異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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5章 王国に潜む悪意2 それぞれの戦い

318 ダーティクラスター③ 沈魚落雁閉月羞花 (改)

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「「はぁ……! はぁ……! はぁんっ……!」」


 両手で激しく自身を慰める母上とエマ。

 発情は肉体に作用する状態異常で、催淫は精神に作用する状態異常だとするのならば、発情だけが作用する妾と催淫が重ねがけされている2人では、症状の重さが段違いなのやも知れぬな……。


「済まぬのじゃ2人とも……。動けるようになったら気配遮断して運んでやるからの……」


 母上と伯母のような存在であるエマの痴態も、我が家では最早見慣れた光景じゃ。


 自らの意思に反して乱れ狂う2人の姿には憐れみすら覚える。

 妾が動けるようになったらマグエルの寝室に移動して、大人しくダンの帰りを待つしかないかのう?


「……む、なんじゃ?」


 魔力枯渇の症状に苦しみながらもただ休む事に退屈を感じ始めていた妾は、オーラのように青い色をした魔力の塊が妾たちの周辺に複数漂ってきている事に気付く。


 なけなしの魔力を振り絞って察知スキルを発動するが、生体反応も魔物の反応も無しか。

 此奴らがなんなのかは分からぬが、少なくとも脅威となり得る存在ではなさそうかのう?


