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4章 マグエルの外へ2 新たな始まり、新たな出会い
248 暗君 (改)
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「それじゃお願いねティムル。出し惜しみは無しってことで」
「あはーっ! お姉さん、腕が鳴っちゃうわよーっ!」
一時的に名匠に戻ってもらったティムルが燃えている。
明日の登城の前に、ヴァルゴの装備品を製作する事にしたのだ。
魔物狩りパーティである俺達は、謁見の際にも普段の装備品を着用していい事になっているけれど、ヴァルゴにはその装備品がそもそも無いのだ。
武器は災厄のデーモンスピアを貸し出す事にしても、せめて体防具と靴は無いと格好が付かないよ。
「新参者の私のために最高峰の装備品を用意していただけるなど……! 身に余る光栄でございますっ……!」
「あはーっ! 気にしない気にしないっ! 私が作りたいだけなんだしねーっ」
碧眼になったティムルが防具生成を発動する。
インベントリの肥やしになっていたマインドソウルを消費して、初の神鉄防具である『天魔の巫女装束』が完成した。
天魔の巫女装束
精神異常耐性+ 魔力自動回復+ 魔法耐性+ 無し 無し
出来上がった体防具は、見た目は改造巫女装束といった感じで、真っ白でズボンタイプの襦袢? 白衣? に白い足袋がセットになっている。
その上に着用している赤い緋袴が眼に眩しいね。
聖域の護り手であり槍の使い手でもあるヴァルゴに、巫女装束はなかなか面白いチョイスだと思う。
マインドソウルを使用したからか、魔法系と精神系に偏った性能みたいだ。素の状態で大効果スキルが3つ付与されているとか、物凄い性能だね。
ただ、どこにも金属要素が無いんだが……? ティムル曰く、間違いなく神鉄防具らしいけど。
「出来上がった防具にスキルジュエルをひと摘み……っと」
恐らくはこの世界の最高品質の防具なので、スキルジュエルもガンガン投入する。
まずは今まで使い道の無かった2つのスキル、敏捷性上昇と持久力上昇+の2つを天魔の巫女装束に付与してしまう。
最終的に職業の浸透が進めば要らなくなるスキルだけど、今のヴァルゴには最も効果の高いスキルだと思う。特に持久力上昇+は劇的な効果があるはずだ。
天魔の巫女装束
精神異常耐性+ 魔力自動回復+ 魔法耐性+ 持久力上昇+ 敏捷性上昇
「はいっと、かんせーいっ!」
完成した防具を、感極まって震えているヴァルゴに押し付ける。
初の装備品が、アウターレアの槍とスキルが5つの神鉄装備とか笑えますね。
更に靴にはウィンドソウルを投入して、『疾風の草履』を製作した。
疾風の草履
敏捷性上昇+ 身体操作性上昇+ 空蝉 無し 無し
草履で戦闘なんか出来るのかな? と思ったけど、そこは魔法で作られた装備品だけあって、足にピッタリ吸い付いてきてまったく問題無いらしい。
巫女装束に合う足防具ということで、これ以外に選択の余地は無かったんだけどなっ!
「こ、これが加護の力なのですか……! 自分では変化が自覚できないのに、体の動きが格段に早くなっております!」
装備品を着用したヴァルゴが、自身に適用された補正スキルの効果に慄いている。
そうなんだよなー。職業補正って自覚無しに累積されていくからこそ、使いこなすのが難しいんだよ。
でもヴァルゴの場合は極限まで技術が磨き上げられてるから、スキル補正の自覚が無いほうがいいのかもしれないな。
卓越した技術を振るう感覚が狂っちゃったりしたら大変だから。
スキルの空蝉は陽炎の上位互換で、自分の残像を生み出して敵の目を欺くことが出来るようだ。
「残るスキルジュエルは9個か……」
インベントリの中身を確認しながら、このあとどうするか考える。
神鉄装備を作ろうにも、アウターエフェクトのドロップはフレイムソウルだけになってしまったな。
出来ればティムルの防具を新調して全状態異常耐性をつけてあげたいんだけど、アウターエフェクトのドロップアイテムは常に1つは残しておきたいという事もあり、今回は見送ることになった。
「妾たちだけでも神鉄装備素材を獲得出来れば良かったのじゃがなぁ」
「スキルジュエルも碌に出なかったからねぇ。ニーナとダンの不在の影響は計り知れないよ」
フラッタとリーチェがため息混じりに首を振る。
ティムル、フラッタ、リーチェの3人もスポットで戦いまくって職業の浸透を進めてくれたようだけど、どうやらアウターエフェクトの出現まではいけなかったらしい。
魔物察知が無いと、アウターエフェクトを出現させるのは難しいのかもなー。
「気にしなくていいよ。今の装備水準でも今のところ問題ないからね」
少し落ち込み気味のフラッタとリーチェをよしよしなでなで。
その時、フラッタの頭を撫でる俺の手に、両親から贈られたという竜珠の護りがぶつかった。
そうだ。フラッタの竜珠の護りにもスキルを付与しておこうかな?
両親からの贈り物を更新することは無いだろうし、スキル枠も5つだから最高品質のアクセサリーのはずだ。
思い立ったら即スキル付与。病気耐性-と魔力自動回復-2つを付与してあげる。
竜珠の護り
魔力消費軽減+ 精神異常耐性+ 病気耐性- 魔力自動回復 無し
「ありがとうなのじゃーっ! これで更に竜化が使いやすくなるはずじゃっ! アウターエフェクトなんぞ、妾が全て蹴散らしてくれるのじゃーっ!」
歓喜の無双将軍を改めてよしよしなでなで。
短命種のフラッタには病気耐性は幾つあってもいいだろうし、魔力自動回復は俺の職業スキル分も重なって、かなりの効果を発揮してくれるはずだ。
「う~ん……みんなの装備を更新してくれるのは良いんだけど、なんだかダンの装備が1番更新が遅れちゃってる気がするね」
「んー……。でもアウターレア武器がドロップしたのは運だからね。仕方ないよ」
「うん。加入のタイミングが良かっただけで、ヴァルゴの装備品を優先的に整えるのは仕方ないの。だけど竜王との戦いなんかを考えると、ダンの装備品も早く更新しておきたいねー」
ニーナが少し複雑そうな面持ちで呟きを零す。
俺の装備品もだけど、ティムルの状態異常耐性も間に合ってない感じだよ。状態異常は死に直結するから、俺の装備品よりもティムルを優先したいかな。
今使ってるミスリル装備だって、この世界水準だと普通に最高水準のはずですしね?
