異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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6章 広がる世界と新たな疑問2 世界の果て

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「ドワーフの里クラメトーラには、ここから更に歩いて移動する必要があるんだ」


 カラソルさんと一緒にクラメトーラの端に転移した俺は、今回初めてここに来たニーナたちにクラメトーラのルールを簡単に説明する。

 既にクラマイルに行った事のある俺やカラソルさんは直接集落に転移しても問題は無いんだろうけど、ニーナ、ティムル、フラッタの3人は初めてクラマイルに訪れたわけだし、一応クラメトーラのルールに配慮してクラマイルの外に転移したのだ。


「ドワーフたちの住処はまだ先にしても……。なぁんにも無い場所なのー」

「こんな場所でも人は生きていけるものなのじゃなー……」


 クラメトーラを初めて訪れた3人は、物珍しそうに周囲をキョロキョロと見回している。

 厳密に言えば、ティムルは初めて訪れたワケじゃ無いんだろうけど。


 そんな3人の姿を愛でつつ、クラマイルの集落に向かいながらカラソルさんと雑談をする。


「へ~、ブルーメタルの加工実績は既にあるんだ? それはありがたいな。何も確認せずにブルーメタルを使おうとか考えちゃってたからね」

「ダンさんって、計画的なのか無計画なのか分かりにくいですね?」


 感心する俺にズバッと切り込むカラソルさん。

 カラソルさんも俺に対して大分遠慮が無くなってきてますね?


 自己評価では無計画ですよ。いつでも何でも行き当たりばったりです。


「ブルーメタルの加工はミスリルよりは容易だったはずですよ。工事に必要な量を考えれば、気休めみたいなものでしょうけど……」

「必要量が多いからこそ、ちょっとの差でも大きくなってくると思うけどねぇ。本人たちに話してみないことには始まらないけどさ」


 俺とカラソルさんで気を揉んでいても、結局は実際に働いてくれる人たち次第だ。

 長らく困窮していたクラマイルの人々なら、長期間に渡る仕事が舞い込んできたら歓迎してくれると思うけど……どうかな?


「あ、まだ遠いけど見えてきたね。あれが今回の目的地、クラマイルだよー」


 雑談しながら丘を越えると、遠目にも寂れたクラマイルの集落が目に入る。

 そこでちらりとティムルの様子を確認すると、なんだかピンと来ていないように首を傾げていた。


「んー。クラメトーラの雰囲気自体は覚えてるんだけど、クラマイルの集落には懐かしさを感じないわねぇ。当時の私って、クラクラットの周辺に住んでたのかしら?」

「自分が住んでいた場所が分からないって、そんなことあるものなの?」

「あはーっ。私が世間知らずだっただけかもしれないけどねーっ?」


 俺の問いにウィンクを返すティムルお姉さん。

 クラメトーラの地を訪れても、特に悪感情を抱いている様子はなさそうだ。


「えっとね? クラメトーラって魔物狩りも農業も出来ないから、子供の仕事って殆ど無いの」

「あ~。教会の孤児みたいに水汲みすることすら出来ないのかぁ……」

「その上、私はあまり外に出るのは許されてなかったからねー。自分の外の界を意識する機会って、殆ど無かったような気がするわぁ」

「あー。それ分かるのっ。私も庭の外に出ることが禁じられてたから、近くにあったはずの開拓村のことすら良く知らなかったのーっ」


 ティムルの言葉に、分かる分かるーと共感するニーナ。

 いやいや、ニーナはニーナでまた事情が違う気がするけどね?


 魔物狩りも農業もできない、なのに集落の外に出るのは禁止か。

 これも、先祖代々の土地だから~みたいな、何の意味も無い理由で決まってたことだったのかねぇ?


「話には聞いておったが凄まじいの。人里近くにすら草木1本生えておらぬのじゃ。こんな場所で生活するなど妾には考えられぬのぅ……」

「私も初めてここを訪れたときは衝撃でしたよ。聖域の樹海の暮らしも楽ではありませんでしたけれど、魔物すら出現しない地域があるとは夢にも思っておりませんでしたから」


 フラッタとヴァルゴが、クラメトーラでの生活の苛酷さに改めて舌を巻いている。


 ドロップアイテムも得られない。職業浸透も進まない。農業も出来ない。なんと水源すら無いんだよここ。

 割と深刻に、生物が生きられる環境じゃないんだよなぁ。


 魔物も出ない、農業も出来ないってことは、恐らくクラメトーラの大地には魔力が宿っていないってことになるだろう。

 クラマイルに到着する前に確かめておこうかな?


