異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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6章 広がる世界と新たな疑問2 世界の果て

413 推論 (改)

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 大量の発注をかけるには労働環境が劣悪すぎると、クラマイルの4つの集落で金属加工の作業環境を改善した俺達。

 もう清々しいほどの力技でしたけど何か?


「輸送路の方に金属素材を使うかどうかはまだ決めてないから、アホみたいに生産しないようにね? 皆さんが無理しないように、作業員の体調管理はカラソルさんが目を光らせておいてくれる?」

「勿論それは構いませんけど……」 


 絶対に適度に休むことを厳命させながらも、ブルーメタルの素材を大量に配布しておく。

 何度も往復するの面倒臭いってのもあるし、棒状の建築補強材なら別の現場にも流用は容易だろうからな。


「輸送路の方に補強材を使うかどうか決めていないのは何故です? 以前ご説明いただいたお話から、私は道にブルーメタルを敷き詰めるものとばかり思ってましたけど」

「棒状の金属を編みこむ形になるからさ。木製の馬車の車輪の耐久性に対して、地面にブルーメタル鉄筋を埋め込むのは微妙かもしれないなってね」

「ん……。確かに木製の車輪では金属の道の上を走るのは強度が不安かもしれませんね……」

「馬車に関しては門外漢だからあまり言えないけど、馬車が直ぐに壊れるような道を作るわけにはいかないでしょ? だから一旦保留することにしたんだ」


 鉄板のように加工したブルーメタルを敷き詰めても、繋ぎ目を溶接出来るわけじゃないから微妙だし、道の舗装に金属素材を用いるのは難しい気がしてきたんだよなぁ。

 何も考えずにブルーメタルを使うって思ってたけど、使わずに済むならそれに越した事はないでしょ。


「ま、俺は道に関しても馬車に関しても素人だから。色んな人に話を聞きながら作業を進めていくことにするよ」

「至極普通のことを仰っているのに、ダンさんに巻き込まれる他の人達がなぜか不憫でなりませんよ……」


 俺の説明に納得してくれたカラソルさんは、捨て台詞を吐いてスペルディアに戻っていった。


 しかぁし! 今の俺はこの程度の暴言で心を乱したりはしないのだーっ!

 これからベッドの上で、みんなを思いっきり乱れさせなきゃいけないからなぁっ!


 みんなに宣言するようにキスをして、大慌てでマグエルの自宅に転移した。





「あ、やべ。すっかり忘れてた……」


 帰宅してみんなにお触りしながら夕食の準備を進めていると、ライオネルさんに色々話を聞くのをすっかり忘れていた事に気付いた。


 アルフェッカでの神器の扱いや、当時の獣人族の状況とか聞こうと思ってたんだったなぁ。

 工事のこととみんなのことで頭がいっぱいすぎて、今の今まで完全に忘れてたよぉ……。


「ただいまー……って、なんでリーチェさんのおっぱい揉みながら頭を抱えてるの?」

「ダンっ! 頼まれてた職業の資料だけど、とりあえず村人の分を書き上げてみたんだっ。フラッタのケツを弄ってねぇで1度目を通してくれねぇ?」


 自分の迂闊さに頭を抱えていると、夕食の準備中に帰宅してきたチャールとシーズが、以前俺がお願いしていた村人の資料作りが終わったと報告してきた。

 リーチェとフラッタを解放して、2人が書き上げた資料を受け取る。


「シーズと2人で話し合ったんだけどさっ。やっぱり経験値自動取得-っていうスキルの表記は必要ないと思ったの」


 出来上がった非常にシンプルな資料に目を通しながら、資料についての説明を受ける。


「だから今回は単純に、この世界の全ての人が始めに就いている職業って紹介することにしたわっ。問題ないよねっ?」

「その資料に書いてある通りだけど、村人に関して記載する情報は、15歳になるか魔玉を1つ発光させることが出来れば、戦士、商人、旅人の3つに転職することが可能って事だけにしたんだ」

