異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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5章 王国に潜む悪意3 世界を呪う者

345 愚かさ (改)

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「ぐへぇ!?」

「た、隊長--っ!? 」


 突然現れて訳の分からないことを捲し立てた人には、キュアライトブローで地面と熱烈なキスをしていただいた。

 流石は建国の英雄譚に最も深く関わった種族だけあって、期待を裏切らないクソ対応だな。


「き、貴様……! 我らを誰だとぼぉ!?」

「そんなの知るわけないだろ。おやすみなさい」


 地面にキスした隊長さんとやらに駆け寄りながら、なんだか俺達に喚き散らしそうな気配を見せた男の鳩尾に右腕を深く抉りこむ。

 くの字に体を折った男は、先に倒れた隊長さんの上に重なるようにして崩れ落ちた。掛け布団かな?


「……あのさぁ。俺がエルフ族に穏便な態度を取ると思ってもらっちゃあ困るよ? メナスに先を越される前に、俺の手で滅ぼしてやりたいくらいに思ってるんだからね?」

「あ……あ……」


 自分達が問答無用で襲い掛かってきたくせに、大正義正当防衛ナックルを行使した俺に対して、残りのエルフ族は怯えたように動きを止めてしまった。


 ざっと鑑定した感じ、長命の割には職業浸透が進んでないなコイツら。多くて10種類前後だ。

 魔物とも戦わず、性欲も薄いと言われるエルフ族って、こんな娯楽の少ない世界で何して生きてんだろ?


 まぁいいや。せっかく迎えが来たんだからこの人たちに案内してもらおっか。


「そこで寝てる男の言った通り、こっちは仕合わせの暴君だ。で、アンタらは誰で何の用?」

「…………」


 俺の問いかけにエルフ族は言葉を返してくれず、けれど俺の顔の周りに魔力の流れを感じられる。

 これって精霊魔法で風を操ってるのか。窒息狙いかな? 小賢しい。


「切り裂け。断空」


 インベントリからショートソードを取り出し、顔の周りで悪さしていた魔力を断空で両断する。

 初めて試したけど、精霊魔法も問題なく両断できることが証明されたね。


「なぁっ!? な、何がっ、うわああっ!」


 強制的に中断させられた精霊魔法から、魔力が強く吹き荒れる。

 剣を振り切ったと同時にインベントリに収納したから、コイツらには何が起こったか分からないだろ。


 さて、精霊魔法を行使してきたってことは、普通に敵認定で構わないかな?


「こっちの質問にも答えず、問答無用で攻撃してきたんだ。アンタら俺の敵ってことでいいな? 悪いけど俺は敵に容赦をする気は無い。全員死ね」

「ひぃっ!?」


 未だ混乱収まらぬ様子のエルフたちに、静かに死刑を宣告する。


 コイツら相手に武器を使う必要は無いな。

 キュアライトブローのキュアライト抜きをお見舞いして差し上げるとしよう。


「やめなさいっ! 彼らは敵ではないわっ!」

「ぎゃぶっ!」「ぎゃっ!」「ぐほっ!?」


 近い順から殴っていって、1人1人昏倒させていく。


「待って! 待ってぐえぇっ!?」「話をっ! 話を聞いぎゃあっ!」


 怯えた様子で逃げ出そうとした奴も、両手の平を突き出して何か喚いている奴も勿論ぶん殴って昏倒させる。

 敵を前に手を止めるわけもないし、ましてや1人も逃がす訳ないじゃん?