「ニーナの言う通り、早めに武器だけでも更新して欲しいところだねぇ」
しかしリーチェもニーナの案に乗っかって、俺の武器の更新を優先すべきだと口にする。
「ダンの職業浸透数は装備の品質を補えるほどの数だと思うけれど、逆に言えば装備品を更新した時の効果が最も大きいということでもあるからさ。ダンが装備を更新したら、かなりの戦力アップを期待できると思うんだ」
「なるほど。職業浸透が進んでいるからこそ、装備品の水準も上げるべきなのか……」
職業補正と装備品によって、攻撃力と防御力ってどう変動するんだろうな? 数値化されてるわけじゃないから、補正効果を正確に把握するのが難しいんだよね。
単純な足し算だったらあまり効果は無いけど、乗算だった場合の攻撃力の跳ね上がり方はヤバそうだ。
「あはーっ。こんな装備を沢山作れて幸せすぎるわぁ……」
両手を頬に当てて、恍惚とした表情でうっとりと呟くティムル。
神鉄装備を複数製作したにも拘らず、ティムルには魔力枯渇の症状が出ていないようだ。生産職に強すぎるわドワーフ族。
「自作した神鉄装備に、自分で枠いっぱいにスキルを付与するこの快感……。ああ、お姉さん癖になっちゃいそ~……」
ティムルの官能的な呟きが、俺達が進むべき道を照らしてくれる。
つまりどんどん装備品を作らせて、ティムルお姉さんをガンガン気持ちよくさせればいいんだなっ!
よぉし分かったっ! 登城が終わったらアウターエフェクトを乱獲するぞぉっ!
登城前日の今夜は、みんなの奥をガンガン突いて気持ちよくさせてあげるねっ。
「「「きゃーっ。ダンのえっち~っ」」」
ティムルに引っ張られて普段よりちょっぴり昂ぶっていたみんなの中を満たしてあげて、満足感に満たされながら眠りについた。
「ま、まさか登城前にここまでされるとは思ってませんでしたぁ……」
「いつも通りが肝心ってことだよ。おはようラトリア」
次の日、目覚めた後も改めてみんなのお腹をいっぱいにしてから、身支度を整えて馬車で城に向かう。
中効果耐性スキルで馬車までは乗れるようになってたから、解呪に成功してなくてもここまでは問題は無かった。でも移動魔法が使えないせいで、制約が多くて大変だったろうなぁ。
いや、大効果スキルに強化されたんだっけ? 解呪のインパクトが強すぎて忘れかけてたよ。
「ふふっ。馬車に揺られるのって結構好きなんだーっ」
「これがスペルド王国の中心なのですねぇ。やはり聖域の外は沢山の人々で賑っておりますねぇ」
ニコニコニーナとキョロキョロヴァルゴ。可愛い。
馬車の中は思ったよりも和やかな雰囲気だ。
この国の城に向かっているというのに、みんなあまり緊張している様子はないね?
ニーナは前回殆ど見れなかったスペルディアの街並みに興味津々だし、ティムルは大商人として貴族とも交流した事があるらしく、普段通り落ち着いた雰囲気だ。
フラッタとリーチェは貴族みたいなものだし、ヴァルゴはそもそも階級制度に疎い。緊張する要素が無いか。
「……ダンさんは緊張してないんですか?」
微笑ましいみんなの様子を楽しんでいると、少し恨めしげな様子でラトリアが問いかけてくる。
馬車の中で1番緊張しているのはラトリアかもしれないね。
「建国の英雄であるリーチェさんとパーティを結成しただけに留まらず、婚姻契約まで結んでるんですよ? それでなくてもフラッタの元婚約者もちょっかいをかけてくるでしょうし……」
「俺にとっては王城は敵地だと認識してるからね。警戒はするけど緊張は無いかな。謁見中に王族の首を刎ねるくらい、今の俺なら余裕そうだし?」
「ダンさんがそんなだから私が緊張してるんですよーっ!」
ラトリアの報告から始まったことなんだから身から出た錆だろ。流石にもう口には出さないけど。
ルーナ家にあった事だけ報告すりゃいいものを、俺達を引っ張り出したのはお前なんだから、こっちを責められる筋合いはないね。
「う~、私のバカバカバカっ……! なんて余計な事しちゃったの~……! ああもう、何事もなく謁見が終わりますようにぃっ……!」
自分の頭をポカポカと叩くラトリアをよしよしなでなでして宥めてあげる。
……だけどラトリアには悪いけど、穏便に終わるとは思えないんだよなぁ。
獣爵家の血筋であるニーナ。
恐らく現時点で唯一神鉄装備を作れるティムル。
今回の騒動の当事者の1人で、婚約者がごねているフラッタ。
王族にもファンが居るという、翠の姫エルフにして俺の嫁になったリーチェ。
絶世の美貌と槍の絶技を持ちながら、社会制度に疎いヴァルゴ。
そして嫁関係だと短気になっちゃう俺。
……うん。何事もなく終わるのは無理じゃないかなぁ?
