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5章 王国に潜む悪意4 戦いの後
371 2度目の春 (改)
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「見て見てダンっ! 無事に咲いてくれたみたいなのっ!」
ニーナの満開の笑顔に迎えられて、この世界に訪れてから2度目の春が訪れる。
春になって我が家の庭にも沢山の花が咲き、激動の1年の終わりと新しい1年の始まりを祝福してくれているかのようだった。
たった独り、まだニーナにすら出会ってなくて、ステイルークで生活基盤を整えようとしていた去年の今頃と違い、今年は愛するみんなと心と肌を重ねながら、それぞれが色々なことを進めている。
まずはクラメトーラへの大規模輸送路建設なんだけど、思った以上に順調に進んでいる。
巨大で頑強な体を持つ竜王と、疲れ知らずのドラゴンサーヴァントたちによる工事の速度は目を見張るものがあり、木や岩を取り除き道を大雑把にならすだけとは言え、既に半分以上の行程を越えてしまっているようだ。
熟練の魔物狩りが徒歩で超えるのに数ヶ月かかると言われた、山岳地帯グルトヴェーダ。
しかしその記録と今の職業浸透の常識は、全く違う水準なんだろうね。
竜王たちは岩壁をブレスで貫通させたりすることも出来るし、そもそもミスリル武器でも傷が受けられなかった強度の骨で構成されているからなぁ。
最近はマジで重機にしか見えなくなってきたよ……。
「あはは……。最初は竜王を工事に使うなんてーって思ったけど、竜王がいなきゃ工事、全然進まなかったかもね……」
竜王のブレスですら1発で貫通出来ない岩山を見て、リーチェが引き攣った笑いを浮かべている。
グルトヴェーダの岩山は非常に固く、それが逆にトンネル工事を順調に進ませた。
ラトリアが地下訓練場の壁をぶち抜いたから、竜王のブレスなら岩山くらい余裕でぶち抜けるとは踏んでいたけど、心配なのは崩落の危険性だった。
けどトンネルが崩れるようなことは、今のところ1度も起きていない。
それでも勿論補強はしなきゃいけないけれど、硬い岩盤のおかげで逆に竜王の工事は捗ったのだった。
……1つだけ事件があったとすれば、グルトヴェーダの山深い所で全長100メートルを超える大蛇に襲われたことくらいか。
「まさかイントルーダーよりも巨大な生物が居るとは思いませんでしたよ……。強さ的にはイントルーダーのほうが遥かに上でしたけど」
大蛇の頭部に槍を突き立てたヴァルゴが、感心したように呟いた。
コイツも魔物ではなくて、野生動物だっていうから驚きだよ……。
ヴァルゴのダークブリンガーで頭を貫かれて即死したけど、どうやら大昔からグルトヴェーダに鎮座している蛇だったらしく、山肌を縫うように移動するその姿からマウントサーペントと呼ばれ、グルトヴェーダ越えの険しさにひと役買っていたらしい。
……切り刻んで小分けにし、クラマイルの人々にお届けしたら大層喜んでもらえたけど。
「やった……! 私だけ鑑定が出来なくて、ちょっと気になってたんですよねっ」
この1件でヴァルゴが料理人の職を得たので、ついでに我が家の畑の収穫を手伝い農家も獲得してもらった。
道路工事の合間を縫ってリーチェと共に奈落に向かい、職業浸透を進める。
リーチェは犯罪職の盗賊、殺人者、そして暗殺者を浸透させ、ヴァルゴは料理人、農家を浸透させてインベントリを最大サイズに拡張し、無事に分析官の浸透まで済ませることが出来た。
そうそう。職業浸透と言えば、なぜかいつの間にかティムルが篤志家の職業を得ていたようだ。
「休暇前には得てなかったはずだからぁ……。キャリア様のお手伝いをしている時に得たのかしら……? でも、なんでそれで?」
ティムルと確認してみると、職業を得たのはクラマイルにレインメイカーを設置した日だったらしい。
今回ティムルの開発したレインメイカーで100人規模の村落が8つほど救われた事になる。
そして俺達もティムルも対価を貰っていないわけだから、今回の件は慈善事業に近かったと言えるんじゃないだろうか?
え? リーチェ。毎回慈善事業みたいなものだって? 余計なことを言う口は塞いじゃうぞー? ちゅー。
……っと、篤志家の条件はハッキリとは分からないけれど、見返りを求めず沢山の人の運命を変える事が必要な感じだね。
「篤志家の先に浄化魔法があるのね? なら浸透させてしまいましょ。浄化魔法を使えるのがダンだけなのはちょっと心許無いからねー」
ティムルが篤志家を浸透させると、聖者と守護者の職業が追加されたのが確認できた。
つまり法王や救世主、勇者などの前提条件に篤志家の浸透が含まれているのは間違いないって事だ。
善人ほど困窮していたこの世界で浄化魔法が知られていない理由が、ちょっとだけ理解できた気がする。
ティムルは忙しい中でもしもの時のためにと、浄化魔法の習得の為に聖者だけは浸透を進めてくれた。
ヴィアバタの工事参加希望者は、今のところマグエルで職業浸透を進めている。
近くにアウターも無く、街自体も少し寂れてしまっていたヴィアバタの住民は、村人からの転職1回しか経験していない人が殆どだったので、戦士、商人、旅人、行商人の4つを浸透させて冒険者に転職するまでは、スポットで魔物狩りを続けてもらう事になった。
真面目に頑張れば、3ヶ月もせずに職業浸透を終わらせてヴィアバタで働けると告げたこともあって、参加者は老いも若きもやる気に満ち溢れていた。
「あはーっ。突然王国中で見かけるようになった魔人族の姿が話題になってるわねーっ」
ペネトレイターの世話を見るのはもうやめたので、彼らは転職の際にはスペルド王国に足を運ぶようになった。
今ではフォアーク神殿にも頻繁に魔人族が出入りするようになり、魔人族の存在が王国全土に認知され始めている。
守人の魔人族たちには既に付与術士すら現れ始めていて、聖域の樹海で取れる装備素材からミスリル装備も行き渡り始めているようだ。
「……へ? 受け取ってくれないの?」
実力的にもう充分だろうと、呼び水の鏡とついでに始界の王笏も管理してもらおうと思ったんだけど、なぜかここに来て逆に魔人族の方から受け取りを拒否されてしまった。
ノーリッテのような存在を知ってしまった守人たちは、自分たちの力不足をより深く痛感してしまったようだった。
……ということで、2つの神器は未だに俺のインベントリに収納されている。解せぬ。
成長著しい魔人族たちなんだけど、そんな彼らが熱心に探索しているのに聖域の樹海の最深部はまだ見つかっていない。
あそこってどれだけ広いのよ?
