異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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5章 王国に潜む悪意2 それぞれの戦い

309 対面 (改)

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「それじゃすぐに行くよ母さん! 虚ろな経路。点と線。見えざる流れ。空と実。求めし彼方へ繋いで到れ。ポータル」


 母さんからティムルの指示を聞き終えた私は、指示通りに母さんとステイルークに転移した。


 ポータルの転移先はステイルークの冒険者ギルド前。

 情報が集まるのはやっぱりここだと思う。

 状況が分からないまま闇雲に動くのは、1番やっちゃいけないことなのっ。まずは現状を把握しなくちゃねっ。


「ラスティさんっ! 来て欲しいのーっ!」


 母さんと2人でギルドに踏み込み、走り回っているラスティさんを捕まえる。


「ターニア姉さん! ニーナさん! 来てくれたんですか! 実は今、ステイルークはとても大変な状況で……!」

「うん分かってる。だから状況を説明してくれる? 私も母さんもステイルークを守るために戦いに来たのっ」

「ステイルークに巨大な魔物が出現したと聞いたわ。でもニーナにはその魔物に対抗できる力があるの」

「えっ!? ニーナさんが、ですか……!?」

「うん。信じられないかもしれないけれど本当なの。だからラスティ、私達への状況説明を最優先にしてもらえないかな?」


 ステイルークで魔物察知を発動しても、街の中からじゃ巨大な反応は見つけられなかった。

 だからまずはイントルーダーの居場所を特定して、私がその場に赴かなきゃいけない。


 巨大魔物の目撃情報、ギルドに届いてると良いんだけど……。


「姉さんのこともニーナさんのことも、信じるに決まってますっ!」


 即座に私たちの事を優先する判断をしてくれたラスティさん。

 自分が持っていた書類を近くに居た別のギルド員に渡しながら説明している。


「少し外します! 大きな状況の変化があれば第2会議室に報告に来てください!」

「わ、分かったわ! 第2会議室ねっ」

「さ、2人ともこちらへ!」


 最低限の引継ぎを済ませたラスティさんは、ギルドの奥の小部屋に私と母さんを引っ張っていった。


「現在、ステイルークは夥しい魔物に襲撃を受けています」


 部屋に入るなり前置きもせずに、立ったままで状況説明を始めるラスティさん。

 その真剣な表情が、ステイルークが置かれている状況の厳しさを物語っているみたいなの。


「ですがダンさんから事前に注意喚起をいただいていたので、比較的迅速に対応できました。おかげで未だに犠牲者は無く、大きな被害は報告されてないです」

「犠牲者がいなくて良かったけど、巨大な魔物に関する情報は無いかな? 多分その魔物には私しか対処出来ないと思うから、なるべく早く駆けつけたいの」


 詳しく話を聞いて全体の状況を把握したいところだけど、今は私にしか出来ない事を最優先しなきゃだよね。

 イントルーダーを野放しにしたら被害は甚大になっちゃうよっ。


「はい。巨大な魔物はステイルークから南西の森で目撃されたようです。ですがその後は目撃情報も無く、これ以上詳しいことは何も……!」

「ステイルークから南西の森……、ホワイトラビットが出る場所だねっ!? あそこなら私もポータルで飛べるからすぐに行けるのっ」


 まだ村人だったダンが、動けない私を護りながら必死にホワイトラビットを狩っていた南西の森。

 私とダンにとっての始まりの場所にこんな理由で足を運ぶ事になるなんて……。なんだか不思議な気分だよぅ。


「街の防衛は今のところ警備隊の皆さんと、ダンさんの知り合いだっていう魔人族の皆さんで充分対応できています。ステイルークのことは心配要りません」

「守人の人たちも迅速に動いてくれたんだね。彼らが居るなら確かにステイルークの心配は要らないの」

「2人を見捨てたこの街の住人である私がこんなことを言うのは心苦しいですが……。どうかステイルークの為に力を貸してください……!」

「姉さんにまっかせなさいっ! ラスティやアミさんのいるステイルークを傷つけさせやしないんだからねっ!」


 ラスティさんに向けて力強く槍を掲げて見せる母さん。

 その姿に、ステイルークに対する蟠りは微塵も感じられない。


「行こうニーナ! 索敵までは私にも協力させてねっ」


 そして私に向けて、凄く頼もしい笑顔を向けてくれる母さん。


 ……こんな状況で不謹慎だって思うけど。

 母さんと一緒にこうして戦える事が嬉しくて仕方ないのっ!


