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6章 広がる世界と新たな疑問3 ホムンクルス計画
445 聖女 (改)
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2本の剣閃によって3枚に卸されたタイニーコロッサスは、俺が着地する前に消滅して魔力に還元されていった。
うん。魔力を消費した感じもしない。
今のは確実にウェポンスキルとは別の技術だったはずだ。
「……だけど、魔力のチャージに時間がかかるのが難点かなぁ?」
しかもチャージ中は魔力吸収による魔力回復が出来ないのだから、攻撃魔法との相性は悪いだろう。
でもまぁ今の攻撃を放つ相手には攻撃魔法も通じないだろうから、魔法との兼ね合いは考えなくていいのかな?
「ダンーーーーーっ!! 貴方また変なことしたでしょーーっ!!」
「おっとぉっ!?」
考え事をしていると、獣化した狐耳のコンコンニーナが物凄い勢いで飛び込んできたので、咄嗟に受け止め抱きしめる。
コンコンニーナ可愛いよぉ。ぎゅーっ。
「ダン大好きーっ……じゃなくて! 今なにやったのダン!? ウェポンスキルも魔法も使っちゃ駄目って言ったでしょーっ! んもー! 大好きーっ!」
「落ち着いてニーナ。獣化したせいで情緒が不安定になってるから」
詰問しようとしても感情が暴走気味で、詰め寄りながら抱き付き頬ずりしてくるという大変可愛い事になっている狐っ娘ニーナをよしよしなでなでする。
ニーナは獣化すると滅茶苦茶甘えてくれるから素晴らしいねっ。
「というかニーナが相手してたタイニーコロッサスは……もう居ないね。早いなぁ」
「ダンのほうが早かったでしょーっ! 獣化した私よりもダンの方が早いのは分かるとしても、最後のは一体なんだったのーっ!? んもーかっこよすぎるからーっ」
大好きなニーナにかっこいいって言われるのはやっぱり嬉しいなぁ。
ニーナが落ち着いて獣化を解除するまでよしよしなでなでの刑に処す事にして、他のみんなの様子を確認する。
「なるほど。みんなそれぞれ制限を設けたり、相手との相性もあるのね」
フラッタとヴァルゴは竜化と魔迅を使用しておらず、ティムルとリーチェは使用武器が弓とダガーで攻撃力に欠けるわけか。
だから獣化して攻撃魔法の威力が上がったニーナが最速だったんだね。ぎゅーっ。
両手でアウターレア武器を振るいつつ、獣化で威力が底上げされたインパクトノヴァを詠唱短縮+で無詠唱化して、射程無限で手数が倍になるスキルを併用してるんだもんなぁ。
対魔物火力だとニーナが最強説まであるかもしれない。
ただそんなに大きな差があるわけでも無いようで、それを証明するように続々とタイニーコロッサスが撃破されていく。
「流石に竜化無しではニーナに及ばなかったのじゃー。ぎゅーっ」
「普段から自分が如何に魔迅に頼っていたかが分かってしまいますねぇ。ぎゅーっ」
俺の腕の中で落ち着きを取り戻したニーナの狐耳が消えた頃、ニーナに続いてフラッタが担当のタイニーコロッサスの首を剛震撃で千切り飛ばし、ヴァルゴが破旋衝で首を刎ね飛ばして俺に抱きついてきた。ぎゅーっ。
態々プレートメイルを脱ぎ捨てたフラッタが可愛すぎるぅ。
ちっちゃなニーナとフラッタに、長身だけどスリムなヴァルゴのおかげで3人一緒に抱きしめられたけど、流石にこれが限界かな?
お姉さんとリーチェには抱きついてもらう形で妥協してもらおう。
「2人ともすっごく強くなったね。種族の特技を使わなくてもイントルーダーを単騎で撃破しちゃうんだもん」
「えへへ。ダンに褒めてもらうの好きなのじゃ。でも妾よりもダンの方が早かったのじゃっ。ダンは相変わらず凄いのじゃーっ」
「手合わせの時も手を抜いているわけじゃないんでしょうけれど、魔物を相手にするのと私達と手合わせするのではやっぱり何か違うんでしょうねぇ。旦那様の双剣、明らかに訓練の時よりも早かったですよ」
俺の腕の中で、フラッタとヴァルゴが俺のことを褒めてくれる。
でも竜化と魔迅無しでイントルーダーを撃破した2人も大概だと思うんだよ?
