異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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6章 広がる世界と新たな疑問2 世界の果て

410 視察 (改)

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「やってやる……。俺だってやってやる……!」


 俺に突っかかってきたティキは、もう俺の事は見ていなかった。

 まるでこの先にこそ自分の望む未来があるかのように、仮工事が済んだ道の先を鋭く睨みつけている。どうやら吹っ切れたみたいだね。




「準備も出来てるし、このまま出発しよう。ポータルが俺達の生命線だから、異常を感じたらすぐに知らせてくれ」


 トルカタが真剣な様子で反骨の気炎と薄明の瑞雲のメンバーと打ち合わせをしている。早速今から出発するようだ。

 試走なのでなるべく夜営で夜を過ごし、だけど休息の為に5日に1度街の宿で眠るという形を取ることにしたみたいだ。


 無事に走りきってさえくれれば、こっちから要望することは何もない。

 彼らがやりやすいようにやってくれればいいだろう。


 試走組が出発したことで、ようやくキャリアさんたちも我に返ったようだ。

 今回は復活するまでに大分時間がかかったねぇ。


「はぁ~……。ダンさんには何度もみっともない姿を見せちゃってるわねぇ。慣れたつもりなんだけど年寄りには刺激が強すぎるわぁ……」

「驚くのも無理ないですって……。この規模の道を更にブルーメタルで補強しようなんて言ってるんですよ? 正気の沙汰じゃありませんってば……」


 カラソルさん? キャリアさんに同意するのはいいけど、俺に対して大分失礼なこと言ってるってお気付きでないの?

 確かに常軌を逸した量のブルーメタルが必要になってくるのは認めるけど。


「えっと、私達のことは街の建設予定地にも案内してくれるんだよね? そこにもさっきみたいな小刻みの転移で向かうのかい?」

「いやいや、3人を短距離転移で案内する意味は無いでしょ。現地まで一気に転移するつもり」


 ライオネルさんに返答しつつ、せっかくの流れなので俺の構想も掻い摘んで説明していく。


 試走組の結果次第だけど、出来れば中継都市は1つか2つくらいに留めたいんだよね。

 1つ目の中継地点はグルトヴェーダ直前、山岳地帯の麓付近を予定していて、2つ目の中継地点は試走組の報告を聞いてから決めたいと思っている。


 1つ目の中継都市には、グルトヴェーダ手前の平地に農場を整備する予定で、ここをエルフに管理してもらいたい。

 なので各魔法士の転職魔法陣も1つ目の中継地点に設置予定だ。


 2つ目の中継地点はどうしても山岳地帯の中心部付近に建設しなければならないので、建設にはかなりの苦労が想定される。

 しかもマウントサーペントのような野生動物がいないとも限らないので、戦えない者を配置するのは非常に危険だ。


 距離的に2つ目の中継地点の建設は必須だと思うんだけど、建設の難易度が高くて現時点での見通しはほぼ立っていないことも正直に伝えた。


「ふむふむ。2つ目の中継都市はまだ未定で、今日は1つ目の中継都市の建設予定地を見に行くのね……」


 まだ何も決まっていない第2都市のことは忘れて、1つ目の街の建設に思考を巡らすキャリアさん。


「グルトヴェーダの手前ならヴィアバタから物資を輸送するのも比較的容易だと思うし、うちの商会でも協力できると思うわ。ということで早く見に行きたいわねっ」

「キャリアさんは凄いですね……。私はクラマイルの皆さんにどうやって依頼の説明をすればいいのかで頭がいっぱいですよぉ……。下手したら年単位で頑張ってもらわなきゃいけないじゃないですかぁ……」


