異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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5章 王国に潜む悪意3 世界を呪う者

340 大切なこと (改)

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 ティムルに女性陣だけで話したいことがあると言われたので、素直に従って退室することにする。

 ……従うことにはしたけど、部屋を出る前にみんなを抱きしめてキスをする。ちゅーっ。


「みんなー。話が終わったら呼びに来てねー?」


 全員とキスをしたら大人しく部屋を出て、そのまま庭に向かった。


 みんなの話の内容が気にならないわけじゃないけど、隠し事をされるのは別に気にしないかな。

 女性陣で共有する話って俺に関することだろうし、そりゃあ本人のいる前では話しにくいでしょ。


「それじゃ、ただ待ってるのも暇だしねー……っと」


 インベントリからロングソードとショートソードを取り出す。

 1人で居ても暇なだけなので、せっかくだから二刀流の確認をしておこう。


 右手にロングソード、左手にショートソードを握って、その感触を確かめるようにまずはゆっくりと振ってみる。

 重量軽減スキルのおかげで武器の重さに負担は感じないけれど、普段両手で振るっている武器を片手で扱うのはかなり違和感を覚えちゃうなぁ。

 右手と左手を交互に振って、少しずつ二刀流を馴染ませていく。


「はぁっ! せいっ!」


 全身の身体操作性補正を意識しながら再現するのは、双竜姫ラトリアの双剣。

 剣術に置いてこの世界最高峰の腕前を誇るラトリアが振るう双剣は、これ以上を望めないほどの最高のお手本と言っていい。


 初めて出会った時に俺を本気で殺しに来たラトリアの剣を……。

 その後もどんどん高められている彼女の剣を思い出しながら、補正を駆使して記憶をなぞっていく。


「まずは基本……! ラトリアの剣を正確に辿れ……!」


 五感補正で記憶に刻み込まれた情報を、身体操作性補正で出来る限り正確に再現していく。


 ……本当に職業補正ってチートだと思う。

 日本では碌に運動もしなかった俺が、ラトリアのような達人の剣をこんなに短時間で再現できちゃうんだもんなぁ。


 ラトリアの動きを正確に再現したら、今度は体格や装備品の違いによる誤差を修正し、彼女の剣を俺の血肉に変えていく。


「……基本はラトリアの双剣。だけど彼女の剣のままじゃ俺の戦い方には上手く嵌らないから……」


 体が双剣に馴染んできたら、俺流の双剣の使い方を練習していく。


 俺の双剣は右手のロングソードで絶空をチャージしながら、左手のショートソードで相手の魔力を奪っていくためのものだ。

 だから右手のロングソードを体の後ろに下げながら、左手のショートソード1本で相手を斬り続ける姿をイメージし、その動きを練習していく。


 我ながら歪な剣術だと思う。

 でも、歪だからこそ俺らしいようにも思えた。




「――――ん?」


 どのくらい双剣を振っていたのか分からないけれど、集中状態の俺の五感が我が家に向かってくる気配を察知した。

 反射的に生体察知を発動すると、我が家に向かって来ているのは6人。ということはフルパーティでうちに向かって来てるってことになる。


 ……メナスを撃退したばかりだっていうのに、もう新手の襲撃がきたのか?


「……って、アイツらか」


 しかし俺の警戒空しく、我が家を訪れたのはワンダ達、幸福の先端のメンバーだった。

 けれどみんな俯いたまま歩いてきて、俺がいる事にも気付いていないようだ。こっちから声をかけるかー。


「よぉみんなっ。こんな時間に我が家になんか用かー?」

「あ、ダン……。ダンも剣を振ってたんだ? え、でも1人で?」


 俺が声をかけるとコテンが返事をしてくれる。

 けど、やっぱり元気が無い気がするなぁ。

 
 コテンたちはみんな、手に武器を持ったまま我が家に来たようだ。

 我が家を襲撃しに来たってわけじゃないなら、我が家の庭で訓練するつもりだったのかな? 、って言ってたし。


「他のみんなは女子会ってことで、俺はちょっと席を外してるんだよ。で暇だったから剣を振ってたんだ。お前達も訓練に来たの?」

「……うん。今日は私達がまだまだ弱いってことが嫌ってほど分かったから……。訓練でもしてないと悔しくて悔しくて眠れそうもないの……!」


 コテンの言葉に同意するように、他のみんなも武器を握る手に力を込めたのが分かった。

 いやいやお前ら。11~14歳の少年少女が未熟だなんて当たり前なんだけど?


