異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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1章 巡り会い2 囚われの行商人

050 ザル (改)

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 なんだかドッと疲れてしまったけど、本題はここからなんだよなぁ。


「家賃ってワケじゃないけど、リーチェにも協力してもらうからな?」


 ふぅとひと息ついて、心機一転気合を入れ直す。ティムルの為に動くのはここからだ。


「まずはティムルの状況、俺たちの目的、そして今日ティムルに聞いた中で1番怪しそうな奴の話とか、情報を共有して状況を整理するよ」


 まずは今回の盗難事件をおさらい。

 リーチェがシュパイン商会所属の商人に、世界樹の護りというアクセサリーを盗まれた。
 その犯行は組織的であった為、その時の現地責任者であるティムルが容疑者にされ、更には賠償責任者として投獄されている。

 シュパイン商会はティムルを切り捨て済みで、この事件そのものがティムルを陥れる為に起こされた騒動である可能性が高い。


 俺とニーナの目的は、1度借金奴隷となることでシュパイン商会と完全に縁が切れたティムルの購入だ。決してティムルの容疑を晴らす事が第一目的ではない。ここ重要。

 リーチェの目的は、単純に世界樹の護りの奪還。世界樹の護りさえ戻ってくれば、ティムルに思うところはない。


 世界樹の護りを盗んだ黒幕は、ここマグエルに居を構えるシュパイン商会会長夫人の1人、ネフネリである可能性が高い。

 ネフネリはだいぶ頭が弱そうなので、上機嫌で戦利品を愛でている可能性が高いと思う。なのでシンプルに、家に侵入して奪還してしまおうと提案する。


「え、ええ……? 色々とワケが分からないよ。君たちって、あのドワーフ女の容疑を晴らす気はなかったのかい?」


 俺の説明に、ニーナよりもリーチェのほうが混乱している。詰め所でリーチェに話した俺の動機とは真逆だもんね、俺とニーナの本来の目的って。


「それにいくら怪しいとは言え、確証もなしに他人の家に押し入っては、こちらが犯罪者になってしまうよ?」

「潜入は俺がやるから心配しなくていい。リーチェに協力して欲しいのはそっちじゃないんだ」


 不法侵入が犯罪だなんてことは分かっている。だけどティムルは既に投獄されていて俺たち以外に味方がいない状況だ。たとえどんな手段を使ってでも一刻も早く助け出してやりたいんだ。

 ましてや逆恨みで不幸に落とされるなんて……。そんなの俺が絶対に許さない。


「俺が世界樹の護りの奪還に成功したら、リーチェはすぐにティムルへ賠償請求をして、彼女を借金奴隷に落として欲しいんだよ」


 ティムルを助ける話なのに、ティムルを奴隷に落として欲しいと頼む、この矛盾よ。

 しかし俺の言葉を聞いたリーチェは、今までで1番強張った表情をして俺を睨みつけてくる。


「……エルフの僕に、嘘をついて金銭を受け取れと言うのかい?」

「うん。翠の姫エルフ様に、世界樹の護りは既に手元にある事を隠して、賠償金を受け取って欲しいって言ってるんだ。それが俺達の目的だからね」


 エルフは誇り高い種族とか言ってたけど、そんなの知ったこっちゃない。メシ代だと思って諦めろ。

 ティムルの命とお前のプライドなら、秤にかけるまでもない。


「……本当に、容疑を晴らさないで奴隷に落とす事が、あのドワーフ女のためになるのかい? 容疑を晴らして彼女を元の生活に戻す。それが幸せでないと何故言い切れる?」


 眠たいこと言うね姫エルフさんは。全てを失った上に、本来手を差し伸べてくれるはずの人間全員に裏切られたティムルを、その裏切った奴らのところになんて返してやる訳ないだろ。

 お前は今日、詰め所でなにを見てたんだよリーチェ?