「待てって言ってるでしょ! なんで無視ししてそのまま襲い掛かるのよ! やめなさいってばーーーっ!!」

「嫌だ嫌だ嫌ぎゃああーっ!」

「俺は何も知らないっ! 知らないんだばっ!?」


 待つのはそっちだよ。全員を無力化するまでちょっと待ってろ。

 大体無視なんかしてはいないっての。敵じゃないって聞いたからちゃんとキュアライト纏ったもんね。


「問答無用で俺達を連行しようとしたんだから敵ですよ? 俺達にとってはね」


 確実に全員の意識を刈り取ってから、エルフ族の後ろから現れた人物に声をかける。


「で? 彼らが敵じゃないなら状況の説明をお願いしますよ、マーガレット殿下」

「……っ」


 エルフ族から少し遅れて現れたのは、俺達を送ると言いながら先行してエルフェリアに来ていたらしいマーガレット殿下だった。

 本当に碌なことしないなぁ、スペルド王国貴族って。


「彼らはエルフェリア精霊国からの迎えよっ!? 何で迎えを撃退しちゃってるのよ、アンタはーーっ!?」

「騒動の責任がどうとか、連行がどうとか言ってくる相手を迎えとは認識できませんよ? こんなことが続くなら俺達は帰りますよ? 馬鹿馬鹿しい」


 ただでさえエルフ族を助ける気なんて全く無いところに、こんな最低の対応をされたら帰りたくもなるよ。

 メナスから招待状は届いてるけど日時の記載はなかったし、エルフェリアが滅びてからゆっくり宿り木の根を探せばいいだけだ。


「……! 旦那様っ」


 その時、音も無く飛んできた1本の矢をヴァルゴが叩き落してくれる。

 叩き落された矢の先端には液体が塗られており、毒見スキルを使うと毒の反応があった。


 精霊魔法で風切り音を遮断しつつ、毒まで塗って確実に俺を暗殺しにかかったかぁ。

 ま、浄化魔法の使える俺に暗殺が通じるかは微妙だけどね。


「見てください。毒矢が飛んできましたよ? 敵だらけじゃないですか。それともエルフェリアでは客人に毒矢を射掛けるのが歓迎の作法だとでも?」

「そ、れは……」


 ヴァルゴが弾いた矢を拾い上げて、マーガレット殿下に見せる。

 驚いた様子ではなく、俺の詰問に言葉を詰まらせている様子の殿下がこの襲撃に関与していたのは間違いないだろうね。


 固まったまま二の句を告げない殿下の前に毒矢を放り投げる。


「どうやら歓迎されてないみたいなので帰りますね。エルフェリアが滅んだ頃にでもまたお会いしましょう」

「……なっ!? ほっ、滅んだ頃って……!」


 黙秘を続けていたマーガレット殿下は、俺が帰る素振りを見せたことで慌てた様子で動き出す。


「ま、待ちなさいっ! 貴方本当に、エルフ族全てを見捨てるとでもっ……!」

「見捨てますよ? 敵なんか助ける義理は無い。俺が滅ぼす手間が省けてラッキーなくらいですよ。それじゃ」

「待ちなさいっ! リーチェ! 貴女は……!」


 ポータルを発動してマグエルに戻る。

 マーガレット殿下が何か叫んでいたけれど、リーチェすら彼女には一瞥もくれずにマグエルに帰還した。


 自宅に入って施錠を済ませる。

 各地の状況を確認しに行った4人は、どうやらまだ帰ってきてないみたいだな。


「……とりあえず一旦休もうか」

「……同感。お姉さん、頭が痛くなっちゃうわぁ……」


 俺に同意を示してくれたティムルだけじゃなく、全員が疲れたように溜め息を吐いている。

 いったいなんだったんだ今の流れは……?


 エルフ族に救援を要請されたからエルフェリアに赴いたのに、到着したらいきなり襲撃されるわ狙撃されるわで散々だったじゃないか。

 しかもそこにスペルディアの王女も混ざってたってんだから始末に負えないよぉ……。


 混乱する頭のままで食堂に行き、お茶を飲んでひと息ついた。


「エルフが滅びるまでは5日もあれば充分かな? それまでは少しのんびり過ごそうか。なんか疲れちゃったよ」

「リーチェの話からエルフ族って馬鹿なんだろうなーって思ってたけど、そこにスペルドの王女様まで加わっていたのは問題だよね……。矢が飛んできた事に驚いてもいなかったから、王女様も共犯に違いないの」


 ニーナは呆れた感じで吐き捨てる。

 怒っている感じがしないのは、あの程度で俺が殺されるとは思っていないからだろう。


「矢に塗られていたのは恐らく即効性の麻痺毒だね。エルフ族が狩りでよく使う毒で、ぼくも扱ったことがあるよ」

「流石リーチェ。見ただけで分かるもんなんだ?」

「エルフ族によって弓の習得は必須だからね。まだ年若かったから正式な狩りには参加できなかったけど、姉さんに色々教えてもらってたから、狩り関係の知識にはまぁまぁ自信があるんだっ」


 俺の言葉に嬉しそうに巨大なおっぱいを張るリーチェ。

 けれど直ぐにその表情を怒りに曇らせてしまう。


「麻痺毒を使った事で、もしかしたら殺す気は無かったんだと主張してくる気なのかもしれない。矢で人を射抜いておきながら、殺意を否定なんて絶対にさせないけどね……!」


 ニーナとは対照的に、リーチェは怒り心頭といった状態だった。

 歯を食い縛って、両手を血が滲むほどに固く握りこんでしまっている。


 そんなリーチェを抱きしめてよしよしなでなでしてあげる。

 リーチェは何も悪くないんだから、リーチェが血を流さなくていいんだってばぁ。


「ん~……。いったい何の意味があった行動なのかよく分からないわぁ。どうしてこのタイミングでダンと敵対するような事をしたのかしらぁ……?」

「ふむぅ、麻痺毒ということじゃからの。何か思惑でもあったのかのう?」

「そうは言うけどさぁフラッタちゃん。もしダンを排除するにしても、エルフェリアの騒動が終わってからでいいでしょ? このタイミングで事を起こすのはなんのメリットも無くないかしらぁ?」