「ねぇティムル。熱視を使って周辺の魔力状況を確認してもらえるー?」

「了解よーっ。それじゃ私が熱視を発動している間、ダンはお姉さんのことをぎゅーっ! っとしてくれるぅ?」

「なにそれ!? わぁいぎゅーっとするーっ!」


 両手を広げるティムルに正面から抱きついて、お姉さんの視界を妨げないように頬ずり頬ずり。

 お願いしたらご褒美が返って来たんだけどーっ! お姉さん大好きーっ!


「あはーっ。いい子ねー? このままぎゅーっとしててくれたら、お姉さんも頑張れちゃうわーっ」


 抱きしめ返してきてくれるティムルの頬にキスをしながらも、青い瞳のティムルの横顔に見蕩れる俺。

 熱視発動中の碧眼ティムルは、わりと本気で女神感あると思うんだ。ちゅっちゅっ。


「んー、やっぱり予想通りこの周辺には殆ど魔力が……。いえ、違う……? 見え難いほどに微量だけど、魔力自体はちゃんと……」


 長閑な雰囲気だったティムルの顔が突然険しくなる。

 お姉さんの青い瞳には、いったい何が見えているんだろう?


 真剣な表情で周囲を見回しているティムルの邪魔をしないよう気をつけて、ティムルの後頭部を撫で続ける。


「……あまり熱視で色んな場所を見た事は無いから確信は無いんだけど……」


 未だキョロキョロと周囲を見回しながら、自信なさげに報告してくれるお姉さん。


「ダン……。やっぱりこの周辺の魔力の流れ、ちょっと変だと感じるわ……」

「魔力が無いんじゃなくて、魔力の流れがおかしいの?」

「そう、魔力自体はちゃんとあるみたいなの。だけどそれがずーっと同じ方向、クラマイルの奥の方に流れ続けている感じね」

「クラマイルの奥、ということは……」

「ええ。恐らくクラメトーラの中心である、クラクラットの方向だと思う……」


 んー、不穏な感じがしてきたねぇ。


 ノーリッテからの情報のせいでクラメトーラ方面はかなり不穏な雰囲気が漂っていたんだけど、ティムルお姉さんの熱視でも異常が確認されたならほぼ確定だろう。

 クラクラットでは現在進行形で、何か碌でもないことが行われているらしい。


 この世界において、魔力というのは万物の根源たるエネルギーだ。

 普通であれば自身に宿った魔力や装備品、マジックアイテムを通してしか利用できないはずの魔力を、何らかの方法で何かに利用している奴らが居るらしいな……?


 まぁ、何かって十中八九、人工生命体だろうねぇ……。

 大気中の魔力やアウターの魔力を人為的に利用する方法なんてちょっと突拍子も無いけど、ノーリッテが使ってきたマジックアイテムが、が可能であると既に実証してしまっているからな……。


「ありがとティムル。もう充分だよ。お疲れ様っ」


 ティムルにひと声かけて熱視を終了してもらう。

 今のティムルならずっと発動しっぱなしでも魔力枯渇は起きないかもしれないけど、たまに見る碧眼ティムルの破壊力は維持しておきたいからねっ!


 熱視が終了しても抱き会ったままの俺とティムルに、表情を引き締めたリーチェが小声で囁いてくる。


「……ダン。ティムルの熱視で何に気づいたの? あ、この声はカラソルさんには聞かせてないよ」

「いい判断だリーチェ。でも帰宅して家族揃ってから説明させてくれる? これは多分俺達が関わるべき案件だと思うから」

「ということは緊急性は感じていないんだね? 了解だよ、ちゅっ」


 離れ際に笑顔でキスしていくリーチェ。

 くっ……! リーチェを捕まえたいのにティムルを離したくないっ……!


