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5章 王国に潜む悪意1 嵐の前
286 拒絶 (改)
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目が覚めると、腕の中に居るニーナとフラッタ。
どうやら昨晩は好色家姉妹を抱きしめて眠っていたようだ。
う~ん。妻の年齢なんて気にしていないつもりなんだけど……。
なんだかんだ言って、ニーナとフラッタの最年少コンビを1番沢山抱いちゃってる気がするなぁ。
まぁ毎日全員に溢れるくらいに愛情を注ぎ込んでいるから、誤差くらいの差しかないような気もするけどね。
うちのお姫様たちはみんな可愛すぎるんだよなぁ。
「おはようみんな。今日も1日よろしくね」
目覚めたみんなのお腹を順番にぽっこり膨らませながら、今日の予定をみんなに告げる。
「今日は正午に人と会う約束があるから、それまではみんなの職業浸透に付き合うよ。俺がいる間にニーナとティムルを聖騎士にしてあげられれば無駄が無いしね」
「あんっあんっあぁんっ……! き、気持ちいいところばかりズンズンしちゃ、ダメぇぇぇっ……!」
「あぁエマ。最高に気持ちいい……。出るよ、1滴も零さず受け取ってね」
エマの反論をキスで封じて、新鮮な愛情をビュービューと注いであげる。
キスをしながら出すのって、なんでこんなに気持ちいいんだろうなぁ。
最後の1滴までエマの中に注ぎ尽くしてから彼女を解放し、ラトリアと根元から繋がって彼女の母乳をちゅぱちゅぱしゃぶる。
「出来れば今日中に決着させてみんなにも報告したいと思ってるから、もう少しだけ内緒にさせてね。危険なことはしてないのだけは約束するよ」
「もうおっぱいやだぁ……! このままじゃ私のおっぱい食べられちゃうよぉ……!」
「いくよラトリア。お前から搾った水分は、ラトリアの中に還元してあげるからねー」
ラトリアのおっぱいを搾って真っ白な液体をちゅぱちゅぱとしゃぶった分を、ラトリアの1番奥に白濁した液体をお届けする事で循環させる。
いっぱい飲ませてもらったからね。まだまだ沢山満たしてあげるからねー。
「俺もみんなも無事にお腹いっぱいになったみたいだし、早速出かけようか」
移動魔法の使い手が増えたことで、俺の負担が明らかに減ってくれたなぁ。
俺以外の男にはとても見せられない顔をしたエマとラトリアをベッドで休ませてから、今日の分の職業浸透を進めるために奈落に転移した。
「魔物相手じゃ訓練にならないから、職業浸透優先で一気に殲滅して行くよー」
「了解よーっ! お姉さんのクルセイドロアが火を噴くわーっ!」
劣化アウターエフェクトは訓練にならないので、見つけた先から殺していく。
早速ニーナとティムルの兵士が50になり、そのまま騎士に転職。
フラッタの侠客もLV50になったので、予定通り英雄に設定する。
騎士 最大LV50
補正 体力上昇 魔力上昇- 物理攻撃力上昇 物理防御力上昇
敏捷性上昇 身体操作性上昇 五感上昇 装備品強度上昇
スキル 全体補正上昇 対人攻撃力上昇 対人防御力上昇
英雄 最大LV100
補正 物理攻撃力上昇+ 物理防御力上昇+ 体力上昇+ 魔力上昇+
持久力上昇+ 敏捷性上昇+ 幸運上昇+ 五感上昇+
身体操作性上昇+ 装備品強度上昇+
スキル 鼓舞
「ふははーっ! ドラゴンイーターと鼓舞の相性が良すぎるのじゃーっ!」
クルセイドロアで魔物が吹き飛ばされる前に、積極的に前に出てドラゴンイーターを叩き込んで行くフラッタ。
なにこの世界一可愛いバーサーカー。
その後も戦い続け、正午にはまだ時間がある状態で、ニーナとティムルの騎士が50になり、聖騎士に設定してあげることが出来た。
聖騎士 最大LV100
補正 体力上昇+ 魔力上昇 物理攻撃力上昇+ 物理防御力上昇+
敏捷性上昇+ 身体操作性上昇+ 五感上昇+ 装備品強度上昇+
全体幸運上昇+
スキル 全体補正上昇+ 対人攻撃力上昇+ 対人防御力上昇+
対不死攻撃力上昇+ 物理耐性+ 魔法耐性+
聖属性付与魔法 回復魔法
流石にみんなも段々と上げる職業が無くなってきたなぁ。
篤志家や艶福家、聖者なんかはまだみんなに現れてないから、職業の数自体が俺より少ないんだよねぇ。
「今日はニーナとティムルの回復魔法の融合が目標だね。2人の聖騎士が浸透すれば、リーチェもヴァルゴも間違いなく職業浸透を終えられてるはずだから頑張ってね」
「私達の職業浸透がリーチェの浸透の目安になるのは分かりやすいわねー」
「それじゃ行ってくるよ。迎えに来るときは甘いお菓子を沢山持ってくるからねー」
「お気をつけていってらっしゃいませ。お土産も楽しみにしておりますね」
1人1人と抱き合いながらゆっくりと唾液を交換し、ターニアさんの待つマグエルに向かった。
マグエルの自宅に行くと、正午にはまだ時間があるけど既にターニアさんが待っていた。
「あれ? そう言えばターニアさんがここに居るって事は、ムーリはどうしてるの?」
「ムーリちゃんは、今日はソロでの探索を試してみるんだってー」
「えっ、ムーリがソロ狩りするんだ……? 大丈夫かなぁ……」
「あはは。ダンさん心配しすぎだよー。装備品もブルーメタルまでは揃えられたし、攻撃魔法も回復魔法も使えるムーリちゃんなら万が一も無いと思うなー」
う~ん……。確かにターニアさんの言う通りかぁ……。
