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序章 始まりの日々2 マグエルを目指して
029 育成ルート (改)
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ドロップアイテムを回収し終えて、改めてニーナに声をかける。
「ニーナ。さっき魔物の攻撃を受けちゃってたよね? ほんとに大丈夫?」
「はい。痛みも引きましたしもう大丈夫です。取り乱して済みません。防具も揃ってますし、痛みよりも驚いてしまった感じですね」
奴隷口調に戻ったニーナがペコリと頭を下げてくる。
痛みより驚いたというニーナの言葉に納得する。
俺もキューブスライムの攻撃を初めて受けた時は、全身に走る衝撃に度肝を抜かれたっけ。
「それよりご主人様の方こそ大丈夫なのですか? 何度か被弾されてましたけど」
「そこは流石戦闘職って感じ。ステイルークで戦っていた時よりも余裕あるくらいだよ」
心配してくれるニーナに、笑顔を返して安心させる。
これは決してやせ我慢ではなくて、本当に余裕があるんだよね。そしてその理由も見当が付いてる。これは戦士の職業補正にある、体力上昇の効果なんじゃないだろうか。
はじめは体力ってスタミナとかパワーみたいな意味だと思ってたけど、よくよく考えたら旅人なんかの持久力補正がスタミナ補正のはず。
では体力とは何かと考えたら、体力はHP、魔力がMPに相当する要素なのではないかと思い至った。
補正無しの村人と比べると、LV14分のHP補正がかかっている戦士の俺はHPにかなりの余裕があるということなんだろう。
ステータス補正の大きさに驚くと同時に、スタミナ補正しかない旅人のニーナが戦闘に参加する危険性が浮き彫りになる。
だけど正直、インベントリは外せないんだよなぁ……!
そうそう補正と言えば、戦士の装備品強度上昇というスキルの意味も俺は勘違いしてたっぽいんだよ。
俺はスキル名から『装備品が破損しないように、装備品の耐久力を上げるスキル』だと思っていたのだけど、それだと戦士がレベルアップで攻撃力が増していくことに説明が付かない。
もしや全ての職業がレベルアップで攻撃力を増していくのかな? と思ったけれど、俺が村人の時にも旅人になったニーナにも、レベルアップによる攻撃力上昇効果は見られない。つまり攻撃力の増加は、戦士の補正によるもののはずだ。
装備強度っていうのは、単純に装備品の性能のことだと思う。だからきっと防具の性能も上昇しているはずだ。何度か被弾しても動けたしな。
ニーナの様子と自分の状態を改めて確認。
2人ともまだ万全に近い状態で、戦闘を継続することは可能であると判断する。
「少しこのまま休憩して、回復したらもうちょっと戦ってみよう。俺たちはここで生きていかなきゃいけないんだから、無理矢理にでもスポットの戦闘に慣れなきゃいけないからね。無理は禁物だけど」
『まだ大丈夫』は『もう危ない』ってゲームではよく言われてたしな。
引き際を間違えることだけは絶対に避けないと。
ペタペタと俺の体を確かめてから、どこも怪我をしていないことを確認してから頷くニーナ。
「了解しました。無理をしないようお互い気をつけましょう」
そうだね。お互い相手が無理していないか気をつけようね。
どうも俺達はお互いの為に、自分は無理してもいいと思ってしまいがちだからなぁ。
「ティムルさんが短剣2本で戦っているのを見て、私も盾よりもう1本武器を持ったほうがいいんじゃないかって思ってましたけど……。ご主人様が盾を勧めてくれた理由が理解できた気がします」
ニーナは自分のではなく、俺の持っている盾を見て感心したように呟いた。ダメージを経験したからこそ、魔物の攻撃を盾で叩き落していた俺の姿に盾の有用性を実感したのかもしれない。
「はは。俺も初めて攻撃を受けたときは物凄くショックを受けたから、今のニーナの気持ちは分かるつもりだよ」
今更だけど、乱戦になる前に1度ニーナにダメージを経験させるべきだったかもなぁ。
