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7章 家族みんなで冒険譚2 聖域に潜む危機
502 ※閑話 見取り稽古 (改)
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旦那様との別行動中、ムーリたちの探索を見守りながらアウラと何度も手合わせします。
しかし今日は旦那様に頼まれたので、アウラへの手解きの一環としてフラッタと武器を構えて対峙しました。
「それではフラッタ。お願いしますね」
「うむっ。胸を借りるのじゃヴァルゴっ!」
元気いっぱいに宣戦布告するフラッタ。いつも通りとても可愛らしいですね。
ですが胸を借りるだなんてとんでもない。それは私のセリフですよ?
出会った当初こそ私達の技術に差がありましたが、ラトリアの双剣を瞬く間に喰らい昇華した今のフラッタの剣は、私とほぼ同じ水準まで洗練されています。
種族的な身体能力差を考慮すれば、胸を借りるのは既に私のほうなのです。
「アウラも良く見ておくのじゃぞ? これはお主のための手合わせでもあるのじゃからなっ」
「そ、そりゃあ目を離す気は無いけど……。だ、大丈夫なの? お互いアウターレア武器を持って手合わせするなんて……」
「心配要りませんよアウラ。私もフラッタも、訓練で怪我をするほど未熟ではありませんから」
いつもだって普段と変わらない装備品で手合わせしているんですけど、どうして今日に限ってそんな心配を?
張り切るフラッタを見て不安になったのでしょうか?
ふふ。フラッタったら。アウラと自分に共通点が多いと言われて、とてもやる気に満ち溢れていますね。
「オーラやダークブリンガーまで使用するなら多少危険ではあるがの。普段の状態ならなんの不安も無いのじゃ」
「アウラはオーラやダークブリンガーまで使える可能性もありますから、本来であれば使って見せてあげるべきかもしれませんが……。まずはフラッタを見て体の動かし方を学んでくださいね」
アウラの身体能力があればそれだけで相手を圧倒できそうですが、アウラは旦那様を見ていますからねぇ。
アウラがどれだけ身体能力を鍛えようと、それだけでは到底旦那様には敵いません。
愛する娘が少しでも父親に近づけるよう、母として全力で協力してあげないといけませんねっ。
可愛いアウラをフラッタと共に一瞥してから、頷き合って手合わせを開始します。
「行くのじゃヴァルゴーっ!」
威勢のいい掛け声と共に、フラッタが巨大なドラゴンイーターで切りかかってきます。
竜人族の膂力によって15歩は離れていたはずの距離は一瞬で埋められ、気付いた時には既に眼前まで迫っていた刃を横にずれて躱します。
「ふっ!」
しかしフラッタは巨大な両手剣をまるで羽毛のように操り、即座にドラゴンイーターで横薙ぎの一閃を放ちます。
それを掻い潜った私に、左手のフレイムドラゴンブレードで刺突を繰り出すフラッタ。
「くぅ……!」
その強烈な突きを災厄のデーモンスピアの柄で受け、その衝撃に逆らわずに後ろに飛んで距離を空けます。
双剣を振るうようになってからまだ数ヶ月も経っていないはずなのに、その動きには微塵の迷いも無いようです。
ふわりと着地する私を追撃せず、ただ挑発的な笑みを浮かべているフラッタ。
挨拶は終わり、ということでしょうか?
ですがフラッタ。私からの挨拶はこれからですよっ!
「はぁっ!」
フラッタに対して身体能力で劣る私は、体捌きに緩急をつけて実際の速度よりも速い動作を錯覚させてフラッタに突きを放ちます。
小手先の技術で放たれた槍などフラッタにあっさり躱されてしまいますが、私の槍の真骨頂はここからですよフラッタ!
