異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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6章 広がる世界と新たな疑問3 ホムンクルス計画

442 ※閑話 2人の妹 (改)

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 何の前触れも無く突然出現し、瞬く間に人類を滅亡の危機へと陥れた邪神ガルクーザ。


 奴を滅ぼす為に、アルフェッカが一丸となって私達蒼穹の盟約の職業浸透を進めてくれているけど……。

 正直言って、あの化け物を滅ぼす道筋は未だ見えていない。


 家に帰る暇も惜しんで魔物を狩り続け、新たな職業を求めてフォアーク神殿に通う。

 けれど転職をする私たちの気分は沈んだままだ。


「……ガルクーザが神殿から離れたようだ。行くぞ」

「……ええ」


 あの邪神が居座っている場所は、フォアーク神殿のすぐ近く。

 私達が転職に向かえば、あの邪神もその気配に必ず気付いてしまう。


 だから私達が転職魔法陣を利用している間、ガルクーザの注意を引く者がどうしても必要だった……。


 ガルクーザの脅威から人々を解放したくて力を求めているのに、私達が力を求めるほどに増え続ける犠牲者。

 そんな状況に私達の心も段々と擦り切れていくようだった。


「ごめんなさい……。ごめんなさい……」


 今日もまた私達の転職の時間を稼ぐ為に、囮になってガルクーザの犠牲になってしまった人がいる。


 せめてもの弔いとして、犠牲者の遺体の回収は私達が行なっていた。

 こんなことに何の意味も無いことは分かっているけれど、それでもやらずにはいられなかった。


 だってこの人たちは、私達のために犠牲になったのだから……。


「みっ、みんな! 反応が、生体反応があるぞ!? 生存者がいるかもしれねぇ!」

「えっ!?」


 獣人のレオナルドが上げた大声に、全員の注目が集まった。


 ガルクーザに蹂躙されつくしたこの場所に生存者ですって!?

 正直言って信じられないけれど、レオナルドの生体察知に間違いは有り得ない。なら早く見つけてあげないと……!


「居たぞぉ! 来てくれリーチェ! キュアライトを頼む! 意識が無いみたいなんだ!」


 レオナルドの生体察知スキルのおかげで、抉れた地面の下から土砂に埋もれたドワーフ族の少女が見つかった。

 どうやらこの土砂のおかげでガルクーザに見つからずに済んだみたいね。


 すぐさま治療魔法を施し、転移魔法で安全な場所に移動した。




 安全な場所に下がった私は、10歳にも満たないような少女がガルクーザの囮に混ざっていた事に憤りを覚え、ドワーフ族の代表者であるディランに食って掛かってしまう。


「どうしてこんな少女が囮の中に居るの!? 囮になるのは年長者からのはずじゃない! どうなってるのよディラン!?」

「落ち着いてくれリーチェ。その事はドワーフ族にもちゃんと周知されておるよ」


 周知されていても守られていなければ意味がないじゃない! 何をそんなに落ち着いてるわけ!?

 まったく、これだからドワーフって!


「あの少女を同行させたのは、恐らく彼女の家族の独断じゃろうなぁ」

「独断って……! それを防ぐ為の取り決めでしょう!? それが守られていないのに落ち着いてなんて……!」

「子供が生まれにくいエルフ族であるリーチェの憤りも良く分かるがな、世の中には色んな考えがあるんじゃよ。最期の一瞬まで家族で過ごしたいとか、独り遺される娘を憐れむとか、色々な……」


 大切だからこそリュートと距離を取る事を選んだ私には、ディランの言っている事は到底理解できなかった。

 独りで苦しんで生きていくより家族みんなで一緒に逝こうだなんて、そんなのただの諦めじゃない……!


 確かにガルクーザは強大で、まだまだ勝てる要素は見当たらない。

 けれどガルクーザの排除を諦めないから、蒼穹の盟約が結成されたんじゃないのっ……!


「大切な人を死に追いやる事が思いやりだって……。それ、本気で言ってるの!?」

「ワシに食ってかからんでくれ。ワシはただ死者の胸の内を自分なりに解釈したに過ぎんよ」


 感情のままに食って掛かる私を、ディランは肩を竦めて宥めてくる。


 ディランに怒りをぶつけても意味が無いのは分かってる。分かっているけど納得するわけにはいかない。

 ドワーフ族がしたことは、ガルクーザの排除を諦めずに戦い続ける全ての人の意思と犠牲を冒涜したんだから……!


