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7章 家族みんなで冒険譚2 聖域に潜む危機
486 ドワーフの里の扱い (改)
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スペルディアに赴いて、個室のある高級レストランでロイ殿下と話をする。
ロイ殿下と種族代表会議について確認していると、リーチェとティムルがちょっと暇そうにしているのに気付いた。
もう俺が色ボケだってことはバレてるし、今度女王に即位するマーガレット陛下の前でもこの2人には散々悪戯したことだし、今回も暇潰しという名の悪戯を敢行しようかなっ。
「ねぇねぇリーチェ。ティムル。暇してるなら悪戯していい?」
「ん……。出来ればロイ殿下の前で悪戯されたくないかな……」
「あら? リーチェがダンのお誘いを断るなんて珍しいじゃない。そんなにロイ殿下のことが嫌いなの?」
俺達の直球過ぎる会話にも、ロイ殿下は反応する素振りを見せない。
なにも言わなくてもリーチェが俺達の会話を外に洩らさないようにしてくれているんだろう。
俺とロイ殿下は会話できるのに、俺達3人の会話はロイ殿下に届かないという複雑な調整に、リーチェの精霊魔法に万能性を感じずにはいられない。
これって極めれば、戦闘中の音を遮断するだけじゃなくて、戦闘中の音の聞こえ方を狂わせることも出来るんじゃないの? 単に遮音するよりも応用が利くんじゃないかな。
「嫌いって言うか、なんか苦手なんだよね。この人には弱みを見せたくないって言うか……。あと単純に、ダン以外にえっちなところは見せたくないからっ」
「あー、そんなことを言われちゃったら悪戯するわけにはいかないね。じゃあ話が終わるまでぎゅーっとしてていい?」
「うんっ。それなら全然いいよっ」
「あはーっ。ダンにぎゅーっとされたままじっとしてるなんて、心地良すぎて寝ちゃったらごめんなさいねっ?」
リーチェとティムルはまるでロイ殿下から表情を隠すように俺の胸に顔を埋め、俺の負担にならない程度の強さでぎゅーっと抱き付いてくれる。
これなら俺が抱き寄せる必要も無さそうなので、背中に回した腕を伸ばして2人の頭をよしよしなでなでしてあげよう。
「ちょっとちょっと。俺の事を色ボケとか言っておきながら、話が終わってないのにイチャつき始めるのやめてくれないかなぁ?」
「気にしないでください。なんならロイ殿下も恋人を呼ばれては?」
「ダンさんはもうちょっと気にしてくれよ!?」
今度即位する2人の王の前でも散々イチャついちゃったこともあるからね。第4王子の前でイチャつくくらいどうってことないんだわ。
というか我が家の場合、世界の命運よりもイチャつき合うことの方が優先度高いから。
俺になにを言っても仕方ないと思ったのか、肩を竦めて酒を煽るロイ殿下。
「……俺の恋人を呼ぶってのは魅力的な提案だけど、俺は公私はキッチリ分けるタイプでね。たとえ想い人であっても仕事に口を出されたくないのさ」
「あら、そうなんです? 王子って立場を利用して女性に手を出してたって言ってませんでしたっけ」
「王族の立場はあくまで恋愛を盛り上げるスパイスだよっ。世の女性の多くは、王子様ってフレーズが大好きだからねっ。そりゃあもう燃え上がってくれるのさっ!」
あ~、そう言えばリーチェも俺の事をよく王子様って言ってくれたっけなぁ。
でも高貴な身分に憧れるのは女性の限った話じゃないでしょ。大抵の男はお姫様ってフレーズだけでメロメロになるから。
「だけど仕事は別。というか愛する人ほど仕事に関わらせたくないんだ。幻滅したくないからね」
「あ~……。それもなんとなくですが分かりますよ」
「俺は基本不真面目だけど、やるとなったら完璧にこなしたいんだよね。だけど俺と同じ視点を持つのって結構難しいらしくてさぁ。愛するみんなを減点なんてしたくないんだ」
我が家、というか俺とは真逆の考え方だな。
面倒臭がりなのはお互い様だと思うけど、人に任せることで自分が想定しているクオリティを下回ってしまうのが許容できないんだろう。
要するに人に仕事を振るのが下手なんだなぁこの人。
俺なんか丸投げ前提だから、投げた後はもう完全に忘却の彼方だ。そのせいでたまに大切なことも忘れたりするけど?