「ぬぉっ!?」
フラッタに回避された槍の切っ先を、槍のしなりと全身のしなりを合わせて最小限の動きで次の一手を繰り出します。
手首、肘、肩、腰、膝の動き、そして槍のしなりと遠心力、それら全てを総動員して、小さな動きを次々繋げて無尽の連撃を仕掛けます。
我ら守人の槍は、加護無き体で魔物を滅ぼす為の弱者の槍。自分より強い相手を完封して仕留める事を目的とした槍です。
フラッタにだって、そう簡単には超えさせてあげられませんよっ!
「……っふぅぅぅぅ」
しかし始めこそ戸惑いを見せたフラッタでしたが、私の槍を躱し、捌き、掻い潜りながら息を吐き、少しずつ集中力を深めていきます。
ドラゴンイーターとフレイムドラゴンブレードを己が肉体の如く自由自在に操り、私の槍に難なく対応してくるフラッタ。
くっ、やはり才能では仕合わせの暴君の中で断トツですねっ! 槍1本で今のフラッタの双剣を掻い潜るのは至難の業ですか……!
「せりゃあっ!」
「……っ」
私の槍をドラゴンイーターで受け止めた瞬間、そのまま打ち返して私の体勢を崩し、フレイムドラゴンブレードで追撃してくるフラッタ。
崩された私はあえて脱力してより大きく体を傾け、フラッタから受けた衝撃を利用して赤い刃を回避します。
すぐさま放たれたドラゴンイーターの袈裟切りにデーモンスピアを正面からぶつけ、その衝撃で私達は互いに後退して距離が開きました。
油断無く槍を構える私に対して、フラッタはニコニコとドラゴンイーターを担いでいますね。
「ふははっ! 流石はヴァルゴなのじゃ! 技術ではまったく勝てる気がしないのじゃっ!」
「え、えぇ……? フラッタの剣は、既に私の槍と比べても遜色の無い水準だと思いますけど……?」
「謙遜するでないっ! 仕合わせの暴君最強の座は伊達ではないのじゃ!」
フラッタが私の槍を手放しで褒めてくれます。
その事実に私としては複雑な想いを抱いてしまいますが、フラッタは何処までも素直に自分の感じた事をそのまま口にしただけ。この誰よりも才能に溢れた少女は、まだ私の実力を認めてくれています。
……なんだか旦那様やニーナの気持ちが理解出来てしまいますねぇ。
こんなに可愛いフラッタに真っ直ぐに気持ちをぶつけられてしまっては、何が何でもその想いに応えてあげたくなってしまいます。
最強だと言ってくれたフラッタに、無様な姿は絶対に見せられないと槍を握る手に力が篭ります。
旦那様と剣を打ち合わせる時にだけ垣間見せるフラッタの満面の笑み。
圧倒的な資質と才能を持つフラッタが、強者と認めた相手にだけ浮かべる甘えの笑顔。
それには遠く及ばないまでも、私の槍でもフラッタの笑顔を引き出すことが出来たようです。
ああもうフラッタは可愛いですねぇっ!
可愛いフラッタに甘えられたら、何が何でも負けられなくなるじゃありませんかぁっ!
「行きますよ、フラッタぁっ!」
「望む所なのじゃーっ!」
フラッタと全力でぶつかり合います。
フラッタの剣からは1撃毎にヴァルゴ凄い! ヴァルゴ凄い! と伝えられてくるから、極限の戦闘状態なのに顔がにやけてしまうのをどうにも抑えられません。
技術と補正を極めた旦那様とは対照的な、才能と膂力に裏打ちされたフラッタの剛剣。
そこにラトリア直伝の剣の技術が乗せられているのです。正直手がつけられません。
……それでもなんとか対応できるのは、フラッタの剣にはどこか甘さが残っているからでしょう。
フラッタが真面目に剣の腕を磨き続けてきたのは疑いようもないですが、守人たちのように常に死と隣り合わせの生活を送っていたわけでもなく、旦那様のように自分の無力にもがき続けるような日々を送ってきたわけでもないのです。
フラッタの剣は、フラッタ自身がそうであるように裏表が無く素直でまっすぐな、美しい正統派の剣術です。
単純な技術で言えば、私の槍よりも既に上なのでは無いでしょうか?