みんなでワイワイしながら暫く移動して、ようやく馬車が止まる。
「みなさん。私に続いてお進みください」
「おお……。まさか本物のお城を見る機会があるなんてなぁ……」
ラトリアに先導されて馬車を降りると、目の前には白を基調とした石造りの立派なお城が建っていた。
写真や創作物でお城を見る機会はいくらでもあったけれど、実物のお城を目の当たりにすると結構迫力があるものだと圧倒される。
竜爵邸も大きいと思ったけれど、やっぱり王城となると規模が違うなぁ。
「ルーナ竜爵家当主夫人、ラトリア・ターム・ソクトルーナ様とそのご一行ですね。どうぞお通りください」
先頭のラトリアが門番らしき男にステータスプレートを提示すると、俺達のステータスプレートを開示することなく奥に案内される。
あれ? 城の警備って、思ったよりガバガバだったりするの?
「ダンさんたちに怒られたから、竜爵家が身元を保証するからと、皆さんのステータスプレートを提示しなくていいように交渉したんですよっ! 大変だったんですからねっ!?」
「自業自得乙でーす。でもお疲れ様ー」
まったく……。せめて俺達に怒られる前に、その程度の交渉は済ませておけっての。
解呪の情報を収集するために、ニーナの呪いを周知しようとしてたっぽいからなぁラトリアは。
善意なのは疑ってないけど、善意だからこそ暴走されると止めるのが難しくて厄介だよなぁ。
「それではこちらで暫しご歓談ください」
始めに案内されたのは大きな待合室のような部屋だった。
登城したからといってすぐに謁見が出来るわけではなく、ある程度待たされるのは当たり前のことなんだそうだ。
登城を命令しておいて相手を待たすとか、アホじゃないの?
「忍者みたいな相手は……、いないっぽいかな?」
生体察知を発動して、伏兵を確認しておく。
室内には俺達の他に給仕係りのメイドさんが3名ほどいるけど、他には誰もいないようだ。
だけど隣の部屋にはなんか沢山人がいるっぽいね。
俺達を監視し、万が一の場合に制圧するための人員なのかな?
用意されたお茶や食べ物を片っ端から鑑定してみるけど、毒物の類いは無さそうだ。フラッタやラトリアは気にせずバクバク食ってるから、毒が入ってたらもう手遅れだったけど?
どこに敵が潜んでるか分からないので、常にありとあらゆる可能性に警戒し続けなきゃいけないな。本当に面倒臭い。
「これより謁見の間にご案内します。どうぞこちらへ」
「……ようやくかぁ」
俺達が呼ばれるまで、2時間近く待たされた。
みんながいてくれたからあっと言う間に過ぎた時間だったけど、普通だったら待たせすぎだろ。お前らに呼び出されたから出向いてんのに。
「それでは王がお見えになるまで、このままお待ちください」
そして案内された謁見の間には空の玉座。
んもーっ。めんどくさすぎるよぉ。
「シモン陛下は人を待たせるのが大層好きな御方らしくてのぅ。逆に自分が待たされるのを非常に嫌うらしくてな。臣下の者たちはかなり苦労していると聞くのじゃ」
フラッタの説明にゲンナリする。
暗君ってことですかねぇ? まだ謁見が始まってもいないのに、トラブルの気配がヒシヒシと伝わってくるよぉ?
「これより、シモン・トエ・ルゥル・スペルディア陛下がお見えになる!」
全員で跪いたままで10分くらい経った頃、ようやく陛下がお見えになる的な御達しを受けた。
でも待ち時間が長すぎて、もう国王陛下に興味無くなっちゃったなぁ。
跪いて下を向いているので顔は確認できないけど、たっぷり時間を使って誰かが玉座に座ったようだ。なげーよ。
「面を上げよ」
しわがれた声でそう命じられるが、ラトリア以外は全員跪いたままだ。
今回はラトリアが代表としてここに来ていて、俺たちはラトリアのお供みたいなものであり、国王陛下と直接会話する権利を持たない。
だったら呼びつけんなよバーカとしか思えないんだけど、ラトリアが無理矢理ねじ込んだ可能性も無くはないので、国王陛下の評価はまだ保留しておく。
恐らく国王とは別の誰かが、ラトリアから報告されたルーナ邸の事件のあらましを語り、それが終わって今度はラトリア自身が細かい補足説明をしていく。
国王は何度かラトリアに質問を返していたけど、あまり緊張感のある会話ではないなぁ。眠い。
「控えし者たちも面を上げよ」
暇すぎて居眠りをしそうだったところで声がかかった。
フラッタと練習した通りに仰々しく立ち上がって、初めて国王の姿を確認する。
年は50代オーバーかな? 60代過ぎてても驚かないくらいには老けている。
明らかに戦闘をこなせる体つきではないし、威厳はあっても動きは隙だらけだ。国王は戦えないみたいだね。
竜爵家や獣爵家が脳筋のせいですっかり勘違いしていたけど、普通王族や貴族は最前線には立たないよなぁ。
「リーチェよ。此度は良くやってくれた。王国の危機を未然に防いでくれたこと、この国の王として感謝しよう」
「勿体無いお言葉です」
ふむ。国王の対応的に、やっぱりリーチェは平民扱いなんだなぁと納得する。
リーチェはひと言だけ返答して、その後は特に何も喋らない。
リーチェがなにも語らないので、国王はリーチェからフラッタに視線を移した。
「フラッタよ。よくぞ竜爵家の危機を救ってくれたな。今は亡きゴルディアも、向こうでお前のことを自慢している事だろう」
「身に余る光栄でございます」
フラッタも王の言葉に短く返答する。多分興味無いんだろうな。
