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5章 王国に潜む悪意3 世界を呪う者
358 世界樹の護り (改)
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閉鎖的なエルフェリア精霊国に引き篭もっているうちに、勝手に滅亡の危機に瀕したエルフ族。
そんな彼らを里の外に出すために、公共事業という名の強制労働を提案する。
「前々からドワーフ族の里に道を通すことは考えてあったんだよ。で、せっかくの機会だからエルフが外に出るきっかけにしようと思うんだ」
彼らの絶望感と閉塞感を振り払うのには、外の空気を吸わせるのが手っ取り早いと思うんだよね。
リーチェ1人を追放して引き篭もっておきながら、その結果勝手に滅亡なんて絶対にさせないからなぁ?
「工事の下地は俺が作るから、ライオネルさんは外に出て働けるエルフをなるべく多く選出して貰えるかな」
「ま、待って欲しい……! 450年も他種族との交流を絶ってきたエルフ族が、いきなりエルフェリアの外で労働するというのはあまりにも……」
ライオネルさんが俺の言葉を聞いたアタフタしている。
そりゃ今まで引き篭もってたんだもの。外の世界には不安はいっぱいだろうね。
――――でも許さない。
「甘えるな。お前らは16歳の少女をたった独りで世界に追放したんだ。彼女の歩んだ道と比べれば、お前らに科せられた今後の人生なんて温すぎるんだよ」
「……ダン」
建国の英雄譚に関わった者たちの多くが、既にこの世を去っていたとしても……。
リーチェの孤独を放置し、彼女から目を逸らしていたお前らに容赦なんてする気は無いんだよ。
「俺はリーチェを孤独に追いやったエルフ族が甘えるのを許す気は無い。諦めるのも滅亡するのも許さない。死ぬ気で繁栄して贖ってもらうよ」
「は、繁栄して贖うって……」
ライオネルさんも周囲のエルフも、俺の言っている事に戸惑いを見せている。
そんな彼らに構わず、この場にいる全てのエルフに宣言するつもりで言葉を続ける。
「命の保証も無い。将来なんて分からない。仲間も知り合いも家族すらいない状況で、それでも死ぬことも誰かを愛することも許されなかったリーチェに比べて、お前らエルフ族は甘えすぎなんだよ……!」
俺はお前らを救う英雄なんかじゃない。むしろ皆殺しにしたいくらいなんだからな。
……だけど、エルフ族を皆殺しにしても誰も幸せになんてなれないから。
なにより命懸けでエルフ族を救ったリーチェと、そのリーチェの名誉を護り続けたリュートが喜ばないから。
2人の幸せの為に、お前らエルフ族には全身全霊を持って、なにがなんでも繁栄してもらなきゃ困るんだ……!
「……甘え。そうか、エルフ族は、ずっと誰かに甘えて生きてきた種族だったのか……」
俺の言葉に始めは動揺していたライオネルさんが、突如顔を歪めて語り出す。
その表情には後悔が浮かび、語る言葉は懺悔のようだ。
「いつも誰かに責任を負わせて、自分たちは安全圏に引き篭もっていた……。問題があれば誰かのせい。自分たちは悪くない。自分たちは関係ないと目を逸らし続けた結果が、今の滅亡の危機というわけか……」
目を固く瞑り、座ったままで天を仰ぐライオネルさん。
今生きているエルフ族が偽りの英雄譚に否定的な人たちであったのだとしても、当時の推進派が落命したあともリーチェのことを放置して引きこもってたんだから、同罪とまでは言わないけど無関係だったとも言わせない。
「この場に居るエルフ族はその生涯を賭して繁栄して、必ず幸せになってもらうぞ。絶対に、1人残らずな。そのための努力を怠ることも、苦労や責任から目を逸らすのも許さない」
