異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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7章 家族みんなで冒険譚1 いつもと違うメンバーで

462 ※閑話 傷モノ (改)

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「そろそろ出発するよエイダ。トビーくんをお待たせするわけにはいかないだろ?」

「準備は出来てるよ。それじゃフォーベアまでよろしくね父さん」


 16歳になった年、私は恋人のトビーに嫁ぐ為にアッチンの実家を出る事になった。

 私の家は小さな飲食店を経営しており、生活はとてもじゃないが余裕はない。そんな中で一昨年弟が生まれてしまったのでもう大変だ。


 この国の税金は生まれたその年から徴収が開始される。

 元々ギリギリだった我が家に子供2人分の税金を捻出することなんて勿論出来なくて、私達は途方に暮れていた。


 そんな時、フォーベアに出稼ぎに来ていたトビーから求婚されたのだ。

 元々遠距離恋愛で寂しい想いをしていた私にとっても、納税に悩む両親にとってもトビーからの申し出はまさに渡りに船で、トントン拍子に話が進んでトビーと婚姻を結ぶ事になったんだ。


 家族みんなに笑顔で見送られた私は本当に幸せだった。これからトビーとの幸せな夫婦生活が始まると信じて疑っていなかった。

 だけど現実はとても残酷で、私が思い描いていた未来が訪れる事は無かったんだ。


「父さん!? 父さんっ!? いやあああああっ!!」

「ぎゃははははっ! 娘のほうは連れてこいっ! 楽しませてもらおうぜぇ!?」


 フォーベアとの境の野営地近くで野盗に襲われた私と父さん。

 父さんは呆気なく殺され、私は野盗の無聊を慰める為に、ただひたすら弄ばれることになった。


 何日も何日もひたすらに男に弄ばれる日々に、次第に心は凍っていった。

 1人、また1人と新しい女性が野盗の慰み者にされているのを見ても、ただ自分の負担が減る事に安心感を覚えるだけだった。


 終わりの見えない最低な日々が過ぎていく。


 しかし、最早どんな扱いを受けても感情が動かなくなった頃、地獄のような日々は突如として終わりを告げた。


「俺は味方だよ。これから女の仲間を連れてくるからここで待ってて」


 味、方……? 私、アッチンに帰れる、の……?


 私達を弄んでいた野盗たちを皆殺しにした男は、返り血に塗れたその姿で、けれど私達の痴態から目を逸らすように部屋の外から声をかけてきた。


 外に行った奴をわざわざ追いかけてまで助ける気はないと言い残して、男の気配は離れていった。

 そのあまりにも感情の乗っていない口調に、彼が私たちに何の興味も抱いていないことが窺えた。


 男の仲間らしい女性2人、ニーナとティムルに事の経緯を説明される。

 どうやら彼女達も野営地で襲われ、けれど先ほどの男が野盗を返り討ちにして皆殺しにしてくれたらしい。


「私達はこれからフォーベアに向かう予定なの。貴女達さえ良ければ一緒に移動しない? どうしてもアッチンに戻りたいと言うなら止めないけど、そっちには同行できないからね?」


 ティムルがフォーベアまでの同行を提案してくる。

 本音を言えばアッチンに戻りたい。戻って母さんと弟に会いたかった。


 けれど魔物が出てくる道中、戦えない私が1人でアッチンに辿り着くのはどう考えても不可能だった。もう父さんは守ってくれないのだから。


「私はそこそこ大きな商会の人間でね。フォーベアでなら貴方達の面倒も多少は見てあげられると思う。今回の事はとても辛い体験だったと思うけど、早まったことだけはしないで欲しいわ」


 なぜか実感のこもったティムルの言葉に、この人は本気で私達の事を案じてくれているのだということが伝わってきた。

 それと同時に、永遠に続くかと思われた地獄がもう終わってくれたのだと、ようやく実感することが出来た。

 その後に配られた暖かいスープは、なんだか久しぶりに美味しく感じられた。


「野盗のお金は俺達が貰っちゃってもいいそうだから、全員で分配しようか。実際に分配するのはフォーベアに着いてからでいいかな?」


 野盗を撃退した男は、私たちをフォーベアまで護衛してくれるだけではなく、野盗が溜め込んでいたお金を分配してくれると言ってくれた。

 更にフォーベアまでの道中に私達をポーターとして扱うことで、フォーベアまでに撃退した魔物のドロップアイテムも均等に配分してくれると言ってくれた。


 彼といいティムルといい、全てを失った私たちに親切にして何の意味があるんだろう?