でもフォーベア以前は防具がなくて危険だったし、フォーベア以降は他の人と一緒の野営地防衛戦しか経験できなかったから、試す機会も無かったかぁ。
「これからニーナは盾の扱いを熱心に練習することになると思うよ。俺がそうだったから」
経験者なので語るのだ。
防具が揃った状態のニーナは、キューブスライムの攻撃を受けた俺よりはダメージが少なかったかもしれないけどね。
さ、それじゃ魔物狩りを再開しようか。
スポットの入り口付近を歩き回り、出会った魔物を着実に倒していく。1戦ごとに休憩を挟みつつ、スポットでの戦闘を続けていく。
戦闘の度に新しく見る魔物がいるので、いつだって気が抜けない。
平たい体で滑空が出来るカピバラサイズのネズミ、フラットラット。
種を飛ばして攻撃してくる少し大型のひまわり、サンサンフラワー。
活発なハシビロコウといった感じの外見で、積極的に襲ってくるアサルトバードなどなど。
流石に魔物の数も質も今までとは段違いな為、危険な分狩りの効率もいい。この日の魔物狩りを終えてスポットから脱出する頃には俺の戦士がLV16に、ニーナの旅人もLV14まで上がってくれた。
余力を残して魔物狩りを終えた俺達は、マグエルの冒険者ギルドでドロップアイテムを売却する。今日1日で416リーフの報酬を得ることが出来たようだ。
流石スポット、初日から過去最高額を更新できたぜっ。
被弾も多かったし、危険度に見合っているかは微妙だけどね……。
それにこのペースでもまだ税金を払えなさそうだから、もっと強くなって効率を上げたいなぁ。
……命がけで戦っても税金すら払えないなんて、異世界は世知辛いよぉ。
日が落ちて、この宿で過ごす最後の夜が訪れる。
夕食には相変わらずティムルが乱入してきて、予定通り明日からボロ屋敷に入居可能なこと、無事にベッドの納入も済んだことを報告された。
うむっ。これからは毎朝洗濯の日々かなっ。
「ただ、1つだけ問題が発生しちゃっててね。大したことじゃないんだけど、ダンとニーナちゃんが直接話をつけてもらいたい事が出てきちゃって」
少し申し訳なさそうな様子のティムル。
ふぅん? 問題ねぇ。ま、大したことじゃないなら身構えることもないか。
ティムルに話の先を促す。
「えっとね。あの家の近くに孤児院があるって話はしたわよね?」
そんな話されたっけ? ご近所さんが孤児院くらいしかないって説明は受けたんだったか。
「今日あの家で作業してたらその孤児院のシスターが来てね? 今まで借り手が付いてなかったあの物件の井戸を、孤児院で利用してたんですって言われちゃってさぁ。出来れば今まで通り使わせてもらいたいんだそうよ」
なんだか愚痴を吐くような口調のティムルに少し笑ってしまう。
ふむ……、孤児院のシスターか。ちょっと惹かれる響きだけど、現実はおばあちゃんとかなんだろうなぁ。
「案内した時にも言ったけど、あそこって街外れだから他の井戸はかなり距離があってね。だから孤児院側の事情も分かるんだけどさぁ」
「それは大変ですね。孤児院ということは水汲みするのも子供達なのでしょうし。そういう事情でしたら私は構いませんけど……、ご主人様は気になりますか?」
ニーナ。顔に『使わせてあげて』って書いてあるよ。
ふぅむ。せっかくの専用井戸、他人に使わせるのに抵抗が無いかと言えば嘘になる。
でもどうせ俺たちは日中の間は魔物狩りで出かけてるし、夜にさえ近付かないんだったら俺も気にしないかな? ってことで、今まで通りにしてもらって問題ないよティムル。
「いえ、貴方達2人なら気にしないと思ってたけどね? 流石に家主に黙って私たちで返事するわけにもいかないでしょ」
ああ、そりゃそうだな。俺たちは金を払ってあそこに住む権利を購入した顧客の立場だもんね。
「それにあの家を近所付き合いしなくていい物件として紹介した手前、ちょっと思うところがあるのよねぇ。勝手に利用されてたのも正直気分が良くないし?」
ああ、管理者であるティムルから見たら、無断で井戸を使用されていた事になっちゃうのね。
でもそのまま無断で使い続けないで俺たちにちゃんと話をしに来たあたり、悪い人じゃないと思う。
