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サイザス防衛戦
37 防衛作戦 (改)
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国から依頼が出ている事をドヤ顔で宣言するトゥムちゃん。
その様子にギルド全体が微笑ましい感じの視線を送ってきているが、当の本人は気付いていないようだ。
「まぁ王様から発せられる依頼なんて緊急性が高いのかもしれねぇしな……」
国からの依頼ねぇ。ミシェルの時みたいに拒否していいものかどうか悩ましいところだ。話だけでも聞くとしよう。
「トゥムちゃん。聞いた後でも断れるなら仕事内容を教えてくれるか?」
「大丈夫ですよ。この依頼に強制力は無いですからね。ただしなるべく多くの冒険者に協力して欲しいとのことです」
仕事の話を始めると、ふざけた様子から一気に真面目な態度に豹変するトゥムちゃん。
微妙に納得いかないんだが、依頼人からの信頼も厚いんだよなコイツ。
依頼書を俺に見せながら、口頭で掻い摘んで説明してくれるトゥムちゃん。
「現在王国の南端の未開地域から、モンスターが群れとなって押し寄せてきているようです」
「未開地域からモンスターの群れが……」
未開地域。殆ど人間が住んでいない、モンスターが跋扈する危険地帯。
黒い渦の存在を知るまで、モンスターってのは未開地域から流れ込んできているものだとばかり思っていた。というかこの考え方の方が一般的なんじゃねぇかな。
「今は現地の冒険者と警備隊で対応出来ているらしいのですが、襲撃が止まらずに現地の戦力が疲弊してきてしまっているようなんですよ」
「襲撃が止まらないってのは厄介だな。でも防衛が既に成功しているのは安心材料でもあるか……」
「要するに都市防衛の予備戦力が足りてないので、他所から応援を引っ張ってきたいという依頼ですね」
パンッと依頼書を軽く叩いて、今回の依頼内容をひと言でまとめるトゥムちゃん。
そのまま依頼書内のモンスター情報を指差しながら、どうですかと俺の顔色を窺ってくる。
「襲撃してきてるモンスターの情報も出揃ってますし、疲弊しているとはいえ防衛に問題ない戦力が既に駐屯している状況ですし、危険度は結構低いんじゃないかと思いますよ」
「悪い。ちょっと見せてくれ……」
トゥムちゃんに開示された情報を確認すると、防衛地点で確認されているモンスターは大した個体はまだ現れていないようだ。
魔力操作を覚える前の俺ですら相手できる程度のモンスターしかいない。
「……都市防衛の応援要請か。なるべくなら協力してやりたいけど……。俺に力になれるかどうか自信がねぇな」
トゥムちゃんの見せてくれた資料に目を通しながら現地で俺が役に立てるのか検討するが、正直言って全く自信が無い。
魔力操作を覚える前は継続戦闘能力には自信があった。
しかし皮肉な事に、魔力操作を覚えた為に俺の戦闘可能時間は驚くほど縮まってしまった。
防衛戦とは持久力が重要になるはずだ。俺が行って役に立てるのか……。
「ソイルさん。貴方が何を考えているのかは分かりかねますけど、仮に戦闘に自信が無くたって現地に行けば出来る事は必ずありますから」
「トゥムちゃん?」
モンスターの資料を下げて、代わりに周辺地域の地図を俺に見せながら、トゥムちゃんは静かに俺に語りかけてくる。
「自信が無いから行かないなんて言わずに、自信が無くてもとりあえず行ってみるってソイルさんの方が魅力的だと思いますよ?」
「……はっ」
悪戯っぽく微笑みながら、トゥムちゃんがウィンクしてくれる。
その笑顔に、なんだか悩んでいる自分が少し恥ずかしくなった。
自信が無くてもとりあえず行ってみる、か。今までの俺だったらありえない考え方だけど、今はなんだかその言葉に乗ってみたくなっている自分がいる。
そうだな。別に戦闘が出来なくたって人手が必要な作業は沢山あるはずだ。
冒険者に依頼が来るというのは、裏を返せばそこに困っている人がいるということ。ましてや今回は国からの要請だ。国民としちゃあ協力すべきだよな。腹括るか。
「おっけぃトゥムちゃん。それじゃ引き受ける方向で話を進めさせてもらえるか?」
そうこなくっちゃー! と喜ぶトゥムちゃんを見ていると、マジで悩んでいたのが馬鹿らしくなっちまうよ。そりゃ看板娘になるわけだわコイツ。
依頼の手続きをして貰っている間、トゥムちゃんに依頼のことを確認する。
「そもそもの話なんだけどさ。なんで俺にこの依頼を回そうって話になったんだ?」
「えっ!? まさか今更断る気じゃないでしょーねっ!?」
「じゃなくてよぉ。俺ってBクラスに上がりたてのソロ冒険者だろ? 能力的にも実績的にも防衛戦には最高に向いてなくないかな?」
ああ、そういうことですかーと言いながら、詳しい説明を始めてくれるトゥムちゃん。
どっちかと言うと、先にこの説明をするのがギルドの義務じゃねぇのかなぁ?