「旦那様。私達を求めるのであれば早く用事を済ませましょう。ちゃんと用事を済ませたら、みんなでいーっぱいご褒美を差し上げますからねぇ……?」


 贅沢すぎる悩みに葛藤する俺の耳元に、甘い甘い爆弾を投下するヴァルゴ。

 くっそー! ヴァルゴも俺の扱いに慣れてきやがったなぁ! ありがとうございます!


 おっけい! やる気とか別のものとか色々漲ってきたよ! さっさと用事を終わらせてみんなでゴーホームしてベッドインだ!


「いつまでもこんなところに居られるかっ。俺は先に進むぞっ!」

「いやぁ、流石はうちの1番の常連客ですねぇ……」


 みんなとのやりとりでやる気を漲らせる俺に若干呆れ気味のカラソルさんを急かして、さっさとクラマイルに足を運ぶ。

 すると俺達に気付いたクラマイル側から、迎えのドワーフが急ぎ足で近づいてくるのが見えた。


「ようこそカラソルさん。本日来訪の予定は聞いておりませんでしたので、迎えが遅れて申し訳ない」

「いえいえ、皆様の歓迎に感謝しておりますよ。予定に無い訪問をした私のほうが悪いのですから、どうかお気になさらず」


 その予定外の訪問をさせた原因は俺です、サーセン。


 ミスリルの加工依頼とレインメイカーを齎したカラソルさんはクラマイルでは救世主扱いされている。

 始めは過度の歓待を遠慮していたカラソルさんだったけど、カラソルさんをもてなせないほうがクラマイルの住人は辛そうだった。


 なので今はカラソルさんも諦めて、クラマイルの人々の歓迎を素直に受けるようになっているのだ。


「ほぉっ! 新たな依頼ですか。本当にありがたいことです」


 迎えに来たドワーフと一緒に、クラマイルの集落に足を運ぶ。


 集落の中では子供達が元気に走り回っていて、お腹を空かして蹲っているような子供は見かけなくなっていた。

 水と食糧事情はちゃんと改善してくれているようだ。良かった良かった。


 まだまだ大変そうだけど、以前と比べて笑顔の人が増えているような気がするよ。


「ふむ。どうやら既に集まっているようですな」


 案内された広場のような場所には、既にクラマイルの各集落の代表が終結していた。

 どうやら移動の間にカラソルさんが、大口の依頼の話がしたいので各集落の代表を集めて欲しい、とお願いしていたようだ。


 数少ない冒険者が頑張って、各集落から代表者を引っ張ってきたようだ。お疲れ様です。


「それでは早速説明させていただきますね」


 カラソルさんが、ブルーメタルの大量加工依頼の事を説明する。

 その結果、カラソルさんに反発する者は殆どいなかった。


 困窮しているクラマイルでは長期間の依頼は歓迎すべきというムードで、ミスリルよりも加工が楽だというのも評価されたらしい。

 仮にミスリルの注文でも歓迎だったそうだけど。


「確かに膨大な量になるようですが、細かい成形が必要ないのも素晴らしい。問題なくお引き受けできるでしょう」


 カラソルさんの不安に反して、ドワーフたちはかなり乗り気だ。良かった良かった。


 今回クラマイルの皆さんにお願いするのは、鉄筋をイメージした細長いブルーメタル製の棒だ。

 加工してしまうとインベントリに収納できなくなってしまうので、鉄板タイプだと使いにくいからね。


 大型の馬車と言っても高が知れているこの世界。道自体は均すくらいで十分かもしれない。

 でも岩肌をぶち抜いたトンネルの補強は必須なので、そっちで使いやすいようにと考えてみたのだ。


 道の舗装に金属素材が使えるかどうかは、トンネルの補強が終わってから考えればいいだろ。


「ですが大量生産にあたって、今の環境では皆さんの身が持ちません。出来ればもう少し働きやすい環境を整えたいと思うのですが、素材の加工場に案内してはもらえませんか?」