ムーリがソロ探索をしていると聞くと心配になってしまうけど、これは俺が過保護なんだろうなぁ。
好色家のおかげでスタミナには不安が無いし、攻撃魔法も回復魔法も使えるムーリは意外と隙が無い。
戦士と冒険者には体力補正がついているし、装備品もブルーメタルで揃えられているなら充分すぎる品質だ。
「いつも一緒にいるターニアさんがそう言うなら、俺もムーリを信じてあげる事にする。真面目に訓練してるのだって知ってるしね」
「あははっ。スポットに潜り始めた頃のダンさんとニーナより、今のムーリちゃんのほうがよっぽど強いんだからねー? 自分の奥さんのこと、ちゃーんと信用してあげなさいっ」
「それじゃムーリのことは心配要らないとして……。時間もあるし先に作っちゃおうかな。ターニアさんも手伝ってくれる?」
ムーリのことはちゃんと信頼してあげる事にして、出かける前にお姫様たちへの献上品の下拵えを済ませる。
ターニアさんとの初めての共同作業で、2人で楽しく調理した後、ターニアさんの案内でガレルさんの屋敷と思われる場所に転移した。
「ここがかつて私が呪いを受けたアウターがあった場所で、現在ターナ商会の本拠地が築かれている場所なのー」
「う~ん……。アウターを隠すためなんだろうけど、随分とでっかいお屋敷だなぁ……」
転移先には、山深い場所の中に似つかわしくない巨大な屋敷が建っていた。
建物の大きさは竜爵邸のほうが大きそうだけれど、屋敷の周囲を囲った壁は広く高く、竜爵邸が4つくらい入りそうだ。
周囲には他に民家も何も無いので、大きい家を勝手に建てても文句をつけてくる人はいなかったんだろうなぁ。
「王国の北側って不毛の大地って聞いてたから、こんなに山深い森の中だったのは少し意外だったよ」
「ああ、ドワーフたちの里のことだねー。彼らの住処にはまだまだ距離があって、この辺はまだ緑も多いんだよ。ここからドワーフの里まで、徒歩だと数ヶ月はかかると思うの」
徒歩で数ヶ月とか、同じスペルド王国のはずなのにそんなに距離があるのか……。
だからボッタくられていると仮に気付いていたとしても、ドワーフたちにはどうすることも出来ないわけだ。
「そう言えば……、今更だけど俺もついてきて大丈夫なの? 門前払いされたりしないかな?」
「うん。私の護衛を1人伴うって伝えてあるから問題ないよ。あ、でもステータスプレートの提示を求められるかも? なにか適当な戦闘職にしておいて貰えると安心かなー?」
おっと、確認しておいて良かったよ、危ういなぁ。
それじゃメインを騎士にしておくかな。聖騎士だと騒ぎになりそうだし。
職業設定を終えて、ターニアさんと屋敷に近づき門番に話しかける。
「昨日も来た冒険者のターニアだよ。ガレルさんに雇ってもらいたいって昨日ここを訪ねたんだけど、話は通ってるのかなー?」
「ああ聞いているぞ。一応ステータスプレートも見せてもらえるか。護衛のアンタもだ」
面接の話は通っていたようで、ステータスプレートを提示すると問題なく中に通された。
門から屋敷までは小型の馬車で送ってもらい、屋敷の中はメイドさんが案内してくれた。
自宅の敷地内を馬車で移動。案内してくれるメイドさんの動きも洗練されて美しい。
まさに成功者って感じのお屋敷だなー。
メイドさんは立派な扉の前で立ち止まって、コンコンと軽くドアをノックしてから中に声をかけた。
「失礼いたします旦那様。お客様をお連れしました。冒険者の女性と、その護衛の騎士の男性の2名です」
「入ってもらえ」
入室を許可する若い男の声。ターニアさんやティムルと同世代なんだっけ。
失礼しますと入室するメイドさんに続いて、俺とターニアさんも部屋に入る。
部屋の中央の大きなソファに、1人の男が座っていた。
「あは。間違いないとは思っていたけど、やっぱりガレルだったんだねー。久しぶり~」
「タ、ターニア!? な、なんでお前がここにっ……!?」
弾けるようにソファから立ち上がって、でもそこで動きが止まるガレルさん。
ターニアさん軽すぎぃっ! そしてガレルさんはうろたえ過ぎだから。
今日ターニアさんが会いに来る話は通っていたのに……。名前まで確認してなかったのかな? それとも同名の別人だとでも思っていたとか?
まぁ移動阻害の呪いを受けているはずのターニアさんが、ヴァルハールやスペルディアよりも更に遠いっぽい王国の北側に訪ねてくるとは想像も出来ないか。
「なんでって、呪いが解けたからに決まってるでしょ。それで懐かしのアウターを確認しようと思ったらこんな屋敷が建ってるんだもん。びっくりしちゃったよぅ」
「呪いが、解けた……? 呪いが、解けたっ……!? ターニア! お前、本当に呪いが解けたのかっ!?」
「こんなところに徒歩で来る訳ないでしょ。昨日もさっきも門番さんにはステータスプレートも見せたの。なんならガレルも見てみる?」
ステータスカードを呼び出して、ひらひらとガレルさんに向かって見せびらかすターニアさん。
しかしスレイブシンボルの話を俺達から聞いたためか、見せるだけで手渡したりする気はなさそうだ。
「はっ、はははっ! ほ、本当に呪いが消えてるじゃないかっ! やったなターニア! あのクソッタレな呪いからようやく解放されたんだな!」
ターニアさんに向かって駆け寄ってくるガレルさん。
勿論俺は両者の間に割り込んで、ガレルさんがターニアさんに抱き付くのを妨害する。
いやぁごめんねガレルさん。俺って今ターニアさんの護衛だからさ?