「ロイ殿下の考えは理解できましたけど、我が家は妻があっての俺ですから。殿下には申し訳ないですけど、このままの状態で話を進めさせてもらいますよ」
「ん~……。俺も仕事中に相手してくれる女性を用意すべきかなぁ……。機密を聞かせても絶対に俺に逆らわないとなれば……やっぱ彼女が適任かなっ」
「お相手の女性には同情しますよ。それでもう1つ確認しておきたいのは、ドワーフ族の代表者のことなんです」
「ドワーフの代表? なんでそんなものをダンさんが気にするのさ?」
うん、当然の疑問だよな。
守人たちは俺との関係性をマーガレット陛下に匂わせてあるけど、クラメトーラの人々と俺達との接点はまだほとんど知られてないだろうから。
さてと、この男に何処まで情報を開示すべきかなぁ?
暴王のゆりかごを解放したことと、その過程でクラクラットを牛耳っていた連中を壊滅させた事は言わなきゃいけないだろう。
ひとまずアウラの事は伏せておくか。
ホムンクルス計画の事を知ってれば勝手に食い付いてくるだろうし、知らなければスルーしてしまおう。
「先日グルトヴェーダをぶち抜いてクラメトーラまで道を通しましてね。そのついでに暴王のゆりかごも攻略してきたんですよ」
「うん。ひと言目もふた言目も頭がおかしすぎるね。それで?」
「クラメトーラって不毛の地だったでしょ? それって実は暴王のゆりかごの異常が原因だったみたいで、それをサクッと解決してきたんです」
「……………………で?」
おお、頭を抱えながらも最後まで黙って聞いてくれるらしいぞ。ツッコミは話が終わるまで控えることにしたようだ。
なんだかんだ言って、やっぱ優秀だよなこの人。
「解決する過程で、暴王のゆりかごを管理していた連中……恐らくクラクラットの中枢機関だと思うんですけど、その連中を壊滅させちゃいまして。表向きの行政機関は残ってると思いますけど、実質的な支配者を排除しちゃったんですよねー」
「排除しちゃったんですよねー、じゃないよっ!! こんなの黙って聞いてるの無理だってばぁっ!!」
「まぁまぁそう言わずに落ち着いて。スペルディアから見て、クラメトーラの統治者と言うか代表者って誰って認識なんですか?」
「なに俺のツッコミをスルーして話進めてるのさぁっ!! むしろダンさんがもっと慌てなきゃ駄目でしょ!? 絶対俺のテンションの方が正常だからねっ!?」
凄いな、流石は完璧主義者のロイ殿下だ。ツッコミが止まらないよ。
恐らくロイ殿下は、普段もこんな感じに仕事相手の事が色々目に付いちゃって気になっちゃうんだろう。
だけどそんなんじゃ、仕事中はさぞかしイライラしちゃうだろうね。
「……ダン。貴方今、絶対見当違いのこと考えてるからね? 具体的には分からないけど」
「……具体的に分からないなら断言しないで欲しいなぁ?」
「ぼくたちも当事者だけど、反応的にはロイ殿下の方が正しいと思う。ダンにとってはアウラのこと以外どうでもいいんだろうけどねっ」
俺の腕の中でくすくすと笑うティムルとリーチェ。
アウラのこと以外って言うか、家族のこと以外はどうでもいいんだよ。こんなに可愛い2人のこと以外どうでもよすぎるんだよーっ。ぎゅ-っ。
「もうやっちゃったことですからね。今更慌てても仕方ないでしょう」
「ドワーフたちのコミュニティの中枢を壊滅させた事を、もうやっちゃった、で済ましちゃダメだからっ!」
「まぁまぁ、まずは落ち着いて質問に答えましょうよ。スペルド王国的には、クラメトーラの統治者って誰って認識なんですか?」
「しゃ、釈然としない……! 釈然としないけど、くっそぉ……! このままじゃ話が進まない……!」
なにを悔しそうに頭を抱えてるんですかね。
俺はさっきから話を先に進めようとしてますよ? 話を止めているのはロイ殿下のほうでーす。
「……けど、どうしてそんなことを聞くの? それじゃダンさん達が壊滅させた相手って誰なのさ?」
「俺達も肩書きは分かってないんですけどね。少なくとも、暴王のゆりかごの管理に一方的に口を出せる立場の者たちだったみたいです」
「暴王のゆりかごの管理に口を出すって事は、アウター管理局のことかな?」
あっさりとアウター管理局の名を口にするロイ殿下。