「む……。お気持ちは大変ありがたいのですが……。その……」


 労働環境の改善を提案するカラソルさんに、クラマイルの人々の反応はいまいちだった。

 これは事前にカラソルさんも予想していたことで、困窮から自分達を救ってくれた独占技術を余所の者に見られたくないという心理から来る行動だそうだ。


 相手がお世話になっているカラソルさんであっても簡単には技術を明かさない、それがドワーフという種族なのだと。


「…………さ、作業中は加工場に入らないのであれば」

「おっ」


 誰も首を縦に振らないので、こりゃダメかなぁと思いかけたその時、1人のドワーフが手を挙げてくれた。


 なんでも加工場で何人も倒れてしまって、現在働いている人間も限界を超えて働いているらしい。

 この状況を何とかできるならと、技術の流出の可能性を飲み込んででも手を挙げてくれたのだ。


 そして1人が手を挙げると、実はうちの集落も……、という流れで4つほどの集落が環境改善を受け入れてくれた。


「はぁ~……。やっぱり限界だったんじゃない。これだからドワーフってぇ……」


 呆れたように深いため息を吐くティムル。

 溶岩を使った金属加工は、見栄など張っている余裕が無いほどに苛酷な現場なんだろうな。


 彼らの気が変わらないうちに、早速始めに声をあげてくれたドワーフのいる集落に赴き、金属加工の現場を確認する。


「おーっ! 岩山の中が真っ赤に燃えておるのじゃーっ!?」


 初めて見る溶岩に、フラッタがぴょんぴょん跳ねて興奮を表現している。クッソ可愛い。

 案内された洞窟の中には25メートルプールくらいの広さの溶岩湖があって、そこでミスリルの素材を熱しながら鎚で形を整えているようだ。


 働いている人はみんな汗だくで、交替で外に涼みに出ながら作業を進めている。

 ひと言で言って劣悪な環境に他ならない。改善不可避である。





「最近、ブレスが大工道具のように扱われている気がするのじゃーっ!」


 フラッタのツッコミの咆哮と共に、青い魔力が放たれる。


 手始めとして、フラッタがブレスを放って換気窓(穴)をいくつか空ける。

 そして作業場専用にレインメイカーを1つ設置し、水分補給を容易にした。


 更にヴァルゴのウルスラグナとフラッタのブレスでショートカットを作成、加工場と外との動線を短縮する。

 最後に加工場の近くに仕切り部屋を作ってエアコントローラーをセット。簡易的な休憩所を用意した。


「エアコントローラーとレインメイカーの分の魔玉は、毎日1つずつカラソルさんを通して支給するよ。水分補給と休憩をこまめに取れれば、倒れる人はかなり減らせるはずだ」

「加工依頼の報酬の一部に発光魔玉を組み込めば手っ取り早いわね。それと変に働き過ぎないように、1日の加工量の上限も設定しましょうか」


 ティムルと相談して、1日の生産限界も設定する。

 これ以上生産してもお金は払いませんよ、だから休んでくださいねってことだ。


 これでも働きたがるブラックドワーフなんざ、もう知らんわいっ。


「こんな感じでどうかなカラソルさん。作業する人達の肉体的負担はかなり軽減されると思うんだけど」

「どうかな? じゃないですよぉ……。竜人族のブレスで岩をぶち抜いたのはまだしも、なんでヴァルゴさんは槍で岩を貫いてるんですかぁ……?」


 言われてみれば、槍で岩を貫くのはちょっと非常識だったかな? まぁいいや。

 フラッター。ヴァルゴー。工事を任せちゃってごめんね。2人ともおつかれさまだよー。よしよしなでなで。ぎゅー。


「仰る通り、かなり快適な作業スペースになったんじゃないですかね……」


 頭を抱えるカラソルさんからもOKがもらえたので、残り3つの集落の加工場もさくさくっと改良してしまう。


「輸送路の工事現場を見て、このくらいは予想しておくべきだったのか……。私はなんて迂闊だったんだぁ……」


 何度やってもその度にカラソルさんは頭を抱えていたけど、飽きないんだろうか?


 作業していたドワーフたちは、これならもっともっと働けるぞーって騒いでいたけど、それじゃ環境を整えた意味無いからね?

 生産性とやる気が向上したのは歓迎するけど、ちゃんと休んでよ?


 ティムルも色んな意味で頑張り屋さんだし、ドワーフって種族的に休むのが下手なのかもしれない。

 でもルールを破ってまで自主的に働いて、その結果体調を崩すとか馬鹿馬鹿しいから止めてよね?


 さっ! 本日の用事も終わったことだし、カラソルさんを送ったら俺も頑張らないといけないなっ!

 みんな、今夜は絶対に寝かせてあげないよーっ。
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