異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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2章 強さを求めて3 孤児と修道女

125 頭突き (改)

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 ムーリさんから発せられた予想外の言葉に、教会の応接室を沈黙が支配する。

 ……えーと? 何でそうなるのかな? って聞き返すのも薮蛇になりそうだし、どうすればいいの?


「ごめん。ムーリさん、ちょっと落ち着いてくれる? 担保なんて要求する気はないし、借金のカタにムーリさんを迎える気はないよ」


 迷った時は単刀直入に限る。いっつも単刀直入しかしてないけど。

 ムーリさんは確かに魅力的な女性だけど、お金で買うような真似、出来るはずがない。


「……落ち着いてます。落ち着いてますよっ! ちゃんと落ち着いて考えましたっ! 担保じゃなくてもなんでもいいんですっ! お願いですっ! 私を貰ってくださいっ!」

「ちょちょっ!? ムーリさんてばっ!」


 ムーリさんは俺達の間にあったテーブルを軽々と乗り越えて、対面に座っていた俺に飛びついてきた。

 全然落ち着いてねぇ~っ! そしてシスターなのに身体能力高いなっ! 人間族じゃなさそう!


 正面からムーリさんに押し付けられてる特大のボリュームを感じながらも、抱きしめ返す事も出来ずに困り果てる。

 ……どうしてこうなった?


「だって年が明けたら、皆さんマグエルを出て行ってしまうんでしょうっ!? 帰ってくる日がいつになるか分からないんでしょうっ!? 皆さんの帰りを待つ猶予は無いんですっ! 今すぐダンさんに貰っていただきたいんですぅっ!」


 あー、マグエルを発つ話をしたのがきっかけなの?

 かと言って、いただきまーすっ! と簡単に貰っちゃうわけにはいかないよなぁ。


 ムーリさんはマグエルの教会のシスターで、俺達の旅に同行する事も、俺たちと同居する事もないだろう。

 他のみんなみたいに、隙間が無いほどのゼロ距離で接することは出来ない人だ。


 なにより、ここの子供達からムーリさんを取りあげるわけにはいかないよねぇ。


「そんなに綺麗な恋人が4人もいるダンさんにとって、私なんか欲しいと思わないのは仕方ありませんっ! 多くは望みませんっ! 好きな時に抱いて、好きなように扱ってくださいっ!」


 ムーリさんの扱いに悩んでいると、力いっぱい抱きついたままで必死に懇願してくるムーリさん。

 愛の告白なんて甘い雰囲気は微塵もなく、悲壮感すら漂っている気がした。


「ダンさんの言うこと、何でも聞きますっ! 愛して欲しいなんて言いませんっ! ダンさんが望む事なら何でも……、これからダンさんの奴隷になりに奴隷商人のところに行っても構いませんっ!」


 ムーリさんの言葉に、チリチリとした燻りが体の奥底に感じられる。

 今のムーリさんの様子は、まるでフラッタを泣かせてしまったあの日のようだ。


 完全に俺に全てを差し出すような、全てを捧げるような懇願。100%俺が上位の、隷属の願い。


 ……落ち着け。俺はもうこの感情に呑まれたりはしない。全ての不幸を自分のせいだなんて驕ったりはしない。


 まずは話を聞こう。話を聞いて、ムーリさんとこの教会になにが起こっているのかをちゃんと知ろう。

 泣きながら自分の身を差し出すまでに追い詰められたムーリさんの話を、始めから全部聞かなければ。


「ムーリさん、落ち着いてって言ってるでしょ。まずは話をしよう」


 抱きつくムーリさんを、静かに抱きしめ返す。


 私の体は好きにしていい、だから、助けてください。
 
 そんなムーリさんを振り払うわけには、いかないよねぇ……。


「ムーリさんは美人だしおっぱいも大きいし、とても魅力的な女性だと思ってるよ。でもせっかく仲良くなったムーリさんを、借金の対価なんかで受け取るわけにはいかないよ」


 ちらりとみんなの様子を窺うと、ニーナは涼しい顔でお茶を飲み、ティムルとリーチェはニマニマしていて、フラッタは興味津々といった風に目を輝かせていた。


 ……誰か1人くらい俺を責める奴がいても良くない?