最深部を現す魔力壁も、劣化アウターエフェクト軍団にも出くわしていないようなので、最深部はまだまだ遠い遥か彼方にあるのかもしれない。
「最近師匠が活き活きしてるそうなんですよ。魔法に長けたエルフ族、身体能力に優れた竜人族と交流するのは刺激的だーなどと言っていまして……」
エルフェリアから引っ張り出したエルフ族たちは、マグエルとヴァルハールと魔人族の集落にそれぞれ自由に入ってもらって、職業浸透を進めてもらっている。
好奇心が強く、魔法士系の浸透が進んでいて、そして冒険者の数も多いエルフたちには、スペルド王国の各所を自由に見てもらったほうがいいと思ったからね。
エルフにも戦士、商人、旅人、行商人までの浸透は義務付けさせて、更にエルフには各種魔法士の転職魔法陣を管理しやすいように、それらの浸透もなるべく進めてもらうようにお願いした。
魔物狩りで汗を流したあと、各地の宿に消えていくエルフ族の姿が多数目撃されており、やっぱりエルフはエロフなんじゃないかと納得した。
まぁ魔法薬なんかに頼らず、自然に愛し合ってもらえるならそれが1番だろう。
人口の少ないエルフ族は、好色家の誕生も難しい気がするしねぇ。
「最近の忙しさには少々辟易させられるがの。この前向きな忙しさは心地良くもあるのじゃっ」
ヴァルハールでは、シルヴァの当主就任と5人の妻の貴族登録処理が直ぐに行われたおかげで、新当主夫妻の御披露目パーティと、前当主ゴルディアさんの葬儀の準備が急ピッチで進められている。
フラッタ、ラトリア、エマの3人はシルヴァの当主就任を喜びながら、ゴルディアさんをようやく弔うことが出来ると意気込んでいる。
ゴルディアさんが守ってくれたヴァルハールを時代に取り残させるわけにはいかないと、シルヴァは差別意識改革の一環として、エルフ族と魔人族を積極的に竜王のカタコンベに招待し始めた。
探索魔法士もそれなりに多いエルフ族と、ミスリル装備が行き渡り始めたペネトレイターたちにとって竜王のカタコンベは相性が良いアウターで、ヴァルハールの住人を追い越してどんどん攻略を進めていった。
「恵まれた己の肉体を過信するなっ! エルフ族の皆さんも魔人族の皆さんも、研鑽によって我ら竜人族より既に高みに至っている! 彼らを見習い自らを恥じよ! 彼らと手を取り合い、彼らから強さを学ぶのだっ!」
その結果を見せ付けてから、シルヴァは竜人族の選民意識が如何に愚かなものであるかを呼びかけ続けている。
その甲斐もあってか、ヴァルハールの酒場ではエルフと竜人と魔人が仲良く酒を酌み交わしていることも増えてきているとか。
開拓村改めアルフェッカの発展も順調で、最初に入村したファミリアとクリミナルワークスの参加者の教育も進んできた。
村の運営にシュパイン商会が手を貸す必要性も無くなってきたとかで、今度正式に領主が派遣されて来るそうだ。
「あれ? そう言えばスペルド王国……って言うかこの世界の貴族制度ってどうなってるの? 領主は貴族なんだよね? 爵位持ちって竜爵家と獣爵家しか聞いたことない気がするんだけど」
「スペルド王国の貴族家は、王家を頂点に竜爵家と獣爵家が存在していて、他の貴族家には爵位みたいなものは無いんだ」
流石にスペルディア王家と交流を義務付けられていただけあって、今更過ぎる俺の疑問にリーチェがすらすらと答えてくれた。
「この国の貴族の殆どはスペルディア王家、ソクトルーナ竜爵家、グラフィム獣爵家の分家筋で、それぞれ爵位は与えられずに家名と領地を与えられている感じだねー」
ソクトヴェルナとかフトークとかカザラフトとか、家名が貴族の証明だと思えばいいよーと、俺が今まで関わってきた貴族の名前を例に出してくれるおかげで分かりやすい。
そもそもの人口が大したことが無いので、貴族家の数もそんなに多くないわけか。
そして人口が少ないし、レガリアが嫌がらせを続けていたこともあって大規模な戦争みたいなことも起こらず、新しい爵位が作られることもなかったと。
新しい領地もなかなか増えないので、新しい貴族が生まれることも珍しいらしく、だからこそ新興の貴族家というのは大変に名誉なことなんだそうだ。
……これを聞いてしまうと、ラトリアがあそこまで食い下がった理由も少し理解できてしまう。
この世界での叙爵されるということは、俺が想像していたよりもずっと価値のあるものだったのかもしれない。
……うん。これはラトリアにちゃんと謝っておかないとフェアじゃないな。
思い立ったら直ぐ行動だ。
「ラトリア。この世界の貴族制度のことをリーチェに説明してもらったんだけど、何も知らずにラトリアを一方的に責めた事はフェアじゃなかったと思う。済まなかった」
「いやぁ……。あの時のことは我ながら暴走しちゃってたなぁと思いますよ……」
改めて頭を下げる俺に対して、あの時のことは自分も反省していますと、ラトリアも少し居心地が悪そうにしている。