でものじゃのじゃ言わないフラッタが新鮮で、俺の方はなんだかちょっと楽しくなりつつある。
「2人とも。此度の働き、誠に大儀であった。お前達がいなければ、スペルド王国は未曾有の危機に瀕していたことだろう」
国王が声をかけたのはリーチェとフラッタだけだった。
俺の番は無いんすね。俺も国王には興味無いから別に良いんだけど。
「此度の褒美として、我とは子を生せぬお前達のことを我の側室に迎える事とするっ!」
どうだ? 明るくなっただろう? とか言いながら紙幣に火を灯しそうなドヤ顔を浮かべている国王。
興味は無いけど、くだらないことを言い出したなぁこのジジイ。
「人間族以外の者が王室に入るなど前代未聞のことだ。光栄に思うが良いぞ」
「せっかくの御言葉ですが、辞退させていただきます。私は古の約定により平民として生きることを選んだのです。王室に入るなど恐れ多くて、とてもお受けできません」
「妾も辞退させていただきます。王の寵愛を受けるのは、王妃様が相応しいでしょう」
多少言葉を選びながらも、王の命令を真っ向から拒否する2人。
拒否されるとは思っていなかったらしい国王は、眉間に皺を寄せて表情を曇らせる。
「……ほう? 2人とも、王の言葉が聞けぬと申すのか?」
「「恐れながら」」
明らかに機嫌の悪くなる国王と、全く意に介さず拒否する2人。
俺の目の前で妻を口説かれていて普通ならイライラしそうなんだけど、国王と2人の温度差がありすぎて、なんだか俺まで冷めてきちゃうなぁ。
「……もしや仲間と離れるのが辛いのか? ならば5人全員迎えてやろうではないか。これならお前達も何も問題なかろう?」
これぞ名案とばかりに、得意げな顔をして語る国王。
……なんだろう。頭に来るよりも、同じ人間族として恥ずかしくなるな。
こんなのが国王やってたら、そりゃ年中発情してる種族って言われるよ……。
いやぁヴァルゴには口を開くなと厳命しておいて良かった。ちょっとウンザリした顔してるもん。
「陛下。彼女達は既に全員が婚姻契約を結んでおります。褒美と称して彼女たちの婚姻を引き裂くのは、いささか横暴では?」
場に緊張感が漂い始めたのを察したのか、ラトリアが会話に割り込んで国王に進言する。
ラトリアが俺達を城に引き摺り出した以上、お前がこの場をちゃんと収めてくれよー?
「……ラトリア。貴様スペルドの1貴族の分際で、王の言葉を否定するのか?」
「王に苦言を呈するのも、この国の貴族としての役割と存じておりますので」
俺が国王を殺さないように頑張ってねラトリア。
っていうかラトリアは王と会った事あるだろうに、この展開を予想できなかったのかなぁ?
「国王である我の寵愛を受けられるのだぞっ! これ以上の褒美などあるはずがあるまいっ!」
「残念ですが陛下。彼女たちは誰1人それを望んでおりません。彼女たちは全員が既に既婚者です。陛下の愛は然るべき相手にお与えください」
国王とラトリアが舌戦を繰り広げているけど、どうでも良すぎて眠くなる。
他のメンバーもこの状況に飽きてきているのが良くわかる。早く帰りたいなぁ。
ラトリアもこのままでは話が進まないと思ったのか、少しだけ威圧感を滲ませながら国王への態度を変えていく。
「……国王陛下。ここで引いてくださらないのであれば、彼らを城に招いてしまった私も引き下がるわけには参りません」
「……なにぃ?」
「国王陛下は、竜爵家並びに竜人族全てと事を構える覚悟はおありですか? ここで引いてくださらないということは、そういうことであると認識してください」
ラトリアの纏う雰囲気に若干気圧されながらも、馬鹿馬鹿しいと一笑に付す国王。
「当主も亡くなり次期当主も行方不明である今のルーナ家に、竜人族をまとめ上げることが出来ると本気で思うておるのか? 我らと事を構えれば、無事で済まないのはお主たちソクトルーナ家の方であろうが」
「陛下。私はこれでも、この国最強と呼ばれたゴルディアの妻なのです。ここで竜化して、陛下を亡き者にすることも可能なのです」
国王の殺害を仄めかしながら、ラトリアが静かに竜化していく。
ラトリアの纏う青いオーラと巨大な翼を目にした国王は、明らかに狼狽している。
そりゃ、今からお前を殺すぞって宣言されたらめっちゃビビるだろうね。
「これは冗談でも脅しでもありません。陛下、どうか引いてもらえませんか?」
「……ラトリア。貴様、自分が何を言っているのか分かっておるのか? これは明確な王への殺害予告であり、国家反逆罪に値するぞ?」
「どちらにしても、ここで引かねば陛下は死にますから。殺すのが私か、彼女たちの夫かの違いだけです」
何を自然に俺を共犯にしようとしてるのかなラトリアは。
俺なんか未だに国王に認識もされてないモブキャラでしかないからね? 国王殺害だなんてとてもとても。
「私の竜化が切れる前に、先ほどの発言を撤回してください。竜化した私と打ち合う自信のある護衛は、どうやらいないようですよ?」
「ぬ、ぅぅ……! この腑抜けどもめがっ……!」
王の殺害1歩手前の状況下なのに誰もラトリアを抑えに来ないのは、護衛の人たちも普通にビビっているからのようだ。
まぁラトリアとゴルディアさんは王国最強を謳われていたからね。王の護衛よりも強いんだろう。
だけど、命を捨ててでも陛下を守るっ! とか言う奴、1人くらい居ないの? 護衛さん仕事して?
