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未開の地で
66 召魔獣④ (改)
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ミシェルの呪文詠唱でも滅ぼしきれなかった召魔獣。
その巨体を前に、俺は何も出来ずにいる自分の無力さに歯噛みする。
「くそ……! これじゃ以前の俺と何も変わらないじゃねぇか……!」
指揮を任されているパメラですら前線で攻撃に加わっているってのに、俺はこんなところで指を咥えて見てるだけでいいのかよ……!?
確かにミシェルの護衛は必要だ。
だけど敵は目の前の召魔獣だけなんだから、召魔獣に攻撃を仕掛ける分には問題はないはずじゃねぇのか……?
「ソイル! 召魔獣の様子がおかしい! 何が起きてるんだっ!?」
「っ……!?」
共にミシェルの護衛を担当しているウィルが、切羽詰った声で俺を呼ぶ。
その声で我に返った俺は、召魔獣の体から異常な魔力反応が出ている事に今更ながら気付かされる。
「野郎……! 何をする気だ……!?」
前線に向かって目を凝らすと、全身から白い煙を上げながら前衛職の冒険者に切りつけられている召魔獣が、丸くなって小刻みに震え出していた。
明らかに様子がおかしい。
くっ……! 戦闘中に考え事なんてしてる場合かよっ……!?
自分の失態に毒づきながら、召魔獣に何が起こっているのか探る為、集中力を高めて魔力感知の精度を上げる。
召魔獣の体内から感じる膨大な魔力に圧倒されそうになるが、今重要なのはこれじゃない。
召魔獣の体の中心、人間なら心臓があるあたりに、強大な魔力が渦巻いているのが分かる。
そしてその魔力の塊は、召魔獣の体内で未だ燻っているミシェルの閃天雷火の魔力を取り込み、少しずつ膨れ上がって……。
「――――まずいっ!! 前衛っ! パメラっ!! 下がれーーっ!! 全力で後退しろーーっ!!」
「ソイッ……!? いや! 前衛職下がれっ! 後退せよーーーっ!!」
俺の叫びを聞き届けたパメラは、理由も聞かずに俺の指示に従い、即座に前衛の後退指示を出してくれる。ありがてぇ!
……が、それだけじゃまだ足りねぇ!
俺が指示を出しても誰も聞いちゃくれねぇだろうから、パメラに聞かせるつもりで大声を張り上げる。
「魔法使いは攻撃魔法の準備! ミシェル! 呪文詠唱を中断してお前も殲滅に参加してくれっ! くるぞぉっ!!」
「魔法使いは攻撃準備!! いそっ……」
俺の言葉を即座に引き継いでくれたパメラが声を上げた瞬間、召魔獣の全身から凄まじい勢いでモンスターが溢れ出した。
その勢いはさっきまでの比じゃねぇ!
だけどここを凌ぐしか……、攻撃魔法の準備が整うまで前衛だけで凌ぐしかねぇんだよぉっ!
「行くぞウィル! ミシェルだけを守ってる場合じゃねぇ!」
「えっ!? いっ、いいのかっ!?」
駆け出しながらウィルに声をかけると、戸惑いながらも1歩遅れてついてきてくれる。
「後衛の魔法の準備が整うまで、ここは俺達前衛だけで凌ぐしかねぇ! 頼りにしてるぜ、死ぬなよウィル!」
「ちっ! なにが起きたのか分からねぇけど了解! 要は出てきたモンスターを片っ端からぶっ殺せばいいんだろぉっ!?」
ウィルと叫び合いながら、既に大混戦の様相を呈している前線に2人で突っ込む。
突然の事態に一瞬乱れかけた前線だったが、パメラの指示で距離を取っていたおかげで、奇跡的に崩れずに済んだようだ。
大量のモンスター相手に踏み止まって、前線を支えてくれている。
「1匹足りとも通してたまるかよぉぉぉっ!!」
ミスリルの剣を抜き放ち、近場にいるモンスターを片っ端から切り捨てる。
しかしいくら切り捨てても、召魔獣の体から際限なく凄まじい勢いでモンスターが生まれ続ける。
だがベテラン揃いの討伐隊は、それでも何とか持ち堪えてくれている。
高クラス冒険者たちの実力に頼もしさを覚えると共に、攻撃魔法無しでは処理しきれないモンスターの波に、少しずつ前線が押され始めているのも感じる。
「くそったれぇっ! 死ねっ! 死ねっ! 死ねぇーーっ!」
魔力感知をフルに活用して最大効率でモンスターを殺し続けても、剣1本で出来ることなど限られている。
モンスターの波から後衛を守るどころか、戦線を維持することすら出来やしねぇ……!
結局俺は無能なままなのかよっ!? くそっ! くっそおおおおっ!