「ニーナの呪いの件があるから、登城を強いてきたお前を責めたのは間違ってなかったと思うけど、それでもラトリアの想いを全く考慮せずに頭ごなしに否定したのは、本当に申し訳なかった……!」
「……私は王国貴族だから、叙爵が如何に名誉なことであるか理解していたわけですけど、貴族教育を受けていない人にその価値が伝わらないのは当然でした。ましてやダンさんは別の世界からきていたわけですからねぇ」
お互いにごめんなさいと謝ってから、仲直りのキスをする。
あの時断らなければ、竜爵家と獣爵家に告ぐ新たな爵位が誕生していて、スペルド王国史に俺の名前が残るところだったかもしれない。
……ラトリアには申し訳ないけど、断って良かったと心から思ってしまうな。
「……忘れてたけど、あの時ラトリアに宣誓させた誓約ってまだ残ってる? もし残ってたらごめん。破棄していいからね?」
「あら? ダンさん知らなかったんです? 次の日に愛してくれた時にはあの誓約は消えてましたよ。私はてっきりダンさんが許してくれたのかと思ってたんですけど……。無意識に受け入れてくれたんですかね」
あ、消えていたんなら良かったんだよ。
ニーナもリーチェもステータスプレートに縛られていたっていうのに、俺自身が誰かを縛りつけ続けていたんだったら本末転倒だからさ。
あの時は怖がらせて申し訳なかったけど、そのあとの登城で俺達を庇ってくれたラトリアは最高にかっこよかったよ。
あの時の経験のおかげで、フラッタやエマに素直に相談できるようになったんですよと、最高に魅力的に微笑むラトリアの中に、お詫びと感謝と大好きな気持ちを注ぎ続けた。
そうこうしているうちに、とうとうシルヴァの竜爵家当主就任のお披露目の日程が決まった。
1日目は王国貴族とヴァルハールの住人に向けた、ある意味公務の意味合いが強いお披露目パーティが開催される。
ここにはフラッタたちは参加するけど、ヴァルハール組以外の家族は参加しない。
竜人族向けの公式な場に近いため、他種族の俺達がお邪魔するとシルヴァに迷惑がかかりそうだからね。
その次の日に身内向けのささやかなお祝いと、そしてゴルディアさんの葬儀を執り行う事になった。
お祝いと弔いは別にしたほうがいいんじゃないかと思うんだけど、戦士として戦場で散ったゴルディアさんには同情や悲しみを贈って欲しくはないのだそうだ。
竜人族独自の死生観なのかもしれない。
「ダンさんにも、ぜひ立ち会って欲しいんです。ディアにダンさんの事を紹介するのは少し複雑ですけど、優しいあの人ならきっと喜んでくれますから……」
シルヴァやフラッタと共に、うちの家族からは俺だけがゴルディアさんの弔いにも参加する事になった。
俺も他のみんなもゴルディアさんと面識は無いけど、俺はフラッタとラトリアを娶ってるから身内扱いなのだそうだ。
シルヴァとヴァルハール組はお披露目パーティに向けて、毎日忙しそうに動き回っている。
「さぁダン! 約束通りお姉さんに付き合ってもらうわよーっ!」
ティムルお姉さんの開発……、もといティムルの新技開発にも着手する。
そもそもティムルの開発は既に完璧だ。もうどこに触れても最高に気持ちいいし最高に気持ち良くなってくれる。これ以上に開発など必要ない。
必要は無いけど、生涯をかけて開発は続けていく所存ですっ。
「ドワーフ族の種族特性は熱視。これを他の種族みたいに火力に応用するのは難しいよねぇ。ってことでやっぱり雑魚種族の人間族さんである俺みたいに、絶空とかのウェポンスキルを応用していくのがいいと思うんだよ」
ドラゴンインフェルノみたいな例もあるし、ウェポンスキルにはまだまだ色んな可能性があると思うんだ。
以前ティムルは新しい武器の扱いを覚えるのは大変だって言ってたけど、俺達は全員インベントリ持ちなんだからリーチェみたいに状況で武器を持ち替える事も簡単だ。
ということで火力に特化した武器とスキルをワンポイント起用するのがいいと思うんだよ。俺が変則的な双剣でヴァンダライズを発動するみたいにさ。
「ワンポイント起用ねぇ……。それなら本当に火力に全振りして……、いっそ斧でも使おうかしら? ちょうど他の誰も使ってない武器だし」
「うん。それもいいんじゃないかなー」
ドワーフ族は筋力に優れた種族だし、必殺技を放つだけの斧なら習熟もそこまで大変じゃないだろう。
何より斧は打撃と斬撃、どちらのウェポンスキルも付与することが出来る。必殺技の欲しいティムルに絶空は最適だ。
用意する武器種が決まったので、早速ティムルが武器生成を使用する。
「抗い、戦い、祓い、貫け。力の片鱗。想いの結晶。顕現。グランドドラゴンアクス」
ティムルが素材に選択したのは地竜玉。地竜が落とすと言われているレアドロップだ。
地竜なんて見たことないけど、ドレイクさんが落としてくれたのでまだまだインベントリに沢山ある。
付与されていたスキルは絶岩壁というスキルで、ウェポンスキルなのに強固な壁を広範囲に発生させるという防御スキルだった。
……まぁ例によって、直ぐにスキル合成させましたけどね?
