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2章 強さを求めて2 新たに2人
091 4人での遠征 (改)
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フラッタが加入して、4人での初のスポット遠征が始まる。
「今回はとにかく速度重視だ。可能な限り奥に進もう」
分かっていますと力強く頷いてくれるニーナたち。頼もしいな。
今回の遠征はとにかく先に進む事を優先する予定だ。
「全員の火力も上がってるし、フラッタが加わったことで戦力向上は著しいはずだ。フラッタも俺たちに遠慮せず、魔物を倒して先に進む事を優先してくれ」
「任せるが良いのじゃっ。この剣に見合った働きは約束するのじゃっ」
嬉しそうに大剣を掲げてみせるフラッタ。
その細い体でバスタードソードを片手で軽々と持ち上げるんだからびっくりしちゃうよ。
今回から4人になったし、フラッタというスーパーロボット級の戦力が投入された事で殲滅力も格段に上がっている。戦闘時間の大幅な短縮が期待できるはずだ。
ただ急ぐ理由は殲滅力が上がったからだけではない。
メンバーが4人になり、更には今回から4つ同時に携帯している魔玉を2セット光らせる事が可能かどうかを確かめたいのだ。
1度の遠征で魔玉8個、40万リーフを手に出来たとしたら……。俺達の資金稼ぎが一気に進む。是非とも狙っていきたいねっ。
往路でニーナの射手も恐らく浸透させることが出来るはず。ニーナとティムルのダブル豪商なら、決して不可能ではないと信じたい。
ポイントフラッタを通り過ぎる。
魔物を殲滅しながらでも、今なら1日とかからず到達してしまえる範囲。こんな場所に来る為に、俺たちは丸2日もかけていた時もあったんだ。
うん。ちゃんと強くなっている。
ポイントフラッタにフラッタと一緒に到達したことで、前々から気になっていた事を思い出した。せっかくなので聞いてみよう。
「そう言えばフラッタって、初めて会ったときはどこからスポットに入ったの? ここって完全にマグエル側だけど、マグエルから入ったわけじゃないんだよね?」
「ふふ、懐かしいのぅ。ダンとニーナに初めて会ったあの日は、妾の最高の思い出の日なのじゃっ! あの時のダンはかっこ良かったのじゃぁ……。ニーナもお腹いっぱい食べさせてくれたのじゃぁ……」
バスタードソードを振り回しながら満面の笑顔を向けるのは怖すぎるからね? でもその笑顔でニーナはノックアウトされてしまたようだ。
……もうニーナはフラッタがなにしてもノックアウトされそうだな。
つうかフラッタ、質問に答えろっての。
「あの時は確か、北のナビネールからスポットに入ったのじゃ。兄上を探して走り回っておったのじゃが、今考えると馬鹿馬鹿しいほどに無謀であったのぅ……」
当時の行動を振り返り、無謀だったとちょっとだけしょげた様子のフラッタ。
え、北から入って東側のマグエル付近に、丸3日で到達してんのコイツ? 移動速度やばくない?
俺達の移動速度でスポットの中心まで、大体15日かかるとするわけじゃん?
東のマグエルと北のナビネールから中心までのそれぞれの距離は恐らくイコールではないと思うけど、ここは同じ距離だと仮定して、どっちからも15日かかるとする。
中心から見て真北と真東に街があるなんてありえないけど、とりあえずマグエルとナビネール、そしてスポットの中心をそれぞれ直角二等辺三角形だと定義した場合、斜辺の求め方は15日×√2。
√2はひとよひとよだから、大体1.4なわけだ。でも計算が面倒なので1.5倍とすると、21日~23日くらいの距離があるわけだよ。
勿論現実には二等辺三角形でもなければ、フラッタも真っ直ぐ斜辺を移動したわけじゃないんだろうけど、たった3日で俺達の移動速度の7倍以上の距離を移動している計算にならない?