「ムーリさん。君に何があったの? 俺達の帰りを待つ猶予がないってどういう事?」


 年末に奴隷に落ちてしまうコットンを救おうとしている、それだけじゃ説明が出来ないほど必死なムーリさんに、俺が思っている以上の事情を抱えている可能性が見え隠れする。


「せっかく仲良くなったんだもん。力になれる事があれば協力する。だから話してくれないかな、ムーリさんの事情を。ムーリさん1人が犠牲になることなんてないんだよ」

「…………そうじゃ、そうじゃないでしょーーーっ!!?」

「うわぁっ!?」


 俺にしがみ付いてきていたムーリさんが、絶叫しながら体を起こす。

 めちゃくちゃびっくりしたぁっ!
 

 そして俺の顔を両手で掴みながら、鼻先の距離まで顔を近づけて、涙目で俺を睨みつける。


「美人だって言うなら……。魅力的だって言うならっ……! 四の五の言わずに貰ってくださいよーーっ!」


 そしてムーリさんは力いっぱい唇を押し付けてきた。

 口が閉じた同士で勢い良く唇を当てられ、微妙に痛い。


 教会でシスターとキス。そして胸に押し付けられる大迫力のおっぱいの感触。

 それらを素直に楽しみたいところだけど、困惑のほうが強すぎて感触に集中出来ない。


「……ご主人様の意志を無視はしませんけど、良かったらムーリさんのこと、貰ってあげてくれませんか?」


 困惑する俺を更に困惑させるような事を平然と口にするニーナ。


「ムーリさん。貴女の事情は分かりませんが、1つだけ貴女の口から聞かせて欲しいんです」


 ニーナは感情を感じさせない声で、静かにムーリさんに問いかける。


「貴女がご主人様に貰われたいのは、借金の担保に必要なことだからですか?」

「違いますーっ! そんなわけっ、そんなわけないじゃないですかーっ! 好きだからですっ! ダンさんを好きだからに決まってますーっ!」


 ニーナの言葉に反応して、一気に捲し立てたムーリさん。

 そしてキッと俺を睨みつけたかと思うと、真っ赤な顔をしながら愛を叫んだ。


「ダンさん! ずっとお慕いしておりましたっ! この私のこと、どうか貰ってくれませんかっ!」


 ムーリさんは言いたいことだけ言って、また強く唇を押し付けてきた。

 だから痛いんだって! 半分頭突きだからねこれ!


「ということですご主人様。ムーリさんは嫌いな男性に体を差し出すわけじゃありません。愛する男に抱かれたいから、好きな男性に身を委ねたいと願っているんです」


 唇に痛みと柔らかさ、そしてムーリさんの口から送られてくる吐息を感じていると、優しい口調でニーナが語りかけてくる。

 いやいや、いつの間にそんなことになってるんだよぉ。ムーリさんって初対面の時、俺の前で震えてたんだよ?


「貴方に抱かれる事がムーリさんの幸せなんですよ、ご主人様。担保はただのきっかけと口実に過ぎません」


 ニーナの言っていることが事実にしても、まずは落ち着いてムーリさん本人と話がしたいなぁ。

 ムーリさんの震える背中をポンポンと軽く叩いて宥める。


「私に言わせれば、ご主人様が不思議そうな顔をしてる方が信じられませんよ? 順番で言えばティムルの次、フラッタより先にご主人様をお慕いしていたんですから」


 なに? ニーナって俺の女性遍歴の年表でも持ってるの? その話、俺は知らないんだけど?