「ファイアストーム!」
響き渡る声と共に、召魔獣と前線の間に巨大な炎の壁が出現する。
その炎の壁は召魔獣と冒険者の間を隔て、モンスターの波を一瞬寸断してくれた。
「長くは持ちません! 今のうちに何とか態勢をっ……!」
聞き覚えのある声に目を向けると、必死の形相で杖を翳しているレオナの姿があった。
Cクラスのレオナがなんでこんなに前に!? いや、今はそんなことどうでもいい!
「ナイスだレオナ! 前衛ども! 今のうちに数を減らすぞぉぉぉっ!」
「「「うおおおおおおおおおっっ!!」」」
押され気味だった状況が好転したことで、絶望しかけていた前衛たちの士気も上がったようだ。
炎の壁に寸断されて勢いを失ったモンスター達を、まるで鬱憤を晴らすかのように乱暴に蹴散らしていく前衛たち。
「レオナ! もう充分よ! ここからは私が引き継ぐわっ! ファイアストーム!」
レオナが生み出した炎の壁と入れ替わるように、威力も範囲も段違いの炎の波がモンスターたちに襲い掛かる。
モンスター達を撃退しながらレオナが居た方に目を向けると、地面に膝をついているレオナと、レオナの代わりに杖を翳しているミシェルの姿が目に映った。
ミシェルの攻撃魔法のおかげで、モンスターたちは急速に勢いを失っていく。
しかし、召魔獣からのモンスター召喚自体は未だに止まっていない。
死力を尽くしているのに結局ジリ貧じゃねぇか……! 厄介すぎる相手だぜぇ……!
「前衛は戦線を維持しつつ後退! ミシェル様! 後衛の魔法の準備が整いました! 私の合図で交代してください!」
そこに魔法使い達を連れたパメラが現れ、ミシェルと交替して後衛による一斉攻撃魔法攻撃を開始する。
「モンスターの波が止まるまで撃ち続けよ! 決して攻撃の手を緩めてはならない! 焼き払えぇぇっ!」
目の前でモンスターと攻撃魔法が衝突し、凄まじい爆発が発生している。
なんなんだこりゃ! まるで戦争じゃねぇか! たった1匹のモンスター相手にこんな……!
まだ討伐の糸口も掴めちゃいないが、なんとか態勢を立て直した討伐隊。
俺は爆炎と轟音が響き渡る戦場で、爆発の向こうで召魔獣の魔力が不気味に蠢いているのを感じていた。
その巨体を前に、俺は何も出来ずにいる自分の無力さに歯噛みする。
「くそ……! これじゃ以前の俺と何も変わらないじゃねぇか……!」
指揮を任されているパメラですら前線で攻撃に加わっているってのに、俺はこんなところで指を咥えて見てるだけでいいのかよ……!?
確かにミシェルの護衛は必要だ。
だけど敵は目の前の召魔獣だけなんだから、召魔獣に攻撃を仕掛ける分には問題はないはずじゃねぇのか……?
「ソイル! 召魔獣の様子がおかしい! 何が起きてるんだっ!?」
「っ……!?」
共にミシェルの護衛を担当しているウィルが、切羽詰った声で俺を呼ぶ。
その声で我に返った俺は、召魔獣の体から異常な魔力反応が出ている事に今更ながら気付かされる。
「野郎……! 何をする気だ……!?」
前線に向かって目を凝らすと、全身から白い煙を上げながら前衛職の冒険者に切りつけられている召魔獣が、丸くなって小刻みに震え出していた。
明らかに様子がおかしい。
くっ……! 戦闘中に考え事なんてしてる場合かよっ……!?
自分の失態に毒づきながら、召魔獣に何が起こっているのか探る為、集中力を高めて魔力感知の精度を上げる。
召魔獣の体内から感じる膨大な魔力に圧倒されそうになるが、今重要なのはこれじゃない。
召魔獣の体の中心、人間なら心臓があるあたりに、強大な魔力が渦巻いているのが分かる。
そしてその魔力の塊は、召魔獣の体内で未だ燻っているミシェルの閃天雷火の魔力を取り込み、少しずつ膨れ上がって……。
「――――まずいっ!! 前衛っ! パメラっ!! 下がれーーっ!! 全力で後退しろーーっ!!」
「ソイッ……!? いや! 前衛職下がれっ! 後退せよーーーっ!!」
俺の叫びを聞き届けたパメラは、理由も聞かずに俺の指示に従い、即座に前衛の後退指示を出してくれる。ありがてぇ!
……が、それだけじゃまだ足りねぇ!