クラメトーラの基礎知識は問題なく頭に入っているらしい。けどこれが演技じゃなければアウラのことは知らないっぽいな。
「不毛の大地であるクラメトーラは、暴王のゆりかごからしかドロップアイテムを得ることが出来ないからね。王国としてはその認識で、アウター管理局がクラメトーラの中枢であると判断してるんだけど」
「いえ、そのアウター管理局に一方的に指示を出せる人間ですね。アウター管理局の人も何も知らされずに困ってましたから」
「……アウター管理局に一方的に口出しできる人物? それは流石に分からないな。多分ゴブトゴも把握してないと思う」
本当に思い当たる人物が居ないようで、自分の知らない事に対して顔を顰めるロイ殿下。
カイメンたちの事を知らないと言うことは、やっぱりアウラやホムンクルス計画のことも知らないだろう。
ホムンクルス計画ってレガリア主導の研究じゃなかったしな、そう言えば。
「改めて言わせてもらうけど、スペルディアからしたらアウター管理局がクラメトーラの中枢機関って認識だったよ。だからドワーフ族の代表はアウター管理局に問い合わせて選出してもらうつもりだったんだ」
「クラメトーラもスペルド王国に属してるのに、意外と大雑把な認識なんですね? 物理的な距離の問題もあったんでしょうけれど」
「ほら、あそこって冒険者ギルドも無いでしょ? だからかなり特殊な扱いなんだよ。スペルド王国である事は間違いないけど、人頭税以上の関わりは殆ど無かったと言っていい」
スペルド王国に属しているのに、王国との関わりを殆ど持たない土地か。本当に特殊な場所だなぁ。
クラメトーラにドワーフが住み始めたのって、偽りの英雄譚に反発してアルフェッカを出て行ったのが始まりなんだっけ。
という事は、始めはスペルド王国に属していなかったのかもしれない。
ドワーフだけの新天地を求めて北へ逃れ、そこでホムンクルス計画をスタートさせたドワーフ族。恐らく当初の目標は、ドワーフ族だけで生き抜いていくことだったはずだ。
だけどホムンクルス計画によってクラメトーラ全域が不毛の地になり、暴王のゆりかごから得られるドロップアイテムの量にも期待できなくなってしまった。
このままではドワーフたちは滅亡してしまう。
けれどドワーフ族の悲願であるホムンクルス計画だけは中断するわけにはいかなかった。
もしかしたらそんな葛藤の末に、1度は離れたスペルド王国に歩み寄る決断をしたのかもしれないな。全部俺の妄想でしかないけど。
「王国としても、税金さえ払ってもらえればどうでも良かったんだと思うよ、あんな所。離れている上に不毛の地なんだもん。統治するメリットが一切無いよね。事実、クラメトーラには王国貴族が1人も派遣されていないくらいだから」
「……ボロクソに言ってますけど、まぁ同意しますよ。せめて暴王のゆりかごを押さえられたらワンチャンあったかもしれないですけど」
「スペルディアには始まりの黒があるから、王家には全く魅力が無い土地だ。俺やラズですら見向きもしなかった場所だからね。クラメトーラを手に入れようなんて考えた者は居なかったんだろう」
「あー……」
確かに稼げる可能性があるなら、ロイ殿下やラズ殿下がサクッと介入しててもおかしくないな。なかなか説得力を感じる言い回しだ。
クラメトーラがボロクソに言われる度に、ティムルがザマーミロって顔して笑ってる。
ティムルって本当にクラメトーラが大嫌いだよなぁ。ぎゅーっ。
だけど王国側も把握していないなら、こりゃ1度現地に行って直接行政機関を調べてこなきゃいけないな。
カイメン以下の指揮系統ってどうなってるのか把握しないと。
「ちなみにですけど、現時点で俺が推薦したいのは夢の宿グループ代表のカラソルさんなんですよ」
「へっ? なんでここで夢の宿グループが出てくるの?」
「会長のカラソルさんはドワーフで、彼はずっとクラメトーラの困窮を改善しようと頑張ってたんです。恐らくドワーフ族のことを誰よりも真剣に憂慮していた人だと思います」
「へ~。夢の宿グループの会長さんってドワーフだったんだ。俺もラズもかなり贔屓にさせてもらってるけど、経営者とか興味無かったなぁ」
分かるっ。それ分かるよロイ殿下っ!
