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3章 回り始める物語1 スポットの奥で
151 年内のやり残し (改)
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ルーナ竜爵家に行くつもりだったことを、初めてみんなに打ち明けた。
だけどみんなはあまり驚いた様子はなくて、真剣な表情で俺を見返してきた。
「……ダンが妾の家の異変を解決したいと言ってくれるのは、正直言えば凄く嬉しい……。じゃが考えなしの意見であるなら、妾はダンを止めねばならぬぞ?」
他ならぬフラッタが、俺に待ったをかけてきた。
誰よりも素直なフラッタは、誰よりも家族を心配してるだろうになぁ。
「1つだけ前提条件を考えてある。多分どうせ出るけどね」
「条件?」
「うん。今回の遠征で精神異常耐性大効果のスキルジュエルを手に入れること。それが出来たらルーナ竜爵家の異変をこの目で確認しに行きたいんだ。この眼でね」
「……鑑定、ということじゃな」
俺の言いたいことを正確に読み取り、考え込むフラッタ。
「無謀なことは理解してるつもりだよ。だけど考えてみたらさぁ。リーチェを迎えようって俺が、竜爵家程度に立ち向かえなくてどうするんだって話なんだよ。たとえどんな危険が待ち受けていようと、フラッタの問題は俺が背負うべき問題なんだ」
ニーナの呪いやリーチェの事情と同じように、家族であるフラッタの問題は俺が背負うべきもののはずなんだ。
まったく……、我ながら臆病すぎて嫌になるよ。竜化したフラッタより強い竜人族が敵に回ったとして、だからどうしたって話なんだよ。
俺はリーチェすら上回らないといけないってのにさぁ。
「竜爵家程度、か。未だ妾にも勝てぬお主が大きく出たのぅ? 妾よりも強い父上や母上がもし敵に回ったらどうするつもりなのじゃ?」
「安心しろよフラッタ。お前の両親は必ず助けてやるつもりだし、なによりお前の両親に俺を殺させてはやるつもりはないよ。お前の両親がどれだけ強かろうと、絶対に死んでやらないよ。フラッタのためにね」
下手をすると俺が両親を殺してしまうよりも、両親が俺を殺してしまう方がフラッタは悲しむかもしれない。
これは自惚れでもなんでもなくて、素直で優しいフラッタだから両親の罪を自分も背負ってしまうだろう。
俺の言葉を聞いて黙り込むフラッタ。そんなフラッタが次の言葉を探している間にニーナにひと言謝っておく。
「ごめんねニーナ。解呪が間に合いそうもないからニーナは連れていけないと思う。だけど俺……。やっぱりフラッタの家族を見捨てられないんだよ……」
「うん。それは構わないよ。私が行けないのも、フラッタの家を見捨てられないのもね。私が心配してるのは、ダンがちゃんと帰ってきてくれるかどうか。それだけだよ」
自力移動に阻害効果が無くなり、ここまで戦闘力が上がったニーナなら俺がいなくても生きていけるだろう。
……だけどニーナはきっと、俺がいなくちゃ生きていけないんだ。
いや、ニーナだけじゃなく、ティムルもフラッタもリーチェも、ムーリだってもう、俺がいなくちゃ生きていけないかもしれない。
俺の命は5人の命と等価だ。だから絶対に失うわけにはいかないんだ。
「竜爵家には俺とフラッタ、それとリーチェの3人で行こうと思ってるんだ。っとリーチェ。お前の精神異常耐性って大効果なんだよね? 確認してなかったけど」
「うん。僕の装備には全状態異常耐性の大効果が付与されてるよ」