 ティムルとフラッタが動機について話し合っているけど、深い動機なんて無いのかもしれない。

 エルフ族が偽りの英雄譚を作り上げた理由だって、俺達には全く理解が及ばない理由だったわけだしねぇ。


「建国当時を知らぬエルフには不憫だと思うが……。ここまで明確に敵対されては仕方ないの。選別など出来はしないのじゃからな」

「そもそもエルフェリア精霊国からの迎えって言ってたからねぇ……。国ぐるみで私たちを襲撃したって言ったようなものでしょ。自業自得よっ」


 フラッタとティムルがプリプリ怒っている。この2人がペアで話すのって少し新鮮だな。


 しかし、エルフ族が滅びようが知ったことじゃないけど、リーチェを抱くのが数日先延ばしになるのは辛いなぁ。

 せっかく今晩にはリーチェと愛し合えると思ったのになー……。


 残念だねぇリーチェ。よしよしなでなで。


「かつてバロール族は救援を求めてスペルド王国を目指しました。そのバロールの民は恐らくメナスに皆殺しにされてしまったのでしょうけれど、仮に無事にスペルディアまでいけたとしても助力など望めなかったでしょうね……」

「王国の人が一概にアレみたいに言うのは良くないけど、少なくともスペルディア家には塩対応されそうだねぇ……」

「どうしてあんなにも必死になって人の足を引っ張るのか……。そのせいで種族が滅びても構わないのでしょうか……」


 ヴァルゴが酷く悲しげな様子で呟いた。

 そんなヴァルゴも呼び寄せて、リーチェと一緒に抱きしめてあげる。


 俺達って家族のためには世界が滅んでも仕方ないって本気で思ってるけど、あんなどうでもいい場面で世界を滅ぼしていいのかね? 王女殿下は。


 最近張り詰めていたこともあって、なんか一気に気が抜けちゃったなぁ。

 さぁメナスとの決戦だーって意気込んでいたところに、こんな下らない茶々を入れられるとは流石に想像できなかったよぉ。


 みんなと一緒にダラーっとした時間を食堂で過ごす。

 みんなと一緒だと直ぐにエロいことに走るから、こうしてゆっくり過ごすのも久々かもぉ?


「……っ! ……くれっ!」

「ん? なんか騒がしいね?」


 俺の胸にほっぺをスリスリしてくるリーチェとヴァルゴをよしよしなでなでしながら、みんなと気が抜けた時間を楽しんでいると、なにやら玄関先が騒がしくなってきた。

 五感を集中して、玄関先で喚かれている言葉を拾い集める。


「ダン! 俺だ! ガルシアだっ! 頼む、俺の話を聞いてくれっ!」


 ……来客者はガルシアさんかぁ。

 でも気が抜け切ってる今、ガルシアさんに応対するの面倒臭いな。放っておこう。


「――――! ――――!」


 放っておけばそのうち留守だと判断して帰ってくれるかと思ったのに、ガルシアさんはいつまで経っても玄関で大声を上げ続けている。

 まるで俺達が中にいると確信してるみたいだな?


 ああ、もしかして断魔の煌きのメンバーに狩人を浸透済みの人がいるのか?

 それで生体察知を使って俺達の在宅を確信しているとか?


 残りのメンバー4人はみんな獣人だって話だし、王女もガルシアさんも貴族だ。

 もしかしたら獣爵家出身の狩人がいるのかもしれないなぁ。


 このまま食堂にいると煩いから、寝室にでも引っ込もうかな……。

 って、いつものリーチェなら精霊魔法で直ぐに音を遮断しててもおかしくない気がするのに、何で今日はやってないんだろう?


 ……もしかしてリーチェ、エルフェリアを見捨てることに迷いがあるのか?


「リーチェ。玄関と食堂の音を繋げて、このまま表で騒いでる人と会話できるようにしてくれる?」

「……なんで? 放っておこうよ、あんな人たち」


 胸の中に収まっているリーチェに声をかけるも、リーチェは珍しく俺に抵抗してくる。

 ああ、反抗期のリーチェも新鮮で可愛いなぁ。


「エルフ族もスペルディアもどうだっていいでしょ? あんな人たちと話すことなんて何も無いよっ」


 う、上目遣いで頬を膨らませて拗ねてるリーチェ、可愛すぎるうううっ!!