「なんだテメェ……? 関係無い奴は引っ込んでろ。出る幕じゃねぇんだよ」
「悪いね。俺はターニアさんの護衛なもんで。貴方とターニアさんは知己のようだけどこちらも仕事なんで。離れてもらえる?」
「ああ!? 夫婦の再会に部外者がでしゃばんなって言ってんだよぉ! 仕事だってんなら金は払ってやる。さっさと出ていけぇっ!」
ガレルさん柄悪いな!? ニーナから聞いてた印象と大分違うんだけど!?
故人扱いだったし、思い出が美化されていたのかな?
戸惑いながらもターニアさんの護衛として、ガレルさんの動きを遮る。
「夫婦? ターニアさんのステータスプレートに婚姻契約は記されてなかったけど? それとも貴方のステータスプレートには彼女との婚姻契約が表示されてるのかな?」
「……おい。俺が大人しくしてるうちにさっさと帰れよ。ターニアが雇った護衛だかなんだか知らねぇが、これ以上俺の邪魔をするなら容赦はしねぇ……!」
うーん? 俺という邪魔者にイラつくのは分かるんだけど、ちょっと短慮すぎないかな?
なんでこんなに余裕が無いんだガレルさんは。
「あは。なに言ってるのガレル。私達の婚姻契約は3年前に貴方が破棄しちゃったのにー。夫婦って言うなら元をつけてもらわないと困るなぁ?」
「なっ!? ち、違うんだターニア! あの時は事情があって……!」
ガレルさんは余裕無さ過ぎるとは思うけど、逆にターニアさんはノリ軽すぎだろ!
俺って本当に修羅場に立ち会ってるのかな!?
「あーはいはい。まずは落ち着いてくれるかなガレル」
面倒臭そうに右手をシッシッと払って見せて、近づかないでと意思表示をするターニアさん。
「私は別に貴方に恨み言を言いに来たわけでも、今の貴方の家庭の邪魔をしに来たつもりも無いの。もう過ぎたことだけど、ちゃんと貴方の口から何があったのか説明してもらいたいだけだから」
俺とガレルさんを素通りして、さっきガレルさんが座っていたソファに腰を下ろすターニアさん。
そしてガレルさんに向かってソファを指差して見せ、無言で着席を促している。
あれ? この屋敷の主って誰だったかなー?
「……ごほん」
あまりにも平静な態度のターニアさんを見てガレルさんも落ち着きを取り戻したのか、軽く咳払いをして元々座っていた、ターニアさんの対面の位置に座り直した。
俺は一応護衛という事になってるので、ターニアさんの後ろに立っておこうかな。
「先に言っておくね。ガレルと過ごした15年間は本当に幸せだったの。だから貴方には感謝しかしてないわ」
全員が定位置に着いたと判断したターニアさんは、なんの躊躇も無く本題に切り込んでいく。
「呪われた私がガレルの負担になっていたことは分かるし、貴方が自分の幸せの為に私を切り捨てたのだとしても仕方ないと私は思ってるの」
ターニアさんが静かに淡々と、ガレルさんに抱いていた想いを伝える。
だけど俺はターニアさんの言葉に違和感を覚える。
ターニアさん、意図的にニーナの存在をぼかしてるのかな?
「今までありがとうガレル。私に幸せを与えてくれて感謝してる。そんな貴方の負担になりたくはないんだけど、せめて貴方の口から直接、この家のことや婚姻を破棄したことを説明して欲しいだけなの。教えてくれるかなぁ?」
「ごめんターニア。本当にごめん……! 今更謝って済む話じゃないのは分かってるけど……、それでも……!」
「謝らないでいいよガレル。謝って済む済まないとかじゃなくて、謝られてももう無意味だから。私は謝罪の言葉じゃなくて、当時の経緯を聞きたいんだよー?」
謝られても無意味、ね。確かに復縁する気は全く無さそうだ。
ならあえてガレルさんに会いに来た理由はなんだろう? ケジメ、なのかな。
ターニアさんらしいゆったりとした、だけど感情の乗っていない言葉に、ガレルさんは言葉を詰まらせ返答が出来ない。
「ガレルー? 私は元とは言え貴方の妻だった女だよ? 今更取り繕うとしなくてもいいの。私達の解呪の方法を探してくれていたのは本当だったと思うけど、そのために旅をしていたのは嘘なんだよね?」
「……っ」
言葉は疑問系だけれど、確信を持った口調で言い放つターニアさん。
ガレルさんは未だに何の言葉も返してこない。
「ガレルはこのアウターを独占する事で、商人として成り上がる方法を思いついた。それはもしかしたら、私達の解呪に関する情報を集める為のものだったのかもしれないねー」
「…………」
「でも商人として成功し、新たな恋人、新たな家族との生活が幸福であるほどに、私達の生活が煩わしく感じてきちゃったんでしょー? なんで俺は態々呪われた女なんかを養ってるんだー、ってね」
大商人として成り上がりに成功した華々しい生活と、呪われた家族とボロ屋で寒々しく暮らす生活。
その両方を当事者として体験したガレルさんが両者を比較してしまうのは仕方ないことだ。
……見捨てられた妻と娘の事を考えたら、仕方ないなんて言いたくはないけれど。
「呪われた私を匿って養い続けるリスクと、私と縁を切って新しい家族と新しい人生を歩み直すことを天秤にかけて、新しい家族を選んだ。ただそれだけのことでしょ? いつまでダンマリ決め込んでる気なの?」
「た、ただそれだけって……! ターニア、俺は……」
「貴方は孤児から成り上がるために私を利用した、そういう計算高い部分がある男でしょ。今更言い訳や弁解するなんて、ガレルらしくないんじゃないのー?」
自分を切り捨てた男に、まるで茶化すような口調で語りかけるターニアさん。
そんなターニアさんの様子に、ガレルさんは観念したかのように大きく息を吐いた。
「そこまで分かってるなら、確かに取り繕っても仕方ねーか……」