 前向きなキャリアさんと、どんよりとした様子のカラソルさんが対照的だなぁ。

 実際年単位で頑張ってもらう可能性もあるから、作業環境の改善は必須かつ最優先事項だよ。


「ふ~む……。森と共に生きるエルフとしては少し辛い環境かもしれないな。許されるならある程度植林をさせてもらう事になるかもしれないが、構わないだろうか?」

「構わないけどほどほどにね? グルトヴェーダ全域を緑地化しようなんて言われても、俺には責任取れないからさ」


 ライオネルさんの提案には、ある程度理解を示しつつも釘を刺しておく。

 緑地化なんていいことしかないような気がするんだけど、地球の常識でこの世界を語るのは少々危険だろう。


 環境の変化に伴って新たな野生動物が生まれる可能性も否定出来ないし、余所から別の野生動物を呼び込んでしまう事にだってなりかねない。

 環境の変化はなるべく最低限で済ますべきだ。


 エルフェリアの森を消し飛ばしたり、山岳地帯をぶち抜いている俺が言えるセリフでもないんだけど?


「それじゃキャリアさんも待ちきれなさそうだし、早速次の現場に向かおっか」


 いつまでもここにいたって仕方ない。

 まずは現地を実際に見てもらわないと何も始まらないからな。


 話の続きは現地に言ってからと会話を打ち切って、みんなでグルトヴェーダ山岳地帯の入り口付近に転移した。


「これが山岳地帯グルトヴェーダ……。こんなに近くで見るのは初めてよ……」


 転移すると、目の前の険しい山岳地帯に唖然とするキャリアさんたち。

 見渡す限り荒涼とした岩山が連なる場所だけど、荘厳な雰囲気にはやっぱり圧倒されるよなぁ。


「私は子供の頃クラマイル側から良く見ていましたけど、やはり険しい場所ですよね。そんな岩山に大穴が空いているのが意味不明すぎますけど……」

「ふむ……。森を全く感じないね。このままではエルフが長期間滞在するのはかなり厳しい。やはりある程度緑地化を許してもらいたいかな」


 それぞれ思い思いの感想を口にする3人。

 そんな中で気になったのはライオネルさんの発言だ。


 ある程度の緑地化を進めるのは良いんだけど、出来れば平地側は農場として利用したいんだよなー。


「ってことで、緑地化を行うなら山岳地帯のほうでお願いしたいんだけど……。それで大丈夫?」

「勿論山側で構わないよ。生活圏の範囲に森があることが重要なんだ。立地はあまり関係がないからね」

「なら何も問題ないかな。この岩肌をどの程度緑地化できるかは分からないけど、必要な範囲なら遠慮せずにやっちゃってよ」

「こんな場所で農業やら植樹が本当に上手くいくのかしら? 上手く行けば最高の立地になりそうだけどねぇ……」


 キャリアさんが先行きに不安を覚えているけど、ソレは問題ないんじゃないかと思ってる。


 この世界で植物の生長に必要なのは、栄養よりも魔力の方だ。

 土の栄養がどの程度影響してくるのかはデータが無いけど、アウターの土をつっこめば農業でも林業でも余裕で成功すると思う。多分。


「ま、農業や植樹に関しては門外漢だからこれ以上は言わないわ」


 分からないことには余計な口出しをせず、専門家に丸投げね。

 俺って普段こんな感じに見られてるんだろうなぁ。


「ただ大規模な農場を整備する予定があるのなら、ここに建設する都市は予めある程度の規模のものを想定しておく必要があるわね……」

「それに加えて、魔法士系の転職魔法陣の設置も予定しているのであれば、人の出入りも激しくなる事が予想されるね。近くにアウターが無いから、魔物狩りは居付きにくいかもしれないけど」

「魔物狩りが居付きにくいのは少々懸念事項ですね。彼らは荒くれ者も多いですが、その存在だけでも街の治安維持にひと役買っている側面もありますから。魔物狩りが定着しない場所であるなら、警備隊のようなものを組織する必要があるでしょう」