そのあと直ぐにリーチェが牙竜点星でタイニーコロッサスの額に風穴を開けて、ティムルがダブル乱気流で滅多切りにして戦闘は終了した。
「弓じゃどうしても競争には不利だよねぇ。かと言ってエストックの方は弓ほど使い慣れてないからなぁ。ぎゅーっ」
「そんなこと言ったらリーチェよりも遅い私の立場が無いんですけどー? ま、私が1番遅い事は分かってたけどさぁ。ぎゅーっ」
前方が埋まっているので背後から抱きついてくれたリーチェとティムルが、俺に抱き付きながら立派なものをムギュムギュと押し付けてきてくれるから超気持ちいい。
リーチェって独りでいる間は殆ど弓を使わなかったらしいけれど、それでも弓の方が得意なのはエルフの種族的な特性なのかな?
「ってか、ティムルは斧を使わなかったんだね? グランドドラゴンアクスを使えば火力は跳ね上がっただろうに」
「ええ。今回は1人1人別れての戦闘だったから、孤立状態での戦闘をイメージして立ち回ってみたのよ。朧逆月はとても強力なウェポンスキルだけど、あれを使うと魔力が枯渇しちゃうから」
なるほどね。孤立状態をイメージしてたなら納得だ。
戦闘力不足に悩むティムルも、色々な事を考えながら戦ってるんだなぁ。
そんな暢気な事を考えていると、突如眩い光が辺りを包み込んだ。
「……これは?」
何事かと思って光源を探してみると、どうやら液体の中でアウラが様々な色の魔力を放出しているようだ。
この様子から察するに、不足していた魔力の補填に成功したようだね。
「来た……! 来た来た来たっ! とうとう来たぞーーーっ!! アウラの……ドワーフ族の455年に渡る悲願が、今形になったのだぁーーーっ!!」
喉が潰れそうな勢いで声を張り上げているカイメンの言うことを信じるなら、これでアウラの体は安定して活動できるようになるはずだ。
出来れば研究の完成を防ぎたかったけれど、アウラの安全より優先するわけにはいかないから仕方ない。
「……っ!? …………!?」
相変わらず声は聞こえないけれど、発光しているアウラ本人も自分の体に起こっている変化に戸惑っている様子だ。
でもあの様子から察するに、痛みがあったりするわけじゃ無さそうかな?
「見るがいい! これがあらゆる種族の特性を持ち合わせた奇跡の存在、ドワーフ族の聖女アウラだぁっ!」
青、緑、黒など多様な色の魔力を放つアウラの前に立ったカイメンが、俺達に向かって得意げに語り始める。
でも、あらゆる種族の特性を持ち合わせるって?
「なんだそれ、どういう意味だよ?」
「くくく。そのままの意味に決まっているだろう? アウラはドワーフ族でありながら、他の全ての種族の特性を持ち合わせた究極の存在なのだぁっ!!」
ドヤ顔で叫ぶカイメンの後ろで、様々な魔力講を放つアウラ。
つまりこれは、黒色が魔人族の魔力、青色が竜人族、緑がエルフの魔力だったりするのか?
「アウラはなぁ! 獣化も熱視も竜化も使え、エルフ並みの寿命と竜人族を越える頑強な肉体を兼ね備えているのだぁぁっ!」
……なんだそりゃ? 竜人族の身体能力を持っていてエルフ並みの長命?
しかも種族特性も全部使えるって、そんなの完全にチートキャラじゃん?
というか、元は普通のドワーフの少女っぽいアウラに、後天的に他種族の特性を追加するとか出来るもんなのか?
この世界の魔力ってマジで万能すぎるな。
「さぁ出てくるがいいアウラよ! お前の体は完成された! もう外の世界で生きて行くことが出来るはずだ!」
「……? ……?」
「その培養槽は破壊しても構わない! 出てくるんだアウラぁっ!」
「…………」
ゴキゲンなカイメンとは裏腹に戸惑いを隠せないアウラは、自身と周囲の変化にオロオロとした様子を見せている。
どうやらアウラがカイメンに操られている様子はなさそうだ。
ステータスプレートにも誓約の類いは無かったし、カイメンはどうやってアウラをコントロールする気だったんだ?
