異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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序章 始まりの日々2 マグエルを目指して

028 いざスポットへ (改)

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 ニーナも気に入ったみたいなので、結局あのボロ屋敷を借りる事にした。

 そもそもニーナがおねだりした時点で、俺に選択肢なんて残ってなかったけどね。


「いやー、まさか本当にあそこを借りてくれるとは思わなかったわよ。ありがとねー、2人ともっ」


 口いっぱいに料理を頬張りながら礼を言ってくるティムル。

 ……なんで普通に宿の夕食に合流してくるんだよ。お前、会長夫人じゃなかったっけ?


「とても良い物件を紹介してもらえて嬉しいです。大切に使わせていただきますね」


 ニコニコしながらティムルにお礼を言うニーナ。

 本当にあの家が気に入ってるんだなぁ。


「さっき2人のステータスプレートを住人として登録させてもらったけど、見た目どおりボロボロだからね……」


 ニーナの感謝に少し苦笑いを浮かべるティムル。

 客側の希望とは言え、自分が紹介した物件の状態が良くないことを気にしているんだろう。


「明日水周りとか炊事場なんかを大工たちにチェックさせるから、入居は明後日以降でお願い。悪いけど1日だけ時間をちょうだいね」


 申し訳なさそうなティムルだけど、本職の人にチェックしてもらえるのはありがたい。


 全体的にボロボロの物件だったけれど、良いところは沢山あった。

 まずは防犯面。鍵はステータスプレート認証式で、ほとんど現代日本みたいなセキュリティ水準だ。

 でもそれより驚いたのはトイレだ。なんとあの家、この世界で初めて見た、水洗トイレだったのだ!


 上水道なんか無いので備え付けのタンクに手動で水を入れなければならないけど、その程度は苦でもない。生活排水用の下水道はあるので流す先にも心配はなさそうだし。


 そして上水道の代わりではないけど、敷地内に屋敷専用の井戸がある。
 明日もう1度チェックしてもらうことになるだろうけど、今日確認した限りでは枯れてなかった。

 井戸が遠いとそれだけで辛い。自宅に井戸があるなんて、この世界では相当な贅沢だ。俺には汲み上げ式のポンプを自作するような知識も無いしね。


 ……あっと、そうだ。あの家には家具も何もなかった。これらもシュパイン商会で揃えられるかな?


「なぁティムル。シュパイン商会って寝具とか調理器具は扱ってる? 出来ればベッドだけでも明日のうちに用意してもらいたいんだけど」


 最優先で揃えるべき家具は勿論ベッドだ!
 家中がボロボロでも、ベッドさえあればやることはやれるからねっ!


「毎度あり~。どっちも扱ってるからひと通り揃えておくわね」


 上機嫌で頷きを返してくるティムル。商売人の顔してるわ。

 今日ティムルと再会した店舗に家具の類いは見つけられなかったけど、大工さんや職人さんと懇意にしてるなら揃えられるんだろうな。


「寝室の場所はどうする? あとベッドは1つでいいの?」


 ティムルからの問いに、隣りに座るニーナを見る。俺の視線の意味を察したニーナは小さく俺に頷いてからティムルに向き合った。

 あの家の内装に関してはニーナに一任しようと思う。あの屋敷に住みたいと言い出したのもニーナだから、彼女の好きにさせてあげたい。


「ベッドは2人用のサイズのを1つ、2階の奥側の、広い方の部屋に運んでおいてください。品質は予算ギリギリまで良い物をお願いします」


 ニーナとティムルが話し合って、必要な物を揃えていく。


 ほとんど廃墟状態のあの家で暮らすためには様々な物を買い揃える必要がある。そのおかげで拠点の準備だけでお金が殆ど無くなってしまったよぉ。

 宿代がかからなくなるから滞在費の心配はないけど……、明日にはスポットに行ってみるべきか?


 新居のことやスポットのことをティムルに相談しながら、3人での夕食を過ごした。



 夕食を終えた俺達はティムルを見送って部屋に戻った。そして休む前のいつものお喋りを楽しむ。

 だけどそんな中、ニーナは少し申し訳なさそうな様子だね?


「なんだか私が押し切っちゃったみたいでごめんね? 今さらだけど、ダンは本当にあの家で大丈夫?」


 あまりわがままを言わないニーナが、俺を押し切ってまで住みたいと思った家なんだ。俺に反対意見なんてあるはずがない。

 反対意見はないけど……、俺って役に立てるのかなぁ?