戦闘職を浸透させまくってる補正も凄いんだろうけど、こいつの補正には持久力上昇が1つもないんだよな。敏捷性上昇で移動速度に補正はかかってる可能性はあるけどさ。
えぇ……、竜人族って頭おかしくない……? 持久力補正無しで丸三日、高速で移動しながら戦い続けてスポット内で生き延びてるんだよ? 種族的な身体能力、高すぎでしょ……。
あ~、こりゃあ人間族が馬鹿にされるはずだわぁ。生物としての性能が違いすぎる……。
「どうかしたかの? 妾の顔見詰めたりして」
竜人族の凄さに感心していると、ついついフラッタを見詰めすぎてしまっていたようだ。
俺の視線に気付いたフラッタが首を傾げて聞いてきた。
「も、勿論見られるのは吝かではないがの? でもあんまり見詰められると照れるのじゃぁ……」
と思ったら赤くなってモジモジしだしたぞ? お前くらい可愛かったらとりあえず見詰めちゃうわ。
ああっと、そういえば飛竜の靴には持久力補正付いてたんだっけか? いやそれにしたって凄すぎるよなぁ。
「あの日、俺たちと出会うまで生き延びてくれたフラッタは本当に凄いなって思ってさ。ありがとうフラッタ。生き延びてくれて。おかげで大好きなフラッタと今こうして一緒に居られるよ」
「い、いきなり何を言い出すのじゃっ!? れ、礼を言うのはこちらの方に決まっておろう! ダン、ニーナ。あの日妾を助けてくれて、本当にありがとうなのじゃっ」
ニコニコのフラッタをニーナと一緒によしよしなでなでする。
水と食料があったら、フラッタって普通にあの時も切り抜けてたっぽいね。そうなってたら俺の女にはなってもらえなかっただろうなぁ。
……本当に偶然だったのか、どうしても疑ってしまうよ。フラッタの存在は、まるで俺の為に誂えたかのようなんだよなぁ。
まぁ今はフラッタとの出会いに素直に感謝しておこう。よしよしなでなで。
フラッタとの出会いをティムルに話しながら、スポットの奥へと歩を進めた。
「お、おおお……っ! どんどん広がっていくのが分かるのじゃぁ……。こんなの、こんなの知らなかったのじゃあっ……!」
フラッタが感動した様子で喜びの声を上げている。
はい、もちろんインベントリの話です。
旅人のレベル上昇はインベントリのおかげで分かりやすいからね。戦闘職縛りで転職させられていたフラッタにとって、インベントリは分かりやすく体感できる成長の証だ。
インベントリが広がる度に、とても楽しそうに毎度限界までドロップアイテムを詰め込んでいる。
4人になって魔玉も4つになってるけど、順調にレベルアップしてる気がするな。魔玉8個も普通に狙って良さそうだ。
遠征3日目の昼頃、俺の短剣使いがLV30に到達。好色家をLV4にした後に、予定通り武道家に設定。
ニーナの射手は28、ティムルの豪商は7、フラッタの旅人は11だ。射手の最大レベルはまだ不明だけど、同じ派生職の剣士がLV30なんだから射手もLV30でカンストだと信じたい。
射手と豪商に比べて、フラッタの旅人は順調に成長している。既に最大サイズのインベントリが1つ使えるので、もう運搬役としても役立ってくれている。
フラッタの旅人を参考にするなら、俺のレベルアップが早いのはニーナとティムルと比べて弱い職業を育成しているからなんだろうか?
何気にこれで、村人、旅人、戦士、商人、行商人、剣士、短剣使いと、7つもの職業を浸透させてしまった。フラッタよりも浸透職の数だけなら多いんだよなぁ。
やっぱチートだね。鑑定に職業設定。
遠征4日目の夜、とうとうニーナの射手がLV30に到達した。
きましたわーっ! これで豪商2人になって、魔玉の発光が更に捗るはずっ!
迷わずニーナの職業を豪商に変更!