……フラッタの剣を正面から受け止めていると、師匠が小手先の技術を求めた気持ちが少し分かります。
自分を超える才能を持つ相手と対峙し、けれどその相手に負けることが出来ない時、ならば他の分野で上回ろうと考えてしまうのですね。
ですが私の槍は旦那様に最強を期待された槍なのです。
たとえフラッタに才能で劣っていようとも、私は彼女を正面から超えなくては意味がありません。
仕合わせの暴君のメンバーはそれぞれが旦那様に1番の気持ちを受け取っています。私が旦那様から受け取っている1番は期待です。
もしもそれを裏切ってしまったら、私は仕合わせの暴君にいる資格が無くなってしまうでしょう。
だから、まだまだ負けてあげませんよフラッタ。
旦那様の期待も、貴女からの評価も裏切りたくありませんからねっ!
ラトリア達が聖域の奥へと進むのに合わせて移動しながら、私とフラッタはひたすら手合わせを続けたのでした。
「はぁっ……! はぁっ……! そ、そろそろ切り上げて、アウラやラトリアたちとも手合わせしましょうか……」
「うむっ! 了解なのじゃーっ」
数時間ほど手合わせを続け、数多くの持久力補正すら超えて疲労を覚える私に対し、ただただ上機嫌にニコニコしているフラッタ。
双剣をインベントリに収納したあと、たたたーっと走ってきて私をぎゅっと抱きしめてくれます。
「やっぱりヴァルゴは凄いのじゃーっ! 妾もまだまだ腕を磨かねばならぬのう!」
「お、お疲れ様ですフラッタ……。こ、こちらこそ自分の未熟を思い知りましたよぉ……」
笑顔でまっすぐに好意をぶつけてくるフラッタに、なんだかドキドキさせられてしまいます。
……こ、これが篭絡されるということですか……!
道理でニーナがフラッタを抱きしめていても旦那様がニコニコしているはずです……! これは……実に抗いがたい……!
「ダンの剣はどこまでも妾を愛してくれるような剣なのじゃが、ヴァルゴの槍は妾と共に研鑽に励むように感じたのじゃっ! 剣を交える毎に激励されたように感じるのじゃっ!」
「ふふ。お互い旦那様を目標とする身ですからね。まだまだ力及びませんが、それでも共に同じ場所を目指す同志が居るというのは心地良いものです」
「いつかダンを打ち負かす日まで! 共に腕を磨くのじゃーっ!」
旦那様の打倒を誓いながら、力いっぱいぎゅーっと抱きしめてくれるフラッタ。
な、何この娘……。か、可愛すぎるんですけどっ……! あ、甘えるのが上手すぎますぅ……!
こ、このままではいけません! 私が愛するのは旦那様ただ1人です!
なのにこのままでは、それとは別枠でフラッタのことも大好きになってしまいそうですぅぅ……!
「アアア、アウラ! 私達の手合わせはどうでしたっ? さ、参考にできそうですかっ……?」
「落ち着いてヴァルゴちゃん。手合わせの時よりよっぽどテンパっちゃってるの」
呆れ顔のターニアに窘められてしまいます。
でも落ち着くのなんて無理ぃ! フラッタが可愛すぎて無理なんですっ!
あ、フラッタ、ぎゅーっとしながら頬ずりしちゃ駄目ですってぇ! よしよしなでなでよしょしなでなで。
「ん~……。2人の手合わせは物凄いとしか言い様がなかったけど……」
フラッタを愛でる私の問いかけに、アウラは首を傾げながら悩ましげに答えてくれます。
あぁ、アウラはアウラでとても可愛らしいですねぇ。
「それでも、2人とも凄く洗練された動きだったのは分かったよ? フラッタママの動きを参考にするにしても、やっぱり戦闘技術を疎かにしちゃダメなんじゃ、って思ったかなぁ……」
「うむっ。技術を磨くのは大切なのじゃ。強くなりたいと願うのであれば、研鑽を積むしかないのじゃからな」
私に抱きついたままのフラッタは、アウラの答えに満足げに頷いています。
けれど当のアウラは、なんだか納得がいかないような顔をしていますね?
