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6章 広がる世界と新たな疑問2 世界の果て
425 人為 (改)
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「ほら、別荘に行くよっ!」
エロくない意味で興奮するみんなに引き摺られて、別荘まで連れてこられてしまった。
残念。出来れば今日中に、終焉の箱庭のポータルフラグを建てておきたかったんだけどな。
……なんて暢気に構えていると、別荘内に連れ込まれた瞬間リーチェが物凄い勢いで詰め寄ってきて面食らってしまう。
「どういうことなのさダンっ! ガルクーザの出現が人為的なものだったなんて……そんなことありえるのっ!?」
「ちょちょ……落ち着いてリーチェ。シルヴァ黒幕説だって大ハズレだったんだし、俺の言うことなんて真に受けちゃ……」
「落ち着いていられるわけないじゃろうっ! 今の世界の歪みの原因であるガルクーザの出現、それが人為的であったなどと……! そんなことがあって良いわけがなかろうがっ!?」
「待って待って……。フラッタも一旦落ち着いてってばぁ。ちゃんと始めから説明するからさぁ」
詰め寄ってきたリーチェとフラッタを捕獲して、2人が落ち着くまでなでなでよしよししてあげる。
けど、よく見るとニーナもティムルもヴァルゴも表情が硬いな。ちょっと軽はずみな発言過ぎたか。
「驚かせてごめんねみんな。もう大昔の話だし、みんながここまで過剰に反応するとは思わなかったんだ」
「ん……。まぁ旦那様は別の世界から来られたわけですからね。この世界の人間とはガルクーザへの認識が違っても無理ありませんか」
ヴァルゴの言い分に思わず首を傾げてしまう。
この世界の人間のガルクーザへの認識ってなんだ? 今まで社会から隔絶されて生きてきたニーナやヴァルゴまで共有している認識なんてあるの?
俺が疑問に思ったのを察したティムルが、直ぐに補足をしてくれる。
「ダンはピンときてないみたいだけど、ガルクーザは間違いなく実在した、世界を滅ぼし得る魔物という認識なのよ。昔話ではあるけれど、実在した脅威であることは間違いないの」
「ダンの世界には魔物が居なかったんだよね? だからピンと来ないんだと思うの」
ティムルがしてくれた補足にニーナも続く。
「この世界には魔物が普通に跋扈してるでしょ? だからこの世界の人達はいつだって、ガルクーザ級の魔物が現れる可能性に怯えて暮らしているんだよ?」
「あー……。そういうことかぁ……」
ニーナの言葉に、ガルクーザに対する自分の認識が甘かったことを自覚する。
確かに俺はガルクーザのことを、知らない神話に登場するキャラクターのように……言ってしまえばフィクションのようにイメージしていた部分があったかもしれない。
だけどこの世界で生きる人達にとってはガルクーザ級の魔物の出現は、いつ起こっても不思議ではない恐怖の対象だったわけだ。
その恐怖のガルクーザの出現が人為的に行われた可能性なんて示唆されたら……。
そりゃみんなが取り乱すのも無理はなかったね。
「確かに俺の認識が甘かったみたいだ。軽はずみなことを言ってごめん」
「ううん。ぼく達の方こそ取り乱してごめんね? でも聞き流すには衝撃的過ぎたよ、君の話は」
「謝らなくて良いから教えて欲しいのじゃ。どうしてダンはガルクーザの出現が人為的なものだと思ったのじゃ? 間違っていても構わぬ。話して欲しいのじゃ」
俺の腕の中に収まっているリーチェとフラッタが、謝りながら上目遣いで懇願してくる。
「それじゃ聞いてくれ。俺の思い過ごしのはずの、最悪の思い付きを」
そんな2人の額に1度ずつキスをしてから、改めて俺の考えている事をみんなと共有する。
「リーチェの話では、ガルクーザはイントルーダーだって話だったけどさ。そもそも俺はここが既に疑問なんだよ」
「えっ? っと、どういうこと……?」
「勿論リーチェが嘘を吐いてるとは思ってないんだけどさ。俺達が戦ってきたイントルーダーとガルクーザって、意外と共通点が少ない気がするんだよね」
「共通点が少ないって言うか……。そもそもイントルーダーに共通点なんてあるのかしらぁ? 性能も見た目も種族も、てんでバラバラじゃない?」
俺の言葉にティムルが首を傾げている。