「分かったよティムル、直接話してみる。相手と会うにはどうすればいいの?」
「ごめん、助かるわ。明日の朝にまたあの家に来るそうだからその時にお願いね。こういったケースは当人同士で話し合うのが一番だから」
確かに当人同士で話し合うべきだよな。ご近所トラブルってコミュニケーション不足から発展したりするらしいし。
さてと、それじゃ明日はご近所さんと初体面か。
井戸を使わせるくらいなら問題ないけど、子供って結構言うこと聞かないからなぁ。なんかの拍子でニーナの呪いに気付かれたら、子供なんてすぐに話を広めてしまいそうでちょっと不安だ。
……そうなったら、最悪マグエルを離れればいいか。支払ったお金は惜しいけれど、俺たちにはマグエルに拘る理由なんてないんだから。
夕食が終わり、ティムルを見送った俺とニーナは、宿の個室に戻って少し相談する。
「そっか。呪いに気付かれる心配があるんだね」
俺の懸念を伝えると、ニーナは意外そうな様子で腕を組み考え込んだ。
呪いのことをあまり気にしなくなってきたのかな? だとしたらいい傾向なんじゃないかと思うけど。
「……でも私たちだけで井戸を使うのも、やっぱり違う気がするよ」
「だよね。俺達2人で使っても正直持て余しちゃうと思うし」
誰より優しいニーナが、見ず知らずとは言え子供に負担をかけて井戸を独占するわけがないよな。たとえ自分がリスクを背負うとしても。
「ま、リスクに関してはある程度諦めよう。俺たちはマグエルに拘る必要もないし、呪いが発覚しても何も変わらないかもしれない。そんな先のこと、今から心配しても仕方ないさ」
俺が考えすぎなだけかもしれないしね。
しっかし、今日は思う存分宿で過ごす最後の夜を満喫するつもりだったのにさぁ。色々と起こって参っちゃうよ、まったく。
「孤児院かぁ。私ずっと隠れて暮らしてたから、自分より小さい子と会った事ないんだ。子供達と仲良くできるか心配だよぅ」
「ニーナは4歳の時からずっと家族だけで暮らしてたんだっけ……」
ニーナの壮絶な過去を想像してしまって気分が落ち込みそうになる。そんな気持ちを振り払うように、あえて楽観的なことを口にする。
「ま、ニーナだったら子供に好かれると思うよ。心配ないさ」
言いながら、不安そうにしているニーナの頭を優しく撫でる。頭以外の場所に手を伸ばすのは自重した。
うーん。ニーナが子供に嫌われるとは思えないけど、俺が子供に嫌われるイメージは簡単に出来てしまうなぁ。この世界の子供ってどんな感じなんだろう……って、ニーナが何かに気付いた様子で大きく目を見開いて震えている。
ニーナ? どうかしたの?
「うん、今ダンに言われてさ。今私、子供達と仲良くなれるかなぁ、って思ったんだって気付いたのっ」
ん? ニーナの言っていることがいまいちピンと来ない。
だけど戸惑う俺に構わず、少し興奮気味にニーナは続ける。
「今までずっと嫌われるのが当たり前で、好かれたいとか、仲良くしたいなんて思ったことなかったのに。今凄く自然に、みんなと仲良くなれるかなぁって、そう思えたのっ」
なるほど。ニーナの言いたいことが分かった気がする。
呪いのせいで誰にも受け入れてもらえなくて辛かった。ニーナはあの日、そう叫んだ。
でも今ニーナは受け入れてもらえない、じゃなくて、受け入れてもらえるかなぁ、って思ってくれたんだ。俺以外の誰かにも歩み寄ろうとしてくれたんだ。
凄く自然にそう思えるくらいにニーナが前向きになってくれたんだと思うと、胸が熱くなる。
「はは。ちょっとだけ惜しい気もするけど、ニーナが俺以外にも興味を持つようになって嬉しいよ」
全てを諦め絶望していた彼女が、世界に期待を持てるようになったなんて、こんなに嬉しい事はない。
あまりの嬉しさに、思わずニーナのことをぎゅっと抱きしめてしまった。
「ニーナが自分のしたいことを少しずつ増やしてくれるのが嬉しい。人の輪に入りたいって思うようになったことが嬉しいなぁ」
「ふふ。そこは俺だけの女でいろって言ってもいいのよ? ご主人様っ」
からかうような笑みを浮かべながら、ニーナの方からもぎゅーっと抱きしめ返してくれる。