ふぅ、良かった。リーチェが参加してくれるなら、俺の生存確率はぐっと上がる。
仮に参加してもらえなくても、死んでやるつもりなんか毛頭ないけどね。
「……つまりダンは、ルーナ竜爵家に大規模な精神攻撃が行われていると思ってるわけだね?」
「ああ。正直1つ後悔してるんだよ。前回ヴァルハールに行った時、フラッタと一緒に俺も竜爵家についていけば良かった、ってね」
そうすればくだらない決闘でフラッタを泣かせることもなかったし、竜爵家の異変に気づくことも出来たかもしれないっていうのにさぁ。
あの時点で竜爵家に近寄っても、俺に出来ることは無かったかもしれない。だけどフラッタを泣かせずには済んだはずなのだ。
「……ダンよ。ならば妾からも1つ条件を出すのじゃ」
ここにいる誰よりも真剣な眼差しを向けてくるフラッタ。俺はそれを正面から受け止める。
「竜爵家に向かう前に、手合わせで妾から1本取ること。それが出来なくば、ルーナ竜爵家のことはきっぱり忘れてもらうのじゃ」
……誰より素直で優しいフラッタに、家族のことを諦めてもらうなんて言わせる俺の弱さが嫌になる。
でも今はそんな感情を押し殺して、フラッタに不敵に笑ってやれ。
「上等だフラッタ。俺はお前の為なら、お前だって越えてみせるよ。今から負けたときの言い訳でも考えとくんだね」
「うむ。絶対に手加減はせぬぞ。絶対に手は抜かぬから、絶対に妾を負かして欲しいのじゃっ……!」
燃えるような赤い瞳に大粒の涙をためながら、自分を負かせと懇願するフラッタ。
素直で強いフラッタが見せた俺への甘え。こんな男冥利に尽きること、そうそうないよなぁ?
ちっちゃくて軽いフラッタを、足の上に横抱きにする。
こんなに小さくて、こんなに可愛いフラッタなのに、あまりにも強すぎて誰にも甘えることが出来なかったんだ。
よしよしなでなでしながら、フラッタに宣戦布告する。
「フラッタこそ覚悟しとけよ? 全力のお前を正面からぶっ倒して、勢いそのまま竜爵家に乗り込んでやっからさ」
「妾だって父上と母上が心配なのじゃぁ……。だけどダンのことだって大好きなのじゃぁ……。大好きなダンが危険な場所にいけないように、全身全霊を持って、殺す気で相手するのじゃ……!」
こ、殺す気なのは勘弁して欲しいかなぁ~……。
でもそんなフラッタを越えられないなら、竜爵家に行く資格は無い。
「だからそんな妾をあっさり倒して、父上も母上も……、兄上も助けて欲しいのじゃぁっ……!」
泣いて縋るフラッタを、今度こそ力いっぱい抱きしめてやる。
強敵相手に怖気づいてる場合じゃないぜっ。
ベストエンドを目指すなら、絶対に越えなきゃいけないイベントだよなぁ!
「ニーナもティムルも、それで納得してくれる? フラッタを倒せたら竜爵家に行ってもいいかな?」
「フラッタを倒しても、リーチェを倒しちゃっても、心配はさせてね? 私たちみんな、もうダンがいなきゃ生きていけないの」
「呪いと精神異常耐性が無かったとしても、私とニーナちゃんでは実力不足で参加出来ないわね……。悔しいけどダンの足を引っ張るほうが嫌だから、ニーナちゃんとムーリと一緒に待ってるわ」
心配そうに、でも竜爵家行きを了承してくれる2人。
くっそぉ、2人に心配させたくないんだけどなぁ。俺が弱いから、胸を張って任せとけっ! って2人を安心させられないんだ。
結局全部俺の弱さが悪いんだ。ニーナの問題もフラッタの問題もリーチェの問題も、俺がもっと強ければとっくに解決できていたはずだ。
足りない。まだまだ足りない。足りなすぎる……!
何で俺はいつまで経っても、こんなに弱いままなんだ……!
