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未開の地で
67 召魔獣⑤ (改)
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「すっげぇ……。けど、ここでボーっとしててもしかたねぇか」
嵐のように攻撃魔法が吹き荒れる場所で、前衛が出来ることなど何もない。
ここは一旦持ち場に下がることにして、ウィルと合流しよう。
「っと、居た居た」
魔力感知を使って、少し離れた場所で俺と同じように呆然と攻撃魔法の暴風を見詰めるウィルを見つける。
ミシェル並の魔力を持ってる奴なんてウィルしかいねぇからな。分かりやすいぜ。
「心配はしてなかったけど無事で良かった。よく戦ったなウィル!」
「あ、ああ……。それはいいんだけどさ……。攻撃魔法って凄ぇんだな……」
今まで頑なに剣の腕に拘っていたウィルが、初めて目の当たりにする本格的な攻撃魔法の威力に絶句している。
「お前が望めばこれも覚えられるんだぜ? 剣だけに固執するのは勿体無いと思うがな」
「この力を、俺が……」
「まぁいい。考えるのは後だ。今はミシェルの護衛に戻るぞウィル。まだ討伐は完了してねぇんだからな」
「あ、ああそうだな。考えるのは後にするよ……。それどころじゃないもんな……」
少し反応は鈍いが、ちゃんと俺についてきてくれるみたいだな。
これでウィルも攻撃魔法の習得に興味を持ってくれたら、マジで将来は英雄視されるような冒険者に成長するかもしれねぇ。
……逆に攻撃魔法に傾倒しすぎて、剣の腕を疎かにしかねねぇ懸念もあるけどよ。
ウィルの将来に期待を不安を抱きながら、ミシェルのところに急いで戻った。
「ちっ……! 不味いな!」
ミシェルのところに戻ると、レオナが地面にへたり込んでいて、指揮官である筈のパメラもその場に同席していた。
そして攻撃魔法を討伐隊に任せたミシェルが、再度閃天雷火を放つ為に呪文詠唱を行っているところだった。
「パメラ! ミシェル! 呪文詠唱は一旦中止してくれ! 話があるんだ!」
「ソイル!? お前さっきの指示は……、いやそれよりも呪文詠唱を中止しろとはどういうことだ!?」
集中状態に入っているミシェルには俺の言葉は届かなかったようで、まだ呪文詠唱を継続している。
そんなミシェルの呪文詠唱を中断させようとする俺に、物凄い剣幕で詰め寄ってくるパメラ。
「ミシェル様の呪文詠唱が召魔獣にも通じたのはお前も見ただろう!? なのに何故中止する!? 最早討伐隊にも余力は残されていない、一刻も早く召魔獣を討伐しなけ……」
「召魔獣は体内にあの黒い渦、召魔の門を宿してるんだよ! 1撃で倒せないなら魔法は逆効果なんだパメラ!」
「たっ、体内に……、召魔の門、だとぉっ……!?」
召魔の門から現れたと思われる召魔獣。
その体内にはあの黒い渦と同じ魔力反応が渦巻いていやがるんだ。
今とんでもない数のモンスターが召魔獣から飛び出してきているのは、ミシェルの呪文詠唱の魔力をモンスターの召喚に転用してやがるからなんだよ!
