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4章 マグエルの外へ1 竜王のカタコンベ
231 狂竜 (改)
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発狂モードで竜化して、間違いなく強化されてしまった竜王。
魔力消費の激しい竜化だけど、魔物に魔力枯渇の概念があるのかは謎だなぁ。
魔物とは魔力で造られた擬似生命体のはず。ってことは、魔力枯渇を起こしたら消滅するわけでしょ?
いくらなんでもイントルーダーがそんなアホなことするわけないよな。
「全員総攻撃! 全力で竜王を滅ぼすよっ!」
つまり竜化による魔力枯渇を期待するのは無駄で、長期戦を選択するメリットは皆無ってことだなっ!
ならば全力で短期決戦に挑むのみだぁっ!
「神代より誘われし浄命の旋律。精練されし破滅の鉾。純然たる消滅の一矢。汝、我が盟約に応じ、万難砕く神気を孕め。インパクトノヴァ」
青き魔力に包まれた竜王に、右手を翳して全力で魔法を放つ。
HPが無くなったんだから、インパクトノヴァで吹っ飛ばせるかと思って撃ちこんでみたんだけど……。
「ちっ……! 効いてない、かっ!」
竜王はインパクトノヴァの衝撃に体を仰け反らせただけで、その骨には傷1つついていないようだ。
HPが無くなってからの方がタフって、お前ふざけんなよ?
「「「青き災害。秘色の脅威。白群の恐怖。碧落より招くは氷塊。汝、撃ち穿つ者よ。ヘイルストーム」」」
インパクトノヴァの効果が低かったのを見て、ニーナとリーチェがヘイルストームの詠唱を開始する。
俺も2人に合わせてヘイルストームを発動し、3ヶ所同時発動で雹の弾丸を食らわせる。
「ちっ……! これも駄目かっ……!」
しかし竜王は絶対的な強度を誇るその骨でヘイルストームを物ともせずに突進し、俺に執拗に襲い掛かってくる。
「ダンっ! だいじょ……」
「大丈夫! こんなの喰らってやれないって!」
俺を案じるニーナに食い気味に答える。
竜化で強化された竜王は、身体能力だけで言えば竜化ラトリアよりも早くなっている。けれど技術はゼロのようで、予備動作が大きく予測しやすい。
受け太刀も出来なかったラトリア戦と比べれば、武器で攻撃を受けることもできるし即死することもない。まだまだ余裕があるね。
しかし回避面では余裕があるけど、攻撃面では余裕がない。
「ちぃっ! 文字通り歯が立たないのじゃ……!」
バスタードソードで切りかかったフラッタが、悔しそうに表情を歪めている。
インパクトノヴァすら弾く竜王の硬度に、無双将軍フラッタのバスタードソードの刃すら通らないのだ。
今のところ有効打になっているのはニーナの斬撃とリーチェの弓だけで、俺、ティムル、フラッタの攻撃は骨の強度を貫けていない。
戦闘システムの補正無しの、自前の骨の強度が硬すぎるって話だから、貫通スキルがついていても意味が無いようだ。
つまり、ミスリル武器じゃイントルーダーと戦えないってことだ。あと今の俺みたいに、慣れない武器じゃこの骨を貫くことはできないということでもある。
「くぅ……! 確かに刃は通るんだ、けど……!」
そして有効打足りえるニーナとリーチェの攻撃の結果も芳しくない。
HPが無くなったのだから、あとは骨を切断するなり砕くなりしなければいけないんだけど、巨大な竜王相手にダガーと弓矢では、肉体破壊には致命的に向いていない。
「くっそぉ……! これでも駄目か……!」
鼓舞で攻撃力補正を上昇させても、ミスリル武器を使用している俺、ティムル、フラッタの攻撃は竜王に通じない。
ならばと不死族である竜王に特効のある聖属性を付与しようにも、竜王自身が聖属性を身にまとっているから弱点をつくことも出来ない……!
まさか不死族がアニマライザー使ってくるとは思うまいよ。まったくさぁ!
「うぁ……! こっ、のぉ……!」
「ニーナ!? くっ、そぉ!」
そして回避面でも少し余裕が無くなってきた。
竜王の野郎、俺に攻撃が当たらないと見るや、俺を釘付けにしながらニーナたちにも攻撃の手を伸ばし始めやがった。
「くっ……! はや、い……!」
余裕の無いティムルの呟きが耳に残る。
獣化したニーナ、距離を取っているリーチェ、剣の達人であるフラッタは対応できているけれど、ティムルは竜化ラトリアを超える竜化竜王の攻撃に反応しきれていないのだ。
ティムルに向かって対物理障壁を展開したり、インパクトノヴァで攻撃してくる部位を弾き飛ばして守っているんだけど、それをやると当然攻撃の手が止まってしまって、さっきから何度か攻撃魔法の魔法陣の構築を許してしまっている。
流石に発動まではさせてないけどね。
くっそ。負ける気はしないけど、勝つ道が見つからないなぁ。
これがイントルーダー。アウターエフェクトを超える存在かぁ……!