 いっつも俺に対して従順なリーチェが見せた拗ね顔、破壊力がありすぎるからっ!!


 リーチェの拗ね顔を心のアルバムに刻み込みながら、リーチェとヴァルゴをよしよしなでなで。


「エルフ族もスペルディアもどうでもいいよ。でもこんな可愛いリーチェと愛し合うのが先延ばしになるのは嫌だなーって思っちゃってさぁ」

「あ、うんっ……! それはぼくも残念だよっ! 早くダンと繋がりたい、でもさっ……!」


 拗ねてるくせに俺には一直線に好意を向けてきやがってぇ。んもー、可愛すぎーっ!

 膨らんだリーチェのほっぺに、何度もちゅっちゅとキスをする。


「あのまま家の前で騒がれても迷惑だから、話くらいは聞いてみようよ。もしリーチェが聞きたくないなら、俺の会話だけ繋げてくれてもいいからさ」


 そもそも俺に反発してる理由が、俺が攻撃されたのが許せないからなんだよね。

 こんな可愛いリーチェを抱くのを5日間も我慢するとか普通に無理でーす!


「リーチェのことも、そしてリュートのことも1秒でも早く愛してあげたいんだ。リーチェもリュートも大好きすぎて、もう我慢出来ないんだよーっ」

「はぁぁぁ……。ぼく、ダンに2人分愛してもらわないとダメなんだったぁ……」


 甘くて長い溜め息を吐いたリーチェは、ハートマークが見えそうなほどに蕩けた瞳を俺に向けてくる。


「リュートのぼくもリーチェの僕も、5日間もお預けだなんて無理だよぅ……。うぅ……」


 ほっぺただけじゃなく、高反発な全身を俺に満遍なくこすり付けてくるリーチェ。

 なに? マーキングされちゃってるの俺? そんなことしなくても俺はお前のものだよ? 最高に気持ちいいから続けてくれて構わないけどっ!


 服越しでも最高に気持ちいいリーチェの感触を堪能していると、リーチェが玄関と食堂の音を会話できるように繋げてくれた。


 ……これってもう、風がどうこうって話じゃなくて物理を超越してる気がするけど、魔力で実行している事を物理で考えるなんてナンセンスだ。

 便利ならいいんだよっ! 魔法万歳だっ!


「やっほーガルシアさん。なんか用?」

「ダ、ダン!? なんだこれっ、何で声だけ!?」


 ……あれ? この反応的に、ガルシアさんは精霊魔法を使って通話した経験が無いのか?

 エルフェリア精霊国と断魔の煌きって交流があったっぽかったけど、離れた距離で会話する機会とかは無かったのかもしれない。


「ちょっと静かにしてくれない? 玄関先で騒がれると普通に迷惑なんだけどー」

「今はそんなことどうでもいいっ。済まなかったダン! 今回の件はこっちが全面的に悪い! 謝罪させて欲しいんだ!」


 あの場にいなかったガルシアさんに謝罪されても意味無いんだよなぁ。

 マーガレット殿下が襲撃に関与していたのは明白だけど、他のメンバーはどうだったのかまだ判断出来ない。


「謝罪はいいから説明してよ。なんだったわけ? あれは」

「あれは……! その、なんと言うかだな……!」

「エルフ族に請われてエルフェリアに赴いたのに、強制連行されかけるわ毒矢で狙われるわ散々だよ。しかもどっかの王女様も共犯みたいだしさぁ? 事情を知っているなら話してもらえるかな」

「すっ、済まねぇ……! 本当に申し訳なかった……!」


 その後も済まねぇ済まねぇと謝罪ばかり続けて、一向に説明を開始しないガルシアさん。

 説明しないならこの会話も打ち切るよと告げると、ようやく話し始めてくれた。



 でも説明された内容が大したことない件。

 王女様はリーチェを思うあまり俺を排除しようとして、スペルディア王族という立場を利用しエルフに協力者を募り、多少痛めつけてでもリーチェと引き離そうとした。ただこれだけだった。


 エルフ族は古の盟約により、スペルディア王家の要請には最大限協力しなければならないんだそうだ。

 ……それがどんなに下らないことであっても。


 でもあのエルフ達も強制連行しようとしてきたわけだし、王女に利用されたって感じには見えなかったよなぁ。

 ということで殴った件については気にしない事にしよう。


「マギーにとって、リーチェ様は特別な存在だったんだよ……」


 俺の脳内でエルフへの暴行行為に無罪判決が出されたところで、聞いてもいないことを語り始めるガルシアさん。


「無能者が目立つスペルド貴族社会で浮いていたマギーが、初めて心を許せる存在がリーチェ様だったんだ。リーチェ様を語るマギーは、いつも本当に活き活きしててよぉ……」


 その話長くなるなら今度にしてもらっていい?