もうニーナ。そんなこと言われちゃ話は終わりだからねっ。
明日から自分で洗濯しなきゃいけなくなるんだし、明日はきっと引越しで忙しく、スポットに行く余裕もないだろう。
つまり寝不足でも全然平気。これでもかってくらい夜更かししても大丈夫。
俺だけの女でいろだってぇ? そんなの当たり前だ。存分に思い知らせてやらないとっ。
……ちょっと思い知らせすぎて、ニーナが先に休んでしまった。
スポットでの戦闘は今までと段違いに激しかったし、初ダメージを食らったりして、今日はかなり疲れてたのかもしれないな。たった今トドメを刺したのは俺だけど。
ニーナの寝息をBGMにして、職業設定を使用する。
村人LV10
補正
スキル 経験値自動取得-
商人LV1
補正 幸運上昇-
スキル 目利き
戦士LV16
補正 体力上昇-
スキル 装備品強度上昇-
旅人LV4
補正 持久力上昇-
スキル インベントリ
盗賊LV1
補正 敏捷性上昇
スキル 小型武器使用時敏捷性上昇
殺人者LV1
補正 敏捷性上昇 敏捷性上昇-
スキル 対人攻撃力上昇
賞金稼ぎLV1
補正 敏捷性上昇
スキル 対人防御力上昇
剣士LV1
補正 武器強度上昇-
スキル 斬撃時攻撃力上昇-
短剣使いLV1
補正 敏捷性上昇-
スキル 斬撃時攻撃力上昇-
武道家LV1
補正 敏捷性上昇-
スキル 物理攻撃力上昇
侠客LV1
補正 物理攻撃力上昇 物理防御力上昇 体力上昇- 魔力上昇- 幸運上昇
スキル 陽炎
戦士LV15になった時点で、新しい職業が追加された。
剣士、短剣使いはどんな職業なのか分かりやすいね。もうそのまんまって感じ。
武道家は素手での戦闘職のようだ。
どこかで条件を満たしたのか、必要条件が無いのかは不明。
まぁここまではいいんだよ、ここまでは。
侠客って、なんだ……? 補正が凄まじすぎるんだけど?
これって上位職か、特定の条件を満たさないとなれない特別職だよな? 戦士LV15まで上げることも前提みたいだけど。何かしたっけ、俺?
そもそも侠客ってなんだ?
俺のイメージだと、任侠モノの作品なんかで聞く言葉だよな? そもそも任侠ってなんだ? 仁義のある人?
仁義って、弱気を助け強気を挫く正しい行い?
……あっ、ひょっとして……!?
侠客ってのが正義の味方、みたいな意味を持っているとしたら……。
犯罪者から被害者を助ける事が、前提条件?
つまり、野盗を撃退して、囚われた女性達の救出に成功したから転職の権利を得た……?
う~ん、そうは言っても確かめる術はないかぁ。
まぁ獲得出来ている以上、転職条件は問題じゃない。
問題は、これからどう転職をしていくかだ。
あ~、めちゃくちゃ困ったなぁ。これ、どうやって育成していけばいいんだ?
職業LVMAXで職業スキルと、多分補正も引き継げるようになるんだと思う。
でも特殊な条件を満たさないと転職できない職業は、通常よりも補正が高い傾向にある。
なので手っ取り早く強くなりたいなら、特別職になるべきだ。
しかしここで引継ぎの問題が発生する。
確か野盗でLVが一番高かった奴は、LVが50を越えていたはず……。
つまり特殊な職業は最大レベルになるのに、通常の職業よりも時間がかかってしまうわけだ。
インベントリは言わずもがな、自分への悪意を可視化できるらしい、商人の目利きも欲しいと思ってるのに。
旅人や商人を上げればまた派生職が出るだろうし、更に有用なスキルが出てくるかもしれない……。
ぬおおおどうしようっ!? 単純な戦闘力を伸ばすか、地道に底上げしていくか。何気に究極の選択じゃない!?
くっそ、せめて複数の職業を設定出来れば、特別職の恩恵を受けつつ育成もできたのになぁ……!
村人と戦士の例を考えると、派生職が現れるのはMAXLVの半分の時だと思う。だから恐らく最大レベルが30の戦士はとりあえず上げきるとして……。
そこからどうしよう? あーもう頭が痛いよぉ。
LVが可視化されてて転職も気軽に出来る俺は、この世界の誰よりも恵まれている事は分かってる。
でもなぁ、せめてもう1つ、職業設定できればなぁ。
はああああぁぁぁぁぁ……。ため息が止まらないよぉ……!
