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6章 広がる世界と新たな疑問3 ホムンクルス計画
439 潜入 (改)
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ひと足先に寝室から脱出した俺は、食堂でお茶を淹れながらみんなが下りてくるのを待った。
フレイムランスの火力で一気にお湯が沸かせるのは便利です。
「ふふ。ダンが淹れてくれたお茶を飲むの、なんだか久しぶりなのっ」
思ったよりも直ぐに下りてきたみんなにお茶を淹れてあげて、出発前にティータイムを楽しむ。
いつもはフラッタのお茶を楽しんでいるけど、たまには俺のお茶も楽しんでもらおう。お茶じゃない液体ばかり楽しんでもらうのは忍びないし?
「ふふ。流石にフラッタの淹れたお茶のほうが美味しいですね?」
「んー、ラトリアに教わった通りに淹れてるつもりではあるんだけどね。年季の差かなぁ?」
お茶の先生であるラトリアから残念な採点をされてしまう。
確かに自分でもフラッタのお茶のほうが美味しいと感じるから、この評価は仕方ないな。
ちゃんと教えられた通りにやっているはずなんだけど、フレイムランスでお湯を沸かしたりする雑さが悪いのかもしれない。
「ふははっ! ダンの淹れてくれたお茶も悪くはないがのっ。これだけはダンにも譲るわけにはいかぬのじゃっ。みんなを大好きな気持ちをいっぱい込めておるからのうっ!」
あーもうフラッタ。そういうこと言わないの。
フラッタのことが大好きなお母さんのラトリアとか、ニーナお姉ちゃんが陥落しちゃってるからね?
「はむはむ。フラッタの好意はまっすぐだもんね。ぼくもダンを好きな気持ちでは負けてないつもりだけど、フラッタほど真っ直ぐな想いだって自信はないかな」
「ちゅうちゅう。フラッタさんは誰とでも直ぐに仲良くなっちゃいますもんね。初対面の教会の子供達とも打ち解けてましたし」
テーブルの下から、快感と一緒にリーチェとムーリの声が届けられる。
お前たちはさぁ……。せっかくお茶を淹れたんだからそっちを飲んで欲しいんだよ?
確かに2人のおっぱいは物凄く気持ち良いんだけど、それはそれ、これはこれなんだよ?
だけどおっぱい戦艦2人に、ニーナとフラッタばっかりズルい! と迫られてしまっては、流石に断りきることもできなくてですね? やっぱりおっぱいには勝てなかったよ?
おっぱい戦艦2人の頭をよしよしなでなでしながら、今日の予定を改めて確認する。
「それじゃお茶を飲んだら出発しようか。基本的に俺が気配遮断、ティムルが熱視で魔力の流れを把握、リーチェが精霊魔法で俺達の動作音の隠蔽と情報収集をする感じでお願い。暴王のゆりかごに侵入したあとも発見されないように気をつけよう」
「そうだね。シルヴァが捕まってた時の事を考えると、アウター内に人工の設備があってもおかしくないの。人工の設備……例えばステータスプレート認証なんかがあったら、その時は強引に進むしかなくなっちゃうかな?」
ニーナが言っているのは奈落に幽閉されていた竜人族たちのことか。
あの時も確かに魔力が適用されない人工物の扉を、フラッタのブレスで強引に突破したんだったなぁ。
アウラの研究がアウター内で行われていると仮定するのなら、まず間違いなく人工物で構成されたエリアがあるだろう。面倒臭いなぁもう。
リーチェとムーリの喉をお茶ではないもので1度ずつ潤してから、アウラと接触する為にクラクラットへと転移した。
「まずはいつも通りアウター管理局に向かおう。無駄足だとは思うけどね」
クラクラットにやってきた俺達仕合わせの暴君は、まずアウター管理局に赴いてレイブンさんに話を聞くことにする。
強引な手段を取るとは決めたけれど、万が一アウラからの伝言なんかが届いていれば穏便に話を進められるはずだ。
「今日も来たのか。毎日ご苦労なことだな。だがやはり今日も伝言は預かっておらんぞ」
アウター管理局に足を踏み入れるなり、カウンターの奥から声をかけてくるレイブンさん。
どうやら大方の予想通り、アウラからのリアクションは何も無いようだった。
このまま踵を返すのもなんなので、そのままカウンターまで歩み寄り別件についても確認する。
「ま、そっちは駄目元だから仕方ないとして。暴王のゆりかごの探索許可はまだ下りないのかな?」
「悪いがそちらもまだだな。というか流石にこれ以上長引くとクラメトーラ全体に少なくない影響が出そうで、こちらとしても早く探索を再開させて欲しいと上に問い合わせているのだが、問答無用で待ての一点張りでな。正直困っている」