けどティムルが抱いている印象は多分、俺達が変なイントルーダーと戦いすぎたせいもあるんだろうな。
「俺達ってレガリアのせいでおかしな召喚をされたイントルーダーと数多く戦っているけどさ。その中でも本来のイントルーダーって竜王とエンシェントヒュドラ、フューリーコロッサスとアポリトボルボロスの4体だけだと思うんだよね。他の魔物もイントルーダー級だったことは間違いないけど」
「……そっか。アウターエフェクトと同じく、イントルーダーも本来はアウターから呼び出される魔物なんだ。そして私達は既に、イントルーダー級の魔物が人為的に生み出せることを体験済みだったんだね……」
俺の言葉を引き継いだニーナが、自分の言葉に戦慄している。
そうなんだよニーナ。俺達って既に、人工的に生み出されたイントルーダーとの戦闘経験が豊富なんだよ。
……だから、ガルクーザが人為的に生み出されていても不思議じゃないと思うんだ。
「あとさ、ガルクーザがフォアーク神殿の近くに鎮座してたっていうのも引っかってるんだよ。アウターの傍じゃなくてフォアーク神殿の近くって、人類にとって1番厄介なところで大人しくしてるってのも変だと思わない?」
「んー……。フォアーク神殿は終焉の箱庭に程近いところにあるんだけど、確かにガルクーザがどこから現れたのかは分かってなかった気がするね……。まるでアウター外に突然現れたような……」
へぇ? リーチェの呟き的に、フォアーク神殿と終焉の箱庭って近い場所にあるのか。なら終焉の箱庭の攻略の時に覗いてみようかな?
……いや、少なくともアウラの件が解決するまでは、あまり余計な脇道に逸れるわけにはいかないか。
「しかしですよ旦那様。伝え聞くガルクーザの能力は、私達が戦ってきたイントルーダーとすら一線を画すほどの凄まじさだったと聞いております。流石に世界呪以上であったかは分かりませんが、そんな魔物を生み出すほどの魔力、アウターの外でどうやって……って、まさか……!?」
「……うん。当時のアルフェッカには、神器呼び水の鏡があるんだよね」
ヴァルゴが恐らく俺と同じ考えに思い至ったらしく、驚愕で言葉を途切れさせてしまった。
なので俺が彼女の言葉を引き継ぎ、みんなに最悪の想定を告げる。
「神器というほどに強力な、何もない空間にアウターを生み出すほどの魔力を発生させる呼び水の鏡。それを用いれば、アウターと融合した世界呪クラスの化け物が生み出されても不思議じゃないと思うんだ」
「……年単位で持ち回りにしていた呼び水の鏡を人知れず悪用するのは簡単よね」
外れて欲しい最悪の想定だったけど、残念ながらティムルは俺の想定を否定してはくれなかった。
「ヴァルゴがさっき数日程度ではアウターが出来たりしないって言ってたけど、少なくとも1年未満で通常の空間がアウター化していたのは、ダン本人が証明しちゃってるしぃ……。世界呪に投入されたのと同等以上の魔力が捧げられていても不思議じゃない、かしらぁ……?」
「ん~……。シルヴァ黒幕説とかも外してるわけだから、ダンの言っていることが必ずしも真実ってわけじゃないのは分かってるんだけど……。説明されればされるほど納得できちゃうの……」
ニーナが真剣な表情で、ガルクーザ人為的災害説を否定する材料を探して悩んでいる。
俺個人としては、450年以上前に起こったことに適当な理屈を貼り付けてるだけなんだけどね。
だけど邪神ガルクーザの存在はこの世界の人たちとって、俺が思っていたよりずっと重いものだったようだ。
「ふむぅ……。仮にガルクーザの出現が人為的なものだったとしたら、その動機はいったいなんだったのじゃろう? ガルクーザの出現で得をした者などおったのか?」
「まさかっ。ガルクーザの出現で得をした人間なんているわけないないっ。当時人類は本気で滅亡を覚悟するくらい追い込まれていたんだよっ?」
俺の腕の中で語り合うリーチェとフラッタ、超可愛いんですけど。
2人とも真面目な顔してても可愛いなぁもう。よしよしなでなで。
「……ガルクーザの出現で得をした人間って。ま、まさかとは思うけど、スペルディア家の……?」
「「「あっ……!?」」」
ティムルの呟きに、他の4人が驚愕の声を上げる。
う~ん……。結果だけ見ればそうなんだけど、これは正直分からないよねぇ。