まったく、普通に生きている人が当然のようにしている生活をわざわざ宣告してやらなきゃいけないとか、エルフ族は本当に世話が焼ける。
「……ってことで、分かったかなライオネルさん。この地を捨てろとも、この地に他種族を受け入れろとも言わない。けど最大人数スペルド王国で働いて貰うよ」
未だ考え込むライオネルさんに構わず話を進めることにする。
ゆっくり思案したかったら俺が帰ってからにしろ。甘えんな。
「さっきも言ったけど、アウターの無くなったエルフェリア精霊国は単独で生活するのすら難しいでしょ。甘えてられる状況じゃないってこと、いい加減自覚してくれるかな」
「……待ってくれダンさん。アウターが無くなったって話、詳しく伺っても?」
どさくさに紛れて、世界呪マグナトネリコと一緒にアウター宿り木の根を消滅させてしまった事を報告する。
しかしライオネルさんも周りのエルフも、あまり驚きは見せなかった。
周囲の森の恵みは豊富に得られるし、何よりも人口が少ない今のエルフ族にとって、自国のアウターが無くなっても生活に支障は無いらしかった。
「むしろ、世界を呪う大樹と共に宿り木の根が祓われたのは納得がいくよ。宿り木の根の内部には、多くの同胞の怨嗟の魂が渦巻いていただろうからね……」
どうやら偽りの英雄譚が発端となった内乱で、宿り木の根の中で多くのエルフ族の命が失われてしまったらしい。
リーチェの両親もまた、宿り木の根から戻ってくることは無かったそうだ。
「……そっか。父さんと母さん、ようやく世界に還れたんだね」
「恐らくね。君達が相手取った大樹の表面には沢山の人面が浮き上がっていたと聞く。きっとそれらは宿り木に囚われた同胞たちだったのだろう」
「……なら安心だね。ダンが放った光の柱に導かれて、囚われていた魂はみんな空に昇っていったから……」
両親の魂を解放してくれてありがとうと笑顔で頭を下げるリーチェを、ただ黙って抱き締めた。
既に両親の死を聞いていたリーチェは取り乱すことこそなかったけれど、俺の腕の中から抜け出そうとはしなかった。
「……話は分かった。エルフ族の繁栄こそが、少女を孤独に追いやったことと、多くの同胞を手にかけてしまったことへの贖いになるんだね。確かに、甘えていられる状況では無いようだ」
俺が黙ってリーチェを抱きしめている間、周囲のエルフと共に黙祷するように目を閉じていたライオネルさん。
見開かれた目に強い決意を滲ませて、脱線してしまっていた話を元に戻した。
「働くエルフの選出は早めに行なっておこう。他に何か要望はあるかな?」
「他に……? 他にかぁ。何かあるかな?」
凄く何かを言いたそうなリーチェとティムルには、帰ってからねとよしよしなでなで。
アウターが失われたエルフェリア精霊国。困窮するドワーフ族。
一気に人口が増えたヴァルハールと、今後頻繁にスペルド王国に出入りするようになる魔人族か……。
「エルフ族って農業とかどうなのかな? スペルド王国の人口が最近一気に増えたせいで、近い将来食料が不足してくる可能性がある。そこをエルフに補ってもらうことは可能?」
最低限の食料はドロップアイテムで得られるから、人死にが起きるほどの飢饉とは無縁な世界だとは思うけれど、肉や魚だけ食べてたらストレスが溜まっちゃうだろうからね。
長らくエルフェリアの地に定住していたエルフ族は、農業に長けていたりしないかな?
「難しいね。エルフェリアでは森の恵みとドロップアイテムだけで事足りていたから、趣味以上の水準で作物を育てていた者は居ないんじゃないかな」
長けていたりはしなかったかー! 残念っ!
エルフ族は元々の人口も少なそうだし、確かに農業の必要性は無かったのかもなぁ。
まぁこの世界は農業のハードルもかなり低いからな。
レインメイカーとアウターの土があれば割とどこでも簡単に農業することが出来るだろうから、あまり心配は要らないか?