「そっかぁ。うちのみんなもまだ起きてるし、庭を使ってもらう分には問題ないんだけど……」


 もう遅い時間だし、今日はイントルーダーと遭遇したりしたからみんなもかなり消耗したはずだ。だから今日のところは無理せず休むべきだよ。

 そう言って窘めて帰宅させようかと思ったけれど、みんなが思いつめた表情をしているのを見て考え直す。


 歯を食い縛って、自分の不甲斐無さに憤った様子の6人。

 こいつらが何を思っているのかは分からないけれど、こんな顔のまま帰されたって寝れるわけないかぁ……。


 ならいっそコイツらに付き合ってもらうか? 素振りよりも有意義な練習になるだろうしちょうどいい。


「じゃあせっかくだから手合わせでもしようぜ。俺もちょうど訓練してたところだからな」

「ん、お願いしようかな……。闇雲に武器を振るよりはいい訓練になりそうだし」


 俺の言葉にコテンが頷き、コテンの頷きに他のメンバーも同意している。


 ワンダとドレッドが後ろに下がって、2人とも喋らないのは珍しいなぁ。それだけ昼間のことがショックだったってことなのかもしれない。

 訓練は訓練だけど、コイツらにとってはガス抜きの意味合いも強いのかもしれない。


「それじゃ俺対幸福の先端な。格上の魔物を相手にするつもりで連携して見せてくれ」


 時間も遅いので1人1人相手するわけにはいかない。俺対全員での手合わせだ。

 こいつらが本格的に魔物狩りするようになってからはあまり稽古をつけてやれなかったからな。どれだけ成長してるのか見せてくれよ?


「月明かりくらいしか無いけど、お前達は視界に不安は無い?」

「スポットで野営もしてるから、もう夜間戦闘も不安は無いよ。それじゃいくね、ダンっ!」


 昼間の出来事を振り払うかのような勢いでかかってくるみんなに怪我させないよう気をつけながら、俺の変則二刀流を調製する。


 しかしコイツら、夜間に真剣での手合わせだったいうのに全然躊躇しないのな。

 それだけ武器の扱いに自信がついたってことか。


 ワンダの剣筋には努力の積み重ねが垣間見えるし、コテンのダガー捌きにも迷いがない。

 普段後衛として立ち回っているリオンは、対人戦はちょっと苦手かな?


 ニーナたちからも全然お声がかからないので、ワンダ達がぶっ倒れるまで相手をしてやった。




「個人の技量も訓練の成果が見られるし、全体の連携もスムーズになってる。お前ら腕を上げたなぁ?」

「はぁっ! はぁっ! ま、まだだ……、まだやれる……!」


 持久力補正さえ使い切るほど消耗しているのに、それでも立ち上がって手合わせを続けようとする幸福の先端のみんな。

 強くなりたいと努力するのはいいことだとは思うけど、ちょっと危うい感じがするな。


「お前ら、何をそんなに焦ってるのよ? お前らの年齢でスポットの最深部まで行ってる奴なんか他に居ないでしょ? お前らは確実に強く……」

「…………焦るよっ! 焦るに決まってるじゃないっ!!」


 俺の言葉を遮るコテンの叫び。

 悔しくて仕方ないといった表情のコテン。そして他のみんなも同じ顔、か。


 手合わせじゃガス抜きにはならなかったか。

 ならこいつらが抱えている想いを言葉にして、ちゃんと吐き出させてやらないと。


「なぁみんな。みんなが今日どんな想いをしたのかを俺に教えてくれるかな?」

「……えっ?」

「俺はお前達は凄く良くやっていると思っているけれど、どうしてお前達自身はそんなにも焦ってるのか知りたいんだ。休憩も兼ねてさ」


 憤るみんなの前に座ってみせる。

 お前たちの事を聞かせて欲しいと態度で示す。


「……はぁ~。分かったよ。でも話が終わったら続きをするからねっ?」


 俺が訓練を続ける気が無い事を見て少し納得がいかないような顔をしながらも、やはり体力は限界だったのか、それとも話をしたくなったのか、みんなも武器を下ろして俺の回りに集まってくれた。

 みんなが地面に座るのを待って声をかける。


「俺はお前たちに何の落ち度も感じてないんだけど、お前達自身はそうじゃないらしいね?」

「…………」

「さぁ話してくれ。自分の想いを言葉にして自覚するのも、強くなるには必要なことだと思うから」

「強く、なる為に……」


 俺なんかがコイツらに何を言ってやれるかは分からない。

 だけどコイツらの抱えている想いを聞いてあげることくらいなら俺だって出来る。


 我が家の方針はいつだって話し合いだ。思ってることは口にしようぜ、みんな。


「……落ち度を、感じてないのか?」

「ん?」


 俺の言葉に、震える声で恐る恐る問いかけてくるワンダ。


「あんな化け物の前にダン1人を残して、俺達だけ逃げ出したっていうのに……!?」


 いやいや、俺の意思で下がってもらったのに怒る訳ないじゃん?