確かに結果だけを見ればスペルディア家は王として君臨することが出来たわけだけど、それ以前に自分達ごと滅亡する危険性も低くなかったわけだしさぁ。
「流石に現時点では情報が少なすぎて、動機を推し量るのは難しいね。でも結果的にスペルディア家の祖先は王になれたけれど、自分たちの命を天秤にかけてまでそんなことするかは微妙じゃない?」
「……ううんダン。ガルクーザなんて強大な存在が現れることを予想できた人間は、当時1人だって居なかったんだ」
「リーチェ……?」
ティムルが提唱した、スペルディア家がガルクーザ召喚の黒幕説に疑問を示すと、ティムルではなくリーチェが、震える声で俺に答えを返してくる。
「もしも人為的にイントルーダーを呼び出そうと呼び水の鏡を使った者が居ても、想定外の強力な魔物を呼び出してしまったっていう可能性は否定出来ないよ? 召喚は人為的、だけどガルクーザの出現は偶発的だった……。こう考えると……しっくりくる、かも……」
「う~ん……。それはちょっと論理が飛躍している間が否めない気が……」
って、元は俺が言い出し始めた話なのに、周りのみんなが完全に信じ込んでしまってそれを俺が否定するという、いつの間にか立場が完全に逆転してしまっているな?
ガルクーザの人為的召喚説は可能性の1つくらいにしか考えていなかったんだけど、当時を知るリーチェが完全に真に受けてしまっているから、他のみんなもその思考に引っ張られちゃってる感じか。
でもリーチェが提言した、召喚は人為的、だけどガルクーザの出現は偶発的、っていう発想は面白いな。
それならガルクーザの出現によって人類が滅亡に向かっても不思議じゃないし、スペルディア家がガルクーザ討伐後にいち早く備えていた理由にも納得がいくかもしれない。
「でもさ。イントルーダーって人類の敵対者なんだよね? ガルクーザの出現が人為的かどうかは置いておくにしても、どうしてガルクーザはフォアーク神殿の近くから動かなかったのかな? 単純に探知能力の問題なの?」
現時点ではこれ以上の深堀をするのは難しい。
そう判断したのか、ニーナが1度話題を棚上げし、別の疑問を投げかけてくる。
「……ふむ。確かにそれは少し不思議ですね」
ニーナに同意を示したヴァルゴが、自分自身でも考えをまとめながらニーナの言葉を引き継いだ。
「ニーナが言う通り、アウターエフェクトとは積極的にアウターの外に出てきて、人類を無差別に虐殺するものだと聞き及んでおります。きっとイントルーダーも同様の性質を持つでしょう」
「アウターエフェクトもイントルーダーも、アウターから召喚される存在だもんね。私も恐らく両者は似た性質だと思ってるの」
「であれば、なぜガルクーザはフォアーク神殿の利用を妨害するかのような動きをしたのでしょう? ……誰かが造魔スキルか何かで操っていた、とかでしょうか?」
「……いや、ガルクーザの動きが制御されていたとは思えないよ。世界呪クラスの魔物を操る方法なんてあるとは思えないな」
俺を見ながら慄くヴァルゴの言葉を、俺自身が切り捨てる。
もしもガルクーザの出現が意図しないものであったのなら、ガルクーザを意のままに操るなんてことは出来なかったんじゃないかな。
造魔スキルじゃ討伐していない魔物を操ることも出来ないしね。
「あくまで憶測でしかないけれど、ガルクーザはその強大すぎる力ゆえに、魔力の源泉からあまり離れられなかったんじゃないかな? 宿り木の根と同化して世界呪になったノーリッテみたいにさ」
「……呼び水の鏡を設置した場所がフォアーク神殿近郊だったってこと? 確かに世界呪が呪言魔法を発動する度に膨大な魔力が使用されていたのは、この瞳で確認済みだけど……」
「地を割り空を切り裂くほどの存在だったと言われている邪神ガルクーザ。そんな強大な力を振るう為には相応の魔力が必要なのじゃ。考えれば考えるほど辻褄が合ってしまうのう……!」
「英雄譚で語られる邪神ガルクーザは、視線で生物を石化させ、吐息で病気を撒き散らし、声で心を壊す存在だなんて言われているよね。なんだかこれも世界呪の呪言魔法に通じるものがあるような気がしてくるの……!」
ニーナの呟きで、ガルクーザはやっぱり通常のイントルーダーよりも、人為的に生み出されたマグナトネリコに似ているように感じる。
……そう言えば、未だにガルクーザの外見とかまったく分からないな?