「それじゃ今のところは特に無いかな。10日以内には働き始めてもらおうと思ってるから、準備をよろしくね」
「了解だ。守るべき世界樹も消失してしまったようだしね。仕事がもらえるのはむしろありがたいよ」
「一応全員に冒険者までは浸透させるつもりだし、帰郷を制限したりするつもりも無いから、その辺は安心していいよ。エルフェリアの地を捨てさせる気は無いからさ」
言いながら席を立つ。
この計画を本格的に始めるには、シュパイン商会の協力とゴブトゴさんの許可が必要だからな。彼らにも相談しに行かなきゃいけない。
エルフ族に宣言してしまった以上、俺の都合で計画を遅延させるのは格好が付かない。今日中にある程度話を通しておかないとね。
「済まない。帰る前にもう1つだけいいかな」
「ん? なになに?」
しかし立ち上がった俺達をライオネルさんが引き止める。
俺達を引きとめたライオネルさん自身も席を立ち、俺達にゆっくりと近づいてきた。
「不可視の箱。不可侵の聖域。魔で繋がりて乖離せよ。インベントリ」
俺達の目の前で足を止め、インベントリの詠唱をするライオネルさん。
いったいなにを? と警戒する俺の前でライオネルさんが取り出したのは、翠色をした美しい腕輪……。
今ではすっかり見慣れたアクセサリーの、世界樹の護りだった。
「リーチェ。君が誓約から解放されてもリーチェの名を捨てずに生きることを選んだのなら……。この腕輪は君が持つべきだ」
「……世界樹の護り? けどぼくの護りはこうしてちゃんと……」
「これはね。リーチェの世界樹の護りなんだ」
「――――えっ?」
リーチェという部分を強調して口にしたライオネルさん。
彼が口にしたリーチェとは、リュートの姉である本当の――――。
「そん……なっ! そんなものっ、残ってるはずが……! だって……、だってぼく達の物はっ、全て父さんと母さんが……!」
「その通り。でも世界樹の護りは装備品だからインベントリに隠すことが可能。だから私が黙って隠し持っていたんだよ。偽りの英雄譚の動かぬ証拠として、だけどね」
静かに語りながら、リーチェの片手を取って、その手の平に世界樹の護りを置くライオネルさん。
自分の手に置かれた翠の腕輪を、ただ見詰めることしか出来ないリーチェ。
「455年もの歳月の果てにこの腕輪をリーチェに渡すことになるなんて、流石に夢にも思っていなかったけど……。私がこの腕輪を持っていたのは、今日のこの日に、君に渡す為だったのだと確信しているよ」
「これが……姉さんの……。リーチェ・トル・エルフェリアの半身……」
恐る恐る腕輪を握るリーチェを見て、ライオネルさんはリーチェの手を離す。
俺の女の手をー、とかそんな感情でこのシーンに水を差すわけにはいかないかぁ……。
固まっているリーチェの肩を抱き、世界樹の護りを持つ手に手を重ねる。
「着けてみなよリーチェ」
「え……? あ、でっ、でも世界樹の護りは装備品なんだよ……? ぼくだって着けてあげたいけど、そうするとリュートの世界樹の護りを外さなくちゃ……」
「大丈夫だリーチェ。この世界を作った神様は凄く優しい人みたいだからさ。きっとリーチェとリュート、2人の存在をどっちも肯定してくれるはずだよ」
「え、ダン……? それってどういう……」
右手首にはリュートの世界樹の護りが装着されている。
だからリーチェの世界樹の腕輪を静かに手に取り、そして戸惑うリーチェの左手に嵌めてやった。
そして彼女を鑑定する。
リュート・マル・エルフェリア
女 471歳 エルフ族 精霊魔法解放 巫術士LV96
装備 世界樹の星弓 妖精の髪留め 流星の旅装束
聖霊の手袋 大樹の守靴 世界樹の護り 世界樹の護り
「リーチェ。自分を鑑定してごらん」