「……ちっ。あい分かった。この場は我が引いてやる」
物凄く渋々、王は発言を撤回した。
色ボケジジイも、流石に命には代えられなかったか。
「我の先ほどの発言は撤回し、この者達を側室に迎えることはしないと誓おう。これで満足かラトリア?」
「賢明なご判断ですわ陛下。数々の非礼、誠に申し訳ございませんでした」
恭しく謝罪しながら、ゆっくりと竜化を解除するラトリア。
その様子を見て露骨に安堵している色ボケジジイ。
……っていうか、この謁見ってなんのために開かれたんだよっ。
俺なんか、未だにジジイに認識すらされてないんだけどぉ? 登城した意味無いじゃんっ。
「あはーっ! お姉さん、腕が鳴っちゃうわよーっ!」
一時的に名匠に戻ってもらったティムルが燃えている。
明日の登城の前に、ヴァルゴの装備品を製作する事にしたのだ。
魔物狩りパーティである俺達は、謁見の際にも普段の装備品を着用していい事になっているけれど、ヴァルゴにはその装備品がそもそも無いのだ。
武器は災厄のデーモンスピアを貸し出す事にしても、せめて体防具と靴は無いと格好が付かないよ。
「新参者の私のために最高峰の装備品を用意していただけるなど……! 身に余る光栄でございますっ……!」
「あはーっ! 気にしない気にしないっ! 私が作りたいだけなんだしねーっ」
碧眼になったティムルが防具生成を発動する。
インベントリの肥やしになっていたマインドソウルを消費して、初の神鉄防具である『天魔の巫女装束』が完成した。
天魔の巫女装束
精神異常耐性+ 魔力自動回復+ 魔法耐性+ 無し 無し
出来上がった体防具は、見た目は改造巫女装束といった感じで、真っ白でズボンタイプの襦袢? 白衣? に白い足袋がセットになっている。
その上に着用している赤い緋袴が眼に眩しいね。
聖域の護り手であり槍の使い手でもあるヴァルゴに、巫女装束はなかなか面白いチョイスだと思う。
マインドソウルを使用したからか、魔法系と精神系に偏った性能みたいだ。素の状態で大効果スキルが3つ付与されているとか、物凄い性能だね。
ただ、どこにも金属要素が無いんだが……? ティムル曰く、間違いなく神鉄防具らしいけど。
「出来上がった防具にスキルジュエルをひと摘み……っと」
恐らくはこの世界の最高品質の防具なので、スキルジュエルもガンガン投入する。
まずは今まで使い道の無かった2つのスキル、敏捷性上昇と持久力上昇+の2つを天魔の巫女装束に付与してしまう。
最終的に職業の浸透が進めば要らなくなるスキルだけど、今のヴァルゴには最も効果の高いスキルだと思う。特に持久力上昇+は劇的な効果があるはずだ。
天魔の巫女装束
精神異常耐性+ 魔力自動回復+ 魔法耐性+ 持久力上昇+ 敏捷性上昇
「はいっと、かんせーいっ!」
完成した防具を、感極まって震えているヴァルゴに押し付ける。
初の装備品が、アウターレアの槍とスキルが5つの神鉄装備とか笑えますね。
更に靴にはウィンドソウルを投入して、『疾風の草履』を製作した。
疾風の草履
敏捷性上昇+ 身体操作性上昇+ 空蝉 無し 無し
草履で戦闘なんか出来るのかな? と思ったけど、そこは魔法で作られた装備品だけあって、足にピッタリ吸い付いてきてまったく問題無いらしい。
巫女装束に合う足防具ということで、これ以外に選択の余地は無かったんだけどなっ!
「こ、これが加護の力なのですか……! 自分では変化が自覚できないのに、体の動きが格段に早くなっております!」
装備品を着用したヴァルゴが、自身に適用された補正スキルの効果に慄いている。
そうなんだよなー。職業補正って自覚無しに累積されていくからこそ、使いこなすのが難しいんだよ。
でもヴァルゴの場合は極限まで技術が磨き上げられてるから、スキル補正の自覚が無いほうがいいのかもしれないな。
卓越した技術を振るう感覚が狂っちゃったりしたら大変だから。
スキルの空蝉は陽炎の上位互換で、自分の残像を生み出して敵の目を欺くことが出来るようだ。
「残るスキルジュエルは9個か……」
インベントリの中身を確認しながら、このあとどうするか考える。
神鉄装備を作ろうにも、アウターエフェクトのドロップはフレイムソウルだけになってしまったな。
出来ればティムルの防具を新調して全状態異常耐性をつけてあげたいんだけど、アウターエフェクトのドロップアイテムは常に1つは残しておきたいという事もあり、今回は見送ることになった。
「妾たちだけでも神鉄装備素材を獲得出来れば良かったのじゃがなぁ」
「スキルジュエルも碌に出なかったからねぇ。ニーナとダンの不在の影響は計り知れないよ」
フラッタとリーチェがため息混じりに首を振る。
ティムル、フラッタ、リーチェの3人もスポットで戦いまくって職業の浸透を進めてくれたようだけど、どうやらアウターエフェクトの出現まではいけなかったらしい。
魔物察知が無いと、アウターエフェクトを出現させるのは難しいのかもなー。
「気にしなくていいよ。今の装備水準でも今のところ問題ないからね」
少し落ち込み気味のフラッタとリーチェをよしよしなでなで。
その時、フラッタの頭を撫でる俺の手に、両親から贈られたという竜珠の護りがぶつかった。
そうだ。フラッタの竜珠の護りにもスキルを付与しておこうかな?
両親からの贈り物を更新することは無いだろうし、スキル枠も5つだから最高品質のアクセサリーのはずだ。
思い立ったら即スキル付与。病気耐性-と魔力自動回復-2つを付与してあげる。
竜珠の護り
魔力消費軽減+ 精神異常耐性+ 病気耐性- 魔力自動回復 無し
「ありがとうなのじゃーっ! これで更に竜化が使いやすくなるはずじゃっ! アウターエフェクトなんぞ、妾が全て蹴散らしてくれるのじゃーっ!」
歓喜の無双将軍を改めてよしよしなでなで。
短命種のフラッタには病気耐性は幾つあってもいいだろうし、魔力自動回復は俺の職業スキル分も重なって、かなりの効果を発揮してくれるはずだ。
「う~ん……みんなの装備を更新してくれるのは良いんだけど、なんだかダンの装備が1番更新が遅れちゃってる気がするね」
「んー……。でもアウターレア武器がドロップしたのは運だからね。仕方ないよ」
「うん。加入のタイミングが良かっただけで、ヴァルゴの装備品を優先的に整えるのは仕方ないの。だけど竜王との戦いなんかを考えると、ダンの装備品も早く更新しておきたいねー」
ニーナが少し複雑そうな面持ちで呟きを零す。
俺の装備品もだけど、ティムルの状態異常耐性も間に合ってない感じだよ。状態異常は死に直結するから、俺の装備品よりもティムルを優先したいかな。
今使ってるミスリル装備だって、この世界水準だと普通に最高水準のはずですしね?