 母さんに頷きを返し、ギルドの外に駆け出した。


「行くよ母さん! 虚ろな経路。点と線。見えざる流れ。空と実。求めし彼方へ繋いで到れ。ポータル」


 素早くポータルを詠唱して、母さんと共に戦場に転移した。



「うっ……! 酷い状況なのっ……!」

「あんなに穏やかだった森が……見る影も無いの……!」 


 転移先の惨状に、思わずうろたえてしまう私たち。

 かつてダンと2人でホワイトラビットを狩っていた静かな森は魔物に溢れ、ステイルーク警備隊とペネトレイターの連携によって森の外に出るのを食い止められている。


「私たちも行こうニーナ! 魔物の数を減らさなきゃ!」

「ん、その前にちょっとだけ待って……。駄目なの、反応が多すぎる……」


 魔物察知を発動してイントルーダーらしき気配を探すけど……。森中に魔物が充満し過ぎていて判別できないよっ。

 まずは数を減らさないと!


「其は悠久の狭間に囚われし、真理と聖賢を司る者。無間の回廊開きし鍵は、無限の覚悟と夢幻の魂。神威の扉解き放ち、今轟くは摂理の衝撃。クルセイドロア」


 森の中を聖属性の衝撃波が駆け抜ける。

 ここも遮蔽物が多くて威力が減衰されちゃうけど、それでも屋外には違いない。


 眼前の魔物が一瞬で消し飛んでいった。


「ひぇ~……。我が娘ながら、恐ろしい威力だよぅ……」

「貴女たちはダン様の奥様ですね……!? ご助力いただき感謝しますっ!」

「なぁっ!? い、今のは攻撃魔法……!? いやそれにしたって、こんな威力の攻撃魔法見たことねぇぞ!?」

「威力もだけど、範囲もやべぇよ……! 魔物に押されかけてたってのに、その魔物が1体も残ってねぇなんて……」


 ペネトレイターの人もステイルークの警備隊っぽい人も、魔物がいなくなってひと息つけているみたいなの。

 初対面の私たちの事を直ぐにダンのお嫁さんだって判断してもらえたおかげで、説明の手間も省けて良かった。


「それでニーナ? 大きい反応は見つかった?」

「ん、ちょっと待って……」


 クルセイドロアに続いて発動した、魔物察知の反応を確認する。


 大きい反応はまだ見つけられない……。

 けど魔物の密度が薄くなったこの一帯に向けて、ある方向から魔物の群れが一斉に動き出してくるのを感じる。


「えっとね、まだ魔物の数が多すぎてイントルーダーの反応自体は見つからないの。けど魔物が向かってくる方角は絞れたかな?」

「そ。それじゃそっちに向かって進もっか。魔物が魔物の指揮を執るなんて聞いたことないけど、ニーナたちが戦った竜王みたいなタイプかもしれないからね。魔物の密度が濃い場所が怪しいよっ」


 母さんの言葉に頷きながらも、少し不安を覚えてしまう。


 ドラゴンサーヴァントとは違って、この森は多種多様な魔物で溢れている。

 術者が近くに居なければ戦力を補充できない造魔、従属魔法の性質を考えるなら、もしかしたらここにメナスがいるのかも。


 イントルーダーを撃破するほどの相手の前に、母さんを連れて行ってもいいの……?


「あ……、母、さん……?」

「ふふ。心配させちゃってごめんね?」


 そんな風に迷う私の頭に静かに乗せられる、母さんの温かな右手。

 謝りながらも笑顔を見せてくれる母さんの姿が、なんだかとても頼もしく感じる。


「私が実力不足なのも、ニーナの強さも分かってるんだけどさぁ。やっぱり死地に娘を1人で送り出すのは、母親としては辛いよ。だからせめて、ニーナが敵と接触するまでは一緒に居させてくれる?」


 私の頭を撫でながら、優しく微笑む母さんの顔。


 いつも俯いていて、私に謝ってばかりの記憶しかない母さんの、穏やかで柔らかい笑顔。

 その顔になんだか凄く安心する。


 ……母さんって、こんな戦場でも笑えるくらい強い人だったんだなぁ。


「……うんっ! 私も母さんと一緒で凄く心強いのっ」


 ダンと離れて戦うことも、1人でイントルーダーと対峙しなきゃいけないことも不安だった。

 けれど母さんのおかげで、私は決して独りなんかじゃないってことを思い出すことが出来た。


 ……ありがとう母さん。

 これでもうイントルーダーなんか怖くないのっ!