「はっはっはぁっ! 相変わらず聞き分けの悪い奴だ。だがなアウラ、ドワーフ族の聖女たるお前がそんな態度ではいかんのだよぉっ!」
カイメンは懐からペンダントのような物を取り出し、アウラに向かって翳して見せた。
するとペンダントが光り輝いて、それと同時にアウラが培養槽の中で暴れ始める。
「……お前、アウラにいったいなにをした?」
「おおっとぉ。そんな怖い顔を向けないで欲しいなぁ?」
思わず剣呑な視線を送ってしまった俺を、愉快そうに見返してくるカイメン。
何処からどう見ても隙だらけだけど、コイツの余裕の理由は何だ?
「これは親切心からの忠告だがな。アウラを死なせたくないなら私に攻撃を加えるのはお勧めしないぞ? 私はアウラと違って戦闘力など皆無で、襲われたらあっさりと殺されてしまうだろうからなぁ?」
「……じゃあ俺が攻撃したくなくなるような説明をするんだな。今のところ攻撃したくなるような要素しか無いから」
「くくく、だろうなぁ? ま、私もこんなところで死ぬつもりは無いから説明してやるさ」
ムカつくドヤ顔を晒しながら、カイメンはペンダント型のマジックアイテムを俺に向かって見せ付ける。
チェーン部分は本当に金属製の鎖で、その先端に付いている宝石のような部分が今も魔力を放って光り輝いている。
無言で鑑定してみると『縛鎖のペンデュラム』と表示された。
「これはレガリアから提供された、縛鎖のペンデュラムというマジックアイテムでな? 使用者と対象者の魂を結びつけ、対象者を意のままに操るという効果があるのだ」
「はぁ? ほぼ無条件で相手を意のままに操るアイテムなんてあるのかよ? リスクと効果が釣り合ってないんだけど?」
「ほう? 思ったよりも博識のようだな?」
博識もクソもあるか。
相手を強制的に隷属化するスレイブシンボルですら、ステータスプレートを介さないと効力を発揮できないってのに、アウラに触れることすらなく支配下に置くなんてバランスが取れてないんだよ。
「貴様の言う通り、このマジックアイテムの絶大な効力を発揮する為の使用制限はかなり厳しいのだ。仮に対象者が絶命する事があれば、その時は使用者も共に死を迎えることになるしな」
アウラを排除したいってだけならむしろ難易度が下がった感じだけど、アウラをカイメンたちの元から救いだしたいってミッションの難易度は跳ね上がっちゃったかなぁ。
まったくレガリアの亡霊共は、壊滅したあとでも俺に迷惑ばっかりかけてきやがって……!
「くっ……アウラ……!」
「…………」
カイメンの背後で培養槽を破壊したアウラが、俺達には目もくれずにゆっくりとした足取りでカイメンの前に立った。
俺達を見る目はしっかり見開かれているものの、その瞳に意思の輝きは感じられない。
「絶大な効力を持つ縛鎖のペンデュラム、その使用制限は大きく3つある。1つは対象者と生命を共有すること。2つ目は効果対象者を変更する事が出来ないこと。そして3つ目は、対象者に1年間に渡って縛鎖のペンデュラムを身につけさせることだ。普通に考えれば、何の役にも立たないマジックアイテムだと言えるだろうな?」
「……胸糞悪くなる話だな。完全にアウラを支配下に置くためだけに開発されたマジックアイテムじゃないか」
「どうだかな。こっちとしてはレガリアに一方的に贈られた品なので真相は知らんよ。ただしこれを持ってきた奴は失敗作だと言っていたらしいぞ。大昔の記録なので信憑性は低いがな」
「……失敗作、ね」
確かに、効果は絶大だけど使用が可能になるまで時間がかかりすぎて話にならないな。
効果が発揮できるまで大人しく縛鎖のペンデュラムを大人しくつけてくれるような相手は敵対的じゃないだろうから、そんな相手を操る意味も無いし。
本当なら身に付けさせるだけで相手を意のままに操れるようなマジックアイテムを開発したかったんだろうけれど、それは出来なかったからそのままの性能でも活用できそうなドワーフ族に横流ししたわけか。
要らないものをリサイクルした感じかな?
