異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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6章 広がる世界と新たな疑問2 世界の果て

432 ※閑話 授かり物 (改)

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「それじゃ行ってくる。ターニアも気をつけてね?」


 注意を促しながら、私の体を強く抱き締めじっくりと口の中を舐め回してくるダンさん。

 毎回毎回、出かける前のひと時が濃厚すぎると思うのっ!


 仕合わせの暴君が動き始めて、ダンさんたちはまた忙しそうに毎日出掛ける様になった。

 だけどみんなの隣に立つにはまだまだ力不足の私とムーリちゃんは、自分たちのペースで職業浸透を進める日々を送っている。


 そんなある日、ムーリちゃんがお世話になったシスターの面会日だとかで魔物狩りを休む事になり、私は急遽予定が空いてしまった。


「ん~。今までずっと独りだったはずなのに、1人になるのが本当に久しぶりに感じるなぁ?」


 でも、突然お休みになってもやることがないなぁ。

 ダンさんもニーナも居ないし、訓練しようにもヴァルゴちゃんも居ないしなぁ。


 ソロで職業浸透を進めても構わないんだけど……。

 パーティメンバーとして家族として、ムーリちゃんと足並みを揃えて強くなりたいから、やっぱり今日はお休みなのっ。


「う~ん、トライラムフォロワーの子たちの訓練も、もう私が手を出す必要がないレベルだもんねぇ。突然お邪魔したらかえって邪魔になっちゃうし……」


 突発的な休みにすることが思いつかず、あーでもない、こーでもないと頭を捻る私。

 今更マグエルを見て回るのもなんとなく違うなぁ。どうしよっか?


 考えてみたらステイルークを発つまではお友達も多かったけど、ダンさんに貰われてからは家族以外とはあまり交流してないの。

 家族だけでもとっても賑やかで楽しいのもあるけど、ダンさんに愛してもらうと他のことをする余裕が無いんだよね~。


「あっ、そうだ! 私ももう自分でポータルが使えるんだし、この機会にラスティに会いに行こうかなっ?」


 新婚さんのラスティにはお邪魔になっちゃうかもしれないけどっ。

 もしも本当に迷惑そうだったら、アミさんとお茶でも飲めばいっか。お父様に会いに行ってもいいしね。


 ふふ。ステイルークのことをこんなに楽しく考えられる日が来るなんて夢みたいだよぅ。ラスティ以外の兄弟たちも元気かなっ?


 私はなんだか居ても立ってもいられなくなって、逸る気持ちに急かされながらステイルークに転移した。




「さて。ラスティは家を出てるはずだから……。職場に顔を出すのが無難かなー?」 


 ステイルークに到着した私は、さっそくラスティに会いに冒険者ギルドへと足を向ける。


 1人でステイルークを歩く自分がなんだか不思議に思えちゃうの。

 私がここを発ってから20年近く経っているのに、やっぱり懐かしい気持ちになっちゃうなぁ。


 すぐに冒険者ギルドに到着する。

 ふふ、ここも昔と変わらないの。ガレルたちと一緒に魔物狩りをしていた時は毎日のように通ったっけ。

 そこで今はラスティが働いてるなんてびっくりなの。

 
 懐かしい気持ちになりながら、近くに居たギルド員にラスティを呼び出してもらった。


「ターニア姉さんっ。遊びに来てくれたのっ?」


 私の姿を見つけたラスティは、小走りで近づいてきてそのまま私に抱きついてきた。


「急にお休みが出来ちゃってね。私ももう自分でポータルが使えるから来ちゃったの。仕事中にごめんね?」

「ううん大丈夫っ。最近はアルフェッカが賑ってるおかげで、こっちの業務は結構落ち着いてるんだっ」


 ちょっと待っててねとギルドの奥に消えていくラスティを見送った私は、彼女の言葉に首を傾げてしまう。

 近くのアルフェッカが賑ったんならステイルークも賑うんじゃないの? アルフェッカが賑うとステイルークが落ち着くのって変じゃないかなぁ?


「お待たせ姉さんっ!」


 悩む私の元に直ぐに戻ってくるラスティ。小走りで駆け寄ってきてやっぱり私にダイブしてくる。

 う~ん。もうあんまり覚えてないけど、昔はもっと大人しい子だった気がするんだけどー?