ターニアさんの暴露を受けて、話し始めるガレルさん。
あまりにも平静なターニアさんを見て、彼もこのまま言い分けを続けても意味が無いと悟ったらしい。
「……悪いなターニア。俺はずっと成功者になりたかった。クソッタレな孤児生活から抜け出して、誰もが羨む成功者の生活を送りたかったんだ」
そういやトライラム教会の孤児出身なんだっけ、ガレルさんって。
その割にはトライラムフォロワーの参加者とは随分考え方が違うように感じられるなぁ。
「お前は俺に感謝してるって言ってくれたけど、俺こそお前には感謝してるんだ」
「あ、そうなんだー?」
「職業に関する様々な知識、1番苦労する駆け出しの頃の資金援助、獣爵家の令嬢が所属しているパーティという社会的信用。お前から受け取ったものは数知れないよ。そんなお前に感謝してないわけがないだろ?」
「…………」
ガレルさんの言葉に、ターニアさんは微かにだけど、確かに不愉快そうに眉を顰めた。
ターニアさんは幸せにしてもらって感謝していると告げたのに、その返答として獣爵家令嬢と結婚する社会的なメリットばかり羅列されたら流石にねぇ……。
「利用するだけして最後は適当にお別れするつもりだったのが、いつの間にか本気でお前のことを好きになっちまったんだよなぁ……」
ターニアさんはニーナの母親だけあって、とても魅力的な女性だからなぁ。
身近で接しているうちに、予定外に惹きこまれてしまったのかもしれない。
「お前のことも、ニーナのことも本気で愛していたよ。孤児だった俺が家族を持つことが出来るなんてって、ニーナのことは何を犠牲にしてでも守り通すって、本気で思ったんだ」
「……うん。それは疑ってないの。ガレルが向けてくれていた想いは本物だったって分かってるの」
「ごめんターニア……! だけどどうしても俺は、自分の夢を諦め切れなかったんだ……!」
……これはターニアさんとガレルさんの話だから、ガレルさんが何を言ったとしても俺が出しゃばっちゃいけない。
次の言葉が想像出来てしまうけど、心を平静に保って感情を鎮めるんだ俺。
「解呪の情報を集める為に立ち上げた商会が軌道に乗っていくと、これこそが俺の望んだ成功者の生活なんだって心から思えたんだ。そしてそれを実感すればするほど、お前との生活が惨めで邪魔なものに感じられるようになっちまってさ……」
ガレルさんは苦渋に満ちた顔で、だけど全く淀みなくターニアさんに訴えかける。
かつて愛した女性本人に、お前との生活が惨めで邪魔だったなんて、なんでそんなに被害者みたいな顔をして告げられるんだろうこの人は。
「ステイルークを飛び出して、これから華々しい生活が幕を開けるんだって信じて疑わなかった。なのに現実はすぐにお前が呪われ、生まれてきたニーナも呪われていて、パーティは解散して人目を憚る生活が始まっちまった!」
「……そうだね。私が呪われてしまったから、私たちの歯車は狂っちゃったんだよね」
「お前達を守らなきゃ守らなきゃって必死に自分を誤魔化していたけど、お前達から離れて1人になった時、俺は自由になった気がしたんだよ……! 本来はこんなに自由なのに、なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだってさぁっ……!」
感情の篭らない眼差しでガレルさんを見ているターニアさん。
彼女は今どんな気持ちでガレルさんの言葉を聞いているんだろう。
「俺は自分の夢の為に、呪われたお前達の存在が邪魔になって、切り捨てたんだ……。呪われたお前達との生活は、ずっと抜け出したかった教会での日々を思い起こさせて、ずっとずっと苦痛だったんだよ……!」
……ターニアさんは、ガレルさんの考え方のほうが一般的だと言っていた。
呪われた妻と娘を捨て、1人幸福な別の人生を歩むことがこの世界の常識だっていうのなら、俺は非常識な存在で構わない。
愛する人と娘との日々を苦痛だったなんて、そんな言葉を家族に伝えるような男と一緒になんてなりたくない。
「うん。つまりガレルは私とニーナとの生活に未練は無いってことだね? それだけ聞ければ十分だよ」
「えっ……。タ、ターニア……?」
「それじゃあねガレル。もう会う事は無いだろうけど、適当に幸せになればいいよ。私とニーナも勝手に幸せになるからさ」
「ニーナ……。ニ、ニーナも生きているのか!? ニーナも呪いが解けているのか!? ならなんでニーナは連れてきてないんだ! ニーナは俺の娘だぞ!?」
腰を浮かせて今にも詰め寄りそうな様子のガレルさんには悪いけど、流石にここにニーナは連れて来れないでしょー。
死んだと思っていた父親が、自分達を捨てて幸せに暮らしていたなんて伝えられる訳ないじゃん?
「あは。今の貴方の家庭を邪魔する気は無いって言ったでしょー? 捨てた妻と娘のことなんか忘れて、今の家族を大事にしなよ。私達はもう家族じゃないんだから」
「待って……、待ってくれターニア! 今の俺ならお前もニーナも守ってやれる! お前とニーナを幸せにしてやれる力があるんだ! もう1度一緒に暮らそうターニア! 家族には俺が説明する、だから……!」
「はいはい。そういうのは自分の家族に言ってあげてねー」
必死に追い縋るガレルさんと、全く普段と変わらないおっとりした態度でガレルさんを拒絶するターニアさん。
ターニアさんにとって、ガレルさんはもう過去でしかないんだなぁ。
シュパイン商会のジジイの時も思ったけれど、俺もみんなに愛想尽かされないように、こういう男たちの姿を他山の石としなければいけないよ。
俺が1番大切なのは愛する家族みんなの幸せだ。
優先順位を間違えて、下らない擦れ違いなんか起こさないようにしないとな……!