「えっ……? えっ……?」
俺の言葉に従い自らを鑑定したリーチェは、大きく目を見開いて硬直し、そしてその翠の双眸を小さく揺らしながらゆっくりと俺の方に顔を向けた。
「…………うそ。こんなの、聞いたことも、ないよ……? どうして……、どうしてダンは、いつもこんなことができちゃうの……?」
「ははっ。俺がやったんじゃないって。お前がちゃんとリーチェとして生きてきて、そしてリュートの人生も諦めなかったから、こうやって神様が認めてくれたんだと思うよ」
この世界を作った神様はどこまでも優しい方だったんだろう。
だからお前の本当の名前も、455年間に渡って歩み続けてきたお前の人生も、その両方を肯定してくれたんだと思うよ。
「ともかく、これで正式にリーチェもリュートも丸ごともらってやれるね」
「…………」
俺の言葉が届いているのかいないのか、リーチェは俺を見たまま固まってしまっている。
この美しいエルフのお姫様の顔ならいつまでも見ていられるけど、断腸の想いで視線を外してライオネルさんを見る。
「ありがとうライオネルさん。貴方のおかげでリーチェのこともリュートのことも、丸ごと貰ってやることが出来ました。2人の夫として、心から感謝します」
「は、はは……、はははっ……! 無駄じゃなかったのか……! 彼女の日々も、私の日々も、無駄なんかじゃなかった……!」
「……ライオネル、さん?」
「失われた命は戻らないけれど、失った日々は今ここで報われた……、全ては今日、この日のためにあったんだ……!」
突然両手で顔を覆って泣き出したライオネルさん。
な、なんで貴方が泣くの? ライオネルさんの日々って何……?
戸惑う俺の目の前で、深く静かに頭を下げるライオネルさん。
「ありがとうダンさん……! 貴方のおかげで若きエルフの姉妹の魂は救われた……! リーチェもリュートも、その魂だけは救ってあげることが出来たんだ……!」
「え、えぇ……? なんでライオネルさんがお礼を言うの……?」
ライオネルさんってリーチェと面識無さそうだったのに、いったいどういう想いで今日までこの腕輪を持っていたんだろう?
んー、でも悪いねライオネルさん。
俺はリュートもリーチェも、魂だけで満足してやるほど無欲じゃないんだわ。
「魂だけなんて笑わせないでよ。リーチェとリュートの体も心も魂も、1つ残らず全部まとめて幸せにしてやるっての」
こんな世界最高峰のエロボディを前にして、魂だけで満足なんかしてられるかーっ!
元々リーチェのこともリュートのことも2人分愛してやる約束だったし、今後の予定になんら変更無しって奴だぁいっ!
「だからライオネルさんも斜に構えて気取ってないで、がむしゃらになって種族の繁栄に貢献して貰うよ? 2人の幸福に陰りを落すわけにはいかないからね」
「く……くく……、あーっはっはっはっは! 仕合わせの暴君とはよく言ったものだね! 出会った者たちを問答無用で幸せにする、不幸を許さぬ傍若無人の暴君か! 暴君に目を付けられたエルフ族は、もう不幸になることを許されなくなってしまったわけだ!」
「……俺が責任もって2人を幸せにしてやるよ。だからもう、誰も偽りの英雄譚に縛られなくていいんだ」
「ははっ、はははははっ! こんな日が、まさかエルフ族にこんな日が訪れるなんてっ……!」
滂沱の涙を流しながら、腹を抱えて大笑いしているライオネルさん。
そんなライオネルさんの姿を見た周囲のエルフの反応はマチマチだ。
恐らく普段とは違うであろうライオネルさんの反応に戸惑いを見せる者、若干引き気味に顔を引き攣らせている者、ライオネルさんと同じように泣く者、笑う者。
滅亡を前にして止まっていた感情が、ようやく動き出してくれたかな?