 ムーリさんが口を離してくれるまで、しばし静かに背中を擦った。





「は? 20歳で無理矢理結婚させられる?」


 落ち着いたムーリさんから事情を聞くと、どうやら好きになれない相手と無理矢理婚姻を結ばされそうになっているそうだ。

 つまり猶予が無いというのは俺達の出発の話ではなくて、ムーリさんの結婚話のせいだった。


「はい。でもそれとは関係なく、ダンさんをお慕いしているのも本当ですっ……」


 事情は話してくれたけど俺の事は離してくれず、まるで暴走した時のリーチェのように、座ってる俺の上に正面から跨って抱きついているムーリさん。


 恥ずかしくて俺の顔が見れないし、俺に顔を見せるのも恥ずかしくて嫌だと言う事で、俺に思い切り抱きついて、俺たちの顔は頬ずりが出来る位置関係だ。

 まだ貰っていないムーリさんに頬ずりなんて、流石にしないけどさぁ。


「それに私はマグエルの教会でずっと働きたいと思ってるんです。その為には、マグエルに居を構える男性と婚姻を結ぶ必要がありましてですね……」

「はぁ~……。確かにあの家を手放す気はないって言ったんだったねぇ……」


 俺にとっては融資の提案の理由付けの1つ程度の軽い気持ちで話したことだったけれど、切羽詰ったムーリさんにとっては行動を起こすきっかけの1つになってしまったのかもしれない。


「あの家さえ手放さなければ、長期間家を空けても問題ないの?」

「はい。ダンさんの住居がこちらにあれば問題ないです。そうでなければ配偶者が仕事を出来なくなってしまいますから。資金難のトライラム教会に、夫婦の生活を援助する余裕は無いですしね」


 そりゃそうか。お互い教会関係者同士なら色々融通も出来るんだろうけれど、行商人や魔物狩りは長期間家を空ける事も珍しくない。

 移動阻害の呪いの影響下にある俺やティムルでさえそうなんだからなぁ。


「そういや俺って人間族の25歳なんだけど、ムーリさんって種族なんなの? 今更過ぎる質問だけどさぁ」

「あ、はい。私は獣人族で19歳です。年が明けると20歳になり、婚姻を断れません」


 そのおっぱいで10代だったのムーリさん。

 この世界では15歳が成人って認識だけど、日本から転移してきた俺からすると、19歳と20歳の差は結構大きく感じられちゃうなぁ。


「ダンさんに貰っていただければ婚姻は断れますし、マグエルに永住するシスターとしてずっとマグエルでシスターを続けることが出来ます。そしてなにより、愛する男性と添い遂げることが出来るんですっ……!」


 つまりメリットしかないわけね……。

 恋愛感情抜きにしても好条件、そこに恋慕の情をプラスして最高の相手、って?


「んー。旅に連れていけって言われたら困ったけど、俺には何もデメリットが無いね。さっきも言ったけどムーリさん美人だし、このおっぱいを好きにしていいならありがたく貰っちゃいたいところなんだけど……」


 結論を出すのを保留して、家族の皆にも意見を聞いてみる。


「みんなは何か言うことないの? 俺に対してさぁ」

 
 反対意見が出るとは、もう思ってないけどぉ。


「私はご主人様がコットンを見捨てるとは思っていませんでしたので、納税のタイミングでこうなるだろうなとは思っていました。なので、思ったより早かったな、くらいですね」


 ニーナはいつだったか、ムーリさんも嫁になるって予想してたもんなぁ。


「私としては魔物狩り支援のほうが気になりますね。確かにご主人様の能力を考えると、かなり旨みの多い提案かと思いますよ」


 ティムルが太鼓判を押してくれるなら安心だね。

 俺は装備品を自作できるし素材の調達も自分で行えるから、装備品の貸し出しには殆どデメリットが無いのだ。


「戦闘の指導なら妾も手伝えるのじゃ。妾の仕事が増えるのは嬉しいのじゃあ」


 なるほどね。家事とか壊滅的だけど、フラッタの戦闘指導は意外と細かくて丁寧だ。お願いできるならありがたいかもしれない。


「むしろムーリが身内になってくれるのはありがたいくらいだよ。ムーリのことは信用してるけど、それでも家族じゃない人間にあの屋敷を自由に出入りされるのは少し無用心だとは思ってたからね」


