのーっ! それじゃいっくよーっ!」


 俺の開始の宣言に、弾けるように大木を登っていくニーナ。

 その後ろにフラッタとヴァルゴがついていく。


 我が家の武力担当はフラッタとヴァルゴで間違いないんだけど、単純なスピードだとやっぱりニーナが断トツなんだよなー。


「ターニア様。生体反応を追ってもらえますか?」

「了解だよ! 私たちはペアで行こうねっ」


 エマとターニアも3人に続いて大木を駆け上がっていく。

 そうか。エマって狩人が浸透してないから、まだ生体察知使えないんだったな。


 生体察知の使えるターニアと常にコンビで動くようだし、2人のことは心配要らないか。


「ティムル! 障壁を展開する時は言ってね! ぼくも気をつけるつもりではあるけどさっ」

「了解よー。生体察知に異常が無い限りは竜鱗甲光は使わないからね。存分に暴れちゃいなさいっ」


 リーチェが弓で生体反応を次々と射抜いていく。

 ヴェノムデバイスはかなり早く動き回っているみたいだけど、流石にリーチェの弓まで察知して行動してるわけじゃないみたいだな。


 リーチェの弓に貫かれたヴェノムデバイスは、それぞれ1撃で生体反応を消失させているようだ。


「俺も負けていられないな……って、なんだこれ?」


 さて、俺も見てばかりいないでさっさと動こうかな。

 そう思った時に、眼前に巨大な枝が落ちてきて、思わず動きを止めてしまった。


 切断面は刃物で切ったように鋭利ではなくて、なんだかドロッとしている感じだ。

 生体反応は無さそうだけど、木の内部から真っ赤に毒判定が出ているなぁ。ヴェノムデバイスと何か関係があるのか?


「おーいティム……え?」


 これは待機組に渡して検証してもらおうかなと、ティムルを呼ぼうとする俺の周囲に、人の体よりも太いような巨大な枝が雨のように降ってくる。

 生体反応は全く無いのでヴェノムデバイスが潜んでいる危険性は無いけれど、落ちてくる枝全てから毒物判定を検出されているようだ。


「これは……。どうやらニーナちゃん達が上でヴェノムデバイスを殺しまくってるみたいねぇ」


 勢いを増す毒枝の雨に戸惑っていると、俺が問いかける前にティムルの口から考察が語られる。

 ヴェノムデバイスの攻撃じゃなくて、討伐した結果起こっている現象ってこと?


「恐らく枝の中でヴェノムデバイスが破裂しちゃって、液状化している枝がその衝撃に耐え切れずに降ってきてるんじゃないかしらぁ? 確か液状化から個体に戻すのは、ヴェノムデバイスの後ろの器官が担ってるって話だったでしょ?」

「なるほど……。解説ありがとティムル。でも最高に面倒臭い事態だねそれ。下手に攻撃すると毒の範囲を広げてしまう事になるのか」

「ダンさん! 枝を触心して毒の解析も試みてみるよーっ!」

「お、そりゃ面白いね。頼んだキュールさん。ティムルは毒見スキルで触心をサポートしてあげてくれる?」

「了解よーっ。情報収集はお姉さんたちに任せなさぁいっ」


 頼むよティムル、そしてキュールさん。

 このヴェノムデバイス戦では、如何に情報を集めるかが鍵になってくると思うから。


 今のままじゃ、戦闘が進むほどに安全に活動できる範囲が削られてしまうからな。

 燃やすなりなんなりして毒を無効化できないと、時間が経つほど不利になってしまうだろう。


「ダン! 母さん! これから上に来るなら気をつけてねーっ」

「ん、どうしたのニーナ?」

「ヴェノムデバイスを片っ端から殺してるんだけど、木の上の方は風が澱んでて毒が溜まっちゃってるのーっ! 毒見が使えない母さんたちは、あまり上まで来ないほうがいいかもー?」

「了解なのニーナ! それじゃ私たちはこの辺から始めよっか」

「了解です。油断無くいきましょう」


 ニーナの警告に、ターニアとエマは直ぐに自分の戦場を決定したようだ。

 さっきから絶え間なく落ちてくる毒の枝を見るに、ニーナたちは大分張り切ってヴェノムデバイスを狩っているようだね。


「ダン! 蜘蛛の部分を切りつけて破裂させてもこやつ等は死なぬのじゃ! 1撃で殺す場合には百足の部分を切り裂く必要がありそうじゃぞっ!」

「その百足部分も、横薙ぎにした程度では死んでくれないようですよ。縦に割ってやれば流石に即死するみたいです」

「了解。2人も気をつけてねー」


 フラッタとヴァルゴが、ヴェノムデバイスを殺したことで得られた情報を共有してくれる。

 生命力の強さはまさに虫って感じだけど、全然動物っぽさが無くて嫌になるよ。


 地面を蹴って一気に大木を駆け上がると、目の前が突然真っ赤に染まり始めた。

 樹冠部分は葉が生い茂っているため空気の逃げ場が無く、いつまでも毒の成分が滞留し続けているようだ。


 なんだかこの光景、世界呪を思い出させるなぁ……。

 この厄介さと禍々しさ。コイツらって本当に自然発生した野生動物なのかねぇ……?
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