「ニーナの言う通り、早めに武器だけでも更新して欲しいところだねぇ」
しかしリーチェもニーナの案に乗っかって、俺の武器の更新を優先すべきだと口にする。
「ダンの職業浸透数は装備の品質を補えるほどの数だと思うけれど、逆に言えば装備品を更新した時の効果が最も大きいということでもあるからさ。ダンが装備を更新したら、かなりの戦力アップを期待できると思うんだ」
「なるほど。職業浸透が進んでいるからこそ、装備品の水準も上げるべきなのか……」
職業補正と装備品によって、攻撃力と防御力ってどう変動するんだろうな? 数値化されてるわけじゃないから、補正効果を正確に把握するのが難しいんだよね。
単純な足し算だったらあまり効果は無いけど、乗算だった場合の攻撃力の跳ね上がり方はヤバそうだ。
「あはーっ。こんな装備を沢山作れて幸せすぎるわぁ……」
両手を頬に当てて、恍惚とした表情でうっとりと呟くティムル。
神鉄装備を複数製作したにも拘らず、ティムルには魔力枯渇の症状が出ていないようだ。生産職に強すぎるわドワーフ族。
「自作した神鉄装備に、自分で枠いっぱいにスキルを付与するこの快感……。ああ、お姉さん癖になっちゃいそ~……」
ティムルの官能的な呟きが、俺達が進むべき道を照らしてくれる。
つまりどんどん装備品を作らせて、ティムルお姉さんをガンガン気持ちよくさせればいいんだなっ!
よぉし分かったっ! 登城が終わったらアウターエフェクトを乱獲するぞぉっ!
登城前日の今夜は、みんなの奥をガンガン突いて気持ちよくさせてあげるねっ。
「「「きゃーっ。ダンのえっち~っ」」」
ティムルに引っ張られて普段よりちょっぴり昂ぶっていたみんなの中を満たしてあげて、満足感に満たされながら眠りについた。
「ま、まさか登城前にここまでされるとは思ってませんでしたぁ……」
「いつも通りが肝心ってことだよ。おはようラトリア」
次の日、目覚めた後も改めてみんなのお腹をいっぱいにしてから、身支度を整えて馬車で城に向かう。
中効果耐性スキルで馬車までは乗れるようになってたから、解呪に成功してなくてもここまでは問題は無かった。でも移動魔法が使えないせいで、制約が多くて大変だったろうなぁ。
いや、大効果スキルに強化されたんだっけ? 解呪のインパクトが強すぎて忘れかけてたよ。
「ふふっ。馬車に揺られるのって結構好きなんだーっ」
「これがスペルド王国の中心なのですねぇ。やはり聖域の外は沢山の人々で賑っておりますねぇ」
ニコニコニーナとキョロキョロヴァルゴ。可愛い。
馬車の中は思ったよりも和やかな雰囲気だ。
この国の城に向かっているというのに、みんなあまり緊張している様子はないね?
ニーナは前回殆ど見れなかったスペルディアの街並みに興味津々だし、ティムルは大商人として貴族とも交流した事があるらしく、普段通り落ち着いた雰囲気だ。
フラッタとリーチェは貴族みたいなものだし、ヴァルゴはそもそも階級制度に疎い。緊張する要素が無いか。
「……ダンさんは緊張してないんですか?」
微笑ましいみんなの様子を楽しんでいると、少し恨めしげな様子でラトリアが問いかけてくる。
馬車の中で1番緊張しているのはラトリアかもしれないね。
「建国の英雄であるリーチェさんとパーティを結成しただけに留まらず、婚姻契約まで結んでるんですよ? それでなくてもフラッタの元婚約者もちょっかいをかけてくるでしょうし……」
「俺にとっては王城は敵地だと認識してるからね。警戒はするけど緊張は無いかな。謁見中に王族の首を刎ねるくらい、今の俺なら余裕そうだし?」
「ダンさんがそんなだから私が緊張してるんですよーっ!」
ラトリアの報告から始まったことなんだから身から出た錆だろ。流石にもう口には出さないけど。
ルーナ家にあった事だけ報告すりゃいいものを、俺達を引っ張り出したのはお前なんだから、こっちを責められる筋合いはないね。
「う~、私のバカバカバカっ……! なんて余計な事しちゃったの~……! ああもう、何事もなく謁見が終わりますようにぃっ……!」
自分の頭をポカポカと叩くラトリアをよしよしなでなでして宥めてあげる。
……だけどラトリアには悪いけど、穏便に終わるとは思えないんだよなぁ。
獣爵家の血筋であるニーナ。
恐らく現時点で唯一神鉄装備を作れるティムル。
今回の騒動の当事者の1人で、婚約者がごねているフラッタ。
王族にもファンが居るという、翠の姫エルフにして俺の嫁になったリーチェ。
絶世の美貌と槍の絶技を持ちながら、社会制度に疎いヴァルゴ。
そして嫁関係だと短気になっちゃう俺。
……うん。何事もなく終わるのは無理じゃないかなぁ?