その時唇に柔らかい感触。
驚いて視線を下げると、胸の中に収まっていたフラッタが、俺に優しく口付けしてくれていた。
「ダン。ダンはなにも悪くないのじゃ……。誰かの為に怒れるダンは凄いと思うけど、でもやっぱり妾は優しいダンが好きなのじゃ……。妾の為に妾を越えようとしてくれるダンが、大好きなのじゃぁ……」
フラッタが、また泣きながら唇を重ねてくる。
そのキスは唇を合わせるだけの、ただの愛情表現。
フラッタのあまりに素直な好意の伝え方に、俺の怒りは休息に凪いでいく。
そうだ。無力を嘆いても、弱さを憎んでも意味がないんだ。
足りないなら、届かないなら、もっともっと強くなるしかない。
弱い俺ではなにも出来ないなら、強くなって全てを解決すればいいんだ。自分のせいだと自分で自分を責めるなんて、そんなことしてる暇はないんだよっ!
「ダン。もう怒ってない……? たとえ妾の為でも、ダンには怒って欲しくないのじゃ。妾は、優しいダンが大好きなのじゃぁ……」
「俺なんかよりも、フラッタの方がよっぽど優しいよ。優しいフラッタが大好き過ぎて、怒ってる暇なんかないね」
よしよしなでなでしながら額にキスをする。
くすぐったそうにしながらも、フラッタはようやく笑顔になって、体の力を抜いてくれた。
「……ニーナのこともフラッタのこともリーチェのことも、弱い俺のせいでなにも解決できないんだ、って思っちゃったんだけどさ。考え方、変えることにしたよ」
そう、弱い俺を嘆くよりも、このフラッタを守るために更なる強さを求めよう。
こんなに可愛いフラッタのためなら、無双将軍くらい余裕でぶっ倒してみせるさ。
「もっと強くなって、みんなのこと、丸ごと助けてみせるって。俺のせいで解決できないんじゃなくて、俺の手で解決してやるさって、そう思うことにするよ」
弱さを嘆いても、それはただ止まってるだけだ。
嘆く暇があるなら、進め。
「ふふ。それを自分の口で言えるようになったなら、ダンも変わったね。もう私とティムルのキスがなくっても平気かなぁ?」
「平気じゃないって言うのと平気って言うのと、どっちならキスしてくれる?」
脳が思考する前に聞いてしまった。
ニーナとティムルのキスがない人生なんて、もう俺には考えられない。
「あはーっ。そんなに切なそうな顔しないでよぉ。どっちだって、いーっぱいキスしてあげるからねー。でも私もニーナちゃんもダンを立ち直らせる為じゃなくて、ただ貴方とキスがしたいかしらねー?」
はは、了解だティムル。
「もうニーナとティムルのキスに甘える必要は無いよ。けどそんなのお構いなしに、いっぱい2人とキスがしたいね」
甘える必要は無いんだけど、それでも2人に甘えて溺れたい。
って、なんだかエロい雰囲気になって、このままみんなを愛したいところだけど、そもそも竜爵家に行く話だったんだよ。落ち着け俺。
「はぁぁぁ……。危なくこのままみんなを押し倒すところだったよ」
腕の中のフラッタの体温を意識して、この大切な女性を守る為に気を取りなおして話を続ける。
「とりあえずフラッタから1本取ること、そして精神異常耐性大効果のスキルジュエルを手に入れたら、フラッタとリーチェの3人で竜爵家に乗り込んでくるね。竜爵家の件は俺にとっては今年にやり残した心残りみたいなものだからさ」
俺の覚悟に応えるようにみんなが力強く頷きを返してくれた。
竜爵家の話はこのくらいかな? 次は今現在の話に移ろう。
「それでまずはニーナ。戦い方はどうだったかな? このままダガー1本で戦う? それとも何か別のスタイルを試してみる?」
「そうだねぇ。次はダガー2本でティムルみたいな戦い方をしてみようかな? コテンも言ってたけど、ティムルの戦い方は獣人族に向いてると思うから」