どうやら昨晩は好色家姉妹を抱きしめて眠っていたようだ。
う~ん。妻の年齢なんて気にしていないつもりなんだけど……。
なんだかんだ言って、ニーナとフラッタの最年少コンビを1番沢山抱いちゃってる気がするなぁ。
まぁ毎日全員に溢れるくらいに愛情を注ぎ込んでいるから、誤差くらいの差しかないような気もするけどね。
うちのお姫様たちはみんな可愛すぎるんだよなぁ。
「おはようみんな。今日も1日よろしくね」
目覚めたみんなのお腹を順番にぽっこり膨らませながら、今日の予定をみんなに告げる。
「今日は正午に人と会う約束があるから、それまではみんなの職業浸透に付き合うよ。俺がいる間にニーナとティムルを聖騎士にしてあげられれば無駄が無いしね」
「あんっあんっあぁんっ……! き、気持ちいいところばかりズンズンしちゃ、ダメぇぇぇっ……!」
「あぁエマ。最高に気持ちいい……。出るよ、1滴も零さず受け取ってね」
エマの反論をキスで封じて、新鮮な愛情をビュービューと注いであげる。
キスをしながら出すのって、なんでこんなに気持ちいいんだろうなぁ。
最後の1滴までエマの中に注ぎ尽くしてから彼女を解放し、ラトリアと根元から繋がって彼女の母乳をちゅぱちゅぱしゃぶる。
「出来れば今日中に決着させてみんなにも報告したいと思ってるから、もう少しだけ内緒にさせてね。危険なことはしてないのだけは約束するよ」
「もうおっぱいやだぁ……! このままじゃ私のおっぱい食べられちゃうよぉ……!」
「いくよラトリア。お前から搾った水分は、ラトリアの中に還元してあげるからねー」
ラトリアのおっぱいを搾って真っ白な液体をちゅぱちゅぱとしゃぶった分を、ラトリアの1番奥に白濁した液体をお届けする事で循環させる。
いっぱい飲ませてもらったからね。まだまだ沢山満たしてあげるからねー。
「俺もみんなも無事にお腹いっぱいになったみたいだし、早速出かけようか」
移動魔法の使い手が増えたことで、俺の負担が明らかに減ってくれたなぁ。
俺以外の男にはとても見せられない顔をしたエマとラトリアをベッドで休ませてから、今日の分の職業浸透を進めるために奈落に転移した。
「魔物相手じゃ訓練にならないから、職業浸透優先で一気に殲滅して行くよー」
「了解よーっ! お姉さんのクルセイドロアが火を噴くわーっ!」
劣化アウターエフェクトは訓練にならないので、見つけた先から殺していく。
早速ニーナとティムルの兵士が50になり、そのまま騎士に転職。
フラッタの侠客もLV50になったので、予定通り英雄に設定する。
騎士 最大LV50
補正 体力上昇 魔力上昇- 物理攻撃力上昇 物理防御力上昇
敏捷性上昇 身体操作性上昇 五感上昇 装備品強度上昇
スキル 全体補正上昇 対人攻撃力上昇 対人防御力上昇
英雄 最大LV100
補正 物理攻撃力上昇+ 物理防御力上昇+ 体力上昇+ 魔力上昇+
持久力上昇+ 敏捷性上昇+ 幸運上昇+ 五感上昇+
身体操作性上昇+ 装備品強度上昇+
スキル 鼓舞
「ふははーっ! ドラゴンイーターと鼓舞の相性が良すぎるのじゃーっ!」
クルセイドロアで魔物が吹き飛ばされる前に、積極的に前に出てドラゴンイーターを叩き込んで行くフラッタ。
なにこの世界一可愛いバーサーカー。
その後も戦い続け、正午にはまだ時間がある状態で、ニーナとティムルの騎士が50になり、聖騎士に設定してあげることが出来た。
聖騎士 最大LV100
補正 体力上昇+ 魔力上昇 物理攻撃力上昇+ 物理防御力上昇+
敏捷性上昇+ 身体操作性上昇+ 五感上昇+ 装備品強度上昇+
全体幸運上昇+
スキル 全体補正上昇+ 対人攻撃力上昇+ 対人防御力上昇+
対不死攻撃力上昇+ 物理耐性+ 魔法耐性+
聖属性付与魔法 回復魔法
流石にみんなも段々と上げる職業が無くなってきたなぁ。
篤志家や艶福家、聖者なんかはまだみんなに現れてないから、職業の数自体が俺より少ないんだよねぇ。
「今日はニーナとティムルの回復魔法の融合が目標だね。2人の聖騎士が浸透すれば、リーチェもヴァルゴも間違いなく職業浸透を終えられてるはずだから頑張ってね」
「私達の職業浸透がリーチェの浸透の目安になるのは分かりやすいわねー」
「それじゃ行ってくるよ。迎えに来るときは甘いお菓子を沢山持ってくるからねー」
「お気をつけていってらっしゃいませ。お土産も楽しみにしておりますね」
1人1人と抱き合いながらゆっくりと唾液を交換し、ターニアさんの待つマグエルに向かった。
マグエルの自宅に行くと、正午にはまだ時間があるけど既にターニアさんが待っていた。
「あれ? そう言えばターニアさんがここに居るって事は、ムーリはどうしてるの?」
「ムーリちゃんは、今日はソロでの探索を試してみるんだってー」
「えっ、ムーリがソロ狩りするんだ……? 大丈夫かなぁ……」
「あはは。ダンさん心配しすぎだよー。装備品もブルーメタルまでは揃えられたし、攻撃魔法も回復魔法も使えるムーリちゃんなら万が一も無いと思うなー」
う~ん……。確かにターニアさんの言う通りかぁ……。
ムーリがソロ探索をしていると聞くと心配になってしまうけど、これは俺が過保護なんだろうなぁ。
好色家のおかげでスタミナには不安が無いし、攻撃魔法も回復魔法も使えるムーリは意外と隙が無い。