豪商LV1
補正 体力上昇- 持久力上昇- 幸運上昇 装備品強度上昇-
スキル 魔玉発光促進 インベントリ
ニーナに体を動かすのに違和感がないかを聞いてみる。浸透に失敗して身体操作性上昇が切れてたら違和感があるはずだ。
「いえ、特に問題ないようです。間違いなく浸透しているようですね」
ダガーを振ったりストレッチをしているニーナだけど、どうやら問題ないみたいだ。射手の最大レベルはLV30で間違いないらしい。
まぁ疑ってはいなかったけどね。射手LV30で新しい職業が出てたから。
狩人LV1
補正 体力上昇 魔力上昇- 持久力上昇 身体操作性上昇
幸運上昇 装備品強度上昇
スキル 生体察知
射手の上位職っぽくて、生体察知にはかなり興味を惹かれる。だけどまずは心を鬼にして、豪商に集中してもらう。
「これで私も豪商ですね。魔玉の発光も促進されますし、インベントリも追加されますし、ブルーメタルダガーの威力も上がりますし、良いことばかりですねっ」
ニーナも豪商の育成にやる気を見せてくれているし、フラッタとリーチェを新たに迎えたことで今までの収入では生活は厳しくなってしまったからな。今は少しでもお金を稼ぎたい。
遠征5日目。前回最後に到達したのはこの辺りだったと思う。
フラッタの加入で丸1日分移動ペースが速まったらしい。凄まじいとしか言えないなぁ。
さぁここからは未知の領域だ。いくらフラッタがいるとはいえ、油断せずに行こう。
フラッタがマジで無双状態なので、6日目の夜になっても無双してそうではあるけど。
そんなことを思っていたのに、5日目の夜に魔玉が光ってしまった。
「まさか6日目を迎える前に、4つとも光っちゃうとはねぇ……。順調すぎて、ちょっとビビってるかな」
いや素晴らしいことなんだよ。素晴らしいことなんだけど順調すぎて怖いんだよ。
「順調ですし、順当でもあると思いますよ。魔物の殲滅量は前回よりも更に多いですし、私も豪商になりましたからね。当然の結果かと」
「ええ。フラッタちゃんの加入も大きいですけど、私たちも全員攻撃力が上がってますしね」
だけどビビっているのは俺だけで、ニーナとティムルは当然の結果ですよと説明してくれる。
「というかご主人様の攻撃力と攻撃速度がめちゃくちゃ上がってますよ? フラッタちゃんが加入してなくても、往路で魔玉光ってたんじゃないですかね?」
「ティムルの言う通りなのじゃ。戦闘への集中力が変わったように思うのじゃ。決闘をしたことでなにか意識が変わったかのぅ? 無論、職業の浸透が順調に進んでいるという事も大きいと思うがのぅ」
ティムルとフラッタが褒めてくれるのは嬉しいけど、前回と比べてそんなに変わってるのかな?
あ、短剣使いが浸透して武道家も育成が進んで、敏捷性上昇が累積して作用してるからか?
そしてフラッタが浸透させてある、騎士のスキルの全体補正上昇。もしかしたらこれも効いてるのかもしれないなぁ。
ん? やっぱり全部フラッタが加入してくれたおかげじゃね? ありがとうフラッタ。よしよしなでなで。
この辺りからだんだん人型の魔物も増えてきた。
狼男にしか見えないマンウルフ、ナイスバディだけど顔が猫のウーマンキャット。
人の体と足、腕は翼で顔は鶏のチキンジョージ。
岩で出来た体を持ち、めちゃくちゃアグレッシブに攻撃してくるゴーゴーレム等々。
人と獣の特徴を持った相手を獣人と言ってしまいそうになるけれど、人型魔物を獣人と呼ぶのはタブーらしい。
獣にもなれる人という意味で獣人族。人型の獣という意味で魔物のほうは人獣と呼ばれるらしい。ややこしいな?
獣のような身体能力、人のような挙動など、人獣型の魔物は結構手強い感じだ。
ゴーゴーレムは岩で出来ているくせに、めちゃくちゃ俊敏に動き回る。攻撃力も防御力も非常に高く、スポットで遭遇した魔物の中では間違いなく最強だった。
俺は普通に切り裂けたんだけど、ニーナとティムルがゴーゴーレムに切りかかってもあまり有効打にはならなかったようだ。
俺と2人の攻撃系の補正の数は結構差があるもんなぁ。
「ふむ。人獣とも問題なく戦えるようじゃな。特にダンはゴーゴーレムを切り裂けるのは誇って良いのじゃ」
いやそんな、1撃で両断してる人に言われても……。
しっかしフラッタヤバイな。なにがやばいって、戦闘力以上にスタミナがやばい。旅人の持久力補正のせいなのか、まったく疲労の色が見えない。竜人族マジやばい。
こりゃ確かに、短命でもお釣りが来るほどのスペックだわなぁ。
「しかしダンは凄いのじゃ。こんなに職業の浸透が早く進むなど信じられないのじゃ」
改めてフラッタのスペックに感心していると、フラッタはフラッタで事ある毎に俺の事を褒めてくれる。
なんでお前ってそんなに強いのに素直に人のこと褒めれるの? 完璧超人なの?