「ふむ。じゃあティムル。新しくミスリルダガーを1つ用意してあげてね」
了解よーっとウィンクで応えてくれるティムル。
ティムルの戦い方って、多分ドワーフとしては異端なんだろうなぁ。戦闘職の職業補正が無かったからこその、回避特化の戦闘スタイル。
「それとティムルの防具職人が浸透間近で、作れる防具も俺と同じ水準になってるはずだ。銀もボロボロ手に入ったことだし、そろそろ防具の更新をしたいと思ってるんだよ」
「そうね。いつの間にか私もミスリル防具まで作れるようになっちゃってるわねぇ」
いくら装備強度補正があるとはいえ、いつまでも革製防具なんて装備してるわけにはいかない。
「とりあえずフラッタちゃんには聖銀のプレートメイルを作るとして、他のみんなはどうかしら? 特にダンは竜爵家に乗り込む前にもっといい防具にすべきよねぇ」
竜爵家に行った場合はほぼ対人戦を想定してるけどね。
まぁ職業補正が適用されなくても防具が良くて困る事はない。対人戦であっても更新すべきだな。
頭の中で防具製作のレシピを確認して、動きを阻害しないで、かつ強度の高そうなものを物色する。
「んー。俺は精霊銀のサーコートあたりかなぁ。ニーナは姫騎士の聖鎧あたり?」
精霊銀はミスリル素材に、更に発光魔玉を増し増しにした素材みたいだ。ミスリルと比べて銀の量は半分で、その分魔玉を追加する感じだね。ミスリルと魔絹の中間的素材で、性能も両者の中間くらいだ。
重すぎず、けど強度もあるみたいな? 布と金属の中間みたいな素材らしいね。ニーナ用の聖鎧も精霊銀で出来ているらしい。
「靴も新しくするとして、機動性重視でいいよね? あと腕防具は俺はグローブ系にしようと思うんだけど、みんなはどうする?」
グローブ系は布製、ガントレット系は金属製って感じだな。勿論金属製の方が強度は上だけど、グローブ系は軽さ重視だ。
フラッタだけガントレット、俺とニーナとティムルはグローブ系に決定。
「頭防具もどうすればいいかなぁ。俺は軽さ重視、視界の確保重視で考えたいんだけど」
ニーナはティムルと同じ魔絹のターバンを選択。俺とフラッタはサークレット系に更新することにした。
他には帽子だったりフルフェイスのヘルム系装備があったけれど、帽子は魔法職などの後衛職向き装備で、ヘルム系装備は視界の阻害が著しいのでパスした。
全員の装備品が決まったら、ティムルと手分けして装備を製作する。
ダン
男 25歳 人間族 艶福家LV8 司祭LV34
装備 聖銀のロングソード ミスリルシールド ミスリルサークレット
精霊銀のサーコート 魔絹のグローブ ウィングブーツ 静穏の首飾り
ニーナ
女 16歳 獣人族 紳商LV41
装備 ミスリルダガー ミスリルダガー 魔絹のターバン 姫騎士の聖鎧
魔絹のグローブ ウィングブーツ 魔除けのネックレス
状態異常 呪い(移動阻害)
ティムル
女 32歳 ドワーフ族 熱視解放 防具職人LV47
装備 ミスリルダガー ミスリルダガー 魔絹のターバン 魔絹の服
魔絹のグローブ ウィングブーツ 癒しのネックレス
フラッタ・ム・ソクトルーナ
女 13歳 竜人族 竜化解放 紳商LV39
装備 聖銀のバスタードソード ミスリルサークレット 聖銀のプレートメイル
ミスリルガントレット 飛竜の靴 竜珠の護り
今回作った装備は全てスキル枠が3つついていた。
スキル枠はランダムじゃなくて、装備品の品質によって決定する感じなのかな?
全員の武器と防具をLV40レシピで固められた。これでようやくスポット最深部に来ててもおかしくない装備水準になったかな?