『ヴォオオオ……!!』
そんな風に攻めあぐねていると、竜王の咆哮と共に体を纏っている蒼いオーラが体の中に吸収される。
『ヴァアアアアアアアッッ!!』
と次の瞬間、戦場全てを蒼い衝撃が突き抜けた。
「ぐあああああっ!?」 「きゃああああっ!?」 「うああああ……!?」
戦場に響き渡る俺とみんなの悲鳴。全身に痛みが駆け巡る。
突然の痛みに思わず膝をつきそうになるのを、槍を支えに何とか踏み止まった。
何だ今のはっ!? 全範囲攻撃だったのは分かるけど、いったい何をされたんだっ……!?
いや、今はそれよりも回復を優先しないと!
「「「「「慈愛の蒼。自然の緑。癒しの秘蹟。波紋になりて広がり包め。ヒールライトプラス」」」」」
超高速でヒールライトプラスを5回詠唱、全員のHPを回復する。
瞬く間にダメージの抜けた体を鞭打って、俺達が怯んだ隙に魔法陣を展開している竜王を切りつけ、構築された魔法陣を妨害する。
攻撃魔法はやっぱりちゃんと妨害できている。なら今のは一体……!?
「ダンっ! 今のはブレスなのじゃぁっ!」
「はぁっ!? 今のがっ!?」
フラッタの導き出した解答に思わず反発してしまう。
ブレスならラトリアに至近距離で放たれたことがある。レーザー光線のように一直線の魔力砲撃だったはずだ!
だけど今竜王が放った攻撃は、竜王を囲むように攻撃していた俺達全員を同時に攻撃してきたんだぞ!?
「間違いないのじゃっ! 此奴、ブレスを一旦収斂させて、全周囲に向けて放ってみせたのじゃぁっ!」
「ブレスを全周囲にって……アホかよっ!?」
ブレスって言うんだから、ちゃんと口から吐きやがれっ!
ってそうか! もしかして骨でスカスカだからこそ、普通はありえないブレスの放ち方が出来るってことか!?
ちっ! 多芸じゃないか竜王さんよぉっ!
やっぱり長引かせるのは良くなさそうだ。でもどうやって有効打を……!?
『ヴォオオオ……!!』
そして焦る俺の目の前でまた、自身が纏う蒼いオーラをその体内に収斂させていく竜王。
また今のが来る! くっそ、ブレス撃ち放題とかふっざけんな! 何でも良いから阻止しろぉぉっ!
「うああああああ神代より誘われし浄命の旋律! 精練されし破滅の鉾! 純然たる消滅の一矢! 汝、我が盟約に応じ、万難砕く神気を孕めぇっ! インパクトノヴァーーーっ!!」
両手を翳してがむしゃらにインパクトノヴァを連射する。
その数多の衝撃で後方に吹き飛ばされていった竜王は、ブレスをキャンセルして体勢を整えている。
しかし無我夢中で放った無数のインパクトノヴァでも、竜王の体を構成する白い骨にはやはり傷1つつけることが出来ていないようだ。
くっそ……! 対魔物最強の攻撃手段であるインパクトノヴァさえ通じないとは……。
ホーリースパークはアニマライザーで軽減されてるし、どうする……!?
「ダンっ! 止まっちゃダメだぁっ! 魔法を妨害し続けてぇっ!」
「――――あっ……!!」
リーチェの叫びにはっとして竜王を見ると、竜王の足元には既に魔法陣が構築されていた。
「しまっ……!!」
己の迂闊さを呪った瞬間に駆け巡る、インパクトノヴァを撃ち込まれた激痛……!
高濃度の魔力が己の体内で膨張していき、細胞の1つ1つが焼き尽くされていくかのようだ……!
「ぐっ、ああああああああっ……!!」
「「慈愛の蒼。自然の緑。癒しの秘蹟。波紋になりて広がり包め。ヒールライトプラス!!」」
即座にニーナとリーチェが回復してくれるけど、休む間もなく俺の体を激痛が駆け巡る。
こ……の、骨野郎……! インパクトノヴァを……、連射してやがるっ……!
ニーナとリー……、チェの回復だけじゃ……、抜かれちまう……!
「ぐ……あああああっっ!!! 慈、愛の蒼! 自然の緑! 癒しの秘っ、蹟……! ヒール……ライ、トぉっ!」
激痛で反射的に強張る自分の体を、身体操作性補正を駆使して無理矢理動かす。
超高速でヒールライトを乱射し、インパクトノヴァの激痛を打ち消す。
「ヒールライトヒールライト、ヒールライトーーっ!」
撃ち込まれ続けるインパクトノヴァの痛みをヒールライトで無理矢理無視して、災厄のデーモンスピアで竜王の攻撃魔法構築を妨害してやる。
ようやく全身に駆け巡っていた激痛が止んでくれた。
「うおおおおおおおおっ!!」
そのまま技術も何もかも無視して、怒りのままにデーモンスピアを叩きつける。
よくもやりやがったなテメェー! めちゃくちゃ痛かっただろうがーーっ! 千倍返しだコラァっ!