夢の一夜亭に入っちゃうと、もうそのあとの夢のようなめくるめく時間で頭の中がピンク一色になっちゃうからね。他の要素は全部どうでも良くなっちゃうんだよなーっ。
「夢の宿グループの経営者さんだなんて、個人的には思いっきり応援したいところなんだけどねー。私情を挟むと碌な事にならないから、ちゃんとドワーフたちに納得してもらってね? 時間はまだあるんだからさ」
「分かってますよ。そもそもまだ本人が了承してくれてませんからね。気長に説得する事にします」
「一応予定通り、王家からアウター管理局に問い合わせもしておくよ。現地に直接出向いて調査したりはしないと思うけどね」
積極的な調査をする予定は無い、か。
最悪、ドワーフの代表者なんか出席しなくても別にいいって思ってるんだろうな。
流石にゴブトゴさんまでどうでもいいと思ってることはないだろうけれど、あまり関わってこなかったドワーフ族の里にあまり口出しする気も無いのかな?
「種族代表会議はまだ先の話だ。だから今のうちに色々動いて根回ししておく事をお勧めしておくよ。勿論俺もさせてもらうけどね」
「……俺はそういうの興味無いんですけどねぇ。巻き込まないでもらえます?」
「あっはっは。そりゃー無理でしょ。ダンさんを中心とした派閥が既に存在してるんだもん。核であるダンさんが蚊帳の外に居ることは出来ないよ」
「そんなの生み出した覚えは全く無いんですけどねぇっ!?」
ツッコミを入れる俺に、ニヤニヤと意地の悪い笑みを向けるロイ殿下。
とりあえず、種族代表会議が思ったより先らしいことが分かってちょっとだけホッとしたけど、これって問題の先送りでしかないよな。
権力争いとか派閥抗争に巻き込まれないためには、いったいどう立ち回るのがいいだろう?
エルフのリーチェとドワーフのティムル。
本来仲が悪いはずの種族同士なのに俺の腕の中で仲良く笑っているこの2人みたいに、世界中がニコニコしててくれればそれだけで良いんだけどねぇ。
ロイ殿下と種族代表会議について確認していると、リーチェとティムルがちょっと暇そうにしているのに気付いた。
もう俺が色ボケだってことはバレてるし、今度女王に即位するマーガレット陛下の前でもこの2人には散々悪戯したことだし、今回も暇潰しという名の悪戯を敢行しようかなっ。
「ねぇねぇリーチェ。ティムル。暇してるなら悪戯していい?」
「ん……。出来ればロイ殿下の前で悪戯されたくないかな……」
「あら? リーチェがダンのお誘いを断るなんて珍しいじゃない。そんなにロイ殿下のことが嫌いなの?」
俺達の直球過ぎる会話にも、ロイ殿下は反応する素振りを見せない。
なにも言わなくてもリーチェが俺達の会話を外に洩らさないようにしてくれているんだろう。
俺とロイ殿下は会話できるのに、俺達3人の会話はロイ殿下に届かないという複雑な調整に、リーチェの精霊魔法に万能性を感じずにはいられない。
これって極めれば、戦闘中の音を遮断するだけじゃなくて、戦闘中の音の聞こえ方を狂わせることも出来るんじゃないの? 単に遮音するよりも応用が利くんじゃないかな。
「嫌いって言うか、なんか苦手なんだよね。この人には弱みを見せたくないって言うか……。あと単純に、ダン以外にえっちなところは見せたくないからっ」
「あー、そんなことを言われちゃったら悪戯するわけにはいかないね。じゃあ話が終わるまでぎゅーっとしてていい?」
「うんっ。それなら全然いいよっ」
「あはーっ。ダンにぎゅーっとされたままじっとしてるなんて、心地良すぎて寝ちゃったらごめんなさいねっ?」
リーチェとティムルはまるでロイ殿下から表情を隠すように俺の胸に顔を埋め、俺の負担にならない程度の強さでぎゅーっと抱き付いてくれる。
これなら俺が抱き寄せる必要も無さそうなので、背中に回した腕を伸ばして2人の頭をよしよしなでなでしてあげよう。
「ちょっとちょっと。俺の事を色ボケとか言っておきながら、話が終わってないのにイチャつき始めるのやめてくれないかなぁ?」
「気にしないでください。なんならロイ殿下も恋人を呼ばれては?」