「さて、どうするのかな侵入者諸君? これでアウラを連れ去る方法は無くなり、私とアウラを引き離す方法もまた失われてしまったのだ」
先ほどまでの焦燥感に駆られていた姿とは一変し、余裕たっぷりに問いかけてくるカイメン。
どうやらもう自分の勝利を確信しているようだな。
「アウラが完成した今この場所の秘密を守る必要も無くなったのだから、このまま去ると言うなら見逃してやっても構わんが?」
「流石にアウラを見捨てて帰るわけにはいかないね。俺達はアウラの友達だからな」
「……下らんなぁ。アウラという至高の存在を前にして言う言葉がそれかね? アウラが居ればこの世界をひっくり返す事だって出来るというのに」
「それこそ下らないな。世界をひっくり返したいなら自分の手でやるよ」
呪われたニーナの世界に踏み込み、孤独なリーチェの世界を壊したみたいに。
狂気に巻き込まれたアウラの世界だって、俺がこの手でひっくり返してやるさ。
「こんな少女の後ろにコソコソ隠れて高笑いしてるダセーお前に変えられる世界なんて、この世のどこにも無いってぇの」
「くくく。ドワーフの女といい、随分と口は達者のようだなぁ?」
俺の挑発を愉快げに受け流すカイメン。
そのまま自身はゆっくりと後ずさり、アウラと俺達から距離を取った。
「それならば見せてもらおうかな? 縛鎖のペンデュラムによって繋がれたアウラを解放するという奇跡をなぁっ!」
カイメンの叫びに応じるようにアウラが俺達の前に立ちはだかり、腰を落として構えを取る。
話は終わり。これ以上の問答は不要ってか?
……ってか、立ちはだかると言うか裸で立ってるアウラが目に毒なんだけど?
10歳の少女の裸を見続けるとかエロいよりも気まずくて仕方ないし、戦闘前に服を着てくれないですかね?
「アウラの相手は俺がするよ。女性に傷を付けない戦い方はみんなのおかげで慣れてるからね」
双剣をインベントリに収納しつつ1歩前に出る。
そして『アウラ本人と敵対しても、アウラを危険には晒しちゃダメ』というニーナ司令官の厳命を思い出し、傷1つけることなくアウラを無力化することを強く意識する。
「ティムル。リーチェ。2人は熱視と精霊魔法で情報収集しながらアウラの解放方法を探してくれる?」
「了解よ。マジックアイテムによる効果なら解除方法は絶対にあるはず。だから悪いけど少しだけ時間をちょうだい」
「加えてカイメンが逃げ出す事がないように監視しておくよ。探索者は浸透していないみたいだけど、どんなマジックアイテムを持ってるかも分からないからさ。油断せずに見張っておくね」
瞳を蒼く変えながらティムルが下がり、カイメンに向けて弓を構えながらリーチェが下がる。
そんな2人の様子を、ニヤニヤとドヤ顔で見送るカイメンの顔が普通に腹立つ。
「ニーナとフラッタとヴァルゴは、俺とアウラに邪魔が入らないように、魔物が出てきたら排除をお願い」
「私達も了解……だけど、たった今イントルーダーを倒したのに魔物が出てくるかな? 竜王の時を参考にするなら、丸1日くらいは魔物が出て来ないと思うの」
ニーナが首を傾げながら俺に聞いてくる。
確かに竜王のカタコンベの1件を参考にするなら、恐らくアウラとの交戦中に魔物が出てくる事はないとは思うけれど……。
「念のためだね。ここは竜王のカタコンベと違って人の手で魔力が制御されてるからさ。もしかしたらカイメンが何かすることによって魔物の発生が早まる可能性も否定出来ないかなって」
「……なるほど。アウターの人為的操作が可能だとすると色々な前提が覆るわけですね。分かりました旦那様。露払いはこのヴァルゴにお任せを」
「厄介なのはアウラも魔力を吸収しているということじゃな。培養槽? とやらから出たことで魔力吸収が行われないのであれば良いが、魔力枯渇による行動不能はあまり期待できぬやもしれぬ。長期戦を覚悟するのじゃぞ」
自然体で槍を構えるヴァルゴと、俺を心配してくれるフラッタに笑顔を返して、改めてアウラと対峙する。
455年前にドワーフに利用され、10歳の若さでワケも分からず被検体にされてしまった少女アウラ。
世界から勝手に切り離された挙句に利用されるなんて俺が許さない。絶対に救い出して幸せにしてやるからなぁ?
……しかし、1つだけ気になってしまうんだ。
各種族の特性を併せ持つアウラって、異種族と子供を作れたりするんだろうか? と。
もしも後天的に改造されたアウラが異種族とも交配可能であるのなら……。
種族がバラバラの我が家にも、子供が作れる可能性が浮上してくるんじゃないかなぁ……!?
