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1章 巡り会い2 囚われの行商人
054 告解 (改)
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やんややんやと騒がしい時間も終わりを告げ、間もなく1日が終わるという時間帯。
「ご主人様。ティムル。今日は2人でお休みください。私はリーチェと一緒に休みますので」
話も終わってさぁこれから寝るぞというタイミングで、ニーナからまさかの発言。
ティムルと2人で過ごせって? えっと、どういう意図の発言なんだ? 怒ってる感じもしないぞ?
「ニーナ。理由を聞かせてもらえる?」
「はい。ティムルはご主人様の奴隷となりましたけど、今夜くらいは立場を忘れて過ごしてもらうのも良いのではないかなって。それにご主人様だって、いきなり複数人でと言われても困るでしょう?」
あまりにも明け透けなニーナの言葉に一瞬思考が停止する。
……うん、困るね。ぶっちゃけちょっと楽しみでもあったけどね?
残念なような安心したような複雑な想いでいる俺に構わず、ニーナがティムルに向き直る。
「ティムル。今晩だけは譲ってあげるね。明日からは2人っきりになんてさせてあげないからっ」
あえての素の口調か。
これは奴隷としてではなく、1人の女性としてティムルに伝える言葉なんだ。
「だから、今日だけは貴女だけのダンだよ。遠慮したり気を使ったり、そんなの要らないからね?」
……今晩だけは、俺とティムルを2人きりで過ごさせてくれるってことね。
ニーナにはいつも世話になってばかりだねぇ。
「2人ともおやすみなさい。リーチェ、今日は一緒に寝ようね。旅の話とか、良かったら聞かせて?」
「えっと、話が見えないんだけど? っとと、引っ張らないで、自分で歩くってば。あ、おやすみいいい!」
言いたいことを言い終えたニーナは、一方的にお休みを告げてリーチェと共に地下に消えた。英雄らしい翠の姫エルフリーチェはニーナに引き摺られて無様に退場していった。
この家のパワーバランスがたった今決定した。ニーナさんが頂点に君臨なされた模様。
「……遠慮したのも気を遣ってるのも貴女じゃないのよ、まったく。私の半分しか生きてないくせに、敵わないなぁもう」
「うちで最強はニーナだからね。俺もニーナには頭が上がらないよ」
そして取り残されてしまった者同士、ティムルと顔を見合わせる。
「それじゃここでつっ立ってても仕方ないし、寝室に行こうかティムル。詰め所での続き、させてもらうから」
「……そうね。せっかくニーナちゃんがああ言ってくれたのに、このままこうしているわけにはいかないわよね」
ティムルの手を取り寝室へ向かう。
2人でベッドに上がり、寝室の窓から差し込む月明かりを頼りに、ティムルを1枚1枚脱がせていく。
「なんだか、調子が狂っちゃうわ……。こんなに優しく扱われたことなかったから……」
「悪いね。宝物をそんなに乱雑には扱えないんだよ俺は」
月明かりに、ティムルの黒い肢体が浮かぶ。
黒人と言ってもいいくらいの黒さだ。茶色の髪が背中でサラサラ揺れている。
胸はニーナよりも大きくムーリさんより小さいくらい……。いやこれ、0と100の間くらいって例えかな? 大きいとまではいかないけれど、女性としての魅力を感じるに充分な大きさをしている。
……いや、世間一般的には充分巨乳の部類に入るのかな? リーチェとムーリさんのせいで基準がバグってる模様。
そしてその先端は体よりもひと際色が濃くて、思わず生唾を飲み込みながら凝視してしまった。
要はティムルが美しすぎて、さっきから興奮しまくりなのですよっ。
その興奮に逆らわず、ティムルを抱き寄せ唇を重ねる。
「ん……、ふぅ、ん……」
始まりはいつも口付けから。漏れ出すティムルの吐息にまた興奮してしまう。
興奮で色々はちきれそうだけど、宝物として扱うと言った手前、脳が焼ききれそうな想いをしながら理性を働かせる。全身の感触を確かめるように、優しい手付きでティムルの全身をなぞる。
ティムルのリアクションも良くて、いちいち色んな反応を探して色々試してしまった。楽しい。
長い時間をかけてティムルの体を調査し尽くした。
よろしい、それではここからが本番だ、と意気込んでいると、ティムルの様子がおかしいことに気付く。震えているのか?