 キャリアさん、ライオネルさん、カラソルさんの3人が、都市建設に向けた具体的な計画を相談し始める。

 初対面のはずのライオネルさんも、ベテラン商人2人に負けじと積極的に意見を交換しているみたいだ。


 しっかし警備隊ねぇ……。

 クリミナルワークスに頼みたいところだけど、彼らには運送業を頼んじゃってるからな。彼らにはそっちの方を優先してもらいたいんだよなぁ。


 実力的な面で言えばペネトレイターに頼むのが手っ取り早いけど、あまり彼らに頼りすぎるのも良くないだろう。

 俺が頼んだら二つ返事でやってくれそうだから、余計にね。


 住居と賃金を保証して、引退したがっている魔物狩りとかを誘致するのがいい気がするなぁ。

 安定した収入さえあれば、街から離れる必要のない仕事は人気が出るはずだ。妻子持ちならなおさらだろう。


「それじゃ具体的な都市計画は、シュパイン商会と夢の宿グループで協議して決めていいよ。ライオネルさんの植樹計画もキャリアさんたちに確認する形でお願い」


 アルフェッカもほぼ丸投げだったけど、それでも色々と大変だった。

 俺には都市建設計画なんて推し進められる気が全くしない。


 幸いにもキャリアさんたちはやる気満々なので、お任せできることは全て丸投げしてしまおう。

 下地は出来てるし出資だってするんだから、俺の仕事はもう充分のはず?


「……グルトヴェーダへの玄関口で、大規模な農場予定地で、ここにしかない転職魔法陣があって、エルフと間違いなく出会えるこの場所を、本当にあっさりと手放しちゃうんだから……。逆に恐怖を覚えちゃうわよぉ…」

「確かに、ダンさんの想定通りの都市が建設されれば、この場所にはどれほどの人と金が集まるか想像も出来ませんからね……。それをあっさり放棄するというのは、我々商売人にとっては本当に信じられません……」


 いやいや、だってこの輸送路だって別に俺が欲しくて作ってるわけじゃないしね? 執着する理由が無いんだよ?

 しかも硬貨からのアイテム生成が可能であることを知ってしまった今は、輸送路の優先度は思い切り下がっちゃってるんだよなー、俺の中で。


 それに2人と違って俺は商売人じゃないからね。お金なんて日々の生活に困らないだけあれば充分すぎるよ。


「宿り木の根と共に消失した地と、この不毛の地……。なんとなく通じるものがある気がするね。ここでの植樹活動は、エルフにとっても間違いなく有益なものとなるはずだ。精一杯やらせて貰うよ」

「農場の整備はある程度人が集まってからじゃないと出来ないだろうから、まずは植樹の準備を進めたほうが良さそうだね。アウターの土はある程度俺達で運搬するよ、その方が早いから」

「そうしてもらえると助かるよ。エルフたちは力が弱くて運搬は苦手だからね。行商人の浸透もまだ進んでないみたいだし」


 種族ごとの身体能力は竜人族がぶっちぎりで最強。次に瞬発力が獣人族、筋力でドワーフが続く。

 魔人族とエルフ族は身体能力は低めだけれど、他の種族と比べて魔力操作が得意だ。


 そしてそんなエルフや魔人族よりもぶっちぎりで脆弱で、ドワーフや獣人族よりも魔力操作がヘタクソなのが我等が人間族さんでーす。

 ちょうど竜人族を反転した形ですねっ! 繁殖もしやすいですし?


「建材に関しては聖域の樹海から引っ張って来れると思うけど、この場所での作業で最も警戒すべきは野生動物の存在だからね。建設工事に関わる者はみんなある程度戦えるようにしてもらえるか、非戦闘員を直ぐに避難させられる体制作りは整えて欲しいかな」

「王国の南端から北端まで木材を運搬するのだって大変なんですけど? でもダンさん達が野盗団を潰してくれたおかげで比較的安全なのかしらね。大変だけど時間さえかければ問題ないわけだし」

