異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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5章 王国に潜む悪意2 それぞれの戦い

329 メナス① 解説 (改)

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 スポットの最深部で、俺は単独でメナスと遭遇してしまう。

 奴は3体のイントルーダーを従え、更にはそのイントルーダーを謎のマジックアイテムでオリジナルの水準に強化してしまった。

 や、厄介すぎるわぁ……。


「さぁ、精々足掻いて楽しませてくれたまえ」


 メナスの言葉に反応し、3体の巨大な魔物が動き出す。


 まず突っ込んできたのが巨人フューリーコロッサス。

 全力疾走から流れるような動きで、大木のような棍棒を振り下ろしてくる。


 その美しい所作は魔物の動きというよりも武人に近く、洗練されていて無駄がない。

 イントルーダーのくせに武器の心得があるとかふざけんじゃないよ?


「喰らうかよっ……って、うわぁ……」


 少し大袈裟なくらいに距離を取って回避すると、地面が揺れるほどの衝撃と巻き上げられる土埃から、フューリーコロッサスの攻撃の威力が嫌というほど伝わってくる。


「其は悠久の狭間に囚われし、真理と聖賢を司る者。無間の回廊開きし鍵は、無限の覚悟と夢幻の魂。神威の扉解き放ち、今轟くは摂理の衝撃。クルセイドロア。……ちぃっ!」


 牽制にクルセイドロアを放ちながら、イントルーダーの間をすり抜けてメナスを狙う。

 けれどもそんなことはメナス側も百も承知なようで、俺の動きを読んでいるかのように立ち塞がるはエンシェントヒュドラの無数の首。


「う、お……! 厄介だなコイツ……!」


 ドラゴンの胴体から蛇のような細長くて耳や角も無い頭部が無数に生えていて、その全てが独立した動きで襲い掛かってくる。

 その首の長さを存分に生かして全方向から回り込んでくる噛み付き攻撃は、回避し続けていると方向感覚が狂ってくるほどの激しさと勢いだ。


 嵐のような噛み付き攻撃を回避しながら、インパクトノヴァと斬撃をお見舞いする。


「……こいつ、耐性持ちかっ!」


 剣から伝わる物理耐性の感触。だが攻撃は間違いなく通った。

 攻撃が通じるなら倒すことはできるはず。


「でも、そこで面倒くさいのがHP制なんだよなぁ……!」


 HPの保護さえ無ければ首を切り落としてやれるのに、HPが残っている限り傷1つ付けられないのは面倒ってレベルじゃないんだよぉ……!


 HP制は脆弱な人間側を魔物の脅威から守るためにあるんだろうけど……!

 イントルーダーにまで適用して欲しくなかったかなぁ!?


 だから手っ取り早くこの場を切り抜けるには、HPが適用されない対人戦でメナスを殺してしまうに限るんだけど……。


「あはっ、あははははは! 素晴らしい、素晴らしいよ!」


 俺の考えはお見通しと言わんばかりに、2体のイントルーダーに阻まれている俺の目の前で、巨大スライムアポリトボルボロスの中に自分の身を沈めていくメナス。

 これでイントルーダー並のHPを対人戦で発揮できるってわけね……って、やってられっかぁ!


「イントルーダーを滅ぼした経験があるのは予想していたけれど、まさかたった独りで3体のイントルーダー相手にここまで戦えるとは思ってもみなかった! これなら他のメンバーが救援にこれる可能性も低くないだろうね!?」


 そんな俺を楽しそうに観戦するメナス。

 メナスさんが楽しそうで何よりですね、本当にもうっ!


 メナスがアポリトボルボロスに取り込まれている以上、召喚士を先に倒してしまう戦法は取れないだろう。

 ということで物凄く面倒臭いけれど、正攻法で正面突破といきますかねぇ!


「古き友人。同胞はらからよ。魂の悲鳴、憎悪の嘆き。悪意に魂象られ、殺意に飲まれし哀れな友よ。皆は汝を赦し給う。今は眠れ安らかに。友愛と許容。懺悔と断罪。悠久の彼方でまみえし時、汝に贈るは微笑と抱擁。天還あまかえしるべ。天恵、ディバインウェーブ」


 聖属性の最上位魔法だと思われるディバインウェーブをフューリーコロッサスに放つ。

 魔法が放たれると、まるで回復魔法を思わせるような温かみのある白い光に覆われる巨人。


 この魔法はインパクトノヴァのような単体攻撃魔法で、実はインパクトノヴァよりも威力が低い。

 しかしインパクトノヴァが瞬間火力に特化しているのに対し、ディバインウェーブは効果時間がある程度長い。

 そして効果時間中にディバインウェーブを上書きすると、ディバインウェーブ同士の魔法効果が共鳴しあって威力が累積していくというトンデモ魔法なのだ。

 消費魔力はインパクトノヴァより格段に多く、その威力の真価を発揮する為には膨大な魔力と魔力吸収が必要になってくる使いにくい魔法だけど、俺なら問題なく使いこなせるはず!