「でもイントルーダーと出会ったら、直ぐにポータルで下がってね? 報告もしてもらわなきゃだから」

「分かってるわよっ。私がニーナと一緒に戦うよりも、仕合わせの暴君の誰かをポータルで連れて来たほうがニーナの助けになれるわけだしねっ」


 呪われていた私と母さん。

 まさかこんな風に2人で並び立って戦える日が来るなんて夢みたい。


 母さんは自分の役割をよく理解してくれていて、決して無理をしないと信じられる。

 イントルーダーの発見までついてきてもらってもきっと大丈夫なのっ。


「クルセイド……ロアーーーッ!」


 もう1度クルセイドロアを放ち魔物の群れを吹き飛ばして、魔物の密度が濃い方向に母さんと共に駆け出した。





 母さんと一緒にどれ程の魔物を狩ったんだろう。

 魔物の流れに逆らって森を直進するけれど、未だに状況に変化は無いの。


「……職業浸透、進んでないね」


 走りながら母さんを鑑定してみるけど、やっぱり職業浸透は全く進んでいない。

 だからこの魔物たちが自然発生した魔物じゃないのは間違いないの。


 だけど、造魔スキルや従属魔法でこれほどの魔物を生み出すことって……、出来るのかな?


「…………あれ?」

「ん? どうしたのニーナ?」


 相変わらずイントルーダー級の巨大反応は確認できないんだけど……。

 魔物の群れの中心に、生体反応が1つ確認できた。


「……注意して母さん。イントルーダーの反応は見つからないけど、魔物の中心に誰かいるの」

「……この状況で魔物に襲われていない人間なんて怪しすぎだね。母さんはいつでも撤退できるようにするよ。いざって時は頼りにしてるからっ」

「うんっ。任せて母さん!」


 母さんの信頼が嬉しい。

 母さんの激励が私の背中を押してくれるっ。


「邪魔なのっ! クルセイドロアーッ!」


 人間相手に効果を及ぼせないクルセイドロアを遠慮なく放って、周囲の魔物を全て吹き飛ばす。
 
 大量の魔物という遮蔽物が無くなって、群れの中心にいる人影が目視できるようになった。


 なったんだけど、あれって……。


「あれって……。もしか、して……?」

「嘘でしょ……? なんで貴方がここにいるのよ……」


 予想外の相手との遭遇に、思わず足を止めてしまう私と母さん。

 状況が飲み込めずに固まってしまう私の代わりに、母さんが男を問い詰める。


「ステイルークを襲う魔物と、その群れの中心に居る貴方が無関係とは思えない……! この状況、説明してもらうからねっ、ガレルっ!!」


 思考が停止した私に代わって、母さんが声を張り上げる。

 母さんの呼びかけに、ゆっくりとこちらに顔を向ける男。


「……お前らかぁ」

「…………とう、さん」


 その顔を見て、最後に会った日を思い出してしまう。


 私と母さんの呪いを解く方法を探してくるからねと私に微笑み、そして帰らず別の場所で別の人生を生きていた父さん。

 私の記憶の姿とは似ても似つかないほどに怒りの篭った瞳をこちらに向けている、かつて父さんだった男……。


「ターニア……。ニーナ……。なぁんで俺の邪魔をするんだぁ……? お前達のことは後で迎えに行ってやるから、今は大人しく家で待ってろよぉっ!!」


 私たちに向かって怒声を放つ男の姿に困惑する。


 ……これが、父さんなの?

 私と母さんを愛し、私たちのために人生と命をかけて世界を旅してくれていた、優しくて心強かった父さんが、なにをどうすればこんなことになるの……?