槍を振り回して魔法妨害と魔力吸収を発動させ、隙があればインパクトノヴァをガンガン撃ちこんでいく。
相変わらず仰け反らせることが精一杯で傷1つつけられていないけど、ブレスと攻撃魔法を同時に防ぐにはこれしかない!
「……ん?」
とその時、俺の頭が微かな違和感をキャッチする。
出来ることが明確になったおかげで、今まで気付かなかった情報に意識を向けることが出来たようだ。
「仰け反る? なんで竜王はさっきから仰け反ってるんだ?」
「なんでって、さっきからダンがインパクトノヴァで吹き飛ばしてるんでしょっ!?」
ちょっと待てリーチェ。そうじゃない、そうじゃないんだよ……。
インパクトノヴァを受けて、仰け反るってなんだ? インパクトノヴァは体内からの魔力破裂。仰け反る要素は無いはずだ。
たった今何十発と撃ち込まれたばかりの俺だって、吹っ飛んだりなんかしていない……。
仰け反ることがあるとしたら、テラーデーモンの右腕を吹き飛ばしたように、内部破裂の衝撃に起因するものしかないはずだ。
しかし竜王の骨には、ニーナとリーチェがつけた傷以外は見当たらない……。
「インパクトノヴァーーっ!」
改めてインパクトノヴァを撃ち込みながら、着弾点に注目して竜王を観察する。
すると俺が放ったインパクトノヴァが着弾する直前に竜王が纏っている蒼いオーラが着弾点に収斂し、インパクトノヴァの魔力をまるでブレスのように体外に排出しているのが確認できた。
「なんっ……だそりゃっ!? 全方位ブレスの応用かよテメェ!?」
「ダン!? どうしたのじゃっ!?」
戸惑うフラッタには申し訳ないけど、今はそれどころじゃないほどに頭が沸騰してしまってる。
インパクトノヴァは効いてないんじゃなくて、魔力制御で威力を殺されてたってことかっ……!
でもそれは逆説的に、まともに当たればインパクトノヴァでテメェを吹っ飛ばせるってことに他ならないなぁっ!
「おおおおあああああああっっ!!」
がむしゃらに竜王を切りつけながら、一筋差し込んだ光明に縋るように思考を巡らせていく。
竜王の蒼いオーラの操作を妨害する確実な方法は分からない。
なら発想を変えて、仰け反りで衝撃を殺せないように体を固定してしまえば……?
このデカブツの体を固定する方法……。そんなのあるのか?
……ん? 固定……? いや、凍結かっ!!
「青き風雪。秘色の停滞。白群の嵐。碧落より招くは厳寒。蒼穹を阻み世界を閉ざし、空域全てに死を放て。アークティクブリザード!」
詠唱終了と共に竜王を襲う極寒の冷気。
しかし竜王は気にした風も無く、俺に攻撃を加えてくる。
アークティクブリザードは魔物にしか効果の無い攻撃魔法だから、これで凍結しやすくなるかどうかは分からない。
でも少なくとも、竜王の体表温度は下がるはずだ! 畳みかけろっ!
「青き揺り篭。秘色の檻。汝、凍てつく終焉たる者よ。アイスコフィン!」
竜王の右足目掛けて、アイスコフィンを連射する。
「インパクトノヴァインパクトノヴァインパクトノヴァーーーーっ!!」
そしてアイスコフィンが上手く氷を生成させているのかの確認を待たずに、同じ箇所にインパクトノヴァを連射する。
これでどうだっ……!?
『ヴォオオオオ……!!』
今まで同様に、インパクトノヴァの着弾点目掛けて蒼いオーラが流れていく。
しかしアイスコフィンの凍結効果に阻害されて、蒼いオーラの流れが明らかに鈍い……!
「「「「――――えっ!!?」」」」
みんなの驚く声が重なる。
同じ箇所に連続で撃ち込まれた魔力の放出が間に合わず、仰け反ることなく爆散する竜王の右足。
とうとう通ったぜぇ……、竜王っ!!
「ニーナ! リーチェ! フラッタ! 竜王の四肢にアイスコフィン! 狙いは適当でいい! 竜王の体を氷で縫い止めろぉっ!」
効果が確認できたので、デーモンスピアで魔力を奪いながら全員にアイスコフィンの連射を指示する。
ギリギリフラッタまでアイスコフィンを使えるのが最高すぎるぜっ!