「妾たちルーナ家が1年に1度しか転職しないのは、確実に浸透を成功させる為。つまり普通は浸透にそのくらいの期間を想定するはずなのじゃが……」
ふぅむ。フラッタから見ても、俺の浸透速度は異常なのか。
でもフラッタが言ってる浸透速度って、結局は鑑定が使えない状態での手探りでのペースだからなぁ。俺の浸透が異常に早いという証明にはならなくない?
「ダンの動きは目に見えて良くなっておるし、妾のインベントリも急速に広がっておるのじゃ。ダンは本当に凄いのじゃ」
「浸透が早いのは俺の力じゃないって。俺の力は鑑定と職業設定だけだよ。浸透が早いのは、みんなのおかげで殲滅が早いからじゃないかなぁ」
俺達は全員が戦闘職を浸透させてるからね。パーティ人数以上に殲滅力は高いはずだ。
もしそれ以外の要素があるとしたら……。転移ボーナスで隠れチートとか貰ってたり? 経験値取得ボーナスとか?
真相は分からないけれど、いくら鑑定と職業設定があるとはいえ、フラッタが5年で5つしか浸透が進んでいないのに、俺は約半年ほどで7つもの職を浸透させることに成功しているんだよな。
これが鑑定と職業設定の賜物なのは間違いないが、確かに言われてみれば早すぎるのかもしれない?
「……ああ。ご主人様、もしかしてそれって人間族の特性なのかもしれません」
「へ? 人間族の、特性?」
思い出したかのように、ティムルが説明をしてくれる。
「以前ご主人様に種族についてお話したとき、人間族の種族特性は諸説あって、でも明確な根拠が示されている説は無いとお話したじゃないですか。その中の1つに、人間族は職業の成長が早い、という説があるんです」
人間族は職業の成長が早い? クソザコ人間族さんもとうとう陽の目を浴びる時が来たっ!?
「ただ明確な根拠があるわけではなく、なんとなく人間族は成長が早いのでは? 程度の話なのですけどね。もしかしたら?」
ええ? もしそれが本当だとしたら、検証されてないのはおかしいんじゃ……? だってそれって、この世界ではめちゃくちゃアドバンテージになりえるのに。
「強敵と戦うほどに職業の成長も早まりますからね。人間族は他の種族と比べて身体能力が低い為、同じ魔物と戦っても得られる経験が濃いのではないのか、みたいな話ですかね」
確かに竜人族のスペックを意識した今だと、人間族の脆弱さは浮き彫りだよなぁ。
弱い種族だから経験値もいっぱい入るって言われると、凄く説得力あるわ。
「ご主人様のように、浸透具合を視覚的に見ることが出来る人がいれば検証も進むのでしょうけれど……。現状はそんなの気のせいだと一蹴されてしまっていますねぇ」
明確な根拠が示せなければ印象の域を出ないかぁ。
でも俺のレベルアップがニーナやティムルより早いのは間違いない。特に俺とニーナはステイルークを出てから殆ど同時に職業の育成を始めたわけだからね。
レベルアップが早い理由が人間族の種族適正だったと考えると、思ったよりも納得するなぁ。
この世界においては、間違いなく種族的に劣っている人間族。でも職業の成長が早いのであれば、長期的にはメリットも多い。
……なるほど、バランスが取れているのかもしれない。
フラッタへのよしよしなでなでは既にニーナが担当しているので、結構重要っぽい情報を教えてくれたティムルには、俺からよしよしなでなでしてあげよう。
撫でられたティムルは、くすぐったそうに笑ってくれるのだった。
「今回はとにかく速度重視だ。可能な限り奥に進もう」