戦士と冒険者には体力補正がついているし、装備品もブルーメタルで揃えられているなら充分すぎる品質だ。
「いつも一緒にいるターニアさんがそう言うなら、俺もムーリを信じてあげる事にする。真面目に訓練してるのだって知ってるしね」
「あははっ。スポットに潜り始めた頃のダンさんとニーナより、今のムーリちゃんのほうがよっぽど強いんだからねー? 自分の奥さんのこと、ちゃーんと信用してあげなさいっ」
「それじゃムーリのことは心配要らないとして……。時間もあるし先に作っちゃおうかな。ターニアさんも手伝ってくれる?」
ムーリのことはちゃんと信頼してあげる事にして、出かける前にお姫様たちへの献上品の下拵えを済ませる。
ターニアさんとの初めての共同作業で、2人で楽しく調理した後、ターニアさんの案内でガレルさんの屋敷と思われる場所に転移した。
「ここがかつて私が呪いを受けたアウターがあった場所で、現在ターナ商会の本拠地が築かれている場所なのー」
「う~ん……。アウターを隠すためなんだろうけど、随分とでっかいお屋敷だなぁ……」
転移先には、山深い場所の中に似つかわしくない巨大な屋敷が建っていた。
建物の大きさは竜爵邸のほうが大きそうだけれど、屋敷の周囲を囲った壁は広く高く、竜爵邸が4つくらい入りそうだ。
周囲には他に民家も何も無いので、大きい家を勝手に建てても文句をつけてくる人はいなかったんだろうなぁ。
「王国の北側って不毛の大地って聞いてたから、こんなに山深い森の中だったのは少し意外だったよ」
「ああ、ドワーフたちの里のことだねー。彼らの住処にはまだまだ距離があって、この辺はまだ緑も多いんだよ。ここからドワーフの里まで、徒歩だと数ヶ月はかかると思うの」
徒歩で数ヶ月とか、同じスペルド王国のはずなのにそんなに距離があるのか……。
だからボッタくられていると仮に気付いていたとしても、ドワーフたちにはどうすることも出来ないわけだ。
「そう言えば……、今更だけど俺もついてきて大丈夫なの? 門前払いされたりしないかな?」
「うん。私の護衛を1人伴うって伝えてあるから問題ないよ。あ、でもステータスプレートの提示を求められるかも? なにか適当な戦闘職にしておいて貰えると安心かなー?」
おっと、確認しておいて良かったよ、危ういなぁ。
それじゃメインを騎士にしておくかな。聖騎士だと騒ぎになりそうだし。
職業設定を終えて、ターニアさんと屋敷に近づき門番に話しかける。
「昨日も来た冒険者のターニアだよ。ガレルさんに雇ってもらいたいって昨日ここを訪ねたんだけど、話は通ってるのかなー?」
「ああ聞いているぞ。一応ステータスプレートも見せてもらえるか。護衛のアンタもだ」
面接の話は通っていたようで、ステータスプレートを提示すると問題なく中に通された。
門から屋敷までは小型の馬車で送ってもらい、屋敷の中はメイドさんが案内してくれた。
自宅の敷地内を馬車で移動。案内してくれるメイドさんの動きも洗練されて美しい。
まさに成功者って感じのお屋敷だなー。
メイドさんは立派な扉の前で立ち止まって、コンコンと軽くドアをノックしてから中に声をかけた。
「失礼いたします旦那様。お客様をお連れしました。冒険者の女性と、その護衛の騎士の男性の2名です」
「入ってもらえ」
入室を許可する若い男の声。ターニアさんやティムルと同世代なんだっけ。
失礼しますと入室するメイドさんに続いて、俺とターニアさんも部屋に入る。
部屋の中央の大きなソファに、1人の男が座っていた。
「あは。間違いないとは思っていたけど、やっぱりガレルだったんだねー。久しぶり~」
「タ、ターニア!? な、なんでお前がここにっ……!?」
弾けるようにソファから立ち上がって、でもそこで動きが止まるガレルさん。
ターニアさん軽すぎぃっ! そしてガレルさんはうろたえ過ぎだから。
今日ターニアさんが会いに来る話は通っていたのに……。名前まで確認してなかったのかな? それとも同名の別人だとでも思っていたとか?
まぁ移動阻害の呪いを受けているはずのターニアさんが、ヴァルハールやスペルディアよりも更に遠いっぽい王国の北側に訪ねてくるとは想像も出来ないか。
「なんでって、呪いが解けたからに決まってるでしょ。それで懐かしのアウターを確認しようと思ったらこんな屋敷が建ってるんだもん。びっくりしちゃったよぅ」
「呪いが、解けた……? 呪いが、解けたっ……!? ターニア! お前、本当に呪いが解けたのかっ!?」
「こんなところに徒歩で来る訳ないでしょ。昨日もさっきも門番さんにはステータスプレートも見せたの。なんならガレルも見てみる?」
ステータスカードを呼び出して、ひらひらとガレルさんに向かって見せびらかすターニアさん。
しかしスレイブシンボルの話を俺達から聞いたためか、見せるだけで手渡したりする気はなさそうだ。
「はっ、はははっ! ほ、本当に呪いが消えてるじゃないかっ! やったなターニア! あのクソッタレな呪いからようやく解放されたんだな!」
ターニアさんに向かって駆け寄ってくるガレルさん。
勿論俺は両者の間に割り込んで、ガレルさんがターニアさんに抱き付くのを妨害する。
いやぁごめんねガレルさん。俺って今ターニアさんの護衛だからさ?