「んーでもさ~。パパもママたちも、私は技術を磨くよりも私のスタイルみたいなものを作り上げなさいって言ってたじゃない? その話と矛盾してないのかなー?」
「矛盾してませんよアウラ。戦うための技術というのは、何も武器の扱い方だけに限ったものではありませんから」
「う、う~ん……? 難しいな~……」
アウラはどうしても武器の扱いの方に注目してしまうみたいですね。
私もフラッタもお互いアウターレア武器ですから、武器自体の存在感もありますものねぇ。
戦闘経験の少ないアウラには、様々な要素を見て自分にあわせていいとこ取りをする、というのはまだ難しいかもしれません。
旦那様はいつも自分を基準に考えすぎなんですよ、まったくもうっ。
「焦る必要はありませんよアウラ。これから色々なものを見て、沢山悩んでいいんです。貴女が戦う必要なんて本来は無いのですしね」
「ふははっ! アウラは最強になれる素質を秘めてはおるが、そう簡単に負けてはやらぬのじゃあ! 妾達はダンに追いつかねばならぬからのうっ!」
「……パパってそんなに凄いの? 確かに暴走してた私をあっさりいなしちゃったけど、ママたちだって同じことが出来るんじゃない?」
「ふふ。そりゃあ娘である貴女をいなすなんてこと、母としては当然にできますけどね?」
でもねアウラ。旦那様はもうそういう次元じゃないんですよぉ……。
私達全員が種族特性を発動して連携しても、旦那様は誰も傷つけずに圧倒してきますからね。
ダークブリンガーとオーラを発動しても普通に捌かれますし……。いったいなんなんですかねあの人は。
「そうですねぇ。アウラはまず旦那様と私達の差を分かるようになるのが課題でしょうか? 娘に認められるのは嬉しいですが、私たちと旦那様を同格に感じるなど未熟な証拠ですから」
「ま、アウラがダンの実力を理解できぬのも仕方ないのじゃ。ダンの実力は妾たちでさえ正確に把握できているか怪しいからのう」
本当にフラッタの言う通りですよねぇ。未だに旦那様の底が見えない気がしますよ。
今でも目に焼きついている、いつかの雨の中で振るわれていた旦那様の双剣。
降りしきる雨の中でも僅かな粗もブレも無いのに、目に映らないほどの速度で走る無数の剣閃。
あんなものを見せられてしまってはねぇ……?
「え、ええ……。パパってそんなに凄いんだぁ……。赤ちゃんみたいにおっぱい吸ってくる姿からは想像できないんだけど……」
ふふ。そこが旦那様のいいところなんじゃないですかぁ。
誰よりも強い男が私たちにだけ甘えてきてくれるんです。女としてこれほど嬉しいことはありませんっ。
このあとは私とフラッタが交替でアウラと手合わせをして過ごしました。
「ん~? フラッタママの動きを参考にしてるはずなんだけどな~っ? なんで同じように動けないんだろ~っ!」
やはり今のアウラにはまだ、フラッタの体捌きを参考にするのは難しいみたいです。
フラッタのように動けなくて、アウラはとてももどかしそうにしていますね。本当に可愛らしい。
焦らなくていいんですよアウラ。もう貴女は独りでは無いのですから。
私達も旦那様も、2度と貴女を独りぼっちになんてさせる気はありませんからね。
フラッタすら超えるほどの資質を持った貴女が、これからどんな道を見つけて選び取ってくれるのか……。
貴女の母の1人として、才能溢れる娘の成長が楽しみで仕方ありませんよ。
しかし今日は旦那様に頼まれたので、アウラへの手解きの一環としてフラッタと武器を構えて対峙しました。
「それではフラッタ。お願いしますね」
「うむっ。胸を借りるのじゃヴァルゴっ!」
元気いっぱいに宣戦布告するフラッタ。いつも通りとても可愛らしいですね。
ですが胸を借りるだなんてとんでもない。それは私のセリフですよ?