「えっとですね。今回戦いの舞台となるのが南端の都市サイザスとなるんですけど……」
「サイザスか。んで?」
「一定以上離れている場所からの応援人員はBクラス以上とされています。大勢来てもらっても、実力不足な者ばかりでは話になりませんから」
そりゃそうか。人手はいくらあっても困らないだろうが、人の移動には金も時間もかかる。
そんなコストを支払ってまで役立たずを引っ張っていくわけにはいかねぇと。現地にだって冒険者はいるんだから。
「加えて現地には新人やE・Dクラスの冒険者も沢山駆りだされてるんですけど、そういった実力不足の者をまとめられる冒険者が圧倒的に不足してるそうです」
「げっ……。嫌な予感しかしない流れなんだけど……」
「ということで、新人の指導経験が豊富な者を優先的に回して欲しいというお達しが来てるんですよー……」
ええいっ! 気まずそうにこっちの様子を窺うんじゃねぇよ!
絶対俺に依頼断らせる気無いだろ、くっそぉ!
「……つまり、俺を含めてイコンから参加する他の4人の冒険者ってのも、指導要員として参加する意味合いの方が強いってことか?」
現地に出現するモンスターは大した固体は確認出来ていない。でもそれはベテランの俺から見た視点だ。
E・Dの駆け出し冒険者達が対応するには厳しい相手かもしれないし、そうでなくとも間断なく襲われるのは精神的な負担も大きそうだ。
そこに少数でもベテランを混ぜることで、拠点防衛の士気を上げるって寸法か?
「ですです。いくら国からの要請とはいえ、街の冒険者をスッカラカンにするわけには行きませんから。イコンは少数精鋭主義でいきますよっ!」
「少数精鋭って評価されるのは恐縮なんだがねぇ……」
「現地に送る人数は少なくとも、最も求められている人員を送り込む事でお茶を濁す作戦ですっ!」
「実際に現地にいく俺の前でお茶を濁すとか言い切るの止めてくんねぇ……? でもまぁイコン側の言いたいことも分からなくはない、か」
イコンは元々それほど冒険者が多い街でもない。いくら国からの要請とは言え、大量の冒険者に抜けられてしまえば街の生活が成り立たなくなる。
だから少数の冒険者を送り込んで、なるべく街の生活には影響を出したくないってことなんだろうな。
「ソイルさんには下手に隠して後から指摘されるよりは、最初に話して納得してもらった方が話が早いですからねっ」
「そもそも冒険者ギルドの職員が冒険者に情報を秘匿するのは止めたほうがいいんじゃねぇかなぁ?」
てへーと言いながら舌を出しておどけるトゥムちゃん。
うわコイツ殴りてぇ……、なんて思う俺に、すぐに真面目な顔に戻って語りかけてくる。
「それに新人指導の評判も良いですし、最近は戦闘面でもかなりの成果を挙げていますから、適任だと思っているのも本当ですよ」
「……ちっ。調子のいい事言いやがって……」
ったく、思い切り落とした後に持ち上げやがって。
それがトゥムちゃんの作戦だって分かりきってるのに、それでも悪い気がしないんだから困っちまうぜ。
「……そうだな。自分で言うのもなんだが俺が行くのが良さそうだ」
なんだかトゥムちゃんには振り回されっぱなしだけど、振り回されて悪い結果になったことは無いからな。
ここもまた、イコンの誇る美人受付嬢の提案に乗っかってやろうじゃねぇか。
「それじゃ準備をしたらすぐにサイザスに向かうから、もう少し詳しく話を聞かせてくれるか?」
依頼に関する資料は全部開示してもらえたので、トゥムちゃんだって資料以上の情報を持っているわけでは無いだろう。
だけど有能な受付嬢であるトゥムちゃんなら何か気付いたこともあるかもしれない。
けどトゥムちゃんは意外そうな顔で全然別のことを口にした。
「え? ソイルさんサイザスに行ったことあるんですか? 結構遠いと思いますけど、そんな躊躇なく行ける距離じゃないと思うんですけど……」
「おかげさまでな。以前の長期依頼で立ち寄った場所の1つだから道は分かるんだよ。まったく、人生何がどう役に立つのかわからねぇなぁ」