レイブンさんに嘘を付いている様子は見られない。上の対応に本気で憤っているように感じられる。
クラメトーラ全体に影響が出るのも厭わずに暴王のゆりかごへの侵入を禁じているのなら、アウラの調整も大詰めを迎えているのかもしれないな。猶予はあまり無いかもしれない。
レイブンさんにお礼を言ってアウター管理局を後にした。
「ドワーフの支配者層は、クラクラット全体よりもアウラの完成を優先させてるみたいだね」
アウター管理局を1歩出たところで、全員と改めて打ち合わせをする。
リーチェの精霊魔法のおかげで盗み聞きされる心配も無い。正直鑑定スキルよりもチート感がある能力だと思う。
「あまり長引くとクラメトーラ全域にも大きな影響が出そうだし、なによりアウラの安否が心配だ。ってことで予定通り強行突破で行こうか」
「了解よ。早速熱視で魔力の流れを追ってみるわ」
「ぼくも了解。ダンが気配遮断を発動したと同時に全ての音を遮断するよ」
「2人ともお願いね。ここから先、俺達はルールを破って行動することになる。いつも以上に行動には細心の注意を払おう」
全員の警戒心と注意力が高まったのを確認して、碧眼のティムルが歩き出す。
それに合わせて全員で移動し、生体察知と五感補正を全開にして周囲の気配を感知する。
周囲の音と気配を探り、そして全ての視線が外れた瞬間気配遮断を発動し、俺達の姿を誰にも視認出来ないようにする。
俺の気配遮断に合わせてリーチェが精霊魔法を行使し、俺達の会話も動作音も周囲に漏れ出ないようになった。
「これでひとまずは隠密モードに入ったけど、1つ懸念があるとしたら熱視の存在だ。魔力視の可能な熱視なら、気配遮断スキルを看過できる可能性は否定出来ない」
「熱視を使っても姿は見えないんだけど、私達の姿を隠している魔力は見えちゃうわ。気配遮断を知っている者ならピンと来ちゃうでしょうね」
「ここはドワーフ族の本拠地だし、熱視を使える者は少なくないはず。スキルを過信せずに常に警戒していこう」
ま、気配遮断スキルを知っている者がいるとは思えないけどねー、と肩を竦めてティムルが歩き出す。
犯罪職と射手ルートを上げないと暗殺者にはなれないからな。
職人系の転職魔法陣しかないクラメトーラで気配遮断スキルを知っている者がいる可能性は、ティムルの言う通り限りなくゼロに近いだろう。
だけど、油断することは出来ない。
ノーリッテが研究の事を知っていたということは、恐らくドワーフたちはレガリアとも繋がりを持っていたのだろうから。
ティムルの後を追って、クラクラットの中心方面に向かって進んでいく。
先に進むほどに武装したドワーフの見回りが目に見えて増えている。なんだかドワーフ同士で揉めている場面にも出くわした。
俺達はまだ何も問題を起こしていないはずなのに、随分と殺伐とした雰囲気だな?
「かなり警備の人手を増やしているようですね。ですが警備している者たちの士気はあまり高くなさそうですか」
「恐らくレイブン殿と同じように、上から言われた事を忠実に遂行しておるだけなのじゃろうな。だからアウターに潜りたい者に問い合わせを受けても、相手が納得する答えを返せないのじゃろう」
ヴァルゴとフラッタが周囲に気を配りながら小声で感想を洩らす。
揉めていたのはアウターに入りたい人と、それを止めている人だったわけか。
しかし本当に見回りの数が多いな。気配遮断だけだったら動作音で気付かれてたかもしれない。気配遮断と精霊魔法の合わせ技は凶悪すぎるわ。
周囲を警戒しながら小走りで進んで行くと、開けた場所でティムルが突如足を止めた。
「あれ見てダン。ちょっと面倒臭そうなんだけど……?」
ティムルが困ったような顔をしながら前方を指差す。
その指の先を追って視線を動かすと、10数名のドワーフが歩き回っている場所の中心に、魔法陣のようなものが淡く発光していた。
「あれって……。もしかして、アウターへの転移魔法陣……?」
俺の呟きに、ティムルが頷きで答えてくれる。
目の前の地面には、始まりの黒で見かけたような大きめの魔法陣が広がっていた。
「周囲の魔力があの魔方陣に流れ込んでいるから、恐らくあの先が暴王のゆりかごで間違いないと思うんだけど……。転移したときの魔力反応で気付かれる可能性が無いとも言い切れないわ」
「魔力反応? 始まりの黒の転移魔法陣を通った時は、なんの反応も無かった気がするけど?」
「ええ。何の反応も無いならそれに越したことはないんだけどね。転移魔法陣だって魔力を用いて人を転移させるものなんだから、何らかの反応がある可能性は否定出来ないでしょ?」
なるほど、可能性の問題か。
始まりの黒は他のアウターと生まれ方が違うし、あっちこそが例外だと考えるべきか?