 いぶかしむ私に男は、困ったときはお互い様だからとだけ言って、直ぐにニーナの元に戻っていった。


 長い監禁生活で疲労した私達に配慮してくれたのか、ゆっくりとした足取りでフォーベアに向かう。


 襲ってくる魔物を撃退する3人の姿を見ると、為す術も無く野盗に捕らえられるしかなかった自分の無力さが嫌になった。

 それでもせっかく助かった命を無駄になんてしたくない。そう思って消耗した体に鞭打って、ひたすら足を動かし続けた。


 無事にフォーベアに到着する。

 トビーとの幸せな生活が始まるはずだったこの街に、まさかこんな状態で訪れる事になるなんて。


 ティムルの提案で直ぐに冒険者ギルドに移動し、手続きの間に本当にお金を分配してもらえた。

 野盗たちが溜め込んでいた分とドロップアイテムの売却額を含めて総額約45万リーフ。それを6等分にして、1人75000リーフもの大金を惜しげもなく配ってもらえた。

 
 彼らは3人で同じテーブルを囲み、私たち4人とは別のテーブルに陣取った。

 しかし数分後に彼らが注文したという料理が私達のテーブルに運ばれてきて、久しぶりのまともな料理を4人で泣きながら頬張った。


 ティムル達が手続きを済ませて出て行ったあと、冒険者ギルドが私たちにしてくれる保障についての説明を受ける。

 私達4人の来年の納税の免除、斡旋所での優先的な仕事の世話、一定期間の住居の世話など、思った以上に手厚くサポートしてくれるみたい。


「フォーベアに家がある者は、家に帰っても保障が無くなる事はないから安心して欲しい。ただし住居等の手続きの問題上、なるべく早めに報告をしてもらいたい」


 ギルド職員のその言葉に、トビーの顔が思い浮かんだ。

 まだ家族ではないけれど、家族になる予定だった恋人の姿を思い出し、フォーベアでの生活に少し希望を見出せた。


 職員が宿の手配をしに席を外すと、安心したのか女4人で身の上話で盛り上がった。

 4人とも人間族で、年齢は16~24歳とバラバラだったけど、皆同じ体験をした被害者ということもあって、なんだか他人の気がしなかった。

 アイビーとシーラはフォーベアに住んでいて、私とシンディがアッチンの出身だ。


 アイビーは夫に先立たれて1人暮らし。シーラは実家暮らしだったけれど、アッチンに嫁ぐ途中で野盗に襲われた。

 シンディは家族で行商中に襲われ、両親を亡くしてしまったそうだ。


「出来ればアッチンに行って恋人のところに嫁ぎたいけれど……、正直半分諦めてる。野盗の慰み者になった女なんかを娶ってくれる男なんていないから」


 諦めの濃いシンディの呟きに、思わず血の気が引いてしまう。

 もしもトビーに受け入れられなかったら、私はフォーベアで1人で生きていかなきゃいけない……。


 ううん。そんなことより父さんが死んでしまった今、母さんと弟のエイサンはどうなるの?

 幼いエイサンを抱えたままでお店なんて続けられない。だから母さんが父さんの死を知ったら、エイサンは教会に預けられてしまうの……?


 そんな風に不安になったところで、ギルドの職員が戻ってきた。


「待たせたな。今回はシュパイン商会の計らいで一般の宿を提供させてもらえることになった。皆さんも疲れている事だろうし早速案内しよう」


 ……確かにそうだ。私は今疲れているんだ。疲れている頭で考え事をしたって、思う浮かぶのは悪いことばかりに違いない。

 まずは一旦ゆっくり休もう。休んで落ち着いて、そこで初めて先のことを考えよう。


 私達4人は先行きの暗さに怯えるように、4人で寄り添って眠りについた。


 翌日、宿から提供された朝食を4人で取っている私達の前にティムルが姿を現した。


「これ、ダンが要らないって言うから貴女達にあげるわね」


 そう言ってティムルは8枚の金貨を取り出し、私たちに2枚ずつ配ってくれた。


「そしてこれは私の分ね。今回はかなり儲けられたから個人の報酬は譲ってあげる」


 配られた金貨に驚く私達に構わず更に8枚の金貨を取り出し、みんなに分配してくれるティムル。

 ダンもティムルも、どうして私達なんかにそこまでしてくれるの……?