「ふむふむ。公開する情報をかなり絞った感じだね?」

「まぁな。村人なんて職業補正の無い職業、みんなが知りたいのは転職のタイミングだけだろうからさ。余計な情報は混乱を招くだけだと思って」

「なるほどねぇ~」


 正確な情報を普及させるよりも、求められている情報の拡散を優先するってわけね。

 経験値自動取得はパッシブスキルだし、スキル効果も非常に小さい。知っていても知らなくても何の影響も無いっちゃ無いもんな。


「職業の知識は読み書きが出来ないような人でも知りたがる知識だからさ、なるべくシンプルな方がいいと思ったの。どうかな?」

「うん。問題無いと思う。みんなはどうかな?」


 チャールの問いかけに他のみんなの反応を確認するけど、どうやらみんなも異論は無いようだ。

 問題ないようなので、村人の資料はこれで拡散して行こう。


「まずはこの情報を広めて行こう。2人にはこの調子で、自分達が浸透させた職業の資料を作っていってもらえると助かるよ」

「「おっけーっ!」」


 この資料はトライラム教会に写本を依頼して……。

 いや、クラマイルの人に金属素材でハンコ印刷を……は、いくらなんでも無理か?


 とりあえずはそのまんま視写してもらって、その間に木板でも掘ってみようかな?

 今の俺の身体操作性補正の数なら、精密な彫刻くらい余裕だろ、多分?


「2人とも旅人になったんだよね? じゃあ旅人について改めて解説させてもらうよ」


 教会に持っていくために村人の資料は預かって、代わりに旅人の職業補正と職業スキルについて2人に伝える。


 旅人はこの世界で生きていくには必須の職業だと思っているし、インベントリのおかげで浸透が非常に分かりやすい。

 魔玉発光による物差しに頼る必要が無いので、経験値を無駄にする心配も無い。駆け出しが職業浸透に慣れる為にはうってつけの職業だろう。


 更に職業補正で持久力がつくので、日常生活にも魔物狩りにも非常に有用な職業だ。

 上位職の冒険者になれれば移動魔法ポータルが使えるというのもの、かなり重要な要素だろうな。


「2人とも旅人が浸透したら、その後は別々の職業を浸透させたほうが効率はいいかもね。戦士と商人、そして修道士までは確実に浸透してもらいたいけど、その順番は2人で変えたほうがいいかなって思うよ」

「に、2度目以降の転職の話なんて早すぎるってばぁ……! 旅人にだってなったばっかりなのにぃっ」

「でもまぁ確かにインベントリの拡張速度を考えたら、ひと月もかからず転職出来そうではあるよな……。そうなってくると今度は、転職費用の用意が間に合うか心配になってくるぜ……」


 今までの常識との違いに戸惑いを隠せない2人。


 今までは貴族であるフラッタでさえ、1年に1度の転職だったんだもんなぁ。一般の魔物狩りなんて生涯に2、3度くらいしか転職しなかったのかもしれない。

 確かステイルーク警備隊に5年以上所属していて、休日にソロで魔物を狩っていたフロイさんでさえ兵士だったはずだし。


 夕食後、家族のみんなと軽くボディランゲージを図りながら入浴を済ませる。


「ん~……、ダンさん? 今日は1回ずつで終わりなのー?」

「お風呂ではね? 今日は皆と共有したい情報があるから、続きは話が終わってからにしよ?」


 不満げに頬を膨らませるターニアを宥めながらお風呂からあがり、寝室で運動を始める前に家族会議を始める。

 両腕に抱いたフラッタとニーナをよしよしなでなでしながら、クラメトーラで起こっている異変をみんなと共有する。


「クラメトーラに限らず、グルトヴェーダ山岳地帯が不毛の地である理由が、もしかしたら人為的なものであるかもしれないのですかっ……!? そそ、そんなことが人の手で可能なのですか……!?」

「ラトリアが驚くのも無理ないけど、個人的には確信のある想定だと思ってるんだ」


 王国貴族としてこの国の常識の中で過ごしてきたラトリアは、我が家の家族の中ではある意味1番頭が固い部分があるからな。

 だけどクラメトーラはほぼスペルド王国の外だし、ラトリアの常識外の事態が起こっていても不思議じゃないさ。


「俺達は組織レガリアの生み出したマジックアイテムとノーリッテの能力を知っているからね。アウターと同化して世界呪が生み出されたことを考えても、魔力の人為的操作は可能だと考えるべきだ」

「……世界呪を滅ぼした後、このマグエルの街より広いくらいの範囲が吹き飛んだんでしたか……? ダンさん達が規格外であることを考慮するにしても、個人でもそのくらいの規模の範囲に影響を及ぼせると考えれば……」

「ん、あれ? そう言えば……」


 エマの呟きにちょっとだけ引っかかった。


 世界呪をヴァンダライズで吹き飛ばしてやった結果、巨大なクレーターを作ってしまったわけだけど……。

 これって良く考えたら矛盾してないか?