今にして思うと渦の破壊はかなり広範囲の旅だった。
パメラが言うには各地域に担当者がいるらしいけれど、渦を1撃で破壊可能な魔法使いなんてそうそういないんだろうなぁ。
「なるほど。道順の説明をしなくていいのはかなり助かりますね。それじゃあ良く聞いてくださいね、まずは……」
防衛隊の現在の状況、報酬や防衛期間の見通し、都市に襲撃を仕掛けてきたモンスターの情報、各地から集まってくる冒険者の見込みなど、トゥムちゃんが分かる範囲のことを出来るだけ詳細に確認する。
恐らく強力な指揮個体が居て、そいつを倒せばモンスターは引いていくのでは? という見込みらしい。
俺は参加するのは街から打って出る討伐隊ではなく、サイザスの都市を守り抜く防衛隊と新人冒険者達のまとめ役だ。そのくらいならば俺にも役立てるだろう。
「気をつけてくださいねソイルさん。危険度はそこまで高い依頼じゃないと思いますけど」
「おーう。精々無事に帰ってこれるよう頑張らせてもらうさ。またなトゥムちゃん」
話を終えたらトゥムちゃんと別れの挨拶を交わし、素早く旅支度を整える。
現地で手放すことになるだろうが、なるべく早く現地入りするために馬を購入。
依頼にかかった経費はあとから支払って貰えるらしいので、トゥムちゃんに報告してから遠慮なく金を使う。
徒歩なら15日程度かかるだろうが、馬なら休憩を挟みつつ5日ほどで到着できるだろう。
現在進行形でモンスターに襲われ続けているんだ。俺1人到着したところで何も変わらないかもしれねぇが、それでも一刻も早く現地に向かうべきだよな。
ミスリルの剣、それとダイン家から貰った剣をもう1度チェックしてから馬に跨る。
次の舞台は南端の都市サイザスか。
まったく、今回も無事に帰ってきたいもんだなっ!
その様子にギルド全体が微笑ましい感じの視線を送ってきているが、当の本人は気付いていないようだ。
「まぁ王様から発せられる依頼なんて緊急性が高いのかもしれねぇしな……」
国からの依頼ねぇ。ミシェルの時みたいに拒否していいものかどうか悩ましいところだ。話だけでも聞くとしよう。
「トゥムちゃん。聞いた後でも断れるなら仕事内容を教えてくれるか?」
「大丈夫ですよ。この依頼に強制力は無いですからね。ただしなるべく多くの冒険者に協力して欲しいとのことです」
仕事の話を始めると、ふざけた様子から一気に真面目な態度に豹変するトゥムちゃん。
微妙に納得いかないんだが、依頼人からの信頼も厚いんだよなコイツ。
依頼書を俺に見せながら、口頭で掻い摘んで説明してくれるトゥムちゃん。
「現在王国の南端の未開地域から、モンスターが群れとなって押し寄せてきているようです」
「未開地域からモンスターの群れが……」
未開地域。殆ど人間が住んでいない、モンスターが跋扈する危険地帯。
黒い渦の存在を知るまで、モンスターってのは未開地域から流れ込んできているものだとばかり思っていた。というかこの考え方の方が一般的なんじゃねぇかな。
「今は現地の冒険者と警備隊で対応出来ているらしいのですが、襲撃が止まらずに現地の戦力が疲弊してきてしまっているようなんですよ」
「襲撃が止まらないってのは厄介だな。でも防衛が既に成功しているのは安心材料でもあるか……」
「要するに都市防衛の予備戦力が足りてないので、他所から応援を引っ張ってきたいという依頼ですね」
パンッと依頼書を軽く叩いて、今回の依頼内容をひと言でまとめるトゥムちゃん。
そのまま依頼書内のモンスター情報を指差しながら、どうですかと俺の顔色を窺ってくる。
「襲撃してきてるモンスターの情報も出揃ってますし、疲弊しているとはいえ防衛に問題ない戦力が既に駐屯している状況ですし、危険度は結構低いんじゃないかと思いますよ」
「悪い。ちょっと見せてくれ……」
トゥムちゃんに開示された情報を確認すると、防衛地点で確認されているモンスターは大した個体はまだ現れていないようだ。