「どうしたのティムル? だいじょうぶ?」
「だ、大丈夫。違う、これは違うのっ。こんなのっ、こんな、なんで……!?」
ティムルは小刻みに震えながら、先ほどまではと別の意味で汗びっしょりだ。
表情は月明かりの中でも分かるほどに青褪めていて、これはどう見ても大丈夫ではないね。
このまま続けるわけには行かないと、1度ティムルの上から移動する。
「ま、待ってっ! ダン、お願い! 大丈夫っ、大丈夫だから、だからっ……!」
俺の移動を別の意味に捉えたティムルは、悲壮感すら漂わせて追い縋ってくる。なのに体は上手く動かず、起き上がることさえ出来ないみたいだ。
仰向けのティムルの右横に座り、左手で頭を撫でながら、俺の方に必死に伸ばそうとしている右手を握る。
「ティムル落ち着いて? 大丈夫だから、は俺のセリフだよ。心配ないからまずは落ち着こう? 心配ない。何も心配ないよ……」
震える彼女を撫で続ける。
今が夏で良かった。全裸でこの状態で放置は風邪を引きそうだ。
「ごめんっ。ごめんなさい……! なんで、私こんなっ。ダン、ごめん、ごめんなさいっ」
「うん。聞いてるよ。大丈夫だから全部出していいよ。大丈夫。絶対離さないから心配ないよ」
泣きながら取り乱し続けるティムルにただ寄り添って、安心してもらえるように彼女の言葉を受けとめる。
彼女は望まぬ相手に買われ、長い間一方的に抱かれ続けていたんだもんなぁ。自分で選んだ仕事ならまだ割り切りも出来ただろうけど、ティムルには他に選択肢はなかったわけだ。
ずっと好き勝手扱われて、それでも抵抗できない日々を送ってきたんだ。傷ついてないはず、無かったね。
ひゃっほぅ! ティムルは俺のもんだぜぇ! くらいにしか考えてなかった俺……。クソ野郎だったね、うん。
ティムルの体の震えが止まり、最早流す涙も無くなったようなので、ベッドのふちに腰を下ろし、俺の足の上にティムルを横抱きに座らせる。
ニーナと比べるとやはりティムルは大きいと思う。あ、女性を比べるなんて最低かな俺。でも膝から伝わるティムルのおしりの感触が気持ちいい。
スレンダーなのに安産型? 俺達の間に子供が出来る事はないけれど。
「ごめんなさい。ダンに恥をかかせてしまって。本当にごめんなさい。私、本当にダンが好きなの。ダンに抱いてもらうの、本当に楽しみにしてた。嘘じゃないの。信じてもら……」
「大丈夫。ティムルの想いを疑ったりしないよ。恥なんてかいてないから。ティムルは何にも心配しなくていいんだよ」
謝罪の言葉なんて聞きたくなかったので、ティムルの言葉を遮って語りかける。
「ティムル。まずは俺の事は気にしなくていい。自分のほうに意識を向けてみて。ティムルの心と体、今ちょっと上手くいってないんだよ」
俺の膝の上で、ティムルは小さく縮こまってしまっている。
きっと自分の体になにが起こっているのか本当に分からないんだろう。
「俺に抱かれたいって気持ちと、男に抱かれたくないって体が喧嘩しちゃってるんだ。だからまずは落ち着いて、なんで心と体が喧嘩しちゃってるのか探してみて?」
俺の膝の上で横向きに膝を抱えたティムルを、割れ物だと思って俺の体で包装する。
震える体が壊れないように。
傷だらけの心を壊さないように。
俺の腕の中で小さくなったままのティムルは、やがて独り言のようにぽつりぽつりと話し始めた。
「……15で買われて、毎日のようにあのジジイの玩具にされて。毎日辛かった。生きていくにはこれしかなくて、だから我慢するしかないんだって、いつの間にか慣れちゃったけど、本当はいつも辛かった」
「うん、それで?」
「ジジイは私を玩具にするのに、いつも私を見てないの。私をただ自分の欲情のための道具だとしか見てなくて……」
ティムルが語っているのが、この世界の奴隷の一般的な扱いなのか……。
野盗に襲われた時、2人を助けられて本当に良かった。
「壊れても構わないと思われてたのか、随分乱暴に扱われたわ。ジジイの前で、複数人の相手をさせられたり……」
「……うん。大丈夫」
本当は全然大丈夫じゃない。胃がきりきりするし、脳が破壊されそう。元カノ、元カレの話は厳禁ですね。
人は過去に縛られてはいけない。
大切なのは今だ。今俺の腕の中で震えるティムルこそが大切だ。
「20の時にジジイに愛想尽かされてね。あのジジイ、10代の娘しか興味ないの。だからもう、他の男に抱かれるのすら許されたわ」
人の趣味嗜好に口を出す気はないけど……、他の男に抱かれるのさえ許されるぅ……?