「ダンは単純にお人好しなんでしょ。自分だって余裕が無いくせに、自分より余裕が無い人を無視できないんじゃないかしら」


 それとも、ただニーナちゃんの前でかっこつけたかっただけなのかもねと、くすくすと笑うティムル。


「この金貨だって結局ダンに恵んでもらったようなものなのに、そのダンが貴女達に譲るって言うなら流石に私だって受け取れないわよ。ふふ、私らしくないけどね」


 大金を譲るという話をしているのに、ティムルはとても楽しそうに笑顔を見せてくれている。

 けれどそんなティムルは1度大きく息を吐き、真剣な顔と口調で私たちに警告する。


「……実は私も男に弄ばれた女でね。貴女達の事は他人事には思えなくってさぁ」

「えっ……!?」

「弄ばれた女の人生は悲惨よ。男はもう傷モノとしてしか扱ってくれなくなるからね。とても傷ついている貴女達にこんなことは言いたくないけれど……、辛い目に遭う事を今から覚悟しておきなさい」


 もしも働くアテが無ければシュパイン商会で雇ってあげるわと言い残し、ティムルは宿を出て行った。


 去っていく彼女の背中を呆然と見送る私達。

 そんな風に宿に取り残された私達4人がティムルの言葉の意味を理解するのに時間はかからなかった。


「……今更来られても困るよ。君は死んだと思ったから、もう新しい妻を迎えてしまったんだ」


 予定の日付に到着できずに消息が途絶えた私と父さん。そして野盗の出没情報。

 この2つから私の死亡を確信したトビーは、あっさりと別の女性に乗り換えてしまっていた。


 あまりの仕打ちに追い縋ろうとした私をトビーの冷たい視線が射抜く。

 彼の冷たい視線が雄弁に語っている。傷モノを妻に迎え入れるなんてごめんだと。


 失意のどん底で宿に戻ると、そこにはアイビーもシーラもシンディも、戻ってきていた。


 話を聞くとアイビーは勤め先を解雇されており、シーラはもう家に居場所が無くなっていた。斡旋所に仕事を探しに出かけたシンディは、どこからか私達の話を聞きつけた男たちに、自分たちの相手をしろとしつこく付き纏われたそうだ。

 結局私達が生きていくためには、ティムルの厚意に甘えるしか道はなかった。


 アイビーの家に同居して、シュパイン商会で売り子を担当する日々。

 ティムルから受け取ったお金は父さんの死亡報告と共に全額母さんに送ってしまった。


 出来ればまた母さんと一緒に暮らしたいけれど、お金が無ければ結局は一緒に暮らせない。だからお金を貯めてアッチンに帰る日まで、エイサンと一緒になんとか頑張って欲しい。