「いつまでも安全圏に居られると思うなよーーっ!」


 降り注ぐエンシェントヒュドラの首に切りつけながら、ディバインウェーブを巨人に累積させていく。


 イントルーダーはHPが無くなってからの発狂モードが恐ろしいからな。

 出来ればHPが無くなったと同時に仕留めたいところだけど……。


 アポリトボルボロスが魔法陣を構築しているのを見て、多難な前途を確信してしまう。


「ちっ! 魔法なんか喰らって堪るかっ!」


 しかし、インパクトノヴァや雷魔法を警戒して魔法障壁を展開した俺に対してアポリトボルボロスが放った魔法は、俺ではなくてフューリーコロッサスとエンシェントヒュドラの体を優しく包み込む。

 この儚げな燐光は……、もしかして、ヒールライトかぁっ!?


「あはっ! その様子だとヒールライトに気付いたようだねっ!?」


 アポリトボルボロスが放った回復魔法に目を丸くしていると、それを見たメナスが、サプライズに成功したとでも言わんばかりに大はしゃぎしてやがるっ!


「ふっふーん、君の気持ちは良くわかるつもりだよ? 始まりの黒でこの子と対峙した時は、イントルーダーが回復を行うなんて反則だろうと思ったからねっ! あははははっ!」

「気持ちを理解されても全く嬉しくないんだよっ! オリジナルイントルーダーを3体同時に相手取る時点で最悪の状況なのに、そのうちの1体が回復魔法持ちとか舐めてんのっ!?」


 回復魔法を使うボスモンスターとか、クレーム入れられて弱体案件でしょ!?

 つうかメナスはどうやってそんな相手を殺しきったんだよ!?


 しかし状況の悪化はこの程度では終わらなかった。現実は非常である。

 毒づく俺の目の前で、怒れる巨人の全身が真っ黒なオーラのような魔力に包まれる。その姿はまるでヴァルゴのようで……。


「ってまさかっ!? ウッソだろテメェ!?」


 この身に宿した五感補正と敏捷性補正をフル動員し、消えるような疾さで振り下ろされたフューリーコロッサスの棍棒を回避する。

 揺れる地面、轟く爆音、巻き上がる粉塵。


 でもそんなことに構ってられるかぁーーーっ!!


「ふっざけんなよテメェ!? イントルーダーが回復魔法を使うだけでもイカレてるのに、魔迅まで使ってくるとはどういう了見だよ!?」

「へぇ? この技術は魔迅っていうのかい? 君は本当に何でも知っているねぇ」


 魔迅も知らないくせに使わせてんじゃねぇよ!

 竜王ですら、HPを削り切ったあとの発狂モードまでは竜化しなかったぞこらぁっ!!


「そうだな……。魔迅のことを教えてもらったお礼というわけではないが、この子たちの事を少し教えてあげようじゃないか。見ているだけでは少々退屈だしね」

「退屈だって言うなら前に出てかかって来いってのーーー!」


 絶対に来ないでしょうけどねっ!

 イントルーダー同士では同士討ちが発生しないのか、エンシェントヒュドラの首ごと叩き付けられる魔迅からの1撃が厄介すぎるんですけどぉっ!?


「それではまず、魔迅を操る怒りの巨人から紹介しよう。彼の名はフューリーコロッサス。暴王のゆりかごで見つけた、暴力に特化したようなイントルーダーさ」


 ちっ、まさに暴力の王様ってわけぇ!?


 竜王も竜化やブレスを放ってきたし、イントルーダーって元々は各種族の人間だったりするの?

 それとも魔物と戦う為に授かった人間の力を行使できる魔物だからイントルーダーだったり?


 俺の職業補正は魔迅を使用した巨人の動きすら置き去りに出来るみたいだけど、デカいってのはヤバいなぁ。

 移動速度と攻撃範囲に絶対的なアドバンテージがあるじゃないか……!


 つうかメナスって鑑定は持ってないはずだよな? それでなんで魔物の名前を正確に……?

