異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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7章 家族みんなで冒険譚2 聖域に潜む危機

512 ※閑話 ターナ商会 (改)

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「行くわよガラム。準備は出来た?」

「うんっ。いつでも行けるよレイシ母さんっ」


 冒険者であるレイシ母さんのポータルを使って、今日も家族みんなでマグエルの孤児院に足を運ぶ。

 トライラムフォロワーのみんなに混じって、家族みんなで戦闘訓練に参加させてもらうためだ。


 最初は辛かった訓練の日々も、もうすっかり当たり前になっちゃったなぁ。




 僕の名前はガラム。

 まだ12歳だけど、これでも家族で経営するターナ商会の会長を任されている身なんだっ。


 うちの商会は世間には公表されていないアウターを独占していて、そのドロップアイテムを売却することで物凄い利益を生み出していたんだ。

 けれど、少し前に前会長だった父さんが行方不明になってしまったせいで、ターナ商会の歯車は大きく狂い始めてしまった。


「大丈夫だからねガラム……! お父さんが居なくっても、母さんたちが貴方を守ってみせるからね……!」


 婚姻契約もパーティ契約も消失してしまったことから、恐らく父さんはもうこの世には居ないのだと母さんたちは言う。

 母さんたちは数日だけ凄く泣き続けていたけど、僕の顔を見て泣き止んでくれたのを覚えている。


「ガレルが居ない以上、私たちだけでターナ商会を切り盛りしていくしかないわ。ガレルの残した商会とガラムを、私たちの手で守り抜くのよっ!」

「それは賛成だけど……。実際にどうするのレイシ? 私たちだけじゃ戦えないわよ?」


 我が家が占有しているアウターの存在は、家の使用人にすら秘密にしているくらいで、今までは父さん母さん達で組んだパーティでドロップアイテムを回収していた。

 けれど戦闘の要だった父さんが欠けてしまったことで、母さんたちだけでは満足にドロップアイテムの回収が行えなくなってしまったんだ……。


「……そうね。今まで戦闘のほとんどをガレルに頼りっぱなしで、私たちはインベントリを使ったドロップアイテム回収しかしてなかったから……」

「でも私たちで潜るしか、ないんじゃないですか……? アウターの存在を公表してしまうのは、結果的にターナ商会の寿命を縮めることになると思うんです」

「だなぁ。外部に漏らすのは絶対に無し。アタイらでドロップを回収するのは大前提だ。だが問題は、アタイらに戦闘能力が皆無ってことだぁね……」


 母さんたちは毎日真剣に話し合っては、父さん抜きでターナ商会を切り盛りしていく方法を見つけられずに悩んでいた。


 父さんは本当に勇敢な魔物狩りで、母さん達を背中に守りながらいつも1人で魔物を狩り続けていたんだ。

 獣化することも出来た父さんの魔物の殲滅速度は凄まじく、いつも母さんたちのインベントリをいっぱいにして帰ってきていたんだ。


 父さんはすごく頼りになる男だった。

 だけどそんな父さんに頼りすぎた僕達は、父さんが居なくなった途端に路頭に迷う事になってしまった……。


 くそぉ……! 僕は父さんの息子なのに、なんでこんなに弱いんだ……!

 僕が父さんみたいに強ければ、居なくなった父さんの代わりに母さん達を守ってあげられるのに……!


 そんな悔しさと不安の日々の中でもがく僕達家族に進むべき道が示されたのは、本当に突然だったんだ。





「えっ!? 私たち、戦闘訓練を受けさせてもらえるの!?」


 父さんの昔の知り合いという人物から提案された、戦闘訓練のお誘い。

 なんでもスペルド王国では今後急激な人口増加が見込まれるから、ターナ商会の保有するアウターのドロップアイテムをスペルド王国にどんどん流入させて欲しいって話みたいだった。


「マグエル……って、どこだっけ? 私は行ったことないなぁ」

「えっと……私たちにとっては破格過ぎる条件ですけど……。相手の方は本当に信用できそうなんですかレイシさん?」

「ええ。私の職業も、ターナ商会がアウターを占有していることも知っていたわ。その上でこの条件を提示してきたのだから、私は信用してもいいと思う」

「確かにな……。ターナ商会の内情とガレルの不在を知ってなお交渉してくれたんなら、理性的な相手に思えるぜ。それに今のアタイらにゃあ、他に縋れる手も残ってない、な……」


 多少の不安は残るものの、おかげで僕たちターナ商会は父さん抜きでも存続していけそうだった。


 やっぱり父さんは凄いよ……!