出会った当初こそ私達の技術に差がありましたが、ラトリアの双剣を瞬く間に喰らい昇華した今のフラッタの剣は、私とほぼ同じ水準まで洗練されています。
種族的な身体能力差を考慮すれば、胸を借りるのは既に私のほうなのです。
「アウラも良く見ておくのじゃぞ? これはお主のための手合わせでもあるのじゃからなっ」
「そ、そりゃあ目を離す気は無いけど……。だ、大丈夫なの? お互いアウターレア武器を持って手合わせするなんて……」
「心配要りませんよアウラ。私もフラッタも、訓練で怪我をするほど未熟ではありませんから」
いつもだって普段と変わらない装備品で手合わせしているんですけど、どうして今日に限ってそんな心配を?
張り切るフラッタを見て不安になったのでしょうか?
ふふ。フラッタったら。アウラと自分に共通点が多いと言われて、とてもやる気に満ち溢れていますね。
「オーラやダークブリンガーまで使用するなら多少危険ではあるがの。普段の状態ならなんの不安も無いのじゃ」
「アウラはオーラやダークブリンガーまで使える可能性もありますから、本来であれば使って見せてあげるべきかもしれませんが……。まずはフラッタを見て体の動かし方を学んでくださいね」
アウラの身体能力があればそれだけで相手を圧倒できそうですが、アウラは旦那様を見ていますからねぇ。
アウラがどれだけ身体能力を鍛えようと、それだけでは到底旦那様には敵いません。
愛する娘が少しでも父親に近づけるよう、母として全力で協力してあげないといけませんねっ。
可愛いアウラをフラッタと共に一瞥してから、頷き合って手合わせを開始します。
「行くのじゃヴァルゴーっ!」
威勢のいい掛け声と共に、フラッタが巨大なドラゴンイーターで切りかかってきます。
竜人族の膂力によって15歩は離れていたはずの距離は一瞬で埋められ、気付いた時には既に眼前まで迫っていた刃を横にずれて躱します。
「ふっ!」
しかしフラッタは巨大な両手剣をまるで羽毛のように操り、即座にドラゴンイーターで横薙ぎの一閃を放ちます。
それを掻い潜った私に、左手のフレイムドラゴンブレードで刺突を繰り出すフラッタ。
「くぅ……!」
その強烈な突きを災厄のデーモンスピアの柄で受け、その衝撃に逆らわずに後ろに飛んで距離を空けます。
双剣を振るうようになってからまだ数ヶ月も経っていないはずなのに、その動きには微塵の迷いも無いようです。
ふわりと着地する私を追撃せず、ただ挑発的な笑みを浮かべているフラッタ。
挨拶は終わり、ということでしょうか?
ですがフラッタ。私からの挨拶はこれからですよっ!
「はぁっ!」
フラッタに対して身体能力で劣る私は、体捌きに緩急をつけて実際の速度よりも速い動作を錯覚させてフラッタに突きを放ちます。
小手先の技術で放たれた槍などフラッタにあっさり躱されてしまいますが、私の槍の真骨頂はここからですよフラッタ!
「ぬぉっ!?」
フラッタに回避された槍の切っ先を、槍のしなりと全身のしなりを合わせて最小限の動きで次の一手を繰り出します。
手首、肘、肩、腰、膝の動き、そして槍のしなりと遠心力、それら全てを総動員して、小さな動きを次々繋げて無尽の連撃を仕掛けます。
我ら守人の槍は、加護無き体で魔物を滅ぼす為の弱者の槍。自分より強い相手を完封して仕留める事を目的とした槍です。
フラッタにだって、そう簡単には超えさせてあげられませんよっ!