絶岩壁を合成させた結果、竜鱗甲光という新たなウェポンスキルに進化した。
どうやら魔法、物理の両方に強い耐性を持つ魔法障壁を、自身を中心とした15メートルくらいの範囲に展開できる、かなり強力な防御スキルのようだった。
「う、う~ん……。必殺技が欲しかったのに、防御スキルを獲得しちゃったわよぉ……。これもかなり強力なスキルだから使わない手は無いんだけどぉ……」
「まぁまぁお姉さん。攻撃スキルは絶空を付与すればいいだけだよ。せっかくだから俺が付与してもいいかな?」
どうぞとティムルに手渡された、槍のように2メートルくらいはありそうな長柄の先端に片刃の斧が付いたデザインの、茶色く巨大な斧を受け取る。
……職業補正が無かったら受け取れなかったな、きっと。
さて、普通に絶空を付与しても良いんだけど、それだとせっかく斧を用意した意味が薄いよな。
斧の特性である、打撃と斬撃両方のウェポンスキルが付与できることを上手く活かしたい。
だけど、既に固有スキルが1つ付いているグランドドラゴンアクスに、複数のスキルを気軽に付与するのはいただけないだろう。
となると、やっぱり着手してみますかね? オリジナルスキル開発にっ!
「ん~? ダン、絶空を付与するんじゃないのぉ? 何を迷ってるのかしらぁ?」
可愛いお姉さんの問いかけも耳に入らないくらいに考え込む俺。
まず、絶空は必須だ。一撃必殺の攻撃手段が欲しいんだから絶空の魔力チャージが無いと始まらない。魔力視を持つティムルには、魔法を絶てる断空も有用だろう。
この2つの能力は、出来れば1つに混ぜ込みたいところだな。
打撃スキルは物理インパクトノヴァの剛震撃と、物理クルセイドロアの波状槌の2種類か。
剛震撃はフラッタと被っちゃうけれど、ティムルには叫喚静刻という凶悪な範囲攻撃スキルが既にある。
ここは単体火力を重視すべきだろうね。
「……ダン? お姉さんの顔に何かついてるのかしらぁ?」
まったく、毎日見てるのに、相変わらずティムルお姉さんは美人だなぁ。
頭にはてなマークが浮かんでいるティムルの顔を見詰めながら、3つのスキルジュエルを混ぜ込むイメージを膨らませていく。
さて、俺はティムルにどんなイメージを抱いているんだろうか?
「紡ぎ合わせ、組み立て創れ。秘蹟の証明。想いの結晶。顕現。スキルジュエル」
「へ? それってスキル付与じゃ……」
魔力をチャージ出来て魔法を斬る事も出来る、一撃必殺のティムル専用のウェポンスキル。
それを目の前のきょとんとした顔をしている最高に可愛いお姉さんのイメージと重ね合わせていく。
俺がティムルに抱いているイメージは、その真っ黒な肌と積極的な寝室のイメージからして『夜』だ。
思えば初めて出会ったのもアッチンでの夕食時……、まぁ厳密に言えばその前の野営地なんだけど。それからティムルとはずっと夕食を共にする関係だった。
我が家に迎え入れてからは夕食の他に寝室も共にする関係になったけど、お先真っ暗だった俺とニーナの生活をいつも月のように導いてくれたティムルお姉さん。
……うん。失敗する気がしない。きっと完成するよ、
ティムルにふさわしい、ティムル専用のスキルジュエルが。
俺の確信を証明するかのように、アイテム生成のスキル光が収まっていく。
断空、絶空、剛震撃のスキルジュエルと俺の魔力の大半を消費して完成したのは、『朧逆月』というウェポンスキルのスキルジュエルだった。
そしてそのまま何も考えずに、グランドドラゴンアクスに朧逆月を付与してあげる。
「……ダン? 貴方が持ってた3つのスキルジュエルはどうなったのぉ……? なぁんで全く見覚えの無いスキルが1つ完成してるのか、お姉さんに詳しく説明してもらえるかしらぁ?」
挑発的な微笑を浮かべながら、俺の首に両腕を回してくるティムルお姉さん。
あれ? なんか微妙に怒ってません? 何も悪いことしてないよ?
え? 心臓に悪かったって? それに驚きと嬉しさで興奮が収まらない?
あっあっ、そんな激しく舌を吸ったら我慢出来なくなっちゃうよぉ。
まだ夜じゃないのにっ。さっきティムルは夜のイメージって言ったばかりなのにっ。明るいうちから蹂躙されちゃうのぉっ! お姉さん大好きーっ!
グランドドラゴンアクス
竜鱗甲光 朧逆月 魔法妨害+ 物理攻撃力上昇+ 魔力吸収+
獲物を捕食する猛獣のような勢いのティムルに散々搾り取られたあと、完成した武器はこちらになります。
一撃必殺用の武器に魔力吸収は必要無いかなとも思ったんだけど、その1撃で魔力を吸収できれば魔力枯渇を軽減できるかもしれないからね。
世界呪を滅ぼした時にもティムルが元気でいてくれて助かったわけだし。
ヴァンダライズを発動した俺が深刻な魔力枯渇に陥ったことを考えると……、期待は薄いかなぁ?