「なんだテメェ……? 関係無い奴は引っ込んでろ。出る幕じゃねぇんだよ」
「悪いね。俺はターニアさんの護衛なもんで。貴方とターニアさんは知己のようだけどこちらも仕事なんで。離れてもらえる?」
「ああ!? 夫婦の再会に部外者がでしゃばんなって言ってんだよぉ! 仕事だってんなら金は払ってやる。さっさと出ていけぇっ!」
ガレルさん柄悪いな!? ニーナから聞いてた印象と大分違うんだけど!?
故人扱いだったし、思い出が美化されていたのかな?
戸惑いながらもターニアさんの護衛として、ガレルさんの動きを遮る。
「夫婦? ターニアさんのステータスプレートに婚姻契約は記されてなかったけど? それとも貴方のステータスプレートには彼女との婚姻契約が表示されてるのかな?」
「……おい。俺が大人しくしてるうちにさっさと帰れよ。ターニアが雇った護衛だかなんだか知らねぇが、これ以上俺の邪魔をするなら容赦はしねぇ……!」
うーん? 俺という邪魔者にイラつくのは分かるんだけど、ちょっと短慮すぎないかな?
なんでこんなに余裕が無いんだガレルさんは。
「あは。なに言ってるのガレル。私達の婚姻契約は3年前に貴方が破棄しちゃったのにー。夫婦って言うなら元をつけてもらわないと困るなぁ?」
「なっ!? ち、違うんだターニア! あの時は事情があって……!」
ガレルさんは余裕無さ過ぎるとは思うけど、逆にターニアさんはノリ軽すぎだろ!
俺って本当に修羅場に立ち会ってるのかな!?
「あーはいはい。まずは落ち着いてくれるかなガレル」
面倒臭そうに右手をシッシッと払って見せて、近づかないでと意思表示をするターニアさん。
「私は別に貴方に恨み言を言いに来たわけでも、今の貴方の家庭の邪魔をしに来たつもりも無いの。もう過ぎたことだけど、ちゃんと貴方の口から何があったのか説明してもらいたいだけだから」
俺とガレルさんを素通りして、さっきガレルさんが座っていたソファに腰を下ろすターニアさん。
そしてガレルさんに向かってソファを指差して見せ、無言で着席を促している。
あれ? この屋敷の主って誰だったかなー?
「……ごほん」
あまりにも平静な態度のターニアさんを見てガレルさんも落ち着きを取り戻したのか、軽く咳払いをして元々座っていた、ターニアさんの対面の位置に座り直した。
俺は一応護衛という事になってるので、ターニアさんの後ろに立っておこうかな。
「先に言っておくね。ガレルと過ごした15年間は本当に幸せだったの。だから貴方には感謝しかしてないわ」
全員が定位置に着いたと判断したターニアさんは、なんの躊躇も無く本題に切り込んでいく。
「呪われた私がガレルの負担になっていたことは分かるし、貴方が自分の幸せの為に私を切り捨てたのだとしても仕方ないと私は思ってるの」
ターニアさんが静かに淡々と、ガレルさんに抱いていた想いを伝える。
だけど俺はターニアさんの言葉に違和感を覚える。
ターニアさん、意図的にニーナの存在をぼかしてるのかな?
「今までありがとうガレル。私に幸せを与えてくれて感謝してる。そんな貴方の負担になりたくはないんだけど、せめて貴方の口から直接、この家のことや婚姻を破棄したことを説明して欲しいだけなの。教えてくれるかなぁ?」
「ごめんターニア。本当にごめん……! 今更謝って済む話じゃないのは分かってるけど……、それでも……!」
「謝らないでいいよガレル。謝って済む済まないとかじゃなくて、謝られてももう無意味だから。私は謝罪の言葉じゃなくて、当時の経緯を聞きたいんだよー?」
謝られても無意味、ね。確かに復縁する気は全く無さそうだ。
ならあえてガレルさんに会いに来た理由はなんだろう? ケジメ、なのかな。
ターニアさんらしいゆったりとした、だけど感情の乗っていない言葉に、ガレルさんは言葉を詰まらせ返答が出来ない。
「ガレルー? 私は元とは言え貴方の妻だった女だよ? 今更取り繕うとしなくてもいいの。私達の解呪の方法を探してくれていたのは本当だったと思うけど、そのために旅をしていたのは嘘なんだよね?」
「……っ」
言葉は疑問系だけれど、確信を持った口調で言い放つターニアさん。
ガレルさんは未だに何の言葉も返してこない。
「ガレルはこのアウターを独占する事で、商人として成り上がる方法を思いついた。それはもしかしたら、私達の解呪に関する情報を集める為のものだったのかもしれないねー」
「…………」
「でも商人として成功し、新たな恋人、新たな家族との生活が幸福であるほどに、私達の生活が煩わしく感じてきちゃったんでしょー? なんで俺は態々呪われた女なんかを養ってるんだー、ってね」
大商人として成り上がりに成功した華々しい生活と、呪われた家族とボロ屋で寒々しく暮らす生活。
その両方を当事者として体験したガレルさんが両者を比較してしまうのは仕方ないことだ。
……見捨てられた妻と娘の事を考えたら、仕方ないなんて言いたくはないけれど。
「呪われた私を匿って養い続けるリスクと、私と縁を切って新しい家族と新しい人生を歩み直すことを天秤にかけて、新しい家族を選んだ。ただそれだけのことでしょ? いつまでダンマリ決め込んでる気なの?」
「た、ただそれだけって……! ターニア、俺は……」
「貴方は孤児から成り上がるために私を利用した、そういう計算高い部分がある男でしょ。今更言い訳や弁解するなんて、ガレルらしくないんじゃないのー?」
自分を切り捨てた男に、まるで茶化すような口調で語りかけるターニアさん。
そんなターニアさんの様子に、ガレルさんは観念したかのように大きく息を吐いた。
「そこまで分かってるなら、確かに取り繕っても仕方ねーか……」
ターニアさんの暴露を受けて、話し始めるガレルさん。