 いつでも振れるようにドラゴンイーターを握り立ち上がる妾の前で、数多の魔力体は次々と発光し始め、光の先に見知らぬ誰かの生涯が映し出されていく。


「これは……。ダーティクラスターとなった者たちの記憶、か……?」


 複数の魔力体から、複数の映像が同時に映し出される。

 時も場所も映し出されている人々も違うのに、けれど内容だけは似通っていた。


「う、うぅむ……。こんなものを見せられても、なんと言ったら良いのか……」


 ある者は話に聞き、ある者は姿絵を見て、会った事も無い妾に懸想する。


 竜人族の至宝、双竜姫ラトリア・ターム・ソクトルーナの美貌を受け継ぎ、白い肌は無垢を思わせ、銀の髪は月を思わせる絶世の竜の美姫。

 その炎のような赤い瞳に射抜かれた男は、まさに燃え上がるような恋の炎にその身を焦がすと言われている。


 竜人族の男に生まれてフラッタに惚れない者などいない、とさえ言われておるようじゃな。


「……そう言えば、以前の妾はこんな感じの扱いじゃったのぅ」


 家族からの愛情は常に感じておったし、出会う男からは常に美辞麗句を並べ立てられ賛美されておったものじゃ。

 ダンとニーナにやれやれと雑に扱われておるから、すっかり忘れておったのじゃ。


 父上も母上も竜人族では評判の美形夫婦で、その美貌を受け継ぐことが出来た兄上と妾にとって、美しさとは身近に感じながらもどこかピンとこないものじゃった。

 どこに行っても誰に会っても美しいと褒められて、妾も兄上も異性から求愛されることは日常的な出来事じゃったなぁ。


「くく……。そんな妾が、今では冴えない男にくびったけなのじゃ」


 どうして妾がダンに惹かれたのか、それを1番疑問に思っておるのは他ならぬダンじゃった。

 ダンは、極限状態で助けられたことによる釣り橋がどうとかー、言っておったがの。


 妾自身、おっぱいを触られても一緒のベッドで眠りについても構わないと思えるほどダンを好きになった理由は、いまいち分かっていなかったやも知れぬなぁ。


 ダンと初めて出会った時のことは、今でも何度も思い出す。


 初めて交わした会話が、戦う気が無いなら勝手に死んでろ、はいくらなんでも酷すぎると思うのじゃ。

 でもあのおかげで妾は活力を取り戻し、あの場で力尽きることも無くなって、今となっては母上も兄上も取り戻すことが出来たのじゃ。


「本当に……。よくあの場に飛び込んで来てくれたものよのぅ……」


 あの時の2人は、とてもとても弱かった。


 後に聞くと2人はあの場に足を踏み入れることすら初めてで、奥から引っ張ってきた魔物の群れの強さと大きさを考えれば、2人の行動は自殺行為以外の何者でもない。

 もしあの場で妾が戦闘が終わる前に気を失ってしまっていたら、恐らく3人とも殺されていたのは間違いないじゃろう。


 それほどまでに、ダンもニーナもまだ未熟であった。


「……だと言うのに、あの2人と来たら」


 ダンとニーナはそれほど弱かったのに、妾を助ける為に死地に飛び込む強さを持っていた。

 口では死ねと罵りながら、決して妾を見捨てず、逃げることも諦めることもしようとはしなかった。


 出会ったばかりで、しかも友好的ではなかった妾を助ける為に、自分の手に余るほどの死地に迷いなく飛ぶ込む度胸。

 それは勇気と言うにはあまりに無謀な行為。


 妾はあの時の2人に美しさを感じてしまったのじゃ。


 自分の身の危険も顧みず、誰かの為に身を投げ出せる献身。

 人とはこうあるべきであると、善性の象徴のように思えたのじゃ。




「違うのフラッタ。ダンのは献身でも自己犠牲でもない。そんなに素敵なものじゃないの」


 けれどその話をニーナにしたら、ニーナはとても悲しそうな顔をして首を横に振ったのじゃ。


「ダンはね。危険を顧みないんじゃないの。始めから自分のことが勘定に入ってないの」


 妾を抱きしめて撫でながら、ニーナは悲しげに話してくれた。


「投げ出すどころか、ダンは自分の命に執着も頓着も無いの。彼は今でも、自分のせいで多くの人を死なせてしまったと思い込んでいるから……」


 ダンが死を選ばないのは、ニーナがいるから。

 ニーナがダンと共に生きる事を望む限り、ダンは決して自分の命を投げ出すことは出来ないのだとニーナは語った。


「あの人が私を助けてくれたのはね、なんで沢山の人の命を奪った自分は生きているのに、自身は何も悪くないこの子は生きるのが許されていないんだ、そんなのおかしいじゃないかって思ったからなの」


 妾の前ではいつも優しくて、いつも正しく妾を導いてくれるダン。

 けれど妾がダンの家族になる前は、ダンは良く泣いて何度も迷って、いつもボロボロに傷ついてはニーナとティムルに縋るように過ごしていたという。


「自分が嫌いで嫌いで仕方ないダンは、自分じゃない人が不幸になる事がどうしても許せなかったんだと思うの」


 妾を家に迎えてくれた日、ダンは妾を泣かせてしまった事を悔いて、自身を責める怒りで立っていられないほどに消耗してしまっていたのだと聞かされた。

 ダンに受け入れてもらえてただ嬉しかった妾の横で、ダンがそこまで苦しんでいたとは夢にも思わなかったのじゃ……。


 しかし黙り込む妾に頬ずりしながら話を続けるニーナの声は、これまでと違って明るくなった。


「でもあの日フラッタを家族に迎えてから、ダンは自分の事を少しずつ受け入れることが出来るようになっていったのっ」

「……えっ」

「フラッタがダンに大好きだよーっ! って言い続けてくれたから、ダンも素直に気持ちを受け取れるようになったんだよ? だから私ねっ、フラッタにすっごくすっごく感謝してるのーっ!」

「えっ? えっ?」


 戸惑う妾に向けられるニーナの眼差しはどこまでも柔らかい。

 その目は妾を見ているようで、過ぎ去った遠い日を懐かしむように細められている。


「なんで……、なんでそれが妾のおかげになるのじゃ?」

「ダンは変な人だからさー。私とティムルを奴隷にしていることをずっと独りで悔やんでいたの。私もティムルも受け入れていたし、状況的にも仕方なかった。それでもダンはずっと負い目を感じていたんだ」


 ダンがニーナを奴隷として所有しなければ、ニーナはステイルークでその命を落としていた。

 ダンがティムルを奴隷として購入しなければ、ティムルは犯罪者として劣悪な環境下に送られ、恐らくは長生きできなかった。


 どこに負い目を感じる要素があるというのじゃ……?


「じゃがっ……! ニーナもティムルも、ダンに好きだとあんなに沢山伝えておったではないか……!」

「……ううん。奴隷の私達じゃ、ダンの心は動かせなかったんだ。私とティムルが何度ダンを好きだと言っても、自分はそんな2人を物として扱っている最低の男なんだーって、ダンはずっと悩んでたの」


 ダンが2人を奴隷にしたことで2人は不幸にならずに済んだのに。

 そのおかげでニーナとティムルも幸せになって、幸せになれたんだと何度も伝えておったのに……。


 当のダンだけが、それをずっと悩み続けていた……。


「奴隷でも何でもないフラッタが、ダンに好きだよ好きだよーっ! って何度も伝えてくれたおかげで、ダンは私やティムルの好意も素直に受け取ってくれるようになっていったんだ」


 こんなにダンを大切に想うニーナの気持ちを、ダンは素直に受け取ることが出来なかった。

 でもダンとは何の関係性も無かった妾という存在のおかげで、ダンは余計な事を考えずに済んだ?


