異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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5章 王国に潜む悪意2 それぞれの戦い

316 ダーティクラスター① 催淫 (改)

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 舌を垂らし涎を零す醜悪な化け物、巨大な人の頭部の集合体であるダーティクラスター。

 妾たち3人に欲情した視線を向けてきており、ハァハァと興奮したように大きく乱れた呼吸音が聞こえてくる。


 下卑た表情を浮かべる無数の顔は始めはそれぞれの顔が判別できていたのに、今や一様に不快で下品な顔でしかなく、個人の区別が付かなくなってしまったのじゃ。


「他に伏兵は……。居ないようじゃな」


 ダーティクラスターを注視しながら察知スキルを発動する。

 気配遮断されている可能性も無くはないが、この空間には妾たち3人と目の前の汚物しか居ないようじゃな。


 しかし魔物から視線を逸らすのが危険だとは言え、色に狂った無数の視線に晒されるのは実に気分が悪いのう。

 ならばとっとと滅ぼしてしまうに限るのじゃ!


「行くのじゃ汚物共っ!!」


 ドラゴンイーターを握り締め距離を詰める。

 そんな妾に伸ばされた、ダーティクラスターの無数の巨大な舌。


 唾液に塗れ悪臭を放つそれは、見るだけで生理的嫌悪感を煽ってくる。

 舌にも唾液にも触れないよう細心の注意を払いながら、舌を迎え撃つようにドラゴンイーターを振るう。


「汚らわしい、下がれ下郎っ! 剛震撃ぃっ!」


 肉を絶つ感触が手に伝わる。

 どうやら此奴は物理耐性を持っておら……。


「な、なんじゃとぉっ!?」


 ドラゴンイーターによる剛震撃をまともに受けたはずの舌は、しかしてその事実を完璧に無視して妾の体目掛けて伸びてくる。

 咄嗟に後方に飛ぶ事で、舌に触れられるのをなんとか回避する。


 しかし下がった妾を見逃すことなく迫ってくる、ダーティクラスターの巨大な舌。


「舐めるでないっ! 神代より誘われし浄命の旋律。精練されし破滅の鉾。純然たる消滅の一矢。汝、我が盟約に応じ、万難砕く神気を孕め。インパクトノヴァ! 其は悠久の狭間に囚われし、真理と聖賢を司る者。無間の回廊開きし鍵は、無限の覚悟と夢幻の魂。神威の扉解き放ち、今轟くは摂理の衝撃。クルセイドロア!」


 全ての舌を回避しながらインパクトノヴァを放ち、クルセイドロアを放つ。

 しかしそんな妾を嘲笑うかのように、全ての攻撃を無視してただひたすらに舌を伸ばしてくるダーティクラスター。


「ちぃ……! なんなのじゃコイツは!?」


 手応えからして、妾の攻撃は効いているはずじゃぞ!?


 剣で斬られようが攻撃魔法を撃ち込まれようが、全く怯むことなく妾に舌を伸ばしてきおって……!

 まっこと汚らわしいのじゃっ!


「――――うっ! い、まのは……!」


 憤っている妾の体を駆け巡る、状態異常耐性が発動した感覚。

 慌てて鑑定するも、状態異常にはかかっておらぬ。耐性で防げたのか?


 此奴、状態異常を操ってくるのか……。


 しかし、いったいどうやって妾に状態異常を仕掛けてきた?

 舌は勿論のこと、そこから飛ばされる唾液すら全て躱しておるというのに……。


「ふぅぅぅ……。汚物でもイントルーダーか。侮れぬ相手のようじゃな」


 元より長期戦に臨むつもりはないが、時間をかけるのは危険のようじゃ。


 ダメージを意に介さない此奴に触れぬように速攻を仕掛けるのは少々骨が折れそうじゃが、嫌悪感のおかげで五感が過敏になっておる。

 今の妾は此奴のどんな小さな動きとて見逃すことは無かろう!


「一気に決めさせてもらうのじゃっ! 剛震撃ぃっ!!」


 それなり速度で伸ばされる舌の動きも、今の妾には止まって見える。

 妾に触れようと伸びてくる巨大な舌を掻い潜り、ダーティクラスターに剛震撃を見舞っていく。


 此奴が全く意に介さなかったとしても、攻撃はちゃんと通じているはずなのじゃ。

 まずは体力を削りきって、この下卑た舌全てを根元から叩き切ってやるのじゃ!


「ちっ……! 鬱陶しいっ!」


 攻撃に怯まないというのは、これほど厄介なものなのか……!