「ダンさんはもうちょっと気にしてくれよ!?」
今度即位する2人の王の前でも散々イチャついちゃったこともあるからね。第4王子の前でイチャつくくらいどうってことないんだわ。
というか我が家の場合、世界の命運よりもイチャつき合うことの方が優先度高いから。
俺になにを言っても仕方ないと思ったのか、肩を竦めて酒を煽るロイ殿下。
「……俺の恋人を呼ぶってのは魅力的な提案だけど、俺は公私はキッチリ分けるタイプでね。たとえ想い人であっても仕事に口を出されたくないのさ」
「あら、そうなんです? 王子って立場を利用して女性に手を出してたって言ってませんでしたっけ」
「王族の立場はあくまで恋愛を盛り上げるスパイスだよっ。世の女性の多くは、王子様ってフレーズが大好きだからねっ。そりゃあもう燃え上がってくれるのさっ!」
あ~、そう言えばリーチェも俺の事をよく王子様って言ってくれたっけなぁ。
でも高貴な身分に憧れるのは女性の限った話じゃないでしょ。大抵の男はお姫様ってフレーズだけでメロメロになるから。
「だけど仕事は別。というか愛する人ほど仕事に関わらせたくないんだ。幻滅したくないからね」
「あ~……。それもなんとなくですが分かりますよ」
「俺は基本不真面目だけど、やるとなったら完璧にこなしたいんだよね。だけど俺と同じ視点を持つのって結構難しいらしくてさぁ。愛するみんなを減点なんてしたくないんだ」
我が家、というか俺とは真逆の考え方だな。
面倒臭がりなのはお互い様だと思うけど、人に任せることで自分が想定しているクオリティを下回ってしまうのが許容できないんだろう。
要するに人に仕事を振るのが下手なんだなぁこの人。
俺なんか丸投げ前提だから、投げた後はもう完全に忘却の彼方だ。そのせいでたまに大切なことも忘れたりするけど?
「ロイ殿下の考えは理解できましたけど、我が家は妻があっての俺ですから。殿下には申し訳ないですけど、このままの状態で話を進めさせてもらいますよ」
「ん~……。俺も仕事中に相手してくれる女性を用意すべきかなぁ……。機密を聞かせても絶対に俺に逆らわないとなれば……やっぱ彼女が適任かなっ」
「お相手の女性には同情しますよ。それでもう1つ確認しておきたいのは、ドワーフ族の代表者のことなんです」
「ドワーフの代表? なんでそんなものをダンさんが気にするのさ?」
うん、当然の疑問だよな。
守人たちは俺との関係性をマーガレット陛下に匂わせてあるけど、クラメトーラの人々と俺達との接点はまだほとんど知られてないだろうから。
さてと、この男に何処まで情報を開示すべきかなぁ?
暴王のゆりかごを解放したことと、その過程でクラクラットを牛耳っていた連中を壊滅させた事は言わなきゃいけないだろう。
ひとまずアウラの事は伏せておくか。
ホムンクルス計画の事を知ってれば勝手に食い付いてくるだろうし、知らなければスルーしてしまおう。
「先日グルトヴェーダをぶち抜いてクラメトーラまで道を通しましてね。そのついでに暴王のゆりかごも攻略してきたんですよ」
「うん。ひと言目もふた言目も頭がおかしすぎるね。それで?」
「クラメトーラって不毛の地だったでしょ? それって実は暴王のゆりかごの異常が原因だったみたいで、それをサクッと解決してきたんです」
「……………………で?」
おお、頭を抱えながらも最後まで黙って聞いてくれるらしいぞ。ツッコミは話が終わるまで控えることにしたようだ。
なんだかんだ言って、やっぱ優秀だよなこの人。
「解決する過程で、暴王のゆりかごを管理していた連中……恐らくクラクラットの中枢機関だと思うんですけど、その連中を壊滅させちゃいまして。表向きの行政機関は残ってると思いますけど、実質的な支配者を排除しちゃったんですよねー」
「排除しちゃったんですよねー、じゃないよっ!! こんなの黙って聞いてるの無理だってばぁっ!!」
「まぁまぁそう言わずに落ち着いて。スペルディアから見て、クラメトーラの統治者と言うか代表者って誰って認識なんですか?」
「なに俺のツッコミをスルーして話進めてるのさぁっ!! むしろダンさんがもっと慌てなきゃ駄目でしょ!? 絶対俺のテンションの方が正常だからねっ!?」