「……っふぅぅぅぅ」
しかし始めこそ戸惑いを見せたフラッタでしたが、私の槍を躱し、捌き、掻い潜りながら息を吐き、少しずつ集中力を深めていきます。
ドラゴンイーターとフレイムドラゴンブレードを己が肉体の如く自由自在に操り、私の槍に難なく対応してくるフラッタ。
くっ、やはり才能では仕合わせの暴君の中で断トツですねっ! 槍1本で今のフラッタの双剣を掻い潜るのは至難の業ですか……!
「せりゃあっ!」
「……っ」
私の槍をドラゴンイーターで受け止めた瞬間、そのまま打ち返して私の体勢を崩し、フレイムドラゴンブレードで追撃してくるフラッタ。
崩された私はあえて脱力してより大きく体を傾け、フラッタから受けた衝撃を利用して赤い刃を回避します。
すぐさま放たれたドラゴンイーターの袈裟切りにデーモンスピアを正面からぶつけ、その衝撃で私達は互いに後退して距離が開きました。
油断無く槍を構える私に対して、フラッタはニコニコとドラゴンイーターを担いでいますね。
「ふははっ! 流石はヴァルゴなのじゃ! 技術ではまったく勝てる気がしないのじゃっ!」
「え、えぇ……? フラッタの剣は、既に私の槍と比べても遜色の無い水準だと思いますけど……?」
「謙遜するでないっ! 仕合わせの暴君最強の座は伊達ではないのじゃ!」
フラッタが私の槍を手放しで褒めてくれます。
その事実に私としては複雑な想いを抱いてしまいますが、フラッタは何処までも素直に自分の感じた事をそのまま口にしただけ。この誰よりも才能に溢れた少女は、まだ私の実力を認めてくれています。
……なんだか旦那様やニーナの気持ちが理解出来てしまいますねぇ。
こんなに可愛いフラッタに真っ直ぐに気持ちをぶつけられてしまっては、何が何でもその想いに応えてあげたくなってしまいます。
最強だと言ってくれたフラッタに、無様な姿は絶対に見せられないと槍を握る手に力が篭ります。
旦那様と剣を打ち合わせる時にだけ垣間見せるフラッタの満面の笑み。
圧倒的な資質と才能を持つフラッタが、強者と認めた相手にだけ浮かべる甘えの笑顔。
それには遠く及ばないまでも、私の槍でもフラッタの笑顔を引き出すことが出来たようです。
ああもうフラッタは可愛いですねぇっ!
可愛いフラッタに甘えられたら、何が何でも負けられなくなるじゃありませんかぁっ!
「行きますよ、フラッタぁっ!」
「望む所なのじゃーっ!」
フラッタと全力でぶつかり合います。
フラッタの剣からは1撃毎にヴァルゴ凄い! ヴァルゴ凄い! と伝えられてくるから、極限の戦闘状態なのに顔がにやけてしまうのをどうにも抑えられません。
技術と補正を極めた旦那様とは対照的な、才能と膂力に裏打ちされたフラッタの剛剣。
そこにラトリア直伝の剣の技術が乗せられているのです。正直手がつけられません。
……それでもなんとか対応できるのは、フラッタの剣にはどこか甘さが残っているからでしょう。
フラッタが真面目に剣の腕を磨き続けてきたのは疑いようもないですが、守人たちのように常に死と隣り合わせの生活を送っていたわけでもなく、旦那様のように自分の無力にもがき続けるような日々を送ってきたわけでもないのです。
フラッタの剣は、フラッタ自身がそうであるように裏表が無く素直でまっすぐな、美しい正統派の剣術です。
単純な技術で言えば、私の槍よりも既に上なのでは無いでしょうか?