 自分が死んだ後も、こうやって家族を守ってくれるんだからっ。


 なら父さんの息子である僕だって、このまま守られてるわけにはいかないよねっ!?


「母さん! 僕もマグエルにつれていって欲しいんだっ!」

「ガラム!? 貴方今の話を……」


 母さんたちの話し合いに乱入し、母さん達が口を開く前に用件を伝えて頭を下げる。

 お願いだよ母さん……! 僕を弱いままの子供にしないで……!


「僕は父さんの息子として、母さんたちやターナ商会を守れる強さが欲しいんだ! だからお願い! 僕にも戦い方を教えてください!」


 必死に頭を下げていると、母さん達が僕の周りに集まってきている気配がした。

 だけど誰も口を開かずに、ただ黙って僕の姿を見下ろしている。


 僕は母さんたちの顔を見るのが恐ろしくて、ただ震えながら自分の足元を見詰め続けていた。


「……ガラム。顔を上げなさい」


 レイシ母さんからの静かな要求。

 だけど母さんたちの顔を確認するのが恐ろしくて、なかなか頭を上げることが出来ない。


「もう1度言うわよガラム。顔を上げなさい。……父さんのように強い男になりたいのなら、ね?」

「……っ!」


 そうだ。僕は父さんのように強い男に、母さん達を守れる男にならなきゃいけないんだ!

 だっていうのに、その母さんたちの顔を見るのを怖がってる場合じゃないよっ!


 両手をぐっと握り締め、奥歯をギリっと噛み締めて、なけなしの勇気を振り絞って顔を上げる。

 するとそこには、なんだか優しげな表情を浮かべた母さんたちの姿があった。


「安心してガラム。貴方のことも頼んであるわ。母さんたちと一緒に、ガラムも強くなりましょう?」

「えっ……。そ、それじゃあっ……!」

「ガラム。今日から貴方には獣炎の眼光のリーダーを任せるわ。父さんの代わりに、私たちを守ってくれる?」


 僕を優しく抱きしめながら、父さんの代わりを僕に任せると告げるレイシ母さん。

 僕なんかに父さんの代わりが務まるかは不安だけど、父さんのように強くなる為には母さんたちの期待を裏切るわけにはいかないっ!


「も、勿論だよっ! 僕はいつか父さんよりも強くなって、母さん達のことをずっと守ってみせるからっ! 約束するよっ!」

「ふふ。ガラムは本当にガレルさんに良く似てくれましたね。頼りにしてますよ?」

「安心しなぁ! ガラムだけにターナ商会を背負わせるつもりは無いよっ! アタイらも強くなるから……だから一緒に頑張ろうぜ、ガラムっ!」


 僕に父さんの代わりを期待するんじゃなく、母さんたちと一緒に父さんの背中を追いかける。

 母さんたちも一緒なら、きっといつか父さんにだって追いつけるかもしれないねっ!


 こうして僕達家族は、マグエルの教会で戦闘訓練を受けさせてもらう事になったのだった。






「みんなちょっと来てくれー! 今日から新しく訓練に参加する人たちを紹介したいんだーっ!」


 マグエルに到着すると、今回の話を提案してくれたっていう男性が、教会のみんなに僕らを紹介してくれる。

 男性が呼びかけると僕と同じくらいの子供達が直ぐに集まってきて、この男性がとても信頼されているのが伝わってきた。


「この人たちは教会の孤児じゃないけど、みんなと同じように困ってるんだ。だから今日からみんなと一緒に戦闘訓練を受けさせて欲しい」

「よ、よろしくおねがいしますっ……!」

「うんっ!」「宜しくねーっ!」「大人の人だーっ!?」


 今まで家族と自宅で暮らしてきた僕にとって、教会の子供達の数の多さには少し圧倒されてしまった。

 けれどみんなは僕達のことを歓迎してくれて、僕と母さんたちの手を引いて、直ぐに仲良く接してくれたんだ。


 毎日朝食を食べたらマグエルに行って、明るいうちはみんなと一緒に訓練をした。

 訓練が終わったら毎日我が家のアウターで、数時間ほどドロップアイテムを回収して生活費を得る。


「ガラムが居なくなっても、意外とやっていけるものね……」

「ガラムが居るうちに気付けていりゃあ、アタイらも一緒に戦えたってのにな……。気付くのが遅すぎたねぇ……」


 いつの間にか母さんたちは5人とも戦士になっていて、ドロップアイテムの回収量も格段に上がってくれた。

 これでターナ商会がすぐに潰れちゃうような事は無いと思う。良かった~……!