「俺が心配してるのは、俺が役に立てるかどうかって部分かな。フロイさんに簡単な煮炊きは教わったけど特別料理が出来るわけじゃないし、家事だって簡単なことしかしたことないからねぇ……」


 本当に今更の話になっちゃうけど、今まで日本で何してたんだよって思っちゃうよ。せめて自炊程度はしておくべきだったよなぁ。


「家の修理や庭の手入れも出来ないから、ニーナに沢山負担をかけちゃうと思う。でも少しずつでも家事を覚えたいから、ニーナが教えてくれるかな?」

「ふふ。無理して家のことまでしなくていいんだよっ、ご主人様。でもありがとう。嬉しいっ」


 感謝を口にしながら、俺に抱きついてくるニーナ。いい匂いと柔らかい感触が伝わってくる。


 うん、ニーナもだいぶ肉付きが良くなってきたよなぁ。

 最初の頃は骨が浮き出ていて痛々しく感じられるくらいだったけど、女性らしい丸みを帯びた体に少しずつ変化し始めている気がする。

 ある一点には全く肉がつかずに平らのままなんだけどぉ。恐らくは成長期に栄養が足りてなかったんだろうなぁ。


「ダ~ン~? 今何か失礼なこと考えたでしょー」

「ニーナが健康的になってきて嬉しいって思っただけだよ」


 ニーナの追求を咄嗟に逸らす。何事も物は言いようである。


 さて、明日はどうしようかな。家に入るのは明後日からの予定だし。


「ニーナがどのくらい健康になったのか、明日1日かけて隅々まで徹底的に確認したいんだけどさ。ニーナが良ければ1度、スポットの確認をしてみない?」


 お金に余裕がないのに、ニーナとの情事に溺れるわけにはいかない。
 ニーナを不幸にしない為には、やるべきことはやらないと。


「私が自分じゃ見えないところまで確認してるんだから、確認作業はもう十分でしょっ」


 いいえ、全然足りません。時間も回数も全く足りておりませんが?


「それじゃあ明日はスポットに行こっか。私とダン……、2人だけでも稼げる場所だと良いんだけどねぇ」


 俺もニーナもまだまだ駆け出しもいいところだからなぁ。
 他の人達と比べて、人数的にも経験的にも圧倒的に不利な俺達でどのくらい稼げるのか、ニーナは少しだけ不安げだ。


「マグエルのお店とか市場なんかも見てみたいけど、シュパイン商会で大体の物が揃いそうだから……、これは明日じゃなくてもいいかなぁ?」


 そうだね。市場に行くのも、明日スポットを覗いて収入のあてが出来てからのほうがいいと思うよ。金欠のまま市場に行っても何も買えないもん。

 ニーナの同意も得られたので、明日は早速スポットの中に入ってみる事に決定だ。


「それじゃ明日の予定も決まったところで、もうちょっと夜更かしに付き合ってもらえる? 宿を出たら毎朝洗濯する羽目になりそうだしねぇ」

「明日はスポットに行くんだからほどほどにね?」


 少しだけ呆れたような様子を見せながらも、俺を迎え入れてくれるニーナ。


「んー、ダンにはまず洗濯を覚えてもらうのが良さそうかな。ベッドも大きいサイズで頼んじゃったしっ」


 うん。それくらいはさせてもらうよ。だからご指導ご鞭撻のほどよろしくね?