……フラッタの剣を正面から受け止めていると、師匠が小手先の技術を求めた気持ちが少し分かります。
自分を超える才能を持つ相手と対峙し、けれどその相手に負けることが出来ない時、ならば他の分野で上回ろうと考えてしまうのですね。
ですが私の槍は旦那様に最強を期待された槍なのです。
たとえフラッタに才能で劣っていようとも、私は彼女を正面から超えなくては意味がありません。
仕合わせの暴君のメンバーはそれぞれが旦那様に1番の気持ちを受け取っています。私が旦那様から受け取っている1番は期待です。
もしもそれを裏切ってしまったら、私は仕合わせの暴君にいる資格が無くなってしまうでしょう。
だから、まだまだ負けてあげませんよフラッタ。
旦那様の期待も、貴女からの評価も裏切りたくありませんからねっ!
ラトリア達が聖域の奥へと進むのに合わせて移動しながら、私とフラッタはひたすら手合わせを続けたのでした。
「はぁっ……! はぁっ……! そ、そろそろ切り上げて、アウラやラトリアたちとも手合わせしましょうか……」
「うむっ! 了解なのじゃーっ」
数時間ほど手合わせを続け、数多くの持久力補正すら超えて疲労を覚える私に対し、ただただ上機嫌にニコニコしているフラッタ。
双剣をインベントリに収納したあと、たたたーっと走ってきて私をぎゅっと抱きしめてくれます。
「やっぱりヴァルゴは凄いのじゃーっ! 妾もまだまだ腕を磨かねばならぬのう!」
「お、お疲れ様ですフラッタ……。こ、こちらこそ自分の未熟を思い知りましたよぉ……」
笑顔でまっすぐに好意をぶつけてくるフラッタに、なんだかドキドキさせられてしまいます。
……こ、これが篭絡されるということですか……!
道理でニーナがフラッタを抱きしめていても旦那様がニコニコしているはずです……! これは……実に抗いがたい……!
「ダンの剣はどこまでも妾を愛してくれるような剣なのじゃが、ヴァルゴの槍は妾と共に研鑽に励むように感じたのじゃっ! 剣を交える毎に激励されたように感じるのじゃっ!」
「ふふ。お互い旦那様を目標とする身ですからね。まだまだ力及びませんが、それでも共に同じ場所を目指す同志が居るというのは心地良いものです」
「いつかダンを打ち負かす日まで! 共に腕を磨くのじゃーっ!」
旦那様の打倒を誓いながら、力いっぱいぎゅーっと抱きしめてくれるフラッタ。
な、何この娘……。か、可愛すぎるんですけどっ……! あ、甘えるのが上手すぎますぅ……!
こ、このままではいけません! 私が愛するのは旦那様ただ1人です!
なのにこのままでは、それとは別枠でフラッタのことも大好きになってしまいそうですぅぅ……!
「アアア、アウラ! 私達の手合わせはどうでしたっ? さ、参考にできそうですかっ……?」
「落ち着いてヴァルゴちゃん。手合わせの時よりよっぽどテンパっちゃってるの」
呆れ顔のターニアに窘められてしまいます。
でも落ち着くのなんて無理ぃ! フラッタが可愛すぎて無理なんですっ!
あ、フラッタ、ぎゅーっとしながら頬ずりしちゃ駄目ですってぇ! よしよしなでなでよしょしなでなで。
「ん~……。2人の手合わせは物凄いとしか言い様がなかったけど……」
フラッタを愛でる私の問いかけに、アウラは首を傾げながら悩ましげに答えてくれます。
あぁ、アウラはアウラでとても可愛らしいですねぇ。
「それでも、2人とも凄く洗練された動きだったのは分かったよ? フラッタママの動きを参考にするにしても、やっぱり戦闘技術を疎かにしちゃダメなんじゃ、って思ったかなぁ……」
「うむっ。技術を磨くのは大切なのじゃ。強くなりたいと願うのであれば、研鑽を積むしかないのじゃからな」
私に抱きついたままのフラッタは、アウラの答えに満足げに頷いています。
けれど当のアウラは、なんだか納得がいかないような顔をしていますね?