そんな状態で婚姻を結んでいたのが信じられない。
ステータスプレート、誤魔化しがきかないんじゃなかったの?
「捨てられたすぐの時は自棄になっちゃってね。色んな男に抱かれたわ。キャリア様に拾ってもらうまでね。本当に、馬鹿だった……」
………………頑張れ俺っ! 過去の話、過去の話だからなぁっ!
ふーむ、過去の話だと分かっていても気分の良いものじゃないねぇ。
でもここで俺が取り乱したら、ティムルは生涯これを引き摺ったまま生きていくことになる。
聞いてるだけの俺ですら気分が悪いのに、それを実際に体験したティムルの苦痛を思えば、俺が音を上げるわけにはいかないっての。
「それから?」
「キャリア様に拾ってもらってからは、ずっと商人としての勉強の日々だったわ。それからは男に抱かれるのもやめたの。子供は出来なくても、病気になるかもしれないからって」
どうやらエロ方面のパートは終了したようだ。
誰か知らないけど、ティムルにエロに潜む危険性を教えた人、ナイスゥ!
「それに男女の情は、商人にとって武器にも毒にもなる。使いこなす自信がないなら止めておけってね」
男女の情を使いこなす自信、かぁ。
ティムルにエロの危険性を説いた人は、男女の情まで商人の武器として使いこなしていた人なのかもしれない。
「商人として成長して、色々重要な場面で頼られるようになって。ここマグエルのシュパイン商会本店舗を任されるようになって。商人としての日々にやり甲斐は感じていたの」
少しだけティムルの声の調子が上向いた気がする。
やっぱり、商売自体は嫌いじゃなかったのかな。うちに来る前のティムルの笑顔全てが嘘だったなんて、流石に思いたくない。
「だけど……。見ちゃったのよねぇ、貴方とニーナちゃんの姿をさぁ」
「俺とニーナ? アッチンの前の野営地でだっけ」
俺の腕の中で小さく頷くティムル。
俺とニーナは殆ど余裕がなくて、アッチンの宿で声をかけられるまではティムルのことなんて思い出しもしなかったけど。
「私と同じ、若くして奴隷に落ちたらしいニーナちゃんの姿を見て。ボロボロになってニーナちゃんを守るダンを見て。私とあの2人はいったいなにが違うんだろう……って、目が離せなくなったの」
俺達とティムルとの違い。
それはきっと、めぐり合わせの結果でしかないと思う。
「ニーナちゃんは戦えなくて、ダンはボロボロで。貴方達2人も私と同じで、この世界から沢山傷つけられてるように見えた。でも貴方達は、相手だけは世界から守り抜こうとしてるように見えた。寄り添って眠る姿に、確かにこの2人は幸せなんだと思わされちゃったのよねぇ」
腕の中でもぞもぞと動く気配。
ティムルは顔を上げて、俺と目を合わせる。
「私、ニーナちゃんになりたかったの。ニーナちゃんが羨ましくて、妬ましくて堪らなかった。私と同じ奴隷なのに、なんで貴女は幸せなのって」
ニーナとティムル。
どちらの方がより不幸だったかなんて、比べる意味もない。
2人が出会った時に、ニーナは幸せだった。2人の違いは、きっとそれだけだ。
「どうして貴女だけ。私は幸せになれなかったのにって。ずるいずるいずるいって。だったらせめて、私も貴方達と同じ世界を生きたいって。そう思ったの」
「……そっか。ま、幸せだったのは認めるよ。あの辺りは1番辛かったけどさ」