「2人とも落ち着いてくれ。今話し合うべきは少女の処遇だよ。どう扱うべきだと思う?」

「……せっかく拾った命だ。しかしアルフェッカに今回のことを知られるのは良くない。となれば……」


 リーダーのラスタと、竜人族のヴァハクが少女をどうするのか問いかけてくる。


 その後全員で話し合った結果、身寄りのないドワーフの少女アウラは、結局私達蒼穹の盟約で面倒を見る事になったのだった。

 ただでさえ絶望的な雰囲気が漂う今のアルフェッカに心中を図ったアウラの家族の事が知られれば、生きる事に疲れた人が後に続くかもしれない、そう危惧したのだ。


 ……けれど、そんなことは言い訳だったのかもしれない。

 私たちには必要だったんだ。目の届く範囲に、自分達が守るべき存在アウラの姿が。


 蒼穹の盟約わたしたちは疲れきっていたのだ。

 みんなのためにとみんなに犠牲を強いる日々に、私達の心はとっくに折れていたんだ……。





「いってらっしゃい! 今日も魔物狩り頑張ってねーっ」


 両親を亡くし天涯孤独になったというのに、健気に私達を応援してくれるアウラ。

 その姿に鼓舞されて、砕けそうな心を必死に拾いながら、折れそうな膝を堪えながら魔物を狩り続ける。


 転職の度に新たに犠牲となる者が出て、いつも通りに心が磨り減っていく。

 だけど天真爛漫なアウラの笑顔が、私たちに諦める事を忘れさせてくれた。


 ……私達が諦めたら、この少女の命も失われるのだと。


「精霊魔法? それって普通の魔法とどう違うのー?」


 アウラの面倒はパーティ全員で見ていたけれど、その中でも同性だった私はアウラと共に過ごす時間が長かった。

 両親を守れなかった私達を責めることも無く懐いてくれるアウラの存在は、ガルクーザを滅するまではアルフェッカの地を踏まないと誓った私達にとって、何よりの癒しになった。


 普段は寡黙な竜人族のヴァハクでさえ、アウラには笑顔で対応していたくらいに。


「へ~? リーチェお姉ちゃんには妹がいるんだー? やっぱり似てるのー?」

「ううん、あんまり似てないの。リュートは髪も白いし肌の色も濃いし、なによりおっぱいが凄くてねぇ。私と同じ食事をして育ったはずなのに、なんであの子だけあんなに大きくなったのかしら?」


 家族を亡くしたばかりのアウラに、妹のリュートの話をするのは少し気が引けた。

 だけどアウラは私達のことを知りたがっていたし、私達も自分の守るべきモノを再確認するみたいに、アウラに自分たちの家族のこと、友人のこと、そして愛する人のことなどを良く話した。