 と確かに発言したはずなのに、どうやらリーチェの風魔法で食い止められてしまった模様。解せぬ。


「そんなリーチェ様に決別を告げられたのがよっぽど堪えちまったんだろうな。こんな馬鹿なことをしでかすくらいに……」

「随分と勝手な言い分だね? マギーがやったことは、カリュモード商会の娘がやった事となんら変わりはないよ?」

「そっ、それは違う……! マギーはリーチェ様のためを思う一心で……!」

「それで? ガルシアさんに頭を下げさせて、当のマーガレット殿下ご本人はいったいどこで何してるわけ?」


 ガルシアさんの言葉に、俺より早くリーチェが噛み付く。

 その言葉には普段のリーチェからは想像出来ないくらいの怒りが滲んでいた。


 リーチェは『貴女の為を思ってやった』って言葉、最高に嫌いっぽいもんなぁ。


「……国王が斃れた今、マギーまで投獄するわけにゃいかねぇし、王城で頭を冷やしてもらってますよ。だから今回の件について、マギーがこれ以上関わることは……」

「じゃあマギーに伝えておいてくれる? 君の軽率な行動でエルフ族は滅亡を迎えるんだって」

「なっ……!?」


 俺の暗殺を目論んだマーガレット殿下は、城でのうのうと過ごしている。

 そう聞いたリーチェはガルシアさんの言葉を遮り、エルフ族の滅亡を宣告した。


「エルフェリア精霊国にも、マギーがしたことをちゃんと伝えてくれる? 話の続きはそれからだよ」

「ま、待ってくれリーチェ様! 今はそんなことしてる場合じゃ……!」

「そんな状況で下らないことを仕掛けてきたのはそっちだよ。今言った2つを済ませないうちは取り合わないよ。時間が無いって言うなら急ぎなよ」

「待っ……!」


 ガルシアさんの最後の制止の言葉は、リーチェによって容赦なくかき消された。

 どうやら玄関先の声も遮断したらしく、食堂には静寂が戻ってきていた。


「……あれで良かったのリーチェ?」


 俺に縋りつくように体をこすり付けてくるリーチェの頭を優しく撫でる。


「リーチェが納得してるなら構わないけど、ガルシアさんが要件を済ませた確認も出来ないんじゃ?」

「その時はその時かな。でもダンに矢を放ったんだ。しかもぼくの為になんて、ダンを射抜こうとしたことをぼくのせいにしようとしたんだよ? 絶対に許せないし、絶対になぁなぁで済ませる気はないよ……!」


 怒りに燃える瞳で俺を見詰めるリーチェ。


 リーチェがこんなに怒りを顕わにしたことって、今まで1度も無かったかもしれない。


「……あーっ!」


 でも俺の顔を見た途端に何かに気付いたリーチェは、何故か物凄く申し訳なさそうな表情になってしまった。

 所在無さげにおろおろとして、もう少しで泣きそうなほどに見えるな?


「どうしたリーチェ? 何か問題でも……」

「ごめんっ! ぼくのせいでまた余計な時間が取られちゃった……! ダンが一刻も早くぼくを愛したいって言ってくれたのに、ぼく自身が余計な時間を取らせちゃったよ~っ!」


 ごめんねーっ、と顔の前で小さく両手を合わせるリーチェが可愛い。

 そんなリーチェが愛おしくて、ぎゅーっと抱き締め唇を重ねる。


 気にしないでリーチェ。なんにも問題無いから。

 勿論お前の事を一刻も早く愛したいのは山々だけど、こうして俺の腕の中にお前が居てくれるだけで幸せだからね。


 リーチェに限った話じゃないけど、最近のみんなは悪意に対してちゃんと怒りを見せてくれる。それがなんだか凄く頼もしく感じられる。


 誰かの都合で振り回されたりせずに、おかしいものはおかしいと言える芯の強さ。

 当時のリュートにもそれがあれば、詐称の誓約なんて誓わずに済んだかもしれないのになぁ。


 ……16歳の少女に、家族からも種族全体からも懇願された誓約を断るのは難しかったかもしれないけどさぁ。


 その後みんなで客間に移動して、ガルシアさんが戻ってくるまで全員でお団子状態になってダラダラと過ごした。

 この非常時に、いったいなーにやってんだろうね? 俺達って。
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