ニーナから聞いた建国の英雄譚でも、確かガルクーザの外見については語られていなかったはずだ。
「ねぇリーチェ。ガルクーザってどんな見た目だったのかな?」
分からないことは素直に聞こう。
建国の英雄譚は嘘だったけど、リーチェが当時から生きている事だけは本当なんだから、当時のことはリーチェに聞けばいいだけの話だ。
「歩く度に地面が揺れるなんて言われているところから勝手に人型の魔物を想像してたんだけど、実際にはどうだったの?」
「ん~、ぼくも直接見たわけじゃないから……。というかガルクーザの姿を目にして無事だった人って、確か殆ど居ないんだよ。だから外見があまり伝わってないんじゃないかな」
「あー……。そりゃそうかぁ……」
劣化イントルーダーに対峙しただけで、スポットの最深部まで自力で潜れるワンダ達が気圧されていたからな。
あの時のことを基準に考えると、常人がマグナトネリコ級の魔物に出会ったらまともに姿を見ることすら難しいかぁ。
見られたら石化、話しかけられたら発狂するらしいし、邪神と遭遇した人の殆どが命を落としてしまったのかもしれないな……。
「巨大な人型の魔物だったのは間違いないはずだよ。だけどそれ以上のことはあまり分かってないんだ。ただ腕は2本以上生えていたと聞いた事があるよ。……それを報告した人も精神を病んでしまったらしいけど」
多腕で人型の魔物か。まさに神様っぽいビジュアルと言えない事もないな。
多腕のイントルーダーと言えば、ガレルさんが変異したドリームスティーラーを連想するね。
……なんだかさっきから人為的に生み出された魔物との共通点ばっかり見つかって、心の底から微妙な気持ちにさせられるよぉ。
ノーリッテがマグナトネリコをガルクーザにも負けない存在だって評価していたけど……。
こうして改めて検証してみると、この評価ってぶっちゃけ微妙じゃない?
なんせマグナトネリコを間近で目にした断魔の煌きの皆さんは、無事にスペルディアに帰還したらしいからな。
見ることすら出来ないガルクーザのほうが、存在感的に上じゃないのかねぇ?
しかもノーリッテが世界呪を産み出す為に用いたのは通常のマジックアイテムであって、もしも今回の仮説が正しかった場合にガルクーザ召喚に用いられたのは、神器である呼び水の鏡なのだ。
いかにノーリッテがアウターと同化して膨大な魔力を得ていたとしても、最終的な魔力はレガリアを用いたガルクーザのほうが上だったのではないんだろうか?