「モンスターが湧き出る瞬間、奴の体内に燻っていたミシェルの魔力が召魔獣の中心に吸い込まれていくのが感じられた。奴の体内の中心にはあの黒い渦があって、奴の体は渦を守る鎧の役割を果たしてやがるんだよ!」
「召魔獣が……召魔の門を守る鎧……!? いやそれよりも不味い! ミシェル様っ! ミシェル様ーっ!」
俺の言葉を信じきれていない様子のパメラだったが、それでもミシェルの呪文詠唱と今のモンスター召喚の勢いに関連性は感じたのだろう。
トランス状態のミシェルの肩を掴んで、強引に呪文詠唱を中断させようとしている。
あそこまでしないと止められないのか……。
毎回ミシェルはあれほどの集中状態で呪文詠唱を行使していたんだな……。
「うあっ……! はぁっ! はぁっ! はぁっ! はぁっ! ぐぅぅ……!」
「くっ……! 本当に申し訳ありませんミシェル様……! しかしどうしてもお止めせざるを得ず……!」
呪文詠唱の中断には成功したが、膨大な魔力の操作を無理矢理止めてしまったことでミシェルは激しく消耗し、地面に膝をついて荒い呼吸を繰り返している。
あの様子じゃ少し休ませるしかないか。介抱はパメラに任せよう。
ウィルにミシェルとパメラの護衛を任せ、俺は滝のような汗を流しながら地面にへたり込んでいるレオナに声をかけた。
「大丈夫かレオナ?」
「あ……、ソイルさん。無事だったんですね……」
「ああ、お前のおかげでな」
弱々しくも反応してくれるレオナ。
怪我をしている様子は無いから、これは恐らく魔力枯渇を起こしてしまっているんだろうな。
「マジ助かったぜレオナ。お前は命の恩人だよ、ありがとうな」
「いえ……お役に立ててよかったです……」
「だけどなんでレオナがあんな場所にいたんだ? 後衛の魔法使いたちと一緒にいるもんだとばかり思ってたんだがな? まぁそのおかげで命拾いしたんだけどよっ」
攻撃魔法使いはミシェルよりも更に後方に居たはずだ。
というかミシェルが後衛の癖に前に出過ぎていただけなんだがな。
後衛が事態を把握して、そこから魔法を準備してモンスターをなぎ払うまでにはもう少し時間がかかると思っていた。
だがレオナが先んじてファイアストームを放ってくれたおかげで、前線が崩れずに済んで後衛たちの態勢が整うまで持ち堪えられたんだ。
「私も後ろで待機してましたけど、その時ソイルさんの叫び声が聞こえて……、ただ事じゃないなって思ったんです……。それで前衛に下がれって言ってたので、攻撃魔法の出番かなって……」
「ははっ! 完璧な判断力じゃねぇか! お前本当にCクラスかよ!? よくそこまで分かったな!?」
「分かりますよ。防衛拠点でもずっと一緒でしたから……。ソイルさんがあんなに切羽詰っているのは初めて見ましたから、それだけ危険な状態だなって思って……」
よほど魔力枯渇が酷いのか、目を潤ませて頬は微妙に赤くなっている。熱でもあるのかもしれねぇな。
でも今は移動させている余裕も無いか。レオナには申し訳ねぇがここで休んでてもらうしかねぇな。
俺に出来るのは、気を紛らわせてリラックスさせてやることぐらいか。
「マジで紙一重だったぜ。パメラの指示を待ってたら間に合わねぇとこだった。無事にサイザスに帰ったら一緒に夕食でもいかねぇか? 礼代わりに1杯奢らせてくれよ」
「ほほほっ、ほんとですかっ……! いいいっいきますいきますっ……! 絶対いきますぅぅっ……!」
「ソイルー! 作戦の立て直しだ! お前の意見も聞きたい! すぐに来てくれ!」
おっと、パメラが俺を呼んでいるな。直ぐに行かねぇと。
「動けないと思うからここで休んでてくれ。絶対にここまでモンスターを通したりはしない、お前のことは絶対に守ってやるからな。安心して休んでろ」
「あっ……!」
レオナを安心させるために守ってやるからと約束し、彼女の返事を待たずに駆け出した。
……しかし作戦の立て直しか。それ自体は賛成だが、どうやったらあの亀野郎を倒せるんだ?