 さぁて、明日のために、今晩は思い切り英気を養うぞぉっ。
 宿に滞在中は思い切りベッドを汚させていただきますっ。宿の皆さんごめんなさい。





 翌朝、ニーナと朝食を済ませて、早速スポットに向かう。


 スポットとは、マグエルの西側に広がる屋外型のアウターだ。端から端までの直線距離は馬で3日くらいの範囲という話だけど、正確な距離は分からない。

 スポットの東西南北それぞれに街があって、多くの魔物狩りで賑っているらしい。


 出現する魔物は場所によって変わり、スポットの中心に近付くほどに強力な魔物が出るようになるそうだ。

 スポット初心者で2人しかいない俺たちは、日帰りできる距離より先には決して進んじゃだめだからねっ、とティムルに強く念を押されてしまった。


 マグエルの街から出て、西に向かっていつものジョギング移動。
 なんかステイルークを出てから、西にばっかり移動してきた気がするなぁ。

 すっかりお馴染みとなったジョギング移動だけど、マグエルまでの旅と違って荷物が最小限なので体が軽い。



 体感で1時間程度移動すると、スポットの目の前に到着した。

 ニーナと一緒に足を止めて、眼前の光景に息を飲む。


「これが、スポットですか……。凄まじいですね……」

「遠くからも見えてたけど、目の前で見ると圧巻だねぇ……。これ、どうなってるんだろ?」


 目の前には、霧で出来た壁が立ちはだかる。
 これはもう霧の壁というか、雲の中に入っていくイメージだ。

 スポットは大気中の魔力が過剰なくらいに溢れている場所で、その魔力が霧状になって大地を覆い、その霧が空の雲まで到達している。


 その光景はまるで、雲によって世界が切り取られてしまっているみたいに思えた。


 中に入る前に、霧の壁に軽く触れてみる。が何の感触はない。

 ……ここで怖気づいても仕方ないな。覚悟を決めよう。


 逸れないよう念のためニーナと手を繋いでから、意を決して雲の中に足を踏み入れた。


 ……なんともない、な? ニーナとも逸れていない。
 心配していたように壁にぶつかったりすることもなく、無事スポット内に侵入できたようだ。


「うん。何の問題もなく侵入できたね。外からは中が見えなかったのに、中ではまったく視界不良を感じないねぇ」


 スポットの内部は見渡しの良い平原という感じかな。魔物の奇襲を受ける心配はないけど、大きい群れに囲まれた場合は常に背中を晒すことになりそうだ。


「どういう原理なんでしょうねこれ。迷う心配がないのはありがたいですけど。スポットの内部だけでなくて、スポットの外側も見えるのは本当に不思議です」


 外からスポット内部は見えなかったのに、内部は驚くほどに視界良好だ。そしてなぜか、内部からスポットの外を見ることは出来るみたいだな。
 意味が分からないけれど、異世界なんだしそういうものだと割り切ろう。


 この視界なら逸れる心配もなさそうなので、ニーナの手を離して先に進む。



 周囲を警戒しながら歩いていると、隣りを歩くニーナが突然身構えた。


「ご主人様、きます!」


 ニーナから発せられる短く強い警告。

 ニーナの示す方向に目を向ける。視線の先からは色々な魔物がこっちに向かってきているようだ。


 ……いきなり乱戦か! 覚悟を決めろよ、俺っ! まずは魔物を鑑定だ!



 ホワイトラビットLV3 ホワイトラビットLV2

 ナイトウルフLV1

 ナイトシャドウLV8 ナイトシャドウLV2

 グリーンキャタピラLV3

 ブルーフィッシュLV3 

 レッドスプライトLV1



 8体っ……! 多いな!

 だが泣き言を言っても仕方ない。向かってくるなら全部倒すまでだっ!


「背中を見せないように気をつけて! ニーナはホワイトラビット優先でお願い!」


 ニーナに素早く指示を出して、一直線に突っ込んできたカツオくらいの大きさの青い魚、ブルーフィッシュの突進を盾で受ける。

 止まったブルーフィッシュの胴体目掛けて、右手のロングソードを振り下ろす。手応えあり!

 空飛ぶカツオは、1撃で真っ二つになったようだ。


「ガアァッ」


 聞き慣れた声がした方向に盾を構えて、噛み付いてきたナイトウルフを盾で受け止める。そしてそのまま盾を押し込みナイトウルフを地面に押さえつけ、がら空きの胴体にロングソードで何度も切りつける。

 これはマグエルまでの道中に覚えた方法だ。1撃で倒せないなら、動きを封じてしまえばいいじゃない戦法。


「ご主人様! 前をっ! 魔法です!」


 ニーナの声に顔を上げると、目の前に火の玉が飛んできていた。


「うおっとぉ!」


 反射的に盾で受けることに成功。ダメージはない。


 火の玉の飛んできた方向を確認すると、ボウリングの玉くらいの大きさの火の玉、レッドスプライトがいた。

 アイツ、魔法を使ってくるのかっ。


 遠距離攻撃持ちを優先して処理したいけど、このタイミングでホワイトラビットご一行のご到着。親の顔より見た突進攻撃を躱しながら、カウンター気味にロングソードで切り払う。

 今の俺にはまだ1撃では倒しきれないけど、コイツらはニーナに任せるっ。


 牛みたいなサイズの緑のイモムシ、グリーンキャタビラーと、2体のナイトシャドウが到着したのはほぼ同時。

 どっちを優先すべきか。そんな風に迷って動きを止めるのが1番危険だ。だから耐久力が低いことが分かっているLV8ナイトシャドウにロングソードを叩き込む!

 LV8ナイトシャドウはその1撃で煙となって消えていく。LV8でも1撃で倒せる模様。


 返す刀でもう1体のナイトシャドウを切り捨てて、グリーンキャタピラの噛み付きを回避する。


「っがぁ!?」


 その時、全身に衝撃が走る。

 くっそ、ダメージかっ……!

 グリーンキャタピラの攻撃は避けたはず。どこから……、ってナイトウルフか!