分かっていますと力強く頷いてくれるニーナたち。頼もしいな。
今回の遠征はとにかく先に進む事を優先する予定だ。
「全員の火力も上がってるし、フラッタが加わったことで戦力向上は著しいはずだ。フラッタも俺たちに遠慮せず、魔物を倒して先に進む事を優先してくれ」
「任せるが良いのじゃっ。この剣に見合った働きは約束するのじゃっ」
嬉しそうに大剣を掲げてみせるフラッタ。
その細い体でバスタードソードを片手で軽々と持ち上げるんだからびっくりしちゃうよ。
今回から4人になったし、フラッタというスーパーロボット級の戦力が投入された事で殲滅力も格段に上がっている。戦闘時間の大幅な短縮が期待できるはずだ。
ただ急ぐ理由は殲滅力が上がったからだけではない。
メンバーが4人になり、更には今回から4つ同時に携帯している魔玉を2セット光らせる事が可能かどうかを確かめたいのだ。
1度の遠征で魔玉8個、40万リーフを手に出来たとしたら……。俺達の資金稼ぎが一気に進む。是非とも狙っていきたいねっ。
往路でニーナの射手も恐らく浸透させることが出来るはず。ニーナとティムルのダブル豪商なら、決して不可能ではないと信じたい。
ポイントフラッタを通り過ぎる。
魔物を殲滅しながらでも、今なら1日とかからず到達してしまえる範囲。こんな場所に来る為に、俺たちは丸2日もかけていた時もあったんだ。
うん。ちゃんと強くなっている。
ポイントフラッタにフラッタと一緒に到達したことで、前々から気になっていた事を思い出した。せっかくなので聞いてみよう。
「そう言えばフラッタって、初めて会ったときはどこからスポットに入ったの? ここって完全にマグエル側だけど、マグエルから入ったわけじゃないんだよね?」
「ふふ、懐かしいのぅ。ダンとニーナに初めて会ったあの日は、妾の最高の思い出の日なのじゃっ! あの時のダンはかっこ良かったのじゃぁ……。ニーナもお腹いっぱい食べさせてくれたのじゃぁ……」
バスタードソードを振り回しながら満面の笑顔を向けるのは怖すぎるからね? でもその笑顔でニーナはノックアウトされてしまたようだ。
……もうニーナはフラッタがなにしてもノックアウトされそうだな。
つうかフラッタ、質問に答えろっての。
「あの時は確か、北のナビネールからスポットに入ったのじゃ。兄上を探して走り回っておったのじゃが、今考えると馬鹿馬鹿しいほどに無謀であったのぅ……」
当時の行動を振り返り、無謀だったとちょっとだけしょげた様子のフラッタ。
え、北から入って東側のマグエル付近に、丸3日で到達してんのコイツ? 移動速度やばくない?
俺達の移動速度でスポットの中心まで、大体15日かかるとするわけじゃん?
東のマグエルと北のナビネールから中心までのそれぞれの距離は恐らくイコールではないと思うけど、ここは同じ距離だと仮定して、どっちからも15日かかるとする。
中心から見て真北と真東に街があるなんてありえないけど、とりあえずマグエルとナビネール、そしてスポットの中心をそれぞれ直角二等辺三角形だと定義した場合、斜辺の求め方は15日×√2。
√2はひとよひとよだから、大体1.4なわけだ。でも計算が面倒なので1.5倍とすると、21日~23日くらいの距離があるわけだよ。
勿論現実には二等辺三角形でもなければ、フラッタも真っ直ぐ斜辺を移動したわけじゃないんだろうけど、たった3日で俺達の移動速度の7倍以上の距離を移動している計算にならない?