「「「青き揺り篭。秘色の檻。汝、凍てつく終焉たる者よ。アイスコフィンっ!!」」」
3人は攻撃の手を止めて、ひたすらアイスコフィンを詠唱してくれる。
竜王の巨体が少しずつ、けれど確実に氷に覆われていく。
「インパクトノヴァ! インパクトノヴァ! インパクトノヴァーーーっ!!!」
俺は槍を振るって確実に魔法妨害をしながら、凍結し始めた場所にインパクトノヴァを精密に連射して、ダルマ落としのように1ヶ所1ヶ所、確実に竜王の体を吹き飛ばしていく。
魔力吸収+で魔力無限の竜王を斬り続けているので、俺に魔力枯渇の心配は微塵もない。
「「「アイスコフィン!! アイスコフィン!! アイスコフィン!!」」
「インパクトノヴァ! インパクトノヴァ! インパクトノヴァーーーっ!!!」
喉が枯れても知ったことかと、4人の魔法詠唱が響き渡る。
右太股、左脛、左太股、腰、背中から生えている2本の腕、変形した4枚の翼、腹、右胸、左胸を順に吹き飛ばしてやって、残った無駄にでかい頭部が落ちてくる。
「まだなのダンっ! まだ竜王は死んでないのーっ!」
しかし流石は竜王。流石はイントルーダー。
最後まで戦意は失っていないようだ。
『ヴォアアアアアアアア……!!』
最早首だけで、地面に落下するだけの状況。
なのにその頭部には、残った全ての蒼いオーラが収斂しているのが見える。
「往生際が、悪いんだよぉぉぉっ!!」
叫びながら災厄のデーモンスピアを竜王の頭部に投げつけ、空いた両手でインパクトノヴァを撃ちこみ続ける。
「インパクトノヴァインパクトノヴァインパクトノヴァインパクトノヴァ…………!!」
自分でも何発撃ちこんだのか分からない。
魔力枯渇の兆候が出始めてもなお、インパクトノヴァを詠唱し続ける。
「インパクトノヴァインパクトノヴァインパ……!!」
『ヴァアアアアアアアアアッッ!!!』
もはや空中の頭部に向かって顔を上げているのすら億劫になってきた時、槍の刺さった竜王の頭部が、断末魔の絶叫と共に蒼い光を撒き散らしながら爆発した。
「みんな! 周囲警戒! まだ油断しちゃ駄目だよ!」
魔力枯渇の苦しみに耐えながらも、魔物察知を発動。
周囲になんの反応も無いことを確認する。
「ニーナは魔物察知と生体察知を適時発動して確認! ドロップアイテムが現れるまで決して気を抜くなっ!」
叫んだ俺に応えるようなタイミングで、ガキィィンと音を立てて災厄のデーモンスピアが地面に突き立てられる。
はは……。まるで俺に対してドヤ顔でもしてくれてるみたいに感じるなぁ……。
……でもマジで助かったよ。お前がいなきゃ、間違いなく負けてたね……。
魔法妨害のスキル、すぐにみんなの武器に付与してもらわないとダメだなぁ……。
感謝の気持ちを抱いて恭しく両手で槍を引き抜く。お疲れさん。
「ダン! 大丈夫!? 魔力枯渇は仕方ないとして、他に怪我はっ!?」
獣化を解いたニーナが、心配そうに駆け寄ってきてくれる。
完全に魔力が枯渇したわけじゃないから、ニーナに笑顔を返す余裕くらいはありそうだ。
「…………今回は本当に、私だけ魔法が使えないのが浮き彫りになっちゃったわね」
ニーナに笑顔を返す俺の耳に、悔しそうなティムルの声が聞こえてきた。
血が滲むほどに両手を握り締め、今にも泣きそうな表情で体を震わせているティムル。
そんな彼女を力いっぱい抱きしめてやる。
「ティムル。俺達は勝ったんだよ。勝って生き延びたんだ。だから何も問題ないんだよ」
「……うん。ありがと。無事倒せたんだから次に活かせばいいの。だから私も魔法使いにしてね、ダン」
落ち込まなくていいんだよティムル。全員無事に生きてるんだから、何にも問題ないからね。
でも魔法使いの件は了解した。よしよしなでなで。
「しかし、ブラックカイザードラゴンであったかの? まっこと奇妙な存在だったのじゃ……」
「奇妙っていうか異常な存在だよ。逸脱してるって言うかさぁ……」
「逸脱とは言いえて妙じゃな。明らかに魔物であるのに、上級攻撃魔法どころか竜化まで使いこなしてくるとはのう」
やれやれと長いため息を吐くフラッタ。
魔物が上級魔法を使ってきても良いんだけどさぁ。不死族っぽいのにアニマライザーを使ってきたり、竜化とブレスまで使いこなすってなんなのよ。
そしてHP削りきってからのほうが強いとか、もうチートだよチート! なんで異世界側の住人がチート持ってんだよっていうねっ!
「負ける気はなかったけど、全員無傷でイントルーダーを滅することが出来るなんて、本当に信じられないよ……!」
弓を握る自分の両手を見詰めながら、ワナワナと震えているリーチェ。
全員無傷で……か。リーチェが言うと重いな……。
英雄譚で語られる過去のガルクーザ戦では、リーチェのかつての仲間4人が犠牲になったんだよなぁ……。
「ねぇねぇっ! 今回はぼくもダンの力になれたかなっ!?」
「建国の英雄様がなに言ってんの。いっつも頼りにしてますよー」
リーチェも捕獲してよしよしなでなで。お前がいなかったら負けてたっての。
リーチェとティムルを抱きしめて2人をよしよしなでなで。
永遠にこのままでもいいくらいだけど、ドロップアイテムはまだなのかなー?