みんなでワイワイしながら暫く移動して、ようやく馬車が止まる。
「みなさん。私に続いてお進みください」
「おお……。まさか本物のお城を見る機会があるなんてなぁ……」
ラトリアに先導されて馬車を降りると、目の前には白を基調とした石造りの立派なお城が建っていた。
写真や創作物でお城を見る機会はいくらでもあったけれど、実物のお城を目の当たりにすると結構迫力があるものだと圧倒される。
竜爵邸も大きいと思ったけれど、やっぱり王城となると規模が違うなぁ。
「ルーナ竜爵家当主夫人、ラトリア・ターム・ソクトルーナ様とそのご一行ですね。どうぞお通りください」
先頭のラトリアが門番らしき男にステータスプレートを提示すると、俺達のステータスプレートを開示することなく奥に案内される。
あれ? 城の警備って、思ったよりガバガバだったりするの?
「ダンさんたちに怒られたから、竜爵家が身元を保証するからと、皆さんのステータスプレートを提示しなくていいように交渉したんですよっ! 大変だったんですからねっ!?」
「自業自得乙でーす。でもお疲れ様ー」
まったく……。せめて俺達に怒られる前に、その程度の交渉は済ませておけっての。
解呪の情報を収集するために、ニーナの呪いを周知しようとしてたっぽいからなぁラトリアは。
善意なのは疑ってないけど、善意だからこそ暴走されると止めるのが難しくて厄介だよなぁ。
「それではこちらで暫しご歓談ください」
始めに案内されたのは大きな待合室のような部屋だった。
登城したからといってすぐに謁見が出来るわけではなく、ある程度待たされるのは当たり前のことなんだそうだ。
登城を命令しておいて相手を待たすとか、アホじゃないの?
「忍者みたいな相手は……、いないっぽいかな?」
生体察知を発動して、伏兵を確認しておく。
室内には俺達の他に給仕係りのメイドさんが3名ほどいるけど、他には誰もいないようだ。
だけど隣の部屋にはなんか沢山人がいるっぽいね。
俺達を監視し、万が一の場合に制圧するための人員なのかな?
用意されたお茶や食べ物を片っ端から鑑定してみるけど、毒物の類いは無さそうだ。フラッタやラトリアは気にせずバクバク食ってるから、毒が入ってたらもう手遅れだったけど?
どこに敵が潜んでるか分からないので、常にありとあらゆる可能性に警戒し続けなきゃいけないな。本当に面倒臭い。
「これより謁見の間にご案内します。どうぞこちらへ」
「……ようやくかぁ」
俺達が呼ばれるまで、2時間近く待たされた。
みんながいてくれたからあっと言う間に過ぎた時間だったけど、普通だったら待たせすぎだろ。お前らに呼び出されたから出向いてんのに。
「それでは王がお見えになるまで、このままお待ちください」
そして案内された謁見の間には空の玉座。
んもーっ。めんどくさすぎるよぉ。
「シモン陛下は人を待たせるのが大層好きな御方らしくてのぅ。逆に自分が待たされるのを非常に嫌うらしくてな。臣下の者たちはかなり苦労していると聞くのじゃ」
フラッタの説明にゲンナリする。
暗君ってことですかねぇ? まだ謁見が始まってもいないのに、トラブルの気配がヒシヒシと伝わってくるよぉ?
「これより、シモン・トエ・ルゥル・スペルディア陛下がお見えになる!」
全員で跪いたままで10分くらい経った頃、ようやく陛下がお見えになる的な御達しを受けた。
でも待ち時間が長すぎて、もう国王陛下に興味無くなっちゃったなぁ。
跪いて下を向いているので顔は確認できないけど、たっぷり時間を使って誰かが玉座に座ったようだ。なげーよ。
「面を上げよ」
しわがれた声でそう命じられるが、ラトリア以外は全員跪いたままだ。
今回はラトリアが代表としてここに来ていて、俺たちはラトリアのお供みたいなものであり、国王陛下と直接会話する権利を持たない。
だったら呼びつけんなよバーカとしか思えないんだけど、ラトリアが無理矢理ねじ込んだ可能性も無くはないので、国王陛下の評価はまだ保留しておく。
恐らく国王とは別の誰かが、ラトリアから報告されたルーナ邸の事件のあらましを語り、それが終わって今度はラトリア自身が細かい補足説明をしていく。
国王は何度かラトリアに質問を返していたけど、あまり緊張感のある会話ではないなぁ。眠い。
「控えし者たちも面を上げよ」
暇すぎて居眠りをしそうだったところで声がかかった。
フラッタと練習した通りに仰々しく立ち上がって、初めて国王の姿を確認する。
年は50代オーバーかな? 60代過ぎてても驚かないくらいには老けている。
明らかに戦闘をこなせる体つきではないし、威厳はあっても動きは隙だらけだ。国王は戦えないみたいだね。
竜爵家や獣爵家が脳筋のせいですっかり勘違いしていたけど、普通王族や貴族は最前線には立たないよなぁ。
「リーチェよ。此度は良くやってくれた。王国の危機を未然に防いでくれたこと、この国の王として感謝しよう」
「勿体無いお言葉です」
ふむ。国王の対応的に、やっぱりリーチェは平民扱いなんだなぁと納得する。
リーチェはひと言だけ返答して、その後は特に何も喋らない。
リーチェがなにも語らないので、国王はリーチェからフラッタに視線を移した。
「フラッタよ。よくぞ竜爵家の危機を救ってくれたな。今は亡きゴルディアも、向こうでお前のことを自慢している事だろう」
「身に余る光栄でございます」
フラッタも王の言葉に短く返答する。多分興味無いんだろうな。
でものじゃのじゃ言わないフラッタが新鮮で、俺の方はなんだかちょっと楽しくなりつつある。
「2人とも。此度の働き、誠に大儀であった。お前達がいなければ、スペルド王国は未曾有の危機に瀕していたことだろう」
国王が声をかけたのはリーチェとフラッタだけだった。
俺の番は無いんすね。俺も国王には興味無いから別に良いんだけど。