直接攻撃は硬い外皮に阻まれ、呪文詠唱でも仕留め切れない。
そして仕留めきれないと、呪文詠唱の莫大な魔力を使って大量のモンスターを呼ばれちまう。
正直言って、召魔獣を倒す方法が全く思いつかねぇんだがなぁ……。
頭に纏わりつき始めた諦念を振り払うように、ミシェルとパメラの下に急ぐのだった。
嵐のように攻撃魔法が吹き荒れる場所で、前衛が出来ることなど何もない。
ここは一旦持ち場に下がることにして、ウィルと合流しよう。
「っと、居た居た」
魔力感知を使って、少し離れた場所で俺と同じように呆然と攻撃魔法の暴風を見詰めるウィルを見つける。
ミシェル並の魔力を持ってる奴なんてウィルしかいねぇからな。分かりやすいぜ。
「心配はしてなかったけど無事で良かった。よく戦ったなウィル!」
「あ、ああ……。それはいいんだけどさ……。攻撃魔法って凄ぇんだな……」
今まで頑なに剣の腕に拘っていたウィルが、初めて目の当たりにする本格的な攻撃魔法の威力に絶句している。
「お前が望めばこれも覚えられるんだぜ? 剣だけに固執するのは勿体無いと思うがな」
「この力を、俺が……」
「まぁいい。考えるのは後だ。今はミシェルの護衛に戻るぞウィル。まだ討伐は完了してねぇんだからな」
「あ、ああそうだな。考えるのは後にするよ……。それどころじゃないもんな……」
少し反応は鈍いが、ちゃんと俺についてきてくれるみたいだな。
これでウィルも攻撃魔法の習得に興味を持ってくれたら、マジで将来は英雄視されるような冒険者に成長するかもしれねぇ。
……逆に攻撃魔法に傾倒しすぎて、剣の腕を疎かにしかねねぇ懸念もあるけどよ。
ウィルの将来に期待を不安を抱きながら、ミシェルのところに急いで戻った。
「ちっ……! 不味いな!」
ミシェルのところに戻ると、レオナが地面にへたり込んでいて、指揮官である筈のパメラもその場に同席していた。
そして攻撃魔法を討伐隊に任せたミシェルが、再度閃天雷火を放つ為に呪文詠唱を行っているところだった。
「パメラ! ミシェル! 呪文詠唱は一旦中止してくれ! 話があるんだ!」
「ソイル!? お前さっきの指示は……、いやそれよりも呪文詠唱を中止しろとはどういうことだ!?」
集中状態に入っているミシェルには俺の言葉は届かなかったようで、まだ呪文詠唱を継続している。
そんなミシェルの呪文詠唱を中断させようとする俺に、物凄い剣幕で詰め寄ってくるパメラ。
「ミシェル様の呪文詠唱が召魔獣にも通じたのはお前も見ただろう!? なのに何故中止する!? 最早討伐隊にも余力は残されていない、一刻も早く召魔獣を討伐しなけ……」
「召魔獣は体内にあの黒い渦、召魔の門を宿してるんだよ! 1撃で倒せないなら魔法は逆効果なんだパメラ!」
「たっ、体内に……、召魔の門、だとぉっ……!?」
召魔の門から現れたと思われる召魔獣。
その体内にはあの黒い渦と同じ魔力反応が渦巻いていやがるんだ。
今とんでもない数のモンスターが召魔獣から飛び出してきているのは、ミシェルの呪文詠唱の魔力をモンスターの召喚に転用してやがるからなんだよ!