「あーもうっ。アウラのことだけじゃなく、まーたダンの話でゲンナリさせられちゃったの~……。本当にこの世界って、一体どれだけの悪意が蔓延していたんだか~……」
「……悪意、か。考えてみれば私達って、人の悪意に触れてばっかりじゃないかしら? そう考えるとガルクーザが人の悪意によって生み出された存在であるという説も、案外現実味を帯びてきちゃうわねぇ……」
「やめてよお姉さん。その流れで言ったら、将来的に邪神ガルクーザとも戦わなきゃいけないみたいじゃんかぁ……」
世界呪マグナトネリコを超える魔物なんてもう現れないと思っていたのに、実は450年も前にとっくに出現していた前例があるだなんて笑えないよぉ。
始界の王笏によって間違いなく滅ぼされているガルクーザだけど、人為的に召喚された存在であるなら召喚を再現されてもおかしくはない。
再現できるなら、俺達の前に立ち塞がる可能性はゼロではないのだ。
うわっ……。自分で言っててフラグ過ぎて嫌になるな……。
口は災いの元とは良く言ったものだよ、まったくもー。
エロくない意味で興奮するみんなに引き摺られて、別荘まで連れてこられてしまった。
残念。出来れば今日中に、終焉の箱庭のポータルフラグを建てておきたかったんだけどな。
……なんて暢気に構えていると、別荘内に連れ込まれた瞬間リーチェが物凄い勢いで詰め寄ってきて面食らってしまう。
「どういうことなのさダンっ! ガルクーザの出現が人為的なものだったなんて……そんなことありえるのっ!?」
「ちょちょ……落ち着いてリーチェ。シルヴァ黒幕説だって大ハズレだったんだし、俺の言うことなんて真に受けちゃ……」
「落ち着いていられるわけないじゃろうっ! 今の世界の歪みの原因であるガルクーザの出現、それが人為的であったなどと……! そんなことがあって良いわけがなかろうがっ!?」
「待って待って……。フラッタも一旦落ち着いてってばぁ。ちゃんと始めから説明するからさぁ」
詰め寄ってきたリーチェとフラッタを捕獲して、2人が落ち着くまでなでなでよしよししてあげる。
けど、よく見るとニーナもティムルもヴァルゴも表情が硬いな。ちょっと軽はずみな発言過ぎたか。
「驚かせてごめんねみんな。もう大昔の話だし、みんながここまで過剰に反応するとは思わなかったんだ」
「ん……。まぁ旦那様は別の世界から来られたわけですからね。この世界の人間とはガルクーザへの認識が違っても無理ありませんか」
ヴァルゴの言い分に思わず首を傾げてしまう。
この世界の人間のガルクーザへの認識ってなんだ? 今まで社会から隔絶されて生きてきたニーナやヴァルゴまで共有している認識なんてあるの?
俺が疑問に思ったのを察したティムルが、直ぐに補足をしてくれる。
「ダンはピンときてないみたいだけど、ガルクーザは間違いなく実在した、世界を滅ぼし得る魔物という認識なのよ。昔話ではあるけれど、実在した脅威であることは間違いないの」
「ダンの世界には魔物が居なかったんだよね? だからピンと来ないんだと思うの」
ティムルがしてくれた補足にニーナも続く。
「この世界には魔物が普通に跋扈してるでしょ? だからこの世界の人達はいつだって、ガルクーザ級の魔物が現れる可能性に怯えて暮らしているんだよ?」
「あー……。そういうことかぁ……」
ニーナの言葉に、ガルクーザに対する自分の認識が甘かったことを自覚する。
確かに俺はガルクーザのことを、知らない神話に登場するキャラクターのように……言ってしまえばフィクションのようにイメージしていた部分があったかもしれない。
だけどこの世界で生きる人達にとってはガルクーザ級の魔物の出現は、いつ起こっても不思議ではない恐怖の対象だったわけだ。
その恐怖のガルクーザの出現が人為的に行われた可能性なんて示唆されたら……。
そりゃみんなが取り乱すのも無理はなかったね。
「確かに俺の認識が甘かったみたいだ。軽はずみなことを言ってごめん」
「ううん。ぼく達の方こそ取り乱してごめんね? でも聞き流すには衝撃的過ぎたよ、君の話は」
「謝らなくて良いから教えて欲しいのじゃ。どうしてダンはガルクーザの出現が人為的なものだと思ったのじゃ? 間違っていても構わぬ。話して欲しいのじゃ」
俺の腕の中に収まっているリーチェとフラッタが、謝りながら上目遣いで懇願してくる。
「それじゃ聞いてくれ。俺の思い過ごしのはずの、最悪の思い付きを」
そんな2人の額に1度ずつキスをしてから、改めて俺の考えている事をみんなと共有する。