凄いな、流石は完璧主義者のロイ殿下だ。ツッコミが止まらないよ。
恐らくロイ殿下は、普段もこんな感じに仕事相手の事が色々目に付いちゃって気になっちゃうんだろう。
だけどそんなんじゃ、仕事中はさぞかしイライラしちゃうだろうね。
「……ダン。貴方今、絶対見当違いのこと考えてるからね? 具体的には分からないけど」
「……具体的に分からないなら断言しないで欲しいなぁ?」
「ぼくたちも当事者だけど、反応的にはロイ殿下の方が正しいと思う。ダンにとってはアウラのこと以外どうでもいいんだろうけどねっ」
俺の腕の中でくすくすと笑うティムルとリーチェ。
アウラのこと以外って言うか、家族のこと以外はどうでもいいんだよ。こんなに可愛い2人のこと以外どうでもよすぎるんだよーっ。ぎゅ-っ。
「もうやっちゃったことですからね。今更慌てても仕方ないでしょう」
「ドワーフたちのコミュニティの中枢を壊滅させた事を、もうやっちゃった、で済ましちゃダメだからっ!」
「まぁまぁ、まずは落ち着いて質問に答えましょうよ。スペルド王国的には、クラメトーラの統治者って誰って認識なんですか?」
「しゃ、釈然としない……! 釈然としないけど、くっそぉ……! このままじゃ話が進まない……!」
なにを悔しそうに頭を抱えてるんですかね。
俺はさっきから話を先に進めようとしてますよ? 話を止めているのはロイ殿下のほうでーす。
「……けど、どうしてそんなことを聞くの? それじゃダンさん達が壊滅させた相手って誰なのさ?」
「俺達も肩書きは分かってないんですけどね。少なくとも、暴王のゆりかごの管理に一方的に口を出せる立場の者たちだったみたいです」
「暴王のゆりかごの管理に口を出すって事は、アウター管理局のことかな?」
あっさりとアウター管理局の名を口にするロイ殿下。
クラメトーラの基礎知識は問題なく頭に入っているらしい。けどこれが演技じゃなければアウラのことは知らないっぽいな。
「不毛の大地であるクラメトーラは、暴王のゆりかごからしかドロップアイテムを得ることが出来ないからね。王国としてはその認識で、アウター管理局がクラメトーラの中枢であると判断してるんだけど」
「いえ、そのアウター管理局に一方的に指示を出せる人間ですね。アウター管理局の人も何も知らされずに困ってましたから」
「……アウター管理局に一方的に口出しできる人物? それは流石に分からないな。多分ゴブトゴも把握してないと思う」
本当に思い当たる人物が居ないようで、自分の知らない事に対して顔を顰めるロイ殿下。
カイメンたちの事を知らないと言うことは、やっぱりアウラやホムンクルス計画のことも知らないだろう。
ホムンクルス計画ってレガリア主導の研究じゃなかったしな、そう言えば。
「改めて言わせてもらうけど、スペルディアからしたらアウター管理局がクラメトーラの中枢機関って認識だったよ。だからドワーフ族の代表はアウター管理局に問い合わせて選出してもらうつもりだったんだ」
「クラメトーラもスペルド王国に属してるのに、意外と大雑把な認識なんですね? 物理的な距離の問題もあったんでしょうけれど」
「ほら、あそこって冒険者ギルドも無いでしょ? だからかなり特殊な扱いなんだよ。スペルド王国である事は間違いないけど、人頭税以上の関わりは殆ど無かったと言っていい」
スペルド王国に属しているのに、王国との関わりを殆ど持たない土地か。本当に特殊な場所だなぁ。
クラメトーラにドワーフが住み始めたのって、偽りの英雄譚に反発してアルフェッカを出て行ったのが始まりなんだっけ。
という事は、始めはスペルド王国に属していなかったのかもしれない。
ドワーフだけの新天地を求めて北へ逃れ、そこでホムンクルス計画をスタートさせたドワーフ族。恐らく当初の目標は、ドワーフ族だけで生き抜いていくことだったはずだ。
だけどホムンクルス計画によってクラメトーラ全域が不毛の地になり、暴王のゆりかごから得られるドロップアイテムの量にも期待できなくなってしまった。