「私も今日はお休みを貰ってきたから、1日一緒に過ごせるからねっ」

「もうラスティったら。私達ってもう結構な年なんだよ? 甘えんぼすぎるでしょっ」

「子供の時からずーっと会えなかった分だもーんっ。今日は姉さんにいっぱい甘えちゃうんだからっ」


 ぎゅーっと抱きついてきて、ラスティったら離れてくれそうもないの。


 う~ん……。でもラスティ、あとで後悔しないかなぁ?

 自分の職場でこんな姿見せちゃっていいの? まったく仕方ない子なんだから。


 私からもラスティの背中に手を回して、冒険者ギルドの中で暫く姉妹で抱き合った。




「新居の方はまだ片付いてないから、適当なお店に入りましょっ」


 冒険者ギルドを出た私達は、ラスティの案内で個室の取れる食堂に入った。

 適当にお料理を注文して、改めてラスティとお話をする。


「それにしてもラスティ、貴女テンション高すぎじゃない? ここまで喜んでもらうと会いに来た甲斐もあるけどさ、この前会ったばかりじゃない」

「それはそれっ、これはこれだよーっ。姉さんがお休みの日にわざわざ私に会いに来てくれるなんて、そんなの嬉しすぎるってば~っ」

「そりゃあ迷惑がられるよりは歓迎してもらったほうが嬉しいけどねぇ……」


 ゴキゲンなラスティに少し圧倒されながら、運ばれてきた料理を摘む。

 ……ふふ。まさかステイルークでこんなにゆったりとした時間を過ごせるなんて、夢にも思わなかったなぁ。


 私達はまず、離れ離れだった時のことをお互いに報告し合った。

 呪われてからの私の生活を聞くのは少し辛そうにしていたラスティだったけど、今の私が幸せなのは疑っていないみたいなの。


 逆にラスティからは家族の近況を報告されたけど、私の知っている兄弟姉妹はほとんど婚姻して、ステイルークに残っている人はあまりいないということだった。

 代わりに、私がステイルークを発った後に産まれた弟妹がいっぱい残ってるらしいけど。


「ふ~ん、お父様も随分頑張ったのねぇ。私が知らない兄弟が20人以上増えてるなんてさぁ」

「父さんは100人くらいは目指すんじゃないかなぁ? 子供を増やすのも獣爵家の使命みたいなところがあるし」

「使命感で子作りしてるとは思えないほど、当時から夫婦仲は良かった気がするけどねー。今は知らないけどさ」


 獣爵家の使命の1つに、獣人族の子孫繁栄がある。

 だからお父様は身分を問わず沢山の女性を愛し、そして娶っているの。


 貴族も平民も入り乱れる獣爵家の家族は、少なくとも私の記憶の中では上手く機能していたように思う。

 身分よりも子孫繁栄を優先させた結果、権力欲のある女性からは敬遠されたのかもしれない。


 面識の無い兄弟に今更会う必要も無いと思うけど、お父様にはあとで顔を見せに行かなきゃだめかな?

 ステイルークに来たのに会いに行かなかったなんて後で知られたら、お父様が物凄く落ち込んじゃいそうだもんね。


「夫婦仲と言えば、フロイさんとラスティはどんな感じなの? この前見た時はラスティがゾッコンって感じだったけど」

「えへへー。可愛がってもらってるよー。ダンさんに言われた通り、今あの人は旅人を浸透させてるところなの。だから1日1日と日が進むごとに長く愛してくれるんだよっ」

「はいはいごちそうさまなの。あーごちそうさまついでに、貴女がフロイさんのどこに惹かれたかを教えてくれる? 惚気でもいいから興味あるなぁ」

「んー、良い所はいっぱいあるんだけど……。やっぱり1番は可愛い所が好きかなっ?」


 私の問いかけを待ってましたとばかりに、堰を切ったようにフロイさんの魅力を捲し立てるラスティ。


 ダンさんも凄くお世話になったみたいだけど、フロイさんは普段から凄く面倒見がいい人みたい。

 ラスティの働いている前で警備隊の新人を引率する姿を、以前から何度も見たことがあったんだって。


 けれど、その時は特に恋愛感情は抱かなかったんだ?