うん。魔力を消費した感じもしない。
今のは確実にウェポンスキルとは別の技術だったはずだ。
「……だけど、魔力のチャージに時間がかかるのが難点かなぁ?」
しかもチャージ中は魔力吸収による魔力回復が出来ないのだから、攻撃魔法との相性は悪いだろう。
でもまぁ今の攻撃を放つ相手には攻撃魔法も通じないだろうから、魔法との兼ね合いは考えなくていいのかな?
「ダンーーーーーっ!! 貴方また変なことしたでしょーーっ!!」
「おっとぉっ!?」
考え事をしていると、獣化した狐耳のコンコンニーナが物凄い勢いで飛び込んできたので、咄嗟に受け止め抱きしめる。
コンコンニーナ可愛いよぉ。ぎゅーっ。
「ダン大好きーっ……じゃなくて! 今なにやったのダン!? ウェポンスキルも魔法も使っちゃ駄目って言ったでしょーっ! んもー! 大好きーっ!」
「落ち着いてニーナ。獣化したせいで情緒が不安定になってるから」
詰問しようとしても感情が暴走気味で、詰め寄りながら抱き付き頬ずりしてくるという大変可愛い事になっている狐っ娘ニーナをよしよしなでなでする。
ニーナは獣化すると滅茶苦茶甘えてくれるから素晴らしいねっ。
「というかニーナが相手してたタイニーコロッサスは……もう居ないね。早いなぁ」
「ダンのほうが早かったでしょーっ! 獣化した私よりもダンの方が早いのは分かるとしても、最後のは一体なんだったのーっ!? んもーかっこよすぎるからーっ」
大好きなニーナにかっこいいって言われるのはやっぱり嬉しいなぁ。
ニーナが落ち着いて獣化を解除するまでよしよしなでなでの刑に処す事にして、他のみんなの様子を確認する。
「なるほど。みんなそれぞれ制限を設けたり、相手との相性もあるのね」
フラッタとヴァルゴは竜化と魔迅を使用しておらず、ティムルとリーチェは使用武器が弓とダガーで攻撃力に欠けるわけか。
だから獣化して攻撃魔法の威力が上がったニーナが最速だったんだね。ぎゅーっ。
両手でアウターレア武器を振るいつつ、獣化で威力が底上げされたインパクトノヴァを詠唱短縮+で無詠唱化して、射程無限で手数が倍になるスキルを併用してるんだもんなぁ。
対魔物火力だとニーナが最強説まであるかもしれない。
ただそんなに大きな差があるわけでも無いようで、それを証明するように続々とタイニーコロッサスが撃破されていく。
「流石に竜化無しではニーナに及ばなかったのじゃー。ぎゅーっ」
「普段から自分が如何に魔迅に頼っていたかが分かってしまいますねぇ。ぎゅーっ」
俺の腕の中で落ち着きを取り戻したニーナの狐耳が消えた頃、ニーナに続いてフラッタが担当のタイニーコロッサスの首を剛震撃で千切り飛ばし、ヴァルゴが破旋衝で首を刎ね飛ばして俺に抱きついてきた。ぎゅーっ。
態々プレートメイルを脱ぎ捨てたフラッタが可愛すぎるぅ。
ちっちゃなニーナとフラッタに、長身だけどスリムなヴァルゴのおかげで3人一緒に抱きしめられたけど、流石にこれが限界かな?
お姉さんとリーチェには抱きついてもらう形で妥協してもらおう。
「2人ともすっごく強くなったね。種族の特技を使わなくてもイントルーダーを単騎で撃破しちゃうんだもん」
「えへへ。ダンに褒めてもらうの好きなのじゃ。でも妾よりもダンの方が早かったのじゃっ。ダンは相変わらず凄いのじゃーっ」
「手合わせの時も手を抜いているわけじゃないんでしょうけれど、魔物を相手にするのと私達と手合わせするのではやっぱり何か違うんでしょうねぇ。旦那様の双剣、明らかに訓練の時よりも早かったですよ」
俺の腕の中で、フラッタとヴァルゴが俺のことを褒めてくれる。
でも竜化と魔迅無しでイントルーダーを撃破した2人も大概だと思うんだよ?