 反撃しようと駆け出そうとした時に、その出鼻を挫く様に飛んでくる火の玉。


「邪魔だぁ!」


 盾で火の玉を殴り捨てる。


「きゃあああっ」

「ニーナ!?」


 突然のニーナの悲鳴に、彼女の様子を遠目で窺う。
 ホワイトラビット2体を相手にしていたところに、後ろからグリーンキャタピラに体当たりされたようだ。

 俺が捌ききれなかったせいでニーナが……、くそ!


 ニーナに駆け寄ろうとした俺の前に、ナイトウルフが立ちふさがる。
 
 お前に構ってる暇はないんだよぉっ!

 駆け出したその足でナイトウルフの頭を踏みつけてスルー。ニーナの元に急ぐ。


 目の前には、今まさにニーナに突進しようとしているホワイトラビット。

 させねぇよっ!

 その無防備な背後をロングソードで突き刺しホワイトラビットを仕留める。そして勢いそのままグリーンキャタピラに体当たりして、魔物の気を引く。


「ニーナ! 動けるか!?」

「は、はい! 大丈夫……ダンっ、後ろ!」


 ニーナの警告。

 直後聞こえる聞き慣れた鳴き声。


「ガアァッ!」


 うるせぇワンパターン野郎! 犬だけに!
 バカみたいに開いた口の中にロングソードを突き入れてやると、ようやく死んでくれたようだ。ざまぁっ!

 なんて気を抜いた瞬間、体中に激痛が走る。



「ぐあああああっ」


 痛みの中で体中に纏わりつく火の粉を見て、自分が何をされたのか察する。

 くっそ! レッドスプライトの攻撃魔法か……!


「ダ、ダンっ!? 大じょ……」

「ニーナはホワイトラビットを頼んだ!」


 ダメージは受けたけど、まだ問題なく動ける。

 ニーナに短く指示を飛ばしながら、傍にいたグリーンキャタピラを斬りつけて、ニーナから俺に意識を向けさせる。


 グリーンキャタピラの反応を確認するのは後にして、レッドスプライトに突撃。

 しかし相手のほうが一手早く、レッドスプライトの正面の空気が揺らぐ。

 なるほど、これが発射の予兆か……。でも喰らうかよぉ!

 撃ち出された火の玉を盾で正面から殴りつけ、そのままレッドスプライトを両断する。どうやらこいつも1撃で倒せるらしいね。


 残ったグリーンキャタピラを処理しようと振り返ると、ホワイトラビットを倒し終えたニーナが既に1人で相手をしていた。
 グリーンキャタピラの背後から強襲し、改めて注意を引く。

 ニーナと2人で前後から波状攻撃を仕掛けてグリーンキャタピラを仕留めた。


 ふう……。グリーンキャタピラはかなりタフな魔物みたいだな。


 周囲を見回す。残敵無し。

 大分苦戦しちゃったけど、何とか勝利を収めることが出来たようだ。


「ニーナ、大丈夫?」

「うん、取り乱してごめんね?」


 軽く頭を下げてくるニーナに目立った外傷は見られない。HPが尽きる前に倒せたのかな。


「まともに攻撃を受けたの初めてだったからちょっと動揺しちゃった。うん、もう大丈夫。大丈夫ですご主人様」


 自分の体調と口調を確かめ、奴隷モードに戻るニーナ。

 見た感じ心配なさそうだけど、ニーナにはこのまま少し休んでいてもらおう。


「ドロップアイテムの回収は俺がやるよ。ニーナはそのまま周囲の警戒をお願い」


 ニーナが頷いたのを確認して、散らばったドロップアイテムの回収に向かう。

 いくつか初めて見るアイテムもあるので、さっそく鑑定してみる。



 切り身


 着火石



 切り身って……。
 ブルーフィッシュのドロップかこれは。

 魚は切り身の状態で泳いでるとかいうネタがあったけど、これじゃネタがマジになってしまうぞ。


 着火石は雑貨屋でも見かけたな。名前通り火をつける時に使う道具だ。

 ただし手の平サイズで使い捨てのアイテムなので、大量に持ち運べるマジックアイテムであるマッチと比べてちょっと使いにくいんだよね。重いし。

 回収したアイテムをニーナに渡し、インベントリに収納してもらった。


 さて、なんとか初陣を勝利で飾ることには成功したけれど……。

 スポットでの戦闘はこれが基本になってくると思うと、なかなかにハードな日々になりそうだ。戦士のLVが上がればもう少し楽になってくれると思うけど……。


 まだまだ自分が実力不足であると痛感してしまう。

 ……もっと、強くならなきゃなぁ。
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