心が動き出したなら、今度はどんどん体も動かしてもらわなきゃね。
そんな彼らを里の外に出すために、公共事業という名の強制労働を提案する。
「前々からドワーフ族の里に道を通すことは考えてあったんだよ。で、せっかくの機会だからエルフが外に出るきっかけにしようと思うんだ」
彼らの絶望感と閉塞感を振り払うのには、外の空気を吸わせるのが手っ取り早いと思うんだよね。
リーチェ1人を追放して引き篭もっておきながら、その結果勝手に滅亡なんて絶対にさせないからなぁ?
「工事の下地は俺が作るから、ライオネルさんは外に出て働けるエルフをなるべく多く選出して貰えるかな」
「ま、待って欲しい……! 450年も他種族との交流を絶ってきたエルフ族が、いきなりエルフェリアの外で労働するというのはあまりにも……」
ライオネルさんが俺の言葉を聞いたアタフタしている。
そりゃ今まで引き篭もってたんだもの。外の世界には不安はいっぱいだろうね。
――――でも許さない。
「甘えるな。お前らは16歳の少女をたった独りで世界に追放したんだ。彼女の歩んだ道と比べれば、お前らに科せられた今後の人生なんて温すぎるんだよ」
「……ダン」
建国の英雄譚に関わった者たちの多くが、既にこの世を去っていたとしても……。
リーチェの孤独を放置し、彼女から目を逸らしていたお前らに容赦なんてする気は無いんだよ。
「俺はリーチェを孤独に追いやったエルフ族が甘えるのを許す気は無い。諦めるのも滅亡するのも許さない。死ぬ気で繁栄して贖ってもらうよ」
「は、繁栄して贖うって……」
ライオネルさんも周囲のエルフも、俺の言っている事に戸惑いを見せている。
そんな彼らに構わず、この場にいる全てのエルフに宣言するつもりで言葉を続ける。
「命の保証も無い。将来なんて分からない。仲間も知り合いも家族すらいない状況で、それでも死ぬことも誰かを愛することも許されなかったリーチェに比べて、お前らエルフ族は甘えすぎなんだよ……!」
俺はお前らを救う英雄なんかじゃない。むしろ皆殺しにしたいくらいなんだからな。
……だけど、エルフ族を皆殺しにしても誰も幸せになんてなれないから。
なにより命懸けでエルフ族を救ったリーチェと、そのリーチェの名誉を護り続けたリュートが喜ばないから。
2人の幸せの為に、お前らエルフ族には全身全霊を持って、なにがなんでも繁栄してもらなきゃ困るんだ……!
「……甘え。そうか、エルフ族は、ずっと誰かに甘えて生きてきた種族だったのか……」
俺の言葉に始めは動揺していたライオネルさんが、突如顔を歪めて語り出す。
その表情には後悔が浮かび、語る言葉は懺悔のようだ。
「いつも誰かに責任を負わせて、自分たちは安全圏に引き篭もっていた……。問題があれば誰かのせい。自分たちは悪くない。自分たちは関係ないと目を逸らし続けた結果が、今の滅亡の危機というわけか……」
目を固く瞑り、座ったままで天を仰ぐライオネルさん。
今生きているエルフ族が偽りの英雄譚に否定的な人たちであったのだとしても、当時の推進派が落命したあともリーチェのことを放置して引きこもってたんだから、同罪とまでは言わないけど無関係だったとも言わせない。
「この場に居るエルフ族はその生涯を賭して繁栄して、必ず幸せになってもらうぞ。絶対に、1人残らずな。そのための努力を怠ることも、苦労や責任から目を逸らすのも許さない」
まったく、普通に生きている人が当然のようにしている生活をわざわざ宣告してやらなきゃいけないとか、エルフ族は本当に世話が焼ける。
「……ってことで、分かったかなライオネルさん。この地を捨てろとも、この地に他種族を受け入れろとも言わない。けど最大人数スペルド王国で働いて貰うよ」