移動魔法で転移する場合だって、ポータルで入り口を生み出さないといけないしな。何か反応があっても確かにおかしくはない。
……おかしくはないけど、今更そんなことで躊躇ってる段階でもないかな?
何らかの魔力反応に気付かれたとしても、転移にさえ成功すれば振り切ることも可能だろう。
「ティムル。ここは気にせず強行突破しようか。アウター内にさえ入れれば、俺達なら誰が相手でも振り切れると思うしさ」
「……気付かれてもいいの? ダンならマインドロードを召喚して、この場の人間全員に散漫を付与することも出来ると思うけど?」
発想が怖いよティムルっ!?
こんな街中にアウターエフェクトを召喚するなんて、それなんてノーリッテだよ!?
造魔召喚した魔物にも気配遮断スキルは適用されるのかもしれないけど、アウターに強行突入するよりも罪悪感半端ないから却下だ却下っ!
「まぁいいわ。了解よ。だけど少しでも気付かれる可能性を排除する為に、魔法陣には全員同時に入りましょうか。それなら反応があっても1度きりでしょうし」
「……旦那様、このまま突入しても平気ですか? 転移型の出入り口が固められている以上、1度侵入したら事態の解決まで出てこれないと思いますよ?」
おっと。ティムルは納得してくれたけど、今度はヴァルゴが待ったをかけてきたか。
転移型アウターの出入り口が固められている以上、移動魔法を行使出来る俺達ですら安易に出入りするわけにはいかない。
1度突入したらアウラの事を解決するまでは、たとえ何日かかろうと外に出てくるわけにはいかないから、充分な準備が出来ているのかを不安視しているのか。
だけど今の俺達ならアウター内で食肉を生成することも可能だし、インベントリにはレインメイカーも収納されている。
仮にある程度探索が長期化してしまったとしても、問題なく過ごせるはずだ。
「楽観的過ぎるかもしれないけど、今の俺達ならアイテム生成で食料や水を生み出すことも出来るからね。準備不足ってことはないと思う」
「……じゃな。妾がスポットに入った時に比べれば何の問題も無い状態なのじゃ。最悪の場合は脱出しても良いのじゃからのう」
フラッタも俺に同意してくれる。
そしてガチな遭難経験のあるフラッタの言葉は、他のメンバーを納得させるに充分な重さを持っていたようだ。
「行こうみんな。ここで足踏みしてたって意味がないの」
「ニーナちゃん?」
「私達はみんな、ダンが踏み込んできてくれたから救われたんだよ? 私もティムルもフラッタも、リーチェもヴァルゴも他のみんなだって、全て無視して踏み込んで来てくれたダンのおかげで今の幸せがあるの。だから私達が足踏みしてちゃ駄目なの。足踏みしてても誰も救えないんだから」
足踏みをしていても誰も救えない。迷う暇があったら踏み込むべきだ。
先天性の呪いを受けて踏み出す事に躊躇していたニーナが、まさかこんな事を言ってくれるようになるなんてなぁ。
ニーナの言葉に全員の覚悟が決まった。ここは足踏みをせず思い切って飛び込むべき場面だ。
ドワーフの狂気の犠牲となっている少女、アウラを救う為に。
リーチェの精霊魔法で音を極限まで遮断してもらい、全員でタイミングを合わせて目の前の転移魔方陣に同時に飛び込んだ。
俺達が乗った瞬間魔法陣が一瞬強い光を放ったかと思うと、目の前には坑道のように岩で出来た迷宮が広がっていた。
フレイムランスの火力で一気にお湯が沸かせるのは便利です。
「ふふ。ダンが淹れてくれたお茶を飲むの、なんだか久しぶりなのっ」
思ったよりも直ぐに下りてきたみんなにお茶を淹れてあげて、出発前にティータイムを楽しむ。
いつもはフラッタのお茶を楽しんでいるけど、たまには俺のお茶も楽しんでもらおう。お茶じゃない液体ばかり楽しんでもらうのは忍びないし?
