ミスリルの剣

りっち

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サイザス防衛戦

51 反撃 (改)

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 討伐隊は10日間ほどサイザスで休養したあと、また未開地域に向けて出発するらしい。

 しかし、彼らが1ヶ月間ほど遠征できる物資の準備は俺達がしなくてはならないんだそうだ。クソめんどくせぇ。


 憂鬱な気持ちで防衛拠点に詰めている若い連中に遠征の準備のことを伝えると、俺の予想に反して若い連中は歓声を上げて喜び始めた。

 雑用を押し付けられたってのに、なんで喜んでんだコイツら?


「そんなのソイルさんがここに留まるからに決まってますっ。もうソイルさんがこの場に居なくても問題ないかもしれませんけど、それでも居てくれる方が嬉しいに決まってますよっ」

「私アイツら嫌い。だからソイルが連れてかれなくて良かった」


 エマとトリーが俺に飛びついてきながら、みんなが喜んでいる理由を教えてくれる。

 ん~。頼られるのは悪い気はしないが、あまり俺に依存されるのも良くない気がするなぁ。俺ってこの依頼が終ったらイコンに帰るってのに。


 ま、サイザスの将来なんて俺の手には余る。余計な事は考えず、俺は今請けている依頼の成功に全力を尽くすだけだ。

 それに若い連中の腕が上がってサイザスが困ることもないだろ、知らんけど。




「新手が来たぞーっ。解体中のやつらは下がってくれーっ」


 討伐隊が帰還した日から、モンスターの襲撃回数が目に見えて増加した。

 なんだかんだ言って討伐隊の連中もモンスターを間引いてくれていたのかもしれない。


 しかし襲撃の頻度が増えたところで今の若い連中はビクともしない。

 実戦の回数と解体の練習が増えたことで喜んでいるくらいだ。逞しくなったもんだぜ。





「はぁ? ここを離れる気なんてあるわけ無いだろ?」

「だよねー? 戦い方も解体も学べるし、生活費は負担してくれるし、防衛が終わったら成功報酬まで約束されてるのに、他の場所に行きたい人なんて居る訳ないよー?」


 防衛に余裕が出てきたことで、希望者にはこの依頼をやめて帰還する許可を出してもいいんだが、帰還を望む者は今のところ1人もいないようだ。

 戦い方やモンスターの解体を学びながらお金も稼げる、夢のような戦場だと目を輝かせている。


 ここの防衛戦に慣れすぎると、それはそれで将来的に問題が起きそうな気がしないでもない。

 でも割が良い仕事に殺到するのも無理はないしなぁ。悩みどころだぜ……。



「よ、よろしくお願いしますっ……!」

「わ、私戦うのは苦手ですけど、戦えなくても大丈夫ってほんとですかっ……!?」


 5日も過ぎると、交通費を負担した甲斐もあって遠方から若い冒険者が少しずつ到着し始めた。

 集まったのは地元では上手く稼げないような奴らばかりで、到着してすぐの頃はモンスターの襲撃に怯えていたが、それを難なく撃退する同世代の冒険者に強い憧れを抱いたようだ。

 率先して剣の訓練や魔法の訓練、モンスター素材の解体と運搬を手伝ってくれるようになり、元々防衛に参加していた奴らが戦闘に集中できる様になって、全体の負担が更に軽減されたようだ。