 攻撃の直後というのはどうしても体が流れてしまうし、なによりも手応えはあるゆえに、どうしても気が緩みそうになってしまうのじゃ。

 攻撃が通じない、当たらない、受け付けない相手のことは警戒することが出来ると言うのに、あえて無防備を晒される事がここまで面倒だとは思わなかったのじゃ……!


「――――くっ! またなのじゃ……!」


 舌を掻い潜りドラゴンイーターを叩き込む間、何度も繰り返される状態異常を防いだ感覚。


 いったい何処から攻撃を受けているのじゃ……!?

 リーチェの精霊魔法のような目に見えない魔法を放っておるのか? 

 しかし妾の五感には異常が捉えられぬ……! くそ、鬱陶しいのう!


 舌から滴る唾液で地面は滑り、ダーティクラスターから送られてくる卑猥な視線で全身が粟立つ。

 荒い吐息は鼻が曲がりそうな悪臭を放ち、上昇した五感補正を憎らしく思うほどなのじゃ……!


「ぬぅ……! 不快だからと避け続けるのも限界なのじゃ……!」


 舌にも唾液にも触れぬよう立ち回っていたのじゃが……。

 限定された戦闘領域、巨大なダーティクラスター、絶えず滴り続ける大量の唾液と、最早唾液に濡れていない地面を探す方が難しい状況になってきおった。


 母上とエマが妾に先んじて唾液を踏みしめてくれているので、踏みつけても危険性がないことは分かっておるのじゃが……。

 どうしても嫌悪感が先立って躊躇してしまう。


 ダンと家族以外の唾液なんぞ触れたくはないが……、限られた足場で戦えるほど此奴は生半な相手ではない。

 意を決して濡れた地面を踏みつける。


「……累積した五感補正が恨めしくなるが、やはり危険は無さそうじゃな」


 足裏から伝わるヌメリとした不快な感触。

 が、状態異常にかかったような事はないようじゃ。


 ダーティクラスターの猛攻を躱しながら、足場の状態を確かめていく。

 多少滑りやすくはあるが、戦闘に支障はなさそうじゃな。気持ち悪くて仕方ないがのう!


「うおおおおっ!! せぇぇぇいっ!!」


 1度唾液を踏んで吹っ切れた妾は、移動を控えて踏み止まり、その分攻撃を優先する。


 卑猥な視線が鬱陶しい。

 漂う悪臭が鬱陶しい。

 滑る地面が鬱陶しい。

 引っ切り無しに発動する、状態異常耐性が鬱陶しい……!!


 此奴との戦いは長引くほどに精神を磨耗する。

 ならば深く集中しながら一気に滅ぼすことこそ最善手よ!


「潰れよっ! 砕けよぉぉっ!!」


 迫る舌に向かって剛震撃を叩きつける。

 回避中で攻撃態勢が取れない場合は、インパクトノヴァを撃ち込んでいく。


「……斬れたっ!!」


 不快感に悩まされながらどれ程の時間攻撃を続けたのか、ようやくドラゴンイーターが妾に迫る滑った舌を根元から斬り飛ばす事に成功する。

 ようやく体力を削り終えたようじゃ。この機は逃さぬぞっ!


「うおおおお!! 滅びるが良いのじゃああああああっ!!」


 妾に伸びてくる巨大な舌を1本、また1本と根元から斬り飛ばす。

 嫌悪感に耐えながら戦い続けた反動か、舌を斬り飛ばすのが爽快じゃのう!


 唾液と鮮血を撒き散らしながら地面に転がる無数の舌。


 悪臭のする唾液と血臭が混ざり合って、頭痛がするほど酷い臭いが充満する。

 戦闘領域を限定されていなければ場所を移動できるのじゃがなぁ……!


 妾の苛立ちに呼応するかのように繰り返される、全状態異常耐性の発動。

 く、イラつくのう……! 鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい……!


「はぁ……! はぁ……! このまま……、跡形も無く……、消し飛ばして……、やるのじゃっ……!」


 不快感のせいか、どうにも息が乱れてしまう。

 そして大きく息を吸い込む毎に鼻に届く悪臭にまた苛々が募り、余計に息が乱れてしまうという悪循環。


 数日間全力で戦えるほどの持久力補正が累積しておるというのに、それを上回るほどの不快感で妾の体力を奪ってくるとは最低の魔物なのじゃ。

 此奴を倒すことができれば、この不快感から解放される……!