「ティムルはもう俺の女だ。だから手に入れる、それだけだ」


 ティムルを他の誰かに渡す気なんてない。俺が購入することで彼女が不幸になってしまったとしても……、俺はティムルを誰にも譲る気はないんだ。


「ティムルの幸せのためにやるわけじゃない。俺がティムルを手に入れるために計画してることなんだよ。彼女の元の生活とやらにだって、渡してやる気は毛頭無いね」


 他人様のモノなら手を出さないけど、誰もが要らないと手を引いたのなら、俺が拾ってもらってやる。それだけの話だよ。


「……まったく迷いがないね。分かったよ」


 俺にまったく引く気がないことを悟ったのか、リーチェは降参と言わんばかりに軽く両手をあげて首を振った。


「僕としては世界樹の護りさえ戻ってくれば問題ない。後は君達の望むように協力すると約束するよ」

「いやこっちが世界樹の護り奪還に協力してるんだろ、ったく」


 いつの間にか立場が逆転しそうになってるけど、世界樹の護りに関してはあくまで俺達の方が協力してる立場なんだよなぁ。


「ニーナ。話もついたことだし早速行ってくるよ。リーチェの相手はお願いしていいかな?」

「相変わらずやると決めたら早いですね?」


 愉快そうに微笑んでくれるニーナ。

 相変わらずかぁ。ニーナは自分が奴隷契約した時のことを思い出しているのかもしれないな。


「リーチェさんの寝床の準備などをして待ってます。リーチェさん。貴女の寝床作りなんですから協力してくださいね?」

「それは勿論協力するけど……、そんなにあっさり見送っていいのかい……?」


 いいんですよとリーチェの問いを一刀両断して、俺を玄関先まで送ってくれるニーナ。

 大丈夫だとは思うけど、念のためニーナとはパーティを解散しておく。


 心配そうなリーチェと、信じてますと微笑んでくれるニーナに見送られて家を出た。


 夜のマグエルを1人目立たないように歩きながら、ティムルに聞いたネフネリの住居に向かう。

 さぁて。1発でアタリが引けたらありがたいんだけど、どうかねぇ? 何が起こっても大丈夫なように、まずは職業設定をしておくか。



 殺人者LV1
 補正 敏捷性上昇 敏捷性上昇-
 スキル 対人攻撃力上昇



 出来れば使いたくない職業だけど、現時点で最も敏捷補正の高い職業なのだ。今回戦闘があるとすれば対人戦だからな。
 全く育成してないから補正効果も微々たるものだろうけど、気休めでも上げておく。

 緊急脱出用に、冒険者を設定してポータルを使えるようにしておきたいところだけど、ポータルは屋内では使えないので潜入には向いてない。
 ポータルが使える状況なら、職業設定も問題なく行えるだろうしな。冒険者はワンポイント起用で充分だろう。

 
 ティムルに教えられた住所に向かう途中、今回の騒動における警備隊の認識を勘違いしていたことに気付いた。

 どうも日本における警察組織をイメージしてしまっていたけれど、この世界の警備隊はあくまで治安維持が仕事であって、事件の捜査は警備隊の仕事じゃないわけだ。

 まさにリーチェが、商隊襲撃事件の調査を依頼されてネプトゥコを訪れたのが良い例だったと言える。


 もし世界樹の護りが既にネプトゥコから持ち去られてしまった場合、ネプトゥコの警備隊は追う事ができない。

 他の街には他の街の警備隊だって居る。それ以上は越権行為になりかねない。


 ここまで考えると、中身フラッタとは言え英雄譚に語られるほどのリーチェが、なんで俺なんかに会おうとしたのかも良く分かる。

 被害に遭ったのが英雄であるリーチェだったので警備隊も捜査に協力してくれていたんだろうけれど、組織だった犯行だった為に、リーチェは恐らく既にネプトゥコから物が持ち去られている可能性が高いと踏んだんだろう。
 となるとネプトゥコ警備隊の者に、世界樹の護りが発見できるとは思えない、と。

 だからあえて、警備隊の人間ではない俺に会ってみる気になったんだろうなぁ。


 そんなことを考えながら歩いていると、ティムルに教えてもらった建物に到着する。ネフネリの住居だ。

 シュパイン商店マグエル本店よりも大きい建物だけど、ティムルに教えてもらった通り、警備がザルだ。最低限の人数を、最低水準の人材で警備しているという印象だった。


 マグエルにおいてシュパイン商会の名前の持つ意味は重い。誰もシュパイン商会と敵対しようとは思わない。

 だからネフネリは防犯費用まで削りに削って、その浮いたお金を浪費に回しているそうだ。ネフネリの浪費でティムルの愚痴がやばい。

 軽く周辺を確認すると、見張りなのに寝てる奴とか、当番サボってるっぽくて誰もいない箇所とか、泣けるほどザル警備だった。おかげで何の問題もなく内部へ侵入できた。


 住居の正面入り口から普通に侵入。施錠すらされてない。マジかよ? 我が家よりザル過ぎる。

 そして建物の中には誰も歩いていない。普通にランタン持ってても良いレベルだなぁ。流石に灯りは持ってきてないけどさ。


 月明かりを頼りに家の中を捜索する。うちで夕飯を済ませてから、何時間も経ったわけじゃない。まだ寝るには早い時間だと思う。

 というか本当に誰にも会わなくてびっくりするんだけど。無人じゃないだろうねこの建物?

 ……予算的な理由で、夜は人を雇ってないとか? まさかそんなことあるの?


 本当に誰にも会わずに探索できてしまって、逆に怖くなってくる。隙だらけに見せて侵入者を捕らえる罠だったらどうしよう?

 そんなことを思い始めたとき、男女の話し声が聞こえてきた。話し声というか叫び声というか喘ぎ声というか、まぁ出所は寝室でしょうね。

 素早く声の発生源を特定し、一旦部屋の前で待機する。そして中の声がひと際激しくなったところを見計らって、静かに扉を開ける。部屋の中で仲良く絡み合っている2人を鑑定。



 ドローム
 男 18歳 獣人族 盗賊LV1
 装備


 ネフネリ
 女 24歳 獣人族 商人LV16
 装備 世界樹の護り



 ……うん。順調すぎて怖い。


 マジで? マジで罠じゃないのこれ?