「素直なフラッタの凄く綺麗な心に触れられて、ダンは自分も素直になる事を知ったんだよ。だからありがとうフラッタ。貴女は私達の恩人なのーっ」


 何度も聞かされた綺麗、美しいという言葉。

 今まで誰に聞かされても何も思うことはなかったというのに、ニーナに綺麗だと言われたことが驚くほど嬉しく感じられた。


 ニーナこそ……。

 ダンもニーナも、ティムルもリーチェもヴァルゴも、ムーリだって母上だってエマだってターニアだって、幼い妾などよりずっとずっと美しい心の持ち主なのじゃ。


 そんな素敵なニーナに綺麗だと言って貰えたことが、何よりも誇らしく感じられた。


「ダンはこの世界に降り立った時に、1度心が死んじゃったんだ」

「え……」

「魔物も魔法も無い、危険とは無縁の世界からこの世界に来て、軽い気持ちで訪れた自分のせいで沢山の人を死なせたと思いこんだダンは、どうしても自分を許せなくて……。自分の中身を1度、全部捨ててしまったの」


 ダンが元々済んでいた、ニホンという名の平和な世界。

 その世界でダンは戦いどころか口論すらまともにしたことがなく、武器を握ったことも命の危険を身近に感じることもなく平和に過ごしていたらしい。


 そんなダンが勘違いでこの世界に転移してしまい、その転移先で大量の命が奪われ、職業補正も覚悟も戦闘経験も何もかもを持たない状態でフレイムロードと対峙してしまうなど……。

 いったい、どれ程の恐怖であったのじゃろう。


 あんなに優しくて、本当は戦いなんて向いていないダンが、自分のせいで沢山の命を奪ってしまったと思いこんで、どれほど悩み苦しんでいたのじゃろう。


「だけどね。ダンは私達を愛してくれる度に、私達の中を満たしてくれる度に、自分自身の心の中も満たされていく人なんだ」


 思い悩む妾を抱きしめながら、やっぱり母上のように穏やかに語りかけてくるニーナ。


「私はね、ダンはもっともっと幸せになっていい人だと思うの。だからその為にもっともっとたくさんの女性をダンに迎えてもらって、ダンの中を幸せでいっぱいにしてあげたいのっ」

「……ニーナ」


 ダンの幸せを願い、その為にもっと多くの女性をダンに愛して欲しいと笑うニーナの笑顔はあまりにも眩しくて……。

 上っ面だけで褒められていた自分の身が、恥ずかしくて恥ずかしくて仕方ないのじゃ。


 本当の美しさとは誰かの幸福を素直に願えるその姿勢であると、皆と家族になったことで学ぶことが出来た。


 面倒だ面倒だと言いながら、王国中の人々を笑顔に変えてしまったダン。

 そんなダンを誰よりも幸せにしたいと願うニーナ。


 妾の家族は皆、本当に美しい人ばかりなのじゃっ!

 妾もこの家族の一員として恥ずかしくないよう、美しくありたいと心から願ったのじゃった。





「……っと、ついつい物思いに耽ってしまったのじゃ」


 ダンのこと、ニーナとの会話を思い出している間に、いつの間にか映し出された映像は終わっていたようじゃ。


 無数の魔力体が妾の周囲を漂い、まるで『こんなにも貴女のことが好きだったんだ。その想いを知って欲しい』とでも言いたげな様子なのじゃ。

 ん~、しかしのう……。


「済まぬが妾はおぬしらの半分以上とは会った事もないし、顔も名前も知らぬ相手に執着も愛情も何も無いのじゃ。一方的に好意を伝えられ、それに応えよと求められても迷惑なだけなのじゃ」


 妾の言葉に、魔力体から驚愕と戸惑い、そして怒りの感情が伝わってくる。

 しかし怒られても困るのじゃ。おぬしらと妾には接点すら無かったわけじゃし。


「妾の上っ面だけを見ているお主等に興味など無い。さっさと消え失せい。お主らのような者に煽てられていたかつての妾は、危うくお主らのような醜い大人になってしまうところだったのじゃ」