ティムルは膝を抱えるのをやめて、両腕を俺の背中に回してしがみつく。その腕からはもう震えは感じられない。
「ニーナちゃんが羨ましくて、2人の世界に一緒に居たくて。でもいざダンに抱かれるって思ったら、こんなに薄汚れた私が2人の世界に入る事が怖くなった……」
また微かに震え始めるティムルの声。
俺達の前では楽しそうにしてたのになぁ。いつもニコニコした姿ばかり見せてくれていたってのになぁ。
「ジジイに何年も弄ばれて、何人の男に抱かれたか把握すらしていないような私が2人に近付いたら、2人だけで完結してた幸せな世界を壊してしまうんじゃないかって。そう思ったら震えが止まらなくなって……」
ティムル。それは違うんだよ。
あの時の俺たちは、確かに2人だけで完結していた世界だった。だけどそれは2人だけだったから幸せだったわけじゃないんだ。
お前との夕食も、教会のみんなとの関わりも出来て、俺とニーナはもっともっと幸せになれたんだよ。
「ふむ。確かにティムルの過去の話はあんまり気分のいい話じゃなかったのは認めるし、ティムルが他の男に抱かれたことに対して、思うところがないでもないんだけどさぁ……」
ティムル。うちには上書きとか取り立てとか、変なルールがいっぱいあるんだ。
例えばティムルが過去に弄ばれた回数以上に俺が抱きまくって、ティムルの体から俺以外の男の記憶を上書きしてやろうとか。
ティムルが俺以外の男に抱かれた回数分を、これから先ずっと取り立て続けるとか。
まぁそんな感じでさ。
「薄汚いどころか……。ずっとお前のことを抱きたいと思って我慢してるんだよ、ティムル」
ティムルを抱きしめる腕に力を込める。
俺とニーナの幸せには、もうお前がいなくっちゃダメなんだよ。
「え、えと? ダン……?」
薄汚れたとか過去の話とか、そんなのはどうでも良くって、俺はもうお前を抱きたくて仕方ないんだよ。今だってお預けくらって、お前を押し倒すの必死に我慢してるんだよ。
「俺とニーナのこととか、お前は気にしなくていいんだ。ニーナも遠慮するなって言ってたろ? 俺もニーナも、ティムルなんかに関係なく幸せになるからさ。ティムルも俺やニーナの事なんか気にせず、自分の幸せに正直になればいい」
俺も自分の気持ちに正直になるから、もうそろそろ押し倒させてもらう。
牢屋越しにキスしてから俺はずっと我慢してたんだよっ!
「ティムル。過去もニーナもこの先の事も、今は全部忘れて俺だけを見ろ。ティムルはもう俺の女だ。だからお前も俺だけを見ればっ、いいんだよっ」
「きゃっ。ダ、ダン、ちょっと、ちょっと待っ……」
ティムルをベッドに押し倒す。
押し倒したティムルの体に震えはない。顔色もいい。なにより表情がいい。
……この先を期待してくれているような、最高の表情。
「お前、ニーナになりたいって言ったよな? その言葉、確かに聞き届けたぞ。俺とニーナが毎日どんな事をしてるのか、今夜は徹底的に思い知らせてやるからなぁっ」
お前が憧れたニーナと同じくらいに。
お前と出会ってあの頃よりももっと幸せになれた俺達と同じくらいに。
ティムルのことも、絶対に幸せにしてみせるから。
「余計なことなんか考えられないくらい、もう俺のことしか考えられないくらいに、ドロッドロに甘やかしてやる」
覚悟しやがれティムルっ! 上書きだぁっ! 消毒だぁっ! マーキングだぁっ!