 だけど俺が気にしなくても、ワンダ自身がワンダを許せない感じなのかなぁ。


「私達、ずっとダンたちにお世話になってるのに、肝心な時に役に立てなくて……。ダンと一緒に戦うことも、ダンのサポートをすることもできなかったよ……? それどころか、体が震えて力が入らなくて、助けを呼ぶことすら出来なかった……!」

「悔しい……! 俺、悔しいんだダン……!」


 悔しそうなコテン。それに同意するドレッド。

 いつも落ち着いているドレッドがここまで感情を表に出すのは珍しい。


「んー……。悔しいって想いも、実力不足を自覚するのも大切なことだと思うけどさ。今日お前らが遭遇した魔物は例外なんだよ。アイツを基準に考えたらダメだってば」

「子供の割には良くやってるとか、まだ駆け出しなのに凄いとか、出会った魔物が強かったから仕方ないとか……! 甘やかされるのはもうウンザリだよっ!!」


 俺の言葉を同情や励ましだと取ったらしいコテンは、そんなものは求めていないと怒りの言葉を俺にぶつけてくる。

 甘やかしてるつもりは無いんだけれど、悔しさに身を震わせている時にかける言葉じゃなかったかな?


「私達は何も出来なくて、ダンを置いて逃げることしか……。ううん、逃げることすら満足に出来なかったっ! みんなにあんなにお世話になっておきながら、何にも出来なかったのっ!」


 トライラムフォロワーはちょっと特殊な魔物狩りだもんな。今までも回りの大人たちに色眼鏡で見られているところがあったのかもしれない。

 そういった色々なものが積み重なって、今日の体験に結びついちゃったのかぁ。


 でもさぁ……。
 

「あのなコテン。お前らが今日出会った魔物はイントルーダーって言って、1体居れば世界を滅ぼすことも出来るってレベルの存在なんだよ。ガルクーザ級のバケモンなんだ」


 悔しさに歯を食い縛ってるところ悪いんだけどさぁ。お前らが遭遇したのってイントルーダーだよ?

 イントルーダーと遭遇して何か出来る奴のほうが少ないからね?


「甘やかすとかそういう次元じゃなくて、対抗できる方がおかしいんだよ。あれって異界から侵略してくる神様みたいなもんなんだぜ?」

「いんとるーだぁ? ガルクーザ級……。って、えっ!? ガルクーザって、ひょっとしてあのガルクーザっ!?」


 始めはピンと来ていなかったようだけど、突然思い至ったように声をあげるサウザー。

 そりゃガルクーザって言ったらガルクーザだよ。古の邪神ガルクーザがそう何人もいて堪るかっての。


「そう、スペルド王国建国神話に登場する邪神ガルクーザ。アイツもイントルーダーらしいからね。対抗できる方がおかしいんだ」

「邪神ガルクーザ……。それと、同格の魔物……!?」


 ガルクーザの名前を出したことで、今日自分が出会った魔物が如何に規格外だったのかを理解し始める子供達。

 悔しさに真っ赤になっていた顔が、恐怖のせいか少し青褪めてきたようだ。


「そもそもの話、イントルーダーに遭遇することってまずありえないから。今回の件は本当に例外中の例外なんだよ」

「でもっ……! それならダンはどうして大丈夫だったのさっ!? それにイントルーダーなんて聞いたことないよっ!? なんでダンはそんなことを知ってるの!?」


 君のような勘のいいガキは以下略っと。

 んー、イントルーダーの知識ってなんで失われたんだろう? ガルクーザ以降にイントルーダーが出現した例ってないのかねぇ?