 だってヴァンダライズって俺が勝手に命名しただけで、元は絶空と断空、つまりは2つのウェポンスキルの合わせ技でしかないのだ。

 この世界の仕様では、ウェポンスキルでは地形を削り取ったりは出来ないはずだよな?


「う~ん。考えられるとすれば……」


 魔物である世界呪の根ごとヴァンダライズで吹き飛ばしたから、アイツの根が埋まっているであろう範囲の土地まで一緒に抉れてしまった可能性。

 もしくは、フラッタのアズールブラスターやヴァルゴのウルスラグナ、リーチェのジュエルバラージなど、種族特性によって発動した魔力と混ざり合って、ウェポンスキルの垣根を越えた可能性か。


「……もしかしてヴァンダライズって、魔物以外にも通用する可能性がある、のか?」


 確信はまだ無い。けれど可能性はある気がする……。

 でも、あれを発動するとまず間違いなく魔力枯渇を起こしてしまうと思うからな。使いどころが難しい。


 手加減して発動したヴァンダライズじゃ、みんなの魔力と繋がれるとはとても思えないし。

 あれは極限まで集中したからこそ起こせた、奇跡のような技なのだから。


 ……でも、方向性は悪くないんじゃないか?

 対人戦、そして対野生動物戦への対策として、ヴァンダライズを参考に可能性を探っていくのが正解な気がする。


「……ダン? 今何を考えてるの?」

「ああ、ごめんニーナ。エマの言葉でヴァンダライズのことを思い返していたんだ」


 先日の魔力枯渇の1件があったせいか、ニーナが心配そうに俺の顔を覗き込んできた。

 隠す必要も意味も無いし、ヴァンダライズの話は皆にも関係のある話なので、サクッと打ち明けてしまおう。


「ウェポンスキルだったはずのヴァンダライズで地形を抉ったのは何でなのかなってさ」

「……ふぅむ。言われて見れば確かに妙な話なのじゃ」


 不安げなニーナにキスをしながら胸の内を打ち明ける。

 すると問いかけてきた好色家姉のニーナではなく、好色家妹であるフラッタが可愛くうなり始めた。


「じゃがのう。あの時のヴァンダライズを普通のウェポンスキルに分類していいのかは、正直判断に困るのじゃ」

「ですね。あの時は私達の魂が1つに重なったような感覚を覚えましたから。オーラやダークブリンガー、そして精霊魔法も混ざり合っていたあの時のヴァンダライズを、ただのウェポンスキルと言っていいものか……」


 フラッタとヴァルゴも、あの時のヴァンダライズが特別だったという印象みたいだね。

 我が家の武力担当であるこの2人の見解が一致しているなら、方向性は間違ってなさそうだ。


 そんなことを考えている俺の耳に、パンパンと軽く手を叩く音が届く。


「はいはいダンさん。話が脱線してないかなー? 今はグルトヴェーダとクラメトーラの異変の話じゃなかったのー?」


 ターニアが腰に手を当てて少し呆れ気味に指摘してくる。

 なんか前にもこんなことあったな?


「ダンさん達にって重要な話なのは分かるけど、1つ1つ片付けないと話がとっ散らかっちゃうのー」

「ごめんごめん。確かに脱線してたね」


 指摘してくれたターニアに謝罪の口付けを贈ってから、脱線した話題を元に戻す。


「クラメトーラの中心方面、クラクラットで人為的かつ大規模な魔力操作が行われてると仮定するよ? ここを疑っても仕方ないし、されてなければ取り越し苦労で済むからね」

「問題は魔力操作を行なっている理由、だね」


 本筋に戻した話題に、すぐさまリーチェが補足してくれる。

 そう。問題は誰が何の目的でそんな大規模な魔力操作を行なっているかってことだ。


「土地が枯れるほどの魔力を用いて、クラクラットではいったい何が行われているのか。それはきっとノーリッテが語った、ドワーフ族の狂気の研究……だよね」

「人工生命だっけ? 世界呪が誕生した時も凄まじい魔力だったけど、クラメトーラが不毛の地と認識されてからずっと魔力操作が行われていたとするなら、運用された魔力量は世界呪を超える可能性もあるわぁ」