「野生動物に関しては本当に読めませんからね……。工事を始める前に緊急避難所のような頑強な建物を用意するのがいいかもしれません」


 なるほど、どうせブルーメタルの加工をお願いするわけだし、表面をブルーメタルで覆われたシェルターのような建物を1つ用意しておくのはいいもしれないな。

 屋上にも出られるようにしておけば、建物の外に出なくてもポータルで避難出来るようになるはずだ。


 う~ん……。どんどんクラマイルへ頼む仕事量が増えてしまうなぁ。

 金属素材の加工は彼らにしか出来ない専門的な技術だから仕方ないんだけど。


「それじゃ具体的な建設計画は3人で話し合って決めてくれる? 最終チェックは俺とティムルで行うけど、基本的には好きにしていいよ」


 この3人なら、私腹を肥やしたいなんて理由で滅多なことは行わないと信用できる。

 上昇志向の強いキャリアさんがちょっとだけ心配ではあるけれど、ここで俺達との信頼関係を損なうような詰まらない判断をする人ではないでしょ。


 現地での視察は一旦これで終わりにして、今日はこの場で解散する事になった。


「非常に刺激的な1日だったよ。これでまたエルフェリアに残る者が減りそうだっ」


 冒険者が浸透しているライオネルさんは、植樹する木の選定を急がないと、といそいそと転移していった。

 キャリアさんとカラソルさんはポータルが使用できないので、今日は俺達が送っていくことにした。




「お待ちしてました。お帰りなさいキャリア様」

「ただいま。集まってもらって悪かったわね。全員揃ってるかしら?」


 キャリアさんをマグエルの本店舗に送っていくと、そこには現シュパイン商会の経営陣である、ロジィの元妻たちが揃っていた。

 その中にはニーナやフラッタと同じくらいの年齢の子もいるようだ。


 以前ティムルが言っていたように、奴隷として購入されて間もない子も、全てキャリアさんに拾ってもらったってことなんだろうな。


「ダンさんから呼び出しがあった時点で全員に召集をかけておいたのよ。案の定商会全体で共有しないといけない案件なんだから参っちゃうわ、まったく……」


 ギラギラした目で困っちゃうとか言われても、全く説得力が無いんですけどぉ?


 集まったメンバーを良く観察してみると、若い女性はみんな、それぞれ別の年配の女性につき従っていることが分かった。研修中ってことかな?

 加えて、経営陣の中には男性も多少混じっているらしく、ロジィの元妻だけに拘るような真似はしていないようだった。


「さぁまた新しい大仕事が舞い込んできたわよぉ? ここがシュパイン商会の正念場だと思って気合入れなさい!」

「「はいっ!」」


 キャリアさんの激に素直に応じる若い人達と違って、キャリアさんと年齢が近そうな人達は、ここ最近ずっと正念場じゃん! どれだけ気合入れても足りないんですけど!? キャリアに際限なく仕事させるのやめてーっ! という小声の悲鳴が飛び交っているようだ?


 ……うん、皆さんには後で何か贈り物でもしておこう。キャリアさんに仕事振ってるの俺だからな。

 プリティリキッドかお菓子関係でいいかな? 服はサイズが分からないし。


「それじゃ私たちも行きましょう。仕事が仕事だけに、なるべく早く説明をしてしまわないと」


 シュパイン商会にキャリアさんを送った後は、依頼の話をしに行くためにカラソルさんと一緒にクラメトーラへと転移した。

 ポータルから出ると、ティムルがゆっくりと首を振って周囲の景色を確かめている。


「こんな場所、だったかもしれないわねぇ……。まさか生きているうちに、もう1度この場所に戻ってくる事になるなんて……」


 周囲を見回しながら懐かしげに呟くティムル。

 先日俺が魔力枯渇を起こした時には最後の山を越えなかったから、ティムルにはクラメトーラが視認できなかったんだっけ。


 落ち零れとか面汚しとか言われていたティムルは、故郷の地を見て今いったいなにを思っているんだろう?


 久しぶりに訪れたこの土地で、お姉さんには何が待ち受けているのかな。それが幸せなことだったのなら、俺も嬉しいんだけどねぇ。
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