だけどみんなはあまり驚いた様子はなくて、真剣な表情で俺を見返してきた。
「……ダンが妾の家の異変を解決したいと言ってくれるのは、正直言えば凄く嬉しい……。じゃが考えなしの意見であるなら、妾はダンを止めねばならぬぞ?」
他ならぬフラッタが、俺に待ったをかけてきた。
誰よりも素直なフラッタは、誰よりも家族を心配してるだろうになぁ。
「1つだけ前提条件を考えてある。多分どうせ出るけどね」
「条件?」
「うん。今回の遠征で精神異常耐性大効果のスキルジュエルを手に入れること。それが出来たらルーナ竜爵家の異変をこの目で確認しに行きたいんだ。この眼でね」
「……鑑定、ということじゃな」
俺の言いたいことを正確に読み取り、考え込むフラッタ。
「無謀なことは理解してるつもりだよ。だけど考えてみたらさぁ。リーチェを迎えようって俺が、竜爵家程度に立ち向かえなくてどうするんだって話なんだよ。たとえどんな危険が待ち受けていようと、フラッタの問題は俺が背負うべき問題なんだ」
ニーナの呪いやリーチェの事情と同じように、家族であるフラッタの問題は俺が背負うべきもののはずなんだ。
まったく……、我ながら臆病すぎて嫌になるよ。竜化したフラッタより強い竜人族が敵に回ったとして、だからどうしたって話なんだよ。
俺はリーチェすら上回らないといけないってのにさぁ。
「竜爵家程度、か。未だ妾にも勝てぬお主が大きく出たのぅ? 妾よりも強い父上や母上がもし敵に回ったらどうするつもりなのじゃ?」
「安心しろよフラッタ。お前の両親は必ず助けてやるつもりだし、なによりお前の両親に俺を殺させてはやるつもりはないよ。お前の両親がどれだけ強かろうと、絶対に死んでやらないよ。フラッタのためにね」
下手をすると俺が両親を殺してしまうよりも、両親が俺を殺してしまう方がフラッタは悲しむかもしれない。
これは自惚れでもなんでもなくて、素直で優しいフラッタだから両親の罪を自分も背負ってしまうだろう。
俺の言葉を聞いて黙り込むフラッタ。そんなフラッタが次の言葉を探している間にニーナにひと言謝っておく。
「ごめんねニーナ。解呪が間に合いそうもないからニーナは連れていけないと思う。だけど俺……。やっぱりフラッタの家族を見捨てられないんだよ……」
「うん。それは構わないよ。私が行けないのも、フラッタの家を見捨てられないのもね。私が心配してるのは、ダンがちゃんと帰ってきてくれるかどうか。それだけだよ」
自力移動に阻害効果が無くなり、ここまで戦闘力が上がったニーナなら俺がいなくても生きていけるだろう。
……だけどニーナはきっと、俺がいなくちゃ生きていけないんだ。
いや、ニーナだけじゃなく、ティムルもフラッタもリーチェも、ムーリだってもう、俺がいなくちゃ生きていけないかもしれない。
俺の命は5人の命と等価だ。だから絶対に失うわけにはいかないんだ。
「竜爵家には俺とフラッタ、それとリーチェの3人で行こうと思ってるんだ。っとリーチェ。お前の精神異常耐性って大効果なんだよね? 確認してなかったけど」
「うん。僕の装備には全状態異常耐性の大効果が付与されてるよ」
ふぅ、良かった。リーチェが参加してくれるなら、俺の生存確率はぐっと上がる。
仮に参加してもらえなくても、死んでやるつもりなんか毛頭ないけどね。
「……つまりダンは、ルーナ竜爵家に大規模な精神攻撃が行われていると思ってるわけだね?」
「ああ。正直1つ後悔してるんだよ。前回ヴァルハールに行った時、フラッタと一緒に俺も竜爵家についていけば良かった、ってね」
そうすればくだらない決闘でフラッタを泣かせることもなかったし、竜爵家の異変に気づくことも出来たかもしれないっていうのにさぁ。
あの時点で竜爵家に近寄っても、俺に出来ることは無かったかもしれない。だけどフラッタを泣かせずには済んだはずなのだ。
「……ダンよ。ならば妾からも1つ条件を出すのじゃ」
ここにいる誰よりも真剣な眼差しを向けてくるフラッタ。俺はそれを正面から受け止める。
「竜爵家に向かう前に、手合わせで妾から1本取ること。それが出来なくば、ルーナ竜爵家のことはきっぱり忘れてもらうのじゃ」
……誰より素直で優しいフラッタに、家族のことを諦めてもらうなんて言わせる俺の弱さが嫌になる。
でも今はそんな感情を押し殺して、フラッタに不敵に笑ってやれ。
「上等だフラッタ。俺はお前の為なら、お前だって越えてみせるよ。今から負けたときの言い訳でも考えとくんだね」
「うむ。絶対に手加減はせぬぞ。絶対に手は抜かぬから、絶対に妾を負かして欲しいのじゃっ……!」
燃えるような赤い瞳に大粒の涙をためながら、自分を負かせと懇願するフラッタ。
素直で強いフラッタが見せた俺への甘え。こんな男冥利に尽きること、そうそうないよなぁ?