未だ考え込むライオネルさんに構わず話を進めることにする。
ゆっくり思案したかったら俺が帰ってからにしろ。甘えんな。
「さっきも言ったけど、アウターの無くなったエルフェリア精霊国は単独で生活するのすら難しいでしょ。甘えてられる状況じゃないってこと、いい加減自覚してくれるかな」
「……待ってくれダンさん。アウターが無くなったって話、詳しく伺っても?」
どさくさに紛れて、世界呪マグナトネリコと一緒にアウター宿り木の根を消滅させてしまった事を報告する。
しかしライオネルさんも周りのエルフも、あまり驚きは見せなかった。
周囲の森の恵みは豊富に得られるし、何よりも人口が少ない今のエルフ族にとって、自国のアウターが無くなっても生活に支障は無いらしかった。
「むしろ、世界を呪う大樹と共に宿り木の根が祓われたのは納得がいくよ。宿り木の根の内部には、多くの同胞の怨嗟の魂が渦巻いていただろうからね……」
どうやら偽りの英雄譚が発端となった内乱で、宿り木の根の中で多くのエルフ族の命が失われてしまったらしい。
リーチェの両親もまた、宿り木の根から戻ってくることは無かったそうだ。
「……そっか。父さんと母さん、ようやく世界に還れたんだね」
「恐らくね。君達が相手取った大樹の表面には沢山の人面が浮き上がっていたと聞く。きっとそれらは宿り木に囚われた同胞たちだったのだろう」
「……なら安心だね。ダンが放った光の柱に導かれて、囚われていた魂はみんな空に昇っていったから……」
両親の魂を解放してくれてありがとうと笑顔で頭を下げるリーチェを、ただ黙って抱き締めた。
既に両親の死を聞いていたリーチェは取り乱すことこそなかったけれど、俺の腕の中から抜け出そうとはしなかった。
「……話は分かった。エルフ族の繁栄こそが、少女を孤独に追いやったことと、多くの同胞を手にかけてしまったことへの贖いになるんだね。確かに、甘えていられる状況では無いようだ」
俺が黙ってリーチェを抱きしめている間、周囲のエルフと共に黙祷するように目を閉じていたライオネルさん。
見開かれた目に強い決意を滲ませて、脱線してしまっていた話を元に戻した。
「働くエルフの選出は早めに行なっておこう。他に何か要望はあるかな?」
「他に……? 他にかぁ。何かあるかな?」
凄く何かを言いたそうなリーチェとティムルには、帰ってからねとよしよしなでなで。
アウターが失われたエルフェリア精霊国。困窮するドワーフ族。
一気に人口が増えたヴァルハールと、今後頻繁にスペルド王国に出入りするようになる魔人族か……。
「エルフ族って農業とかどうなのかな? スペルド王国の人口が最近一気に増えたせいで、近い将来食料が不足してくる可能性がある。そこをエルフに補ってもらうことは可能?」
最低限の食料はドロップアイテムで得られるから、人死にが起きるほどの飢饉とは無縁な世界だとは思うけれど、肉や魚だけ食べてたらストレスが溜まっちゃうだろうからね。
長らくエルフェリアの地に定住していたエルフ族は、農業に長けていたりしないかな?
「難しいね。エルフェリアでは森の恵みとドロップアイテムだけで事足りていたから、趣味以上の水準で作物を育てていた者は居ないんじゃないかな」
長けていたりはしなかったかー! 残念っ!
エルフ族は元々の人口も少なそうだし、確かに農業の必要性は無かったのかもなぁ。
まぁこの世界は農業のハードルもかなり低いからな。
レインメイカーとアウターの土があれば割とどこでも簡単に農業することが出来るだろうから、あまり心配は要らないか?