 ラスティがフロイさんのことを意識し始めたのは、昨年末にダンさんがステイルークの挨拶回りをした時だったみたい。

 去年の話ってことは、私がダンさんに助けてもらう前の話だね。


「あの時ダンさんが1人でいらっしゃったのを見て、私はニーナさんとダンさんは決別してしまったのだと思っちゃったんだ。そしたらなんだか気分が沈んじゃってね。ギルドで独り落ち込んでたんだ」

「その時はまだニーナの解呪に成功してなかったんだねぇ。それで?」

「うん。その後あの人がギルドに来てね? 落ち込む私に声をかけてくれたんだ。フロイさんは私がダンさんとニーナさんの受け入れ対応をしたのを知っていたから、私が落ち込んでいた理由にピンと来たんだって」


 へぇ? それはなかなかポイント高いよフロイさんっ。

 落ち込んでる女に気付いてあげられるなんていい男なのっ。


「その時に励ましてもらってから、なんだか少しずつ普段も挨拶くらいはするようになってね? 少しずつ仲良くなっていったんだけど……。この前のステイルーク襲撃の後、フロイさんと2人でお話しする機会が増えてさ……」

「うんうん。それでそれでっ?」

「色んなことを話しているうちに、この人は優しいけど不器用な人なんだなぁって思ったんだ。人のことばっかり気を使って自分のことは後回し。だけどそれで喜ぶ誰かの顔を遠くで見て笑ってるような素敵な人なんだなって……」


 ラスティの声が消え入りそうなくらい小さくなってしまう。

 赤面しながらモジモジと私から目を逸らすラスティ。これ以上聞き出すのは無理そうかな?


 だけどラスティは何かを話したくて仕方なさそうに、チラチラと私に視線を送り続けている。なんだろう?


「……実は姉さん。私ね、フロイさんの子供を授かったんだ」

「……えっ!? フロイさんの子供が、ラスティのお腹にっ!?」


 びっくりして聞き返した私に、恥ずかしそうに小さく頷いて見せるラスティ。


 あー……。なんか今日のラスティの態度に得心がいったかも……?

 文字通り、まさに幸せの絶頂にいたんだね、今のラスティって。


「彼と一緒になってからは毎日シてたから、いずれはって思ってたけど……。思ったよりも早く授かることが出来て凄く嬉しいんだ。だけどね……?」

「だけど、なに?」

「うん。私も彼ももう若くないじゃない? だから少しだけ子育てが不安なんだ。彼ももう30を超えているし、私も30間際だからかなり遅い方でしょ? 子供に影響が出ないか心配で……」

「あ~、なるほどねぇ……」


 子供を授かったことを素直に喜びたいけど、遅い初産だから不安になっちゃったんだ。

 確かにこの国では10代から……、遅くても20代前半くらいに初産を終えるのが一般的だもんなぁ。


「んー、初産ってことでナーバスになるのは無理ないけど、お父様なんて50を超えても子供を作ってるわけでしょ? 何も心配要らないのっ」

「う、うん。私も頭では分かってるんだけどね……。父さんの奥様たちだってほとんど10代で初産は経験してるから、私のせいで何か起こらないかって不安で……」


 私よりもずっと近くでお父様を見てきたはずなのに、見てきたからこそ不安になっちゃってるみたい。


 そうだなぁ。こんな時、私だったら……。


「……ねぇラスティ。その気持ち、フロイさんは知ってるの?」

「えっ? いや知らないと思うよ? 何となく男の人には相談し辛い話題じゃない?」

「ううん。フロイさんに話すべきだよラスティ。貴女が辛い時に1番力になってくれるのは、貴女と婚姻を結んだフロイさんに違いないんだから」


 私だったら、辛い気持ちを抱え込まずにダンさんに相談すると思うのだ。


 きっとラスティは自分のほうに問題があると思いこんでいるから、大好きなフロイさんにはかえって相談出来なかったんだと思う。

 けれど愛する人の不安な想いを受け止められない人が、貴女と婚姻なんて結ぶはずがないじゃないっ。


「貴女とフロイさんの子供なんでしょ? だったらラスティの悩みはラスティだけの問題じゃなくって夫婦2人の問題だと思うの。フロイさんに正直に全て打ち明けてみたらいいと思う」

「……分かっては、いるんだけどね。もしフロイさんに嫌われたらって思うと、怖くて……」

「嫌う訳ないのっ! ラスティが選んだ男がそんな器の小さい男のはずないの!」


 フロイさんにベタ惚れだからこそ、そのフロイさんに嫌われることを恐れて悩みを打ち明けられないラスティ。

 年齢的にも遅い初産だし、女性としての自分の能力に自信が持てないのかもしれないの。


 でもねラスティ。フロイさんは貴女の不安を一緒に背負ってくれる人だと思うんだっ。


「貴女がフロイさんを信じてあげなくてどうするのラスティ? 貴女は自分の目と、自分が選んだフロイさんのことをもっと信じてあげなさいっ!」


 んもーフロイさんったら!