 しっかし全裸での取っ組み合いの最中でも世界樹の護りだけは着用してるとか、よほどお気に入りなんですねぇ。


 ま、長居は無用っすね。というか他人の情事なんて覗いてても何も楽しくない。情事とは自分で参加するものだ。人の情事を覗き見るのに興奮を覚えるという方の嗜好を否定する気は無いけれど、月明かりしかない状態では覗きすら満足に行えない。

 大体ティムルを陥れた犯人で確定している相手の情事なんて、覗き見ても吐き気しか催さないっての。

 顔を見られるのはちょっと恥ずかしいので、布を巻いて即席の覆面。ゲリラ兵士みたい? 恥ずかしがり屋だから許して欲しい。


 音を立てないように気をつけながら、そっと室内に侵入。

 深夜の有酸素運動中のドロームに駆け寄り、まずは鳩尾へ1撃。ネフネリさんの上に崩れ落ちるドローム。

 突然の事に驚いて固まってしまったネフネリさんにも、口を押さえつつボディブロー。おやすみなさい。


 腹を押さえて転げ回ってるドロームさんの首筋にダガーを突きつけ、ステータスプレートの提示を要求。

 死にたくなけりゃあ俺とパーティを組みなぁ? ……ってこれどんな脅迫だよ。

 ドロームさんとのパーティ結成が確認できたら、気絶するまでボディボディ。うん。無事に夢の世界へ旅立った模様。

 お休みなさい。起きたら辛い現実が待ってるからねー?


 ネフネリの手首から世界樹の護りを回収。確実にインベントリに収納する。

 ふと不安を覚えて自分を鑑定するも、なぜか盗賊にはなっていなかった。盗品を奪い返したからなのか、既に盗賊を得ているからなのか。


 お休み中のドロームの両手足を縛る。全裸拘束。

 ……え、こいつ肩に担いだら当たっちゃうんじゃ?

 考えるな。感じるんだ。いやいや感じるのが嫌なんだよ。触れたくないよちくしょう。


 職業を冒険者に変えてドロームを肩に担ぐ。肩にぴとっ、と何かが触れる感触。ひぃぃっ! と声が出そうになるのを寸での所で堪える。

 考えちゃいけない。世の中には触れないほうが良い事だってあるんだ。ほんとに触れたくないんだよくそぅ。


 窓から外に出てポータルを発動。ネプトゥコに行き、お馴染みの詰め所に全裸拘束男を差し入れる。


「ダンじゃねぇか!? 誰だよこいつは!? なんで全裸!?」


 夜に突然全裸男をデリバリーされた警備隊の男は、見ているのも可哀想なくらいに狼狽している。誰が犯罪者なんだか分からない状況だもんな。


「こいつが窃盗の実行犯のドロームだよ。起きたらステータスプレート確認してよ」

「な、なに!? ちょっと待ってろ! うちにもこいつが逃走する前に顔を見た奴が居るから、すぐに確認させる!」


 ああ、犯行現場で簡易的な取調べはしてるって言ってたっけ。ドロームの顔を知ってるってことは、ドロームを取り逃がした人なんだろうか?


「それ、俺が立ち会う必要ある? 実行犯は見つかったけど、世界樹の護りは見つからなかったんだ。だから俺はまずリーチェに報告して来たいんだよね」

「立ち会う必要あるだろっ! 別人だったらどうすんだよ!? 無関係の人を全裸で拘束してここまで運んできたことになるんだぞっ!?」


 あ、そう言われると確かにこのまますぐ帰るのは不味いのか。ドロームじゃなかったら俺は誘拐犯になってしまう。
 全裸男を誘拐して掴まるとか、歴史に名を残しそうで嫌だなぁ……。


 肩に残る温もりを布でこれでもかと拭き取っていると、恐らく本人に間違いないだろうと判断されて、ようやく解放してもらえた。

 そしてドロームとパーティ解散。早くニーナとパーティ組み直したい。


「協力感謝するぜダン。いきなり素っ裸の男を担いで現れたときは拘束すべきか迷ったけどな?」

「また逃がすようなヘマは勘弁してよ? あと、なんとかそいつから世界樹の護りまで辿り着いてよね」


 ま、辿り着く先は俺のインベントリの中なんですけど?


 しかしなんだったんだよあの家。今回俺が侵入しなくても、誰でも簡単に入れちゃうだろ。良く今まで無事だったなぁ。

 しかもあんなに無防備に世界樹の護りを着用してるとかなんなの? まさか超稀少なエルフの工芸品を他人に見せびらかす気だったのかねぇ?

 本人以外が売ったって、稀少すぎて盗品なのはすぐにバレる。リーチェが言うには真贋判定すら出来るらしいし、換金するのも簡単じゃないだろうに。

 あの屋敷のザルすぎる警備が全てを物語っている。何も考えずに、なんとなくでこんなことしたんだろうなぁあの女。


 無事世界樹の護りを取り戻すことが出来たっていうのに、なんだか色々なものがあまりにも杜撰で逆に疲れたよ……。

 急激にニーナが恋しくなった俺は、さっさとマグエルに帰還したのだった。
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