そのあと直ぐにリーチェが牙竜点星でタイニーコロッサスの額に風穴を開けて、ティムルがダブル乱気流で滅多切りにして戦闘は終了した。
「弓じゃどうしても競争には不利だよねぇ。かと言ってエストックの方は弓ほど使い慣れてないからなぁ。ぎゅーっ」
「そんなこと言ったらリーチェよりも遅い私の立場が無いんですけどー? ま、私が1番遅い事は分かってたけどさぁ。ぎゅーっ」
前方が埋まっているので背後から抱きついてくれたリーチェとティムルが、俺に抱き付きながら立派なものをムギュムギュと押し付けてきてくれるから超気持ちいい。
リーチェって独りでいる間は殆ど弓を使わなかったらしいけれど、それでも弓の方が得意なのはエルフの種族的な特性なのかな?
「ってか、ティムルは斧を使わなかったんだね? グランドドラゴンアクスを使えば火力は跳ね上がっただろうに」
「ええ。今回は1人1人別れての戦闘だったから、孤立状態での戦闘をイメージして立ち回ってみたのよ。朧逆月はとても強力なウェポンスキルだけど、あれを使うと魔力が枯渇しちゃうから」
なるほどね。孤立状態をイメージしてたなら納得だ。
戦闘力不足に悩むティムルも、色々な事を考えながら戦ってるんだなぁ。
そんな暢気な事を考えていると、突如眩い光が辺りを包み込んだ。
「……これは?」
何事かと思って光源を探してみると、どうやら液体の中でアウラが様々な色の魔力を放出しているようだ。
この様子から察するに、不足していた魔力の補填に成功したようだね。
「来た……! 来た来た来たっ! とうとう来たぞーーーっ!! アウラの……ドワーフ族の455年に渡る悲願が、今形になったのだぁーーーっ!!」
喉が潰れそうな勢いで声を張り上げているカイメンの言うことを信じるなら、これでアウラの体は安定して活動できるようになるはずだ。
出来れば研究の完成を防ぎたかったけれど、アウラの安全より優先するわけにはいかないから仕方ない。
「……っ!? …………!?」
相変わらず声は聞こえないけれど、発光しているアウラ本人も自分の体に起こっている変化に戸惑っている様子だ。
でもあの様子から察するに、痛みがあったりするわけじゃ無さそうかな?
「見るがいい! これがあらゆる種族の特性を持ち合わせた奇跡の存在、ドワーフ族の聖女アウラだぁっ!」
青、緑、黒など多様な色の魔力を放つアウラの前に立ったカイメンが、俺達に向かって得意げに語り始める。
でも、あらゆる種族の特性を持ち合わせるって?
「なんだそれ、どういう意味だよ?」
「くくく。そのままの意味に決まっているだろう? アウラはドワーフ族でありながら、他の全ての種族の特性を持ち合わせた究極の存在なのだぁっ!!」
ドヤ顔で叫ぶカイメンの後ろで、様々な魔力講を放つアウラ。
つまりこれは、黒色が魔人族の魔力、青色が竜人族、緑がエルフの魔力だったりするのか?
「アウラはなぁ! 獣化も熱視も竜化も使え、エルフ並みの寿命と竜人族を越える頑強な肉体を兼ね備えているのだぁぁっ!」
……なんだそりゃ? 竜人族の身体能力を持っていてエルフ並みの長命?
しかも種族特性も全部使えるって、そんなの完全にチートキャラじゃん?
というか、元は普通のドワーフの少女っぽいアウラに、後天的に他種族の特性を追加するとか出来るもんなのか?
この世界の魔力ってマジで万能すぎるな。
「さぁ出てくるがいいアウラよ! お前の体は完成された! もう外の世界で生きて行くことが出来るはずだ!」
「……? ……?」
「その培養槽は破壊しても構わない! 出てくるんだアウラぁっ!」
「…………」
ゴキゲンなカイメンとは裏腹に戸惑いを隠せないアウラは、自身と周囲の変化にオロオロとした様子を見せている。
どうやらアウラがカイメンに操られている様子はなさそうだ。
ステータスプレートにも誓約の類いは無かったし、カイメンはどうやってアウラをコントロールする気だったんだ?