俺が指示を出しても誰も聞いちゃくれねぇだろうから、パメラに聞かせるつもりで大声を張り上げる。
「魔法使いは攻撃魔法の準備! ミシェル! 呪文詠唱を中断してお前も殲滅に参加してくれっ! くるぞぉっ!!」
「魔法使いは攻撃準備!! いそっ……」
俺の言葉を即座に引き継いでくれたパメラが声を上げた瞬間、召魔獣の全身から凄まじい勢いでモンスターが溢れ出した。
その勢いはさっきまでの比じゃねぇ!
だけどここを凌ぐしか……、攻撃魔法の準備が整うまで前衛だけで凌ぐしかねぇんだよぉっ!
「行くぞウィル! ミシェルだけを守ってる場合じゃねぇ!」
「えっ!? いっ、いいのかっ!?」
駆け出しながらウィルに声をかけると、戸惑いながらも1歩遅れてついてきてくれる。
「後衛の魔法の準備が整うまで、ここは俺達前衛だけで凌ぐしかねぇ! 頼りにしてるぜ、死ぬなよウィル!」
「ちっ! なにが起きたのか分からねぇけど了解! 要は出てきたモンスターを片っ端からぶっ殺せばいいんだろぉっ!?」
ウィルと叫び合いながら、既に大混戦の様相を呈している前線に2人で突っ込む。
突然の事態に一瞬乱れかけた前線だったが、パメラの指示で距離を取っていたおかげで、奇跡的に崩れずに済んだようだ。
大量のモンスター相手に踏み止まって、前線を支えてくれている。
「1匹足りとも通してたまるかよぉぉぉっ!!」
ミスリルの剣を抜き放ち、近場にいるモンスターを片っ端から切り捨てる。
しかしいくら切り捨てても、召魔獣の体から際限なく凄まじい勢いでモンスターが生まれ続ける。
だがベテラン揃いの討伐隊は、それでも何とか持ち堪えてくれている。
高クラス冒険者たちの実力に頼もしさを覚えると共に、攻撃魔法無しでは処理しきれないモンスターの波に、少しずつ前線が押され始めているのも感じる。
「くそったれぇっ! 死ねっ! 死ねっ! 死ねぇーーっ!」
魔力感知をフルに活用して最大効率でモンスターを殺し続けても、剣1本で出来ることなど限られている。
モンスターの波から後衛を守るどころか、戦線を維持することすら出来やしねぇ……!
結局俺は無能なままなのかよっ!? くそっ! くっそおおおおっ!
「ファイアストーム!」
響き渡る声と共に、召魔獣と前線の間に巨大な炎の壁が出現する。
その炎の壁は召魔獣と冒険者の間を隔て、モンスターの波を一瞬寸断してくれた。
「長くは持ちません! 今のうちに何とか態勢をっ……!」
聞き覚えのある声に目を向けると、必死の形相で杖を翳しているレオナの姿があった。
Cクラスのレオナがなんでこんなに前に!? いや、今はそんなことどうでもいい!
「ナイスだレオナ! 前衛ども! 今のうちに数を減らすぞぉぉぉっ!」
「「「うおおおおおおおおおっっ!!」」」
押され気味だった状況が好転したことで、絶望しかけていた前衛たちの士気も上がったようだ。
炎の壁に寸断されて勢いを失ったモンスター達を、まるで鬱憤を晴らすかのように乱暴に蹴散らしていく前衛たち。
「レオナ! もう充分よ! ここからは私が引き継ぐわっ! ファイアストーム!」
レオナが生み出した炎の壁と入れ替わるように、威力も範囲も段違いの炎の波がモンスターたちに襲い掛かる。
モンスター達を撃退しながらレオナが居た方に目を向けると、地面に膝をついているレオナと、レオナの代わりに杖を翳しているミシェルの姿が目に映った。
ミシェルの攻撃魔法のおかげで、モンスターたちは急速に勢いを失っていく。
しかし、召魔獣からのモンスター召喚自体は未だに止まっていない。
死力を尽くしているのに結局ジリ貧じゃねぇか……! 厄介すぎる相手だぜぇ……!
「前衛は戦線を維持しつつ後退! ミシェル様! 後衛の魔法の準備が整いました! 私の合図で交代してください!」
そこに魔法使い達を連れたパメラが現れ、ミシェルと交替して後衛による一斉攻撃魔法攻撃を開始する。
「モンスターの波が止まるまで撃ち続けよ! 決して攻撃の手を緩めてはならない! 焼き払えぇぇっ!」
目の前でモンスターと攻撃魔法が衝突し、凄まじい爆発が発生している。
なんなんだこりゃ! まるで戦争じゃねぇか! たった1匹のモンスター相手にこんな……!
まだ討伐の糸口も掴めちゃいないが、なんとか態勢を立て直した討伐隊。
俺は爆炎と轟音が響き渡る戦場で、爆発の向こうで召魔獣の魔力が不気味に蠢いているのを感じていた。
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