 って、造魔を使用する時にリスト化されたイメージが出るから、そこで確認してるのか。


「次に紹介するのは、無数の首を持つ巨竜エンシェントヒュドラ。終焉の箱庭で出会ったイントルーダーでね。その無数の首が表すように、イントルーダーにしては搦め手が得意な子なんだ」

「けっ! 確かになぁっ!」


 メナスの言う事に同意するのは癪だけど、コイツの動きにはなんとなくを感じなくもない。

 方向感覚を奪うように繰り出される噛み付き、フューリ-コロッサスの動きをサポートしながら俺の視界を遮るような動きなど、明らかに悪意を持った動きに見える。


 何よりも、搦め手が大好きそうなメナスが褒めている時点でろくな魔物じゃないな、うんっ。


「そして最後は始まりの黒で遭遇した、初めて出会ったイントルーダー、アポリトボルボロスだ。いやぁこの子には参ったよ。手持ちの戦力全てを投入して削り切った体力を、目の前でみるみる回復させられるんだからねぇ?」

「気持ちが分かってるならやめろっての!! こっちはイントルーダー3体を同時に相手取ってんだよ!? その辺もっと考慮して!!」


 1体1体もかなり厄介だっていうのに、連携されると厄介さ百倍って感じだよぉ!


 イントルーダーの無尽の魔力と魔法攻撃力があれば、ディバインウェーブ重ねがけよりも早い速度で回復できてしまうみたいだ。

 回復魔法を使うイントルーダー、魔迅を使うイントルーダー、単体でも厄介だってのにもーっ!


 エンシェントヒュドラさんも張り切らないで!

 全方向攻撃に地中からの攻撃まで織り交ぜなくていいからぁ!


「始まりの黒は、討伐されたガルクーザの血溜りから発生したアウターだと言われているそうだよ。アポリトボルボロスの厄介さを考えると、その説もあながち嘘だとも言えない気がしてこないかな?」

「知らないっての! っていうかアウターがそんな理由で発生するってことも初めて知ったよ!? アウターって世界に元々あるものじゃないの!?」


 エンシェントヒュドラの噛み付きとフューリーコロッサスの魔迅を躱しながら、その2体にディバインウェーブの重ねがけを続けているけど……。

 正直、突破できる気がしないな……。


 ディバインウェーブのハウリングは確かに超強力だけど、イントルーダーの高い魔法攻撃力で常時回復魔法が飛んでいる状態じゃあ流石に削りきれない。


 絶空に魔力を込めて1撃必殺を狙ってみるか……?

 でも絶空は発狂モードに備えて、なるべくギリギリまで隠しておきたいんだけどなぁ……!


「くっ、そ……! このままじゃジリ貧だ……!」


 黒き魔力を纏った巨人が神速の1撃を振り下ろしてくる。

 異形のドラゴンが細長い頭部を縦横無尽に動かして、どこまでもどこまでも追いかけてくる。

 その2体を1歩引いた位置で見守りながら、常時ヒールライトをかけ続ける灰の泥。


 HPさえ、HPさえ削りきれれば状況を打破できるだろうにさぁ!

 エンシェントヒュドラの首を切り落とすことも、フューリーコロッサスの両足に攻撃して機動力を奪うこともHPに阻まれてしまい、攻撃しても攻撃しても全然効果が出てくれない……!


「イントルーダー複数体相手は、うっぜぇなぁぁぁぁもうーーーっ!」


 まだ俺独りじゃなかったら手の打ちようもあったんだけど……。

 劣化竜王なんか呼び出しても瞬殺されて役に立たないし、どうするかなぁ……!?


「あははっ! いいじゃないかいいじゃないかっ!」 


 イラつく俺に反してメナスはとてもご機嫌なのが余計にムカつくーーーっ!


「追い詰められたような言動をしながらも君からは一切絶望を感じない。この子たちに囲まれていてもまだ勝算があるのかい? ああ楽しみだ……。君はこの先にいったい何を見せてくれるのかな?」

「ゴキゲンなところ悪いんですけど、もうちょっと手心加えてもらっていいですかねぇ!? こっちはパーティメンバーと分断されて独りで戦ってるんすよぉ!? せめて回復魔法くらい自重してくれますぅ!?」

「あはははっ! 未だにこの状況を茶化す余裕があるんだから恐れ入るよ! それに君が言うほどこちらにも余裕があるわけじゃなさそうだ。回復魔法を止めた瞬間に君に押し切られそうで戦々恐々としているよ」


 ちっ、完全に優勢の癖しやがって冷静な戦力分析ですこと!

 実際ヒールライトさえ使われていなければ、既にフューリーコロッサスとエンシェントヒュドラは倒せていた気がするんだよなぁ……!