「はっはっはぁっ! 相変わらず聞き分けの悪い奴だ。だがなアウラ、ドワーフ族の聖女たるお前がそんな態度ではいかんのだよぉっ!」
カイメンは懐からペンダントのような物を取り出し、アウラに向かって翳して見せた。
するとペンダントが光り輝いて、それと同時にアウラが培養槽の中で暴れ始める。
「……お前、アウラにいったいなにをした?」
「おおっとぉ。そんな怖い顔を向けないで欲しいなぁ?」
思わず剣呑な視線を送ってしまった俺を、愉快そうに見返してくるカイメン。
何処からどう見ても隙だらけだけど、コイツの余裕の理由は何だ?
「これは親切心からの忠告だがな。アウラを死なせたくないなら私に攻撃を加えるのはお勧めしないぞ? 私はアウラと違って戦闘力など皆無で、襲われたらあっさりと殺されてしまうだろうからなぁ?」
「……じゃあ俺が攻撃したくなくなるような説明をするんだな。今のところ攻撃したくなるような要素しか無いから」
「くくく、だろうなぁ? ま、私もこんなところで死ぬつもりは無いから説明してやるさ」
ムカつくドヤ顔を晒しながら、カイメンはペンダント型のマジックアイテムを俺に向かって見せ付ける。
チェーン部分は本当に金属製の鎖で、その先端に付いている宝石のような部分が今も魔力を放って光り輝いている。
無言で鑑定してみると『縛鎖のペンデュラム』と表示された。
「これはレガリアから提供された、縛鎖のペンデュラムというマジックアイテムでな? 使用者と対象者の魂を結びつけ、対象者を意のままに操るという効果があるのだ」
「はぁ? ほぼ無条件で相手を意のままに操るアイテムなんてあるのかよ? リスクと効果が釣り合ってないんだけど?」
「ほう? 思ったよりも博識のようだな?」
博識もクソもあるか。
相手を強制的に隷属化するスレイブシンボルですら、ステータスプレートを介さないと効力を発揮できないってのに、アウラに触れることすらなく支配下に置くなんてバランスが取れてないんだよ。
「貴様の言う通り、このマジックアイテムの絶大な効力を発揮する為の使用制限はかなり厳しいのだ。仮に対象者が絶命する事があれば、その時は使用者も共に死を迎えることになるしな」
アウラを排除したいってだけならむしろ難易度が下がった感じだけど、アウラをカイメンたちの元から救いだしたいってミッションの難易度は跳ね上がっちゃったかなぁ。
まったくレガリアの亡霊共は、壊滅したあとでも俺に迷惑ばっかりかけてきやがって……!
「くっ……アウラ……!」
「…………」
カイメンの背後で培養槽を破壊したアウラが、俺達には目もくれずにゆっくりとした足取りでカイメンの前に立った。
俺達を見る目はしっかり見開かれているものの、その瞳に意思の輝きは感じられない。
「絶大な効力を持つ縛鎖のペンデュラム、その使用制限は大きく3つある。1つは対象者と生命を共有すること。2つ目は効果対象者を変更する事が出来ないこと。そして3つ目は、対象者に1年間に渡って縛鎖のペンデュラムを身につけさせることだ。普通に考えれば、何の役にも立たないマジックアイテムだと言えるだろうな?」
「……胸糞悪くなる話だな。完全にアウラを支配下に置くためだけに開発されたマジックアイテムじゃないか」
「どうだかな。こっちとしてはレガリアに一方的に贈られた品なので真相は知らんよ。ただしこれを持ってきた奴は失敗作だと言っていたらしいぞ。大昔の記録なので信憑性は低いがな」
「……失敗作、ね」
確かに、効果は絶大だけど使用が可能になるまで時間がかかりすぎて話にならないな。
効果が発揮できるまで大人しく縛鎖のペンデュラムを大人しくつけてくれるような相手は敵対的じゃないだろうから、そんな相手を操る意味も無いし。
本当なら身に付けさせるだけで相手を意のままに操れるようなマジックアイテムを開発したかったんだろうけれど、それは出来なかったからそのままの性能でも活用できそうなドワーフ族に横流ししたわけか。
要らないものをリサイクルした感じかな?