戦闘職を浸透させまくってる補正も凄いんだろうけど、こいつの補正には持久力上昇が1つもないんだよな。敏捷性上昇で移動速度に補正はかかってる可能性はあるけどさ。
えぇ……、竜人族って頭おかしくない……? 持久力補正無しで丸三日、高速で移動しながら戦い続けてスポット内で生き延びてるんだよ? 種族的な身体能力、高すぎでしょ……。
あ~、こりゃあ人間族が馬鹿にされるはずだわぁ。生物としての性能が違いすぎる……。
「どうかしたかの? 妾の顔見詰めたりして」
竜人族の凄さに感心していると、ついついフラッタを見詰めすぎてしまっていたようだ。
俺の視線に気付いたフラッタが首を傾げて聞いてきた。
「も、勿論見られるのは吝かではないがの? でもあんまり見詰められると照れるのじゃぁ……」
と思ったら赤くなってモジモジしだしたぞ? お前くらい可愛かったらとりあえず見詰めちゃうわ。
ああっと、そういえば飛竜の靴には持久力補正付いてたんだっけか? いやそれにしたって凄すぎるよなぁ。
「あの日、俺たちと出会うまで生き延びてくれたフラッタは本当に凄いなって思ってさ。ありがとうフラッタ。生き延びてくれて。おかげで大好きなフラッタと今こうして一緒に居られるよ」
「い、いきなり何を言い出すのじゃっ!? れ、礼を言うのはこちらの方に決まっておろう! ダン、ニーナ。あの日妾を助けてくれて、本当にありがとうなのじゃっ」
ニコニコのフラッタをニーナと一緒によしよしなでなでする。
水と食料があったら、フラッタって普通にあの時も切り抜けてたっぽいね。そうなってたら俺の女にはなってもらえなかっただろうなぁ。
……本当に偶然だったのか、どうしても疑ってしまうよ。フラッタの存在は、まるで俺の為に誂えたかのようなんだよなぁ。
まぁ今はフラッタとの出会いに素直に感謝しておこう。よしよしなでなで。
フラッタとの出会いをティムルに話しながら、スポットの奥へと歩を進めた。
「お、おおお……っ! どんどん広がっていくのが分かるのじゃぁ……。こんなの、こんなの知らなかったのじゃあっ……!」
フラッタが感動した様子で喜びの声を上げている。
はい、もちろんインベントリの話です。
旅人のレベル上昇はインベントリのおかげで分かりやすいからね。戦闘職縛りで転職させられていたフラッタにとって、インベントリは分かりやすく体感できる成長の証だ。
インベントリが広がる度に、とても楽しそうに毎度限界までドロップアイテムを詰め込んでいる。
4人になって魔玉も4つになってるけど、順調にレベルアップしてる気がするな。魔玉8個も普通に狙って良さそうだ。
遠征3日目の昼頃、俺の短剣使いがLV30に到達。好色家をLV4にした後に、予定通り武道家に設定。
ニーナの射手は28、ティムルの豪商は7、フラッタの旅人は11だ。射手の最大レベルはまだ不明だけど、同じ派生職の剣士がLV30なんだから射手もLV30でカンストだと信じたい。
射手と豪商に比べて、フラッタの旅人は順調に成長している。既に最大サイズのインベントリが1つ使えるので、もう運搬役としても役立ってくれている。
フラッタの旅人を参考にするなら、俺のレベルアップが早いのはニーナとティムルと比べて弱い職業を育成しているからなんだろうか?
何気にこれで、村人、旅人、戦士、商人、行商人、剣士、短剣使いと、7つもの職業を浸透させてしまった。フラッタよりも浸透職の数だけなら多いんだよなぁ。
やっぱチートだね。鑑定に職業設定。
遠征4日目の夜、とうとうニーナの射手がLV30に到達した。
きましたわーっ! これで豪商2人になって、魔玉の発光が更に捗るはずっ!
迷わずニーナの職業を豪商に変更!