ニーナの満開の笑顔に迎えられて、この世界に訪れてから2度目の春が訪れる。
春になって我が家の庭にも沢山の花が咲き、激動の1年の終わりと新しい1年の始まりを祝福してくれているかのようだった。
たった独り、まだニーナにすら出会ってなくて、ステイルークで生活基盤を整えようとしていた去年の今頃と違い、今年は愛するみんなと心と肌を重ねながら、それぞれが色々なことを進めている。
まずはクラメトーラへの大規模輸送路建設なんだけど、思った以上に順調に進んでいる。
巨大で頑強な体を持つ竜王と、疲れ知らずのドラゴンサーヴァントたちによる工事の速度は目を見張るものがあり、木や岩を取り除き道を大雑把にならすだけとは言え、既に半分以上の行程を越えてしまっているようだ。
熟練の魔物狩りが徒歩で超えるのに数ヶ月かかると言われた、山岳地帯グルトヴェーダ。
しかしその記録と今の職業浸透の常識は、全く違う水準なんだろうね。
竜王たちは岩壁をブレスで貫通させたりすることも出来るし、そもそもミスリル武器でも傷が受けられなかった強度の骨で構成されているからなぁ。
最近はマジで重機にしか見えなくなってきたよ……。
「あはは……。最初は竜王を工事に使うなんてーって思ったけど、竜王がいなきゃ工事、全然進まなかったかもね……」
竜王のブレスですら1発で貫通出来ない岩山を見て、リーチェが引き攣った笑いを浮かべている。
グルトヴェーダの岩山は非常に固く、それが逆にトンネル工事を順調に進ませた。
ラトリアが地下訓練場の壁をぶち抜いたから、竜王のブレスなら岩山くらい余裕でぶち抜けるとは踏んでいたけど、心配なのは崩落の危険性だった。
けどトンネルが崩れるようなことは、今のところ1度も起きていない。
それでも勿論補強はしなきゃいけないけれど、硬い岩盤のおかげで逆に竜王の工事は捗ったのだった。
……1つだけ事件があったとすれば、グルトヴェーダの山深い所で全長100メートルを超える大蛇に襲われたことくらいか。
「まさかイントルーダーよりも巨大な生物が居るとは思いませんでしたよ……。強さ的にはイントルーダーのほうが遥かに上でしたけど」
大蛇の頭部に槍を突き立てたヴァルゴが、感心したように呟いた。
コイツも魔物ではなくて、野生動物だっていうから驚きだよ……。
ヴァルゴのダークブリンガーで頭を貫かれて即死したけど、どうやら大昔からグルトヴェーダに鎮座している蛇だったらしく、山肌を縫うように移動するその姿からマウントサーペントと呼ばれ、グルトヴェーダ越えの険しさにひと役買っていたらしい。
……切り刻んで小分けにし、クラマイルの人々にお届けしたら大層喜んでもらえたけど。
「やった……! 私だけ鑑定が出来なくて、ちょっと気になってたんですよねっ」
この1件でヴァルゴが料理人の職を得たので、ついでに我が家の畑の収穫を手伝い農家も獲得してもらった。
道路工事の合間を縫ってリーチェと共に奈落に向かい、職業浸透を進める。
リーチェは犯罪職の盗賊、殺人者、そして暗殺者を浸透させ、ヴァルゴは料理人、農家を浸透させてインベントリを最大サイズに拡張し、無事に分析官の浸透まで済ませることが出来た。
そうそう。職業浸透と言えば、なぜかいつの間にかティムルが篤志家の職業を得ていたようだ。
「休暇前には得てなかったはずだからぁ……。キャリア様のお手伝いをしている時に得たのかしら……? でも、なんでそれで?」
ティムルと確認してみると、職業を得たのはクラマイルにレインメイカーを設置した日だったらしい。
今回ティムルの開発したレインメイカーで100人規模の村落が8つほど救われた事になる。
そして俺達もティムルも対価を貰っていないわけだから、今回の件は慈善事業に近かったと言えるんじゃないだろうか?
え? リーチェ。毎回慈善事業みたいなものだって? 余計なことを言う口は塞いじゃうぞー? ちゅー。
……っと、篤志家の条件はハッキリとは分からないけれど、見返りを求めず沢山の人の運命を変える事が必要な感じだね。
「篤志家の先に浄化魔法があるのね? なら浸透させてしまいましょ。浄化魔法を使えるのがダンだけなのはちょっと心許無いからねー」
ティムルが篤志家を浸透させると、聖者と守護者の職業が追加されたのが確認できた。
つまり法王や救世主、勇者などの前提条件に篤志家の浸透が含まれているのは間違いないって事だ。
善人ほど困窮していたこの世界で浄化魔法が知られていない理由が、ちょっとだけ理解できた気がする。
ティムルは忙しい中でもしもの時のためにと、浄化魔法の習得の為に聖者だけは浸透を進めてくれた。
ヴィアバタの工事参加希望者は、今のところマグエルで職業浸透を進めている。
近くにアウターも無く、街自体も少し寂れてしまっていたヴィアバタの住民は、村人からの転職1回しか経験していない人が殆どだったので、戦士、商人、旅人、行商人の4つを浸透させて冒険者に転職するまでは、スポットで魔物狩りを続けてもらう事になった。
真面目に頑張れば、3ヶ月もせずに職業浸透を終わらせてヴィアバタで働けると告げたこともあって、参加者は老いも若きもやる気に満ち溢れていた。
「あはーっ。突然王国中で見かけるようになった魔人族の姿が話題になってるわねーっ」
ペネトレイターの世話を見るのはもうやめたので、彼らは転職の際にはスペルド王国に足を運ぶようになった。
今ではフォアーク神殿にも頻繁に魔人族が出入りするようになり、魔人族の存在が王国全土に認知され始めている。
守人の魔人族たちには既に付与術士すら現れ始めていて、聖域の樹海で取れる装備素材からミスリル装備も行き渡り始めているようだ。
「……へ? 受け取ってくれないの?」
実力的にもう充分だろうと、呼び水の鏡とついでに始界の王笏も管理してもらおうと思ったんだけど、なぜかここに来て逆に魔人族の方から受け取りを拒否されてしまった。
ノーリッテのような存在を知ってしまった守人たちは、自分たちの力不足をより深く痛感してしまったようだった。
……ということで、2つの神器は未だに俺のインベントリに収納されている。解せぬ。
成長著しい魔人族たちなんだけど、そんな彼らが熱心に探索しているのに聖域の樹海の最深部はまだ見つかっていない。
あそこってどれだけ広いのよ?