「イ、イントルーダーを超越するような魔物が、また生み出されちゃうんですか……!?」


 リーチェとティムルは既に俺と同じ結論に達しているようだ。

 ムーリたちは驚いているみたいだけど、仕合わせの暴君はみんな同じ結論に至っていたのか、2人の言葉に静かに頷いている。


「世界呪を超えるバケモノなんて考えたくもないけどぉ……。想定はしておくべきでしょうねぇ……」

「確かに、魔力を用いれば擬似生命隊を生み出せるのは造魔スキルで証明済みだけど……。今回の件は多分、魔物じゃないと思うんだよ?」

「え? 魔物じゃないってどういう……」

「ドワーフが生み出そうとしているのは、恐らく『英雄』……。つまり人間だろうね」

「人を……人を人工的にだって!? 魔物ではなく!?」


 俺の言葉にリーチェが飛び上がる。

 人工的な生命体と聞いても、どうやら人間を作り出しているという発想はなかったらしい。


「……ねぇ。ダンはどうしてそう思うの?」


 他のみんなも一様にショックを受けている中で、ニーナが探るように問いかけてくる。

 世界から隔離されて育ち、俺と共に成長してきたニーナは、他の皆と比べて常識の枠組みが緩いのかもしれない。


「造魔スキルで魔物を生み出せる。だからアウターの魔力で強力な魔物を作り出そうとしている、って考える方が自然じゃないのかな?」

「根拠はいくつかあるんだ。第1に、ノーリッテは異種族出産の鍵としてドワーフの研究について語っただろ? ドワーフたちの研究が魔物を生み出すものであったなら、あの場で話題に出すのはおかしいと思う」

「むぅぅ……。なんだかダンは随分とノーリッテを信用しておらぬか? 正直あまり気分が良くないのじゃぁ……」

「信用じゃなくて理解できる部分があるって感じかな。俺とアイツの本質は、どっちも空っぽらしいから。俺とノーリッテは裏表だったと思ってるからさ」

「むうぅ……。元々似た部分があったのやもしれぬが……。妾たちより奴とダンの方が近しいみたいに感じるのは嫌なのじゃぁ……」


 おーっとぉ!? 我が家の末っ子は随分と可愛いことを言ってくれるじゃないかーっ。

 フラッタってみんながエロに偏っているときは真面目になって、真面目な時は可愛い反応を見せてくれるから困るんだよなぁ。


「元々アイツと似ていた俺がアイツみたいにならずに済んだのは、ここにいるみんなのおかげに他ならないよ。いつもありがとうフラッタ、大好きだよー」

「んふー。こちらこそいつもありがとうなのじゃーっ!」


 ぎゅーっと抱きしめて何度もほっぺにキスをすると、太陽のような眩しい笑顔を見せてくれるフラッタ。

 かと思ったら少しだけ思案げな顔を浮かべて、可愛く首を傾げてしまった。


 我が家の末っ子はコロコロと表情を変えるから、見ていて楽しくなっちゃうよ。


「でもダン。妾たちがいなくても、ダンがノーリッテのようになっていたとは思えぬのじゃー」

「いやいやフラッタ。貴女ダンさんの怖さをぜんっぜん分かってないですってばーっ!」


 フラッタの疑問に全身全霊で否定の声を上げたのは、フラッタと同じ顔をしたラトリアだった。


「ダンが怖いときがあるのは知っておるのじゃ。だけどダンが怖い時は、いつも妾たちのためなのじゃよ母上?」

「だから怖いんでしょーっ!? ニーナさんの為に、ヴァルハールもスペルド王国も本気で滅ぼそうとしてましたからねこの人っ!? すっごくすっごく怖かったんですからねーっ!?」


 う~ん。ラトリアは俺達に登城を強いた時のことが若干トラウマになっちゃってるみたいだなぁ。

 ラトリアを呼んでフラッタと一緒に抱きしめる。コワクナイヨーよしよしなでなで。


「また脱線しちゃったけど、話を戻すよ?」

「話の腰を折ってごめんなさいなのじゃ。続きを頼むのじゃ」


 気にしないでと、フラッタとラトリアにキスを雨を降らせながら話を続ける。


「2つ目の理由もノーリッテが根拠になっちゃうんだけど、造魔スキルを駆使していたノーリッテが、ドワーフの取った手段を好きじゃないと明言していたからね。魔物を生み出すのに積極的だったノーリッテなら、強力な魔物を生み出す研究にはむしろ乗り気になると思うんだよ」

「魂を冒涜するようなマジックアイテムを多数開発していましたしね。確かに魔物関係の研究だったら喜びそうではあります」


 怨魂スキルと遭遇したヴァルゴが神妙な顔で頷いている。

 移魂の命石とか貪汚の呪具とか、悪趣味なものばっかり作ってやがったからねぇアイツは。


「3つ目はドワーフたちの研究の動機だ。彼らは邪神ガルクーザへの対抗手段を求めていたはず。イントルーダーの脅威を目の当たりにした当時の人々が、それより強力な魔物を自ら生み出そうとするかな?」