「モンスターが湧き出る瞬間、奴の体内に燻っていたミシェルの魔力が召魔獣の中心に吸い込まれていくのが感じられた。奴の体内の中心にはあの黒い渦があって、奴の体は渦を守る鎧の役割を果たしてやがるんだよ!」
「召魔獣が……召魔の門を守る鎧……!? いやそれよりも不味い! ミシェル様っ! ミシェル様ーっ!」
俺の言葉を信じきれていない様子のパメラだったが、それでもミシェルの呪文詠唱と今のモンスター召喚の勢いに関連性は感じたのだろう。
トランス状態のミシェルの肩を掴んで、強引に呪文詠唱を中断させようとしている。
あそこまでしないと止められないのか……。
毎回ミシェルはあれほどの集中状態で呪文詠唱を行使していたんだな……。
「うあっ……! はぁっ! はぁっ! はぁっ! はぁっ! ぐぅぅ……!」
「くっ……! 本当に申し訳ありませんミシェル様……! しかしどうしてもお止めせざるを得ず……!」
呪文詠唱の中断には成功したが、膨大な魔力の操作を無理矢理止めてしまったことでミシェルは激しく消耗し、地面に膝をついて荒い呼吸を繰り返している。
あの様子じゃ少し休ませるしかないか。介抱はパメラに任せよう。
ウィルにミシェルとパメラの護衛を任せ、俺は滝のような汗を流しながら地面にへたり込んでいるレオナに声をかけた。
「大丈夫かレオナ?」
「あ……、ソイルさん。無事だったんですね……」
「ああ、お前のおかげでな」
弱々しくも反応してくれるレオナ。
怪我をしている様子は無いから、これは恐らく魔力枯渇を起こしてしまっているんだろうな。
「マジ助かったぜレオナ。お前は命の恩人だよ、ありがとうな」
「いえ……お役に立ててよかったです……」
「だけどなんでレオナがあんな場所にいたんだ? 後衛の魔法使いたちと一緒にいるもんだとばかり思ってたんだがな? まぁそのおかげで命拾いしたんだけどよっ」
攻撃魔法使いはミシェルよりも更に後方に居たはずだ。
というかミシェルが後衛の癖に前に出過ぎていただけなんだがな。
後衛が事態を把握して、そこから魔法を準備してモンスターをなぎ払うまでにはもう少し時間がかかると思っていた。
だがレオナが先んじてファイアストームを放ってくれたおかげで、前線が崩れずに済んで後衛たちの態勢が整うまで持ち堪えられたんだ。
「私も後ろで待機してましたけど、その時ソイルさんの叫び声が聞こえて……、ただ事じゃないなって思ったんです……。それで前衛に下がれって言ってたので、攻撃魔法の出番かなって……」
「ははっ! 完璧な判断力じゃねぇか! お前本当にCクラスかよ!? よくそこまで分かったな!?」
「分かりますよ。防衛拠点でもずっと一緒でしたから……。ソイルさんがあんなに切羽詰っているのは初めて見ましたから、それだけ危険な状態だなって思って……」
よほど魔力枯渇が酷いのか、目を潤ませて頬は微妙に赤くなっている。熱でもあるのかもしれねぇな。
でも今は移動させている余裕も無いか。レオナには申し訳ねぇがここで休んでてもらうしかねぇな。
俺に出来るのは、気を紛らわせてリラックスさせてやることぐらいか。
「マジで紙一重だったぜ。パメラの指示を待ってたら間に合わねぇとこだった。無事にサイザスに帰ったら一緒に夕食でもいかねぇか? 礼代わりに1杯奢らせてくれよ」
「ほほほっ、ほんとですかっ……! いいいっいきますいきますっ……! 絶対いきますぅぅっ……!」
「ソイルー! 作戦の立て直しだ! お前の意見も聞きたい! すぐに来てくれ!」
おっと、パメラが俺を呼んでいるな。直ぐに行かねぇと。
「動けないと思うからここで休んでてくれ。絶対にここまでモンスターを通したりはしない、お前のことは絶対に守ってやるからな。安心して休んでろ」
「あっ……!」
レオナを安心させるために守ってやるからと約束し、彼女の返事を待たずに駆け出した。
……しかし作戦の立て直しか。それ自体は賛成だが、どうやったらあの亀野郎を倒せるんだ?
直接攻撃は硬い外皮に阻まれ、呪文詠唱でも仕留め切れない。
そして仕留めきれないと、呪文詠唱の莫大な魔力を使って大量のモンスターを呼ばれちまう。
正直言って、召魔獣を倒す方法が全く思いつかねぇんだがなぁ……。
頭に纏わりつき始めた諦念を振り払うように、ミシェルとパメラの下に急ぐのだった。
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