 そういう見方もあるんだなぁ。世界樹の護りを盗られたリーチェらしい発想かもね。

 家の管理人を身内に迎え入れてしまえば、セキュリティの信頼度が更に向上すると。

 
 分かっちゃいたけど、反対意見は無しかぁ。


 うん。覚悟決めるか。

 ムーリさん美人だし、貰えるものは貰っちゃいましょう。


 まるで決意表明でもするかのように、ムーリさんをぎゅっと抱きしめ返す。


「ムーリさん。ムーリさんを貰っても、俺たちは目的の為に旅をしなければならない。ムーリさんを置いて長期間……、下手すりゃ年単位で旅をすることになるけど、それでもいいの?」

「構いません。貰っていただけるのであれば、それ以上は望みませんっ」


 即答かぁ。どっかのジジイみたいに婚姻だけ結んで放置なんてする気はないけど、状況的には似た感じになりそうでちょっと凹むわぁ。


「ムーリさんもう1つ。俺とニーナは訳あってまだ婚姻を結べていない。そして俺はニーナより先には誰とも婚姻を結ぶ気はないんだ。教会からの婚姻要請、俺と婚姻を結ばなくても断れるかな?」

「それは……。えっと、出来ればダンさんにもご協力願えればと」


 少し迷ったように俺に協力を要請してくるムーリさん。

 俺に出来ることなら協力させて貰うよ。このおっぱいの為に。だから遠慮なく言って。


「恐らく今度の礼拝日にも、私と婚姻を結ぼうと、司祭様がこの教会にお見えになると思います。なのでダンさんにもその場に立ち合っていただいて、司祭様の説得にご協力いたただければ……と」


 ふむ。パートナーを紹介する事でお引取り願うのね。

 どちらにしても礼拝日は教会に来るから、大した負担でもないか。


「分かった。分かったよムーリさん。ムーリさんの都合も想いも理解したつもり」


 正直な話、ムーリさんを貰う事になんにも問題は無い。無さ過ぎて心配になるほど問題がない。

 不思議な事に、俺がムーリさんを受け入れることで、俺にもムーリさんにもメリットしかないのだ。だから逆に不安にもなっちゃうんだけど。


「うちの家族も反対する人はいないみたいだし、ムーリさんを家族に迎えること、前向きに検討する。でも嫁に貰うかどうかは、礼拝日にちゃんと司祭様に納得してもらってからにしようね」

「は、はいっ! それで構いませんっ!」


 弾むムーリさんの声と、抱きつく力が強まって潰れるおっぱい。

 魅力的な人だと思うから、俺なんかが貰っていいのか、やっぱり少しだけ躊躇いを覚えてしまうね。


「それじゃ明日……、は冒険者ギルドにいくつもりだから、明後日も今日と同じくらいの時間に教会に顔を出したいと思う」


 戸惑いこそ覚えてしまうけれど、俺が貰ってあげることで皆が幸せになるなら躊躇う理由もない。

 井戸の使用なんて些細なことで自分の身を投げ出そうとするこの女性を俺の手で幸せにしてあげられるなら、それに越した事はないよな。


「そこでムーリさんも一緒に立ち合ってもらって、改めて魔物狩りのスポンサー契約について話をしたいから、希望者には話を通しておいてくれるかな」

「はい。1度私から子供達に話す機会を貰えるのはありがたいです」

「年齢、性別、種族、適正、職業とかは気にしない。だけど無理矢理参加させないようにだけ気をつけてね? やる気が無いと危険すぎるから」


 教会の為に嫌だけど仕方なく、なんて気持ちで参加されると危険だからな。最低限、自主的に参加してもらうことが条件だ。


「それじゃあ明後日に詳しい話をしていくとして……」


 話をしているうちに自然と体が離れて、今は密着していないムーリさんの顔を見詰める。


「さっきはムーリさんに好き勝手されたからね。ムーリさんももう俺のモノになる気らしいし、やられた分はしっかりお返ししておこうかな」

「え?」


 戸惑うムーリさんを強引に抱き寄せ、彼女の口の中に舌を差し込んだ。


 毎回頭突きされちゃ堪らないからね。

 俺の女になるって言うなら、まずは正しいキスの仕方から教えてあげるとしよう。
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