「ニーナ。さっき魔物の攻撃を受けちゃってたよね? ほんとに大丈夫?」
「はい。痛みも引きましたしもう大丈夫です。取り乱して済みません。防具も揃ってますし、痛みよりも驚いてしまった感じですね」
奴隷口調に戻ったニーナがペコリと頭を下げてくる。
痛みより驚いたというニーナの言葉に納得する。
俺もキューブスライムの攻撃を初めて受けた時は、全身に走る衝撃に度肝を抜かれたっけ。
「それよりご主人様の方こそ大丈夫なのですか? 何度か被弾されてましたけど」
「そこは流石戦闘職って感じ。ステイルークで戦っていた時よりも余裕あるくらいだよ」
心配してくれるニーナに、笑顔を返して安心させる。
これは決してやせ我慢ではなくて、本当に余裕があるんだよね。そしてその理由も見当が付いてる。これは戦士の職業補正にある、体力上昇の効果なんじゃないだろうか。
はじめは体力ってスタミナとかパワーみたいな意味だと思ってたけど、よくよく考えたら旅人なんかの持久力補正がスタミナ補正のはず。
では体力とは何かと考えたら、体力はHP、魔力がMPに相当する要素なのではないかと思い至った。
補正無しの村人と比べると、LV14分のHP補正がかかっている戦士の俺はHPにかなりの余裕があるということなんだろう。
ステータス補正の大きさに驚くと同時に、スタミナ補正しかない旅人のニーナが戦闘に参加する危険性が浮き彫りになる。
だけど正直、インベントリは外せないんだよなぁ……!
そうそう補正と言えば、戦士の装備品強度上昇というスキルの意味も俺は勘違いしてたっぽいんだよ。
俺はスキル名から『装備品が破損しないように、装備品の耐久力を上げるスキル』だと思っていたのだけど、それだと戦士がレベルアップで攻撃力が増していくことに説明が付かない。
もしや全ての職業がレベルアップで攻撃力を増していくのかな? と思ったけれど、俺が村人の時にも旅人になったニーナにも、レベルアップによる攻撃力上昇効果は見られない。つまり攻撃力の増加は、戦士の補正によるもののはずだ。
装備強度っていうのは、単純に装備品の性能のことだと思う。だからきっと防具の性能も上昇しているはずだ。何度か被弾しても動けたしな。
ニーナの様子と自分の状態を改めて確認。
2人ともまだ万全に近い状態で、戦闘を継続することは可能であると判断する。
「少しこのまま休憩して、回復したらもうちょっと戦ってみよう。俺たちはここで生きていかなきゃいけないんだから、無理矢理にでもスポットの戦闘に慣れなきゃいけないからね。無理は禁物だけど」
『まだ大丈夫』は『もう危ない』ってゲームではよく言われてたしな。
引き際を間違えることだけは絶対に避けないと。
ペタペタと俺の体を確かめてから、どこも怪我をしていないことを確認してから頷くニーナ。
「了解しました。無理をしないようお互い気をつけましょう」
そうだね。お互い相手が無理していないか気をつけようね。
どうも俺達はお互いの為に、自分は無理してもいいと思ってしまいがちだからなぁ。
「ティムルさんが短剣2本で戦っているのを見て、私も盾よりもう1本武器を持ったほうがいいんじゃないかって思ってましたけど……。ご主人様が盾を勧めてくれた理由が理解できた気がします」
ニーナは自分のではなく、俺の持っている盾を見て感心したように呟いた。ダメージを経験したからこそ、魔物の攻撃を盾で叩き落していた俺の姿に盾の有用性を実感したのかもしれない。
「はは。俺も初めて攻撃を受けたときは物凄くショックを受けたから、今のニーナの気持ちは分かるつもりだよ」
今更だけど、乱戦になる前に1度ニーナにダメージを経験させるべきだったかもなぁ。
でもフォーベア以前は防具がなくて危険だったし、フォーベア以降は他の人と一緒の野営地防衛戦しか経験できなかったから、試す機会も無かったかぁ。
「これからニーナは盾の扱いを熱心に練習することになると思うよ。俺がそうだったから」
経験者なので語るのだ。
防具が揃った状態のニーナは、キューブスライムの攻撃を受けた俺よりはダメージが少なかったかもしれないけどね。