ちっちゃくて軽いフラッタを、足の上に横抱きにする。
こんなに小さくて、こんなに可愛いフラッタなのに、あまりにも強すぎて誰にも甘えることが出来なかったんだ。
よしよしなでなでしながら、フラッタに宣戦布告する。
「フラッタこそ覚悟しとけよ? 全力のお前を正面からぶっ倒して、勢いそのまま竜爵家に乗り込んでやっからさ」
「妾だって父上と母上が心配なのじゃぁ……。だけどダンのことだって大好きなのじゃぁ……。大好きなダンが危険な場所にいけないように、全身全霊を持って、殺す気で相手するのじゃ……!」
こ、殺す気なのは勘弁して欲しいかなぁ~……。
でもそんなフラッタを越えられないなら、竜爵家に行く資格は無い。
「だからそんな妾をあっさり倒して、父上も母上も……、兄上も助けて欲しいのじゃぁっ……!」
泣いて縋るフラッタを、今度こそ力いっぱい抱きしめてやる。
強敵相手に怖気づいてる場合じゃないぜっ。
ベストエンドを目指すなら、絶対に越えなきゃいけないイベントだよなぁ!
「ニーナもティムルも、それで納得してくれる? フラッタを倒せたら竜爵家に行ってもいいかな?」
「フラッタを倒しても、リーチェを倒しちゃっても、心配はさせてね? 私たちみんな、もうダンがいなきゃ生きていけないの」
「呪いと精神異常耐性が無かったとしても、私とニーナちゃんでは実力不足で参加出来ないわね……。悔しいけどダンの足を引っ張るほうが嫌だから、ニーナちゃんとムーリと一緒に待ってるわ」
心配そうに、でも竜爵家行きを了承してくれる2人。
くっそぉ、2人に心配させたくないんだけどなぁ。俺が弱いから、胸を張って任せとけっ! って2人を安心させられないんだ。
結局全部俺の弱さが悪いんだ。ニーナの問題もフラッタの問題もリーチェの問題も、俺がもっと強ければとっくに解決できていたはずだ。
足りない。まだまだ足りない。足りなすぎる……!
何で俺はいつまで経っても、こんなに弱いままなんだ……!
その時唇に柔らかい感触。
驚いて視線を下げると、胸の中に収まっていたフラッタが、俺に優しく口付けしてくれていた。
「ダン。ダンはなにも悪くないのじゃ……。誰かの為に怒れるダンは凄いと思うけど、でもやっぱり妾は優しいダンが好きなのじゃ……。妾の為に妾を越えようとしてくれるダンが、大好きなのじゃぁ……」
フラッタが、また泣きながら唇を重ねてくる。
そのキスは唇を合わせるだけの、ただの愛情表現。
フラッタのあまりに素直な好意の伝え方に、俺の怒りは休息に凪いでいく。
そうだ。無力を嘆いても、弱さを憎んでも意味がないんだ。
足りないなら、届かないなら、もっともっと強くなるしかない。
弱い俺ではなにも出来ないなら、強くなって全てを解決すればいいんだ。自分のせいだと自分で自分を責めるなんて、そんなことしてる暇はないんだよっ!