過去の男? 知るか! もうこの女は俺のもんだ! 絶対に誰にも渡さない!
ティムル。俺がもうお前無しじゃ生きていけないように、お前もこの先、俺無しで生きられると思うなよぉ?
「ご主人様。ティムル。今日は2人でお休みください。私はリーチェと一緒に休みますので」
話も終わってさぁこれから寝るぞというタイミングで、ニーナからまさかの発言。
ティムルと2人で過ごせって? えっと、どういう意図の発言なんだ? 怒ってる感じもしないぞ?
「ニーナ。理由を聞かせてもらえる?」
「はい。ティムルはご主人様の奴隷となりましたけど、今夜くらいは立場を忘れて過ごしてもらうのも良いのではないかなって。それにご主人様だって、いきなり複数人でと言われても困るでしょう?」
あまりにも明け透けなニーナの言葉に一瞬思考が停止する。
……うん、困るね。ぶっちゃけちょっと楽しみでもあったけどね?
残念なような安心したような複雑な想いでいる俺に構わず、ニーナがティムルに向き直る。
「ティムル。今晩だけは譲ってあげるね。明日からは2人っきりになんてさせてあげないからっ」
あえての素の口調か。
これは奴隷としてではなく、1人の女性としてティムルに伝える言葉なんだ。
「だから、今日だけは貴女だけのダンだよ。遠慮したり気を使ったり、そんなの要らないからね?」
……今晩だけは、俺とティムルを2人きりで過ごさせてくれるってことね。
ニーナにはいつも世話になってばかりだねぇ。
「2人ともおやすみなさい。リーチェ、今日は一緒に寝ようね。旅の話とか、良かったら聞かせて?」
「えっと、話が見えないんだけど? っとと、引っ張らないで、自分で歩くってば。あ、おやすみいいい!」
言いたいことを言い終えたニーナは、一方的にお休みを告げてリーチェと共に地下に消えた。英雄らしい翠の姫エルフリーチェはニーナに引き摺られて無様に退場していった。
この家のパワーバランスがたった今決定した。ニーナさんが頂点に君臨なされた模様。
「……遠慮したのも気を遣ってるのも貴女じゃないのよ、まったく。私の半分しか生きてないくせに、敵わないなぁもう」
「うちで最強はニーナだからね。俺もニーナには頭が上がらないよ」
そして取り残されてしまった者同士、ティムルと顔を見合わせる。
「それじゃここでつっ立ってても仕方ないし、寝室に行こうかティムル。詰め所での続き、させてもらうから」
「……そうね。せっかくニーナちゃんがああ言ってくれたのに、このままこうしているわけにはいかないわよね」
ティムルの手を取り寝室へ向かう。
2人でベッドに上がり、寝室の窓から差し込む月明かりを頼りに、ティムルを1枚1枚脱がせていく。
「なんだか、調子が狂っちゃうわ……。こんなに優しく扱われたことなかったから……」
「悪いね。宝物をそんなに乱雑には扱えないんだよ俺は」
月明かりに、ティムルの黒い肢体が浮かぶ。
黒人と言ってもいいくらいの黒さだ。茶色の髪が背中でサラサラ揺れている。
胸はニーナよりも大きくムーリさんより小さいくらい……。いやこれ、0と100の間くらいって例えかな? 大きいとまではいかないけれど、女性としての魅力を感じるに充分な大きさをしている。
……いや、世間一般的には充分巨乳の部類に入るのかな? リーチェとムーリさんのせいで基準がバグってる模様。
そしてその先端は体よりもひと際色が濃くて、思わず生唾を飲み込みながら凝視してしまった。
要はティムルが美しすぎて、さっきから興奮しまくりなのですよっ。
その興奮に逆らわず、ティムルを抱き寄せ唇を重ねる。
「ん……、ふぅ、ん……」
始まりはいつも口付けから。漏れ出すティムルの吐息にまた興奮してしまう。
興奮で色々はちきれそうだけど、宝物として扱うと言った手前、脳が焼ききれそうな想いをしながら理性を働かせる。全身の感触を確かめるように、優しい手付きでティムルの全身をなぞる。
ティムルのリアクションも良くて、いちいち色んな反応を探して色々試してしまった。楽しい。
長い時間をかけてティムルの体を調査し尽くした。
よろしい、それではここからが本番だ、と意気込んでいると、ティムルの様子がおかしいことに気付く。震えているのか?