「イントルーダー3体を同時に相手取っておきながら、アポリトボルボロスがいなかったら君は勝利を収めていたんじゃないのかい? ふふふっ。君の強さは人間とは思えない、最早異次元の領域だよ」

「つうかお前こそ、どうやってそんな奴を倒したっていうんだよ!? ただでさえ耐久力の凄まじいイントルーダーが回復魔法を使ってきたら、事実上倒すのは不可能だろそんなの!?」

「あははっ! アポリトボルボロスだけなら押し切れそうな君がそれを言うのかいっ? でもそうだね。君との勝負に関係のない情報だから教えてあげようかな。これを使用したのさ」


 アポリトボルボロスの体内にいるメナスが取り出して見せたのは、まるで太陽のように輝く美しい1本の杖。


「これは3種の神器の1つで『始界の王笏』というレリックアイテムなんだ」

「神器だぁ!?」

「この杖を持った者は、『崩界』という必殺のウェポンスキルを使用することが可能になるんだよ」


 3種の神器に、崩界というウェポンスキル。


 つまり神が作り出したと言われるレリックアイテムに武器が存在していたってことかよぉ。

 そしてそのスキルは、イントルーダーさえ滅ぼしてしまえるほどに強力ってかぁ?


「崩界はね。自身の寿命を捧げることで、目の前の敵を確実に滅ぼしてしまうことが可能なウェポンスキルなんだ。使われた方は防ぐ方法は無く、使用した方も失った寿命を取り戻す方法は無いとのことだよ」

「ちっ……、まさにチート武器にチートスキルだなぁ……! 俺に崩界を放つ気が無いのは寿命の支払いを嫌って? それとも人間は効果対象外なのか?」

「そのどちらもだね。崩界で捧げる寿命は一生涯の約半分。つまり1度使ったら2度目はほぼ確実に命と引き換えになるんだ」


 寿命の約半分って、とんでもないリスクじゃねーか! そんなの誰が使うんだよ!?

 本当に今際の際、崩界を使用しないと今すぐ確実に殺されるってシチュエーションでしか使えねーだろそれっ!


 ああ、回復魔法を操るイントルーダーを目の前にしたら使っちゃうかもしれませんねーーーー!?


「崩界はレリックアイテムに付与されたスキルだけあって、対人戦でも使用可能なウェポンスキルなんだけど、魔物以外を対象とすると代償が倍になってしまうんだ。所謂スーサイドアタックって奴さ」


 対人戦でも使用可能な絶対即死攻撃とかふざけんなよぉ……!?

 ベラベラ解説してくれてる時点で、メナスは本当に崩界を使う気は無いんだろうけどね。


 メナスの開示した情報がブラフの可能性はあるけど、回復魔法を操るイントルーダーアポリトボルボロスをこの世界の人間が倒す方法として、崩界というウェポンスキルの存在はなかなかの説得力がある。


「それに、崩界は滅ぼす対象との力量差があるほどに代償が増してしまう危険な能力なんだ。イントルーダー3体を相手取る君に崩界を放ったとしたら此方の死は確実だろうからね。使う意味が無いんだよ」


 ただでさえ凄まじい代償を支払わなきゃいけないのに、相手によって更に代償が求められるのか……。
 
 回避不能の即死攻撃なんて、そのくらいの使用リスクが無いとおかしいっちゃおかしいんだろうけど。


「自分はかつての英雄達のように、自身の命を投げ打ってまで邪神ガルクーザを滅ぼしたりは出来ないかな」

「かつての英雄……。つまり建国の英雄達も始界の王笏を用いてガルクーザを退けたってことか?」

「ああ、これは一般には出回っていない情報なんだったね。話の流れで教えておこうか。各種族の代表者で構成された蒼穹の盟約というパーティは、神器を携え邪神ガルクーザに挑み、そして邪神と共に斃れたんだ」

「『蒼穹の盟約』……」


 一般には失伝している英雄達のパーティ名をあっさりと告げてくるメナス。

 こいつ、本当に何者なんだよ……!?


「崩界を使ってガルクーザを滅ぼしたまでは良かったんだけれどね。邪神ガルクーザはあまりにも強力すぎたんだ。崩界を使用した英雄たちは邪神を滅ぼした代償に、6人全員がその場で息絶えたそうだよ」

「…………え?」


 メナスの言葉に一瞬思考が停止する。

 ガルクーザとの戦いで、6人の英雄達全員が、犠牲になった……?


 思考に引っ張られて動きを止めた俺に、巨人の振り下ろした棍棒が叩き込まれる。


「うあああああああっ!!!」


 全身がバラバラになるようなその衝撃は、奇しくも俺の心境そのもののように思えた。
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