「リーチェの話では、ガルクーザはイントルーダーだって話だったけどさ。そもそも俺はここが既に疑問なんだよ」
「えっ? っと、どういうこと……?」
「勿論リーチェが嘘を吐いてるとは思ってないんだけどさ。俺達が戦ってきたイントルーダーとガルクーザって、意外と共通点が少ない気がするんだよね」
「共通点が少ないって言うか……。そもそもイントルーダーに共通点なんてあるのかしらぁ? 性能も見た目も種族も、てんでバラバラじゃない?」
俺の言葉にティムルが首を傾げている。
けどティムルが抱いている印象は多分、俺達が変なイントルーダーと戦いすぎたせいもあるんだろうな。
「俺達ってレガリアのせいでおかしな召喚をされたイントルーダーと数多く戦っているけどさ。その中でも本来のイントルーダーって竜王とエンシェントヒュドラ、フューリーコロッサスとアポリトボルボロスの4体だけだと思うんだよね。他の魔物もイントルーダー級だったことは間違いないけど」
「……そっか。アウターエフェクトと同じく、イントルーダーも本来はアウターから呼び出される魔物なんだ。そして私達は既に、イントルーダー級の魔物が人為的に生み出せることを体験済みだったんだね……」
俺の言葉を引き継いだニーナが、自分の言葉に戦慄している。
そうなんだよニーナ。俺達って既に、人工的に生み出されたイントルーダーとの戦闘経験が豊富なんだよ。
……だから、ガルクーザが人為的に生み出されていても不思議じゃないと思うんだ。
「あとさ、ガルクーザがフォアーク神殿の近くに鎮座してたっていうのも引っかってるんだよ。アウターの傍じゃなくてフォアーク神殿の近くって、人類にとって1番厄介なところで大人しくしてるってのも変だと思わない?」
「んー……。フォアーク神殿は終焉の箱庭に程近いところにあるんだけど、確かにガルクーザがどこから現れたのかは分かってなかった気がするね……。まるでアウター外に突然現れたような……」
へぇ? リーチェの呟き的に、フォアーク神殿と終焉の箱庭って近い場所にあるのか。なら終焉の箱庭の攻略の時に覗いてみようかな?
……いや、少なくともアウラの件が解決するまでは、あまり余計な脇道に逸れるわけにはいかないか。
「しかしですよ旦那様。伝え聞くガルクーザの能力は、私達が戦ってきたイントルーダーとすら一線を画すほどの凄まじさだったと聞いております。流石に世界呪以上であったかは分かりませんが、そんな魔物を生み出すほどの魔力、アウターの外でどうやって……って、まさか……!?」
「……うん。当時のアルフェッカには、神器呼び水の鏡があるんだよね」
ヴァルゴが恐らく俺と同じ考えに思い至ったらしく、驚愕で言葉を途切れさせてしまった。
なので俺が彼女の言葉を引き継ぎ、みんなに最悪の想定を告げる。
「神器というほどに強力な、何もない空間にアウターを生み出すほどの魔力を発生させる呼び水の鏡。それを用いれば、アウターと融合した世界呪クラスの化け物が生み出されても不思議じゃないと思うんだ」
「……年単位で持ち回りにしていた呼び水の鏡を人知れず悪用するのは簡単よね」
外れて欲しい最悪の想定だったけど、残念ながらティムルは俺の想定を否定してはくれなかった。
「ヴァルゴがさっき数日程度ではアウターが出来たりしないって言ってたけど、少なくとも1年未満で通常の空間がアウター化していたのは、ダン本人が証明しちゃってるしぃ……。世界呪に投入されたのと同等以上の魔力が捧げられていても不思議じゃない、かしらぁ……?」
「ん~……。シルヴァ黒幕説とかも外してるわけだから、ダンの言っていることが必ずしも真実ってわけじゃないのは分かってるんだけど……。説明されればされるほど納得できちゃうの……」
ニーナが真剣な表情で、ガルクーザ人為的災害説を否定する材料を探して悩んでいる。
俺個人としては、450年以上前に起こったことに適当な理屈を貼り付けてるだけなんだけどね。
だけど邪神ガルクーザの存在はこの世界の人たちとって、俺が思っていたよりずっと重いものだったようだ。
「ふむぅ……。仮にガルクーザの出現が人為的なものだったとしたら、その動機はいったいなんだったのじゃろう? ガルクーザの出現で得をした者などおったのか?」
「まさかっ。ガルクーザの出現で得をした人間なんているわけないないっ。当時人類は本気で滅亡を覚悟するくらい追い込まれていたんだよっ?」
俺の腕の中で語り合うリーチェとフラッタ、超可愛いんですけど。
2人とも真面目な顔してても可愛いなぁもう。よしよしなでなで。
「……ガルクーザの出現で得をした人間って。ま、まさかとは思うけど、スペルディア家の……?」