「ふふ。流石にフラッタの淹れたお茶のほうが美味しいですね?」
「んー、ラトリアに教わった通りに淹れてるつもりではあるんだけどね。年季の差かなぁ?」
お茶の先生であるラトリアから残念な採点をされてしまう。
確かに自分でもフラッタのお茶のほうが美味しいと感じるから、この評価は仕方ないな。
ちゃんと教えられた通りにやっているはずなんだけど、フレイムランスでお湯を沸かしたりする雑さが悪いのかもしれない。
「ふははっ! ダンの淹れてくれたお茶も悪くはないがのっ。これだけはダンにも譲るわけにはいかぬのじゃっ。みんなを大好きな気持ちをいっぱい込めておるからのうっ!」
あーもうフラッタ。そういうこと言わないの。
フラッタのことが大好きなお母さんのラトリアとか、ニーナお姉ちゃんが陥落しちゃってるからね?
「はむはむ。フラッタの好意はまっすぐだもんね。ぼくもダンを好きな気持ちでは負けてないつもりだけど、フラッタほど真っ直ぐな想いだって自信はないかな」
「ちゅうちゅう。フラッタさんは誰とでも直ぐに仲良くなっちゃいますもんね。初対面の教会の子供達とも打ち解けてましたし」
テーブルの下から、快感と一緒にリーチェとムーリの声が届けられる。
お前たちはさぁ……。せっかくお茶を淹れたんだからそっちを飲んで欲しいんだよ?
確かに2人のおっぱいは物凄く気持ち良いんだけど、それはそれ、これはこれなんだよ?
だけどおっぱい戦艦2人に、ニーナとフラッタばっかりズルい! と迫られてしまっては、流石に断りきることもできなくてですね? やっぱりおっぱいには勝てなかったよ?
おっぱい戦艦2人の頭をよしよしなでなでしながら、今日の予定を改めて確認する。
「それじゃお茶を飲んだら出発しようか。基本的に俺が気配遮断、ティムルが熱視で魔力の流れを把握、リーチェが精霊魔法で俺達の動作音の隠蔽と情報収集をする感じでお願い。暴王のゆりかごに侵入したあとも発見されないように気をつけよう」
「そうだね。シルヴァが捕まってた時の事を考えると、アウター内に人工の設備があってもおかしくないの。人工の設備……例えばステータスプレート認証なんかがあったら、その時は強引に進むしかなくなっちゃうかな?」
ニーナが言っているのは奈落に幽閉されていた竜人族たちのことか。
あの時も確かに魔力が適用されない人工物の扉を、フラッタのブレスで強引に突破したんだったなぁ。
アウラの研究がアウター内で行われていると仮定するのなら、まず間違いなく人工物で構成されたエリアがあるだろう。面倒臭いなぁもう。
リーチェとムーリの喉をお茶ではないもので1度ずつ潤してから、アウラと接触する為にクラクラットへと転移した。
「まずはいつも通りアウター管理局に向かおう。無駄足だとは思うけどね」
クラクラットにやってきた俺達仕合わせの暴君は、まずアウター管理局に赴いてレイブンさんに話を聞くことにする。
強引な手段を取るとは決めたけれど、万が一アウラからの伝言なんかが届いていれば穏便に話を進められるはずだ。
「今日も来たのか。毎日ご苦労なことだな。だがやはり今日も伝言は預かっておらんぞ」
アウター管理局に足を踏み入れるなり、カウンターの奥から声をかけてくるレイブンさん。
どうやら大方の予想通り、アウラからのリアクションは何も無いようだった。
このまま踵を返すのもなんなので、そのままカウンターまで歩み寄り別件についても確認する。
「ま、そっちは駄目元だから仕方ないとして。暴王のゆりかごの探索許可はまだ下りないのかな?」
「悪いがそちらもまだだな。というか流石にこれ以上長引くとクラメトーラ全体に少なくない影響が出そうで、こちらとしても早く探索を再開させて欲しいと上に問い合わせているのだが、問答無用で待ての一点張りでな。正直困っている」
レイブンさんに嘘を付いている様子は見られない。上の対応に本気で憤っているように感じられる。
クラメトーラ全体に影響が出るのも厭わずに暴王のゆりかごへの侵入を禁じているのなら、アウラの調整も大詰めを迎えているのかもしれないな。猶予はあまり無いかもしれない。
レイブンさんにお礼を言ってアウター管理局を後にした。
「ドワーフの支配者層は、クラクラット全体よりもアウラの完成を優先させてるみたいだね」