 ま、稼げる現場で指示を無視するような奴ぁこんな場所までこないだろうしな。素直な奴ばっかりでありがたいもんだ。




 日を追う毎に若い冒険者たちの数は増えて、いつの間にやら200人を超える若者達が集まった頃、休暇を終えた討伐隊が遠征を再開する日を迎えた。


「よーし。準備は万端だ。余計な口を挟まずさっさと送り出しちまおう」

「了解! 嫌いな相手だからこそさっさと送り出しちまえばいいんだなっ」

「なるほどなぁ。そうすればこっちの評価は上がるだけだし、嫌いな相手と早く離れられるんだね。盲点だったぁ……」


 イチャモンをつけられないよう要求の3倍程度の物資を準備し、防護柵は前もって撤去しておく。

 防衛隊と討伐隊は犬猿の仲だからな。顔を合わせずにさっさと送り出してしまうに限るぜ。


 しかしこちらが準備万端に整えても、討伐隊は出発予定時刻を過ぎても姿を現さなかった。

 これから夜になろうって時間帯になって、ようやくフラスト率いる討伐隊の馬車が防衛拠点に姿を現した。


 完璧な仕事をした俺達に対して、遅れてきたフラストが眉を顰めてイチャモンをつけてくる。


「いつの間にここは孤児院になったのだ? 子供ばかり集めて何がしたいのだ貴様は」

「はっ。討伐隊がいつまで経っても作戦を終わらせてくれないもんで、木偶の俺は人手を集めて必死に防衛を成功させてんだよ」

「なっ……」

「文句があるならとっとと指揮個体とやらを討伐してくれや? 予定の時間も守れない指揮官殿は、討伐達成にも随分と時間をかけるみたいだなぁ?」


 開口一番で俺にイチャモンをつけてきたフラストに、今度は俺もしっかり反撃してやる。

 俺が言い返してくると思わなかったのか、不機嫌さを隠す気もなく怒りを顕わにするフラスト。


「貴様……。木偶の分際で討伐隊を指揮する俺に口答えか?」

「はぁ? 前回会った時は言い返せとか言いながら、実際言い返したら不機嫌になるとか何がしたいんだよ?」


 本来であれば依頼主に口答えをするのはタブーだ。1度依頼を請けた以上、理不尽な依頼主にも頭を下げて諾々と従わなければいけない。


 だがこの防衛戦の依頼主は国で、フラストは指揮を任されてはいるものの依頼人でもなんでもない。

 それでも上司には違いないのだが、現場をかき乱し依頼も成功させない無能な指揮官に従う義理も義務もねぇんだよ。こっちは気ままな冒険者なんでね。
 

「結局文句つけたいだけなんだろアンタは。言われたことはこなしてんだから現場の邪魔すんなって、指揮官殿?」


 次の瞬間フラストの全身に魔力が走り、俺の首元に向かって剣が放たれた。

 その剣をミスリルの剣で受け止めて、勢いを殺すように後ろに飛んで距離を取る。


「なっ、何だ今の音は……!」

「お、おい……! 指揮官が剣を抜いてるぞ……!?」


 突如拠点内に響いた金属のぶつかり合う高音に、討伐隊参加者も防衛参加者も何事かと集まり始めたようだ。


「俺の剣を受け止めただと……? 貴様のような木偶が?」

「おいおい指揮官殿よ。怒りに任せて剣を振るうなんて今時ガキでもしねぇぞ? モンスターかテメェは」

「……貴様ぁっ!」


 俺の言葉に激昂したフラストはまたしても俺に剣を振るってくる。

 ……が、そんなもんに付き合うほど俺は暇じゃねぇんだ。


 確かにフラストの魔力は天才と呼ぶに等しい量だが、魔力操作が伴ってない。

 ダイン家の使用人やパメラの様に流れるような魔力操作が出来ておらず、魔力感知が使える俺には目を瞑っていても躱す事が出来そうだ。

 剣の腕も並だな。膨大な魔力でごり押しするスタイルなんだろうが、こんなもんに切られてやるほどお人好しじゃないんだよ俺は。


 ギャラリーが集まってきたので剣を収め、フラストの剣を体捌きだけで躱し続ける。


「貴様ぁっ! どこまで俺を虚仮にするつもりだぁっ!!」


 勝手に激昂しているフラストを無視して、飄々と剣を躱す。

 現場指揮官にして王国軍の将軍であるフラストと剣を抜いて打ち合っていると、あとで難癖を付けられかねねぇからな。


「くそぉ……! なぜだっ!? なぜ当たらんっ……! はぁっ……! はぁっ……!」


 そんな俺が更に気に食わなかったのか、ありったけの魔力を込めて剣を振るってくるフラストだけど、そのせいで息が上がってしまったようだ。

 そんなフラストの正面から、肩を竦めて見せつつゆっくりと歩み寄る。


「指揮官殿よぉ。こんなところで木偶相手に遊んでないで、とっとと討伐を成功させちゃくれねぇかな?」

「貴様ぁ……! 俺を誰だと思っている……!!」


 俺の言葉に血管が浮かび上がるほどに怒りを覚えているらしいが、魔力を無駄遣いしたために魔力枯渇を起こしかけているようだ。

 どれだけ無能を晒せば気が済むんだテメェは。付き合ってられねぇわ。


「ここで冒険者相手に剣を振るって何の意味があんだよ。こんの、木偶指揮官がぁっ!」

「グボォッ!?」


 そんなフラストに全力でボディブローを食らわせてやる。

 木偶の動きに反応すら出来なかったフラストは、無様に地に倒れ伏した。


 お前みたいな役立たず、居ない方が随分マシだぜ?


「おおい。物資の積み込みをさっさと終わらせてくれー」


 俺とフラストの喧嘩のせいで手を止めていた、周囲の連中に声をかける。

 この役立たずもとっとと積み込んで、意識を取り戻す前にお引取り願おうや。


「討伐隊のアンタらもこの指揮官を積んでさっさと遠征に出発してくれっか。討伐隊がいると防衛の邪魔なんでな」

「あ……、え……?」

「「「うわあああああああああああああああああっっ!!」」」

「うおっ!? な、なんだぁっ!?」


 こんなお荷物はとっとと引き取ってもらうに限る。

 そう思って周囲のギャラリーに声をかけたのだが、返ってきたのは若い連中の怒号のような歓声だった。
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