魔力操作を覚える前の俺ですら相手できる程度のモンスターしかいない。
「……都市防衛の応援要請か。なるべくなら協力してやりたいけど……。俺に力になれるかどうか自信がねぇな」
トゥムちゃんの見せてくれた資料に目を通しながら現地で俺が役に立てるのか検討するが、正直言って全く自信が無い。
魔力操作を覚える前は継続戦闘能力には自信があった。
しかし皮肉な事に、魔力操作を覚えた為に俺の戦闘可能時間は驚くほど縮まってしまった。
防衛戦とは持久力が重要になるはずだ。俺が行って役に立てるのか……。
「ソイルさん。貴方が何を考えているのかは分かりかねますけど、仮に戦闘に自信が無くたって現地に行けば出来る事は必ずありますから」
「トゥムちゃん?」
モンスターの資料を下げて、代わりに周辺地域の地図を俺に見せながら、トゥムちゃんは静かに俺に語りかけてくる。
「自信が無いから行かないなんて言わずに、自信が無くてもとりあえず行ってみるってソイルさんの方が魅力的だと思いますよ?」
「……はっ」
悪戯っぽく微笑みながら、トゥムちゃんがウィンクしてくれる。
その笑顔に、なんだか悩んでいる自分が少し恥ずかしくなった。
自信が無くてもとりあえず行ってみる、か。今までの俺だったらありえない考え方だけど、今はなんだかその言葉に乗ってみたくなっている自分がいる。
そうだな。別に戦闘が出来なくたって人手が必要な作業は沢山あるはずだ。
冒険者に依頼が来るというのは、裏を返せばそこに困っている人がいるということ。ましてや今回は国からの要請だ。国民としちゃあ協力すべきだよな。腹括るか。
「おっけぃトゥムちゃん。それじゃ引き受ける方向で話を進めさせてもらえるか?」
そうこなくっちゃー! と喜ぶトゥムちゃんを見ていると、マジで悩んでいたのが馬鹿らしくなっちまうよ。そりゃ看板娘になるわけだわコイツ。
依頼の手続きをして貰っている間、トゥムちゃんに依頼のことを確認する。
「そもそもの話なんだけどさ。なんで俺にこの依頼を回そうって話になったんだ?」
「えっ!? まさか今更断る気じゃないでしょーねっ!?」
「じゃなくてよぉ。俺ってBクラスに上がりたてのソロ冒険者だろ? 能力的にも実績的にも防衛戦には最高に向いてなくないかな?」
ああ、そういうことですかーと言いながら、詳しい説明を始めてくれるトゥムちゃん。
どっちかと言うと、先にこの説明をするのがギルドの義務じゃねぇのかなぁ?
「えっとですね。今回戦いの舞台となるのが南端の都市サイザスとなるんですけど……」
「サイザスか。んで?」
「一定以上離れている場所からの応援人員はBクラス以上とされています。大勢来てもらっても、実力不足な者ばかりでは話になりませんから」
そりゃそうか。人手はいくらあっても困らないだろうが、人の移動には金も時間もかかる。
そんなコストを支払ってまで役立たずを引っ張っていくわけにはいかねぇと。現地にだって冒険者はいるんだから。
「加えて現地には新人やE・Dクラスの冒険者も沢山駆りだされてるんですけど、そういった実力不足の者をまとめられる冒険者が圧倒的に不足してるそうです」
「げっ……。嫌な予感しかしない流れなんだけど……」
「ということで、新人の指導経験が豊富な者を優先的に回して欲しいというお達しが来てるんですよー……」
ええいっ! 気まずそうにこっちの様子を窺うんじゃねぇよ!
絶対俺に依頼断らせる気無いだろ、くっそぉ!
「……つまり、俺を含めてイコンから参加する他の4人の冒険者ってのも、指導要員として参加する意味合いの方が強いってことか?」
現地に出現するモンスターは大した固体は確認出来ていない。でもそれはベテランの俺から見た視点だ。
E・Dの駆け出し冒険者達が対応するには厳しい相手かもしれないし、そうでなくとも間断なく襲われるのは精神的な負担も大きそうだ。
そこに少数でもベテランを混ぜることで、拠点防衛の士気を上げるって寸法か?