「さて、どうするのかな侵入者諸君? これでアウラを連れ去る方法は無くなり、私とアウラを引き離す方法もまた失われてしまったのだ」
先ほどまでの焦燥感に駆られていた姿とは一変し、余裕たっぷりに問いかけてくるカイメン。
どうやらもう自分の勝利を確信しているようだな。
「アウラが完成した今この場所の秘密を守る必要も無くなったのだから、このまま去ると言うなら見逃してやっても構わんが?」
「流石にアウラを見捨てて帰るわけにはいかないね。俺達はアウラの友達だからな」
「……下らんなぁ。アウラという至高の存在を前にして言う言葉がそれかね? アウラが居ればこの世界をひっくり返す事だって出来るというのに」
「それこそ下らないな。世界をひっくり返したいなら自分の手でやるよ」
呪われたニーナの世界に踏み込み、孤独なリーチェの世界を壊したみたいに。
狂気に巻き込まれたアウラの世界だって、俺がこの手でひっくり返してやるさ。
「こんな少女の後ろにコソコソ隠れて高笑いしてるダセーお前に変えられる世界なんて、この世のどこにも無いってぇの」
「くくく。ドワーフの女といい、随分と口は達者のようだなぁ?」
俺の挑発を愉快げに受け流すカイメン。
そのまま自身はゆっくりと後ずさり、アウラと俺達から距離を取った。
「それならば見せてもらおうかな? 縛鎖のペンデュラムによって繋がれたアウラを解放するという奇跡をなぁっ!」
カイメンの叫びに応じるようにアウラが俺達の前に立ちはだかり、腰を落として構えを取る。
話は終わり。これ以上の問答は不要ってか?
……ってか、立ちはだかると言うか裸で立ってるアウラが目に毒なんだけど?
10歳の少女の裸を見続けるとかエロいよりも気まずくて仕方ないし、戦闘前に服を着てくれないですかね?
「アウラの相手は俺がするよ。女性に傷を付けない戦い方はみんなのおかげで慣れてるからね」
双剣をインベントリに収納しつつ1歩前に出る。
そして『アウラ本人と敵対しても、アウラを危険には晒しちゃダメ』というニーナ司令官の厳命を思い出し、傷1つけることなくアウラを無力化することを強く意識する。
「ティムル。リーチェ。2人は熱視と精霊魔法で情報収集しながらアウラの解放方法を探してくれる?」
「了解よ。マジックアイテムによる効果なら解除方法は絶対にあるはず。だから悪いけど少しだけ時間をちょうだい」
「加えてカイメンが逃げ出す事がないように監視しておくよ。探索者は浸透していないみたいだけど、どんなマジックアイテムを持ってるかも分からないからさ。油断せずに見張っておくね」
瞳を蒼く変えながらティムルが下がり、カイメンに向けて弓を構えながらリーチェが下がる。
そんな2人の様子を、ニヤニヤとドヤ顔で見送るカイメンの顔が普通に腹立つ。
「ニーナとフラッタとヴァルゴは、俺とアウラに邪魔が入らないように、魔物が出てきたら排除をお願い」
「私達も了解……だけど、たった今イントルーダーを倒したのに魔物が出てくるかな? 竜王の時を参考にするなら、丸1日くらいは魔物が出て来ないと思うの」
ニーナが首を傾げながら俺に聞いてくる。
確かに竜王のカタコンベの1件を参考にするなら、恐らくアウラとの交戦中に魔物が出てくる事はないとは思うけれど……。
「念のためだね。ここは竜王のカタコンベと違って人の手で魔力が制御されてるからさ。もしかしたらカイメンが何かすることによって魔物の発生が早まる可能性も否定出来ないかなって」
「……なるほど。アウターの人為的操作が可能だとすると色々な前提が覆るわけですね。分かりました旦那様。露払いはこのヴァルゴにお任せを」
「厄介なのはアウラも魔力を吸収しているということじゃな。培養槽? とやらから出たことで魔力吸収が行われないのであれば良いが、魔力枯渇による行動不能はあまり期待できぬやもしれぬ。長期戦を覚悟するのじゃぞ」
自然体で槍を構えるヴァルゴと、俺を心配してくれるフラッタに笑顔を返して、改めてアウラと対峙する。
455年前にドワーフに利用され、10歳の若さでワケも分からず被検体にされてしまった少女アウラ。
世界から勝手に切り離された挙句に利用されるなんて俺が許さない。絶対に救い出して幸せにしてやるからなぁ?
……しかし、1つだけ気になってしまうんだ。
各種族の特性を併せ持つアウラって、異種族と子供を作れたりするんだろうか? と。
もしも後天的に改造されたアウラが異種族とも交配可能であるのなら……。
種族がバラバラの我が家にも、子供が作れる可能性が浮上してくるんじゃないかなぁ……!?
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