「どうしたのティムル? だいじょうぶ?」
「だ、大丈夫。違う、これは違うのっ。こんなのっ、こんな、なんで……!?」
ティムルは小刻みに震えながら、先ほどまではと別の意味で汗びっしょりだ。
表情は月明かりの中でも分かるほどに青褪めていて、これはどう見ても大丈夫ではないね。
このまま続けるわけには行かないと、1度ティムルの上から移動する。
「ま、待ってっ! ダン、お願い! 大丈夫っ、大丈夫だから、だからっ……!」
俺の移動を別の意味に捉えたティムルは、悲壮感すら漂わせて追い縋ってくる。なのに体は上手く動かず、起き上がることさえ出来ないみたいだ。
仰向けのティムルの右横に座り、左手で頭を撫でながら、俺の方に必死に伸ばそうとしている右手を握る。
「ティムル落ち着いて? 大丈夫だから、は俺のセリフだよ。心配ないからまずは落ち着こう? 心配ない。何も心配ないよ……」
震える彼女を撫で続ける。
今が夏で良かった。全裸でこの状態で放置は風邪を引きそうだ。
「ごめんっ。ごめんなさい……! なんで、私こんなっ。ダン、ごめん、ごめんなさいっ」
「うん。聞いてるよ。大丈夫だから全部出していいよ。大丈夫。絶対離さないから心配ないよ」
泣きながら取り乱し続けるティムルにただ寄り添って、安心してもらえるように彼女の言葉を受けとめる。
彼女は望まぬ相手に買われ、長い間一方的に抱かれ続けていたんだもんなぁ。自分で選んだ仕事ならまだ割り切りも出来ただろうけど、ティムルには他に選択肢はなかったわけだ。
ずっと好き勝手扱われて、それでも抵抗できない日々を送ってきたんだ。傷ついてないはず、無かったね。
ひゃっほぅ! ティムルは俺のもんだぜぇ! くらいにしか考えてなかった俺……。クソ野郎だったね、うん。
ティムルの体の震えが止まり、最早流す涙も無くなったようなので、ベッドのふちに腰を下ろし、俺の足の上にティムルを横抱きに座らせる。
ニーナと比べるとやはりティムルは大きいと思う。あ、女性を比べるなんて最低かな俺。でも膝から伝わるティムルのおしりの感触が気持ちいい。
スレンダーなのに安産型? 俺達の間に子供が出来る事はないけれど。
「ごめんなさい。ダンに恥をかかせてしまって。本当にごめんなさい。私、本当にダンが好きなの。ダンに抱いてもらうの、本当に楽しみにしてた。嘘じゃないの。信じてもら……」
「大丈夫。ティムルの想いを疑ったりしないよ。恥なんてかいてないから。ティムルは何にも心配しなくていいんだよ」
謝罪の言葉なんて聞きたくなかったので、ティムルの言葉を遮って語りかける。
「ティムル。まずは俺の事は気にしなくていい。自分のほうに意識を向けてみて。ティムルの心と体、今ちょっと上手くいってないんだよ」
俺の膝の上で、ティムルは小さく縮こまってしまっている。
きっと自分の体になにが起こっているのか本当に分からないんだろう。
「俺に抱かれたいって気持ちと、男に抱かれたくないって体が喧嘩しちゃってるんだ。だからまずは落ち着いて、なんで心と体が喧嘩しちゃってるのか探してみて?」
俺の膝の上で横向きに膝を抱えたティムルを、割れ物だと思って俺の体で包装する。
震える体が壊れないように。
傷だらけの心を壊さないように。
俺の腕の中で小さくなったままのティムルは、やがて独り言のようにぽつりぽつりと話し始めた。
「……15で買われて、毎日のようにあのジジイの玩具にされて。毎日辛かった。生きていくにはこれしかなくて、だから我慢するしかないんだって、いつの間にか慣れちゃったけど、本当はいつも辛かった」
「うん、それで?」
「ジジイは私を玩具にするのに、いつも私を見てないの。私をただ自分の欲情のための道具だとしか見てなくて……」
ティムルが語っているのが、この世界の奴隷の一般的な扱いなのか……。