豪商LV1
補正 体力上昇- 持久力上昇- 幸運上昇 装備品強度上昇-
スキル 魔玉発光促進 インベントリ
ニーナに体を動かすのに違和感がないかを聞いてみる。浸透に失敗して身体操作性上昇が切れてたら違和感があるはずだ。
「いえ、特に問題ないようです。間違いなく浸透しているようですね」
ダガーを振ったりストレッチをしているニーナだけど、どうやら問題ないみたいだ。射手の最大レベルはLV30で間違いないらしい。
まぁ疑ってはいなかったけどね。射手LV30で新しい職業が出てたから。
狩人LV1
補正 体力上昇 魔力上昇- 持久力上昇 身体操作性上昇
幸運上昇 装備品強度上昇
スキル 生体察知
射手の上位職っぽくて、生体察知にはかなり興味を惹かれる。だけどまずは心を鬼にして、豪商に集中してもらう。
「これで私も豪商ですね。魔玉の発光も促進されますし、インベントリも追加されますし、ブルーメタルダガーの威力も上がりますし、良いことばかりですねっ」
ニーナも豪商の育成にやる気を見せてくれているし、フラッタとリーチェを新たに迎えたことで今までの収入では生活は厳しくなってしまったからな。今は少しでもお金を稼ぎたい。
遠征5日目。前回最後に到達したのはこの辺りだったと思う。
フラッタの加入で丸1日分移動ペースが速まったらしい。凄まじいとしか言えないなぁ。
さぁここからは未知の領域だ。いくらフラッタがいるとはいえ、油断せずに行こう。
フラッタがマジで無双状態なので、6日目の夜になっても無双してそうではあるけど。
そんなことを思っていたのに、5日目の夜に魔玉が光ってしまった。
「まさか6日目を迎える前に、4つとも光っちゃうとはねぇ……。順調すぎて、ちょっとビビってるかな」
いや素晴らしいことなんだよ。素晴らしいことなんだけど順調すぎて怖いんだよ。
「順調ですし、順当でもあると思いますよ。魔物の殲滅量は前回よりも更に多いですし、私も豪商になりましたからね。当然の結果かと」
「ええ。フラッタちゃんの加入も大きいですけど、私たちも全員攻撃力が上がってますしね」
だけどビビっているのは俺だけで、ニーナとティムルは当然の結果ですよと説明してくれる。
「というかご主人様の攻撃力と攻撃速度がめちゃくちゃ上がってますよ? フラッタちゃんが加入してなくても、往路で魔玉光ってたんじゃないですかね?」
「ティムルの言う通りなのじゃ。戦闘への集中力が変わったように思うのじゃ。決闘をしたことでなにか意識が変わったかのぅ? 無論、職業の浸透が順調に進んでいるという事も大きいと思うがのぅ」
ティムルとフラッタが褒めてくれるのは嬉しいけど、前回と比べてそんなに変わってるのかな?
あ、短剣使いが浸透して武道家も育成が進んで、敏捷性上昇が累積して作用してるからか?
そしてフラッタが浸透させてある、騎士のスキルの全体補正上昇。もしかしたらこれも効いてるのかもしれないなぁ。
ん? やっぱり全部フラッタが加入してくれたおかげじゃね? ありがとうフラッタ。よしよしなでなで。
この辺りからだんだん人型の魔物も増えてきた。
狼男にしか見えないマンウルフ、ナイスバディだけど顔が猫のウーマンキャット。
人の体と足、腕は翼で顔は鶏のチキンジョージ。
岩で出来た体を持ち、めちゃくちゃアグレッシブに攻撃してくるゴーゴーレム等々。
人と獣の特徴を持った相手を獣人と言ってしまいそうになるけれど、人型魔物を獣人と呼ぶのはタブーらしい。
獣にもなれる人という意味で獣人族。人型の獣という意味で魔物のほうは人獣と呼ばれるらしい。ややこしいな?
獣のような身体能力、人のような挙動など、人獣型の魔物は結構手強い感じだ。
ゴーゴーレムは岩で出来ているくせに、めちゃくちゃ俊敏に動き回る。攻撃力も防御力も非常に高く、スポットで遭遇した魔物の中では間違いなく最強だった。
俺は普通に切り裂けたんだけど、ニーナとティムルがゴーゴーレムに切りかかってもあまり有効打にはならなかったようだ。
俺と2人の攻撃系の補正の数は結構差があるもんなぁ。
「ふむ。人獣とも問題なく戦えるようじゃな。特にダンはゴーゴーレムを切り裂けるのは誇って良いのじゃ」
いやそんな、1撃で両断してる人に言われても……。
しっかしフラッタヤバイな。なにがやばいって、戦闘力以上にスタミナがやばい。旅人の持久力補正のせいなのか、まったく疲労の色が見えない。竜人族マジやばい。
こりゃ確かに、短命でもお釣りが来るほどのスペックだわなぁ。
「しかしダンは凄いのじゃ。こんなに職業の浸透が早く進むなど信じられないのじゃ」
改めてフラッタのスペックに感心していると、フラッタはフラッタで事ある毎に俺の事を褒めてくれる。
なんでお前ってそんなに強いのに素直に人のこと褒めれるの? 完璧超人なの?