「んーでもさ~。パパもママたちも、私は技術を磨くよりも私のスタイルみたいなものを作り上げなさいって言ってたじゃない? その話と矛盾してないのかなー?」
「矛盾してませんよアウラ。戦うための技術というのは、何も武器の扱い方だけに限ったものではありませんから」
「う、う~ん……? 難しいな~……」
アウラはどうしても武器の扱いの方に注目してしまうみたいですね。
私もフラッタもお互いアウターレア武器ですから、武器自体の存在感もありますものねぇ。
戦闘経験の少ないアウラには、様々な要素を見て自分にあわせていいとこ取りをする、というのはまだ難しいかもしれません。
旦那様はいつも自分を基準に考えすぎなんですよ、まったくもうっ。
「焦る必要はありませんよアウラ。これから色々なものを見て、沢山悩んでいいんです。貴女が戦う必要なんて本来は無いのですしね」
「ふははっ! アウラは最強になれる素質を秘めてはおるが、そう簡単に負けてはやらぬのじゃあ! 妾達はダンに追いつかねばならぬからのうっ!」
「……パパってそんなに凄いの? 確かに暴走してた私をあっさりいなしちゃったけど、ママたちだって同じことが出来るんじゃない?」
「ふふ。そりゃあ娘である貴女をいなすなんてこと、母としては当然にできますけどね?」
でもねアウラ。旦那様はもうそういう次元じゃないんですよぉ……。
私達全員が種族特性を発動して連携しても、旦那様は誰も傷つけずに圧倒してきますからね。
ダークブリンガーとオーラを発動しても普通に捌かれますし……。いったいなんなんですかねあの人は。
「そうですねぇ。アウラはまず旦那様と私達の差を分かるようになるのが課題でしょうか? 娘に認められるのは嬉しいですが、私たちと旦那様を同格に感じるなど未熟な証拠ですから」
「ま、アウラがダンの実力を理解できぬのも仕方ないのじゃ。ダンの実力は妾たちでさえ正確に把握できているか怪しいからのう」
本当にフラッタの言う通りですよねぇ。未だに旦那様の底が見えない気がしますよ。
今でも目に焼きついている、いつかの雨の中で振るわれていた旦那様の双剣。
降りしきる雨の中でも僅かな粗もブレも無いのに、目に映らないほどの速度で走る無数の剣閃。
あんなものを見せられてしまってはねぇ……?
「え、ええ……。パパってそんなに凄いんだぁ……。赤ちゃんみたいにおっぱい吸ってくる姿からは想像できないんだけど……」
ふふ。そこが旦那様のいいところなんじゃないですかぁ。
誰よりも強い男が私たちにだけ甘えてきてくれるんです。女としてこれほど嬉しいことはありませんっ。
このあとは私とフラッタが交替でアウラと手合わせをして過ごしました。
「ん~? フラッタママの動きを参考にしてるはずなんだけどな~っ? なんで同じように動けないんだろ~っ!」
やはり今のアウラにはまだ、フラッタの体捌きを参考にするのは難しいみたいです。
フラッタのように動けなくて、アウラはとてももどかしそうにしていますね。本当に可愛らしい。
焦らなくていいんですよアウラ。もう貴女は独りでは無いのですから。
私達も旦那様も、2度と貴女を独りぼっちになんてさせる気はありませんからね。
フラッタすら超えるほどの資質を持った貴女が、これからどんな道を見つけて選び取ってくれるのか……。
貴女の母の1人として、才能溢れる娘の成長が楽しみで仕方ありませんよ。
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とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
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