「……根拠としては少し弱く感じるけど、当時の人はみんなガルクーザの脅威に怯えていたのは間違いないよ。確かにそれを思えば、ガルクーザを超える魔物の作成を目指すのは心情的に難しいかも……」


 リーチェが当時の人間たちの心境を補足してくれる。

 根拠としては弱いと言いながらも、それ以上の否定の言葉は出てこないようだ。


「4つ目に、魔物では職業の加護や装備品の恩恵が受けられないからな。生産に優れたドワーフだからこそ、作りだした装備品を最大限に利用できるヒトを欲したんじゃないかと思うんだ」

「……確かに、職業浸透と装備品が整えば、1人で複数のイントルーダーを退けちゃった人が実際に居るわけだしねぇ~?」


 ニヤニヤしながら流し目を送ってくるティムルお姉さん。

 だけど俺がノーリッテを撃退出来たのは、職業浸透とお姉さんの作ってくれた装備品、フラッタやヴァルゴに鍛えられた戦闘技術とか、もっと多くの要因が重なった結果だと思うんだよー?


「ダンの言う通り、邪神ガルクーザへの対抗措置にヒトを生み出そうという方向性は理解できなくもないけど……。魔力からヒトを人工的に生み出すなんて、本当に出来るのかしらぁ?」

「そこも俺を参考にしてよ。魔力が無ければ心臓すら動かせないほどに魔力が定着し切ってしまった誰かさんみたいに、後天的にヒトの肉体に魔力を定着させる事は可能なんだよ」

「…………それって」


 俺の言葉の裏を正確に読み取ったティムルが、不快そうに顔を顰める。

 そんな顔しないでよー。俺だって自分で言ってて胸糞悪くて仕方ないんだからさー。


 俺は今こう言ったのだ。

 魔力を使って新たな生命体を生み出しているのではなく、この世界に普通に生を受けたであろう誰かに、後天的に魔力による改造を施しているのだろうと。


 人工的に1から生命を作り出すよりも、既に存在している命を改造するほうがずっと簡単だろう。


 職業浸透だって結局は魔力によって引き起こされている現象なわけで、魔力が魂に定着すれば強くなれることは誰だって知っている常識だ。

 その延長線上で魔力を後天的に注入するという研究に行き着くのは、プロセス的にも矛盾が無い気がするんだよねぇ。


「ドワーフたちは自分たちの種族に絶望したらしいからね。だから別の種族に英雄を求めたんじゃないかな。例えば魔力を注がれる対象がエルフだったら、研究の開始時から今まで生きていてもおかしくないわけだし」

「……あ~。なんかこういうの久しぶりな気がするの~……。久しぶりにダンに心底ウンザリさせられちゃったの~……」

「そうは言っても、竜爵家の話とか普通に間違えまくってたからね。俺の話はあくまで俺の想像でしかないよ?」


 ぎゅーっと俺にしがみ付いてくるニーナをよしよしなでなでしながら、話半分に聞いて欲しいとお願いする。

 こんな想定、外れていた方がよっぽど救いがあるよ、まったく……。


「実際は人為的な魔力操作なんて行われていなくて、グルトヴェーダが不毛の地なのは自然現象だったりするかもしれないよ?」

「ダンの希望的観測って、今まで当たった試しが無いの~……。大体想定よりも酷い話になってる気がするの~……」

「それ俺のせいじゃないよねっ!? そこで俺にウンザリされても困るんですけどぉっ!?」


 俺の話なんて当てずっぽうもいいところだってば。言ってる俺自身が半信半疑だから。


 だけどグルトヴェーダの魔力の流れがおかしいのはティムルお姉さんが確認済みだし、ドワーフたちが何らかの研究を秘密裡に行なっているのも間違いないのだ。

 世界呪を生み出した時以上の魔力が運用されている可能性があるのだから、決して無理していい案件じゃない。


 なにより俺の想像通りだったとしたら、実験体になった人間が存在しているということだ。


 呪われていたニーナのように、偽りを背負わされたリュートのように、誰かの都合で運命を捻じ曲げられてしまった誰かがいるのだとしたら……。

 仕合わせの暴君としちゃあ、見逃すわけにはいかないよなぁ?
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