「おいおいビリー。我が家には建国の英雄であるリーチェ本人が居るんだぜ? ガルクーザやイントルーダーのことはリーチェに聞いたに決まってんじゃん」

「あ、リーチェってそう言えば建国の英雄様だったんだっけ……」


 そう言えばって言われてますよ、翠の姫エルフさん。


「でもなんでそんな化け物が3体も……、しかも人の言うことを聞いてたの……?」


 さて、リオンにはなんと答えるべきか。

 造魔や魔物使いのことはあまり広めるべきじゃないよなぁ。


「あいつらは何らかの方法でイントルーダーを呼び出す事に成功したみたいでね。俺はイントルーダーの存在を予めリーチェに聞いてあったから、なんとか対応できたってだけさ」


 レガリアと因縁があったことも嘘じゃないし、事前にリーチェからイントルーダーの話を聞かされたのも嘘じゃない。

 だけどあんまり余計なものを子供に背負わせたくないから、開示する情報は最低限に絞らせてもらうよ。


 情報を秘匿する代わりに、元凶のメナスは責任を持って片付けてやらないとな……!


「コテン。ワンダ。イントルーダーは人の身で対抗できる魔物じゃない。あいつらを基準にして強さを求めちゃダメだ」


 ……自分のことは棚に上げてよく言うよな。

 でも俺だって別にイントルーダーを倒したくて強さを求めたわけじゃない。俺が求めたのはあくまでリーチェであり、家族であるみんなとの幸せだ。


「今のみんなは凄く無理してるように見えるよ。それじゃいつか折れちゃうと思う。今日の出来事を忘れろってのは無理だろうけど、今日遭遇した魔物は例外中の例外って事も忘れないで欲しい」

「でもっ、でもダンはそんな魔物と渡り合えるくらいに強くなったんじゃないっ! なのに私たちには気にするなって、無理するなって言うのっ!?」


 コテンが俺に食って掛かる。

 その瞳は怒りに燃えて、大粒の涙が零れている。


 そんなコテンの純粋な想いには、俺も心から真剣に向き合う必要がありそうだ。


「俺はねコテン。リーチェの……、家族のために今の強さを手に入れなければいけなかっただけなんだよ。イントルーダーと戦うために強くなったわけじゃないんだ」


 イントルーダーなんかとは戦わずに済むならそれに越した事はない。

 魔物察知と強力な殲滅力が揃わないと、まず遭遇することは無いんだしさ。


「コテンはどうしてあんな化け物と戦わなきゃいけないって思うの? どうしてアレだけの強さを身につけなきゃいけないと思うの? イントルーダーが衝撃的過ぎて大切な事を忘れてない?」


 問い詰めるような口調にならないよう気をつけながら、コテンの意識を自分の内側に向けてやる。


 今のコテンは周囲の言葉に反射的に反発してしまう状態だろう。

 なら聞かせてやるべきは、気付かせてやるべきは自分の心の状態のほうだ。


「どうしてって! だって、ダンの力になりたかったのに、私は何も出来なくて……!」

「うん、ありがとう。コテンが俺を助けようとしてくれて嬉しいよ」


 コテンの、コイツらの想いは間違ってない。だからその想いには感謝を返す。

 でもなコテン。俺達はお前らに泣きながら歯を食い縛ってまで強さを追い求めて欲しくないんだよ。


「なぁコテン。お前達は俺とニーナが2人きりの時から、まだ日帰りでスポットに潜っていた時の姿を知ってるよね。その時の俺とニーナって、お前にはどう見えていたかな?」

「あの時の……、去年の夏前くらいの2人……?」


 俺の言葉にコテンは怒りを忘れて考え込む。

 コイツらっていっつも俺達を基準に考えてるんだろうなぁ。


「ダンもニーナも、いつも笑ってて……。なんだかいつも幸せそうだった……?」

「そう。俺とニーナはいつも幸せだったんだ。苦労だってしてたけど、それでもいつも幸せだった」


 俺だっていつも強くなろうって思っていたけど、お前達みたいに無理はしてなかったと思うよ?


 力が足りなくてボロボロになって、お金も無くていつも生活には困ってた。

 だけどいつだって幸せだったんだ。


「俺がイントルーダーを退けるまで強くなったのは、家族と幸せに過ごし続ける為に必要だったからなんだ。決してあいつらを倒す事を目標にして腕を磨いたわけじゃないんだよ」


 幸せになって欲しいから戦い方を教えたのに、強くなるために無茶して幸せを忘れられちゃったら本末転倒なんだよ。

 俺は普段から幸せに過ごしたいし、みんなにも幸せに過ごして欲しいんだよ。


「コテン。自分が幸せに過ごせない奴が他人の世話なんて焼くのは10年早いぞ?」

「う……うぅ~……!」

「俺とニーナは毎日ずっと幸せで、その幸せをみんなにも分けてあげたくてもっと強くなれたんだ。強さってのは幸せに過ごす為に必要なものであって、強さを求めて幸せな生活を忘れるようじゃ意味が無いと俺は思う」