 聡明なアウラのことだ。きっと家族の話を聞きたがったのは私たちに気を使ったのだろう。家族の話をしている時の皆はとても穏やかな表情をしていたから。

 きっとリュートの事を話しているときの私も、みんなと同じような表情を浮かべていたに違いない。


 ……だけどそんな穏やかな時間も、ガルクーザの脅威の前には簡単に吹き消されてしまった。





「ダメだダメだダメだっ!! この程度じゃ奴の前に立つことすらできやしないよ……!!」


 頭を掻き毟りながら悔しそうに叫び声をあげる、魔人族のジーニ。


 多大な犠牲を払って、私達はそれぞれの種族しかなれない職業につくことに成功したというのに、その職業をどれだけ極めてもガルクーザを滅ぼせるとは思えなかった。

 転職の必要が無くなり転職の際の囮を用意することは無くなったけれど、ここまでに出すぎた犠牲者の数が私達の心を絶望で覆っていく。


「人の身で神に抗おうというのが無茶だったんだ……! 神に対抗する為にはこちらも神に縋るより他無い!」


 誰が言い出したのかは分からない。

 けれど絶望に染まった私達は、自分たちの力でガルクーザを滅する事を諦め、アルフェッカに伝わる神器レガリアに頼る決断をしてしまった。


 神器の行使には相応の対価が必要になる。

 そんなこと分かっていたのに、分かっていたけど神器に頼る他無かったのだ。


「識の水晶よ! 今の人類がガルクーザを滅ぼす方法を答えよ!」


 森羅万象の全てを知る事が出来ると言われる識の水晶に、ガルクーザの打倒を問う。

 問いかけた男の心と引き換えに得た回答は『最も強き者の魂を6つ、始界の王笏に捧げよ。さすれば邪神は退けられる』というものだった。


 最も強き6つの魂。それは私達蒼穹の盟約のことで間違いないだろう。

 神器『始界の王笏』に私達6人の命を捧げれば、あの邪神を退けることが出来る……!


 神器に命を捧げるということが己の死を意味することなど分かっていたけれど、それでも私達は喜んだ。

 とうとうあの邪神を滅ぼす方法が見つかったのだと。この地獄の日々を終わらせることが出来るのだと。


 勿論死にたくなんてなかった。けれど今更命を惜しむ気にもなれなかった。

 私達のために散っていった夥しい数の命を思えば、自分達がこの先も生きていくなんてあまりにも罪深いことに思えたから。


「仕方、ないよなぁ……」

「……ワシのような老いぼれはまだしも、若い者につき合わせるのは偲びないがの」


 蒼穹の盟約のみんなも、どこか安心したような、肩の荷を下ろしたような表情を浮かべていた。


 これで終わらせられる。

 もう自分たちのせいで誰かを死なせずに済むんだと、諦めにも似た安堵の表情を浮かべる仲間達。


 命を惜しみ作戦に反対する者は、もう誰も居なかった。




「そっか……。とうとうみんなはガルクーザとの戦いに赴くんだね……」


 決戦の日が決まったことを伝えると、アウラは複雑そうな表情を浮かべた。

 この時の彼女が何を思ったのか、結局聞くことは出来なかったな。


 作戦決行の2日前。

 明日は1日家族と過ごす為に全員がアルフェッカで過ごす事になっている。だからアウラと過ごすのは今夜で最後だ。


 ガルクーザとの戦いにも、ガルクーザとの戦いが終わるまではアルフェッカにも連れて行くことは出来ないと告げても、それでもアウラは気丈に笑ってくれた。


「大丈夫。私はリーチェお姉ちゃん達を信じてるから。ガルクーザを倒したら迎えに来てね。ずっと待ってるからっ」


 待たないで。お願いだから私達を待たないでアウラ。


 私達はもう帰ってくる事は出来ないの。

 私達を待っていたら、貴女はずっと独りぼっちになってしまうのだから……!


 だけど私は言えたのは、ガルクーザを倒したらリュートと3人で食事をしましょう、なんて叶えられない約束の言葉だけだった。



 翌朝、いってらっしゃい、ずっと待ってるからねと叫ぶアウラに見送られ、最期の1日を家族と過ごす為にアルフェッカに足を運んだ。

 けれどエルフの代表を務めていた両親と過ごすことは難しく、この日会うことが出来たのは最愛の妹のリュートだけだった。


 ガルクーザの決戦が迫っている事を告げ、昔のように一緒に寝ましょうと誘い2人で眠りにつく。

 愛しいリュートを抱き締めていると、自然と涙が溢れ出してきた。


「……大丈夫だよ姉さん。姉さんたちは必ず勝てるよ。ぼくは姉さんたちの勝利を疑ってないよ」


 震える私を強く抱きしめ、力いっぱい慰めてくれるリュート。


 リュートともずっと一緒に過ごしたかった。アウラとリュートと色んなことをしてみたかった。

 だけど、それはもう叶わないんだ……。


 せめてリュートに、アウラの事をお願いしたい。

 けれどアウラの事はガルクーザを討伐するまでは誰にも告げては駄目だと決めたんだ。


 ……最悪の想定だけれど、私達がガルクーザの討伐に失敗する可能性だってゼロじゃない。

 だからガルクーザを滅するまではアウラの存在を公にするわけにはいかないんだ……。


 優しいリュートは何も聞かずに、泣き続ける私をひと晩中抱きしめてくれた。

 リュートを守る為に、アウラを守る為になら……。この命を捧げても惜しくはない……!