 この調子でひと月ほど訓練を重ねて、僕も念願の初転職の日を迎えたのだった。





「んー……。今は母さんたちみんな戦士なのに、僕まで戦士になる必要は無いかなぁ?」


 始めは母さんたちと同じ戦士になろうと思ったけど、戦闘訓練に有利で商会の活動にも直ぐに貢献できる旅人に転職する事にした。

 これで疲れにくくなって訓練をたくさん出来るようになるし、インベントリでドロップアイテムの回収にも貢献するんだっ!


「へぇ。ガラムって旅人になったんだ? 始めは戦士になる子が多いのに珍しいねー」

「あっ、うん。うちは母さん達が戦士だから、僕は別の職業の方がいいかなって……」

「そっかぁ。みんな色々考えてるんだなぁ」


 旅人になって訓練していると、幸福の先端のコテンが不思議そうに話しかけてくる。


 確かコテンも始めは戦士になったって言ってたっけ。

 だから自分とは違う職業を選んだ僕のことが不思議に思えたのかなぁ?


「戦士に憧れる子が多いのは分かるよ。安全性も上がるし、魔物との戦いが楽になるんだからさ」

「んー。私も始めはそう思ってたんだけどさー。最近はちょっと失敗したなーって思ってるんだー。始めは旅人にしておくべきだったかなって」

「ええっ? でもコテンって、もう旅人も浸透してるんでしょ? なら同じじゃないの?」

「ん~、どうなんだろうねー。同じのような気もするし、そこが大きい違いだった気もするんだよねーっ」


 あーもーっ! と叫びながら、頭を抱えるコテン。

 既に安定した魔物狩りとして活動しているコテンでも、こんなに悩んだりするんだなぁ……。


「何をそんなに悩んでるの? 僕から見たらコテンって、既に成功者にしか見えないんだけど……」

「私が目指してるのはこの程度じゃないのっ! 私が目指してる人たちはもっともっと先にいるんだよっ? 今くらいで成功者とか言ってられないんだってばっ」

「ええっ? コ、コテンの目標ってそんなに高いんだ……?」

「高いって言うか、物凄く遠いんだよねー……。どうやったらみんなに追いつけるのか、皆目見当もつかないって言うかさー……」


 悔しそうに唸りながら、それでもダガーに見立てた木剣を振り続けるコテン。


 なんでもコテンの目指してる人たちっていうのは、常に自分達も幸せでいながら、幸せになれていない人たちを片っ端から幸せにしちゃうんだって。

 トライラムフォロワーのみんなも、その人たちが来るまではずっと苦しい生活をしてたなんて、今のみんなの様子を見てたらとても信じられないよ……。


「パーティメンバー1人1人も、ものすっごく強くってさー。みんな1人でスポットの最深部で戦えちゃうんだよ?」

「はぁっ!? 1人でアウターの最深部で戦えるって……。いくらなんでも嘘でしょっ!?」

「嘘もなにも、私たちはその人たちにずっと守られてたからさぁ。訓練しても訓練しても強くなれない自分が嫌になっちゃうよーっ」


 そう嘆きながらコテンが振るダガーの動きを、僕は目で追うことが出来なかった。

 僕なんかよりもずっとずっと強いコテンでも、まだまだ自分の無力を嘆いているなんて……。


 僕はターナ商会と母さんを守れればそれで充分だって思ってたけど……。本当にそれでいいんだろうか?

 こんなに強いコテンですら無力を嘆くこの世界で、僕の目標は余りに低すぎるんじゃないだろうか?


 本当に僕はこのままで、父さんのように強くて偉大な男になる事が出来るのかなぁ……。


「……ねぇコテン。コテンが目標にしてる人たちって誰のこと? 僕も知ってる人?」

「はぁ? そんなの知ってるに決まってるでしょ? ガラムを私たちに紹介した人たちが、仕合わせの暴君っていう私の目標のパーティなんだからっ」

「えっ!? あ、あの人ってそんなに凄い人だったの……!?」


 父さんとの古い知り合いで、ターナ商会の取引先の1つってしか聞いてなかったけど……。

 レイシ母さんにもう少し詳しく話を聞いてみれば良かったなぁ……!