「避けなさいフラッタぁっ!!」

「――――っ!!」


 突如響いた母上の声に無意識で反応し、全力でその場を移動する。

 妾が一瞬前まで居た場所に殺到してくる、切り捨てられた無数の舌。


「きっ、斬り飛ばしてやった舌まで動きおるとは……!」


 巨大でヌメリを帯びた魔物の舌が目の前でグチュグチュと絡み合い蠢いている光景に、不快感を通り越して恐怖すら覚えてしまう。


 一瞬遅れていたら、あの舌の中に囚われ、妾の全身はあの舌たちに弄ばれていた……。

 そのあまりにもおぞましい想像に、思わずごくりと生唾を飲み込んでしまう。


 気をしっかり持つのじゃ!

 不快感で不覚を取るなどあってはならぬのじゃ!


「はぁっ! はぁっ! い、そぎなさい、フラッタ……! 私たちは、既に相手の術中に……!」

「はぁ……! はぁ……! はぁ……! は、母上!? い、いったい……、どうさ、れたのじゃっ!?」


 大きく呼吸の乱れた母上の言葉に、返答する妾も大きく息を乱してしまう。


 なんじゃこれは……!? いったいなにが起きておるのじゃ!?


 体力が無くなっている感覚はない。

 というのに体は熱く呼吸は乱れ、思考が少しずつぼやけていくようじゃ……!


「フ、ラッタ様ぁっ……! か、鑑定を……! はぁぁぁぁぁん……!」

「エマ……!? だい、じょうぶなのじゃ……!?」


 戦闘に参加していない母上とエマが、アレだけ呼吸を乱しているのは何故なのじゃっ!?

 エマに言われるまで鑑定に気付かなかった己の迂闊さを悔やみながら、自分と2人を素早く鑑定する。



 フラッタ・ム・ソクトルーナ
 女 14歳 竜人族 竜化解放 竜騎士LV104
 装備 ドラゴンイーター ドラゴンサークレット ドラゴンプレートメイル
    ドラゴンガントレット 飛竜の靴 竜珠の護り
 状態異常 発情


 ラトリア・ターム・ソクトルーナ
 女 42歳 竜人族 竜化解放 竜騎士LV167
 装備 重銀のロングソード 重銀のロングソード 聖銀のプレートメイル
    火竜のグリーヴ 火竜の護り
 状態異常 発情 催淫


 エマーソン・ソクトヴェルナ
 女 43歳 竜人族 竜化解放 探索者LV36
 装備 聖銀のロングソード エレメンタルサークレット 精霊銀の軽鎧
    ミスリルグリーヴ 海竜のペンダント
 状態異常 発情 催淫



「……なっ!?」


 3人とも状態異常にかかっておる!?

 しかも発情と催淫じゃとぉっ!?


「う……あぁ……!」


 発情状態を認識した途端に自覚させられる、今の自分の状態。


 体温を上げるのは怒りではなく性欲。

 息が乱れるのは消耗ではなく、興奮した身体の昂り。


 思考を乱すのは嫌悪感ではなく、淫らな感情であったというのかっ……!!


「やって、くれおってぇ……!」


 妾が自身の状態に気付いたと見て取ったダーティクラスターは、醜悪な表情を更に歪めて厭らしく嗤う。

 そして切り捨てたはずの舌が瞬く間に再生し、その舌を妾に見せ付けるかのようにゆっくりと動かしていく。


「はぁっ! はぁっ! フ、ラッタぁ……! おねが、いぃぃ……、急いでぇ……!」

「だ、れが……! 貴様など受、け入れる……、ものかぁ……! はぁぁぁん!」


 母上とエマの艶を帯びた声が響く。

 察知スキルで確認すると2人は立っていることも出来ずに、ヨダレに塗れた地面に膝をついて蹲ってしまっておる。


 明らかに妾よりも症状が重い……!

 妾には付与されていない催淫の差なのじゃ……!?


「ぐっ、くさっ……!? 此奴なにを……!」


 戸惑う妾に近寄るでもなく、相変わらず下卑た笑いを浮かべながら静かに息を吹きかけてくるダーティクラスター。

 悪臭に塗れたその吐息に触れた途端に妾の体の火照りは増して、体に力が入らなくなっていく……!


「此奴……! 吐息から発情を仕掛けてきておった、のかぁ……!」


 無数の口から妾に向かって、何度も吐息を吹きかけてくるダーティクラスター。

 その吐息に触れるたびに体は火照り、呼吸は乱れ、手足の力は抜けていき、思考は情欲で満たされていく。


 妾が必死で快楽に抗う様子を楽しむかのように、決して近寄らずに淫気だけを吹きかけてきおる……!