野盗に襲われた時、2人を助けられて本当に良かった。
「壊れても構わないと思われてたのか、随分乱暴に扱われたわ。ジジイの前で、複数人の相手をさせられたり……」
「……うん。大丈夫」
本当は全然大丈夫じゃない。胃がきりきりするし、脳が破壊されそう。元カノ、元カレの話は厳禁ですね。
人は過去に縛られてはいけない。
大切なのは今だ。今俺の腕の中で震えるティムルこそが大切だ。
「20の時にジジイに愛想尽かされてね。あのジジイ、10代の娘しか興味ないの。だからもう、他の男に抱かれるのすら許されたわ」
人の趣味嗜好に口を出す気はないけど……、他の男に抱かれるのさえ許されるぅ……?
そんな状態で婚姻を結んでいたのが信じられない。
ステータスプレート、誤魔化しがきかないんじゃなかったの?
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………………頑張れ俺っ! 過去の話、過去の話だからなぁっ!
ふーむ、過去の話だと分かっていても気分の良いものじゃないねぇ。
でもここで俺が取り乱したら、ティムルは生涯これを引き摺ったまま生きていくことになる。
聞いてるだけの俺ですら気分が悪いのに、それを実際に体験したティムルの苦痛を思えば、俺が音を上げるわけにはいかないっての。
「それから?」
「キャリア様に拾ってもらってからは、ずっと商人としての勉強の日々だったわ。それからは男に抱かれるのもやめたの。子供は出来なくても、病気になるかもしれないからって」
どうやらエロ方面のパートは終了したようだ。
誰か知らないけど、ティムルにエロに潜む危険性を教えた人、ナイスゥ!
「それに男女の情は、商人にとって武器にも毒にもなる。使いこなす自信がないなら止めておけってね」
男女の情を使いこなす自信、かぁ。
ティムルにエロの危険性を説いた人は、男女の情まで商人の武器として使いこなしていた人なのかもしれない。
「商人として成長して、色々重要な場面で頼られるようになって。ここマグエルのシュパイン商会本店舗を任されるようになって。商人としての日々にやり甲斐は感じていたの」
少しだけティムルの声の調子が上向いた気がする。
やっぱり、商売自体は嫌いじゃなかったのかな。うちに来る前のティムルの笑顔全てが嘘だったなんて、流石に思いたくない。
「だけど……。見ちゃったのよねぇ、貴方とニーナちゃんの姿をさぁ」
「俺とニーナ? アッチンの前の野営地でだっけ」
俺の腕の中で小さく頷くティムル。
俺とニーナは殆ど余裕がなくて、アッチンの宿で声をかけられるまではティムルのことなんて思い出しもしなかったけど。
「私と同じ、若くして奴隷に落ちたらしいニーナちゃんの姿を見て。ボロボロになってニーナちゃんを守るダンを見て。私とあの2人はいったいなにが違うんだろう……って、目が離せなくなったの」
俺達とティムルとの違い。
それはきっと、めぐり合わせの結果でしかないと思う。
「ニーナちゃんは戦えなくて、ダンはボロボロで。貴方達2人も私と同じで、この世界から沢山傷つけられてるように見えた。でも貴方達は、相手だけは世界から守り抜こうとしてるように見えた。寄り添って眠る姿に、確かにこの2人は幸せなんだと思わされちゃったのよねぇ」
腕の中でもぞもぞと動く気配。
ティムルは顔を上げて、俺と目を合わせる。
「私、ニーナちゃんになりたかったの。ニーナちゃんが羨ましくて、妬ましくて堪らなかった。私と同じ奴隷なのに、なんで貴女は幸せなのって」
ニーナとティムル。
どちらの方がより不幸だったかなんて、比べる意味もない。
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「どうして貴女だけ。私は幸せになれなかったのにって。ずるいずるいずるいって。だったらせめて、私も貴方達と同じ世界を生きたいって。そう思ったの」