アウター管理局を1歩出たところで、全員と改めて打ち合わせをする。
リーチェの精霊魔法のおかげで盗み聞きされる心配も無い。正直鑑定スキルよりもチート感がある能力だと思う。
「あまり長引くとクラメトーラ全域にも大きな影響が出そうだし、なによりアウラの安否が心配だ。ってことで予定通り強行突破で行こうか」
「了解よ。早速熱視で魔力の流れを追ってみるわ」
「ぼくも了解。ダンが気配遮断を発動したと同時に全ての音を遮断するよ」
「2人ともお願いね。ここから先、俺達はルールを破って行動することになる。いつも以上に行動には細心の注意を払おう」
全員の警戒心と注意力が高まったのを確認して、碧眼のティムルが歩き出す。
それに合わせて全員で移動し、生体察知と五感補正を全開にして周囲の気配を感知する。
周囲の音と気配を探り、そして全ての視線が外れた瞬間気配遮断を発動し、俺達の姿を誰にも視認出来ないようにする。
俺の気配遮断に合わせてリーチェが精霊魔法を行使し、俺達の会話も動作音も周囲に漏れ出ないようになった。
「これでひとまずは隠密モードに入ったけど、1つ懸念があるとしたら熱視の存在だ。魔力視の可能な熱視なら、気配遮断スキルを看過できる可能性は否定出来ない」
「熱視を使っても姿は見えないんだけど、私達の姿を隠している魔力は見えちゃうわ。気配遮断を知っている者ならピンと来ちゃうでしょうね」
「ここはドワーフ族の本拠地だし、熱視を使える者は少なくないはず。スキルを過信せずに常に警戒していこう」
ま、気配遮断スキルを知っている者がいるとは思えないけどねー、と肩を竦めてティムルが歩き出す。
犯罪職と射手ルートを上げないと暗殺者にはなれないからな。
職人系の転職魔法陣しかないクラメトーラで気配遮断スキルを知っている者がいる可能性は、ティムルの言う通り限りなくゼロに近いだろう。
だけど、油断することは出来ない。
ノーリッテが研究の事を知っていたということは、恐らくドワーフたちはレガリアとも繋がりを持っていたのだろうから。
ティムルの後を追って、クラクラットの中心方面に向かって進んでいく。
先に進むほどに武装したドワーフの見回りが目に見えて増えている。なんだかドワーフ同士で揉めている場面にも出くわした。
俺達はまだ何も問題を起こしていないはずなのに、随分と殺伐とした雰囲気だな?
「かなり警備の人手を増やしているようですね。ですが警備している者たちの士気はあまり高くなさそうですか」
「恐らくレイブン殿と同じように、上から言われた事を忠実に遂行しておるだけなのじゃろうな。だからアウターに潜りたい者に問い合わせを受けても、相手が納得する答えを返せないのじゃろう」
ヴァルゴとフラッタが周囲に気を配りながら小声で感想を洩らす。
揉めていたのはアウターに入りたい人と、それを止めている人だったわけか。
しかし本当に見回りの数が多いな。気配遮断だけだったら動作音で気付かれてたかもしれない。気配遮断と精霊魔法の合わせ技は凶悪すぎるわ。
周囲を警戒しながら小走りで進んで行くと、開けた場所でティムルが突如足を止めた。
「あれ見てダン。ちょっと面倒臭そうなんだけど……?」
ティムルが困ったような顔をしながら前方を指差す。
その指の先を追って視線を動かすと、10数名のドワーフが歩き回っている場所の中心に、魔法陣のようなものが淡く発光していた。
「あれって……。もしかして、アウターへの転移魔法陣……?」
俺の呟きに、ティムルが頷きで答えてくれる。
目の前の地面には、始まりの黒で見かけたような大きめの魔法陣が広がっていた。
「周囲の魔力があの魔方陣に流れ込んでいるから、恐らくあの先が暴王のゆりかごで間違いないと思うんだけど……。転移したときの魔力反応で気付かれる可能性が無いとも言い切れないわ」
「魔力反応? 始まりの黒の転移魔法陣を通った時は、なんの反応も無かった気がするけど?」
「ええ。何の反応も無いならそれに越したことはないんだけどね。転移魔法陣だって魔力を用いて人を転移させるものなんだから、何らかの反応がある可能性は否定出来ないでしょ?」
なるほど、可能性の問題か。
始まりの黒は他のアウターと生まれ方が違うし、あっちこそが例外だと考えるべきか?