「此度の褒美として、我とは子を生せぬお前達のことを我の側室に迎える事とするっ!」
どうだ? 明るくなっただろう? とか言いながら紙幣に火を灯しそうなドヤ顔を浮かべている国王。
興味は無いけど、くだらないことを言い出したなぁこのジジイ。
「人間族以外の者が王室に入るなど前代未聞のことだ。光栄に思うが良いぞ」
「せっかくの御言葉ですが、辞退させていただきます。私は古の約定により平民として生きることを選んだのです。王室に入るなど恐れ多くて、とてもお受けできません」
「妾も辞退させていただきます。王の寵愛を受けるのは、王妃様が相応しいでしょう」
多少言葉を選びながらも、王の命令を真っ向から拒否する2人。
拒否されるとは思っていなかったらしい国王は、眉間に皺を寄せて表情を曇らせる。
「……ほう? 2人とも、王の言葉が聞けぬと申すのか?」
「「恐れながら」」
明らかに機嫌の悪くなる国王と、全く意に介さず拒否する2人。
俺の目の前で妻を口説かれていて普通ならイライラしそうなんだけど、国王と2人の温度差がありすぎて、なんだか俺まで冷めてきちゃうなぁ。
「……もしや仲間と離れるのが辛いのか? ならば5人全員迎えてやろうではないか。これならお前達も何も問題なかろう?」
これぞ名案とばかりに、得意げな顔をして語る国王。
……なんだろう。頭に来るよりも、同じ人間族として恥ずかしくなるな。
こんなのが国王やってたら、そりゃ年中発情してる種族って言われるよ……。
いやぁヴァルゴには口を開くなと厳命しておいて良かった。ちょっとウンザリした顔してるもん。
「陛下。彼女達は既に全員が婚姻契約を結んでおります。褒美と称して彼女たちの婚姻を引き裂くのは、いささか横暴では?」
場に緊張感が漂い始めたのを察したのか、ラトリアが会話に割り込んで国王に進言する。
ラトリアが俺達を城に引き摺り出した以上、お前がこの場をちゃんと収めてくれよー?
「……ラトリア。貴様スペルドの1貴族の分際で、王の言葉を否定するのか?」
「王に苦言を呈するのも、この国の貴族としての役割と存じておりますので」
俺が国王を殺さないように頑張ってねラトリア。
っていうかラトリアは王と会った事あるだろうに、この展開を予想できなかったのかなぁ?
「国王である我の寵愛を受けられるのだぞっ! これ以上の褒美などあるはずがあるまいっ!」
「残念ですが陛下。彼女たちは誰1人それを望んでおりません。彼女たちは全員が既に既婚者です。陛下の愛は然るべき相手にお与えください」
国王とラトリアが舌戦を繰り広げているけど、どうでも良すぎて眠くなる。
他のメンバーもこの状況に飽きてきているのが良くわかる。早く帰りたいなぁ。
ラトリアもこのままでは話が進まないと思ったのか、少しだけ威圧感を滲ませながら国王への態度を変えていく。
「……国王陛下。ここで引いてくださらないのであれば、彼らを城に招いてしまった私も引き下がるわけには参りません」
「……なにぃ?」
「国王陛下は、竜爵家並びに竜人族全てと事を構える覚悟はおありですか? ここで引いてくださらないということは、そういうことであると認識してください」
ラトリアの纏う雰囲気に若干気圧されながらも、馬鹿馬鹿しいと一笑に付す国王。
「当主も亡くなり次期当主も行方不明である今のルーナ家に、竜人族をまとめ上げることが出来ると本気で思うておるのか? 我らと事を構えれば、無事で済まないのはお主たちソクトルーナ家の方であろうが」
「陛下。私はこれでも、この国最強と呼ばれたゴルディアの妻なのです。ここで竜化して、陛下を亡き者にすることも可能なのです」
国王の殺害を仄めかしながら、ラトリアが静かに竜化していく。
ラトリアの纏う青いオーラと巨大な翼を目にした国王は、明らかに狼狽している。
そりゃ、今からお前を殺すぞって宣言されたらめっちゃビビるだろうね。
「これは冗談でも脅しでもありません。陛下、どうか引いてもらえませんか?」
「……ラトリア。貴様、自分が何を言っているのか分かっておるのか? これは明確な王への殺害予告であり、国家反逆罪に値するぞ?」
「どちらにしても、ここで引かねば陛下は死にますから。殺すのが私か、彼女たちの夫かの違いだけです」
何を自然に俺を共犯にしようとしてるのかなラトリアは。
俺なんか未だに国王に認識もされてないモブキャラでしかないからね? 国王殺害だなんてとてもとても。
「私の竜化が切れる前に、先ほどの発言を撤回してください。竜化した私と打ち合う自信のある護衛は、どうやらいないようですよ?」
「ぬ、ぅぅ……! この腑抜けどもめがっ……!」
王の殺害1歩手前の状況下なのに誰もラトリアを抑えに来ないのは、護衛の人たちも普通にビビっているからのようだ。
まぁラトリアとゴルディアさんは王国最強を謳われていたからね。王の護衛よりも強いんだろう。
だけど、命を捨ててでも陛下を守るっ! とか言う奴、1人くらい居ないの? 護衛さん仕事して?
「……ちっ。あい分かった。この場は我が引いてやる」
物凄く渋々、王は発言を撤回した。
色ボケジジイも、流石に命には代えられなかったか。
「我の先ほどの発言は撤回し、この者達を側室に迎えることはしないと誓おう。これで満足かラトリア?」
「賢明なご判断ですわ陛下。数々の非礼、誠に申し訳ございませんでした」
恭しく謝罪しながら、ゆっくりと竜化を解除するラトリア。
その様子を見て露骨に安堵している色ボケジジイ。
……っていうか、この謁見ってなんのために開かれたんだよっ。
俺なんか、未だにジジイに認識すらされてないんだけどぉ? 登城した意味無いじゃんっ。
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