さ、それじゃ魔物狩りを再開しようか。
スポットの入り口付近を歩き回り、出会った魔物を着実に倒していく。1戦ごとに休憩を挟みつつ、スポットでの戦闘を続けていく。
戦闘の度に新しく見る魔物がいるので、いつだって気が抜けない。
平たい体で滑空が出来るカピバラサイズのネズミ、フラットラット。
種を飛ばして攻撃してくる少し大型のひまわり、サンサンフラワー。
活発なハシビロコウといった感じの外見で、積極的に襲ってくるアサルトバードなどなど。
流石に魔物の数も質も今までとは段違いな為、危険な分狩りの効率もいい。この日の魔物狩りを終えてスポットから脱出する頃には俺の戦士がLV16に、ニーナの旅人もLV14まで上がってくれた。
余力を残して魔物狩りを終えた俺達は、マグエルの冒険者ギルドでドロップアイテムを売却する。今日1日で416リーフの報酬を得ることが出来たようだ。
流石スポット、初日から過去最高額を更新できたぜっ。
被弾も多かったし、危険度に見合っているかは微妙だけどね……。
それにこのペースでもまだ税金を払えなさそうだから、もっと強くなって効率を上げたいなぁ。
……命がけで戦っても税金すら払えないなんて、異世界は世知辛いよぉ。
日が落ちて、この宿で過ごす最後の夜が訪れる。
夕食には相変わらずティムルが乱入してきて、予定通り明日からボロ屋敷に入居可能なこと、無事にベッドの納入も済んだことを報告された。
うむっ。これからは毎朝洗濯の日々かなっ。
「ただ、1つだけ問題が発生しちゃっててね。大したことじゃないんだけど、ダンとニーナちゃんが直接話をつけてもらいたい事が出てきちゃって」
少し申し訳なさそうな様子のティムル。
ふぅん? 問題ねぇ。ま、大したことじゃないなら身構えることもないか。
ティムルに話の先を促す。
「えっとね。あの家の近くに孤児院があるって話はしたわよね?」
そんな話されたっけ? ご近所さんが孤児院くらいしかないって説明は受けたんだったか。
「今日あの家で作業してたらその孤児院のシスターが来てね? 今まで借り手が付いてなかったあの物件の井戸を、孤児院で利用してたんですって言われちゃってさぁ。出来れば今まで通り使わせてもらいたいんだそうよ」
なんだか愚痴を吐くような口調のティムルに少し笑ってしまう。
ふむ……、孤児院のシスターか。ちょっと惹かれる響きだけど、現実はおばあちゃんとかなんだろうなぁ。
「案内した時にも言ったけど、あそこって街外れだから他の井戸はかなり距離があってね。だから孤児院側の事情も分かるんだけどさぁ」
「それは大変ですね。孤児院ということは水汲みするのも子供達なのでしょうし。そういう事情でしたら私は構いませんけど……、ご主人様は気になりますか?」
ニーナ。顔に『使わせてあげて』って書いてあるよ。
ふぅむ。せっかくの専用井戸、他人に使わせるのに抵抗が無いかと言えば嘘になる。
でもどうせ俺たちは日中の間は魔物狩りで出かけてるし、夜にさえ近付かないんだったら俺も気にしないかな? ってことで、今まで通りにしてもらって問題ないよティムル。
「いえ、貴方達2人なら気にしないと思ってたけどね? 流石に家主に黙って私たちで返事するわけにもいかないでしょ」
ああ、そりゃそうだな。俺たちは金を払ってあそこに住む権利を購入した顧客の立場だもんね。
「それにあの家を近所付き合いしなくていい物件として紹介した手前、ちょっと思うところがあるのよねぇ。勝手に利用されてたのも正直気分が良くないし?」
ああ、管理者であるティムルから見たら、無断で井戸を使用されていた事になっちゃうのね。
でもそのまま無断で使い続けないで俺たちにちゃんと話をしに来たあたり、悪い人じゃないと思う。
「分かったよティムル、直接話してみる。相手と会うにはどうすればいいの?」
「ごめん、助かるわ。明日の朝にまたあの家に来るそうだからその時にお願いね。こういったケースは当人同士で話し合うのが一番だから」