「……話が進まないから、迎えについては聞かないの」


 呆気に取られて言葉が出ない私の代わりに、母さんが話しかける。


「それより、ガレルの邪魔って何のこと? ステイルークに魔物を嗾けて、ガレルはいったい何がしたいって言うのっ!?」


 父さんの足元に広がる黒い魔法陣と、その魔法陣の中心に立つ1本の柱。

 サークルストラクチャーを思わせるそのマジックアイテムに父さんが魔玉を投入するたびに、魔法陣から新たな魔物が飛び出してくる。

 母さん達が会話している間に、マジックアイテムを鑑定する。



 サモニングパイル


 
 もうっ! また見たことのないマジックアイテムじゃないっ!

 なにが、マジックアイテムの開発は国家機密だから教えられない、だよぅっ!


「あ? なにがしたいなんて決まってるだろ? 俺を受け入れずに追い出しやがったステイルークを、この手で滅ぼしてやるんだよぉ……」

「ステイルークを滅ぼすって……。貴方にとっても故郷のはずでしょ!?」


 そして父さんから語られる、ステイルーク襲撃の目的。

 けれど父さんに直接語られても、父さんの行動の意味が全く理解できない。


「せっかく人頭税も払い終わって、侵食の森で稼げるようになってきたっていうのによぉ……。ステイルークの奴等は誰も俺を認めようとしなかった。だからずっとずっと、滅ぼしてやりたいと思ってたんだよなぁ……?」

「……ガレル、貴方なに言ってるの? 貴方にはもう新しい家族がいて、遠い地で幸せに暮らしていたはずでしょ?」


 父さんには既に新しい家族との幸福な家庭があるのに。

 ステイルークを捨てて飛び出したのは、かつての父さんだったはずなのに。


 もうステイルークの外で過ごした時間の方が長いくらいに時間が経ったあとで、どうして今更ステイルークを滅ぼそうなんて思えるのっ!?


「貴方はもうステイルークと関わらずに生きていけるはずでしょ? なのに、なんで今更そんなことをする必要……」

「今更ぁっ!? そんなことぉっ!? ふざけるな、ふざけるなよターニアぁぁっ!!」


 サモニングパイルに魔玉を投入する手を止めて、かつて私の父だった男が母さんに怒鳴り散らしている。


「俺は奪われるのが大嫌いなんだよぉっ!! あのままステイルークで活動し続ければ、俺には成功した魔物狩りとしての未来が待っているはずだった! それを奪った奴らを許せるはずが、ねぇだろうがぁっ!!」

「貴方には商人として成功した今があるじゃない! 私達を捨てて新たに絆を繋いだ家族もいるじゃないのっ! なにが未来を奪われただよっ! ガレルの未来を奪っているのは、ガレル自身じゃないっ!」

「新しい家族とか関係ないっ!! 俺は絶対に奪われないんだ!! 俺から何かを奪おうとする奴は絶対に許さない……。ただそれだけなんだよぉっ!!」


 どうしても目の前の男と、記憶の中の父さんの姿が全く重ならない……。

 もしやと思って鑑定してみるけど、父さん本人で間違いないし、状態異常も付与されていない。


 だけど目の前の男が正気を保っているようには、どうしても思えない……!


「俺を認めなかったステイルークも、俺を拒絶したお前らも、絶対に許さねぇ!! 俺はいずれ世界の全てを手に入れる男、ガレル様なんだよぉっ!!」


 意味の分からないことを叫びながら、大量の魔玉をサモニングパイルに投入していく父さん。

 しかし今度は魔物が生み出されることはなく、代わりに魔法陣から父さんに向かって黒い魔力が注がれていく。


「ダメ……! ダメなの父さん……! それ以上、それ以上やったら……!」

「魔物どもぉっ! テメェらの魔力も寄越しやがれぇぇぇ!!」


 父さんを制止する私の声は震え、か細いその声は父さんの怒声にかき消される。

 少しずつ父さんの体が壊れ、崩れ、膨れ、変わっていくけれど、父さんはそれを意に介することもなく叫び続ける。


「俺は常に奪う側だ! 俺は常に捨てる側なんだよ! 誰を利用してでも成り上がり、何を切り捨ててでも全てを手に入れてみせる!!