「……幸せになる為には強くならなきゃダメなんじゃないの? 幸せに過ごさないと強くなれないの? なんかよく分かんなくなってきちゃったよぉ……」

「難しく考えなくていいんだ。要は幸せに過ごしながら強くなればいいってことだよ」


 混乱するコテンの頭をワシャワシャと撫でる。

 幸せの為に強さを求めるのはいいけどさ。強さのために幸せを忘れるようなことはして欲しくないの。


「悔しいって思うことも、力不足に泣く日があったって構わない。けどなるべく毎日笑って過ごして欲しいんだよ。しかめっ面で歯を食い縛りながら強さを求めて欲しくないんだ、俺は」


 強さを手に入れるためには対価を支払わなければいけないこともあるかもしれない。

 けれど、必ずしも幸せを手放す必要は無いはずだ。


 この世界には職業補正っていう祝福があるんだから。


「俺は家族みんなと最高に幸せに暮らしながら、その暮らしを続けたいから強くなったんだよ。ムーリとだって最高に幸せに過ごしてる自信があるぞ?」

「う~っ! それは嫌になるくらい見せられてるけどぉ~っ……!」


 毎日幸せでエロエロに過ごさせてもらってるぜ!

 強くなればなるほどみんながエロエロになってくれるんだから、もう張り切って強くなっちゃうのも仕方ないってものだよねっ!


「人の気持ちって伝染うつるものだと思うんだ。だからトライラムフォロワー筆頭のお前らが幸せに過ごせていないと、教会と孤児院の子供達にもしかめっ面が伝染っちゃうよ?」


 せっかくみんなで笑いあって過ごせるようになったってのに、その笑顔を忘れてまで強くなろうとするんじゃないよ、まったく。

 これも全部イントルーダーを引っ張ってきたメナスのせいだ。碌なことしないなアイツ。


「強くなろうと頑張ってもいいけど、笑って楽しく過ごしながらだって強くなれるんだからな? 自分がどうして強くなりたいのか、その1番大切な部分は間違えちゃダメだよ?」

「私が、強さを求める理由……」

「強さだけを見ていると、いつかきっと道を踏み外す。強さの為に大切なものを差し出してしまうようになるんだ。大切な物を護りたいから強さを求めたはずなのに、だよ?」


 今回みんなが相手した連中は、みんな道を踏み外してしまった。その最たる例はガレルさんだろう。


 ニーナとターニアを守るために成功を望んだのに、成功を守るために2人を捨てたガレルさん。

 彼のような選択を、コイツらに選ばせるわけにはいかないよ。


 こいつらが強さを求めるあまり笑顔を忘れるようなことが無いように、大人としてちゃんと導いてやりたいなぁ。


「お前たちが頑張っている事が誇らしいよ。でも自分が頑張ってるってこと、自分でも認めてあげような」

「あっ……。確かに俺、このままじゃダメだ、俺はどうしてこんなに弱いんだって……」

「お前たちには何の落ち度も無い。本当に良くやってるよ。いつもありがとう」


 1人1人の目を見て、1人1人に感謝を告げる。

 俺はお前たち全員に感謝してる。だからお前たちも自分の事を褒めてやってくれよな。


「私、自分が笑えなくなってたってこと、ダンに言われるまで気付かなかった……」


 びっくりしたような顔で小さく呟くリオン。

 意外と自分のことって分からないものだよなー。俺もいっつもみんなに怒られるもん。


「ん~……。ダンの言ってること、ちゃんと分かった気がしないけど……。でも、うんっ。明日からはちゃんと笑いながら頑張れる気がするっ」


 コテンの言葉に、他のメンバーの張り詰めていたものが弛緩していくのが分かる。

 うん。これなら大丈夫だろ。明日からも笑顔で頑張れっ。

 
 肩の力が抜けたみんなを帰宅させたタイミングで、ニーナが俺を呼びにきてくれた。

 ひょっとしたら話が終わるのを待っていてくれたのかもしれない。きっと聞いてもはぐらかされるだろうけどね。


 さぁて、それじゃあみんなにもリーチェの事を話さないとな。

 家族の問題は家族で共有するのが我が家のモットーなんだから。
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