あまりにも平静なターニアさんを見て、彼もこのまま言い分けを続けても意味が無いと悟ったらしい。
「……悪いなターニア。俺はずっと成功者になりたかった。クソッタレな孤児生活から抜け出して、誰もが羨む成功者の生活を送りたかったんだ」
そういやトライラム教会の孤児出身なんだっけ、ガレルさんって。
その割にはトライラムフォロワーの参加者とは随分考え方が違うように感じられるなぁ。
「お前は俺に感謝してるって言ってくれたけど、俺こそお前には感謝してるんだ」
「あ、そうなんだー?」
「職業に関する様々な知識、1番苦労する駆け出しの頃の資金援助、獣爵家の令嬢が所属しているパーティという社会的信用。お前から受け取ったものは数知れないよ。そんなお前に感謝してないわけがないだろ?」
「…………」
ガレルさんの言葉に、ターニアさんは微かにだけど、確かに不愉快そうに眉を顰めた。
ターニアさんは幸せにしてもらって感謝していると告げたのに、その返答として獣爵家令嬢と結婚する社会的なメリットばかり羅列されたら流石にねぇ……。
「利用するだけして最後は適当にお別れするつもりだったのが、いつの間にか本気でお前のことを好きになっちまったんだよなぁ……」
ターニアさんはニーナの母親だけあって、とても魅力的な女性だからなぁ。
身近で接しているうちに、予定外に惹きこまれてしまったのかもしれない。
「お前のことも、ニーナのことも本気で愛していたよ。孤児だった俺が家族を持つことが出来るなんてって、ニーナのことは何を犠牲にしてでも守り通すって、本気で思ったんだ」
「……うん。それは疑ってないの。ガレルが向けてくれていた想いは本物だったって分かってるの」
「ごめんターニア……! だけどどうしても俺は、自分の夢を諦め切れなかったんだ……!」
……これはターニアさんとガレルさんの話だから、ガレルさんが何を言ったとしても俺が出しゃばっちゃいけない。
次の言葉が想像出来てしまうけど、心を平静に保って感情を鎮めるんだ俺。
「解呪の情報を集める為に立ち上げた商会が軌道に乗っていくと、これこそが俺の望んだ成功者の生活なんだって心から思えたんだ。そしてそれを実感すればするほど、お前との生活が惨めで邪魔なものに感じられるようになっちまってさ……」
ガレルさんは苦渋に満ちた顔で、だけど全く淀みなくターニアさんに訴えかける。
かつて愛した女性本人に、お前との生活が惨めで邪魔だったなんて、なんでそんなに被害者みたいな顔をして告げられるんだろうこの人は。
「ステイルークを飛び出して、これから華々しい生活が幕を開けるんだって信じて疑わなかった。なのに現実はすぐにお前が呪われ、生まれてきたニーナも呪われていて、パーティは解散して人目を憚る生活が始まっちまった!」
「……そうだね。私が呪われてしまったから、私たちの歯車は狂っちゃったんだよね」
「お前達を守らなきゃ守らなきゃって必死に自分を誤魔化していたけど、お前達から離れて1人になった時、俺は自由になった気がしたんだよ……! 本来はこんなに自由なのに、なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだってさぁっ……!」
感情の篭らない眼差しでガレルさんを見ているターニアさん。
彼女は今どんな気持ちでガレルさんの言葉を聞いているんだろう。
「俺は自分の夢の為に、呪われたお前達の存在が邪魔になって、切り捨てたんだ……。呪われたお前達との生活は、ずっと抜け出したかった教会での日々を思い起こさせて、ずっとずっと苦痛だったんだよ……!」
……ターニアさんは、ガレルさんの考え方のほうが一般的だと言っていた。
呪われた妻と娘を捨て、1人幸福な別の人生を歩むことがこの世界の常識だっていうのなら、俺は非常識な存在で構わない。
愛する人と娘との日々を苦痛だったなんて、そんな言葉を家族に伝えるような男と一緒になんてなりたくない。
「うん。つまりガレルは私とニーナとの生活に未練は無いってことだね? それだけ聞ければ十分だよ」
「えっ……。タ、ターニア……?」
「それじゃあねガレル。もう会う事は無いだろうけど、適当に幸せになればいいよ。私とニーナも勝手に幸せになるからさ」
「ニーナ……。ニ、ニーナも生きているのか!? ニーナも呪いが解けているのか!? ならなんでニーナは連れてきてないんだ! ニーナは俺の娘だぞ!?」
腰を浮かせて今にも詰め寄りそうな様子のガレルさんには悪いけど、流石にここにニーナは連れて来れないでしょー。
死んだと思っていた父親が、自分達を捨てて幸せに暮らしていたなんて伝えられる訳ないじゃん?
「あは。今の貴方の家庭を邪魔する気は無いって言ったでしょー? 捨てた妻と娘のことなんか忘れて、今の家族を大事にしなよ。私達はもう家族じゃないんだから」
「待って……、待ってくれターニア! 今の俺ならお前もニーナも守ってやれる! お前とニーナを幸せにしてやれる力があるんだ! もう1度一緒に暮らそうターニア! 家族には俺が説明する、だから……!」
「はいはい。そういうのは自分の家族に言ってあげてねー」
必死に追い縋るガレルさんと、全く普段と変わらないおっとりした態度でガレルさんを拒絶するターニアさん。
ターニアさんにとって、ガレルさんはもう過去でしかないんだなぁ。
シュパイン商会のジジイの時も思ったけれど、俺もみんなに愛想尽かされないように、こういう男たちの姿を他山の石としなければいけないよ。
俺が1番大切なのは愛する家族みんなの幸せだ。
優先順位を間違えて、下らない擦れ違いなんか起こさないようにしないとな……!
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