「ダン。ドロップアイテムならさっきからあそこにあるでしょー?」
「へ?」
「戦闘は終了。私達の勝利なのーーっ!」
ニーナに指差された方角に目を向けると、漆黒で巨大な両手剣が地面に刺さっていた。
フラッタの振るう聖銀のバスタードソードよりも更にひと回りは大きそうだ。俺なら持ち上げるだけで背骨が砕けそう。
ドラゴンイーター
対竜族攻撃力上昇+ 物理攻撃力上昇+ 貫通+ 体力吸収+ 無し
おおう……。鑑定結果に思わず吹き出しそうになってしまったじゃないか。
なんだこの、清々しいまでの脳筋武器は……。
魔力消費の激しい竜化だけど、魔物に魔力枯渇の概念があるのかは謎だなぁ。
魔物とは魔力で造られた擬似生命体のはず。ってことは、魔力枯渇を起こしたら消滅するわけでしょ?
いくらなんでもイントルーダーがそんなアホなことするわけないよな。
「全員総攻撃! 全力で竜王を滅ぼすよっ!」
つまり竜化による魔力枯渇を期待するのは無駄で、長期戦を選択するメリットは皆無ってことだなっ!
ならば全力で短期決戦に挑むのみだぁっ!
「神代より誘われし浄命の旋律。精練されし破滅の鉾。純然たる消滅の一矢。汝、我が盟約に応じ、万難砕く神気を孕め。インパクトノヴァ」
青き魔力に包まれた竜王に、右手を翳して全力で魔法を放つ。
HPが無くなったんだから、インパクトノヴァで吹っ飛ばせるかと思って撃ちこんでみたんだけど……。
「ちっ……! 効いてない、かっ!」
竜王はインパクトノヴァの衝撃に体を仰け反らせただけで、その骨には傷1つついていないようだ。
HPが無くなってからの方がタフって、お前ふざけんなよ?
「「「青き災害。秘色の脅威。白群の恐怖。碧落より招くは氷塊。汝、撃ち穿つ者よ。ヘイルストーム」」」
インパクトノヴァの効果が低かったのを見て、ニーナとリーチェがヘイルストームの詠唱を開始する。
俺も2人に合わせてヘイルストームを発動し、3ヶ所同時発動で雹の弾丸を食らわせる。
「ちっ……! これも駄目かっ……!」
しかし竜王は絶対的な強度を誇るその骨でヘイルストームを物ともせずに突進し、俺に執拗に襲い掛かってくる。
「ダンっ! だいじょ……」
「大丈夫! こんなの喰らってやれないって!」
俺を案じるニーナに食い気味に答える。
竜化で強化された竜王は、身体能力だけで言えば竜化ラトリアよりも早くなっている。けれど技術はゼロのようで、予備動作が大きく予測しやすい。
受け太刀も出来なかったラトリア戦と比べれば、武器で攻撃を受けることもできるし即死することもない。まだまだ余裕があるね。
しかし回避面では余裕があるけど、攻撃面では余裕がない。
「ちぃっ! 文字通り歯が立たないのじゃ……!」
バスタードソードで切りかかったフラッタが、悔しそうに表情を歪めている。
インパクトノヴァすら弾く竜王の硬度に、無双将軍フラッタのバスタードソードの刃すら通らないのだ。
今のところ有効打になっているのはニーナの斬撃とリーチェの弓だけで、俺、ティムル、フラッタの攻撃は骨の強度を貫けていない。
戦闘システムの補正無しの、自前の骨の強度が硬すぎるって話だから、貫通スキルがついていても意味が無いようだ。
つまり、ミスリル武器じゃイントルーダーと戦えないってことだ。あと今の俺みたいに、慣れない武器じゃこの骨を貫くことはできないということでもある。
「くぅ……! 確かに刃は通るんだ、けど……!」
そして有効打足りえるニーナとリーチェの攻撃の結果も芳しくない。
HPが無くなったのだから、あとは骨を切断するなり砕くなりしなければいけないんだけど、巨大な竜王相手にダガーと弓矢では、肉体破壊には致命的に向いていない。
「くっそぉ……! これでも駄目か……!」
鼓舞で攻撃力補正を上昇させても、ミスリル武器を使用している俺、ティムル、フラッタの攻撃は竜王に通じない。
ならばと不死族である竜王に特効のある聖属性を付与しようにも、竜王自身が聖属性を身にまとっているから弱点をつくことも出来ない……!
まさか不死族がアニマライザー使ってくるとは思うまいよ。まったくさぁ!
「うぁ……! こっ、のぉ……!」
「ニーナ!? くっ、そぉ!」
そして回避面でも少し余裕が無くなってきた。
竜王の野郎、俺に攻撃が当たらないと見るや、俺を釘付けにしながらニーナたちにも攻撃の手を伸ばし始めやがった。
「くっ……! はや、い……!」
余裕の無いティムルの呟きが耳に残る。
獣化したニーナ、距離を取っているリーチェ、剣の達人であるフラッタは対応できているけれど、ティムルは竜化ラトリアを超える竜化竜王の攻撃に反応しきれていないのだ。
ティムルに向かって対物理障壁を展開したり、インパクトノヴァで攻撃してくる部位を弾き飛ばして守っているんだけど、それをやると当然攻撃の手が止まってしまって、さっきから何度か攻撃魔法の魔法陣の構築を許してしまっている。
流石に発動まではさせてないけどね。
くっそ。負ける気はしないけど、勝つ道が見つからないなぁ。
これがイントルーダー。アウターエフェクトを超える存在かぁ……!