「はぁ……! はぁ……! はぁ、ぁんっ……!」


 卑猥なことしか考えられない。

 足に力が入らない。


 母上やエマと同じように立っていられず、涎で滑る地面に膝をついてしまう妾に、舌なめずりをしながらゆっくり近づいてくるダーティークラスター。

 発情しきった妾に止めを刺す為に、醜く滑った無数の舌を、ゆっくりゆっくりと妾の体に向けて伸ばしてくる。

 妾の体はその無数の先端に蹂躙される事を望むかのように、妾の意思に逆らって全身の力を抜いていく。


「あ……あぁ……」


 此奴に身を委ねれば、いったいどれ程の快楽を味わえるのじゃろう……。

 迫ってくる巨大な舌を受け入れるかのように、妾の口はゆっくりと開いていき……。


「――――其は悠久の狭間に囚われし……、真理と聖賢を司る者!」


 瞬間、体の奥底から燃えるような怒りが湧き起こる。


「無間の回廊……、開きし鍵はっ! 無限の覚悟と夢幻の魂ぃっ! 神威の扉解き放ち、今轟くは摂理の衝撃。クルセイドロアァァァァッ!!」


 迫る舌を受け入れようと開いた口でクルセイドロアを詠唱し、間近に接近していた無数の舌を聖属性の衝撃波で吹き飛ばす。

 突然の衝撃に、出現してから初めてその表情を驚愕に歪めるダーティクラスター。


「……さぬ。許さぬぞ……。貴様だけは、絶対に許さぬ……!!」


 発情しきった妾の体を塗り潰すような、激しい怒りが全身を駆け巡る。
 

 なんという不甲斐なさじゃ……。

 どうして妾は毎回こうなってしまうのじゃ……!


 スレイブシンボルの時はダンとの婚姻契約を破棄され、今は肉体をダンから奪われかけてしもうた……。

 またしても妾は、危うくダンから妾を奪われてしまうところだったのじゃ……!!


「ダーティクラスター……、いや、ブルーヴァ・ノイ・タルフトークっ!! 1度ならず2度までも妾をダンから奪おうとしたこと……。万死にっ! 値するのじゃああああっ!!」


 激情のままに竜化を発動する。

 発情しきった体は竜化で更に敏感になり、最早呼吸するだけで全身に快楽が駆け巡る。


「それほどまでに妾を欲するというのなら、こちらも全力で相手をしてやろうではないかっ!」


 しかし快楽が全身を駆け巡る度に、ダン以外の相手に快楽を与えられている事実に怒りが爆発するようじゃ……!


「妾の名はフラッタ・ム・ソクトルーナ! スペルド王国竜爵ゴルディア・モーノ・ソクトルーナと、その妻ラトリア・ターム・ソクトルーナの娘であるぞっ!!」


 怒りのままにドラゴンイーターを振るい、叩き潰すつもりでダーティクラスターを斬り付ける。


「王国最強と呼ばれた我が竜爵家の剣、存分に味わうが良いのじゃぁぁぁっ!!」


 その巨大な剣は叩き付けた顔の1つを粉砕し、戦闘領域を区切る魔法障壁までダーティクラフターを吹き飛ばす。

 ダーティクラフターの巨体がなす術もなく魔法障壁に叩きつけられるのを確認し、必死に両手で自分の秘所を弄る母上とエマに駆け寄った。


「加護の天蓋。守護の灯火。神聖の領域。祝福の抱擁。破邪の恩寵、魔を討ち祓え。サンクチュアリ」


 2人を包むように支援魔法のサンクチュアリを展開する。


 確証は無いが、発情と催淫は散漫と同じように遅効性で認識しにくい状態異常と見た。

 既にかかっている状態異常を治療することは妾には出来ぬが、サンクチュアリで異常を引き起こす吐息を防ぐことは出来るかもしれぬ。


 気休め程度に母上とエマを保護した妾は、改めてダーティクラスターの姿を見据える。

 その姿に嫌悪感を覚えることもなく、ただ1秒でも早く消し去ってやりたくてしかたがない。


 ドラゴンイーターに魔力吸収は付与されておらぬ。

 魔力自動回復スキルを持つダンも近くに居らぬ。


 竜化は普段よりもずっと早く解けてしまうじゃろうし、魔力枯渇を起こしたら戦闘中に復帰するのは難しかろうな。


「……ふん。もとより望む所なのじゃ。汚物共など一瞬で滅ぼしてくれようぞ」


 竜化で強化された妾の瞳が、滅ぼすべき汚物を捉えて離さない。


 イントルーダー相手に短期決戦を強いられるとはのう。

 しかし今は好都合なのじゃ。


 ダーティクラスターよ。

 妾が1秒でも早くこの世から消滅させてやるからのう……!!
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