「ダン。もう怒ってない……? たとえ妾の為でも、ダンには怒って欲しくないのじゃ。妾は、優しいダンが大好きなのじゃぁ……」
「俺なんかよりも、フラッタの方がよっぽど優しいよ。優しいフラッタが大好き過ぎて、怒ってる暇なんかないね」
よしよしなでなでしながら額にキスをする。
くすぐったそうにしながらも、フラッタはようやく笑顔になって、体の力を抜いてくれた。
「……ニーナのこともフラッタのこともリーチェのことも、弱い俺のせいでなにも解決できないんだ、って思っちゃったんだけどさ。考え方、変えることにしたよ」
そう、弱い俺を嘆くよりも、このフラッタを守るために更なる強さを求めよう。
こんなに可愛いフラッタのためなら、無双将軍くらい余裕でぶっ倒してみせるさ。
「もっと強くなって、みんなのこと、丸ごと助けてみせるって。俺のせいで解決できないんじゃなくて、俺の手で解決してやるさって、そう思うことにするよ」
弱さを嘆いても、それはただ止まってるだけだ。
嘆く暇があるなら、進め。
「ふふ。それを自分の口で言えるようになったなら、ダンも変わったね。もう私とティムルのキスがなくっても平気かなぁ?」
「平気じゃないって言うのと平気って言うのと、どっちならキスしてくれる?」
脳が思考する前に聞いてしまった。
ニーナとティムルのキスがない人生なんて、もう俺には考えられない。
「あはーっ。そんなに切なそうな顔しないでよぉ。どっちだって、いーっぱいキスしてあげるからねー。でも私もニーナちゃんもダンを立ち直らせる為じゃなくて、ただ貴方とキスがしたいかしらねー?」
はは、了解だティムル。
「もうニーナとティムルのキスに甘える必要は無いよ。けどそんなのお構いなしに、いっぱい2人とキスがしたいね」
甘える必要は無いんだけど、それでも2人に甘えて溺れたい。
って、なんだかエロい雰囲気になって、このままみんなを愛したいところだけど、そもそも竜爵家に行く話だったんだよ。落ち着け俺。
「はぁぁぁ……。危なくこのままみんなを押し倒すところだったよ」
腕の中のフラッタの体温を意識して、この大切な女性を守る為に気を取りなおして話を続ける。
「とりあえずフラッタから1本取ること、そして精神異常耐性大効果のスキルジュエルを手に入れたら、フラッタとリーチェの3人で竜爵家に乗り込んでくるね。竜爵家の件は俺にとっては今年にやり残した心残りみたいなものだからさ」
俺の覚悟に応えるようにみんなが力強く頷きを返してくれた。
竜爵家の話はこのくらいかな? 次は今現在の話に移ろう。
「それでまずはニーナ。戦い方はどうだったかな? このままダガー1本で戦う? それとも何か別のスタイルを試してみる?」
「そうだねぇ。次はダガー2本でティムルみたいな戦い方をしてみようかな? コテンも言ってたけど、ティムルの戦い方は獣人族に向いてると思うから」
「ふむ。じゃあティムル。新しくミスリルダガーを1つ用意してあげてね」
了解よーっとウィンクで応えてくれるティムル。
ティムルの戦い方って、多分ドワーフとしては異端なんだろうなぁ。戦闘職の職業補正が無かったからこその、回避特化の戦闘スタイル。
「それとティムルの防具職人が浸透間近で、作れる防具も俺と同じ水準になってるはずだ。銀もボロボロ手に入ったことだし、そろそろ防具の更新をしたいと思ってるんだよ」
「そうね。いつの間にか私もミスリル防具まで作れるようになっちゃってるわねぇ」
いくら装備強度補正があるとはいえ、いつまでも革製防具なんて装備してるわけにはいかない。
「とりあえずフラッタちゃんには聖銀のプレートメイルを作るとして、他のみんなはどうかしら? 特にダンは竜爵家に乗り込む前にもっといい防具にすべきよねぇ」