『ヴォオオオ……!!』
そんな風に攻めあぐねていると、竜王の咆哮と共に体を纏っている蒼いオーラが体の中に吸収される。
『ヴァアアアアアアアッッ!!』
と次の瞬間、戦場全てを蒼い衝撃が突き抜けた。
「ぐあああああっ!?」 「きゃああああっ!?」 「うああああ……!?」
戦場に響き渡る俺とみんなの悲鳴。全身に痛みが駆け巡る。
突然の痛みに思わず膝をつきそうになるのを、槍を支えに何とか踏み止まった。
何だ今のはっ!? 全範囲攻撃だったのは分かるけど、いったい何をされたんだっ……!?
いや、今はそれよりも回復を優先しないと!
「「「「「慈愛の蒼。自然の緑。癒しの秘蹟。波紋になりて広がり包め。ヒールライトプラス」」」」」
超高速でヒールライトプラスを5回詠唱、全員のHPを回復する。
瞬く間にダメージの抜けた体を鞭打って、俺達が怯んだ隙に魔法陣を展開している竜王を切りつけ、構築された魔法陣を妨害する。
攻撃魔法はやっぱりちゃんと妨害できている。なら今のは一体……!?
「ダンっ! 今のはブレスなのじゃぁっ!」
「はぁっ!? 今のがっ!?」
フラッタの導き出した解答に思わず反発してしまう。
ブレスならラトリアに至近距離で放たれたことがある。レーザー光線のように一直線の魔力砲撃だったはずだ!
だけど今竜王が放った攻撃は、竜王を囲むように攻撃していた俺達全員を同時に攻撃してきたんだぞ!?
「間違いないのじゃっ! 此奴、ブレスを一旦収斂させて、全周囲に向けて放ってみせたのじゃぁっ!」
「ブレスを全周囲にって……アホかよっ!?」
ブレスって言うんだから、ちゃんと口から吐きやがれっ!
ってそうか! もしかして骨でスカスカだからこそ、普通はありえないブレスの放ち方が出来るってことか!?
ちっ! 多芸じゃないか竜王さんよぉっ!
やっぱり長引かせるのは良くなさそうだ。でもどうやって有効打を……!?
『ヴォオオオ……!!』
そして焦る俺の目の前でまた、自身が纏う蒼いオーラをその体内に収斂させていく竜王。
また今のが来る! くっそ、ブレス撃ち放題とかふっざけんな! 何でも良いから阻止しろぉぉっ!
「うああああああ神代より誘われし浄命の旋律! 精練されし破滅の鉾! 純然たる消滅の一矢! 汝、我が盟約に応じ、万難砕く神気を孕めぇっ! インパクトノヴァーーーっ!!」
両手を翳してがむしゃらにインパクトノヴァを連射する。
その数多の衝撃で後方に吹き飛ばされていった竜王は、ブレスをキャンセルして体勢を整えている。
しかし無我夢中で放った無数のインパクトノヴァでも、竜王の体を構成する白い骨にはやはり傷1つつけることが出来ていないようだ。
くっそ……! 対魔物最強の攻撃手段であるインパクトノヴァさえ通じないとは……。
ホーリースパークはアニマライザーで軽減されてるし、どうする……!?
「ダンっ! 止まっちゃダメだぁっ! 魔法を妨害し続けてぇっ!」
「――――あっ……!!」
リーチェの叫びにはっとして竜王を見ると、竜王の足元には既に魔法陣が構築されていた。
「しまっ……!!」
己の迂闊さを呪った瞬間に駆け巡る、インパクトノヴァを撃ち込まれた激痛……!
高濃度の魔力が己の体内で膨張していき、細胞の1つ1つが焼き尽くされていくかのようだ……!
「ぐっ、ああああああああっ……!!」
「「慈愛の蒼。自然の緑。癒しの秘蹟。波紋になりて広がり包め。ヒールライトプラス!!」」
即座にニーナとリーチェが回復してくれるけど、休む間もなく俺の体を激痛が駆け巡る。
こ……の、骨野郎……! インパクトノヴァを……、連射してやがるっ……!
ニーナとリー……、チェの回復だけじゃ……、抜かれちまう……!
「ぐ……あああああっっ!!! 慈、愛の蒼! 自然の緑! 癒しの秘っ、蹟……! ヒール……ライ、トぉっ!」
激痛で反射的に強張る自分の体を、身体操作性補正を駆使して無理矢理動かす。
超高速でヒールライトを乱射し、インパクトノヴァの激痛を打ち消す。
「ヒールライトヒールライト、ヒールライトーーっ!」
撃ち込まれ続けるインパクトノヴァの痛みをヒールライトで無理矢理無視して、災厄のデーモンスピアで竜王の攻撃魔法構築を妨害してやる。
ようやく全身に駆け巡っていた激痛が止んでくれた。
「うおおおおおおおおっ!!」
そのまま技術も何もかも無視して、怒りのままにデーモンスピアを叩きつける。
よくもやりやがったなテメェー! めちゃくちゃ痛かっただろうがーーっ! 千倍返しだコラァっ!