このままではドワーフたちは滅亡してしまう。
けれどドワーフ族の悲願であるホムンクルス計画だけは中断するわけにはいかなかった。
もしかしたらそんな葛藤の末に、1度は離れたスペルド王国に歩み寄る決断をしたのかもしれないな。全部俺の妄想でしかないけど。
「王国としても、税金さえ払ってもらえればどうでも良かったんだと思うよ、あんな所。離れている上に不毛の地なんだもん。統治するメリットが一切無いよね。事実、クラメトーラには王国貴族が1人も派遣されていないくらいだから」
「……ボロクソに言ってますけど、まぁ同意しますよ。せめて暴王のゆりかごを押さえられたらワンチャンあったかもしれないですけど」
「スペルディアには始まりの黒があるから、王家には全く魅力が無い土地だ。俺やラズですら見向きもしなかった場所だからね。クラメトーラを手に入れようなんて考えた者は居なかったんだろう」
「あー……」
確かに稼げる可能性があるなら、ロイ殿下やラズ殿下がサクッと介入しててもおかしくないな。なかなか説得力を感じる言い回しだ。
クラメトーラがボロクソに言われる度に、ティムルがザマーミロって顔して笑ってる。
ティムルって本当にクラメトーラが大嫌いだよなぁ。ぎゅーっ。
だけど王国側も把握していないなら、こりゃ1度現地に行って直接行政機関を調べてこなきゃいけないな。
カイメン以下の指揮系統ってどうなってるのか把握しないと。
「ちなみにですけど、現時点で俺が推薦したいのは夢の宿グループ代表のカラソルさんなんですよ」
「へっ? なんでここで夢の宿グループが出てくるの?」
「会長のカラソルさんはドワーフで、彼はずっとクラメトーラの困窮を改善しようと頑張ってたんです。恐らくドワーフ族のことを誰よりも真剣に憂慮していた人だと思います」
「へ~。夢の宿グループの会長さんってドワーフだったんだ。俺もラズもかなり贔屓にさせてもらってるけど、経営者とか興味無かったなぁ」
分かるっ。それ分かるよロイ殿下っ!
夢の一夜亭に入っちゃうと、もうそのあとの夢のようなめくるめく時間で頭の中がピンク一色になっちゃうからね。他の要素は全部どうでも良くなっちゃうんだよなーっ。
「夢の宿グループの経営者さんだなんて、個人的には思いっきり応援したいところなんだけどねー。私情を挟むと碌な事にならないから、ちゃんとドワーフたちに納得してもらってね? 時間はまだあるんだからさ」
「分かってますよ。そもそもまだ本人が了承してくれてませんからね。気長に説得する事にします」
「一応予定通り、王家からアウター管理局に問い合わせもしておくよ。現地に直接出向いて調査したりはしないと思うけどね」
積極的な調査をする予定は無い、か。
最悪、ドワーフの代表者なんか出席しなくても別にいいって思ってるんだろうな。
流石にゴブトゴさんまでどうでもいいと思ってることはないだろうけれど、あまり関わってこなかったドワーフ族の里にあまり口出しする気も無いのかな?
「種族代表会議はまだ先の話だ。だから今のうちに色々動いて根回ししておく事をお勧めしておくよ。勿論俺もさせてもらうけどね」
「……俺はそういうの興味無いんですけどねぇ。巻き込まないでもらえます?」
「あっはっは。そりゃー無理でしょ。ダンさんを中心とした派閥が既に存在してるんだもん。核であるダンさんが蚊帳の外に居ることは出来ないよ」
「そんなの生み出した覚えは全く無いんですけどねぇっ!?」
ツッコミを入れる俺に、ニヤニヤと意地の悪い笑みを向けるロイ殿下。
とりあえず、種族代表会議が思ったより先らしいことが分かってちょっとだけホッとしたけど、これって問題の先送りでしかないよな。
権力争いとか派閥抗争に巻き込まれないためには、いったいどう立ち回るのがいいだろう?
エルフのリーチェとドワーフのティムル。
本来仲が悪いはずの種族同士なのに俺の腕の中で仲良く笑っているこの2人みたいに、世界中がニコニコしててくれればそれだけで良いんだけどねぇ。
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