「……そっか。ま、幸せだったのは認めるよ。あの辺りは1番辛かったけどさ」
ティムルは膝を抱えるのをやめて、両腕を俺の背中に回してしがみつく。その腕からはもう震えは感じられない。
「ニーナちゃんが羨ましくて、2人の世界に一緒に居たくて。でもいざダンに抱かれるって思ったら、こんなに薄汚れた私が2人の世界に入る事が怖くなった……」
また微かに震え始めるティムルの声。
俺達の前では楽しそうにしてたのになぁ。いつもニコニコした姿ばかり見せてくれていたってのになぁ。
「ジジイに何年も弄ばれて、何人の男に抱かれたか把握すらしていないような私が2人に近付いたら、2人だけで完結してた幸せな世界を壊してしまうんじゃないかって。そう思ったら震えが止まらなくなって……」
ティムル。それは違うんだよ。
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「ふむ。確かにティムルの過去の話はあんまり気分のいい話じゃなかったのは認めるし、ティムルが他の男に抱かれたことに対して、思うところがないでもないんだけどさぁ……」
ティムル。うちには上書きとか取り立てとか、変なルールがいっぱいあるんだ。
例えばティムルが過去に弄ばれた回数以上に俺が抱きまくって、ティムルの体から俺以外の男の記憶を上書きしてやろうとか。
ティムルが俺以外の男に抱かれた回数分を、これから先ずっと取り立て続けるとか。
まぁそんな感じでさ。
「薄汚いどころか……。ずっとお前のことを抱きたいと思って我慢してるんだよ、ティムル」
ティムルを抱きしめる腕に力を込める。
俺とニーナの幸せには、もうお前がいなくっちゃダメなんだよ。
「え、えと? ダン……?」
薄汚れたとか過去の話とか、そんなのはどうでも良くって、俺はもうお前を抱きたくて仕方ないんだよ。今だってお預けくらって、お前を押し倒すの必死に我慢してるんだよ。
「俺とニーナのこととか、お前は気にしなくていいんだ。ニーナも遠慮するなって言ってたろ? 俺もニーナも、ティムルなんかに関係なく幸せになるからさ。ティムルも俺やニーナの事なんか気にせず、自分の幸せに正直になればいい」
俺も自分の気持ちに正直になるから、もうそろそろ押し倒させてもらう。
牢屋越しにキスしてから俺はずっと我慢してたんだよっ!
「ティムル。過去もニーナもこの先の事も、今は全部忘れて俺だけを見ろ。ティムルはもう俺の女だ。だからお前も俺だけを見ればっ、いいんだよっ」
「きゃっ。ダ、ダン、ちょっと、ちょっと待っ……」
ティムルをベッドに押し倒す。
押し倒したティムルの体に震えはない。顔色もいい。なにより表情がいい。
……この先を期待してくれているような、最高の表情。
「お前、ニーナになりたいって言ったよな? その言葉、確かに聞き届けたぞ。俺とニーナが毎日どんな事をしてるのか、今夜は徹底的に思い知らせてやるからなぁっ」
お前が憧れたニーナと同じくらいに。
お前と出会ってあの頃よりももっと幸せになれた俺達と同じくらいに。
ティムルのことも、絶対に幸せにしてみせるから。
「余計なことなんか考えられないくらい、もう俺のことしか考えられないくらいに、ドロッドロに甘やかしてやる」
覚悟しやがれティムルっ! 上書きだぁっ! 消毒だぁっ! マーキングだぁっ!
過去の男? 知るか! もうこの女は俺のもんだ! 絶対に誰にも渡さない!
ティムル。俺がもうお前無しじゃ生きていけないように、お前もこの先、俺無しで生きられると思うなよぉ?
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