 ラスティがこんなに悩んでるのに気付いてあげられないなんて、ちょっとだけ減点なのっ!


 ……でもきっと普段のラスティは、さっきまでの幸せ満点でゴキゲンな状態なんだろうなぁ。

 悩みなんて抱えているようには見えないかもしれないの。


「ラスティ。子供を授かるってすっごく素敵なことなんだよ? 私だってニーナがいるから今こんなにも幸せでいられるの。だからラスティも絶対に幸せになれるから、もっと幸せを感じて良いんだよ?」

「……うん。ありがとう姉さん。フロイさんに話してみるね。話して……いっぱい甘えちゃおうかな……」

「ダンさん曰く、男の人って好きな女に甘えられるのが好きなんだって。だからもうベッタベタに甘えちゃえばいいんだよっ」


 抱えていた悩みを打ち明けることが出来たからか、ラスティの雰囲気が柔らかくなった気がした。

 その後は私からの惚気話を聞いたラスティがドン引きしたりと、また和やかな時間を過ごすことが出来た。


 最近は新しく出来たアルフェッカが賑わいを見せていて、ステイルークの本来の目的である侵食の森の監視業務が手がかからなくなってきたらしい。

 なのでステイルーク全体が少し和やかで落ち着いた雰囲気になっており、逆にやる気のある人は侵食の森に潜る為にアルフェッカに移動したみたいなの。


 だから冒険者ギルド勤めのラスティは少し暇を持て余していて、ラスティと同じく暇を持て余した警備隊員や魔物狩りたちの職業浸透は進み、ステイルークの治安は向上しつつあるみたい。

 食事を終えた後はラスティと共に実家に戻り、お父様も交えて楽しい時間を過ごしたのだった。




「またおいでターニア。ニーナやダンさん、他の皆さんも一緒に遠慮なく遊びに来るんだよ?」


 出産に対して少し不安感を抱いていたラスティも、私との会話で気分転換が出来たみたい。

 尋ねた時よりも大分落ち着いてくれたみたいなの。


 お父様とラスティに見送られながら、私はマグエルに転移した。




「……子供、かぁ」


 マグエルに転移し、ラスティが傍に居なくなった途端に思わず独り言が零れてしまう。

 子供と聞いて、私には少し引っかかるものがあった。


 私達とダンさんの間には子供を授かることは絶対にない。

 だからこそダンさんは、毎日好き勝手に私たちに注ぎ込んでくるわけだけれど……。


 孤児を助けたり、その後も面倒をみたりしてるあたり、ダンさんって結構子供が好きなんだと思う。


 そんな子供の好きなダンさんに、子供を作らせて上げることが出来ないなんて……。

 ニーナも笑顔の裏側にそんな想いを抱えているのかもしれないなぁ


 もしかしたら、だからニーナはダンさんのお嫁さんを増やそうとしているのかもしれない。

 大好きなダンさんに子供を作らせてあげたいから、人間族のお嫁さんを探しているのかもね。


 だけどそんなニーナの想いとは裏腹に、ダンさんは人間族にまったく興味を示さないの。


「……これってきっと、子供を作れない私たちに無意識に遠慮してるんじゃないのかな? 本人に尋ねても絶対答えてくれないと思うけど」


 私はありがたい事にニーナを授かることが出来たけど、ダンさんにもニーナたちにも子供が出来ないなんて悲しいの。


 どうにかしてみんなが子供を授かる方法は無いのかなぁ?

 娘と一緒にダンさんに抱かれている私が言うのもなんだけど、やっぱり孫の顔だって見てみたいしね。


 叶わない事と知りつつ、それでもダンさんならと一抹の希望を抱きながら、愛しい家族の待つマグエルの自宅に帰還したのだった。
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