最深部を現す魔力壁も、劣化アウターエフェクト軍団にも出くわしていないようなので、最深部はまだまだ遠い遥か彼方にあるのかもしれない。
「最近師匠が活き活きしてるそうなんですよ。魔法に長けたエルフ族、身体能力に優れた竜人族と交流するのは刺激的だーなどと言っていまして……」
エルフェリアから引っ張り出したエルフ族たちは、マグエルとヴァルハールと魔人族の集落にそれぞれ自由に入ってもらって、職業浸透を進めてもらっている。
好奇心が強く、魔法士系の浸透が進んでいて、そして冒険者の数も多いエルフたちには、スペルド王国の各所を自由に見てもらったほうがいいと思ったからね。
エルフにも戦士、商人、旅人、行商人までの浸透は義務付けさせて、更にエルフには各種魔法士の転職魔法陣を管理しやすいように、それらの浸透もなるべく進めてもらうようにお願いした。
魔物狩りで汗を流したあと、各地の宿に消えていくエルフ族の姿が多数目撃されており、やっぱりエルフはエロフなんじゃないかと納得した。
まぁ魔法薬なんかに頼らず、自然に愛し合ってもらえるならそれが1番だろう。
人口の少ないエルフ族は、好色家の誕生も難しい気がするしねぇ。
「最近の忙しさには少々辟易させられるがの。この前向きな忙しさは心地良くもあるのじゃっ」
ヴァルハールでは、シルヴァの当主就任と5人の妻の貴族登録処理が直ぐに行われたおかげで、新当主夫妻の御披露目パーティと、前当主ゴルディアさんの葬儀の準備が急ピッチで進められている。
フラッタ、ラトリア、エマの3人はシルヴァの当主就任を喜びながら、ゴルディアさんをようやく弔うことが出来ると意気込んでいる。
ゴルディアさんが守ってくれたヴァルハールを時代に取り残させるわけにはいかないと、シルヴァは差別意識改革の一環として、エルフ族と魔人族を積極的に竜王のカタコンベに招待し始めた。
探索魔法士もそれなりに多いエルフ族と、ミスリル装備が行き渡り始めたペネトレイターたちにとって竜王のカタコンベは相性が良いアウターで、ヴァルハールの住人を追い越してどんどん攻略を進めていった。
「恵まれた己の肉体を過信するなっ! エルフ族の皆さんも魔人族の皆さんも、研鑽によって我ら竜人族より既に高みに至っている! 彼らを見習い自らを恥じよ! 彼らと手を取り合い、彼らから強さを学ぶのだっ!」
その結果を見せ付けてから、シルヴァは竜人族の選民意識が如何に愚かなものであるかを呼びかけ続けている。
その甲斐もあってか、ヴァルハールの酒場ではエルフと竜人と魔人が仲良く酒を酌み交わしていることも増えてきているとか。
開拓村改めアルフェッカの発展も順調で、最初に入村したファミリアとクリミナルワークスの参加者の教育も進んできた。
村の運営にシュパイン商会が手を貸す必要性も無くなってきたとかで、今度正式に領主が派遣されて来るそうだ。
「あれ? そう言えばスペルド王国……って言うかこの世界の貴族制度ってどうなってるの? 領主は貴族なんだよね? 爵位持ちって竜爵家と獣爵家しか聞いたことない気がするんだけど」
「スペルド王国の貴族家は、王家を頂点に竜爵家と獣爵家が存在していて、他の貴族家には爵位みたいなものは無いんだ」
流石にスペルディア王家と交流を義務付けられていただけあって、今更過ぎる俺の疑問にリーチェがすらすらと答えてくれた。
「この国の貴族の殆どはスペルディア王家、ソクトルーナ竜爵家、グラフィム獣爵家の分家筋で、それぞれ爵位は与えられずに家名と領地を与えられている感じだねー」
ソクトヴェルナとかフトークとかカザラフトとか、家名が貴族の証明だと思えばいいよーと、俺が今まで関わってきた貴族の名前を例に出してくれるおかげで分かりやすい。
そもそもの人口が大したことが無いので、貴族家の数もそんなに多くないわけか。
そして人口が少ないし、レガリアが嫌がらせを続けていたこともあって大規模な戦争みたいなことも起こらず、新しい爵位が作られることもなかったと。
新しい領地もなかなか増えないので、新しい貴族が生まれることも珍しいらしく、だからこそ新興の貴族家というのは大変に名誉なことなんだそうだ。
……これを聞いてしまうと、ラトリアがあそこまで食い下がった理由も少し理解できてしまう。
この世界での叙爵されるということは、俺が想像していたよりもずっと価値のあるものだったのかもしれない。
……うん。これはラトリアにちゃんと謝っておかないとフェアじゃないな。
思い立ったら直ぐ行動だ。
「ラトリア。この世界の貴族制度のことをリーチェに説明してもらったんだけど、何も知らずにラトリアを一方的に責めた事はフェアじゃなかったと思う。済まなかった」
「いやぁ……。あの時のことは我ながら暴走しちゃってたなぁと思いますよ……」
改めて頭を下げる俺に対して、あの時のことは自分も反省していますと、ラトリアも少し居心地が悪そうにしている。