槍を振り回して魔法妨害と魔力吸収を発動させ、隙があればインパクトノヴァをガンガン撃ちこんでいく。
相変わらず仰け反らせることが精一杯で傷1つつけられていないけど、ブレスと攻撃魔法を同時に防ぐにはこれしかない!
「……ん?」
とその時、俺の頭が微かな違和感をキャッチする。
出来ることが明確になったおかげで、今まで気付かなかった情報に意識を向けることが出来たようだ。
「仰け反る? なんで竜王はさっきから仰け反ってるんだ?」
「なんでって、さっきからダンがインパクトノヴァで吹き飛ばしてるんでしょっ!?」
ちょっと待てリーチェ。そうじゃない、そうじゃないんだよ……。
インパクトノヴァを受けて、仰け反るってなんだ? インパクトノヴァは体内からの魔力破裂。仰け反る要素は無いはずだ。
たった今何十発と撃ち込まれたばかりの俺だって、吹っ飛んだりなんかしていない……。
仰け反ることがあるとしたら、テラーデーモンの右腕を吹き飛ばしたように、内部破裂の衝撃に起因するものしかないはずだ。
しかし竜王の骨には、ニーナとリーチェがつけた傷以外は見当たらない……。
「インパクトノヴァーーっ!」
改めてインパクトノヴァを撃ち込みながら、着弾点に注目して竜王を観察する。
すると俺が放ったインパクトノヴァが着弾する直前に竜王が纏っている蒼いオーラが着弾点に収斂し、インパクトノヴァの魔力をまるでブレスのように体外に排出しているのが確認できた。
「なんっ……だそりゃっ!? 全方位ブレスの応用かよテメェ!?」
「ダン!? どうしたのじゃっ!?」
戸惑うフラッタには申し訳ないけど、今はそれどころじゃないほどに頭が沸騰してしまってる。
インパクトノヴァは効いてないんじゃなくて、魔力制御で威力を殺されてたってことかっ……!
でもそれは逆説的に、まともに当たればインパクトノヴァでテメェを吹っ飛ばせるってことに他ならないなぁっ!
「おおおおあああああああっっ!!」
がむしゃらに竜王を切りつけながら、一筋差し込んだ光明に縋るように思考を巡らせていく。
竜王の蒼いオーラの操作を妨害する確実な方法は分からない。
なら発想を変えて、仰け反りで衝撃を殺せないように体を固定してしまえば……?
このデカブツの体を固定する方法……。そんなのあるのか?
……ん? 固定……? いや、凍結かっ!!
「青き風雪。秘色の停滞。白群の嵐。碧落より招くは厳寒。蒼穹を阻み世界を閉ざし、空域全てに死を放て。アークティクブリザード!」
詠唱終了と共に竜王を襲う極寒の冷気。
しかし竜王は気にした風も無く、俺に攻撃を加えてくる。
アークティクブリザードは魔物にしか効果の無い攻撃魔法だから、これで凍結しやすくなるかどうかは分からない。
でも少なくとも、竜王の体表温度は下がるはずだ! 畳みかけろっ!
「青き揺り篭。秘色の檻。汝、凍てつく終焉たる者よ。アイスコフィン!」
竜王の右足目掛けて、アイスコフィンを連射する。
「インパクトノヴァインパクトノヴァインパクトノヴァーーーーっ!!」
そしてアイスコフィンが上手く氷を生成させているのかの確認を待たずに、同じ箇所にインパクトノヴァを連射する。
これでどうだっ……!?
『ヴォオオオオ……!!』
今まで同様に、インパクトノヴァの着弾点目掛けて蒼いオーラが流れていく。
しかしアイスコフィンの凍結効果に阻害されて、蒼いオーラの流れが明らかに鈍い……!
「「「「――――えっ!!?」」」」
みんなの驚く声が重なる。
同じ箇所に連続で撃ち込まれた魔力の放出が間に合わず、仰け反ることなく爆散する竜王の右足。
とうとう通ったぜぇ……、竜王っ!!
「ニーナ! リーチェ! フラッタ! 竜王の四肢にアイスコフィン! 狙いは適当でいい! 竜王の体を氷で縫い止めろぉっ!」
効果が確認できたので、デーモンスピアで魔力を奪いながら全員にアイスコフィンの連射を指示する。
ギリギリフラッタまでアイスコフィンを使えるのが最高すぎるぜっ!