「それじゃ今のところは特に無いかな。10日以内には働き始めてもらおうと思ってるから、準備をよろしくね」
「了解だ。守るべき世界樹も消失してしまったようだしね。仕事がもらえるのはむしろありがたいよ」
「一応全員に冒険者までは浸透させるつもりだし、帰郷を制限したりするつもりも無いから、その辺は安心していいよ。エルフェリアの地を捨てさせる気は無いからさ」
言いながら席を立つ。
この計画を本格的に始めるには、シュパイン商会の協力とゴブトゴさんの許可が必要だからな。彼らにも相談しに行かなきゃいけない。
エルフ族に宣言してしまった以上、俺の都合で計画を遅延させるのは格好が付かない。今日中にある程度話を通しておかないとね。
「済まない。帰る前にもう1つだけいいかな」
「ん? なになに?」
しかし立ち上がった俺達をライオネルさんが引き止める。
俺達を引きとめたライオネルさん自身も席を立ち、俺達にゆっくりと近づいてきた。
「不可視の箱。不可侵の聖域。魔で繋がりて乖離せよ。インベントリ」
俺達の目の前で足を止め、インベントリの詠唱をするライオネルさん。
いったいなにを? と警戒する俺の前でライオネルさんが取り出したのは、翠色をした美しい腕輪……。
今ではすっかり見慣れたアクセサリーの、世界樹の護りだった。
「リーチェ。君が誓約から解放されてもリーチェの名を捨てずに生きることを選んだのなら……。この腕輪は君が持つべきだ」
「……世界樹の護り? けどぼくの護りはこうしてちゃんと……」
「これはね。リーチェの世界樹の護りなんだ」
「――――えっ?」
リーチェという部分を強調して口にしたライオネルさん。
彼が口にしたリーチェとは、リュートの姉である本当の――――。
「そん……なっ! そんなものっ、残ってるはずが……! だって……、だってぼく達の物はっ、全て父さんと母さんが……!」
「その通り。でも世界樹の護りは装備品だからインベントリに隠すことが可能。だから私が黙って隠し持っていたんだよ。偽りの英雄譚の動かぬ証拠として、だけどね」
静かに語りながら、リーチェの片手を取って、その手の平に世界樹の護りを置くライオネルさん。
自分の手に置かれた翠の腕輪を、ただ見詰めることしか出来ないリーチェ。
「455年もの歳月の果てにこの腕輪をリーチェに渡すことになるなんて、流石に夢にも思っていなかったけど……。私がこの腕輪を持っていたのは、今日のこの日に、君に渡す為だったのだと確信しているよ」
「これが……姉さんの……。リーチェ・トル・エルフェリアの半身……」
恐る恐る腕輪を握るリーチェを見て、ライオネルさんはリーチェの手を離す。
俺の女の手をー、とかそんな感情でこのシーンに水を差すわけにはいかないかぁ……。
固まっているリーチェの肩を抱き、世界樹の護りを持つ手に手を重ねる。
「着けてみなよリーチェ」
「え……? あ、でっ、でも世界樹の護りは装備品なんだよ……? ぼくだって着けてあげたいけど、そうするとリュートの世界樹の護りを外さなくちゃ……」
「大丈夫だリーチェ。この世界を作った神様は凄く優しい人みたいだからさ。きっとリーチェとリュート、2人の存在をどっちも肯定してくれるはずだよ」
「え、ダン……? それってどういう……」
右手首にはリュートの世界樹の護りが装着されている。
だからリーチェの世界樹の腕輪を静かに手に取り、そして戸惑うリーチェの左手に嵌めてやった。
そして彼女を鑑定する。
リュート・マル・エルフェリア
女 471歳 エルフ族 精霊魔法解放 巫術士LV96
装備 世界樹の星弓 妖精の髪留め 流星の旅装束
聖霊の手袋 大樹の守靴 世界樹の護り 世界樹の護り
「リーチェ。自分を鑑定してごらん」
「えっ……? えっ……?」
俺の言葉に従い自らを鑑定したリーチェは、大きく目を見開いて硬直し、そしてその翠の双眸を小さく揺らしながらゆっくりと俺の方に顔を向けた。
「…………うそ。こんなの、聞いたことも、ないよ……? どうして……、どうしてダンは、いつもこんなことができちゃうの……?」
「ははっ。俺がやったんじゃないって。お前がちゃんとリーチェとして生きてきて、そしてリュートの人生も諦めなかったから、こうやって神様が認めてくれたんだと思うよ」
この世界を作った神様はどこまでも優しい方だったんだろう。
だからお前の本当の名前も、455年間に渡って歩み続けてきたお前の人生も、その両方を肯定してくれたんだと思うよ。
「ともかく、これで正式にリーチェもリュートも丸ごともらってやれるね」
「…………」
俺の言葉が届いているのかいないのか、リーチェは俺を見たまま固まってしまっている。
この美しいエルフのお姫様の顔ならいつまでも見ていられるけど、断腸の想いで視線を外してライオネルさんを見る。
「ありがとうライオネルさん。貴方のおかげでリーチェのこともリュートのことも、丸ごと貰ってやることが出来ました。2人の夫として、心から感謝します」