確かに当人同士で話し合うべきだよな。ご近所トラブルってコミュニケーション不足から発展したりするらしいし。
さてと、それじゃ明日はご近所さんと初体面か。
井戸を使わせるくらいなら問題ないけど、子供って結構言うこと聞かないからなぁ。なんかの拍子でニーナの呪いに気付かれたら、子供なんてすぐに話を広めてしまいそうでちょっと不安だ。
……そうなったら、最悪マグエルを離れればいいか。支払ったお金は惜しいけれど、俺たちにはマグエルに拘る理由なんてないんだから。
夕食が終わり、ティムルを見送った俺とニーナは、宿の個室に戻って少し相談する。
「そっか。呪いに気付かれる心配があるんだね」
俺の懸念を伝えると、ニーナは意外そうな様子で腕を組み考え込んだ。
呪いのことをあまり気にしなくなってきたのかな? だとしたらいい傾向なんじゃないかと思うけど。
「……でも私たちだけで井戸を使うのも、やっぱり違う気がするよ」
「だよね。俺達2人で使っても正直持て余しちゃうと思うし」
誰より優しいニーナが、見ず知らずとは言え子供に負担をかけて井戸を独占するわけがないよな。たとえ自分がリスクを背負うとしても。
「ま、リスクに関してはある程度諦めよう。俺たちはマグエルに拘る必要もないし、呪いが発覚しても何も変わらないかもしれない。そんな先のこと、今から心配しても仕方ないさ」
俺が考えすぎなだけかもしれないしね。
しっかし、今日は思う存分宿で過ごす最後の夜を満喫するつもりだったのにさぁ。色々と起こって参っちゃうよ、まったく。
「孤児院かぁ。私ずっと隠れて暮らしてたから、自分より小さい子と会った事ないんだ。子供達と仲良くできるか心配だよぅ」
「ニーナは4歳の時からずっと家族だけで暮らしてたんだっけ……」
ニーナの壮絶な過去を想像してしまって気分が落ち込みそうになる。そんな気持ちを振り払うように、あえて楽観的なことを口にする。
「ま、ニーナだったら子供に好かれると思うよ。心配ないさ」
言いながら、不安そうにしているニーナの頭を優しく撫でる。頭以外の場所に手を伸ばすのは自重した。
うーん。ニーナが子供に嫌われるとは思えないけど、俺が子供に嫌われるイメージは簡単に出来てしまうなぁ。この世界の子供ってどんな感じなんだろう……って、ニーナが何かに気付いた様子で大きく目を見開いて震えている。
ニーナ? どうかしたの?
「うん、今ダンに言われてさ。今私、子供達と仲良くなれるかなぁ、って思ったんだって気付いたのっ」
ん? ニーナの言っていることがいまいちピンと来ない。
だけど戸惑う俺に構わず、少し興奮気味にニーナは続ける。
「今までずっと嫌われるのが当たり前で、好かれたいとか、仲良くしたいなんて思ったことなかったのに。今凄く自然に、みんなと仲良くなれるかなぁって、そう思えたのっ」
なるほど。ニーナの言いたいことが分かった気がする。
呪いのせいで誰にも受け入れてもらえなくて辛かった。ニーナはあの日、そう叫んだ。
でも今ニーナは受け入れてもらえない、じゃなくて、受け入れてもらえるかなぁ、って思ってくれたんだ。俺以外の誰かにも歩み寄ろうとしてくれたんだ。
凄く自然にそう思えるくらいにニーナが前向きになってくれたんだと思うと、胸が熱くなる。
「はは。ちょっとだけ惜しい気もするけど、ニーナが俺以外にも興味を持つようになって嬉しいよ」
全てを諦め絶望していた彼女が、世界に期待を持てるようになったなんて、こんなに嬉しい事はない。
あまりの嬉しさに、思わずニーナのことをぎゅっと抱きしめてしまった。
「ニーナが自分のしたいことを少しずつ増やしてくれるのが嬉しい。人の輪に入りたいって思うようになったことが嬉しいなぁ」
「ふふ。そこは俺だけの女でいろって言ってもいいのよ? ご主人様っ」
からかうような笑みを浮かべながら、ニーナの方からもぎゅーっと抱きしめ返してくれる。
もうニーナ。そんなこと言われちゃ話は終わりだからねっ。
明日から自分で洗濯しなきゃいけなくなるんだし、明日はきっと引越しで忙しく、スポットに行く余裕もないだろう。