 しかし人生とは本当に上手くいかないもので、ティムルがシュパイン商会を解雇されたという理由から、ティムルの口利きで雇われていた私達4人は揃って解雇されてしまう。

 途方に暮れる私達は話し合った結果、フォーベアを離れマグエルに向かう事にした。


 ……なぜマグエルを選んだのか。

 それはきっと、野盗から私達を救い出してくれたあの3人が揃って目指していた場所だったから。


「ちょうどいい部屋が見つかって良かった~。6人用らしいから4人なら広く使えるし」

「魔物狩りには人気が無い部屋らしいけど、私たちには充分よね。後は早く仕事を探さなきゃ」


 マグエルに行き、4人で部屋を借りて仕事を探す。

 マグエルでは私達の生い立ちを知る者もいなくて、変にちょっかいを出してくる人もいない。移動して良かった。


 ちょうどスポットに入るアライアンスの雑用係が募集されていたので、4人揃って申し込む。

 戦闘職じゃないから難しいかなと思ったけれど、無事に全員採用されて、4人とも初めてスポットの中に入る事になった。


「よ、4人ともアウターに潜るのは初めてですがっ、宜しくお願いしますっ……!」

「心配しなくていい。アンタらを危険な目に遭わせるつもりは無い。が、その分メシには期待させてくれ」


 緊張する私たちに、真面目そうな男が冗談を飛ばしてくる。

 私達が同行するのは18人3PTで構成されたアライアンスで、ドロップアイテムで馬車がいっぱいになるまで魔物を狩るという依頼だった。


 長期間スポットに潜るなんて最初は怖かったけれど、魔物狩りの人たちが危なげなく魔物を狩っているのを見て自然と慣れてしまった。

 スポットでの安全を対価に女性に関係を迫る男もいるらしいけれど、このパーティの人たちは私たちにも普通に接してくれて、そんな皆さんの負担を少しでも軽減しようと必死に仕事をこなしていた。


 そんな風にスポットの中で過ごす日々に、私たち4人はまさかの人物と再会する事になった。


「あら? 貴女達は野盗の時にご一緒した人たちじゃないですか? マグエルにいらしていたんですねー」


 魔物狩りと物資の交渉をしていたティムルが、私達の姿を見つけて笑顔で声をかけてくれた。

 お互いの近況を軽く報告しあい、まさかの再会に話が弾んだ。


「私は奴隷に落ちてしまいましたけど、今の方がずっとずっと幸せなんですよ。私を弄んだ男から解放されて、自分の意思で愛しい男性と共に歩めるんです。こんなに幸せなことはありませんよ」


 大商会の会長夫人から奴隷に身を窶した筈なのに、前よりもずっと素敵な笑顔を浮かべるティムル。

 そんな彼女の視線の先には、いつもダンの姿があった。


「私ですらこんなに幸せになれたんです。みんなも諦めなければ絶対に幸せになりますよ。経験者は語るって奴ですねっ」


 そう言ってティムルは、野盗から助けてくれた時よりもずっと近い距離でダンとニーナに寄り添いながら、スポットの奥に消えていった。


 ティムルが無事で良かった、ティムルが幸せになれて良かったと、なんだか仕事にも身が入る私達。

 そして数日後、帰路についたティムルたち3人はもう1度私達に会いに来てくれた。


「アイビーとシンディが商人で、シーラは旅人。そしてエイダはまだ村人なんですね。でしたらエイダが戦士に転職して、4人で魔物狩りを始めてみてはいかがですか?」

「わっ、私たちが魔物狩りを……!?」


 アライアンスの雑用係の報酬は安いし、常に仕事にありつけるとは限らない。

 であるなら、自分たちで魔物を狩ったほうが安定した収入を得られるのではないかと提案するティムル。


「魔物狩りで最も危険なのは初陣だと言われています。ですがスポットで長期間過ごしてスポットの雰囲気に慣れたみなさんなら、初陣で緊張してしまう可能性は低いでしょう」


 私達が魔物狩りをして生活するなんて、今まで考えたこともなかった。

 無かったけれど、私達4人はティムルの提案をそのまま受け入れる事にした。


 野盗から救出されてフォーベアに向かう途中に感じた無力感は、私達全員が感じていたものだったから。


 魔物狩りになろうと決心した私達は、アライアンスを率いていた男に声をかける。


「戦い方を覚えたいだと? まぁ仕事に影響が出ない範囲なら構わない。ティキ!」

「そりゃ無いぜリーダー! 請け負ったんなら自分で面倒見ろってんだよ!」

「散々女が恋しいと言っていたのはお前だろう。それに彼女たちは人間族、小型武器を扱うお前のほうが指導に向いているはずだ」


 やれやれと面倒臭そうに、だけど私たちに武器の握り方から解説してくれるティキ。


「はぁ~。以前なら指導をきっかけにアンタらに声をかけていたところだけど、あの2人を見ちまうとなぁ……」


 真面目に指導をしてくれながらも、必要以上に踏み込んでこないティキの指導で、基礎の基礎くらいは学ぶことが出来た。


 スポットでの依頼を終えた私達は、4人でパーティを組んで、ダンとティムルにもらったお金で最低限の装備を揃え、私は戦士に転職して魔物狩りとしてデビューする。

 まずはマグエルに最も近い野営地で実戦に慣れよう。実戦に慣れたら少しずつスポットで稼ぎを増やしていこう。


 そしていつか私達もティムルみたいに、思い切り笑える人生を取り戻してやるんだ。

 ……今度こそ、自分たちの手でねっ!
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