「妾たちルーナ家が1年に1度しか転職しないのは、確実に浸透を成功させる為。つまり普通は浸透にそのくらいの期間を想定するはずなのじゃが……」
ふぅむ。フラッタから見ても、俺の浸透速度は異常なのか。
でもフラッタが言ってる浸透速度って、結局は鑑定が使えない状態での手探りでのペースだからなぁ。俺の浸透が異常に早いという証明にはならなくない?
「ダンの動きは目に見えて良くなっておるし、妾のインベントリも急速に広がっておるのじゃ。ダンは本当に凄いのじゃ」
「浸透が早いのは俺の力じゃないって。俺の力は鑑定と職業設定だけだよ。浸透が早いのは、みんなのおかげで殲滅が早いからじゃないかなぁ」
俺達は全員が戦闘職を浸透させてるからね。パーティ人数以上に殲滅力は高いはずだ。
もしそれ以外の要素があるとしたら……。転移ボーナスで隠れチートとか貰ってたり? 経験値取得ボーナスとか?
真相は分からないけれど、いくら鑑定と職業設定があるとはいえ、フラッタが5年で5つしか浸透が進んでいないのに、俺は約半年ほどで7つもの職を浸透させることに成功しているんだよな。
これが鑑定と職業設定の賜物なのは間違いないが、確かに言われてみれば早すぎるのかもしれない?
「……ああ。ご主人様、もしかしてそれって人間族の特性なのかもしれません」
「へ? 人間族の、特性?」
思い出したかのように、ティムルが説明をしてくれる。
「以前ご主人様に種族についてお話したとき、人間族の種族特性は諸説あって、でも明確な根拠が示されている説は無いとお話したじゃないですか。その中の1つに、人間族は職業の成長が早い、という説があるんです」
人間族は職業の成長が早い? クソザコ人間族さんもとうとう陽の目を浴びる時が来たっ!?
「ただ明確な根拠があるわけではなく、なんとなく人間族は成長が早いのでは? 程度の話なのですけどね。もしかしたら?」
ええ? もしそれが本当だとしたら、検証されてないのはおかしいんじゃ……? だってそれって、この世界ではめちゃくちゃアドバンテージになりえるのに。
「強敵と戦うほどに職業の成長も早まりますからね。人間族は他の種族と比べて身体能力が低い為、同じ魔物と戦っても得られる経験が濃いのではないのか、みたいな話ですかね」
確かに竜人族のスペックを意識した今だと、人間族の脆弱さは浮き彫りだよなぁ。
弱い種族だから経験値もいっぱい入るって言われると、凄く説得力あるわ。
「ご主人様のように、浸透具合を視覚的に見ることが出来る人がいれば検証も進むのでしょうけれど……。現状はそんなの気のせいだと一蹴されてしまっていますねぇ」
明確な根拠が示せなければ印象の域を出ないかぁ。
でも俺のレベルアップがニーナやティムルより早いのは間違いない。特に俺とニーナはステイルークを出てから殆ど同時に職業の育成を始めたわけだからね。
レベルアップが早い理由が人間族の種族適正だったと考えると、思ったよりも納得するなぁ。
この世界においては、間違いなく種族的に劣っている人間族。でも職業の成長が早いのであれば、長期的にはメリットも多い。
……なるほど、バランスが取れているのかもしれない。
フラッタへのよしよしなでなでは既にニーナが担当しているので、結構重要っぽい情報を教えてくれたティムルには、俺からよしよしなでなでしてあげよう。
撫でられたティムルは、くすぐったそうに笑ってくれるのだった。
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仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
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一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
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