「「「青き揺り篭。秘色の檻。汝、凍てつく終焉たる者よ。アイスコフィンっ!!」」」
3人は攻撃の手を止めて、ひたすらアイスコフィンを詠唱してくれる。
竜王の巨体が少しずつ、けれど確実に氷に覆われていく。
「インパクトノヴァ! インパクトノヴァ! インパクトノヴァーーーっ!!!」
俺は槍を振るって確実に魔法妨害をしながら、凍結し始めた場所にインパクトノヴァを精密に連射して、ダルマ落としのように1ヶ所1ヶ所、確実に竜王の体を吹き飛ばしていく。
魔力吸収+で魔力無限の竜王を斬り続けているので、俺に魔力枯渇の心配は微塵もない。
「「「アイスコフィン!! アイスコフィン!! アイスコフィン!!」」
「インパクトノヴァ! インパクトノヴァ! インパクトノヴァーーーっ!!!」
喉が枯れても知ったことかと、4人の魔法詠唱が響き渡る。
右太股、左脛、左太股、腰、背中から生えている2本の腕、変形した4枚の翼、腹、右胸、左胸を順に吹き飛ばしてやって、残った無駄にでかい頭部が落ちてくる。
「まだなのダンっ! まだ竜王は死んでないのーっ!」
しかし流石は竜王。流石はイントルーダー。
最後まで戦意は失っていないようだ。
『ヴォアアアアアアアア……!!』
最早首だけで、地面に落下するだけの状況。
なのにその頭部には、残った全ての蒼いオーラが収斂しているのが見える。
「往生際が、悪いんだよぉぉぉっ!!」
叫びながら災厄のデーモンスピアを竜王の頭部に投げつけ、空いた両手でインパクトノヴァを撃ちこみ続ける。
「インパクトノヴァインパクトノヴァインパクトノヴァインパクトノヴァ…………!!」
自分でも何発撃ちこんだのか分からない。
魔力枯渇の兆候が出始めてもなお、インパクトノヴァを詠唱し続ける。
「インパクトノヴァインパクトノヴァインパ……!!」
『ヴァアアアアアアアアアッッ!!!』
もはや空中の頭部に向かって顔を上げているのすら億劫になってきた時、槍の刺さった竜王の頭部が、断末魔の絶叫と共に蒼い光を撒き散らしながら爆発した。
「みんな! 周囲警戒! まだ油断しちゃ駄目だよ!」
魔力枯渇の苦しみに耐えながらも、魔物察知を発動。
周囲になんの反応も無いことを確認する。
「ニーナは魔物察知と生体察知を適時発動して確認! ドロップアイテムが現れるまで決して気を抜くなっ!」
叫んだ俺に応えるようなタイミングで、ガキィィンと音を立てて災厄のデーモンスピアが地面に突き立てられる。
はは……。まるで俺に対してドヤ顔でもしてくれてるみたいに感じるなぁ……。
……でもマジで助かったよ。お前がいなきゃ、間違いなく負けてたね……。
魔法妨害のスキル、すぐにみんなの武器に付与してもらわないとダメだなぁ……。
感謝の気持ちを抱いて恭しく両手で槍を引き抜く。お疲れさん。
「ダン! 大丈夫!? 魔力枯渇は仕方ないとして、他に怪我はっ!?」
獣化を解いたニーナが、心配そうに駆け寄ってきてくれる。
完全に魔力が枯渇したわけじゃないから、ニーナに笑顔を返す余裕くらいはありそうだ。
「…………今回は本当に、私だけ魔法が使えないのが浮き彫りになっちゃったわね」
ニーナに笑顔を返す俺の耳に、悔しそうなティムルの声が聞こえてきた。
血が滲むほどに両手を握り締め、今にも泣きそうな表情で体を震わせているティムル。
そんな彼女を力いっぱい抱きしめてやる。
「ティムル。俺達は勝ったんだよ。勝って生き延びたんだ。だから何も問題ないんだよ」
「……うん。ありがと。無事倒せたんだから次に活かせばいいの。だから私も魔法使いにしてね、ダン」
落ち込まなくていいんだよティムル。全員無事に生きてるんだから、何にも問題ないからね。
でも魔法使いの件は了解した。よしよしなでなで。
「しかし、ブラックカイザードラゴンであったかの? まっこと奇妙な存在だったのじゃ……」
「奇妙っていうか異常な存在だよ。逸脱してるって言うかさぁ……」
「逸脱とは言いえて妙じゃな。明らかに魔物であるのに、上級攻撃魔法どころか竜化まで使いこなしてくるとはのう」
やれやれと長いため息を吐くフラッタ。
魔物が上級魔法を使ってきても良いんだけどさぁ。不死族っぽいのにアニマライザーを使ってきたり、竜化とブレスまで使いこなすってなんなのよ。
そしてHP削りきってからのほうが強いとか、もうチートだよチート! なんで異世界側の住人がチート持ってんだよっていうねっ!
「負ける気はなかったけど、全員無傷でイントルーダーを滅することが出来るなんて、本当に信じられないよ……!」
弓を握る自分の両手を見詰めながら、ワナワナと震えているリーチェ。
全員無傷で……か。リーチェが言うと重いな……。
英雄譚で語られる過去のガルクーザ戦では、リーチェのかつての仲間4人が犠牲になったんだよなぁ……。
「ねぇねぇっ! 今回はぼくもダンの力になれたかなっ!?」
「建国の英雄様がなに言ってんの。いっつも頼りにしてますよー」
リーチェも捕獲してよしよしなでなで。お前がいなかったら負けてたっての。
リーチェとティムルを抱きしめて2人をよしよしなでなで。
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「へ?」
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