「やめなさいガレル! それ以上やったら貴方は人じゃなくなっちゃうよっ!! 貴方はまた新しい家族からも、父親と夫を奪う気なのっ!?」

「俺を捨てたテメェがっ、俺の家族を語るなぁぁぁっ!!」


 母さんが必死に声をかけるけれど、その声が目の前の男に届くことはなかった。

 母さんが語りかければ語りかけるほど、目の前の男は激昂し、周囲の魔力をかき集めていく。


「俺が奪ったもので家族だって守ってやれる! 幸せにしてやれるんだよぉっ!! 俺が奪えば奪うほど、家族だって幸せなんだ! 喜んでくれるんだぁぁぁっ!!」

「父さっ……!」


 その叫びを最後に父さんの体は内側から膨れ上がり、その体は竜王と同じくらいの巨体になる。

 娘の私の目の前で、父さんは醜悪な異形の魔物と化してしまった……。



 ドリームスティーラー



 ……せっかく生きてまた会えたのに、ひと言も言葉を交わすことなく父さんは逝ってしまった。


 父さんはいったい何がしたかったの?

 父さんの言った世界の全てって、なに……?


 私達を捨てて、新しい家族を捨てて、人であることまで捨てて父さんが求めたものって、いったいなんだったの……!?


「ねぇ母さん……。父さんっていったい、何がしたかったのかな……? ここまでして父さんが欲しかったものって、なんだったんだろ……?」


 ダンは私の事を世界の全てだと言ってくれた。

 私を守るためなら世界の全てを拒絶し、自分の力が足りないという理由で、1度はティムルの手すら払って見せた。


 イントルーダーを滅ぼすほどの力を得てもなおダンが力を求めるのは、ダンの世界が9人分広がっちゃったからなんだなって理解できるのに。

 父さんが何をしたかったのかは、私には全然理解出来なかったの……。


「……ガレルが本当に欲しかった物は、ガレルが捨てた物の中にしかないの。ガレルは心からそれを追い求めていたのに、自分の手の中に収まったそれを信じ抜くことが出来なかったの……」


 母さんが異形の魔物に向かって構えながらも、少しずつ後退していく。


「……ごめんニーナ。貴女に両親の不始末を押し付ける形になってしまって」


 かつて2人きりで生活していた時によく聞いた、後悔に満ちた母さんの声。

 きっと今の母さんは、私が生きてきた17年間全てに対して謝罪の言葉を口にしているんじゃないかな……。


「そして私はすぐにステイルークに戻って、イントルーダーの出現を報告すべきだと分かってるけど……。母として妻として、ここで決着を見届けさせて欲しいと思ってるの……」

「……うん。ありがとう母さん。私も父さんだったアレと1人で戦うのは辛いから……。母さんが傍に居てくれるだけでも凄く心強いの……」


 全身から生やした腕をウネウネと暴れさせながら、失った口で声無き咆哮を続ける異形の魔物。

 獣のような体毛で覆われた全身からは、無数の細くて長い腕が不規則に生えていて、顔の部分には目も口も鼻も無く、なのに何処からか常に慟哭が響き渡っている。


 もうこれは父さんじゃない。

 私が殺さないと、これは世界を滅ぼすまで止まらない……!


 ……覚悟を決めるの。

 父さんは死に、残ったのは世界を滅ぼすイントルーダーだけなんだからっ……!


「父さんの娘として、父さんの事は私が止めてあげるからね……」


 呪物の短剣とアサシンダガーを構えながら、それでも父さんを憐れに想う。


 孤児である事を嫌って魔物狩りになり、ステイルークに、獣爵家に受け入れられずに外に飛び出し、呪われた私と母さんとの日々から目を逸らして新たな家族を作り……。

 そうまでして手に入れた家族をあっさり捨てて、魔物に堕ちてしまった父さん……。


 ……貴方はいつも、自分の外側にしか目を向けていなかったんだね。

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「……父さんのこと、愛してる。だけど父さんのやってることは、絶対に許さないのっ!!」


 私達と共に過ごしたいって気持ちだけで、この国を丸ごと助けようとしている人だっているのにっ……!!


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 それをアッサリと捨て去る貴方を、私は絶対に許さないんだからっ!!
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