竜爵家に行った場合はほぼ対人戦を想定してるけどね。
まぁ職業補正が適用されなくても防具が良くて困る事はない。対人戦であっても更新すべきだな。
頭の中で防具製作のレシピを確認して、動きを阻害しないで、かつ強度の高そうなものを物色する。
「んー。俺は精霊銀のサーコートあたりかなぁ。ニーナは姫騎士の聖鎧あたり?」
精霊銀はミスリル素材に、更に発光魔玉を増し増しにした素材みたいだ。ミスリルと比べて銀の量は半分で、その分魔玉を追加する感じだね。ミスリルと魔絹の中間的素材で、性能も両者の中間くらいだ。
重すぎず、けど強度もあるみたいな? 布と金属の中間みたいな素材らしいね。ニーナ用の聖鎧も精霊銀で出来ているらしい。
「靴も新しくするとして、機動性重視でいいよね? あと腕防具は俺はグローブ系にしようと思うんだけど、みんなはどうする?」
グローブ系は布製、ガントレット系は金属製って感じだな。勿論金属製の方が強度は上だけど、グローブ系は軽さ重視だ。
フラッタだけガントレット、俺とニーナとティムルはグローブ系に決定。
「頭防具もどうすればいいかなぁ。俺は軽さ重視、視界の確保重視で考えたいんだけど」
ニーナはティムルと同じ魔絹のターバンを選択。俺とフラッタはサークレット系に更新することにした。
他には帽子だったりフルフェイスのヘルム系装備があったけれど、帽子は魔法職などの後衛職向き装備で、ヘルム系装備は視界の阻害が著しいのでパスした。
全員の装備品が決まったら、ティムルと手分けして装備を製作する。
ダン
男 25歳 人間族 艶福家LV8 司祭LV34
装備 聖銀のロングソード ミスリルシールド ミスリルサークレット
精霊銀のサーコート 魔絹のグローブ ウィングブーツ 静穏の首飾り
ニーナ
女 16歳 獣人族 紳商LV41
装備 ミスリルダガー ミスリルダガー 魔絹のターバン 姫騎士の聖鎧
魔絹のグローブ ウィングブーツ 魔除けのネックレス
状態異常 呪い(移動阻害)
ティムル
女 32歳 ドワーフ族 熱視解放 防具職人LV47
装備 ミスリルダガー ミスリルダガー 魔絹のターバン 魔絹の服
魔絹のグローブ ウィングブーツ 癒しのネックレス
フラッタ・ム・ソクトルーナ
女 13歳 竜人族 竜化解放 紳商LV39
装備 聖銀のバスタードソード ミスリルサークレット 聖銀のプレートメイル
ミスリルガントレット 飛竜の靴 竜珠の護り
今回作った装備は全てスキル枠が3つついていた。
スキル枠はランダムじゃなくて、装備品の品質によって決定する感じなのかな?
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【R18】翡翠の鎖
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ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。
※R18描写あり→*
虎の刻の君
皆中透
BL
薫次(くんじ)は、生まれつき体が弱く、気が強い自分の心と真逆なその体を「イレモノ」と呼んで嫌っていた。
ある早朝、そんなイレモノに嫌気がさして、泥酔したまま飛び降りようとしていたところ、突然現れた美男子に唇を奪われる。
「魂と体のバランスが取れてないって言うなら、新しいのあげよっか?」
そう言い始めたその男は、「ハクト」と名乗った。
新しい体を手に入れて、意気揚々と生活を再開した薫次は、次第にあることに気づき始め……。
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