「ニーナの呪いの件があるから、登城を強いてきたお前を責めたのは間違ってなかったと思うけど、それでもラトリアの想いを全く考慮せずに頭ごなしに否定したのは、本当に申し訳なかった……!」
「……私は王国貴族だから、叙爵が如何に名誉なことであるか理解していたわけですけど、貴族教育を受けていない人にその価値が伝わらないのは当然でした。ましてやダンさんは別の世界からきていたわけですからねぇ」
お互いにごめんなさいと謝ってから、仲直りのキスをする。
あの時断らなければ、竜爵家と獣爵家に告ぐ新たな爵位が誕生していて、スペルド王国史に俺の名前が残るところだったかもしれない。
……ラトリアには申し訳ないけど、断って良かったと心から思ってしまうな。
「……忘れてたけど、あの時ラトリアに宣誓させた誓約ってまだ残ってる? もし残ってたらごめん。破棄していいからね?」
「あら? ダンさん知らなかったんです? 次の日に愛してくれた時にはあの誓約は消えてましたよ。私はてっきりダンさんが許してくれたのかと思ってたんですけど……。無意識に受け入れてくれたんですかね」
あ、消えていたんなら良かったんだよ。
ニーナもリーチェもステータスプレートに縛られていたっていうのに、俺自身が誰かを縛りつけ続けていたんだったら本末転倒だからさ。
あの時は怖がらせて申し訳なかったけど、そのあとの登城で俺達を庇ってくれたラトリアは最高にかっこよかったよ。
あの時の経験のおかげで、フラッタやエマに素直に相談できるようになったんですよと、最高に魅力的に微笑むラトリアの中に、お詫びと感謝と大好きな気持ちを注ぎ続けた。
そうこうしているうちに、とうとうシルヴァの竜爵家当主就任のお披露目の日程が決まった。
1日目は王国貴族とヴァルハールの住人に向けた、ある意味公務の意味合いが強いお披露目パーティが開催される。
ここにはフラッタたちは参加するけど、ヴァルハール組以外の家族は参加しない。
竜人族向けの公式な場に近いため、他種族の俺達がお邪魔するとシルヴァに迷惑がかかりそうだからね。
その次の日に身内向けのささやかなお祝いと、そしてゴルディアさんの葬儀を執り行う事になった。
お祝いと弔いは別にしたほうがいいんじゃないかと思うんだけど、戦士として戦場で散ったゴルディアさんには同情や悲しみを贈って欲しくはないのだそうだ。
竜人族独自の死生観なのかもしれない。
「ダンさんにも、ぜひ立ち会って欲しいんです。ディアにダンさんの事を紹介するのは少し複雑ですけど、優しいあの人ならきっと喜んでくれますから……」
シルヴァやフラッタと共に、うちの家族からは俺だけがゴルディアさんの弔いにも参加する事になった。
俺も他のみんなもゴルディアさんと面識は無いけど、俺はフラッタとラトリアを娶ってるから身内扱いなのだそうだ。
シルヴァとヴァルハール組はお披露目パーティに向けて、毎日忙しそうに動き回っている。
「さぁダン! 約束通りお姉さんに付き合ってもらうわよーっ!」
ティムルお姉さんの開発……、もといティムルの新技開発にも着手する。
そもそもティムルの開発は既に完璧だ。もうどこに触れても最高に気持ちいいし最高に気持ち良くなってくれる。これ以上に開発など必要ない。
必要は無いけど、生涯をかけて開発は続けていく所存ですっ。
「ドワーフ族の種族特性は熱視。これを他の種族みたいに火力に応用するのは難しいよねぇ。ってことでやっぱり雑魚種族の人間族さんである俺みたいに、絶空とかのウェポンスキルを応用していくのがいいと思うんだよ」
ドラゴンインフェルノみたいな例もあるし、ウェポンスキルにはまだまだ色んな可能性があると思うんだ。
以前ティムルは新しい武器の扱いを覚えるのは大変だって言ってたけど、俺達は全員インベントリ持ちなんだからリーチェみたいに状況で武器を持ち替える事も簡単だ。
ということで火力に特化した武器とスキルをワンポイント起用するのがいいと思うんだよ。俺が変則的な双剣でヴァンダライズを発動するみたいにさ。
「ワンポイント起用ねぇ……。それなら本当に火力に全振りして……、いっそ斧でも使おうかしら? ちょうど他の誰も使ってない武器だし」
「うん。それもいいんじゃないかなー」
ドワーフ族は筋力に優れた種族だし、必殺技を放つだけの斧なら習熟もそこまで大変じゃないだろう。
何より斧は打撃と斬撃、どちらのウェポンスキルも付与することが出来る。必殺技の欲しいティムルに絶空は最適だ。
用意する武器種が決まったので、早速ティムルが武器生成を使用する。
「抗い、戦い、祓い、貫け。力の片鱗。想いの結晶。顕現。グランドドラゴンアクス」
ティムルが素材に選択したのは地竜玉。地竜が落とすと言われているレアドロップだ。
地竜なんて見たことないけど、ドレイクさんが落としてくれたのでまだまだインベントリに沢山ある。
付与されていたスキルは絶岩壁というスキルで、ウェポンスキルなのに強固な壁を広範囲に発生させるという防御スキルだった。
……まぁ例によって、直ぐにスキル合成させましたけどね?