移動魔法で転移する場合だって、ポータルで入り口を生み出さないといけないしな。何か反応があっても確かにおかしくはない。
……おかしくはないけど、今更そんなことで躊躇ってる段階でもないかな?
何らかの魔力反応に気付かれたとしても、転移にさえ成功すれば振り切ることも可能だろう。
「ティムル。ここは気にせず強行突破しようか。アウター内にさえ入れれば、俺達なら誰が相手でも振り切れると思うしさ」
「……気付かれてもいいの? ダンならマインドロードを召喚して、この場の人間全員に散漫を付与することも出来ると思うけど?」
発想が怖いよティムルっ!?
こんな街中にアウターエフェクトを召喚するなんて、それなんてノーリッテだよ!?
造魔召喚した魔物にも気配遮断スキルは適用されるのかもしれないけど、アウターに強行突入するよりも罪悪感半端ないから却下だ却下っ!
「まぁいいわ。了解よ。だけど少しでも気付かれる可能性を排除する為に、魔法陣には全員同時に入りましょうか。それなら反応があっても1度きりでしょうし」
「……旦那様、このまま突入しても平気ですか? 転移型の出入り口が固められている以上、1度侵入したら事態の解決まで出てこれないと思いますよ?」
おっと。ティムルは納得してくれたけど、今度はヴァルゴが待ったをかけてきたか。
転移型アウターの出入り口が固められている以上、移動魔法を行使出来る俺達ですら安易に出入りするわけにはいかない。
1度突入したらアウラの事を解決するまでは、たとえ何日かかろうと外に出てくるわけにはいかないから、充分な準備が出来ているのかを不安視しているのか。
だけど今の俺達ならアウター内で食肉を生成することも可能だし、インベントリにはレインメイカーも収納されている。
仮にある程度探索が長期化してしまったとしても、問題なく過ごせるはずだ。
「楽観的過ぎるかもしれないけど、今の俺達ならアイテム生成で食料や水を生み出すことも出来るからね。準備不足ってことはないと思う」
「……じゃな。妾がスポットに入った時に比べれば何の問題も無い状態なのじゃ。最悪の場合は脱出しても良いのじゃからのう」
フラッタも俺に同意してくれる。
そしてガチな遭難経験のあるフラッタの言葉は、他のメンバーを納得させるに充分な重さを持っていたようだ。
「行こうみんな。ここで足踏みしてたって意味がないの」
「ニーナちゃん?」
「私達はみんな、ダンが踏み込んできてくれたから救われたんだよ? 私もティムルもフラッタも、リーチェもヴァルゴも他のみんなだって、全て無視して踏み込んで来てくれたダンのおかげで今の幸せがあるの。だから私達が足踏みしてちゃ駄目なの。足踏みしてても誰も救えないんだから」
足踏みをしていても誰も救えない。迷う暇があったら踏み込むべきだ。
先天性の呪いを受けて踏み出す事に躊躇していたニーナが、まさかこんな事を言ってくれるようになるなんてなぁ。
ニーナの言葉に全員の覚悟が決まった。ここは足踏みをせず思い切って飛び込むべき場面だ。
ドワーフの狂気の犠牲となっている少女、アウラを救う為に。
リーチェの精霊魔法で音を極限まで遮断してもらい、全員でタイミングを合わせて目の前の転移魔方陣に同時に飛び込んだ。
俺達が乗った瞬間魔法陣が一瞬強い光を放ったかと思うと、目の前には坑道のように岩で出来た迷宮が広がっていた。
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