「「「あっ……!?」」」
ティムルの呟きに、他の4人が驚愕の声を上げる。
う~ん……。結果だけ見ればそうなんだけど、これは正直分からないよねぇ。
確かに結果だけを見ればスペルディア家は王として君臨することが出来たわけだけど、それ以前に自分達ごと滅亡する危険性も低くなかったわけだしさぁ。
「流石に現時点では情報が少なすぎて、動機を推し量るのは難しいね。でも結果的にスペルディア家の祖先は王になれたけれど、自分たちの命を天秤にかけてまでそんなことするかは微妙じゃない?」
「……ううんダン。ガルクーザなんて強大な存在が現れることを予想できた人間は、当時1人だって居なかったんだ」
「リーチェ……?」
ティムルが提唱した、スペルディア家がガルクーザ召喚の黒幕説に疑問を示すと、ティムルではなくリーチェが、震える声で俺に答えを返してくる。
「もしも人為的にイントルーダーを呼び出そうと呼び水の鏡を使った者が居ても、想定外の強力な魔物を呼び出してしまったっていう可能性は否定出来ないよ? 召喚は人為的、だけどガルクーザの出現は偶発的だった……。こう考えると……しっくりくる、かも……」
「う~ん……。それはちょっと論理が飛躍している間が否めない気が……」
って、元は俺が言い出し始めた話なのに、周りのみんなが完全に信じ込んでしまってそれを俺が否定するという、いつの間にか立場が完全に逆転してしまっているな?
ガルクーザの人為的召喚説は可能性の1つくらいにしか考えていなかったんだけど、当時を知るリーチェが完全に真に受けてしまっているから、他のみんなもその思考に引っ張られちゃってる感じか。
でもリーチェが提言した、召喚は人為的、だけどガルクーザの出現は偶発的、っていう発想は面白いな。
それならガルクーザの出現によって人類が滅亡に向かっても不思議じゃないし、スペルディア家がガルクーザ討伐後にいち早く備えていた理由にも納得がいくかもしれない。
「でもさ。イントルーダーって人類の敵対者なんだよね? ガルクーザの出現が人為的かどうかは置いておくにしても、どうしてガルクーザはフォアーク神殿の近くから動かなかったのかな? 単純に探知能力の問題なの?」
現時点ではこれ以上の深堀をするのは難しい。
そう判断したのか、ニーナが1度話題を棚上げし、別の疑問を投げかけてくる。
「……ふむ。確かにそれは少し不思議ですね」
ニーナに同意を示したヴァルゴが、自分自身でも考えをまとめながらニーナの言葉を引き継いだ。
「ニーナが言う通り、アウターエフェクトとは積極的にアウターの外に出てきて、人類を無差別に虐殺するものだと聞き及んでおります。きっとイントルーダーも同様の性質を持つでしょう」
「アウターエフェクトもイントルーダーも、アウターから召喚される存在だもんね。私も恐らく両者は似た性質だと思ってるの」
「であれば、なぜガルクーザはフォアーク神殿の利用を妨害するかのような動きをしたのでしょう? ……誰かが造魔スキルか何かで操っていた、とかでしょうか?」
「……いや、ガルクーザの動きが制御されていたとは思えないよ。世界呪クラスの魔物を操る方法なんてあるとは思えないな」
俺を見ながら慄くヴァルゴの言葉を、俺自身が切り捨てる。
もしもガルクーザの出現が意図しないものであったのなら、ガルクーザを意のままに操るなんてことは出来なかったんじゃないかな。
造魔スキルじゃ討伐していない魔物を操ることも出来ないしね。
「あくまで憶測でしかないけれど、ガルクーザはその強大すぎる力ゆえに、魔力の源泉からあまり離れられなかったんじゃないかな? 宿り木の根と同化して世界呪になったノーリッテみたいにさ」
「……呼び水の鏡を設置した場所がフォアーク神殿近郊だったってこと? 確かに世界呪が呪言魔法を発動する度に膨大な魔力が使用されていたのは、この瞳で確認済みだけど……」
「地を割り空を切り裂くほどの存在だったと言われている邪神ガルクーザ。そんな強大な力を振るう為には相応の魔力が必要なのじゃ。考えれば考えるほど辻褄が合ってしまうのう……!」
「英雄譚で語られる邪神ガルクーザは、視線で生物を石化させ、吐息で病気を撒き散らし、声で心を壊す存在だなんて言われているよね。なんだかこれも世界呪の呪言魔法に通じるものがあるような気がしてくるの……!」
ニーナの呟きで、ガルクーザはやっぱり通常のイントルーダーよりも、人為的に生み出されたマグナトネリコに似ているように感じる。
……そう言えば、未だにガルクーザの外見とかまったく分からないな?