つまり寝不足でも全然平気。これでもかってくらい夜更かししても大丈夫。
俺だけの女でいろだってぇ? そんなの当たり前だ。存分に思い知らせてやらないとっ。
……ちょっと思い知らせすぎて、ニーナが先に休んでしまった。
スポットでの戦闘は今までと段違いに激しかったし、初ダメージを食らったりして、今日はかなり疲れてたのかもしれないな。たった今トドメを刺したのは俺だけど。
ニーナの寝息をBGMにして、職業設定を使用する。
村人LV10
補正
スキル 経験値自動取得-
商人LV1
補正 幸運上昇-
スキル 目利き
戦士LV16
補正 体力上昇-
スキル 装備品強度上昇-
旅人LV4
補正 持久力上昇-
スキル インベントリ
盗賊LV1
補正 敏捷性上昇
スキル 小型武器使用時敏捷性上昇
殺人者LV1
補正 敏捷性上昇 敏捷性上昇-
スキル 対人攻撃力上昇
賞金稼ぎLV1
補正 敏捷性上昇
スキル 対人防御力上昇
剣士LV1
補正 武器強度上昇-
スキル 斬撃時攻撃力上昇-
短剣使いLV1
補正 敏捷性上昇-
スキル 斬撃時攻撃力上昇-
武道家LV1
補正 敏捷性上昇-
スキル 物理攻撃力上昇
侠客LV1
補正 物理攻撃力上昇 物理防御力上昇 体力上昇- 魔力上昇- 幸運上昇
スキル 陽炎
戦士LV15になった時点で、新しい職業が追加された。
剣士、短剣使いはどんな職業なのか分かりやすいね。もうそのまんまって感じ。
武道家は素手での戦闘職のようだ。
どこかで条件を満たしたのか、必要条件が無いのかは不明。
まぁここまではいいんだよ、ここまでは。
侠客って、なんだ……? 補正が凄まじすぎるんだけど?
これって上位職か、特定の条件を満たさないとなれない特別職だよな? 戦士LV15まで上げることも前提みたいだけど。何かしたっけ、俺?
そもそも侠客ってなんだ?
俺のイメージだと、任侠モノの作品なんかで聞く言葉だよな? そもそも任侠ってなんだ? 仁義のある人?
仁義って、弱気を助け強気を挫く正しい行い?
……あっ、ひょっとして……!?
侠客ってのが正義の味方、みたいな意味を持っているとしたら……。
犯罪者から被害者を助ける事が、前提条件?
つまり、野盗を撃退して、囚われた女性達の救出に成功したから転職の権利を得た……?
う~ん、そうは言っても確かめる術はないかぁ。
まぁ獲得出来ている以上、転職条件は問題じゃない。
問題は、これからどう転職をしていくかだ。
あ~、めちゃくちゃ困ったなぁ。これ、どうやって育成していけばいいんだ?
職業LVMAXで職業スキルと、多分補正も引き継げるようになるんだと思う。
でも特殊な条件を満たさないと転職できない職業は、通常よりも補正が高い傾向にある。
なので手っ取り早く強くなりたいなら、特別職になるべきだ。
しかしここで引継ぎの問題が発生する。
確か野盗でLVが一番高かった奴は、LVが50を越えていたはず……。
つまり特殊な職業は最大レベルになるのに、通常の職業よりも時間がかかってしまうわけだ。
インベントリは言わずもがな、自分への悪意を可視化できるらしい、商人の目利きも欲しいと思ってるのに。
旅人や商人を上げればまた派生職が出るだろうし、更に有用なスキルが出てくるかもしれない……。
ぬおおおどうしようっ!? 単純な戦闘力を伸ばすか、地道に底上げしていくか。何気に究極の選択じゃない!?
くっそ、せめて複数の職業を設定出来れば、特別職の恩恵を受けつつ育成もできたのになぁ……!
村人と戦士の例を考えると、派生職が現れるのはMAXLVの半分の時だと思う。だから恐らく最大レベルが30の戦士はとりあえず上げきるとして……。
そこからどうしよう? あーもう頭が痛いよぉ。
LVが可視化されてて転職も気軽に出来る俺は、この世界の誰よりも恵まれている事は分かってる。
でもなぁ、せめてもう1つ、職業設定できればなぁ。
はああああぁぁぁぁぁ……。ため息が止まらないよぉ……!
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