「は、はは……、はははっ……! 無駄じゃなかったのか……! 彼女の日々も、私の日々も、無駄なんかじゃなかった……!」
「……ライオネル、さん?」
「失われた命は戻らないけれど、失った日々は今ここで報われた……、全ては今日、この日のためにあったんだ……!」
突然両手で顔を覆って泣き出したライオネルさん。
な、なんで貴方が泣くの? ライオネルさんの日々って何……?
戸惑う俺の目の前で、深く静かに頭を下げるライオネルさん。
「ありがとうダンさん……! 貴方のおかげで若きエルフの姉妹の魂は救われた……! リーチェもリュートも、その魂だけは救ってあげることが出来たんだ……!」
「え、えぇ……? なんでライオネルさんがお礼を言うの……?」
ライオネルさんってリーチェと面識無さそうだったのに、いったいどういう想いで今日までこの腕輪を持っていたんだろう?
んー、でも悪いねライオネルさん。
俺はリュートもリーチェも、魂だけで満足してやるほど無欲じゃないんだわ。
「魂だけなんて笑わせないでよ。リーチェとリュートの体も心も魂も、1つ残らず全部まとめて幸せにしてやるっての」
こんな世界最高峰のエロボディを前にして、魂だけで満足なんかしてられるかーっ!
元々リーチェのこともリュートのことも2人分愛してやる約束だったし、今後の予定になんら変更無しって奴だぁいっ!
「だからライオネルさんも斜に構えて気取ってないで、がむしゃらになって種族の繁栄に貢献して貰うよ? 2人の幸福に陰りを落すわけにはいかないからね」
「く……くく……、あーっはっはっはっは! 仕合わせの暴君とはよく言ったものだね! 出会った者たちを問答無用で幸せにする、不幸を許さぬ傍若無人の暴君か! 暴君に目を付けられたエルフ族は、もう不幸になることを許されなくなってしまったわけだ!」
「……俺が責任もって2人を幸せにしてやるよ。だからもう、誰も偽りの英雄譚に縛られなくていいんだ」
「ははっ、はははははっ! こんな日が、まさかエルフ族にこんな日が訪れるなんてっ……!」
滂沱の涙を流しながら、腹を抱えて大笑いしているライオネルさん。
そんなライオネルさんの姿を見た周囲のエルフの反応はマチマチだ。
恐らく普段とは違うであろうライオネルさんの反応に戸惑いを見せる者、若干引き気味に顔を引き攣らせている者、ライオネルさんと同じように泣く者、笑う者。
滅亡を前にして止まっていた感情が、ようやく動き出してくれたかな?
心が動き出したなら、今度はどんどん体も動かしてもらわなきゃね。
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クラスメイトの美少女と無人島に流された件
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修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
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朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
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この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
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そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
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最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
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一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
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※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
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異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
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