ニーナから聞いた建国の英雄譚でも、確かガルクーザの外見については語られていなかったはずだ。
「ねぇリーチェ。ガルクーザってどんな見た目だったのかな?」
分からないことは素直に聞こう。
建国の英雄譚は嘘だったけど、リーチェが当時から生きている事だけは本当なんだから、当時のことはリーチェに聞けばいいだけの話だ。
「歩く度に地面が揺れるなんて言われているところから勝手に人型の魔物を想像してたんだけど、実際にはどうだったの?」
「ん~、ぼくも直接見たわけじゃないから……。というかガルクーザの姿を目にして無事だった人って、確か殆ど居ないんだよ。だから外見があまり伝わってないんじゃないかな」
「あー……。そりゃそうかぁ……」
劣化イントルーダーに対峙しただけで、スポットの最深部まで自力で潜れるワンダ達が気圧されていたからな。
あの時のことを基準に考えると、常人がマグナトネリコ級の魔物に出会ったらまともに姿を見ることすら難しいかぁ。
見られたら石化、話しかけられたら発狂するらしいし、邪神と遭遇した人の殆どが命を落としてしまったのかもしれないな……。
「巨大な人型の魔物だったのは間違いないはずだよ。だけどそれ以上のことはあまり分かってないんだ。ただ腕は2本以上生えていたと聞いた事があるよ。……それを報告した人も精神を病んでしまったらしいけど」
多腕で人型の魔物か。まさに神様っぽいビジュアルと言えない事もないな。
多腕のイントルーダーと言えば、ガレルさんが変異したドリームスティーラーを連想するね。
……なんだかさっきから人為的に生み出された魔物との共通点ばっかり見つかって、心の底から微妙な気持ちにさせられるよぉ。
ノーリッテがマグナトネリコをガルクーザにも負けない存在だって評価していたけど……。
こうして改めて検証してみると、この評価ってぶっちゃけ微妙じゃない?
なんせマグナトネリコを間近で目にした断魔の煌きの皆さんは、無事にスペルディアに帰還したらしいからな。
見ることすら出来ないガルクーザのほうが、存在感的に上じゃないのかねぇ?
しかもノーリッテが世界呪を産み出す為に用いたのは通常のマジックアイテムであって、もしも今回の仮説が正しかった場合にガルクーザ召喚に用いられたのは、神器である呼び水の鏡なのだ。
いかにノーリッテがアウターと同化して膨大な魔力を得ていたとしても、最終的な魔力はレガリアを用いたガルクーザのほうが上だったのではないんだろうか?
「あーもうっ。アウラのことだけじゃなく、まーたダンの話でゲンナリさせられちゃったの~……。本当にこの世界って、一体どれだけの悪意が蔓延していたんだか~……」
「……悪意、か。考えてみれば私達って、人の悪意に触れてばっかりじゃないかしら? そう考えるとガルクーザが人の悪意によって生み出された存在であるという説も、案外現実味を帯びてきちゃうわねぇ……」
「やめてよお姉さん。その流れで言ったら、将来的に邪神ガルクーザとも戦わなきゃいけないみたいじゃんかぁ……」
世界呪マグナトネリコを超える魔物なんてもう現れないと思っていたのに、実は450年も前にとっくに出現していた前例があるだなんて笑えないよぉ。
始界の王笏によって間違いなく滅ぼされているガルクーザだけど、人為的に召喚された存在であるなら召喚を再現されてもおかしくはない。
再現できるなら、俺達の前に立ち塞がる可能性はゼロではないのだ。
うわっ……。自分で言っててフラグ過ぎて嫌になるな……。
口は災いの元とは良く言ったものだよ、まったくもー。
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