絶岩壁を合成させた結果、竜鱗甲光という新たなウェポンスキルに進化した。
どうやら魔法、物理の両方に強い耐性を持つ魔法障壁を、自身を中心とした15メートルくらいの範囲に展開できる、かなり強力な防御スキルのようだった。
「う、う~ん……。必殺技が欲しかったのに、防御スキルを獲得しちゃったわよぉ……。これもかなり強力なスキルだから使わない手は無いんだけどぉ……」
「まぁまぁお姉さん。攻撃スキルは絶空を付与すればいいだけだよ。せっかくだから俺が付与してもいいかな?」
どうぞとティムルに手渡された、槍のように2メートルくらいはありそうな長柄の先端に片刃の斧が付いたデザインの、茶色く巨大な斧を受け取る。
……職業補正が無かったら受け取れなかったな、きっと。
さて、普通に絶空を付与しても良いんだけど、それだとせっかく斧を用意した意味が薄いよな。
斧の特性である、打撃と斬撃両方のウェポンスキルが付与できることを上手く活かしたい。
だけど、既に固有スキルが1つ付いているグランドドラゴンアクスに、複数のスキルを気軽に付与するのはいただけないだろう。
となると、やっぱり着手してみますかね? オリジナルスキル開発にっ!
「ん~? ダン、絶空を付与するんじゃないのぉ? 何を迷ってるのかしらぁ?」
可愛いお姉さんの問いかけも耳に入らないくらいに考え込む俺。
まず、絶空は必須だ。一撃必殺の攻撃手段が欲しいんだから絶空の魔力チャージが無いと始まらない。魔力視を持つティムルには、魔法を絶てる断空も有用だろう。
この2つの能力は、出来れば1つに混ぜ込みたいところだな。
打撃スキルは物理インパクトノヴァの剛震撃と、物理クルセイドロアの波状槌の2種類か。
剛震撃はフラッタと被っちゃうけれど、ティムルには叫喚静刻という凶悪な範囲攻撃スキルが既にある。
ここは単体火力を重視すべきだろうね。
「……ダン? お姉さんの顔に何かついてるのかしらぁ?」
まったく、毎日見てるのに、相変わらずティムルお姉さんは美人だなぁ。
頭にはてなマークが浮かんでいるティムルの顔を見詰めながら、3つのスキルジュエルを混ぜ込むイメージを膨らませていく。
さて、俺はティムルにどんなイメージを抱いているんだろうか?
「紡ぎ合わせ、組み立て創れ。秘蹟の証明。想いの結晶。顕現。スキルジュエル」
「へ? それってスキル付与じゃ……」
魔力をチャージ出来て魔法を斬る事も出来る、一撃必殺のティムル専用のウェポンスキル。
それを目の前のきょとんとした顔をしている最高に可愛いお姉さんのイメージと重ね合わせていく。
俺がティムルに抱いているイメージは、その真っ黒な肌と積極的な寝室のイメージからして『夜』だ。
思えば初めて出会ったのもアッチンでの夕食時……、まぁ厳密に言えばその前の野営地なんだけど。それからティムルとはずっと夕食を共にする関係だった。
我が家に迎え入れてからは夕食の他に寝室も共にする関係になったけど、お先真っ暗だった俺とニーナの生活をいつも月のように導いてくれたティムルお姉さん。
……うん。失敗する気がしない。きっと完成するよ、
ティムルにふさわしい、ティムル専用のスキルジュエルが。
俺の確信を証明するかのように、アイテム生成のスキル光が収まっていく。
断空、絶空、剛震撃のスキルジュエルと俺の魔力の大半を消費して完成したのは、『朧逆月』というウェポンスキルのスキルジュエルだった。
そしてそのまま何も考えずに、グランドドラゴンアクスに朧逆月を付与してあげる。
「……ダン? 貴方が持ってた3つのスキルジュエルはどうなったのぉ……? なぁんで全く見覚えの無いスキルが1つ完成してるのか、お姉さんに詳しく説明してもらえるかしらぁ?」
挑発的な微笑を浮かべながら、俺の首に両腕を回してくるティムルお姉さん。
あれ? なんか微妙に怒ってません? 何も悪いことしてないよ?
え? 心臓に悪かったって? それに驚きと嬉しさで興奮が収まらない?
あっあっ、そんな激しく舌を吸ったら我慢出来なくなっちゃうよぉ。
まだ夜じゃないのにっ。さっきティムルは夜のイメージって言ったばかりなのにっ。明るいうちから蹂躙されちゃうのぉっ! お姉さん大好きーっ!
グランドドラゴンアクス
竜鱗甲光 朧逆月 魔法妨害+ 物理攻撃力上昇+ 魔力吸収+
獲物を捕食する猛獣のような勢いのティムルに散々搾り取られたあと、完成した武器はこちらになります。
一撃必殺用の武器に魔力吸収は必要無いかなとも思ったんだけど、その1撃で魔力を吸収できれば魔力枯渇を軽減できるかもしれないからね。
世界呪を滅ぼした時にもティムルが元気でいてくれて助かったわけだし。
ヴァンダライズを発動した俺が深刻な魔力枯渇に陥ったことを考えると……、期待は薄いかなぁ?
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