「凄いもなにも、ガラムだってダンたちにここに連れてこられたんじゃない。ってことは、アンタたちも何かに困ってたんでしょ?」

「えっ……?」

「だってあの人たち、困ってる人を絶対に放っておかないんだもん。あの人たちが連れて来たって事は、ガラムたちはきっと困ってたんでしょ?」


 ターナ商会の事は家族だけの秘密にしてある。

 だからコテンたちが僕たち家族の事情を知っているわけはないんだけど、なぜだかコテンには全て知られているような気がしてしまった。


「え、と……そうだね……。うちはその……。と、父さんが突然亡くなって……」

「でしょー? だからみんなも直ぐに仲良くなったんだよ? ダンが連れてくる人たちは、きっとすっごく困ってる人たちだろうからって」

「あっ……!」


 初めてここに連れてこられた日、ここのみんなは直ぐに僕達家族を受け入れてくれた。

 それはここの人たちが社交的だったからなんじゃなくって、僕達が困っている事を察して受け入れてくれていたのっ……!?


「……私たち幸福の先端はね。仕合わせの暴君を目指して頑張ってるんだー。あんな風に、誰彼構わず片っ端から人を助けられるようになりたいってねっ」

「仕合わせの……暴君」

「リーダーのダンは人間族だし男だし、私が目標にするのはちょっとねー。私が目標にしてるのは、ドワーフのティムルと獣人族のニーナなんだーっ!」


 僕が興味を示したのが嬉しかったのか、訪ねる間もなく語り出すコテン。

 目標を語るコテンの姿にはもう悔しさなんて感じなくって、どこまでも前だけを見詰めるような力強さだけが宿っている気がした。


「獣人族の人も居るんだね? 僕は人間族の男の人としか会ったことがなかったかなぁ……?」

「うんうんっ。それがリーダーのダンだねー。うちのリーダーのワンダも人間族でしょ? だからアイツ、すっごくダンに憧れてるんだーっ」

「へー。みんなが目標にしてる幸福の先端。そのみんなが目標にしてる人たちか~」


 楽しそうに話すコテンを見ていると、なんだかちょっとだけ興味が湧いてくる。


 トライラムフォロワーのみんなも、僕達家族のことも助けてくれた仕合わせの暴君かぁ。

 その人たちを目標にしたら、僕もいつか父さんみたいな強い男になれるのかな?


「そんなに凄いなら僕も話が聞きたいなっ。コテンが目標にしてる人のことを聞かせてくれない? 僕ももっと強くなりたいしさ」

「いくらでも教えてあげるわよーっ? ティムルは私の師匠でね。私に戦い方を教えてくれた人なんだーっ」

「えっ? 獣人族のニーナって人じゃなくって、ドワーフの人が師匠なんだ?」

「ニーナとダンは私たちにとっては恩人なんだよねー。あの2人が居なかったらきっと私たち、こんなに笑えてなかったと思うんだ……」


 ダンとニーナという人を語るコテンの目は、どこか遠い場所を見ているように感じられた。

 まるでずっとずっと先にある誰かの背中を見失わないように、じっと目を凝らしているみたいだ。


「でもさ。多分ガラムは強くなれると思うよ?」

「えっ!? な、何いきなり!? ぼぼっ、僕なんかまだまだだよっ!?」

「だってね。ダンとニーナも、家族が大切だから強くなったんだって言ってたんだ。家族を護りたい、ただそれだけで誰よりも強くなっちゃったんだって言ってたから。だからガラムも強くなるんじゃないかなー?」

「家族を、護るための強さ……?」


 なんだろう。コテンの言葉が僕の胸に中にストンと収まった気がした。

 コテンが言っている強さって、もしかしたら父さんが持っていた強さのことなんじゃないのかな?


 ずっと1人で家族を支え続けた父さん。

 自分が死んだ後もこうして、僕たち家族に道を示してくれる父さんの強さ。


 仕合わせの暴君って人たちのことを目標にしていれば、いつか僕も父さんみたいに強い男になれるかなっ……!?


「……なんだか僕もその人たちに興味が湧いてきたよ。ちょっと会ってみたいなぁ」

「そのうち会えるんじゃない? 教会の傍のでっかいお屋敷に住んでる人たちだからねー」

「あ、あの家に住んでる人たちなんだね。へーっ」


 あの家にそんな凄い人たちが住んでいたなんて知らなかったなぁ。

 でもあんなにご近所さんなら、コテンの言う通りそのうち会えるかもしれない。


 もしもいつか会えた時に恥ずかしくないように、今の内にしっかりと訓練しておかなくっちゃ!

 父さんの知り合いだっていうあの人たちに、父さんの息子として恥ずかしい姿は見せられないもんねっ。
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