 本当の美しさ、気高さを見失いかけていた。

 魚が泳ぐのを忘れ、鳥が羽ばたくこともできず、月が恥じらい身を隠し、花が負けを認めて萎むほどの美しさとは、当人の生き様にこそ宿るというもの。


 母上もとても美しい人だと思うのじゃが、父を愛し抜き、支配に抗って妾を逃がした強さにこそ、母上の美しさの本質が宿っているというものじゃ。


「妾に懸想していたというのであれば、何故妾が顔も名前も知らぬほどに距離を取っておったのじゃ? なぜ、その手を離さないとほぼ初対面のニーナに生涯を誓ったダンのように、妾に近づこうとしてこなかったのじゃ?」


 ダンを、ニーナを、母上を美しいと思う反面、此奴らをここまで醜いと感じてしまうのは、此奴らは内面こそが醜悪で見るに堪えん存在だからじゃ。

 自分から踏み込む事を恐れ、その想いを伝える努力をすることも無く、けれど幸運にも相手が自分の想いを知り、それに応える事を望むような怠惰で腐った性根の持ち主になど、妾が惹かれるわけなかろうよ。


「傷つくのが怖かったか? この意気地なしどもめが。お主らなどに一切興味は無い。疾く去るが良い」


 吐き捨てる妾の言葉に光を明滅させ、一層怒り狂う魔力体ども。

 付き合うのも馬鹿馬鹿しいが、いい加減鬱陶しいのう。


「むっ!? いや、これは……」


 どれ、切り払って霧散させてやろうとドラゴンイーターを握る右手に力を込めた時、それは起こった。


 魔法陣も出ず、何の予兆も感じられなかったというのに、魔力体の下の地面から唾液に塗れた醜い舌が生えてきて、魔力体に絡みついて捕らえていく。

 その嫌悪感を煽る舌はかなり細く小さくなっているものの、恐らくはダーティクラスターのもののように見えた。


 ぐちゅぐちゅと粘着性を感じる嫌な音を立てながら、次々と魔力体を地面に引きずり込んでいく無数の舌。

 捕えられた魔力体からはもう怒りは発せられず、恐怖と戸惑い、そして舌に絡めとられた嫌悪感だけが伝わってくるわ。


「自業自得じゃ馬鹿者どもが。精々可愛がってもらうといいのじゃ」


 瞬く間に全ての魔力体が引きずり込まれると、静かになった辺りには母上とエマの喘ぎ声だけが響いている。


 今のがなんなのかは分からぬが、人の身で魔物となった代償といったところかの?

 人工的にイントルーダーを発生させるなど、何の犠牲や危険性も無しに実現できるわけがないということか。


「さて、どうやら本当に片付いたみたいなのじゃが……。どうするかのう?」


 妾自身もまだ発情が解除されておらぬし……。

 もはや下半身の衣服を脱ぎ捨て己の秘所に激しく指を出し入れし、陰核を摘み上げている2人の姿を人目に晒す訳にはいかぬし……。


 やはり気配遮断スキルで姿を隠し、エマと母上をマグエルの寝室に放り込むしかないかのう。


「はぁんっ……! んぁぁっ……! やぁんっ……!」


 …………声だけは我慢してもらわねばならぬがな。


 しかし、強制的に高められた2人の姿は醜悪で哀れなのじゃ。

 ダンと愛し合っている皆の姿は幸福に満ちていて、見ているだけで自分も幸せに感じるほどに温かい光景じゃというのにのう。


 あんなに愛して貰える男性と出会うことが出来た妾達は、なんと幸せ者なのじゃろうな。


「さ、母上。エマ。気配遮断するから声を我慢して欲しいのじゃ」


 妾の呼びかけに、体を捩りながら快楽に耐え、必死に口を押さえる2人。

 そんな2人の脇から腕を通し、両肩を2人に貸して立ち上がらせる。


「んんっ……! はっ、母上とエマに触れられるだけでもっ、辛いのぅ……!」


 母上とエマと触れ合っているだけで、腰が砕けそうなほどの快感が全身を駆け巡る。

 ダンの顔を思い出して快楽に耐えながら、気配遮断スキルを発動してアナザーポータルを詠唱する。


 妾の体も敏感になっておるから、とても救援には行けそうもないのじゃ……。

 我等が愛するダンの帰還を、寝室で自身を慰めながら待つしかなさそうじゃのう……。
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