「ははっ。なんだよ。誰か1人でも来なかったら、それを理由に逃げ出せたのにさ……」


 翌日、誰1人欠けることなく蒼穹の盟約は集まった。

 そんなみんなを、リーダーのラスタが少し悲しげに揶揄する。


 家族と過ごすことで命を惜しむ者が出るかもしれない。

 そんな懸念もあったけれど、家族と一緒に過ごしたからこそ逃げ出すわけにはいかないわよね。


 始界の王笏はパーティリーダーであるラスタが持ち、魔人族の代表であるジーニの移動魔法でフォアーク神殿の近くまで転移する。

 転移した私達の気配に気付いたガルクーザは、すぐに私達に向かって地面を揺らしながら走ってくる。


 その巨体を前に、どんどん輝きを増していく始界の王笏。


「正直、人間族の俺にこのパーティのリーダーは荷が重かったよ」

「ラスタ……?」

「だけど、みんなとパーティが組めて良かった。こんな結末になったのは残念だけど……。まぁ悔いは無いよ」


 悔いが無い筈はない。けれどここで命を捨てる事に後悔も無い。

 そんなラスタの言葉を皮切りに、1人1人の正直な想いが吐き出されていく。


「ドワーフ族のワシがもっと強い装備を用意できれば良かったんじゃがなぁ。流石に神を殺す武器など人の手には作れなかったようじゃ……。もしも生まれ変われたら、邪神を滅ぼす武器を作ってみたいもんじゃのう」


 自分の顎を擦りながら、悔しそうに呟くディラン。


 ディランの作った装備品には何度も命を救われた。

 重銀も神鉄も扱えるディランに作れない武器なんて、この世界の誰も作れないと思うわ。


「竜人族である我が不甲斐ないばかりに……。この命など惜しくはないが、この結末を迎えてしまった事が悔しくて仕方がない……!」


 迫り来るガルクーザを睨みつけながら、自分の無力を嘆くヴァハク。

 ヴァハクの戦闘力には何度も助けられたわ。だからそんなに自分を責めないで。


「獣戦士になっても深獣化出来るようになっても、ガルクーザには到底及ばなかった。どうやりゃ生きて倒せたんだろうな? このバケモンをよぉ」


 レオナルドが、まるでお手上げといった風に投げやりな言葉を零す。

 本当にどうすれば、私達も生きてガルクーザの居ない世界に辿り着くことが出来たんだろうね……?


「皆と共に歩み、魔人族の種族としての弱さを露呈してしまった気がするよ。邪神を前に僕等の魔技なんて何の役にも立てなかったね……」


 俯きながら悔しそうに歯を食い縛るジーニ。

 魔人族だけじゃない。6種族全てが協力しても、この邪神には及ばなかった。ただそれだけの話……。


「……死にたくないわ。この先もずっと生きていたかった。家族と、アウラと一緒にずっとね」

「リーチェ……。お前……」

「だけど、大切な人のために死ななきゃいけないなら……。貴方たちと死ぬことが出来るのは幸運だったと思ってる」


 パーティを組んでそんなに長く一緒に居たわけじゃないけれど、ガルクーザ打倒のために志を共にする仲間と過ごす日々は、何物にも変えがたい素晴らしい日々だったと思う。

 惜しむべきは、その日々に突入した時点で袋小路で、その日々には出口など無かったこと……。


「それじゃ行くよ。不甲斐無いリーダーだったけど、最後の最後くらいはしっかり決めてやるさっ」


 ラスタからの確認に、全員笑顔で頷きを返す。


 私達の魔力を吸って輝きを増す始界の王笏。

 朦朧とする意識の中で最後に見た光景は、ガルクーザの周囲の空間が歪んで千切れ、ガルクーザの肉体が弾け飛ぶ姿だった。


 リュート。姉さんはガルクーザを滅ぼすことが出来たよ。

 アウラ。迎えに行ってあげられなくてごめんなさい。


 最期に2人の妹を想いながら、私の意識は世界に融けて、永遠に失われていくのだった。
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