「ですです。いくら国からの要請とはいえ、街の冒険者をスッカラカンにするわけには行きませんから。イコンは少数精鋭主義でいきますよっ!」
「少数精鋭って評価されるのは恐縮なんだがねぇ……」
「現地に送る人数は少なくとも、最も求められている人員を送り込む事でお茶を濁す作戦ですっ!」
「実際に現地にいく俺の前でお茶を濁すとか言い切るの止めてくんねぇ……? でもまぁイコン側の言いたいことも分からなくはない、か」
イコンは元々それほど冒険者が多い街でもない。いくら国からの要請とは言え、大量の冒険者に抜けられてしまえば街の生活が成り立たなくなる。
だから少数の冒険者を送り込んで、なるべく街の生活には影響を出したくないってことなんだろうな。
「ソイルさんには下手に隠して後から指摘されるよりは、最初に話して納得してもらった方が話が早いですからねっ」
「そもそも冒険者ギルドの職員が冒険者に情報を秘匿するのは止めたほうがいいんじゃねぇかなぁ?」
てへーと言いながら舌を出しておどけるトゥムちゃん。
うわコイツ殴りてぇ……、なんて思う俺に、すぐに真面目な顔に戻って語りかけてくる。
「それに新人指導の評判も良いですし、最近は戦闘面でもかなりの成果を挙げていますから、適任だと思っているのも本当ですよ」
「……ちっ。調子のいい事言いやがって……」
ったく、思い切り落とした後に持ち上げやがって。
それがトゥムちゃんの作戦だって分かりきってるのに、それでも悪い気がしないんだから困っちまうぜ。
「……そうだな。自分で言うのもなんだが俺が行くのが良さそうだ」
なんだかトゥムちゃんには振り回されっぱなしだけど、振り回されて悪い結果になったことは無いからな。
ここもまた、イコンの誇る美人受付嬢の提案に乗っかってやろうじゃねぇか。
「それじゃ準備をしたらすぐにサイザスに向かうから、もう少し詳しく話を聞かせてくれるか?」
依頼に関する資料は全部開示してもらえたので、トゥムちゃんだって資料以上の情報を持っているわけでは無いだろう。
だけど有能な受付嬢であるトゥムちゃんなら何か気付いたこともあるかもしれない。
けどトゥムちゃんは意外そうな顔で全然別のことを口にした。
「え? ソイルさんサイザスに行ったことあるんですか? 結構遠いと思いますけど、そんな躊躇なく行ける距離じゃないと思うんですけど……」
「おかげさまでな。以前の長期依頼で立ち寄った場所の1つだから道は分かるんだよ。まったく、人生何がどう役に立つのかわからねぇなぁ」
今にして思うと渦の破壊はかなり広範囲の旅だった。
パメラが言うには各地域に担当者がいるらしいけれど、渦を1撃で破壊可能な魔法使いなんてそうそういないんだろうなぁ。
「なるほど。道順の説明をしなくていいのはかなり助かりますね。それじゃあ良く聞いてくださいね、まずは……」
防衛隊の現在の状況、報酬や防衛期間の見通し、都市に襲撃を仕掛けてきたモンスターの情報、各地から集まってくる冒険者の見込みなど、トゥムちゃんが分かる範囲のことを出来るだけ詳細に確認する。
恐らく強力な指揮個体が居て、そいつを倒せばモンスターは引いていくのでは? という見込みらしい。
俺は参加するのは街から打って出る討伐隊ではなく、サイザスの都市を守り抜く防衛隊と新人冒険者達のまとめ役だ。そのくらいならば俺にも役立てるだろう。
「気をつけてくださいねソイルさん。危険度はそこまで高い依頼じゃないと思いますけど」
「おーう。精々無事に帰ってこれるよう頑張らせてもらうさ。またなトゥムちゃん」
話を終えたらトゥムちゃんと別れの挨拶を交わし、素早く旅支度を整える。
現地で手放すことになるだろうが、なるべく早く現地入りするために馬を購入。
依頼にかかった経費はあとから支払って貰えるらしいので、トゥムちゃんに報告してから遠慮なく金を使う。
徒歩なら15日程度かかるだろうが、馬なら休憩を挟みつつ5日ほどで到着できるだろう。
現在進行形でモンスターに襲われ続けているんだ。俺1人到着したところで何も変わらないかもしれねぇが、それでも一刻も早く現地に向かうべきだよな。
ミスリルの剣、それとダイン家から貰った剣をもう1度チェックしてから馬に跨る。
次の舞台は南端の都市サイザスか。
まったく、今回も無事に帰ってきたいもんだなっ!
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